第53回 ■ バンダイ S.H.フィギュアーツ「イース」
2010年5月15日 更新
2009年、フィギュアーツは仮面ライダーシリーズ以外のラインナップを展開し始めましたが、「機動武闘伝Gガンダム」ドモン・カッシュ、「覚悟のススメ」強化外骨格零に続く非ライダー系統は、なんと大方の予想を根底から覆す「プリキュアシリーズ」でした。
プリキュア、というとどうしても女玩というイメージが強いですが、フィギュアーツはまごうかたなき大人の男性向け商品カテゴリです(対象年齢15歳以上)。
というか、フィギュアーツ以外のプリキュア可動フィギュアが全て大人の男性ターゲット商品だって認識なのに、バンダイから出たってだけでこちらは女玩扱いというのも変な話です。
figmaやリボルテック・フロイラインもグッコレも男玩ですしね。
なので、ここでは男玩であるという前提で、本商品「プリキュア」シリーズを扱います。
【SHフィギュアーツ プリキュアシリーズ】
プリキュアのフィギュアーツ化が初めて告知されたのは、2009年5月・静岡ホビーショーでの「キュアドリーム(Yes!プリキュア5
Go Go!)」からです。
同じ頃、「ドラゴンボール改」からピッコロがラインナップされるという告知もあり、ファンは相当驚かされました。
ピッコロは男性キャラですし、過去にもドモン・カッシュや強化外骨格零など、二次元作品のアーツ化があったのでまだ理解は及んだでしょうが、女玩の代表格というイメージの強い、しかも(告知から)つい数ヶ月前に終わったばかりの「Yes!プリキュア5
Go Go!」のキュアドリームが来たわけです。
この手前にも「仮面ライダー電王」のハナ19歳Verという女性型フィギュアーツが発表されてはいたものの、こちらは出展が特撮な上、デザインが既出商品「ガールズ・イン・ユニフォーム」の発展形ということもあり、テスト販売的なイメージで割とすんなり受け容れられた感もありました。
そのため、当時は賛否両論激しく飛び交いました。
しかも、試作品写真を見る限り異様な気合の入り方も感じられ、益々困惑させられます。
とりあえず、こういう商品展開も良いのではないか、と考えた人達は、その出来の良さ、尚も細かな修正が加えられていくという状況に、かなりの期待を込めていたようです。
フィギュアーツ・プリキュアの第一弾・キュアドリームの発売は11月14日。
これを皮切りに、「キュアレモネード」「キュアアクア」が12月19日に発売。
更に、魂ウェブ及び東映ヒーローネットで「キュアミント」「キュアルージュ」及びそのセットが受注限定生産品として発売され、2010年3月19〜20日には、メインキャラ5人が見事に揃いました。
「Yes!プリキュア5」ではなく続編の「〜Go Go!」なので、本当なら更にもう一人ミルキィローズが居て初めて完璧なのですが、それでも充分な快挙だといえます。
尚、ミルキィローズは「魂ウェブ」の受注限定品として発売されましたが、既に申し込み・配送は終了しています。
2009年10月に東京・秋葉原で開催された「魂ネイション2009Autumn」では、次作(2009年度作品)「フレッシュプリキュア!」の主人公・キュアピーチと、敵役にして後に仲間となるイースの試作品が展示され、しかもさほど間を置かずに後者の一般販売が確定しました。
それから少し間を空け、キュアピーチの一般発売が確定しました。
2010年2月東京・秋葉原で開催された「魂フィーチャーズ」では、4人目のキュアパッションを加えた「フレッシュプリキュア!」全4人の試作品と、シリーズ第一弾「ふたりはプリキュア!」のキュアブラック&キュアホワイトまで展示され、ファンを驚かせました。
プリキュアのアクションフィギュアというとCM'Sの「グッとくるコレクション」シリーズが有名ですが、お手頃価格&手の中サイズであるフィギュアーツでも展開していくというのは、大変興味深い点です。
本来であれば「キュアドリーム」から順番に辿っていくのが正道? なのですが、諸事情により「フレッシュプリキュア!」シリーズからレビューしていきたいと思います。
■ S.H.フィギュアーツ・イース
2010年3月20日発売。
同時販売物は、「強化外骨格霞(覚悟のススメ)」「仮面ライダーWヒートメタル」※。
全高約13.8センチ、全3種計5個の手首付き。
頭部(顔面のみ)二種類、ナキサケーベカード、ナキサケーベ触手付属。
台座などのオプションはなし。
価格は税込3,675円。
※2010年3月20日は、WEB通販品も含めると過去にないほど多数の商品が同時リリースされた日となった。
上記3種に加え、他にも「バトルホッパー」「アクロバッター」「強化外骨格零・最終局面Ver.」が同日配送された。
更にこの前日には「キュアミント&ルージュDXセット(及び各単品版)」が配送されていたため、3月の三連休は最大8体もの新商品を手にする事も可能だった。
「我が名はイース! ラビリンス総統メビウス様が下僕(しもべ)!!
