とらいあんぐるハート2 〜さざなみ女子寮〜

画像提供:あおきゆいな氏(稚鳥庵)
 後藤夕貴、地獄のとらハ修行第二弾!
 12人もの攻略対象に翻弄され、締め切りを一回遅らせての登場!
 さーて今回も徹底的にイクぞー!! 皆様、対長文防御をお願いいたします(←十六夜風に)


1.メーカー名:JANIS/有限会社アイボリー
2.ジャンル:訪問型マルチED恋愛ADV
3.ストーリー完成度:今回は厳しく見てもCはイケるでしょ。
4.H度:D
5.オススメ度:ほのぼの平和系ゲームが好きな人にはA。物語に緻密さと厳格さを求める人にはD以下。
6.攻略難易度:D…しかし不可解なシステム多し(後述)
7.その他:前作からの進歩には目を見張るものがある。しかしまだ…

(ストーリー)
 主人公・槙原耕介は、長崎の実家が経営するレストランを手伝っている青年。191センチの長身と、料理の腕前が売りだ。 
 ある日、叔母の神奈が2週間の旅行に出るという事で、耕介はその間の代打を頼まれる。
 神奈の仕事は、事実上“寮”であるアパートの管理人…つまり、耕介の従姉である槙原愛をオーナーとする女子学生寮“さざなみ寮”で、代行管理人のバイトをするという事なのだ。
 早速やって来たさざなみ寮で手厚い歓迎を受ける耕介だったが、女子寮内に男性が入る事を良しとしない者達の反発も同時に受けてしまい、前途多難な生活を義務づけられてしまう。
 まずは、全員の信用を受けてマスターキーを受け取る事。
 それぞれの住人が個別に持ったマスターキーを取得しなければ、耕介は…


 前作「とらいあんぐるハート」で散々な目に遭った私は、その後しばらくのリハビリ(笑)を経て、ようやくこのタイトルに挑めるようになった。
 それだけ前作のプレイが辛かったのだが、今回はそんな事は全然なく、非常に快適な気分でプレイする事ができた。
 しかし、とかく12人というものすごい数の攻略対象と、複雑不可解なシステムの理解に努めるために思わぬ時間を取ってしまい、最終的に1ヶ月半…プレイ時間を総計しただけで約2週間弱という、とんでもない事態に発展してしまった。
 それでも、このゲームに悪印象を抱けないというのはどうしてなのだろうか?
 やっぱり、さりげなく良い部分も多かったという事だろう。 
 さて、前回おちゃらけすぎたので今回はちょっと引き締めて、真面目に書いてみたいと思う。

 まずはシステム。
 本作は、前作で問題だった個所を極力修正し、なおかつ「とらハ」独自の味を残そうと努力した跡が見える。
 また、本作を単純な選択肢セレクトゲームにしない様、各章ごとに別々のスタイルを組みこんで変化を付けようとしている。
 基本的に、寮内マップ画面の各所に散らばっているヒロインの中から攻略対象を特定して、なるべくこぼさず拾っていけばほとんど問題なくエンディングに辿りつけるというシステムなのだが、とかく攻略対象12人の上にゲーム期間はほぼ1年を超える(最低でも半年、最大は約2年)ため、いちいちはじめからやり直していたのではラチがあかない。
 それについては、製作者も充分理解していたらしい。
 本作は全三章構成になっており、主人公のはじめの2週間(第一章)・正式管理人に就職(第二章)・翌年以降(第三章)で物語に区切りが付けられている。
 ヒロインはすべて最初から12人いるわけではなく、第二章から登場する者、第三章から登場する者がおり、一度誰かをクリアしていれば次回からはいきなり第二章からスタートさせる事も出来るようになっている
 これは本当にありがたいシステムで、今回これがなかったらクリアはいつになるか全く見込みが付かないかもしれない。
 クリアの都合上、第一章を経過する必要があるヒロインは5人もいたりする。
 それなのに第一章内での進行は誰のシナリオでもほとんど変わらないため、第一章の小さなイベントをすっ飛ばしてでも、第二章以降のイベントを見たいという人も出てくるだろう。
 このシステムはその辺もちゃんと考慮しており、第二章スタート初日に初めて会いに行ったヒロインは、第一章で最も好感度が高かったキャラクターとして認識され、ゲームが進むようになっている。
 すなわちその気になれば、一人を除いた全員を、第二章スタートからでクリア出来る事になるのだ。
 また、第一部から登場しているにも関わらず第二章からのプレイで充分イベントを満たして攻略できるヒロインもいたりして(十六夜など)、極力プレイヤーに負担がかからないように考えられている。
 これは、手放しで誉めて良い部分だと思われる。
 その作品の欠点(この場合は長過ぎる事)を充分自覚し、それに対する対応策を用意するなんて、考えつく事はあっても実行は難しいものだ。
 それをあっさりと、しかも嫌味にならないように組みこんだ姿勢には、高い評価を与えたい気持ちにさせられた。
 当然、すべてのイベントを見なくてはならない私は、ほとんど使用できなかったシステムなのだが…(ToT)

