月村忍/評価E

★進級後も恭也と再び同じクラスになった、月村忍。
 しかし恭也は、彼女の存在をこれまでほとんど認識しておらず、ろくに名前すら思い出せないほどだった。
 互いに無口だったからなのだが、たまたま席が隣同士になった事から、少しずつ親しい友人として接するようになる。
 ある日、彼女をささいな事故から救った恭也は、彼女の周辺で、なにやら不穏な動きがある事を悟る。
 まるで彼女を殺してしまいかねないほどの脅迫の数々…恭也は彼女のボディガードを申し出、家政婦のノエルと協力して忍の身辺警護に尽力する。
 しばらく平穏が続いたある日、不意にノエルに呼び出された恭也が見たものは、なんと左腕を暴漢に斬り落とされて苦しんでいる忍の姿だった。
 驚く恭也に、ノエルは冷静に訪ねる。
 「恭也様、あなたの血液型は…?」


 意外や意外! のっけからいきなりの大ハズレシナリオ
 正直、この失速具合は冒頭部から想像も出来なかったため、かなり面食らってしまった。
 うーん、キャラデザに気合いが入っているからそれなりかと思っていたんだけど…
 
 前述の通り、本作はヒロインのシナリオが一部ペア構成となっており、忍シナリオはメイドのノエルと対になっている。
 基本的にこれは攻略難易度を下げるための処置らしく、途中まで同時攻略が可能となっており、第三部あたりから大幅に路線を変更し、目当てのヒロインシナリオへと突入する形式でほぼ統一されている。
 しかし、他の組み合わせ(晶&レン、美由希&フィアッセ)では途中から明確な別ストーリーに分化するというのに、なぜか忍&ノエルシナリオのみ分岐ではなく、完全同軸上の物語となってしまっているのだ。
 もっと具体的に言えば、忍シナリオというものは存在しないに等しい
 前半が忍、終盤がノエルメインの展開になる流れの1本のシナリオがあり、その中でのHシーンの相手がどちらであるか、という違いしかないのだ。もちろん、こんな作りになっているのはここだけなのだが。
 ましてや物語は完全にノエル主体で描かれており、忍はそのサブキャラクターの域を出ない
 これが、評価を著しく下げている理由。
 このシナリオのエンディングを見て、画面左端で小さく描かれている女性のものであると瞬時に理解できる人間はいないだろう。
(もっともEDまでノエルと共通なのだから仕方ないが…)
 考えてみれば、たしかに忍とノエルの関係は他の組み合わせと比較にならないくらいに濃密なものだ。
 そのため、忍のエピソードで発生した事柄がノエルにも大きく影響し、その逆もありうる事に繋がる。
 あまりに互いの干渉ベクトルが強いため、二つのシナリオに大きな差を付けにくくなってしまったのかもしれない。
 この二人と途中まで同時攻略可能である神咲那美と比較すれば、それはさらに明確になっていくのだ。
 しかし、それは自暴自縛というものではなかろうか。
 
 その他の部分を見てみても、首を傾げるものが多い。
 まず忍は、おそらくとらハ全シリーズを通して見ても一番影が薄い存在ではないかとも思えるくらいに個性がない
 否、「3」から始めたプレイヤーにとってはそれなりなのかもしれないが、過去の作品を経験しているプレイヤーにとっては、今まで登場したヒロインの焼き増しにしか見えないのではないかと思われる。
 ましてや「1」のさくらと同様の“発情期”の設定なんか持ってくるものだから、シナリオそのものも“どっかで見た”的な印象にしかならないのだ。
 メカに強く、あらゆるものをなおしてしまう腕前を持つとか、ゲーマーであるという設定があるにもかかわらず、ほとんど印象に残らないというのも疑問だ。
 基本的に無口で大きな騒動を自ら起こすタイプでもない忍は、単独でのアピール力が極端に少ない。
 そのためか他のヒロインシナリオに登場した時でもまったく目立てず、かえって主人公の親友・赤星の方に個性を感じてしまうのだ。
 主人公と結ばれるきっかけというのも、そこまでの過程の割には異常に淡白だ。
 まるで「血を分け合った」という事実に寄りかかって行程を済ませただけ、という印象しか残らない。
 第一、忍自身が主人公を好きになったという理由が決定的に希薄なのだ。
 夜の一族独特のやりとりという説明だけで、すべて納得しろという方が無茶だ。
 表現の足りない部分を連想などで補うにしても、あまりに材料が足りな過ぎる。
 
