ノエル・綺堂・エーアリヒカイト/評価E

★忍シナリオと完全同一。


 さて、Hシーン以外忍と完全同一展開のシナリオとなるノエル編。
 やはりそのぞんざいな構成から評価を高める訳にはいかないが、面白いポイントもない訳ではないので、ちょっと拾ってみたいと思う。

 まず、ノエルがとらハシリーズ唯一の“100%生命体ではない”ヒロインであるというポイント。
 古くはTo Heartのマルチから伝えられてきた“人造人間との恋愛劇”だが、ここで人造物が心を持つ云々の話をしても以前のレビューの繰り返しになるので、あえて触れないでおきたい。
 面白いのは、忍も主人公もノエルの事を“人間と同等の存在”としては見ていない事だ。
 忍は、彼女を完全リストアしたという過程があるわけだから当然として、主人公も「人間と同様の反応をするにはするが、やはり人造物」という認識らしきものを抱いて接している。
 Hシーンでの彼の考え方や遠慮の仕草を見ていると、そういった感が受け取れるのだ。
 また、事に及ぶ前に忍が早々に「H…出来るよ」と予防線を張っている事にも注目したい。
 過去に多数存在した“ロボット型ヒロイン”とのHシーンの必然性と理屈、これが「とらハ的」な解答なのだろう。
 先にこう言われちゃあ、物理的問題や材質形状云々の理屈を唱える前に、納得するしかなくなっちゃうもんねぇ。
 例のアレにあった、マルチの“最後のシーン用に、H可能バージョンに改修しました”よりはよっぽどストレートだし。

 ただ、それが万事において正解だったか…となると、ちょっと疑問に感じるのも確か。
 結局、ラストを除いてほぼ唯一の独自展開とも言えるHシーンで感情移入がしにくいため、結局ノエルがどういう位置付けの存在となるのかが不明瞭のままなのだ。
 これはつまり、“エンディングに達しても攻略したような気がしない”とか“中途半端な印象しか残らない”事を意味する。
 ノエルというキャラクターを気に入るには、外見の要素や“メイド”という表面設定だけに萌えなければならない…というのは言い過ぎかな。
 とにかく、いくらラストが秀逸なつくりであっても、そこまでにキャラクターの描き込みが完全じゃないと、かえってシラケてしまうという事例に従ったパターンだと言えよう。

 さて、忍やノエル以外のものに目を向けてみよう。
 そうすると、出てくるわ出てくるわさらなる問題点が…

 まず、忍を轢き逃げさせようとしたり、あげくに左腕を切り落とさせた諸悪の根元・安次郎だが、こいつの行動理念も全然わけがわからない。
 元々は月村家の財産配当に異論を唱え、ノエル自身を入手する事を画策していた筈なのに、終盤ではノエルの後継機イレインを導入してまで忍達に迫ってくる。
 ちょいと待てや、おっさん!
 あんた、ノエルの構造を調べてその技術を提供する事でボロ儲けを企んでいたのではないのか?!
 イレインを起動できたのなら、もうノエルいらんやんか!
 もっともこれは忍やノエルの推測だから本当は違うのかもしれないが、本人が全然説明しないものだから、どうしてそこまでノエルに拘るのが全然不明瞭なのだ。
 例えばコレが、自動人形であるなしに関わらず“ノエル萌え〜♪”という理由だってんなら話はわかる。
 あるいは、忍の改良によって身に付けたセクサロイド機能やロケットパンチの方が魅力的だった…なんていうならまだ理解出来るのだ。
 それならば、ほぼ全財産を投入してまでイレインを用意したというのもわからなくはないのだ。
 しかし、本人はひたすら「ノエルよこさんかい」としか言わない物だから、もうわけが解らない。

 元々「とらハ」シリーズは、悪人側の行動理由をかなりいい加減に設定してしまう傾向があるのだが、今回はそれがもっとも露骨に出ていると行っても過言ではあるまい。
 (本当はこの後、美由希&フィアッセ編でもっととんでもないのが出てくるのだけど…)

 イレイン自体は、非常に面白い設定を持っている。
 マスター機体が、自身と同型のオプション機体を同時に複数操作できるというのはとてもイカした設定だ。
 まるで「機動新世紀ガンダムX」のガンダムXやエアマスター、レオパルドみたいだぞ。
 起動後特定時間の経過で自我に目覚めるというのも、必然性はともかくなかなか楽しい設定だと思う。が、わざわざそんなものを提示してまでノエルと対峙させる必要はない気がするんだが…
 ただ、もっと早く登場のための伏線を張っておくべきだったとは思う。
 イレインは、使い方によってはもっともっと面白い存在になりえたと思うのよ。

 ラストバトルは、イレインとノエルの“自動人形同士の”ヒューマニズムのぶつけ合いとなるのだが、さて、はたしてそんな事をして意味を成すほどの描写がそこまでの展開にあっただろうか?
 最後の辺りのノエルの描写は、そういう肝心な部分が抜け落ちた状態のままで続くために、どこか納得できない部分が残るのだ。
 カートリッジを無理矢理増加してパンチを射出したり、最後の最後で涙を流したという部分は、素直に評価したい演出だけどね。
 でも、よくよく考えると本編中さんざん“人造物”として扱ってきていた彼女に、こういう時だけヒューマニズム押し付けるのもどうかとは思うが…
 そもそも「恋愛劇」にすらなっていないんだもんね。

