とらいあんぐるハート3 〜Sweet Songs Forever〜

 とらいあんぐるハートシリーズ最終作!
 ようやく辿り着いた「3」の境地…
 長かった、とにかく長い修練の日々だった。
 掲示板で皆さんに本作を奨めて頂いて、九拾八式鉄の掟を守るために「1」から始めて…
 これでやっと、次回からはまったく別なタイプのゲームがやれるんだねっ♪
 うおーっ、素晴らしい開放感だーっ♪

 …「りりかるおもちゃ箱」…え゛?


1.メーカー名:JANIS/有限会社アイボリー
2.ジャンル:マルチED恋愛ADV
3.ストーリー完成度:D
4.H度:D
5.オススメ度:はっきり好き嫌いが分かれると思われ、総合的にはC。ただし私個人としてはD。
6.攻略難易度:C
7.その他:システムは文句無くシリーズ中最高。


(ストーリー)
 主人公・高町恭也(変更不可)は、今は亡き父より受け継がれた暗殺剣術「御神流」の皆伝者。
 父の意志通り、妹・美由希にもその剣技を伝えるため、日々過酷な訓練に明け暮れている風芽丘高校3年生だ。
 彼の家はかなり特殊な人間関係が成り立っており、母親・桃子を筆頭にイギリス人のフィアッセ、海鳴中央2年生の城島晶・一年生の鳳蓮飛(通称レン)、年の離れた妹・なのはが、ほぼ同居に等しい状況で暮らしている。
 そんな彼の周囲で起こる、日常的あるいは非日常的な事件の数々…
 海鳴町で繰り広げられる春先の物語は、華やかに、そして時には劇的に展開していく。


 事実上「とらハ」シリーズ最終作という事で、昨年末様々な話題を振りまいた作品。
 実に色々な意見や感想が各所で発表されていたが、それだけ注目されたという事だろう。
 かなり出遅れてしまったものの、私もなんとか辿り着き、いままで以上にじっくりとこの作品に対して考察してみた。
 ある意味、本評論も本作同様“集大成”となるようにしてみたい。
 そのため、ちょっと意図的に長文になっているので、どうかお覚悟&ご容赦を。

 まずはシステムから。
 本作は、過去のシリーズとは比較にならないほど使い勝手の良いシステムを採用しており、「2」以上に快適なプレイが出来る。とにかくこれらについては手放しで誉めても構わないのではなかろうか。
 「2」まであったシステムすべての継承は当然として、「経過した選択肢を自動で10個まで自動セーブ」してくれるために“間違えてしまってもすぐにやり直せる”というものや、「未読メッセージ判別」「右クリックの操作割り当て」「大量のメッセージ読み返し表示」など実に多彩な新機能が満載である。
 特に「未読メッセージ判別」の性能は素晴らしく、例え以前見た同一の展開でも、選択肢のかみ合いで微妙に変化していた場合はそれがウインドウ1つ分程度の量であってもきちんと拾ってくれる。
 意外にもこれはHシーンで活躍し、コマンド総当たり制っぽい感じのある本作では、未読か否かをチェックしながら進めると意外と重宝する。
 やはりというかもはや伝統というか、修正ファイルが必須となってしまうものの、かなり快適なプレイは保証されるだろう。

 今回はヒロイン7名に、オマケシナリオが(一応)2本、CG回収用のちょっと特殊なバッドEDが1つある。
 各ヒロインのシナリオは特定の組み合わせでペアとなっており、その中では途中まで同時攻略が可能という(とらハにしては)ありがたい性質が組み込まれている。
 また、セーブ・ロードした時に表示されるウインドウには「現在誰のルートを進んでいるか」をわざわざ示してくれているという丁寧さだ。
 もう変更しようのない状態まで進んだら、それまで複数名表記だったヒロイン名が統一されるため、とてもわかりやすい。
 無駄なブレイ時間を徹底的に削減するための工夫がここまで盛り込まれていると、非常にありがたい。
 この上で「2」同様の第二部スタートみたいなものがあるわけだから、ホントいたれり尽くせりだよね〜☆