 また、Hシーンのあり方についても疑問が残る。
 初エッチに至るまでの選択肢で、一つでも別なものを選んでしまうと突然ノエル編に移行してしまうというのはいかなものか
 ノエルシナリオに移行しても、彼女は主人公の恋愛対象にはならず、また忍がノエルに対して嫉妬を抱く事もない。
 恋愛に関してだけなら、完全に「自動人形」という“物”扱いされていると言っても良い
 すなわち、シナリオ内でどちらとHをしていようが、最終的にはすべての問題が解決して忍と結婚してしまうのだ。
 おやや、なんかとらハシリーズとは思えないくらいに投げやりな展開だなぁ。
 一人の女性と結ばれたら、どんな事があろうとも一直線という、これまでのパターンを大きく逸脱するものだ。
 それは別にいいんだけど、本当に通過儀礼として忍と結婚しただけ…にしか感じられないなあ…
 また、終盤では安次郎の持ち込んだ別の自動人形・イレインによる大惨事が発生するが、事実上主人公の活躍は一通りのHシーンまでで終わっており、ここではろくな活躍をしていない印象にとらわれる。
 だが実際にはそれなりの活躍をしており、イレインを数体撃破するというなかなかの結果を出している
 しかしその場面を豪快にショートカットしているためか、活躍したという印象がまったくないのが残念。
 また忍自身も(仕方ないとはいえ)、脇でただわめいているだけだからなあ…
 また、インパクトがすべて自動人形達の方向に向いているためか、忍がいてもいなくてもさほど変わらない展開となってしまっているのは疑問が残る。
 ノエルの回想の中に出てさえいれば、忍の役目は果たされてしまうという事だ。

  
 とにかく、忍単独でシナリオを見つめてみても良いポイントがほとんど見あたらないというのが現実だ。
 もちろん面白い部分もあるにはあるのだが、それは忍とノエルのどちらで書けばいいのか迷ってしまう事になる。
 なので、ここでは開き直ってノエルシナリオの評価のページで良点その他の問題点を指摘していきたいと思う。


  で、評価の対象にはしてないんだけど、忍の親族関係の設定を中心とした時間軸設定にちょっと思う事があったので考察してみた。
 話のタネ程度に読んでいただければ幸い。

 忍は「1」のヒロインの一人・綺堂さくらの姪であり、そのため吸血能力を持った“闇の一族”という触れ込みになっている。
 一方、さくらの兄姉はすべて義理であり、年の離れた姉(未登場)と「1」でとんでもない事件を起こした兄・氷村遊の二人しかいない。
 どうやら義理の姉の娘という事になるらしいが、忍が小学1年生の頃にノエルが起動、それからしばらくして両親が死んでいるらしい。
 
 ちょっとここで時間軸を整理してみよう。

 両親が死んだ当時の忍の年齢は10歳前後だったらしい。本人が図書館での会話でそう言っているから間違いあるまい。
 ちなみに「3」の舞台は、どうやら「2」の8年後という説があるらしい
 それが本当なら、「2」で年越しをした時期と「1」のスタート時期がだいたい重なっている都合上、「1」の7年後あるいはその辺りという事になる。
 「1」でさくらは、真一郎とのデートの時に兄姉の有無を説明しているが、その頃には、さくらの義理姉はまだ存命していたと考えられる表現がある。
 その時点ですでに死亡している人間を指して「義理の姉がいますが…」とはいうまい。せいぜい「いた」となるのが普通だろう。
 これをそのまま額面通りに受け止めると、「1」終了直後の時期に忍の両親が事故に遭い死亡していなければ、矛盾が生じてしまう事になる。

 以上の事をまとめると、やや無茶ではあるもののギリギリ矛盾を避けており、大きな問題はないように感じられる。
 ただし、これは「2」の8年後の舞台という話が真実だったらの場合だ
 ところがどっこい、実際には8年後ではなく、4年後あるいは5年後というのが現実だ。
 一見この件に無関係に思える神咲那美の設定を参考に考えてみよう

 「2」は、シナリオによってスタートから何年後に終わるのかが一定でないため、エンディングなどにある「それから数年後」という表現を無視したとしたら、だいたい1年間くらいの物語だったと仮定していいと思われる。
 「2」の主人公・耕介が(就任した年の)ゴールデンウィークに帰省しようとする際、十六夜から薫の姉弟の年齢を説明される場面があり、ここで十六夜は那美と北斗の双子を指してはっきりと「二人とも、数えで十歳のお子様です」と語っている
 現在、日本ではその年の4月2日(1日ではない)の時点で6歳になっている事が、小学1年生として入学できる条件になっている。
 早生まれの人間が本来よりも一つ前の年の新入生になってしまう理由はここにあるのだが、そのままスライドすると、4月の段階で十歳という事は間違いなく小学五年生であるという事になる。
 参考までに、中学一年生は同様の理由で満12歳、高校一年生は15歳という事になる。
 さて、那美は「3」本編では高校2年生という事で登場している。
 ゲーム時間では新学期中という事になっているので、那美は間違いなく16歳であり、17歳より上という事は留年でもしていない限りはありえない(留年という事であれば本編で触れているだろうし、それはありえないものとして考える)。
 という事から、彼女は「2」の終了段階で1つ年を取っている事になるだろうから11歳(小学6年生)になっていただろう。
 そこから計算すると、5学年進級…5年しか経過していない事になる。
 という事は「3」から見ると、「1」はだいたい4年前であるという結論が出てしまう。