ナケワメーケ、我に仕えよ!!」
「フレッシュプリキュア!」第1話から23話まで登場した、敵組織ラビリンスの初期構成三大幹部の一人。
ただし、回想及び別な存在が擬態した姿としては、最終回まで度々登場している。
異世界「管理国家ラビリンス」の総統メビウスに仕える幹部の一人にして、紅一点※1。
召喚するナケワメーケのダイヤマークは赤。
総統メビウスが全パラレルワールドを支配するのに必要な無限容量メモリ「インフィニティ」を手に入れるため、現代世界の人々を襲撃し「不幸(負の感情エネルギー)」を一定量蓄積する事を目的としている。
生活から寿命まですべてを管理されるラビリンスの住人であるためか、現代世界の人間とは異質な価値観を持っており、人間の情愛や信頼関係を一切理解せず(仲間に対しても気を許さないほど徹底している)、また幸福という概念を嫌悪している。
任務のため他人を不幸に陥れる事に一切の懸念を持たないが、それは自身に対しても同様で、場合によっては自分の命を犠牲にしてまで命令を遂行しようとする。
当初は他の幹部サウラーやウェスターよりも前面に出張るケースが多かった。
大変気が強く自信家で、真正面から堂々と攻撃を仕掛けるスタイルが多いが、変身能力を活かした心理作戦を仕掛けることもある。
イースは「東せつな」という、占いの館に勤める女占い師の姿を持っており、たまたま館に迷い込んだ桃園ラブを占った事でいずれ彼女と敵対する運命を察知。
その後、初陣を(ラブが変身した)キュアピーチに妨害された事から彼女をマークするようになり、変身アイテム「リンクルン」を奪取する事でプリキュアへの変身能力を失わせる作戦を決行するため、仲良しの友人を装うようになる。
しかし、せつなを本心から親友と信じ込むラブの態度に惑わされ、また極度の疲労状態に陥ってもプリキュア(とダンスレッスン)を止めようとしないラブを心配するような態度を無意識に取るようになり、それまでの信念が揺らぎ始める。
その後、メビウスから直々に「ナキサケーベカード」という、使用する度に命に関わりかねないほどの激痛を伴うアイテムを受け取り対プリキュア用最終兵器に用いるもことごとく失敗。
その際、敵である自分の事を心配するキュアピーチの態度に激昂し、東せつなと同一人物である事を自ら明かしてしまう。
ナキサケーベカードを使い切った時点でその存在価値を見限られたイースは、ラビリンス大幹部クラインより「寿命告知(その日限りで死ぬという事実上の死刑宣告)」を受け、ラブasキュアピーチとの一対一の死闘に臨む。
雨の中、ナキサケーベなしの素手による激闘を繰り広げ体力の限界まで闘うも、内心に秘めていた「ラブへの羨望感」に気付き、彼女と本当の和解に至った後、寿命を迎え死んでしまう。
だが、プリキュアの源である妖精アカルンによって奇跡の復活を遂げ、四人目のプリキュア「キュアパッション」へと転生を果たす。
※1:イース退場後、間を空けて女性大幹部ノーザが登場するため、正確には紅一点とは言い難い。
番組当初、よもやフィギュアーツになるなんて予想だに出来なかった「イース」。
まさに脅威の商品化です!
