城島晶/評価D

★両親が仕事の都合で家を空けがちだったため、晶は小さい頃から高町家に入り浸っていた。
 先天的な格闘センスを持つ晶は、その昔恭也に破れ、それ以来複雑な想いを彼に向けてきた。
 やがて空手の道に進み始める晶は、高町家に半分居候しているような形で家事を担当するに至り、恭也を“師匠”と呼んで親しんでいた。
 宿命のライバル・レンとの戦いを繰り広げながらも、元気な毎日を過ごす晶…
 しかし、彼女には真の目的「恭也を倒して御神流剣術を教えてもらう」というものがあったのだ!


 まず、先に書いておくべき事がある。
 私は、実は“格闘技少女”というニュアンスがかなり真剣にキライである
 あのTo Heartの松原葵ですらも、我慢の限界に達しそうになったくらいだ。
 これについては自分でも理由がはっきり解らないのだけど、かなり根の深いものらしい。
 しかし、だからと言ってそれだけでシナリオの評価を変える訳にはいかないし、そんなつもりも毛頭ない
 本シナリオもいきなり「D」なんて付けているけど、そう判断する理由がちゃんとあるという事だ。
 ただとにかく、筆者自身にそういう部分があるという事だけははっきり明記しておく必要があると思った次第。
 だからもし、この先の文面で「?」と思う部分があったら、それはそういう基準の元に記されたものだとご理解頂きたい。
 本人自身は、100%真面目に評論しているつもりなので、あしからづ…


 晶編は、皮肉にも鳳蓮飛(フォウ・レンフェイ…本文内ではレンと呼称)とペア構成になったシナリオで、途中まで同時攻略が可能である。
 しかし、共通部分の流用については他の組み合わせでは比較にならないくらい違和感がなく、異様にピッタリハマっている。
 とにかく晶編、そして後に紹介するレン編については“彼女たちのとてつもないキャラ立ち”が最大の魅力だと言っても過言ではない。
 しかも彼女達のシナリオだけでなく、他のシナリオでも存分に活躍してプレイヤーを楽しませてくれるので、あっという間に性質を把握出来る。これはホントおいしいポイントだね!
 それは同時に、それぞれが単体になると個性がやや弱まるという事にもつながるのだけど、そりゃあれだけやってれば多少は見劣りしちゃうわな! という訳で細かい事は気にしないでOKでしょう!
 こういうタイプなのに料理が得意という設定も面白く、特に“弁当バトル”は必見の価値ありの面白さだろう!
 (これについて詳しくはレン編にて…)

 さて、晶編は他のシナリオに比べて非常に地味な展開といえるのだけど、実はさりげなくよくまとまったエピソードだ。
 御神の剣術以外に非現実なところがほとんどなく、空手少女の精進一途な物語として、非常に好感が持てる。
 元々跳ねっ返りだった晶が、主人公との出会いによって少しずつ変わっていき、現在は精神的な成長をも目指して精進しているというのも非常にストレートで、それゆえに納得しやすい材料となっている。
 つまり晶は、ものすごくまっすぐな性質なのだ。
 それが様々な場面から適度に伝わってくる感覚が、本シナリオ最大のうまみなのだろう。
 レンとの(漫才以外の)絡みも秀逸だ。
 ラスト間際、主人公との対戦のためにレンを相手に修行を試みる展開はなかなかに盛り上げてくれる。
 その際、心臓に疾患があるため激しい運動に時間制限のあるレンをいたわっているのも見逃せない。
 普段どんなにぶつかりあっている相手でも、本音をぶつけてその返答をもらう時には、晶は決しておどけたりしない。
 そして、ぶつかる時とそうでない時をちゃんと選んでもいる。
 晶は本シナリオ以外でも、レンシナリオのラストで活躍の場面があるわけだが、この実直さがあるからこそそれらが際だつのだ。
 主人公に勝てば…という約束には闇討ちや不意打ちも含まれているというのに、自身はそれに徹する事ができないというのもなんとなく笑ってしまうが、納得しちゃう表現でもあるのだ。

 そんな晶だからこそ、ラストの主人公との戦いの過程はどうしても納得が出来ない。

 レンとの必死の修行の果て、必殺技で主人公の“壊れた右膝を狙う”という戦法で形勢逆転、勝利につなげてしまうというのがラストの流れなのだが、ちょっと待って欲しい。
 どうしてここで、晶は主人公の膝を狙うという戦術を選択したのか…よくよく考えるとものすごく不自然なのだ。
 決して、主人公が晶ごときになぜ負けたのか、という事ではないので念のため…。
 
