十六夜/評価A

☆神咲家初代から、約400年間に渡って伝えられてきた霊剣・十六夜。
 代々の所有者達が彼女の力を借り、現在に至っている。
 彼女は剣そのものに憑いている精神体であり、半物質化する事で物に触れる事も出来、人と自由に会話する事も可能だ。
 ひょんな事から彼女の存在を認知した耕介は、以来彼女も住人の一人として扱い、仲良き関係を築いていく。
 しかし、彼女の姿は金髪に碧眼。さらには盲目である。どう考えても日本人的ではない。
 もはや昔の記憶も定かではない彼女…一体どういう経過で現在のような姿になったのだろうか?
 そんな時、寮の近所の神社に別の霊剣がやって来た。
 その中にも、十六夜同様意思を持った精神体が憑依していたのだが…


 第一章から登場するのに、第二章からのプレイで攻略出来るヒロイン。
 本作の中で、美緒に並ぶ人外の存在であり、本来なら、人間である耕介と結ばれる事自体に大きな無理がある。
 そのためどういう展開になるものかと期待してみたら…予想外の展開に驚かされた。
 ほとんど文句のつけようのない重厚なシナリオに仕上がっていた。
 その存在理由から、初登場の時と第二章登場キャラ達の前に初めて姿を現す場面と、2回の大きな見せ場がある。
 ついついフラリと出歩いてしまう彼女のクセと、彼女の事情をどうやって打ち明けようかと思案するキャラクター達のやりとりも、見ていて微笑ましいものがある。

 主人公は、十六夜が存在的にも肉体的(?)にも問題があるという事を充分に理解しており、その上で様々な気配りを施し、その結果として感情移入していく行程が非常に自然だ。
 現在の彼女の存在を重視し、過去や記憶に干渉すまいと自粛する主人公の態度には感嘆させられる。
 クラシックコンサートのイベントなどは、薫のアイデアもさる事ながら主人公や協力者・ゆうひの気持ちが汲み取れてとても良い雰囲気に仕上がっている。
 
 このシナリオにも当然薫や御架月が絡んでくる事になるが、薫編では主人公が御架月を持って薫と戦うのに大して、こちらではそれが逆転、操られる薫に主人公が立ち向かうスタイルになるのが面白い。
 かなりの悪行を成してきただろう御架月(シルヴィ)が、和解後あっさりと薫に従ってしまったり、主人公が神咲流の技を習得していく過程が充分に描かれていないため、唐突な感が否めなかったりと問題はあるものの、本作の中では充分評価に値するものと思う。

 初代・神咲灯真によって、死にかけていた所を霊剣に封じ込められたイザベラは、共に国から逃げてきた弟の存在も忘れてしまうほどに長い時を生きてきた。
 主人公をどんなに愛しても、また愛されたとしても、いずれ必ず主人公の死による悲しい別れはやってくる。
 そして十六夜がさらなる長い時をさ迷い続ける事により、いずれはその思い出すらも忘れ去られてしまう可能性もあるのだ。
 それを承知しながらも、あえて共に居る事を選んだ二人の姿は悲しくも美しい。
 代々伝承されてきた霊剣を、主人公が手にする事に違和感を覚える方もいるかもわからないが(事実、薫編のオチでの理屈とは、いささか食い違いが生じている)、それを許容できる説得力はなかっただろうか?
 主人公が、想い人でもある十六夜を手にする事は、必ずしも幸福に繋がる事ではない。
 霊剣となった事で、本来なら出会う筈もなかった存在同士が出会えた事の幸福と取るか、逆に霊剣であるが故に共にありえない悲劇と取るかで、このシナリオの印象は大きく変化していく。
 十六夜にとって、ほんの瞬間に過ぎないかもしれないわずかな時間に託された愛…この描写が、私の評価を一気に高めてしまった。
 いずれにしても悲劇色がやや強いシナリオであるため、ハッピーエンド派の方には向かない恐れもあるのだが、一番余韻を残す素晴らしいシナリオだったと言い切ってみたい。 
 ただ、十六夜にはもう一つのエンディングが存在する。こちらは、人によって印象が大きく変えてしまう事だろう。
 主人公の一撃により、御架月を破壊…すなわち、シルヴィを殺してしまう展開から派生するものだ。
 薫の大学進学と共に、十六夜もさざなみ寮を離れていく事になるというごく自然な結末だが、いきなりあの戦いから1年を経過させてしまい、いきなり寮退出…といわれてもあまりに余韻がなさすぎて、興ざめしてしまいかねない。
 シルヴィの死が二人に与えた精神的な影響が大きかったというのはよくわかるが、どう考えても二人の関係は終わっているでしょ。
 だから、あんなにあっさりした別れでも互いに納得しているのかもしれないが、その辺をもう少しはっきりさせて、さらにもう一サジ味付けが欲しかったといった所か。
 二人が惹かれ合う所まではあんなに濃密だったんだから、ここでもちゃんと尻拭いしないと。
 ただし、シルヴィの最後の力によって十六夜の目が見えるようになったというのは、唯一輝いている点かな。
 結果的には、こちらの方が彼女にとって一番良い形になったのかもしれない、なんてちょっと思ってみたりもした。 
 主人公と共に生き、いずれ別れという悲しみを体験するか、繋がりを絶ち、見えるようになった目で今まで通りの永遠を生きるか…どちらが幸せなのだろうか?
 普通に考えると、後者の方がメリット高いんだよね。あくまで理屈の上では、だけど…

 キャラクターとして見ても、十六夜はかなりの高水準だ。
 他シナリオでの活躍も多く、かつおいしい場面も確保している。
 実際、愛編やななか編の様に彼女がいてくれたお陰で好転するという場面も多数存在している。
 ゆうひ編で雪だるまを作っている彼女の姿は、是非とも専用CGを作って欲しかったくらいにラブリーだ。
 人物像としても完成されているためか、あまり目立った欠点が生じていない。
 ここまでのとらハシリーズの流れの中でも、かなり突出した存在ではなかろうか?

 ただ、野外Hのみというのは…綺麗で良いには良いのだけど…。
 また、初めて見た瞬間私の脳裏に「真・瑠璃色の雪〜振り向けば隣に」というタイトルが浮かんで消えたのは気のせいだっただろうか…??
 イザベラ時代、物の怪に襲われて腹部を破られたといいながらも、表示されているCGでは身体は無傷というのにも困った(別にグロいCGを出せという訳ではないんだけど)。

 …細かい事かな、こんな事?

まあ、光栄です…