 が、肝心のエンディングは…
 いや、ノエル復活の瞬間の場面は非常にかっこいいし、ノエルらしくてとても好感が持てるのだが、もっと根本的な部分を考えてみたい。
 あそこまで大破し、館の炎に包まれたノエルが無理矢理復活するというのに、かなりの違和感を感じるのだ。
 そうした方がベストとは言わないが、なぜに素直に“退場劇”として描く事を拒んだのだろう?
 あのままノエルが館に没し、修復したにも関わらず再起動せず…となったなら、これまでとはまったく別な余韻が生まれるのだが。
 ノエルは、イレインとの戦いにおいて“涙”を流した事で、本格的な“人間らしさ”に目覚めたのだ。
 それまで忍にも言われていた“人間らしさ”の欠如…自身も理解していた筈なのに、その根底にはちゃんと存在していたものだったのだ。
 それを最後に自覚し、その上で眠り続ける引き…こういうニュアンス、わからなかったのかなぁ。
 手塚治虫の漫画版「サンダーマスク」のラストに漂う、独特の哀愁と余韻を是非参考にしていただきたい。
 とはいえ、「2」の時でもさんざん書いた通りこのシナリオライターは“絶対悲劇否定主義”らしいので、きっとそんな事考えもしなかったのだろう。
 悲しい死を臭わせる引きからの復活は、そこまでの経過によっては逆にチープになってしまうものなのだが、そういう計算はなかったのね。
 本作を含め、「とらハ」シリーズ全体を通して見ても、このラストはかなり無茶だったと思ったよ。
 いや、キライという訳じゃないんだけど…惜しかったかなって。

 そういえば、このシナリオではなぜか那美がノエルの代打をやっていたりするが、そんな事やっているヒマあるのだろうか彼女には?!
 なんか美由希を神社に入れてまでメイドしてたけど、美由希をメイドにさせた方が賢明のような気が…
 それとも、そこまでしてメイドをやりたかったのだろうか?
 だとしたら私、ある意味その心意気だけで感動できるよ(T_T)。

 
 総括となるが、忍とノエルのシナリオの組み合わせは、中途半端ぶりが如実に目立った非常にお粗末なものである事は否定できない。
 いくつかの面白い試みはあるし、人物描写としてもあいかわらず優れている部分もあるのだが、それは他のシナリオもクリアしているポイントなのだから、ここまで評価が下がってしまうのは仕方がないのだろう。
 
 これはあくまで私個人の考えなのだが、シナリオをペア構成にしようと企画した段階で一番最初に書き下ろされたシナリオが、この忍&ノエル編だったのではないかと推察する。
 なぜなら、あまりに構成が実験的すぎるからだ。
 ここから分岐する神咲那美シナリオの構成が、これらとは比較すら出来ないくらい別なストーリーになっているというのも、そう考えさせられるポイント。
 どうやら本作は、当初は「1本のストーリーを複数のヒロイン側視点でたどる」方向性で機軸を構築しようとしたらしい。
 しかしその手法に限界を感じ、途中からこれまでのシリーズと同様の“ヒロイン別ストーリー型”に移行したと考えられる。
 美由希&フィアッセ編は、忍&ノエル編の後に作られ、晶&レン編はさらにその後だったのではないか、と勝手に想像している。
 はたしてこれが本当にその通りだったか…そして、選択した結果が正解だったか否かは、安易に決定づけられるものではないかもしれない。
 しかし、本シナリオがそんな部分の一端を示した事だけは事実なのだ。


 さて、最後の蛇足。
 ノエルの“ロケットパンチ”だけど、実はこれ意外と知られていないが商標登録単語なので、ホントは安易に使用できないものなのだ。
 「マジンガーZ」の必殺武器のひとつとして登場したこの単語は、永井豪のダイナミックプロによってキチンと登録されている。
 実は、昔あまり版権や商標登録に詳しくなかった同社が、ウォルトディズニー社にこの辺の詳細を訪ねて勉強し、自社のあらゆる関連物を登録した結果なのだ。
 OVA版「機動警察パトレイバー」1巻、レイバー・ぴっける君に攻撃する泉野明のセリフも「ロケットパーン…」で切られ、鐘の音に繋いでごまかしている。
 ついでに言うと、ベストセラーになった「空想科学読本」という本の中でカット内で使用されている単語がすべて「ロボットパンチ」になっているのも同様の理由だ。
 せめて「ワイヤーパンチ」とか「ブースト・ナックル」、あるいは「ナックルボンバー」くらいにしとけばよかったかもね。
 …って、ナックルボンバーも登録されていたりして?! なにせ鋼鉄ジーグやゲッターロボだもんなあ…
 


 ファイエル!!