フィアッセ・クリステラ/評価A
★(基本は美由希編と同)
恭也の父・士郎は、フィアッセの父でイギリスの上院議員だったアルバートのボディガードをしており、そのために凶弾に倒れた。
士郎の関連で、家族ぐるみの付き合いをしていたクリステラ家と高町家の間柄はそれでも悪化する事はなく、逆にフィアッセを暖かく迎え入れた。
そんな暖かい人々に包まれながら、現在は翠屋の店員をしながらも、シンガー志望の夢を抱いてレッスンを繰り返しているフィアッセだった。
しかし、彼女には大きな秘密があった。
彼女が生まれつき持っている病気…「変異性遺伝子障害」の影響で、いくつもの特殊能力が身についているのだ。
また、その能力解放時に出現する巨大な“黒い翼”は「AS-30ルシファータイプ」と呼称されており、本人も忌み嫌っているものだった。
フィアッセは、その黒い翼のもたらす呪いの力の影響で、士郎が死に至ったと思いこんでいるのだ…。
まず何よりも驚かされるのは、フィアッセが知佳やリスティ、フィリス達と同種の存在だったという事実だろう。
これは当然、美由希編とのコンパチ状態の時に明確にされるものだが、屋根から落ちた晶とレンを救うために主人公に「神速」を使わせ、それでも間に合わないために念動力発動…とさせる事で、実に違和感なくその正体を明かす展開に持っていっている。
どうやらいくつか忘れられた部分もあるみたいだが、ここで「2」でも登場した設定を引用する事で、さらに世界観のつながりと広がりを強調した事を、まずは誉めたい。
先にLCシリーズのフィリスを担当医として登場させているから、伏線もきっちりしてるんだよね。
私にとってこれはかなり虚を突かれた展開だったため、どうしても拘ってしまうところがある。
また知佳達と異なり“能力を使う事によって生命力が失われていく”というペナルティがあるから、普段から便利に使う事が出来ないという条件も課せられている。
それが結果として、一部の人間にしか事情を知られていないという状況に繋がっているんだモノね。
まあ、結構お見事な隠し方でしたと、まずは誉めておきたい。
最後も、ここぞとばかりにうまく使っていたしね!
さて、全体的な評価。
美由希編でも語った通り、本シナリオは“クリステラソングスクール”によるチャリティコンサートというイベントを挟んで多重に展開するなかなかの構成のストーリーだ。
美由希編をクリアしないとたどり着けないこのシナリオは、雰囲気的にグランドエピローグ的な側面も持っており、そのためかラストへの収束と物語への引き込みは凄いモノがある。
また、全体的に見所も多く、諸問題を考慮に入れても評価Aは間違いないだろうと思われる。
まず語るべきは、「2」からの再登場キャラクター“椎名ゆうひ”の存在だろう。
彼女だけは、他のキャラクターと異なりチョイ役ではなく、けっこう重要な位置にまで食い込んできている。
本編中に行われるソロコンサートは、おそらく「2」のゆうひエンディングで耕介が訪れたものと同じだと推察される(ちょっと違うような気もするのだが…)。
またゆうひがホテルの部屋を空けるというのも、それを知っているとなんとなく納得出来てしまう。
(もちろんここで「2」からの世界観はぐちゃぐちゃになってしまうのだが。ゆうひルートの延長としてこのシナリオを考慮すると、フィリスは絶対に登場する筈がない…とか。ヤボなんだけどね)
ゆうひは元々クリステラソングスクールに留学したという事が「2」にて説明されているし、また本作内でもすでに有名人として紹介されているため、いざ登場してもさほど説明不足という感は受けずに済む。
大の親友であるというのに、それを隠し続けていたフィアッセというのも実に謙虚で、そのためゆうひのファンだった忍が大感激してしまう場面はとても面白く描かれている。
またゆうひだけでなく、ついに登場したソングスクールの校長・ティオレにも注目したい。
