仮面ライダー響鬼のお仕事 第6回
路線変更…それって、最初から無謀な企画?
鷹羽飛鳥
更新日:2005年8月28日
 自動車もロクに運転できなかったヒビキですが、とうとう専用バイクが登場し、仮面ライダーらしい装備になりました。
 凱火は、1800CCクラスの大型バイクということで、シリーズ最大の排気量だそうです。
 特に改造等はしていないそうですが、バイク好きには垂涎のマシンだとか。
 でも、2話ではエンストしまくって「ペーパーですか?」とか言われてた人が、実は大型二輪の免許まで持っていたってのは、意外というより不思議の世界です。
 正直、14話『並び立つ鬼』で、竜巻(威吹鬼のバイク)を運転していたときも、“4輪でさえエンストするのに、どうして2輪でちゃんとギアチェンジできるんだろう?”と疑問を感じたものです。
 ギア付きのバイクを運転した経験のある身としては、バイクのギアチェンジの方が車よりずっと難しいと思うんですけど。
 なんでも、一時期は響鬼はバイクに乗れないので自転車に乗るという、昭和ライダーファンが脳溢血起こして倒れそうな噂が流れ、実際に自転車メーカーの広告も出ていたのですが、ブーイングの嵐に路線変更したのか、自転車は未だ本編に登場せず、いきなり大型バイク乗りになってしまいました。
 もっとも、ずっとペーパーで、最近再び乗れるようになったのだとすると、去年カッパ退治に出掛けたときはどうやって移動したのかという問題があります。
 香須実はカッパの唾液のことを知らなかったわけですから、ほかの誰かが運転する車に乗って行ったのか、それとも去年もバイクに乗っていたのか…。
 毎年気合いを入れ直さないと響鬼紅になれなくなってしまうヒビキのことですから、もしかしたら、冬を越すとバイクの乗り方とかも全部忘れてしまうのかもしれません。

 どうやら、元々ヒビキにはメカ音痴という設定があるようで、そういった面を強調した結果が、携帯電話を持っていない、乗り物の運転ができないなどの描写に繋がっているようです。
 実際問題として、ケータイメールはほとんど使えないようですが、よく考えてみれば、電話としては使えるわけだし、他人のケータイを使っている場面はよくあるんですから、これってほとんど意味がない演出に感じます。
 時として、自分で基本料&通話料払いたくないだけのケチなおっさんに見えたりもするので、早いとこ自分のケータイを持ってもらいたいものです。
 この前、某量販店に行ったら電車男使用モデルというウリ文句が付いている機種もあったくらいですから、ヒビキ御用達モデルでタイアップできるかもしれませんよ。


 また、響鬼紅に続き、パワーアップバージョン:装甲響鬼(アームドヒビキ)が登場するそうですが、なんでももう音撃鼓は使わなくなるとか。
 しかも、「アームド」です。
 和風の漢字名前はどこに行ったんでしょうか。

 とはいえ、これは仕方のないことなのかもしれません。
 必殺武器を太鼓にするのは、やはり無理があったと言わざるを得ません。
 太鼓を使うヒーローという企画そのものは、高寺プロデューサーの発案らしいですが、そういう企画が通ったのも、ナムコの『太鼓の達人』のようなアーケードゲームがヒットしているのだからウケると思われたからでしょう。
 『太鼓の達人』がヒットした理由について、あまり難易度が高くないのがゲーム初心者のツボだったという分析を読んだことがありますが、それは子供向けの玩具にも当てはまりやすい構図ですし。
 実際、新潟のトイザらスに置いてあるDX音撃棒セットの見本品は、いつもどこかの子供が叩いていますし、まるっきりウケないわけではなさそうです。
 ただ、あの商品は、“何かのリズムに合わせて叩く”のではなく、“一定時間内に規定回数叩く”ものですし、誰かに貼り付けられるものでもありません。
 両面テープか何かで友達に貼り付けて叩くにしても、火炎鼓は大きくなりませんから、みっともないぞドロタボウごっこもできません。
 番組中のイメージに近い遊び方としては、テーブルの上に座り、火炎鼓を置いて、魔化魍に跨ったつもりで叩くというお行儀の悪い遊び方でしょうか。
 お父さんお母さんから、怒られそうですね。
 いずれにしても、やはり番組中のイメージとの一体感はどうしても乏しくなるように思います。
 まして、大きなお友達には、全く食い足りないでしょう。
 以前にも何度か書いていますが、こういった小道具の商品化の場合、番組中の使用シーンにどれだけインパクトがあるかと、そのイメージをどれだけ再現できるかが、購買意欲をかき立てるキーポイントになります。
 ですが、『響鬼』本編では、そもそも戦闘においての音撃鼓の使い方や描写にかなり苦労しているようで、叩き方が次々と変わり、とうとう3回くらい叩けば十分な新型火炎鼓が登場してしまいました。
 元々アレな商品だったのに、叩く回数が本編と全然違うとなっては売れるわけはなく、やはり企画自体に無理があったと言うべきでしょう。


