神咲那美/ 評価B

★近所の神社に時々姿を現す美少女巫女・那美。
 彼女は風芽丘に通う2年生で、主人公の後輩、美由希の先輩にあたる生徒だった。
 ちょっとドジでのほほんとした性格は、周囲をなんとなくなごませる雰囲気を湛えている。
 しかし、恭也はそんな彼女を見て、忘れかけていた記憶を蘇らせようとしていた。
 「俺は、昔彼女と出会った事がある…」

 那美はかつて姉の薫が行っていたように、警察の協力を得て各地の除霊を行う退魔師だった。
 薫とまったく違うやり方で除霊を行っていく那美…彼女には、いずれやらなくてはならない大きな約束事があった。
 しかしそれは、約束というにはあまりに大きすぎる“宿命”でもあったのだ…


 忍とノエル編から分岐する割には、関連はほとんど皆無と言っていいくらいに独立したシナリオ。
 そして同時に、かなりトップクラス完成度のシナリオでもあった…と思っている。

 まずは全体の構成に驚かされる。
 前半、花見の開催場所にさざなみ寮の“穴場”を提供するというごく自然な入り方をして、さらに主人公の思い出話へとスライド、そして初めて出会った時の事を互いに覚えていたという事をきっかけに関係見つめ直させるという、コテコテだけど不自然さのない演出を用いて、あれだけ地味なキャラクターを引き立てている。
 おそらく主人公が彼女への想いを自覚するに至る場面は、これまでのシナリオ全体を通じて最高の説得力があったかもしれない。それほどのものが含まれているのだ。
 単なる淡い思い出だけに止まらず、神咲家の者としての能力の一端をきちんと見せている部分も見逃せない。
 那美は、ヘタしたら忍以上に、他のヒロインシナリオで埋没してしまいかねない程に自己アピール要素が少ないキャラである。
 現実、晶&レンや美由希&フィアッセシナリオではほとんど印象に残る活躍の場面が見あたらない。
 他シナリオでも目立ちまくっている晶やレンの正反対の性質、という事だろうか。
 そんな彼女の引き立たせ方としては、まさしく最高の演出だったのかもしれない。

 そして後半、ほとんど那美のペットと化している子狐“久遠”の正体と過去、そして彼女と交わした約束を絡めて盛り上がる展開は、非常に完成度が高い。
 特に久遠は、他シナリオでもひんぱんにマスコットとして登場している訳だから、それなりに意外性を持ってくる事も出来るのだ。
 「ラブラブおもちゃ箱」をプレイしていると、“声があるという事は人間化するな”とすぐにピンとくる難点はあるが(笑)。
 久遠が妖狐と化し、神社仏閣を破壊しまくった理由は非常に重く、感情移入もしやすい。
 まさか花見の時に喜んで飲んでいた甘酒すらも伏線だとは思わなかった。これには本当に驚かされた。
 弥太との思い出が主人公の夢として伝わってくるという演出は、そのあまりに高い密度から、ヘタをしたら那美の印象すら塗りつぶしかねないほどの危険を含んでいた。
 しかし、久遠の被害者の中に自分達(那美は双子である)の両親が含まれていたという事、さらには神咲薫やその祖母、はては十六夜まで絡める事により、一方通行の表現に偏っていない。
 いわば、紙一重で久遠と那美のキャラ立ちを両立させている訳だが、これは非常に評価したいポイントだ。
 「とらハ」シリーズは、「2」の仁村知佳シナリオを例に挙げるまでもなく“シナリオ内で新登場したキャラクターの描き込みに集中してしまい、本来のヒロインの扱いがぞんざいになる”という致命的な欠点があった。
 これを乗り越えたという事だけでも、かなりの進歩だと私は認めたい。

 那美は、その姿や印象からは想像出来ないくらい、重いものを背負って生きている存在だった。
 おそらくは、退魔業にトラウマを感じてしまった薫の比ではあるまい。
 それでいて、彼女は最後まで自身の中の思いを疑う事はなかった。
 ある意味で、もっとも強い部分を見せたヒロインなのかもしれない。
 自身の心の未熟さゆえに神気発動が不充分である部分を強調し、最後の久遠との戦いでようやく発動に成功させるという過程は、非常にテンションを盛り上げてくれる。
 戦いそのものに“相手を倒す事”以外の目的意識が絡んでいて、それが昇華しているのはこのシナリオだけだ
 この部分だけなら、全シナリオの頂点に立つと言っても過言ではないかもしれない。 

 さて、さんざん誉めてきたが、ではなぜ評価がAではなくBなのか?
 それは、このシナリオをプレイした人が「神咲一灯流」の事を知らなかった場合どれだけの理解が示されるのか、あまりに不安要素が大きいからだ。
 「2」を経過したプレイヤーならば、薫編や十六夜編によって神咲の者が退魔の業を行っている事を知っているし、そのためどのような力が必要とされているかも解っている。
 これらは「2」内で丁寧に説明されてきた事であり、主人公やヒロイン各自が抱えるトラウマとも同調して充分な中核と化していた。骨子としての条件を満たしていたため、オリジナル設定ながらもリアリテイと説得力を稼いでいたと言ってもいい。
 しかし、那美編ではこの辺の描写が驚くほどに希薄なのだ。
 もちろんこのシナリオの中でも、神咲の因果や退魔業についての説明はされている。
 しかし、どうも「2」の時に出てきた設定をプレイヤーが熟知しているだろう事を前提にした説明であるため、イマイチ充分とは言えないのだ。
 那美の退魔法が、薫と完全同一のものだったのならある程度説明を省略できる可能性もあるが、実際はそうではない。
 また、いくら退魔を業とする家系の出とはいえ、普通の女子高生が警察に呼ばれて仕事をするという(はたから見れば)異常な光景についての説明も、説得力がない。
 これらは、彼女は薫の跡を継いで仕事をしているという暗黙の了解が必須となる描写なのだ。
 「3」から入ったプレイヤーは、“この那美って、どうしてこんな事をやらなくちゃいけないんだろう?”と思うのではなかろうか?
 そういう不安要素が拭えないため、どうしても評価をAには出来なかったのだ。 

 決して、十六夜が名前だけしか出てこなかったから…という訳ではない。
 …ホントだってば。


 那美シナリオは、「2」をプレイした人達をニヤリとさせるポイントがちりばめられているのもおいしい。
 やはり“さざなみ寮再び”というのが最大の売りだが、成長した愛(笑)やニヒルなクールガイに成長したリスティなども、さりげなく見逃せないポイントだ。
 声のみ出演の仁村真雪もオイシイが、やはり彼女には画面に登場していただきたかったと思うのは私だけではないだろう。
 結局人間が入れ替わっても“真雪VS神咲”の図式は変わらないという部分も、楽しませてくれるポイントだ。
 また薫の協力者として、巨大化美緒のお札を提供した葉弓なども登場していたりと、結構細かい所も突いている。

 ときに、花見の時に「風に負けないハートのかたち」を歌っていたけど、これって元々が那美ご本人(の声優さん)の歌だよね?
 まさか、声の裏返りまでネタにされてるとは…ちょっとヒドイぞ(笑) 
 

 しかし…名前が“那美”で巫女というのは…やっぱ狙っているんでしょうね。どう想いますか鷹風虎徹さん? ((((((逃走)
 
 

 えーと、お茶、お茶……わたた