彼女は珍しくCG付きで出てきたサブキャラクターだが、それまで比較的(デザイン以外は)地味めだったフィアッセの側面的な部分を説明し、深みを与える重要な役割を持っている。
また、行われるチャリティコンサートがただのイベントではなく、ティオレにとっての生涯の夢だったという事を説明してくれる。
ここにフィアッセが参加するという事は、これまで叶わなかった“母子共演”が果たされるという事であり、二人にとってはこの上ない至福でもあるのだ。
そういう部分がきっちりと描かれているため、これを阻止しようと暗躍する“組織”の非道さがクローズアップされるのだが、特筆すべきはこの部分の描写が、フィアッセ編と美由希編でかなり異なる事だ。
フィアッセと基本行動を一緒にする主人公だから当然なのだが、美由希編では語られ切れない部分をここで知る事が出来るのは面白い。
例えばティオレの寿命の件なんかは、その最たる物だろう。
フィアッセは、最後に主人公を救うために母と共に歌うという念願のチャンスを振り切り飛び出していくが、それがどれほど決意のいる行為だったかが、この部分から伝わってくるのだ。
またゆうひにしても、現在のフィアッセを影で支えた功労者なのだ。
フィアッセの周りの人物は、すべてにおいて彼女に有効に動いてくれているのだ。
そしてそれに応えようとする彼女自身の姿勢もあり、すごく短いゲーム期間にとても印象深い場面を構築するに至っているのだ。
さて、こちらでも当然刺客として登場する美沙斗なのだが、実は美由希編に登場した時以上にショッキングな事実を話してくれる。
これはむしろ美由希編で説明すべきとも思うほどのものだが、おそらくはシナリオクリアの順番を利用してインパクトを与えようとした結果なのだろう。
美沙斗が何故ここまでして組織「龍」の行方を追う事に拘るのか、その理由はティオレ達に並ぶかそれ以上に重い物だ。
美沙斗の夫である御神静馬の妹・琴江の、念願の結婚式の際に発生したテロリズム…病弱だった琴江が、やっと幸せになれる時がやって来たという矢先に、家族もろとも抹殺されたというのだから、確かにその怒りようは尋常ではないだろう。
これまでは、どちらかといえば夫を死なせた事に対するベクトルが強いと感じられた美沙斗の行動理念だったが、実際はそれだけではなかったのだ。
よくよく考えれば、これは表と裏…コンサートというものを挟んで両立する、二人の「母」がそれぞれの夢を叶えるための戦いなのだ。
廃ビルでそれを静かに主人公に語る美沙斗の姿は、とても悲しく映る…。
かなり遅れて登場する割に、結構な存在感を感じさせてくれる美沙斗は、決してその強さだけで存在をアピールしている訳ではないのだ。
この“表と裏”のやりとりがちゃんと描かれているため、主人公と美沙斗の戦いの結末と、“白い”4枚の翼を広げて彼らを救出しに駆けつけるフィアッセの場面は、ものすごい盛り上がりを見せてくれる。
この展開は、本来ならば悲しみに包まれてしかりの結末を、それぞれの信念でハッピーエンドへ導いたものとして評価したい。
コンサートに間に合わなかった主人公のためだけに、フィアッセが“本気の歌”を歌う場面も、最後への進行を飾る素晴らしい場面だ。さらにはスクールの全員が登場し…というのも、お約束ではあるけれど、きっとプレイヤーが求めていた答えの一つであろう。
…歌があまりうまく感じられなかったのが残念だが(^_^;
とにかく、全てに於いて本作最良の演出が盛り込まれ、ほとんど文句のつけようがないくらいに昇華しているのが本シナリオだ。
主人公も存分に活躍し(特に私自身がもっとも求めていたテイストだったため、戦闘シーン…「神速」2重掛けで思わず涙してしまった!)、メインヒロインだけでなく、サブキャラクターの活躍もめざましい。その上でシナリオの構成もきちんと整っているのだから…
これが、「とらハ3」という作品の中で最高のシナリオなのは疑う余地がないだろう!
