第43回 ■ バンダイ S.H.フィギュアーツ「強化外骨格・零」

2009年6月6日 更新

  「仮面ライダークウガ」に引き続き、フィギュアーツのレビューです。
 今回は、まさかのラインナップ…漫画「覚悟のススメ」の主人公・葉隠覚悟が着用する強化服「強化外骨格・零」です。
 仮面ライダーに拘らないシリーズだとはわかってはいましたが、さすがにこれには皆驚きました。
 というわけで、今回も徹底的にレビューしてみます。

■ S.H.フィギュアーツ 強化外骨格・零(ゼロ)

 2009年5月30日、「仮面ライダーBLACK」と同時発売。
 全高約15.4センチ、全4種の手首付き。
 初回販売分は、フィギュアーツ専用台座付き(後述)。
 過去の同シリーズとは比較にならないほど多くの合金パーツが使用されているため、価格は(非セット商品としては)現状シリーズ最高額で3,990円(税込)。

 2009年6月現在、ラインナップ中唯一の「原作が漫画のみで、劇場版やTV帯番組としての映像が存在しない」作品からの出典となっている。

 強化外骨格・零がどういう物か知らない人が結構居るようなので、まずは作品解説からいきます。

●作品解説「覚悟のススメ」

 1994〜1996年にかけて、週刊少年チャンピオンで連載されていた作品で、チャンピオンコミックス全11巻、ワイド版全5巻が刊行されているカルト人気漫画。
 作者は、現在「シグルイ」等で有名な山口貴由。
 独特の作風とセリフ回し、またシリアスとギャグの絶妙かつ他に類を見ないセンスで一躍有名となり、連載終了12年以上経った現在に於いて尚語り草にされている。
 
 20世紀に起きた大規模な環境汚染と、三年に渡り続いた大地殻変動による災害のため、死の大地と化した近未来。
 その中で生き残り、細々と生活している人類は、ある日突然現れた謎の巨大怪人によって無差別に殺され始めた。
 そして、被害者の中には「逆十字学園」の生徒も含まれていた。
 同じ頃、逆十字学園に転校生がやって来る。
 彼の名は葉隠覚悟と云い、大人しく物静かな眼鏡の少年だが、時折超人的な身体能力を垣間見せ皆を驚かせた。

 集団下校時、覚悟のクラスメイト達が巨大怪人に襲われる。
 絶体絶命のピンチに陥った彼等を、突如姿を現し強化服をまとった男が救う。
 圧倒的な戦力で怪人を捻じ伏せる強化服の男だったが、怪人は更に身体を変貌させ対抗・凶暴化。
 強化服の男は、特殊な格闘技「零式防衛術」を駆使してこれを屠り去った。
 ヘルメットを取った強化服の男の正体は、転校生の葉隠覚悟だった。
 彼が身にまとうのは、強化外骨格・零と呼ばれる、第二次世界大戦当時に旧日本軍が作り出した特殊兵器。
 だが、彼が倒した怪人「戦術鬼」も、同じく旧日本軍が作り出した人体改造型戦略兵器だった。

 逆十字学園に降臨した正義の戦士・葉隠覚悟は、意思を持つ強化服「零」と力を合わせ、生徒達を、戦う手段を持たぬ人間達を守るために数多くの戦術鬼と闘っていくことになる。
 しかし戦術鬼を派遣していたのは、地球のために全人類を滅殺させようと企む「現人鬼(あらひとおに)散」と名乗る超人だった。
 その圧倒的カリスマと常軌を逸した戦闘能力で、巨大な“人間を辞めた者達による”組織を作り上げた彼は、覚悟の存在を認め逆十字学園への攻撃を本格的に開始した。

 「現人鬼・散」も覚悟と同じ零式防衛術を使いこなし、更には強化外骨格・霞をも携えている。
 何故なら、彼は覚悟と袂を分かった、本当の兄だったからだ。
 ここに、人類の存亡を賭けた兄弟同士の悲しい戦いが始まった――

