鳳蓮飛(フォウ・レンフェイ)/ 評価C

★家業である中華料理店の支店経営のため、海外に長期出張状態の両親と離れて日本で生活する鳳蓮飛(以降レンと統一)は、母の親友であるところの高町桃子の家に居候している。
 そしてそこでは、ライバル・晶との血で血を洗う(?!)バトルが連日のように繰り広げられていた!
 レンは格闘技や棒術の腕前があるにも関わらず、生まれ持った心臓病のために長い時間の運動には耐えられない。
 しかし、それを周囲に気にかけさせないよう、常に明るく振る舞っているのだった。


 晶のシナリオと腐れ縁の如く連なっている本編は、実は意外なほどに物語の起伏がない
 ストーリーの説明も、あまりにあっさりしすぎていてかえって困難なほどだ。
 それでも面白く感じるのは、やはりレンと晶のキャラクターの魅力に頼る部分が大きい。
 各シリーズにだいたい一本は混入されている“ベタベタラブラブ系”に属するシナリオなのだが、あまりしつこさは感じないのが救いになっている。
 そんな事もあり、このシナリオは細かい演出やポイントをピックアップした方が賢明だと判断した。

 レンと晶のシナリオで共通発生する「弁当バトル」は、本作全体の中でもかなり注目度の高いイベントだ。
 5日連続で二人が作ってきた弁当に、主人公達が採決を下すというもので、4回目と五回目の間にそれぞれ別イベントが入る事になる。
 ちなみに勝った方が、24時間負けた方を下僕とするという得点が付いてくる。
 当然好感度を稼ぐためには、狙った相手の方を指示しなければならないのだが、3回目は主人公の選んだ側が負けるようになっているため、一方的な展開にならず、それなりに納得できる流れになるのはさりげにポイントが高い。
 また勝負が佳境の時の二人のやりとりや、負けた側の描き方もほほえましく楽しい。
 特に本シナリオでの、晶の負けた後の仕草は必見。ちょっと晶が好きになった♪
 でもなんだかんだ言ってても、実際に勝った方はそんなに無茶な事を言うでなし、言われた側も最後まで嫌々という仕草じゃないところが良い感じ。
 晶が勝った時なんかは、レンの得意料理を夕食にリクエストするんだもんね。
 こういうささやかな部分に、二人の良さが見え隠れしているんだよね♪

 レン達のシナリオでは、前作までの登場人物が意外な形で出現する。
 一人は、なんと体育教師になっていたという「1」のメインヒロイン・鷹城唯子だろう。
 なにはともあれ、教師になれたというのはものすごい事だ。シリーズ最大の快挙かもしれない
 彼女が教師になるというのは、きっとパラケルススの自己再生実験(弟子が台無しにしてしまった)の成功以上の奇跡と努力が伴わねば叶わない事だろう
 不可能が可能になる確率は決してゼロではないという教訓を、僕たち良い子に証明してくれた、すばらしい演出である。
 
 そしてもう一人は、こちらよりもむしろフィアッセ編で紹介するべき“フィリス矢沢”だ。
 フィアッセ編で解る事だが、彼女は「2」のリスティ編ED辺りに登場した彼女のクローン体の一人であり、なんとこれが初CG化だったりする。
 どこか微笑ましいダンディな不良になってしまったリスティ坊やの妹という事で登場するフィリスは、彼女とはまるっきり反対の性質をもって登場しているのも面白い。
 リスティがこんな謙虚な性格で登場してくれていたなら…と思うと、思わず筆者の頬に一筋の涙が(嘘)
 なお、フィリスはその人気の高さゆえか「リリカルおもちゃ箱」ではしっかり攻略対象になっているそうな。
 やってくれるぜ、LCシリーズ!