 しかし、肝心のテキスト面では問題が沢山ある。
 まず選択肢。
 本作には選択肢までのメッセージスキップがあるのだが、普通に進めていると、突然勝手に選択肢が選ばれてしまう事がある。
 これは、選択肢が出現するとカーソルがその先頭まで強制移動してしまうという、どーでもいいシステムが招く弊害だ。
 すでに読み終えたところだけど、メッセージスキップを使うほどではないという部分もあるだろう。
 そういう場面でのこのシステムは、大変困る。
 後にこれを停止させる修正ファイルが配布されたが、私のマシンではなぜか動作せず…
 一応解決されている問題ではあるが、知っていると知らないとではかなりの差が生じる事に間違いはない。

 また、以前見たのと同じイベントの直後に、新たなイベントがつなげられる場面があったりするが、そこに選択肢が含まれていた場合などは、さらにこのトラップに陥りやすくなってしまう。
 どれくらいやっかいかというと、このおかげで私のプレイ中のリロード回数が数百回単位になり、プレイ時間が1.5倍(推定)に膨れ上がった
 ひょっとしたらサービス的な意味合いだったのかもしれないが、はっきり言って邪魔以外の何者でもない。
 これのお陰で、常にカーソルがメッセージウインドウ内にある事を意識しながら進めなければならなかった。
 
 さらには「メッセージの読み返し」機能がないというのも災いしている。
 本作は先の通り、攻略の条件によってイベントを付け足したり切り離したりして話を変化させるのだが、大概において共通イベントの後にヒロイン個別のイベントを挿入する形になっている。
 そのため、すでに知っているイベント…と割り切ってメッセージスキップを始めると、突然見た事のないイベントシーンに突入してしまい、慌ててスキップを止める…なんて事が多々ある。
 この場合、イベントを再確認する手段はリロードしかない。
 これらの問題点は、システムを快適に利用させようと組み込んだものがすべて裏返しになってしまった例だろう。
 こんな事が四六時中つきまとうため、怖くてメッセージスキップなんか使えない。
 それでは、あまりに本末転倒ではなかろうか?

 誤字脱字や、画面と合っていない文章表現も相当なものがある。
 あまりゲーム中の誤字脱字を気にしない私ですら気にかかるくらいだから、相当のものなのだろう。
 愛のHシーンで、臙脂色のスカートをはいている画面で「青いスカートをめくり…」と書かれるなんていうのはよくあるパターン。

 これらについて、次作「3」で改善されているといいのだけど、いかんせん現時点では未プレイのため、何とも言えず…(ここんところ、ご存知の方は笑ってやってください。メッセージスキップは改善されたようですな♪)

 これは人によって印象が変わるかもしれないのだが、システムの中には(問題点といえるかどうか不明だが)不可解なものもいくつか存在している。
 代表例が、第二章にのみ存在する「管理人労働システム」なる謎のもの
 特定の時間になると、ランダムで各ヒロインが主人公に仕事を依頼するが、これを一週間無事にこなせればヒロインの好感度向上に繋がるというものだ。
 
 はっきり言って、邪魔!!

 一週間の労働といっても、第二章ではすでに日数スキップがスタートしているためすぐに過ぎてしまうし、特別プレイヤーが何かをする訳ではない。いつのまにか仕事をこなした・こなさないの判別をされ、勝手なコメントを付けられるのだ。
 私はこのシステムの研究に丸一日(通算24時間の意)以上を費やしたが、ついに理解できなかった。
 何をどうすれば仕事はこなせた事になるのか、またどうすれば失敗なのか?
 仕事を依頼したヒロインと会っていても失敗するし、こちらが何もしていなくても(イベントの関係ですぐに日数が飛んでも)無事にこなした事にされる場合がある。
 かと思うと、つい今しがた依頼を成し遂げた仕事をもう一度依頼されてしまったりもする。
 もう、明らかにランダムに設定されているとしか思えない。
 こんなものによって好感度が左右されるというのも納得出来ないが、幸い一人に集中攻略していれば影響はほぼ皆無だし、イベントに影響する事もない。
 …という事は、このシステムには存在の意味がないのでは? とも思い始める。
 単に日数スキップに、一週間間隔で強制ブレーキをかけているだけにしか思えないのだ。
 なんだったんだろうか…一体。