 文明が半崩壊した近未来という、「北斗の拳」タイプの世紀末的雰囲気世界観の中、異形かつ巨大・強大な敵と真っ向から正々堂々と戦う「ヒーロー」を描いた作品として、「覚悟のススメ」は高く評価されています。
 昨今のヒーロー物は、(本作連載当時も含めて)勧善懲悪の明確化が避けられる傾向が目立ち、ヒーロー側にも若干の悪要素、或いは「悪ガキ風味」が加えられるようになりましたが、本作の主人公・葉隠覚悟はそういったものが一切なく、生真面目かつ自制心に富み、人々を守るためならどんな自己犠牲をもいとわず、また敵であろうとも優れた信念や能力があれば高く評価し、敬意を以って挑むという、極端なほどに実直な少年ヒーローとして描かれています。
 別な言い方をすれば、時代逆行的な正統派主人公と云えるでしょう。
 作者自身、「子供の憧れの対象となるヒーローが悪い言葉を使ったりするのはどうか」という信念を持っているとの事で、覚悟は過剰に思えるほど生真面目で実直に描かれています。
 かといって熱さもしっかり併せ持っているので、熱血ヒーローとしての資質も充分あり、第一印象はともかく読み込めば読み込むほど好感度がブーストアップしていくという、大変面白い性質を発揮しています。
 旧日本軍の開発した(架空の)戦略兵器を、今や廃れて久しい軍人・武人気質を以って使いこなし闘うという、「時代遅れ的要素を武器にした」作風のため、覚悟の気質や描写がかえって新鮮に感じられるという、独特な作風になっています。
 また、覚悟やその兄の散、そして散の側近達がすべて時代錯誤の台詞回しをする上、時折頭を抱えるようなセンスの迷セリフも混じるため、単行本を読んでいるといつのまにか口調が感染るような錯覚に見舞われてしまいます。

 本作は、「仮面ライダー」をはじめとする石森作品にも通じる“同族対決”“敵と同じ力で戦う”というお馴染みのテイストを盛り込みながら、(旧日本軍製でありながら)妙に近代的な性能を持つメカニックや科学技術の存在も加わり、更には某北斗神拳にも通じる「グロくてバイオレンスな破壊力炸裂」な超格闘技? が合わさり、そういった設定が大好きな人の感覚をダイレクトに刺激してくれます。
 詳しくは後述しますが、意思を持つ装備というものは過去いくつもの作品で登場するものの、その誕生経緯と、主人公がそれを使用出来るようになる過程をここまで綿密に描いた作品は、そうはありません。
 ただし本作は、絵柄が少々独特なのと、冒頭からラストまでかなりエグいグロ描写があるため(内臓デロンはもう当たり前レベル)、読み手を選ぶ要素もかなりあります。
 でも、今回レビューするフィギュアーツ・強化外骨格・零に興味を覚えた人には、是非とも読み込んで欲しい傑作だと筆者は感じています。

 ちなみに、本作は96年にOVA化しており、初期の数話が映像化していますが、その際の絶妙なキャスティング(当時の代表的な声優陣が戦術鬼を好演したり)や劇中の要素をふんだんに盛り込んだ作風はそれなりに好評で、やや要約しすぎな感はあるものの、原作ファンからも比較的良い評価を得ています。