しかも、「フレッシュプリキュア!」勢の一発目というのが意外過ぎです。
まあ、本編を観ていた人達にとっては外すことの出来ない重要キャラなので、これは大変にありがたい事なのですが。
おおまかな仕様は「キュアドリーム」他と同じですが、微妙に改良が加えられています。
変更点としては、
- 首の長さが適正化
- 自立性の向上
などが挙げられます。
まず首について。
「Yes!プリキュア5 Go Go!」勢は、「首が妙に長い」「首の座りが悪い(カタカタする)」という難点を抱えていましたが、本商品はこれらがかなり改善されています。
もっとも、キュアドリーム他はABS製の襟パーツの干渉を避けるため、あえて首が長くされた可能性があるため、一概に難点とも言い難いのですが。
イースの髪型はショートカットのため、可動域に問題が生じることはありません。
また、以前は可動式だったため頭がグラつく原因になっていた「首のボールジョイント根元」が固定化されたため、座りの悪さも改善されています。
ただし、これにより首の可動幅が減少してしまったため、一概に改良点と断言しづらいのもまた事実です。
よって、この変更については人によって判断が分かれそうです。
顔の造形も、向上点の一つ。
初期試作品が公開された時点から、顔の出来の良さが述べられていましたが、特に目立った劣化もなく大変良い仕事になっています。
前髪パーツのカチューシャ部分は、塗りミスがかなり目立つポイントで、店頭で選ぶ際は真っ先に確認したい部分です。
後述しますが、イースは塗装クオリティがあまり高くなく、個体によってかなりのムラが見られますので、出来る限り通販ではなく店頭買いをしたいところです。
表情バリエーションは、ナキサケーベの触手によりダメージを受けている「苦痛顔」。
見立てによっては戦闘時のきつい顔としても利用出来そうです。
イースは、その印象に反して実は意外に表情豊かだったので、出来ればもっと沢山バリエーションが欲しかった気がしますが。
ただし、顔を交換するのはかなり難儀です。
プリキュア系頭部構造がそのまま踏襲されているため、本商品も前髪・顔・後ろ髪というパーツ構成なのですが、やりすぎなくらいガッチリと顔パーツがハマっているため、最初は生半可なパワー? では取り外せません。
具体的には、素手でやると大の大人でも指が痛くなるくらい。
両方ともPVCパーツなので実際はかなり融通が利き、そう簡単には壊れないのですが、それでも最初は破損を恐れてかなりてこずりがちになります。
完全な解決は削る以外ありませんが、出来るだけ傷付けたくないという人には、接合部にシリコンスプレーを吹くという手段もあります。
もっとも、これでもスポスポ手軽に抜き差し出来るようになるわけではなく、多少は交換が楽になるという程度なので、あくまで気休めに過ぎません。
尚、やる場合は後ろ髪・交換顔パーツ裏側の突起全てに吹く必要があります。
胴体部分について、細かく見ていきましょう。
まず両肩ですが、キュアドリーム他同様「ボール型関節にピンが設けられていて可動幅が著しく殺されている」状態です。
残念ながら、ここは改善されることはありませんでした。
これにより肩の上下前後のスイングが全く不可能になっているため、我慢ならないという人は背中の蓋を外して上半身を分解し、肩基部のボール関節から生えているピンを削る必要があります。
腕の構造は従来と同じですが、独自のポイントとして「赤い腕輪×4」があります。
それぞれ別パーツで、手首装着時に先に着けてやらなければなりません。
当然ながらすべて未固定なため、気を抜くと手首交換時にバラけてしまう危険があります。
4個付属しますが片方に2個ずつ使用のため、予備はありません。
幸い、手首自体はさほど力を入れずに簡単に交換出来ますから、「SHF仮面ライダーW」シリーズのように手こずる事はまずないでしょう。
赤い腕輪は細いものが手首側、太いものが肘側です。
情けないことに、このページは写真撮影後に気付いたため、ほとんどのものが間違って着けられています。
だって撮り直しが面倒だったんだもん!