 さらには、音楽。
 とらハシリーズは結構クセが強いというか…好みが分かれるというか…まあ、アレでソレな完成度だった音楽面が特徴だったが、本作でいきなりパワーアップ! 突然音質やエフェクトなどがパワーアップし、さらに主題歌関係ではかのi'veを迎え、非常に耳に残りやすいサウンドに仕上げてしまった。
 これまでも、音楽そのものはそんなに悪くなかったのだが、使用している音の種類などに問題があり、かなりチープな印象を与えてしまっていた。ようやく本作で汚名返上といった所だろうか?
 「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」温泉マークとさくらが会話する喫茶店を連想させるおだやかなBGMは、環境音楽としてもかなり良いかもしれないね♪
 「リリカルおもちゃ箱」では、本作のサウンドトラックも付属しているから、もうウハウハだったりする☆
 ただし、あまりに画質の悪いOPムービーはちとご勘弁かな。
 なんか、容量を気にするあまり画質を下げすぎたJPGをシンボルにして作ったFLASHムービーみたいに見える。
 「2」でもそんなに良いものではなかったんだけど、これだけさらに悪化させるというのもどうかと…
 
 全体的な完成度をさらに高めた感のある本作…さすが最終作といったところだろうか?
 だが、シナリオ面…システム面の充実に対し、こちらは様々な角度で見る事により山のような問題点が浮上する。
 もちろん良い部分もあり、印象深く心に残る部分だってちゃんとある。
 しかし、どうしてもプレイヤーが疑問に感じてしまう部分が全シナリオの各所に付きまとってしまうのだ。
 
 ずは、「2」の時と同様のスタイルで各ヒロインのシナリオ別評価をご覧頂きたい。
 その上で、本作最大の問題点「主人公の扱い」について触れてみたい。

(順番は、筆者の攻略順)
月村忍 鳳蓮飛
ノエル・エーアリヒカイト 高町美由希
神咲那美 フィアッセ・クリステラ
城島晶 おまけシナリオ
  戻ってきた方、大変お疲れさまでした… <(_ _)>

 元々「とらいあんぐるハート」というゲームは、主人公そのものの活躍よりもヒロインの活動の方に重点が置かれており、プレイヤーはどちらかというと裏方的な行動に徹する事となる。
 ヒロインは、それぞれに「なさねばならない事」「達成する目的」を持っており、そのために猛進しているのがほとんどだ。
 人間的にも完成され、かなり落ち着いて全体を見つめられる視点を持った主人公が必要とされるのはそのためなのだ。

 だが、この図式はあまりに長く続きすぎたようだ。
 「3」の主人公・高町恭也を巡る描写は多くのプレイヤーに「問題・欠点」として解釈され、それを容認出来る・出来ないがこの作品全体に対する印象すら左右させた。
 果たして何がそんなにまずかったのか?
 恭也は、文句なく歴代主人公の中で最強の実力を誇っている。
 高校3年生という若さでありながら、殺人剣術「御神流」をほぼ完璧に収得しており、普通の人間では太刀打ち不可能とされる相手とも互角以上に渡り合う事が可能な上、日々過酷な訓練を行い、さらに高みを目指そうと精進している。
 そして、メインヒロインの美由希を「御神流」の一人前の剣士に成長させるため、プロ顔負けのトレーナー業すらこなしてしまう。
 この上で人格形成も充分過ぎるため、これまで以上に文句のつけようのない存在になってしまっている。

 …が、はっきり言って今回だけは“やりすぎた”

 いくら各ヒロインが“格闘”を中心とした強さを多く持ち、それに並び立つ存在にしなければならなかったとはいえ、恋愛シミュレーションにこの設定はあまりに重すぎた。
 現実にライターはこの設定に大きく振り回されており、シナリオ内で有効に活かす事がほとんど出来ていない(もちろんすべて、ではない)。
 美由希&フィアッセ編以外のそれぞれのシナリオで、終盤に近づけば近づくほど「御神流」も過剰な強さも不必要になってしまうのだ。
 一見重要に思える忍&ノエル編では、主人公の戦闘シーンはほとんどオミットされノエルの戦闘のみにシフトし、晶編では“お師匠は強い”という肩書きだけが利用されれば充分という程度のものであり、レン編に至ってはいなくても構わない扱いだ。
 いくら美沙斗との戦いで善戦したとはいえ、それは全体の何割だというのだろうか?
 複雑な設定を山ほど作り込んだのはいいが、せいぜい有効だったのは「神速」や「徹」「閃」くらいで、それ以外は技や武器の説明的セリフ上でしか活きていない。
 完全に、「御神流」という設定に押し潰されているのだ。
 基本からこうなのだから、本編でも動かしようがない。
 この設定がなければ、本作のシナリオ全体はもっとすっきりした構成となり、より密度の高い作品になれただろう事は想像に難くない。
 しかし、こういう設定はプレイヤー…特に男性の“英雄願望”を刺激する事もまた事実だ。
 無意識にプレイヤーは主人公の能力を活かした戦闘を期待し、それによって窮地のヒロインを救い出す事を希望するだろう。
 それは非常に自然ななりゆきなのだが、本作はそういった流れを一切否定した。
 