…が、さりげなく問題点も大きかったりする。
まず、チャリティコンサートを阻止しようとした組織…結局美沙斗が追っていた組織と同一だった「龍」だが、こいつらがどうしてコンサートを阻止しようとしているのかが全くわからない。
一見きちんと説明されているようにも見えるのだが、実は全然無関係の話をされている事に気付かれただろうか?
「龍」の男は、美沙斗に「ティオレは買収に一切応じない」とか「チャリティコンサートでは莫大な金が動き、それによって色々と損をする人達がいる」などと説明しているのだが、これはすべて「イコールコンサートの阻止」には繋がらない理由ばかりだ。
というよりも、コンサート前日や当日に行動を起こしてもまったく無意味なのだ。
彼の話を聞くと、最悪ティオレやフィアッセを傷つける必然を設けてまで脅迫するメリットについては、全く触れていない。
ただ単に、美沙斗が行動すればそれでいいと突き放しているだけで、肝心な部分を不明瞭にさせたままだ。
仮にティオレを組織にうまく従わせる事が出来れば、その結果としてコンサートの中止が実現できる筈なのだが、彼女の意志が固いままの状態でコンサートそのものを潰そうとしても、それは草刈りで根を残しまくるようなものだ。
それとも組織は、いずれティオレそのものを抹殺したいと考えていたのだろうか? だが美沙斗の話を聞く限りだとそうではないらしい。
なるべくならティオレやその周辺の人間を傷つけることなく、目的を果たすのが目標のよう…だった。当初は、だが。
しかし美沙斗のミッションが失敗した段階で、男は爆弾をホテルに仕掛けるなどという真似をしている(美由希編)。
これは、単純に任務失敗した美沙斗を始末しようとしただけとは考えられない。言ってる事とやっている事が支離滅裂なのだ。
こういった肝心な部分の描写がおろそかなため、なんかイマイチ締まりが良くない印象がある。
また、フィアッセ自身にも重大な問題がある。
彼女が例の遺伝子病だったというのはいいのだが、肝心な設定を忘れている。
「2」の仁村知佳は、この病気の影響で外見に似合わず147キロという超体重を持っていた。そしてこれを念動力のようなもので支え、なんとか通常生活に問題が起こらないように工夫してきたのだ。
リスティやLCシリーズにはこの描写はないものの、その能力はほぼ等しく、それゆえに利用されそうになるという描写があった事から、彼女も同様の処置をした上で一般生活を営んでいたのだろう。
対してフィアッセには、“能力を使うたびに倒れる”“場合によっては命に関わる”というとんでもないペナルティがある。
フイアッセ自身、フィリスの言葉から彼女達と近い属性の存在らしいため、ここは避けられない部分だろう。
だとすると当然、彼女もそれなりに能力を常時開放していなければならない筈なのだ。
だが、そこにさらにダメ押しする設定“能力を使い続ける事はできない”というものがキッチリ付加されている。
第一フィアッセは、50センチ四方で1キロ未満の物体しか「Teleport
Any Object」の対象に出来ないというほど基本性能が低いのだ。これでは、無茶どころかとんでもない事になってしまう筈だ。
「2」で知佳が体重の説明をする所はたった一カ所だったせいか、完全に忘れ去られていたのではないか?
またまずい事に、フィアッセは制御用のピアスすらしていない。
ひょっとしたら必要ないだけかもしれないが、ちょっと補足説明が欲しかったかな、と思う次第。
さらに言うと、結構マズイ所に誤植があったりする。
美沙斗の夫の妹・琴江だが、実はこの名前本当は間違っているかもしれない。
彼女は回想シーンで「琴江」と計3回呼ばれているが、この他に「琴絵」とも2回表記されているのだ。
一応回数の多かった方で書いたけれど、設定上「琴絵」の方が正しかったというなら、私はピエロ状態だ。
せっかくの重いシーンでこういう致命的なミスはして欲しくなかった…。
…問題点が多いとはいえ、シリーズ総合的にはひとつの完成形に達したと評しても良いだろうフィアッセ編…
とりあえずは、本作最高のお奨めシナリオだと断言しておきたい。