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●強化外骨格・零

 強化外骨格・零は、第二次世界大戦時に覚悟の曽祖父・四郎率いる「葉隠瞬殺無音部隊」によって開発された超戦闘装備の一つで、単独総重量90キロ。
 内地戦を前提に作られたもので、これを装備すれば一国をも落とせるほどの威力を発揮するとされている。
 展性チタンと云う超硬度と異常な膨張・弾力性を併せ持つ特殊合金で作られ、全身に最新鋭の(大戦当時のみならず、本作の時代の感覚で見ても!)科学装備を秘めている。
 装甲内部は生物の臓腑を思わせる不気味な細胞で覆われており、装着者は全裸になってこれに包まれる必要がある。
 装着者はあらゆる大気毒・熱・冷気から守られるだけでなく、戦車級の防御力をも備え、右腰の生命維持装置により過酷な環境でも40日間の生存が可能。
 更には超人的な怪力も発揮可能となり、人間では持ち上げられないような巨大な瓦礫でも容易に運んでしまえる。
 元々は、同じく四郎が開発した特殊格闘術「零式防衛術」を極限状態下でも使用出来るようにと作られたもので、基本的に手持ち武器などは存在しないが、手の平や指先にある射出口より「火炎放射」「非致死性麻酔液」「超脱水鱗粉」「濃硫酸」「超凍結冷却液(機体により使用タイプが異なる)」「昇華弾(高エネルギー弾)」などを発射可能(他の強化外骨格は更に「弾丸」や「(斬撃用の)爪」を出すことも出来る)。
 また、前腕部または全身を高熱化させる「赤熱化」、(名前はないが)刃のような切れ味を生み出す斬撃等も使用可能で、更には後頭部、背中、肩、靴底(爆芯靴)などから推進剤を噴射して空中や地上を超高速で移動・飛翔することも可能。
 左腰に付いた星型の機械は化学薬品調合装置で、ここで装着者用の解毒剤や攻撃用科学薬品を作り出せる。
 最大の兵器は、左前腕部にチューブ型コネクタを接続して手の平から噴霧する目に見えない毒ガス兵器「戦術神風」で、これを用いることで一度に数百或いはそれ以上の戦術鬼を瞬時に全滅させることが出来、劇中でもその効果を実際に披露した。
 ただし、あまりにも殺傷力が高過ぎるため使用する状況が限定されてしまうというデメリットもある。
 ここに加え、零(というより覚悟)は更に「瞬脱装甲弾」という緊急回避技を使用したこともある。
 これは強化外骨格を瞬時に解除し、高速で弾き飛ばし相手にダメージを与えるというものである。

 尚、強化外骨格は他にも「(かすみ)」「(ひょう)」「(てい)」が存在する。
 実際には更に「(しん)」という物も存在するが、これは散が作った“不退転戦鬼ボルト専用機”である。
 また連載終了後に掲載された番外編では、更に多くの機体も登場する。
 上記で述べた能力のほとんどは、これらもだいたい使用出来ると考えられる(事実、霆が非致死性麻酔液や昇華、戦術神風を使用または使おうとした)。

 強化外骨格は様々な特殊機能を備えてはいるが、これを統合管理・制御するCPUに相当する機器は搭載されておらず、代わりに数多くの「戦争捕虜」が肉体ごと組み込まれており、その魂が機体の運用を行なうバイオコンピューター的な役割を果たしている。
 逆に言うと、生贄がなければ強化外骨格は機能を発揮出来ない、ただの重い鎧でしかない。
 
 これは、葉隠四郎の狂気の産物ともいえるもので、例えば零だけで3,000人もの外人兵士捕虜が犠牲にされている。
 彼らの魂は零の中に留まり続け、強化外骨格を身に着けるに相応しい人物を見定め、もしそうでない者が着装(強化外骨格を装備する意)しようとすると、その身体をバラバラに引き裂いて殺してしまう。
 彼等は劇中では「三千の英霊」と呼ばれ、無数の頭蓋骨の集合体というイメージビジョンを持つ。
 長い間深い悲しみに囚われていたが、純真な心と他者を思いやる優しさを併せ持つ覚悟と出会い、彼の「(英霊達と)同じ血涙を流そう」という言葉と態度に感銘し、受け容れた。
 その後は覚悟の優秀な戦闘パートナー兼戦術アドバイザーとして存在し、零の機能を活用して覚悟の身体状況のチェックや治療、活動可能時間の算出や戦況分析、はたまた索敵レーダーや敵体内のスキャニング、(生死問わず)人間の脳からの記憶トレースまでこなし、時には覚悟を守るために独自判断で強化外骨格を稼動させることもある。
 加えて、戦闘シミュレーションを行い的確な作戦を練り覚悟にアドバイスしたりもする。
 覚悟と心を一つにしているため、その目的は人類を脅威から守るために戦う事にある。
 三千の英霊は一度不退転戦鬼・血髑郎 (ちどくろ)の手により成仏させられたが、天国での安息を受け容れず「天国で割腹」して現世に戻り、再び覚悟と戦い続けることを選ぶほどの武人ぶりを見せた。
 左胸部分にある球状のパーツ部分に英霊達が存在しているらしく、ここが弱点(といっても物理攻撃でどうにかなるものではなさそう)。