 
 次に、全体的なストーリー構成や演出面。
 ヒロイン個別シナリオについては後に別々に表記するが、全体的に見てみると、やはり「とらハ」らしいポイントが目立つ。
 これは良い点も悪い点もという意味。
 まず、早々に独自の世界観を構築してしまうため、他のゲームなら非現実・非常識で終わらせられる問題点が、本作の中ではそうはならない。
 一番の例が薫や十六夜、知佳・リスティ・美緒の存在そのものなのだが、恐らくプレイ中これらにずっと違和感を覚え続ける者はいないだろう。
 とんでもない設定を用意するまではいいが、それをちゃんと作品内で溶かし切り、その世界観の中での常識まで昇華させるのは容易な事ではない。
 その辺、本作は楽々とクリアしているためかなりポイントが高い。
 美緒の猫耳や尾、十六夜の素性などはその好例だ。
 
 また、一般的なヒロインにしても、ちゃんと描くべきポイントを絞って描いているため、比較的感情移入がしやすい。
 前作の唯子のような無軌道ぶりは今回ほとんど見当たらない。
 その結果、ゆうひやみなみといった名キャラクターを生み出すに至っている。
 この辺の詳細は、別ページの各ヒロイン批評を参照していただきたいが、とにかくめまぐるしい進歩をしているという事だ。
 完成度の向上は、誰もが認める所だろう。 

 残念なのは、必要最低限の常識観念すらも大きく逸脱する演出を、何の疑問も抱かずに行っている事だろうか。
 例えば薫がしょっちゅう行っている“寮内での真剣振り回し”や、第一章のゲームルールである“マスターキー取得”等だ。
 特にこのマスターキーを巡る問題は重要で、「とらハ2」がどんなに独自の世界観を持っていたとしても、ある程度常識を踏まえている以上無視できない筈のポイントだ。
 ゲーム中では、女子寮内に男性である主人公が(管理人とはいえ)入りこむのを良しとしない者達の意見を尊重し、知佳があるアイデアを提示する。
 それは、主人公の事をそれぞれが認めた時にそれぞれの部屋のマスターキーを手渡していく、というものだ。
 第一章の段階で登場している5人全員のカギを貰えなければ、第二章に進む事なくゲームオーバーになってしまう
 これが、プレイ当初かなりの頭痛のタネになってしまっていた。

 まず、代理とはいえ神奈や愛は、それなりに正当な手続きをした上で主人公を迎え入れている筈なのだ。
 その上で業務に付いている主人公が、管理人権限を悪用でもしない限り…すなわち、管理人としての業務常識範囲内であるならば、契約上の項目に従って店子達に権利を主張する事が出来る
 この場合の権利とは、管理する物件のマスターキー確保だ。これを施行しない管理人なんかまずおるまい。
 さざなみ寮は、寮という形式を取っているが事実上はアパートに過ぎない
 つまり、どこかの学校の寮なら事実上の管理体制に学校側が口を挟む事もありうるが、オーナーは住人の一人だ。
 食事を出すという事と、名称が「寮」というだけなのだ。
 てっとり早くまとめてしまうと、薫や真雪・美緒がマスターキーを渡す事を拒否した段階で、主人公は管理人権限を行使して彼女達を寮から叩き出す事も可能なのだ。もちろんこれは、オーナーが許容すれば良いという生易しい問題ではない。 
 真雪の場合はまた特殊な事情が出てくるかもしれないし、恐らく美緒はまともな契約で住んでいるとは思えないからどうなるかはわからないが、間違いなく薫は拒否権を与えられない。
 マスターキーを渡さないという事は、管理物件に事故や火事などが発生した場合、管理側にこれのサポートを一切させないという事だ。
 これはひどい時には、物件そのものや建物のイメージをも損壊させかねない危険をはらんでいる。
 極端な例だが、部屋を締め切ってその中で死んでいた場合はどうか?
 何週間も死体が放置され、管理人が強行で開けたらものすごい惨状になっており、その噂が広まってしまったため以後物件を賃貸しようとする人間が出なくなったという実話も存在する。
 こういうケースは稀なのはわかるが、管理人やオーナー側に損失を与える可能性がつきまとうのだ。
 主人公は不慣れなため、そんな事を言うなんてこれっぽっちも考えなかっただろうが、現実はそんなものだ。
 完全に常識観を別構築した世界でない限りは、こういう現実に従わなければリアリティも出まい。
 突き放された状況からスタートするという雰囲気作りには成功しているが、もう少しなんとかならなかったものか。  