尚、当方では未確認ですが、イースの手首周辺が割れやすくなっている個体がたまに混じっているようです。
念の為チェックしてみて、もし割れがあったらバンダイお客様相談センターに連絡してみましょう。
構造的に割れるほどの力がかかる場所ではないので、エラー品の可能性があります。
腰の可動は、胸と腹部の境界・腹部と腰部の境界の二箇所に存在し、いずれもスイング及び回転が可能。
ただし、思ったよりも腰が捻れません。
イースは上着の丈が長いため、干渉を防ぐ目的で脇腹辺りに独自の関節が設置されていますが、どうもこれが災いしているようです。
基部を覗くと構造がよくわかりますが、露出している肌は前・背面部だけで、上着丈の下には存在していません。
所謂「ガワ」なわけです。
上着の丈と両足は、ここまで左右に展開します。
しかし丈の方はロックがかからないので、この状態からジワジワと降りてきます。
両足の稼動展開は、構造上やむなしとはいえかなり残念です。
無理に広げようとすると、足の根元がバラけてしまいます(破損する前に外れる構造)。
ショートパンツ自体が曲がる構造になってるので、前方向は見た目の印象より動きます。
太股の回転ロール軸は、ショートパンツと太股の境界にあります。
手首は、握り拳と開き手、そして「ナキサケーベのカードが取り憑いた状態」の右手が付属します。
ご丁寧に、カードから伸びた触手まで付属。
けど劇中では、もっと死にそうな顔してたので、やはりもう一個は苦痛顔が欲しかったかな。
先の通り、イースってば意外と顔芸な人だし。
握り拳を使えば、変身時の「スイッチ・オーバー!」ポーズも取れます。
これは、手首の可動幅が広いプリキュア系ならではの動きです。
尚、あの「握り拳の腹同士をすり合わせる動作」にはバリエーションがあり、イースでも使用する意味があります。
- すり合わせ1回:「スイッチ・オーバー」せつなからイースに変身(元に戻る)、或いはその逆
- すり合わせ2回:ナケワメーケのダイヤ(コア)を出現させる
- すり合わせ3回:負のエネルギーのインジケータを空間表示する
まあ無理にすり合わせさせなくても、開き手を着けて両腕を広げれば、チェンジ直後が再現出来ていいんですけどね。
つーかこっちの方がかっこいいか。
O脚というわけではありませんが、両脚を閉じるのも苦手です。
どうしても脚を閉じさせたいとか、脚を組ませて座らせたい場合は、股関節の干渉部分を削る必要があります。
さて「Yes!プリキュア5 Go Go!」勢は、あまり自立性が高い方ではないフィギュアーツの中でも特に最悪で、魂STAGE等を使用しないと安心して飾ってもいられないほどでした。
仮面ライダー系と異なり、脚部にダイキャストを使っているわけではなく、また長い後ろ髪のせいで重心が上部後方寄りになってしまうためです。
また、足首が「SHFアナザーアギト」タイプのボールジョイントのため、全重を支え切るほどの保持力もなく、更には靴が厚底になっており、これらが合わさって本当に酷いものでした。
対してイースは、足首周辺こそ同様の構造ながら、比較にならないほど立たせやすくなりました。
恐らくブーツタイプの足ではないため、足首のボールジョイントの自由度が高まっている上、靴が厚底でなく設置させやすい形状になっているためではないかと考えられます。
とはいえ過信は禁物ですし、仮面ライダー系と比べるとやはり立たせづらくはあるので、出来ればスタンドを使いたいものです。
スタンドがなくても、こういう方式なら自立?! 可能。
ただし、上着の丈はPVC製なので長時間置いておくとヘタるかもしれません。
そういや、SRDX「水銀燈」もこれと同じ理屈で自立出来たっけなぁ。
お尻の下には、こっそりゲート跡が!
そんなに目立たない位置ではありますが、気になる人は削っちゃうのもいいかもです。
「フレッシュプリキュア!」勢が待ち切れない人、或いはフレプリを見ていない人は、脳内設定で顔出し敵幹部にして、ライダーを絡めても楽しいかもしれません。
或いは食玩と遠近法を用いて……
ってまあ、このレビューがアップされた翌々週にはピーチさん発売なんですけどね。
でも、画面見る限りだとライダーより圧倒的に強い筈なんだよなあ、イースって。
常に十数メートル級の敵と戦って、必殺技でもないキックでナケワメーケを軽々吹っ飛ばすようなプリキュア相手にひけを取らないどころか、素手で圧倒するくらいだもん。
恐るべしアニメ描写!
というわけで、手近にあったライダーを圧倒してみたり。
ナキサケーベのカードまで付属……するのはいいんですが、残念なことに「カードを持つ手」がありません。
また、カードも分厚い上に模様・塗り分け一切なしの青一色で、正直あまりありがたみが感じられません。
これならいっそない方が良かったかも?