 強化外骨格・零は、普段は覚悟の持つ大型のカバンの中に収納されており、着装時は覚悟が蓋部分に片腕を突き込むと同時に展開・分散し、彼の身体を瞬時に包み込む。
 90キロの装甲を収めたカバンも当然かなりの重さになるが、覚悟は平然とこれを片手で持ち下げている。
 カバンに収納された状態でも覚悟との会話が可能で、本作ヒロインの堀江罪子とも会話したことがある。

 ずらっと書きましたが、とにかく劇中では「強化服にして一人のキャラクター」「覚悟の相棒としての意思を持つ」「とにかくすげー」とだけご記憶いただければいいかと。

 このまま延々と語り続けるのもまずいので、そろそろ本商品のレビューいきます。

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 強化外骨格・零、基本形態。
 着装完了後の状態で、頭部形状が異なっています。

 零、前面と背面。
 背面写真は、正義マフラーを取り外しています。
 背中などの各所に見える銀色の丸い凹部分が、推進剤噴射口。
 「加速削減走」で宮村優子をすり潰した際に、特に活用されました。

 足が綺麗に揃っていませんが、これは角度調整の問題ではありません。
 単にO脚なだけ。
 あまり気にはならないですが、実は零はO脚気味だったりします。

 全身斜め。
 非常に個性的なデザインだということが、よくわかります。
 黒い部分はボンテージ風?の素材で、ガンメタルパーツ部分が金属(展性チタン)だと思われます。
 当たり前ですが、実際のパーツ構成の話ではなく、劇中の設定のことですが。

 上体アップ。
 昔の軍人が使用していたようなゴーグルと、人間の鼻筋を合わせたようなデザインが面白い顔です。
 こうして見ると、頭部や四肢には明確な装甲パーツが見られるのに、胴体部には目立った装甲がないようです。
 また、この手のデザインではたいがい全部金属パーツにされがちな肩アーマーが、布製っぽい質感のものになっているのも斬新です。
 というか、劇中ではこれ肩アーマーではないんですが(後述)。

 初めて聞いた人はだいたい驚く名前「正義マフラー」。
 一旦零の首を外し、輪っか状の末端部を首に通して再接続するタイプです。
 たなびく二本のマフラー基部は可動式になっていて、それぞれ別に上下可動出来ます。
 可動基部は真後ろではなく、右斜め後ろに来るようになっています。

 構造上、横方向に開いたり劇中のようにVの字型に展開させることは出来ません。
 また必ず右後方に結び目(可動基部)が来るため、ポージングによっては不自然な流れになってしまうこともあります。 
 材質はPVCなので、くれぐれも癒着には注意したいものです。

 容赦なく長いです、マフラー。

 「誰にも人間をモノ呼ばわりする権利はない!
 ちょっと無理だったか!