 本作のテーマ「守りたいもの、ありますか」というものは、主人公にのみ当てはまるものではなく、ヒロインそれぞれにも当てはまるものではないかという意見もあるようだ。
 そうだとするなら、主人公だけに“活躍しなければならない理由”が付加されるのは一方的だし、別にヒロインが中心になって活躍し続けたとしても問題はなくなる事になる。
 解釈にもよるのだが、確かに筋は通るというものだろう。そうかもしれない…
 だが、もしも本当にシナリオライターがこういう視点で本作の物語を構築・ゲームとして完成させたのだとしたら、それこそ「何かをはき違えている」事に気付かされる筈だ。
 「プレイヤーへの願望=男性的主観」というスタイルに拘った見方をするなら、確かにこういう意見も出るかもしれない。
 しかし“一番活躍するキャラクター=主人公(プレイヤー)”と考えるのは、別に不自然な事ではないのではないか。
 恭也の扱いに不満を覚えた人達は、「男である恭也が、女(ヒロイン)達よりも活躍できない」という事に文句を言っているのではなく、「どうして自分が使っているキャラクターではない別な者が、物語を展開させていくのか?!」と感じてしまったのではないか。
 例えば(エロゲーとしては陳腐な発想だが)、ヒロインが主役のADVだったとしたなら、おそらくこんなに本作あるいは各シナリオを叩く者はいなかっただろう。
 実際、美由希が主人公で彼女のシナリオをこなせば、かなりのカタルシスが得られただろう。
 プレイヤーがもっとも感情移入するべき存在の性別なんかは、後から付いてくる問題だ。
 “活躍したい”と願う素直な感情を、どうして“遊技である筈の”ゲームの中で不自然に制限されなければならないのか…そう思わせるだけの土台があるのに、だ。
 本作は、シリーズ3作目にしてそういう疑問とジレンマをプレイヤー各氏に感じさせたのだ。
 当然これが拭いようのない最大の欠点であり、評価を落とした致命的なポイントである事は言うまでもない。 
 
 エロゲー…マルチED型恋愛ADVという形式を踏襲する以上、主人公というものはほぼ必ず“複数の女性の間を揺れ動く男性”として設定され、その(様々な形の)行動理念によって、巡り合わせと結末を変えていくというスタイルは容易には変えられない。
 ある程度シリアスな展開のADVで、女性が主人公というものが極端に少ないのもこの理屈に一部かかっているためだ。
 だが「とらハ3」は、あえてこの固定図式に挑戦したとおぼしき部分がある。
 結果は、もちろん「玉砕」だったわけだが…押さえるべき基本を押さえずして起こった挑戦は、残念ながら“無謀な特攻”と大差ない結末になってしまったのだ。

 設定面にも触れてみたい。
 「3」はいままで以上に、これまでのシリーズとの関連が強い作品でもある。
 そもそも主人公の母親・桃子の経営する店が「1」「2」共通で登場するケーキ喫茶店「翠屋」であり、舞台だって同じ「海鳴町」だ。
 キャラクター達は色々な形で、過去に登場したヒロインやキャラクター達と関わりを持っていて、それが展開によって少しずつ明かされていく。
 これは旧作ファンにとっては本当に嬉しい演出であり、思わずニヤニヤしてしまう事請け合いだ。
 この使い方がうまいため、それだけで「3」の売りにもなりかねないほどの高価があるのだ。
 まさしくシリーズ集大成、といえるだろう。
 