 
では、そろそろ各ヒロイン別シナリオ批評いってみようか!
 何せ12人という大人数の上に語る部分も多いため、今回は個別にページを設けさせてもらった。
 気になるヒロインのページを読んで、こちらに戻ってきておくんなさい。
 (順番は、筆者の攻略順)
○神咲薫 ○十六夜
○仁村知佳 ○リスティー・シンクレア・クロフォード
○陣内美緒  ○藤田望
○井上ななか ○千堂瞳
○岡本みなみ ○仁村真雪
○椎名ゆうひ ○槙原愛

 なお、ここでの評価基準はあくまで「とらいあんぐるハート2」というゲームの中だけでの完成度の比較であり、他のさらに完成された作品と比較した場合は、やはりそれなりに見劣りしてしまうのは否めない。
 このゲームの世界観・常識観をいかに早く取り入れ、なじめるかが、作品評価を左右する要因になると考えている。
 それを留意した上で参照していただけると光栄だったりする。

 
 (総評)
 とにかく、予想以上に進化した続編という感想が残る。
 まだまだ荒削りだが、すでに発売されている「3」も、その後のラインナップも期待をかけたい。
 「1」の時点では、一部で「どうして人気が出たのだろう」と悩む部分もあったが、本作の全体像をあらためて見つめ直してみると、充分納得するに至れる。
 これから「3」に突入する訳だが、はたしてどういう展開が待っているものか、楽しみである。

 「恋愛」というものをメインベースに沿えた作品は、思えばすさまじい数に達してしまった。
 あまり沢山ゲームをこなしているとは思えない私でも、結構な数をプレイしていることに気付かされる。
 もしもこの「恋愛」というテーマのゲームを製作するのであれば、今後はさらに奇抜な舞台・環境設定を考案し、世界観と融合させる努力をしなくてはならない。
 本作は、「寮」という閉鎖的な空間を舞台に据えながら、予想外の広がりを作り出した点で評価したい。
 主人公が自ら前面に出て物語の流れを変えるタイプではない本シリーズは、ヒロインの行動やその目的によってストーリーが進むというスタイルになっているが、ほとんどのヒロインが、さざなみ寮を中心として外の世界にメインの活動場所を持っている。
 つまり、さざなみ寮の中だけで物語が完結するケースはほとんどないという事なのだ。
 普通に考えれば、これは当然の事だ。
 しかし、本作では主人公が動かないのだ。主人公が常に、外から帰って来るヒロインを迎える位置付けに立つものだから、おのずと描写が特殊になっていく。
 性格にクセがあったらこんなにうまく話を広げられないし、活発すぎても説得力がない。
 たまに超法規的な行動を取ってしまう主人公ではあるが、それくらいの無茶が許されるような環境を自ら構築しているのだ。
 それは“信用”とも言い替える事が出来るが、それがすごく自然に作られている事が、本作最大の売りなのかもしれない。
 ヒロインの魅力だけでなく、そこに主人公が加わる事によってさらに膨らんでいく楽しさ・面白さ…意外とこういうスタンスの作品はなかったのではあるまいか?
 相変わらず隙の少ない主人公で、益々感情移入する事が出来た。
 これは、乱立するジャンルの中での立派な個性と言い切れるだろう。
 単純に舞台を特殊に設定しただけでは、こうはいかないのである。
 
 ただし、相変わらず常識観念を逸脱した無理矢理すぎる展開や脈絡のない演出の繋がり、さらにはあまりにムラのありすぎるシナリオ等、まだまだ見直すポイントが多いのも確かだ。
 プレイヤーおいてけぼりの「視点移動」や、説明をカットした“省略になっていない省略”など、「1」から変わらず継承してしまった欠点も鼻につく。
 この辺の欠点を欠点と見認め、修正していけるか否かが、今後の私の注目点となると思う。
 突然物語の流れを分断する視点移動については、どうも「良好な手段」として確信犯的に組み込まれているような気配があるからねー。

 音楽・背景・画面の演出やキャラの描き込み等、進化した要素はかなり多い。
 修正ファイルによるサポートが必須というのは相変わらずだが、ゲームとしてはより高みに昇ったと言えるだろう。
 これで、もう1コーラス続けて唄わされたらヴォーカルは間違いなく酸欠になるだろうOP曲「風にまけないハートの形」みたいな悲劇がなくなれば、言う事ないかもしれない。


(後藤夕貴)



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