 通常時のフェイスは、前面部が別パーツ構成になっていて、これを取り外し交換することで「覚悟完了」バージョンを表現出来ます。

 マスク前面部を取り外した状態。
 ゴーグル部分はクリアレッドですが、その下も更に赤く塗られています。
 いきなり悪人顔になってるし。
 ちなみに、ここに覚悟の目を書き込んだり、コミックス等からスキャンした絵を貼り付けるといい感じになるそうですが、筆者はめんどいのでやってません。

 マスクパーツ交換。

 「当方に――」

 頭部斜め後方のジョイントにツノを接続。

 「迎撃の用意あり!!」

 「覚悟完了!!」

 「その腐った認識、すべて貴様に返す!」
 所謂戦闘モード。
 劇中では、顔前面部にフードが降り、両頬から突起状のパーツが露出、後頭部からツノが生えてこの形状になります。
 ツノの追加と鼻筋が消えただけですが、えらく印象が変わります。

 ちなみにコミックス第一巻の裏表紙では、ツノが生えてるのに鼻筋もあるという、中途半端な状態の零の絵があります。

 「昇華!!」
 手の平から射出される高エネルギー弾。
 比較的多用された必殺兵器です。

 対・散最終決戦で見せた零式防衛術「破邪の構え」
 横から見ると微妙に左腕の位置が変わっているのはご愛嬌。
※撮影ミスではなく、本編で本当にそうなっています

 最終決着秘技にして、散ですら知らなかった一撃必「生」の技・是無(ぜむ)の構え
 本当は脱装甲状態でやるのが正しいけどまあそれはそれで。

 コミックス見ながら調整してみましたが、横からみたらこんな感じ。

 最初の敵・戦術鬼「破夢子」を撃破した技・零式因果直蹴撃
 因果とは、覚悟が得意とする超カウンター技です。
 支えに使っているスタンドについては、後述。

 ポージングの決まり具合に関しては、ほとんど文句なしの逸品となっています。
 次に、各可動部について詳しく見て行きます。

 まず肩ですが、「仮面ライダークウガ)」の時同様、横に大きく開き切れない構造になっています。
 これは、(写真ではね上げている)肩アーマーの基軸のせい。
 クウガ以上にポージングの制約になってしまっています。

 実はこれ、デザインをアレンジしたために発生した弊害です。
 強化外骨格・零の肩部分は、所謂跳ね上げ式装甲ではなく、上腕と一体型です。
 ですから、写真のように個別に可動したりはしません。
 ただし、劇中同様肩アーマーが肩ブロックから上腕までを全て覆い尽くしていると上腕のロール軸が設けられなくなる上、肩関節の基部がおかしな構造になりかねないため、やむなくこのようなアレンジをしたのではないかと考えられます。
 ですから、これを単純に難点として指摘して良いものかは、悩むところです。
 
 もっとも、あとほんのちょっと肩基部の切れ込みが深ければ、解決出来たんですけどね。

 血涙島決戦直前、散の降臨を待っていた際の「正座」も再現可能。
 本当に正座しているわけではなく、若干尻が浮いてますし太股裏とふくらはぎも当然接触してませんが、雰囲気は充分ですしこれ以上求めるのは酷でしょう。

 脚部可動幅についてよく問題指摘されるフィギュアーツとしては、この可動はかなり脅威です。
 他のシリーズと大きく異なる構造を、見てみましょう。

 これが、通常時の脚部付け根。
 腰部の化学兵器調合装置の位置に注目して、以下の写真をご覧ください。

 零の太股基部にあるジャバラ状の部分は、上辺と下辺それぞれに回転軸があります。
 写真は、上辺(胴体寄り)の関節を回し、足を前に出した状態です。
 この時点で、下辺(足側)の関節はまだ動かしていません。

 上辺可動軸を一つ前の画像の状態にしたままで、今度は下辺の関節だけを動かしてみました。
 一見、太股が最初の画像の位置に戻ったように見えますが、腰部の化学兵器調合装置が後ろに回りこんでいるのがわかると思います。

 両足基部を同様に曲げた状態で立たせてみると、直立姿勢なのにこんなに脚が開いてしまいます。
 これは、海洋堂のリボルテックシリーズや山口式可動等で見られた「斜めカットロール軸」を応用した可動でして、強化外骨格の股関節部分の形状を利用した実に巧い処理です。
 これのおかげで正座が可能になるわけです。

 ちなみにこの時、本来なら腰部横にある筈の化学兵器調合装置と生命維持装置は、こんな位置までずれています。
 これが、関節各部を限界まで回した状態です。
 まさに尻アーマー!