 実は鷹羽、この展開を見ていて、『機動刑事ジバン』を思い出しました。
 これもまた、企画自体が大きな問題を内包していたため、途中から路線変更を余儀なくされてしまった作品だからです。
 平成元年放送の作品なので知らない人も多いでしょうが、『ジバン』は、いわゆるメタルヒーローシリーズに属する作品で、サイボーグ刑事のジバンが、敵組織バイオロンの繰り出す怪人と戦う物語です。
 メタルヒーローシリーズは、
  • 『宇宙刑事ギャバン』から『時空戦士スピルバン』までのコンバットスーツヒーロー5作品
  • 『超人機メタルダー』…ロボット物
  • 『世界忍者戦ジライヤ』…世界の怪しい忍者大集合
  • 『機動刑事ジバン』
  • 『特警ウインスペクター』から『特捜エクシードラフト』までのレスキューポリスシリーズ3作
  • 『特捜ロボ ジャンパーソン』…正体不明のロボットヒーロー
  • 『ブルースワット』…対エイリアン特殊部隊
  • 『重甲ビーファイター』と『ビーファイターカブト』…コンバットスーツ系
  • 『ビーロボ カブタック』と『鉄ワン探偵ロボタック』…コミカルロボからヒーローロボに変形!
と続いて終わります。
 このうち、方向性を同じくする作品が続かないのは、『メタルダー』から『ジバン』までの3作と、『ジャンパーソン』、『ブルースワット』の2作だけです。
 これらは、ほとんどが商業的に失敗したためにシリーズ化されなかった面を持っています。
 『メタルダー』では、1話から敵怪人を一気に20体以上も登場させ、それらの小さな可動人形“ゴーストバンクシリーズ”を主力商品としましたが、小さいために商品そのものの造形レベルが低かったことと、番組の対象年齢を高めに設定しながら、商品展開を子供向けにしたりして番組としての演出と商品展開が上手くリンクしなかったために大コケしました。
 『ジライヤ』でも、伸びたりくっついたりする材質製の人形“粘者シリーズ”など、商品展開でコケています。
 こういった商業的失敗は、一般には番組の出来とはイコールでなく、『メタルダー』のように、作品としての評価は高いのにオモチャが売れずに路線変更といった不幸に見舞われるケースも多々ありますし、『宇宙刑事シャイダー』のように、作品としての評価は低いけれど、視聴率も商品売り上げも上々というパターンもあります。
 また、路線変更した結果がうまく行くとも限らず、というより却っておかしなことになることも多く、リアル路線の『ブルースワット』に伝説の変態ゴールドプラチナムが登場してしっちゃかめっちゃかになったりもします。
 そんな中で、商品展開云々ではなく、企画的に失敗しているのが『ジバン』です。


 『ジバン』について、もう少し説明しましょう。
 ジバンは、悪の組織バイオロンが繰り出す遺伝子操作で生まれたモンスターと戦うため、警視庁が秘密裏に作り上げたサイボーグ刑事です。
 ジバンは警視庁所属の秘密捜査官であり、普段はセントラルシティ警察署の田村直人という冴えない新人刑事に身をやつしていますが、ひとたび事件が起これば、ジバンとなってバイオロンの犯罪を叩き潰すのです。
 元々田村直人は刑事で、バイオロンに襲われた五十嵐博士を救うためその身を犠牲にしたことから、博士の手でジバンに改造されることになったのでした。
 その後、五十嵐博士は死亡しましたが、その孫娘である五十嵐まゆみはジバンの正体を知らされており、ジバン基地にも出入り自由です。
 直人がセントラルシティ警察署に配属されたのは改造後のことで、当初はまゆみの家に下宿していました。

 ジバンは、通常の警察力では対処できないバイオロンのモンスター犯罪を捜査するため、独自に捜査活動する権限を持っており、その階級も警視正と、そんじょそこらの警察署長より上の階級になっています。
 また、「対バイオロン法」という特殊な法律に基づき、作中では犯罪者という位置づけになるバイオロンのモンスターを即刻処刑する権限も持っているのです。
 ちなみに、対バイオロン法は、トクサツファンの間では悪名高いもので、ほぼ毎回のように
  • 第1条 機動刑事ジバンは、いかなる場合でも令状なしに犯人を逮捕することができる。
  • 第2条 機動刑事ジバンは、相手がバイオロンと認めた場合、自らの判断で犯人を処罰することができる。
  • 第2条補足 場合によっては、抹殺することも許される。
という部分を詠唱(ほかにも条文があり、いくつか作中で登場)するのですが、見て分かるとおり、ジバンには警察レベルを超越した判断権限があって、毎回のように「場合によって」抹殺してしまうわけです。
 なお、第1条は相手が人間であっても適用される条文になっていることにも注意が必要です。
 1週間前に信号無視したあなた、いつジバンに逮捕されてもおかしくないのです。
 ジバンに証拠はいりません。