 …だがしかし、そのために無視できない大きな弊害ももたらしてしまった事は事実だ。
 一見すべて整合性が取れているようにも感じられる「とらハ」シリーズだが、実際は結構いい加減だ。
 そのため「オイオイ、どうしてそうなるの?」というポイントが多く発生してしまった。
 「3」は、「1」や「2」の誰のエンディングから派生した舞台なのかが、全然統一されていない
 「そんな事どうでもいいじゃん!」と思う方もいるだろうが、それは全然話が違う
 世界観が統一されていないと言うことは、過去にパラレル的な発生をした事件やイベントがすべてごった煮にされているという事であり、もしもそれが世界観そのものに影響を与えかねない筈の設定だったなら、本作そのものの存在まであやうくなる危険があるのだ
 例えばフィアッセ編に登場するゆうひを巡る展開は、「2」のゆうひエンド経過後のものだと推察される。
 しかし、同時にさざなみ寮ではリスティが牧原家の養子となっており、かと思うと愛のミニクーパー(と思われる愛車)は健在だし、リスティのクローンであるLCシリーズも本作で登場する。
 これらは「ゆうひ」「リスティ」「愛」編の結末の混合であり、絶対に起こり得ない筈の出来事がぶつかり合っている事になる。
 ここまでやられると、怒りを通り越して泣けてくる…。
 ファンサービスに徹するあまりか一番基本となる部分をおざなりにしたため、世界観をぐちゃぐちゃにしたというのは重大な減点箇所だろう。 
 作品別にキャラクターの諸設定にはこだわるらしいがシリーズ全体の整合性は気にしない…こういうのって、本当にアリなのかな?
 ふつうマルチADVシリーズだったら、どれかのEDルート一つの派生として続編を設定するのが普通だと思うが…
 まるで礎が固まっていない上に建てられた家…砂上の楼閣のような物語ベースだ。

 ただ、風芽丘の旧校舎が取り壊されたという件にわざわざ触れたり(「1」七瀬編)、弓華が活動したらしい痕跡をさりげなくちりばめたりと、問題なく良い使い方をしている部分もあるわけだから、全てを否定する気にはなれないのよね。

  
(総評)
 これもまた各所で言われている事だけど、「これが最終作だというのは、かなり惜しい」と私も思う。
 もちろんアクセサリー集の「リリカルおもちゃ箱」を対象外にしての話だけど、とらハシリーズは残念ながら、これで完全な終わりとなる。
 だが、もしも復活するという意見が出るというのならば、私は

「もっと充電期間を置いてから、あらためて制作してほしい」と、切に願う。

 「とらハ3」は、反論覚悟の極論を言えば“すでにネタ切れになってしまった作品”である。
 ほとんどのシナリオは、過去のシリーズの各シナリオのアレンジや焼き直しだったり、過去の遺産に頼り切っていたりしている。
 「3」独自の設定が、軒並み総倒れに近い状態としか捉えられないのも事実だ。
 このシリーズは、過去作品と設定を微妙に絡めることによって独自の世界観を構築した事で見るべきポイントがある。
 しかし共通世界観というのは、ある程度以上の発達に至るとマンネリを量産するプラントになってしまう危険も孕んでいる。
 これは、他のメディア媒体を参照していただければ容易に納得していただけるものと思う。
 「3」に於いて、その危険な兆候ははっきりと露見したと言えるだろう。

 だが、だからといってこのシリーズを嫌いになったというプレイヤーは少ないのではないか?
 この独特の雰囲気や舞台設定に魅せられ、もっと浸っていたいと感じたプレイヤーも多かった筈だ。
 それは何よりも、これだけ多くのファンが誕生した事で証明されている。

 だからこそ、十分な時間を置いて思考をリフレッシュさせ、また新鮮なネタを生み出した上で新作に望んで頂きたいと願うのだ。
 これはシナリオライター自身に対しても言える事なんだけどね。
 
 「とらハ」は、おおまかに1年毎に登場し続けた作品群である。
 いっその事、2年から3年くらいは時間を置けば、また良い作品に巡り会えるのではないだろうか?
 私は、そう思えてならないのだ…
 
 …なーんて、出来たらいいなって事なんだけど、結局♪
 
(後藤夕貴)

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