 こういった股関節構造のため、一見、脚をまっすぐ真横方向に広げることは出来なさそうですが……実は、クウガと同じくらいとはいかないまでも、予想外に開けてしまいます!
 これは、太股の付け根の軸が単なる回転ロールではなく、スイング可能な構造になっているためです。
 ただし、ここまで足を広げると腰部パーツの接続維持はかなり厳しくなってしまいますから、注意が必要。

 上段横蹴りなどのポーズを作りたい時は、この癖のある股関節を巧く調整してやれば、結構それっぽく出来ます。
 しかし、足の上がる高さはこれが限界っぽいです。

 もうちょっとローアングルで撮ればよかったなぁ。

 股関節の自由度と可動幅はこんな感じなので、片膝立ちも難なくクリアです。
 ちょっと傾いてしまいましたが、この辺りは調整可能かと。

 次に、パーツ構成について。

 本商品は、前腕部・太股前面部・膝部・脛部前面部の装甲と足首が金属パーツ。
 マスクとツノ、腰部の化学兵器調合装置と生命維持装置はプラパーツで、いずれも取り外し可能。
 手首はPVC製です。
 金属パーツの接合方式は、装着変身オルタナティブや同・宇宙刑事シリーズの構成とほぼ同じです。

 そのため、金属パーツは装着変身同様、しょっちゅうポロポロ落ちます。
 また、後述する理由により腰部パーツもよく落ちてしまいます。
 更に、これは個体差かもしれませんが、マスクパーツもかなり緩いハマリ具合のようです。
 写真に出ているのが、よく外れる部位。
 装着変身の欠点を改善したフィギュアーツの筈なのに、質感を追求した結果同じ欠点を踏襲してしまったのは皮肉としか云いようがありません。
 気になる人は、金属パーツ部分を接着してしまうか、または粘着テープなどで接合強化を計った方がいいかもしれません。

 ただし、交換式のマスクは当然として、腰部パーツは絶対接着しないように。

 先の「股関節構造の解説」で触れた通り、本商品はとても変わった脚部可動方式です。
 そのため、動かしていると写真のように腰部パーツが太股に押し上げられてしまい、抜け落ちやすくなるという欠点があります。
 腰部パーツの凸ジョイント軸はかなり長めに作られてはいるのですが、それでも頻繁に落下します。
 かといって、これを完全に接着してしまうと今度は脚部可動時に脚が上げられなくなってしまいます。
 腰部パーツは、軸を中心に前後回転させたり、または先の可動で後方に逃がして干渉を防ぐなどして、工夫しながら取り扱うしか手がありません。
 また、後述する「戦術神風」のために左側は交換する必要があるので、そういう意味でも接着すると大変まずいです。

 手首は、握り拳・指を自然に開いた感じの平手・抜き手・指を大きく開いた手(パー手)の4種付属で、それぞれ左右あります。
 他のフィギュアーツ同様、引っこ抜いて差し込んで交換。
 結構奥の方までしっかりはめ込む必要がありまして、そうしないと手首が浮いてボールジョイントが丸見えになってしまいます。

 非常に残念ながら、「非致死性麻酔液」「火炎放射」時に用いる指差し手首はナシ。
 劇中でも良く取っていたポーズなのに、何故入ってないのかちょっと理解不能。
 このため、「その言葉、宣戦布告と判断する!」の時のポーズで飾れません。

 左腰の化学兵器調合装置パーツを交換して、チューブを左腕のジョイントに接続。
 チューブ部分は若干の弾力性があるため、さほど腕の可動に制約を与えません。
 ただし、腰部との接続部を回転させたりして、調整する必要性がある場合も。