 ほら、あなたの後ろにジバンが!
 …まったく、怖い法律もあったものです。
 
 さて、ジバンは専用の基地を持っており、そこにはジバンのメンテナンス用のメカのほか、ジバン専用パトカー:レゾン、専用バイク:バイカン、飛行メカ:スパイラスが待機しています。
 これら3機のメカは、それぞれが人工知能により疑似人格を持っている上、コンピュータがジバンとリンクされていて、スムーズな意思の疎通が図れるようになっています。
 もっとも、このリンクは、ジバンが機能停止すると3機とも動かなくなってしまうという諸刃の剣でもあります。
 
 ジバン自身の武装は、右太腿に装備されている剣と銃になる十手型の警棒:マクシミリアンタイプ3と、右前腕部に内蔵されているマルチワーカーという万能ツールで、その後、飛行用ブースター兼必殺武器:ダイダロス(レゾンに格納)が登場しました。
 そして、34話『壮絶!ジバン死す』で敗北した後、35話『パーフェクトジバンだ!』で復活した際に、左手に装備する大型万力:パワーブレイカーと、右手に装備するドリル:ニードリッカー、そして必殺大砲オートデリンガーといった新戦力が加わりました。


 とまぁ、設定面だけ話すと特に何という問題もないのですが、メイン脚本家が『恐竜戦隊ジュウレンジャー』などを手がけた杉村升氏のため、ストーリーがかなりいい加減になっています。
 杉村氏の脚本の特徴は、その場を盛り上げるために設定や常識をないがしろにした展開をし、事件解決後にもそのフォローを入れないという点にあり、本作でもその本領を遺憾なく発揮していたようです。
 最終回では、ジバンが、武器やメカを次々と失いながら、バイオロンの首領ドクターギバの正体であるギバノイドを倒した後、1人姿を消すという展開になります。
 ちょっと聞くと燃えそうな内容ですが、撃墜されたスパイラスはまだしも、ジバンへの攻撃に盾となって割り込んで装備された武器を使うこともなく無駄に吹き飛ぶレゾン、その直後、全く同じパターンで吹き飛ぶバイカン、特に意味もなく破壊されたオートデリンガーと、思わず「おいおい」と突っ込みたくなるような展開が続き、どうにも気分が高揚しません。
 一事が万事この調子で、『ジバン』はシナリオ面にかなり問題のある作品でした。

 あ〜、前置き長かった。


 さて、シナリオ的に問題なのはともかく、どうして『ジバン』が企画から失敗なのでしょうか。
 もう少し細かく説明しましょう。

 『ジバン』の企画背景には、ハリウッド映画『ロボコップ』のヒットがあります。
 元々宇宙刑事シリーズのメタリックスーツにリスペクトされたという『ロボコップ』は、死亡した警官の肉体を利用してロボット警官を作るという設定です。
 『ジバン』は、このヒットを受けて、同様のロボット刑事物をやろうというスケベ根性から、死亡した刑事の脳を使用したサイボーグ刑事として企画されました。
 ロボットでなくサイボーグにしたのは、脳を使う以上、元の人格を残さないとヒーロー物にならないからでしょう。
 純粋なロボットにしなかったのは、それだと『ロボコップ』にならないからだと思います。
 まぁそんなわけで、ジバンはサイボーグといってもほとんどロボットとして描かれており、ボディ各所にアイテムが内蔵されています。
 まず、ロボコップで好評を博した“太腿に内蔵された銃”です。
 ジバンが右拳で左手首を叩くと、右太腿側面の装甲の一部のように埋め込まれているマクシミリアンタイプ3が飛び出し、抜ける状態になります。
 また、マルチワーカーは、右肘側を軸に装甲ごと起きあがって飛び出し、そこからドリルなど3種類のツールが出てきます。
 ほかに、電子ポリス手帳も体内に収納されており、使用時には、鳩尾の辺りのシャッターが開いて、水平状態に格納されていた手帳が、ビデオテープのイジェクトよろしくスライドアウトしてきます。
 このように、腿に埋まっているマクシミリアン、腕の中身であるマルチワーカー、胴体部の厚みの半分くらいの長さがある電子ポリス手帳と、全身メカニックならではの収納形態ばかりです。