或いは、SHFディケイドやディエンドみたいに紙印刷のカードにすれば良かったのに。
ナケワメーケのダイヤマークがあれば、適当な大型トイに貼り付けて遊べたでしょうに、実にもったいない。
と思ったので、イース用の「ナケワメーケ」赤ダイヤを自作してしまいました。
画面を見ながらIllustratorで描いたもので不正確ですが、一応フィギュアーツサイズです。
具体的な対比が不明瞭だったため、適当にサイズ違いも作ってみました。
こういう写真を撮る時、適当な変形玩具があると楽しいですね。
ナケワメーケだけじゃもったいないので、ついでに「ナキサケーベカード」も自作しました。
同じくイラレのトレスですが、思ったよりいびつなデザインである事に気付き大変手間取りました……
これもイマイチ正確な対比がわからなかったんで、だいたいのイメージで作っています。
ちゃんと目を開いたバージョンもあります。
先の「ナケワメーケ」とこの「ナキサケーベ」の印刷用画像データを、PDFで用意しました。
よろしければ是非ご活用ください。
切り取ってプラ板や厚紙に貼るもよし、同じ絵同士を貼り合わせるもよし。
切り取った断面部分をサインペンか何かで塗りつぶすと更にいいかも。
目の開閉は全部のパターンがあるので、使用済み版カードは適当にカットして作成しましょう。
「ナケワメーケ&ナキサケーベカード印刷用PDF」(容量:1.08MB)
ファイル展開には『Adobe Reader』のインストールが必要です。
お持ちでない方はこちらから。
パッケージデザインは、フィギュアーツらしからぬカラフルかつハデなもの。
バックカラーが赤というのも、実によくわかってる配色です。
薔薇模様も、ナキサケーベの触手=蔓と絡ませていると考えると納得?
【買ってみて一言】
フィギュアーツの魅力の一つに、普通こんなもん出さないだろと思われるものが平気でラインナップされる点がありますが、今回のイースはその最たるものではないかと思います。
「覚悟のススメ」関連ラインナップもそうですが、いくら途中で味方になるとはいえたった2クール未満しか登場しなかった敵幹部が、しかも一番手として登場なんて、希望こそすれ予測出来た人なんかほとんどいなかったのではないでしょうか。
とにかく、そういう「これが出るか」的意味合いからも、イースの一般発売は素晴らしい事だと思います。
更に、過去五体製作発売されたプリキュア系よりさらに改良が加わり、より扱いやすくなっている点も見逃せません。
造形も細かく丁寧に作られていて、造りに色々とムラの目立った「Yes!プリキュア5 Go Go!」勢よりも格段に品質は上がっています。
問題は、「フレッシュプリキュア!」を観ていた、またはどれくらい知っているかで、その印象が大きく変化してしまう点でしょうか。
とはいえ当時リアルタイムで、「女児向けアニメとは思えないような熱血展開」「女同士で繰り広げる“男の友情”」「日曜の朝っぱらから延々と拳で語り合う演出」に魅せられた人には、本商品はこれ以上ないほどのご馳走の“一部”だと思われます。
なんで一部なのかって?
そりゃあ、キュアピーチが揃ってこその完璧でしょうから。
というわけで、本商品は企画・完成度共に大変良い、そして今後の展開に大きな期待を抱ける好アイテムであったと、筆者は述べておきたいと思います。
以下に続く文の前振りとして。
このように、せっかく商品化に恵まれたイースではありますが、無視し難い大きな問題がある事にも触れておかなくてはなりません。
フィギュアーツ・プリキュア系は、第一弾のキュアドリームから「塗装の品質が悪い」と多々指摘されて来ましたが、今回は最悪と言っても過言ではないほどです。
色飛び、塗り忘れ、塗装ゴミ付着、はみ出し、塗りムラなど挙げればきりがないほどで、時にはアイプリントのずれや顔部分の余剰塗装など、無視出来ないレベルのものまで平気で売られています。
筆者は、本来店頭で塗りの選別などはあまりしたくない考えですが、これと「仮面ライダーWヒートメタル」だけはやらざるをえないほど酷いレベルでした。
しかも、せっかく選んだイースは脚部に大きな塗装漏れがあるというエラー品でした(本レビューでは交換後の物を使用しています)。
酷いものになると、鼻下から口にかけて赤い線が付いているという、まるで鼻血垂れにも見える個体までありました。
それまでのプリキュア系に見られた塗装面問題は、せいぜい「塗り分けの境界線がくっきりしていない」とか「一部にはみ出しがある」程度の物だったり、或いはパーツ配色そのものがややおかしいというどちらかというと平均的に見られる問題点でしたが、今回は個体による問題が多すぎる感じです。
あまりの酷さに、いったいどのような品質管理をしているのか疑問に思えて来ますが、造形は良いのにこれでは、せっかくの魅力を半減どころか殺しているようなものです。
もう一つ、これだけの問題を抱えながら、本商品はこれまでのフィギュアーツの中でも高額であるという納得し難い難点をも持ち合わせています。