 「ここはすでに死に絶えた大地! 心置きなく左手を使える!」

 劇中再現の場合は、フェイスパーツを通常時に変更。

 指先より出ずる目に見えぬ気体は、いかなる生命であろうと瞬殺無音――化学兵器・戦術神風!!
 劇中、たった一度だけ用いた零の切り札です。

 右手に流用出来ない理由は、劇中設定準拠だからです。
 左でないとダメなのです。

 今回のもう一つの目玉が、この「専用スタンド」です。
 地獄兄弟以来の企画で、全4種がランダムで封入されています。
 専用といっても、フィギュアーツや同じサイズの他フィギュアにも当然利用可能です。

 今回の専用スタンドには、「覚悟完了」という代表的な決め台詞に加え、覚悟の劇中のセリフが印刷されています。
 筆者が買った物に付いてきたのは、これ。
 個人的に、最も好きなセリフなので、実にありがたい物があります。

 この他には
 「雑草などという草はない!」
 「その言葉、宣戦布告と判断する。当方に迎撃の用意あり!」
 「負けることは恥ではない!戦わぬことが恥なのだ!」

 があります。

 どれも実に良いものですが、「刃物には慣れておりますれば」や「口に入れる物を調理いたす場所に尻や足を乗せるとは何事か! 猛省せよ」「ロックは聴きません」「これからは普通のカバンとして人の役に立って欲しい――敬礼」なんてのも見たいような見たくないような。

 肝心の保持力ですが、残念ながら軸を伸ばすと保持力が著しく低下し、スタンドとしての役割を果たしません。
 これは、零自体がかなり重い上に軸関節の保持力が弱く、更にジョイント各部が抜けやすいためです。
 一応、台座にもっとも近い部分はクリックが入っているので、ここだけはかなり保持力高めなのですが、そこから上はスカスカというかユルユル。
 飛び蹴りなどの浮いた状態で飾りたい場合は、軸をすべて垂直にした上でバランスを調整し、姿勢や角度にかなりの妥協を加える必要があります。
 少なくとも、ジャンプ横蹴り(所謂ライダーキック型)の姿勢での保持は完全に不可能。
 個人的には、「ないよりはマシだけど、でも…」といったところです。

 勿論ですが、普通に立たせて飾る場合は全然問題なしです。

 同時発売のフィギュアーツ「仮面ライダーBLACK」との対比。
 デザインの都合か材質の関係か、とても同じシリーズとは思えないほどの体格差があります。
 まあ、もっとも太ましいのと細ましいのの比較なんだから、当然といえば当然ですが。

 戦時中の航空部隊のコスチュームとゴーグル、特攻隊の意匠、そこにボディビルダーをイメージさせる男性の筋肉を混ぜ合わせた異形のデザインにも関わらず、ヘタなヒーロー物よりもヒーローっぽいデザインになってしまっている、強化外骨格・零。
 レトロな雰囲気と前時代的なミリタリーっぽさが融合し、本当に優れたデザインなんだなと改めて実感させられます。
 また、装着者・覚悟の誠実で実直なイメージも加わり、まごうかたなき「正義の味方」となっています。
 こんな時代、疑いなく堂々とそう呼べるヒーローなんて、皆無に等しいですからね。
 古さの中に新しさを秘め、しかも12年以上という時代を超越した魅力を持つ「零」。
 そんな素晴らしいキャラのフルアクションフィギュアが手に入る時代になったんですから、本当に幸福というものです。

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【買ってみて一言】

 本連載当時から「覚悟のススメ」を熱心に読んでいた筆者としては、長い間待っていた甲斐のあったベストアイテムと断言出来ます。
 全く不満がないと言えば嘘にはなりますが、これこそ「出てくれただけで奇跡」「難点を補って余りある魅力」と云える物です。
 強化外骨格は、これ以前にもいくつかのアクションフィギュアや立体物が発売されていましたが、合金パーツを含んだ手ごろな大きさのフルアクションフィギュアというのは前例がなく、そういう見地からも大変価値のある逸品だったといえるでしょう。