 さて、そろそろレン自身の方も見てみよう。
 関西人の母の影響で、ビシバシときつい関西弁を連発するレンは、美人というよりも可愛らしく、可愛いというよりは元気な少女だ。
 ただ心臓病というネックがあるため、裏では体調の変化による不具合を必死で隠している場合もある。
 そういう二面性はレンのもう一つの側面としてきっちりと描かれているため、自然に感情移入できる。
 彼女を巡るエピソードには必ずナニかしらの形でこの病気が関わるが、これは主人公との出会いにも繋がっている。
 出会ったばかりの頃の、病弱で元気さなんかまったく感じられない“薄幸の少女”状態だったレンと、発作が出て緊急入院する事になり、寂しさから一人泣いていたレン…これらは、普段の姿からは想像だに出来ないだろう一面だ。
 そういう部分を丁寧に描き込んでいるため、彼女の元気はどういう理屈で生まれてくるのかが非常に理解しやすくなっている。
 主人公も、病院を抜け出して泣き崩れている彼女にあえて声を掛けないままでいるという、なかなか渋い態度で場面を彩っている。
 
 ただ、残念ながら主人公との思い出話そのものは、かなり本編から遊離しているようにも感じられてしまう事がある。
 これは全体を眺めてみても、レンと主人公が結ばれるに至る理由と経過に説得力と必然性がないように感じられるためだ
 これだけ丁寧に描かれているキャラなのも関わらず、なぜか恋愛事が絡むと色々な部分が薄まってしまうのが、レンシナリオの不思議なところだ。
 2回目以降でようやくロストバージンするというちょっとした変化球はあるものの、「だからナニ?」状態だし…
 
 冷静に全体を分析してみると、実はレンシナリオに主人公の存在はほとんど必要ないのだ。
 否、まったく役立っていないと言っても過言ではない。
 これが、一番まずいと思った所。
 「そんな事ないだろう?!」と思われる諸氏は、もう一度冷静に全体を思い出していただきたい。
 細かい部分ではそれなりの絡みがあるものの、本当に重要な場面ではほとんど彼の存在は意味を成していない。
 これがもし映画やOVAだったら、編集次第で主人公の存在を完全抹消させる事だって可能だろう。
 たとえば最後の大イベント、レンに心臓手術を受けさせるために決起するのも、主人公ではなく晶だった。
 これはこれで十分な結果と感動の場面に辿り着いているからあまり悪く言いたくはないのだけど、他のシナリオでも“対して活躍しないまま”といわれた主人公は、ここではホントにナニもしていない。 
 レンとの思い出話や心情解説担当に徹しているかのようだ。
 他のシナリオでは、たとえ主人公自身に大きな活躍がなくともヒロイン自身の問題解決のために尽力し、名裏方となっている場合がほとんどだった。時には共にゴールへたどり着こうと試みる姿勢もあった。
 対してレンシナリオでは、そのいずれも行わない。
 レンとともにあろうとする意志は一応あるらしいが、全然伝わらない。
 主人公は「おししょ」と呼ばれ、最初から時別な位置付けの存在としてレンに認識されていた。
 二人の関係が恋愛絡みではなかっただけで、スタート時から“間柄が約束された者同士”として始まっていた。
 どうもこの基本設定に、最初から最後までおんぶしていただけにしか思えない。
 これは晶にも同様の事が言えるし、同時に欠点でもあるのだが、彼女達は主人公の存在をこれまでのものと切り分けて再考し、その上で改めて恋愛対象として認識する、という行程を経ていないのだ。
 これは必ずやらなければならないものではもちろんないが、大なり小なり加えられている事で話が引き立つエッセンスである事は確かだ。また、主人公が絡んでくる必然性も説得力も、自然に発生する筈だ。
 だが本シナリオ、ひいては晶シナリオも、ここをなぜか大きく避けてしまっている…
 これらの諸問題は、ある意味本作全体の構成を再度考えさせられる代表的なシナリオだったとも解釈出来てしまう材料なのだ。

 レンのEDは、これまでの生活とさほど大きな変化がないままで終わるというものだ。
 両親の後を追って海外に行き、数年後に再会とか、そういったパターンではまったくない。
 つまり、プレイ終了後に深く残るものすらないという事になる。
 平均的な佳作として捨てがたいものがあるにはあるが、それゆえにひどく忘れられやすい性質を持ってもいる…このシナリオは、さしあたってそんなものなのだろう。
 ちょっと期待しすぎたかな、という部分もあるにはあるんだけどね。

 でも、唯子との絡みだけは忘れられないなー…やっぱり。
 よもや声優ネタを振るとは思わなかったし…♪
 (※唯子とレンは同一人物によって演じられている) 



 おさるの浅知恵など、うちの中国四千年の深慮遠謀の前には、塵芥?