 格闘技に限らない事だが、いわゆる「勝つためには手段を選ばない」という考え方があり、また「いかな理由があろうとも、弱点を敵に晒してしまう方が悪い」という考え方も世の中にはあり、型通りのスポーツ格闘技でない限りはこういう考え方もまたありかな、と私自身も思う。そしてまた、理解は出来るのだ。
 だが、この場合の晶の行動はそういう次元の話ではない
 レン編でのラスト、レン自身が戦闘不能状態になる程の一撃を棍に向かって放った晶だ。場合によっては主人公の膝を完全破壊させる事だって可能だろう。
 ラストの戦いは、見た限り“一時的に主人公の注意をそらす程度の打撃”というレベルではなかった。
 そして、明らかにここに重い痛撃を加える事を目的として練習していた。
 どうして彼女にそんな事ができたのだろう?
 レンの運動時間すらも気に掛け、深夜に主人公を不意打ちしようとしても、卑怯だからと一度起こしてから襲いかかるような性格の晶なのに、だ
 美由希編やフィアッセ編をプレイしていればわかる事だが、主人公が抱えている右膝の故障は、本人にとってとてつもなく大きな問題でもあり、場合によっては「とらハ3」という物語スタートのきっかけにもなりうるくらいの要素のものだ。
 彼にこれがあったため、御神流剣術の剣士として完成の域に達するという夢は永久に果たされなくなってしまった。
 それは、剣術一筋に生きてきた彼にとってどれほど辛いものだっただろうか。
 そしてこれがあったからこそ、主人公は美由希を自分以上の剣士に育てあげる決心を固めたのだ。
 また現在も治療のため病院へ通院しているのみならず、毎夜の練習の最中にも悲鳴を上げてしまう事もしばしばだ。
 一般生活レベルなら問題ない程度の故障だとしても、連続で8時間以上動き回るような人間にとっては、忌まわしい以外の何者でもないだろう事は明白だ。
 そして決定的にまずいのは、主人公のこの辛さと思いを、晶自身が熟知しているという事実だ
 それどころか故障した直後の事や、それを克服するために必死でリハビリする姿をもダイレクトに見つめているのだ。
 これではまるで、自身がこれまで相手に対して積み上げてきたもの自体を、みずから打ち崩す事にも繋がるのではないか。
 いままで長期間怪我人の世話をしていた介護人が、突発的なヒステリーによって傷口を殴打しまくるようなものだ。
 ましてやそれが、長い間共に生活してきた相手だとしたら、どの様に映る事だろうか?
 戦い・仕合い以前の問題で、彼女がやった事はこういう次元の事だ。
 師匠だ弟子だ格闘家と剣士の戦いだという以前に、家族であるという事実を忘れてはいけない。

 彼女はこの戦いにおいて、御神流を習う事ではなくこのまま空手の道を進む事を選択した。そしてそれは、たぶん間違った選択ではないだろう。
 だがしかし、そこに至るまでには一人の人間を通常生活すら困難にしかねない状況に追い込んでいるのだ。
 一つの個人的な悩みやトラウマを晴らすにしては、あまりに大きすぎる代償だ。
 主人公自身がたとえ納得していたとしても、高町家という一般生活枠の中で生きている以上、それだけでは済まないのだ。
 晶は二度と高町家とは交流できなくなる可能性すらありうるし、その常識観念を周囲から強く疑問視される事はまぬがれないだろう。
 もちろん、普通ならば…というのが付くが。
 本シナリオの場合、こんな非常識な流れをごく自然に組み込み、何一つそれに対する追求がないという実に不可思議なまとまり方をしている。
 エンディングで晶が言っている「自分にはずかしくないようにいること」というセリフも、まるでチープに感じられて説得力がない。
 ましてや本来H皆無でもクリアできる本シナリオは、選択によってはこの激闘の後に濃厚なHシーンが入る。
 これがもう、ホントに取って付けたかのようなもので違和感バリバリだ。せめて間に一晩くらい置け、という感じ

 「とらハ」シリーズは、主人公よりも各ヒロインの立身出世を描く事に重点が置かれた作品群であり、主人公はそのためのバックアップに徹する存在とも言える。
 これはプレイヤー各氏の“主人公に対する思い入れや期待・同一感”すらも大きく無視する場合も多く、一部で問題視されてもいる。
 時にはそのスタイルをつらぬかんとするために、かなり無茶な展開をしてしまったりもするが、今回はそれの最大級クラスと言えるだろう。
 ここまでさせるほどに晶を悩ませ、そして主人公をそれに付き合わせる必要があったのだろうか…?
 私にとっては、まるで主人公の屍の上で胸を張っているように思えてならない結末なのだ(死んではいないけど…)
 
 偏見と言われるかもしれないが、最後のこの場面のあまりの不自然さから、あえて本来達するだろうと思われた評価から2段階落とさせてもらった
 もちろん個人的には、評価Eだったノエルや忍よりもはるかに下回る評価なのは言うまでもない。

 こういうのも、果たして“格闘少女嫌い”から来る偏った批評といえるのだろうか…?!

 

俺が…料理で負けた……ラララ…ライララ…ルルル…