 本商品は、見方を変えれば「フィギュアーツが、装着変身から進化する過程で捨てたもの」を再度取り込んだようにも思えます。
 装着変身が持っていた魅力・超合金の質感・重量感と、フィギュアーツの魅力・リアルプロポーションと造形、可動範囲が見事に融合したわけで、いわば両方のファンから注目されて然りのアイテムになりうるかもしれません。
 仮に、本商品が装着変身の仕様で出ていたとしたら、胸部装甲の着脱ギミックの搭載などでもっともっさりした形状になってしまったでしょうし、かといって従来のフィギュアーツの仕様まんまで出たら、軽すぎて質感に乏しい不満度の高いアイテムに落ち着いていたかもわかりません。
 確かに、フィギュアーツなのに金属パーツ落下が著しいという無視し難い難点は生じてしまいましたが、それでも、これだけふんだんに合金パーツを使用してくれたこと、それによりいかにも「神武の超鋼」といったイメージが再現されたことは評価しないわけには行きません。
 残念ながら、「フィギュアーツが絶対やらない」マスクを外した覚悟の素顔パーツなどはありませんでしたが、それでも充分満足出来る内容ではないでしょうか。

 こうなってくると、霞などの他の強化外骨格の発売も期待したくなってしまうのが人情ですが、現実的に考えたらさすがに難しそうな気配です。
 せいぜい、霞が出たら御の字といったところでしょうか。
 フィギュアーツの「先のラインナップが予測し難い」という特徴に期待し、気長にアナウンスを待っていた方がいいのかもしれませんね。

 本商品は、フィギュアーツ初の「発売直後に完売連発・難民続出」という現象を引き起こしたことにも、触れておきましょう。

 発売日5月30日は土曜日でしたが、翌日31日朝には店頭で全く見かけなくなったという地域があり、週明けの6月1日以降は、出遅れた人達の多くがネット上で嘆いていました。
 これは、直販・通販すべてひっくるめた話で、多くの人の予想を覆す展開でした。
 これほどの瞬殺現象、何年か前の完成品美少女フィギュア以来のような気がします。
 確かに、零を欲しがる原作ファンは多かったでしょうが、なにせ12年前に連載終了した週刊誌掲載の漫画で、OVAもたった2本だけ、しかもそれ自体十年以上前に発売されただけでTVアニメ化もなかったという、“知る人ぞ知る作品”に分類される漫画のキャラクターです。
 誰もが、「どうせ売れ残るorいつでも気軽に買える」と高を括っていたようでした。
 かくいう筆者もその一人です。

 ところが、今回はデザインが気に入った等の理由から「原作を知らない人」も購入するという展開があった上、同時発売のBLACKよりも入荷数を絞る店舗が多かった(らしい)という事情も加わり、一気に品薄状態になったようです。
 いつもより価格が4ケタ単位で高かったにも関わらず、です。
 あくまで噂ですが、初期出荷数はBLACKの何分の一程度だったとか。
 作品が作品なので、本当だとしても充分納得出来そうですが…、良い意味で怖い流れです。
 どちらにしろ、フィギュアーツシリーズとしても特異かつ豪華な仕様だったわけで、そういう意味でも本商品を欲しがった人が出てきても不思議ではなかったのでしょう。

 これを書いている6月5日現在(発売後6日目)では、まだ再出荷の告知・報告は特に なく、中には作品がマイナーなため再販もないのではないかと恐れる人もおられる様子です。
 また、amazonではマーケットプライスの価格が7,800円まで跳ね上がり、ヤフオクでも5,000円台の入札が見受けられます。
 本当に、凄い結果になってしまいました。
 これが、フィギュアーツにとって良い弾みになってくれる事を期待せずにはいられません。

 現状発表されているラインナップは、再び仮面ライダー関連が中心となっており、今回のように目を剥くようなものは見受けられませんが、零の異常なまでの好評ぶりが、更なるナニかの呼び水となることを、祈らずにはいられない筆者です。

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