 あれれ、2〜3年くらい時間の計算が合わないが…?
 もう一回、さくらサイドで考えてみよう。

 そうなると、さくらの義姉(忍の母親)は「1」の時点ですでに死亡して2年以上経過していたか、あるいは義姉が一人ではなく、二人以上存在していた…とでも考えなければつじつまが合わない。
 真一郎とさくらが映画を見に行った時点で、忍は12歳になっていなければ矛盾が発生するという事だ。この事から、二人の年齢差は4歳という事になる。
 まあ、多少無理があるもののさくらの言い回し一つだけですべてを疑っても仕方ないので、これを一応の基準としておこう。

 しかし、ここでもう一人とんでもなくやっかいなヤツが登場する
 突然次作「リリカルおもちゃ箱」にシフトして恐縮だが、このミニシナリオではまっとうに成長した陣内美緒が登場し、暴言を吐いてくれる。
 なんと、彼女と高町美由希は同い年だそーな!
 「2」スタートの時点で、美緒が小学3年生である事はほぼ間違いない、という事を以前評論で書いた事がある。
 さもなきゃ中学3年か高校3年以外にあり得ないが、子供料金云々の話が友達の望にあったわけで、それはあまりに無茶だという事がわかる。
 さて、先の通り「2」最初の年の段階で那美は小学5年生だとすでに解っているが、美由希は那美の一年後輩だ。
 以上の事から、美由希は美緒よりも一学年上でなくてはおかしい筈なのだ

 ちなみにこの原稿を一度書き上げた後、掲示板『投稿九拾八式』にてお客様の「あるか」様が『風芽丘の学年色一覧』というものを作成してくださった
 それをじっくり見てみると…あれれれ? ちゃんとつじつまがあってるじゃん?!
 さらに氏の投稿による指摘で、「十六夜が示した那美達の年齢は、数え年によるものではないだろうか?」というものがあった。
 「数え年」とは、もうほとんど使われなくなった日本独自の古い年齢計算法で、生まれたその年を「1歳」として数える方法だ。
 要するに“0歳という概念がない”というものなのだが、これをこの時期の十六夜のセリフに当てはめると、那美の年齢は実質的に9歳(小学四年生)となり、上記までの問題は一気に解決される。
 問題があるとしたら、十六夜の言葉が本当に数え年によるものだという保証がない事だ。
 「数えで」という言葉を、そのまま“年齢をそのまま数えて”という意味に捉える人の方が多いからだ。
 元々古い人間(?!)である十六夜がこういう言葉の使い方をするのに違和感はないが、現代の知識についても十分なものを持っているだろう彼女が、耕介のまったくしらない人間の事を伝えるのにそういう意味の言い方をするのかどうか、疑問がない訳ではない。
 だが、これでつじつまが合ってしまう部分が多いので、充分認めてもいいのではないかと考える。
 なーんだ、それじゃあ全然問題なかったじゃんか!

 …ところが、話はまだ終わらない。
 ここからは本来「リリカルおもちゃ箱」の評論で触れるべき事なのだが、美緒は「3」の一年後が舞台の”同作品内で県立城西二年生と言っている。
 それではいったい、「リリカルなのは」はその年のいつ頃の時期に起こった物語だったのだろうか?
 これを考慮に入れてしまうと、また計算が狂ってしまうのだ!
 ミニシナリオ「魔法少女リリカルなのは」の正確な時期は4月以降だという推察が、第三話のフィリスの「春休み明けてからお会いしていないんですけど…」というセリフから汲み取れる。
 その前には忍のセリフから“まだ寒さの残るような時期”である事もわかるので、まず5月や6月ではないだろう。
 この時期に高校二年生だった美緒の年齢は16歳である筈なので、逆算すると「リリカル」と「2」の最初の年は8年の間が空いている事になってしまう。

 ………
 ……「1」と「3」の間は、それでは6年だった事になる。
 …「2」と「3」の間は、7年空いていた事になってしまう。
 …あれれーーーっ?!
  

 うーん、細かくまとめてみるとずいぶん荒っぽい設定だったんだなぁ…。
 さくらや忍の血縁関係の設定の無茶を指摘しようと最初はおもっていたんだけど、そっちはなんとか納得できた代わりに、とんでもないヤブヘビをしてしまったようだ。
 …って、普通ここまで突っ込まないって? まあお許しください、ここは一切各シナリオの評価には加えていない“オマケコラム”みたいなものなので♪

 まあ忍編にもっと突っ込むなら、発情期はさくらの祖父の血によるものだった筈なのに、獣人系の血を引いているとはとても思えない忍にもそれがあるのは変だとか、いつのまにさくらはヘアバンドなしで耳を隠せるようになったのか…など、色々あるんだけどね。
 お、これについては“美緒から耳の隠し方を伝授された”という強引な解釈が…って、美緒とさくらは会ってないじゃん(ラブちゃはあくまでパラレルワールドなので除外)。
 …これ以上書くとキリがないので、そろそろやめておきましよう。

 …「リリカルおもちゃ箱」…恐るべし。
 
 ※なお、上記の年齢計算は「ゲーム本編内からのみ汲み取れる情報」だけを考慮に入れて行っており、たとえオフィシャル設定でも、本編内で明確にされていないものはあえて考慮対象にしておりません。だから、一種のネタ的な捉え方をしてもらえれば光栄です(^^;

  はあ…よく寝た…