発売当時、内容物や完成度に対してあまりにも割高だと批判されたキュアドリームよりも更に500円プラス、またプリキュア系よりも造りがしっかりしている仮面ライダー系と比較した場合、平均1,000円以上も高いのです。
事実、2010年3月20日前後に発売された単独商品としては、亜鉛合金パーツをふんだんに使用した上に大型化が図られた「強化外骨格霞」に次ぐ値段でしたが、その仕様はとても価格に見合うものとは言い切れず、その上塗装品質の劣悪さが目立ったことから、(造形的完成度はともかく)最悪のフィギュアーツと酷評する意見も目立ちました。
「魂フィーチャーズ」会場では、フィギュアーツ製品はユーザーが想定する以上にコスト問題が無視出来ず、些細な変更で大きな価格的負荷がかかるといった説明があり、一部の商品はその価格を抑えるために多大な苦労をしているとアナウンスされていました。
それらは確かに参考になるものではあるのですが、実際に価格に見合う商品であるかどうか、最終的な判断を下すのはあくまでユーザーです。
ユーザーが知りえない製作工程の都合で価格が上がるのは仕方ないとしても、それを購入した結果「値段の割に安っぽい」と思われてしまったら、その時点で問題のある商品と判断されるのは普通の成り行きでしょう。
まして今回は、塗装箇所の増加や塗料の多用によりコストがはね上がるという説明を、わざわざイベント上で行ったにも関わらず、そのほぼ直後に“しでかしてしまった”わけですから、説得力が大きく削がれてしまうのはやむをえないでしょう。
あえてきつい言い方をするなら、「塗装コストが云々等と言い訳する前に、やるべき事をきっちりやってくれ」となります。
これはイースに限った話ではなくフィギュアーツ全体に言えることではありますが、本商品は同シリーズで慢性化しつつある問題点を如実化させたという点で大変意味のある、そしてあまりありがたくない例となったわけです。
ここまでで述べてきた通り、本商品は造形物としての出来合いは及第点どころかかなり上等で、根源的な仕様の問題を別にすればかなりのグレードなのは間違いありません。
最も大きなマイナス要因は、あくまで「品質管理が不十分だった」という一点に絞られます。
逆に言えば、これさえなんとかなれば、価格面の難を含めても更に良い商品になりうるわけです。
ユーザーが気軽に購入出来て、かつ安心して開封して楽しめる商品にして欲しい。
それは、決して難しい注文ではなく、ごく普通にありうるものではないでしょうか。
本商品は、前評判はさほど高くなく「まぁ割といいんじゃない?」程度の感想がよく見受けられた程度でしたが、いざ発売してみたら各所で瞬く間に完売、難民が続出する事態となりました。
発売直後に完売騒動というと、2009年5月の「強化外骨格・零」と2010年1月の「仮面ライダーイクサ」が記憶に新しいですが、これらはいずれも前評判が高かったり、または待ち望んだファンが多かった背景もあり、大変納得出来る流れでもありました。
加えて、イクサの方は初回限定の「名護さん迷台詞台座」なんてものもありましたからね。
でも、イースが同じような事態に陥るとはさすがに予想外だったようで、てっきり余るものと考えて高をくくっていた人達は、とんだアテ外れとなったようです。
ですがこれ、大人気の末に瞬殺した、と断言するには、いささか難があったようです。
イースは初回出荷数が極端に少なく、このため充分に行き届かなかった可能性が高いのです。
筆者が発売日当日、開店一時間後程度の某大手量販店でざっと在庫を数えてみたところ、霞やヒートメタルがそれぞれ100個以上あったのに対し、イースはその十分の一未満しか置かれていませんでした。
しかも売れた結果そこまで数が減ったというわけではなく、はじめから少ししか置かれていなかったようです。
他のSHFは、十数個〜二十個以上詰まれた列が複数固まっており、新商品売り場の大部分を占めていたのですがイースはたったの一列だけで、しかも配置が全然違うため最初は入荷していないか既に完売したものと思ってしまいました。
言うまでもなく、これは筆者がたった一店舗だけで見てきた状況のため、全国でも同様だったとは言えませんが、各所で見かける入手難情報、また在庫数極小の報告などを聞くと、やはり出荷数が他より少なかったのだろうと判断せざるをえなくなってしまいます。
筆者はこの時以降、同店・他店問わず一度もイースが売られている現場を見た事がありません(このレビューを書いている2010年4月現在)。
プリキュア系は、以前キュアドリーム、レモネード、アクアがかなり売れ残り、叩き売り対象になったという経緯があった事から、各店舗が入荷数を抑えたのではないかという判断も可能ですが、こればかりはなんともいえません。
どちらにしろ、販売数の大小に関係なく「SHFイースに興味を持った人」は、それなりに大勢いたようです。