 実はこの『ジバン』、商品の売上自体は結構良かったそうです。
 電子ポリス手帳は、『特捜戦隊デカレンジャー』のSPライセンスなど手帳型アイテムのパイオニアであり、これが売れたからこそ、以後も手帳型アイテムが企画されていると言えます。
 特に良かったのがマクシミリアンタイプ3で、これは通常時は十手型の警棒:マクシミリアンスティックが、先端から剣先が出てマクシミリアンソードに、グリップ部からガングリップが展開してマクシミリアンガンになるという、『超電子バイオマン』のバイオソードの流れを組む銃から剣に変形する武器の発展型で、中間形態としてのスティックモードを持つ初めてのアイテムでした。
マクシミリアン・スティックモード

  ▲ よく見ると「ロボットポリス」と書いてあったり

  マクシミリアン・ガンモード

  マクシミリアン・剣モード

    実際の商品は、刃こそ軟質樹脂製の短いものでしたが、大人が持っても十分見栄えのする大きさで、衝撃を与えるとブルブル震えるバイブレーション機能が内蔵されており、本編中での“電気ショックを与える警棒”というイメージを再現した傑作商品でした。
 『ジバン』が同種次回作を作れなかったのは、宮崎勤連続幼女殺害事件の影響により、次回作を“怪人を殺さない物語”にせざるを得なかったという制作側の事情があります。
 ですから、脚本的にはかなり駄目駄目な作品であるものの、商業的にはそれなりに成功した作品でした。
 レスキューポリスシリーズ1作目の『ウインスペクター』が、警察内部の特殊組織であり電子警察手帳を持っていること、主人公が“警視正”という階級であること、銃から警棒に変形する銃:デイトリックM2を持っていることなど、『ジバン』の設定や商品展開をある程度継承しているのはその証と言えます。

 「じゃあ、なんで企画が失敗とか言うんだ?」と思うでしょうが、鷹羽がここで問題にしている『ジバン』の失敗というのは、番組としての基本設定を作る上で大きなミスを犯し、それをフォローするために番組の企画意図を半分捨て去らねばならないほどの路線変更をする羽目になったという部分なのです。


 『ジバン』のアバンタイトルでは、「これは、人を愛し正義を守る、若者と少女の心のドラマである」というナレーションが入ります。
 「若者」というのは主人公のジバン=直人、「少女」というのはまゆみのことです。
 1話のサブタイトルが『僕のかわゆい少女ボス』であること、EDで新郎新婦姿の2人が走っているシーンなどからも、まゆみが本作において、年間通じて重要な役どころとなる予定だったことが分かります。

 ところが、このまゆみの存在が1つ目の失敗でした。

 刑事物としての性格を持つ本作では、一般人であるまゆみを絡めるのが大変だったのか、それともジバンが小学生にこき使われているかのような印象を与えると判断されたのか、18話『母と娘・悲しみの果てに』で、まゆみは記憶喪失になって放浪することになります。
 以後、まゆみは時々放浪シーンが流れる程度になり、これに伴って直人はまゆみの家を出てマンションで一人暮らしするようになったため、まゆみの家族もレギュラーから外れました。
 35話『パーフェクトジバンだ!』では、記憶を失ったままのまゆみが「こうしなきゃいけない気がする」と言って、五十嵐博士の墓石に隠された秘密のシステムを起動させたことから、誰も知らなかったジバンの再生改造手術システムが作動し、完全に機能停止していたジバンはパワーアップして蘇りました。
 どう考えても脳死しているはずですが、そこはほとんどロボットなだけに、何事もなかったかのように復活しています。
 さすがは杉村脚本。

 まゆみは、その後も放浪を続けた後、記憶を取り戻したもののバイオロンに囚われ、50話『二人を結ぶ点と線』で、実は直人の行方不明だった妹であると判明します。
 そして、バイオロンを叩き潰した直人は、まゆみの元を離れ、いずこともなく消えていくのです(この時点で、直人の作動限界はあと1年くらいだったりします)。
 「若者と少女の心のドラマ」って、単なる兄妹の別れの物語やんか!
 しかも、まゆみは半分くらい出てこないし。


 2つ目の失敗は、ロボコップを意識しすぎたことです。
 金属製のボディをアピールするために、走って止まるときに足下に火花が走ったりといった演出がされていますが、なにしろロボコップを念頭に企画されていますから、ジバンの動きは「チュイーン、チュイーン」と音を立てながらのギッチョンギッチョンした緩慢かつぎこちないものになります。
 動きが格好悪くても「リアルだ」と言ってもらえるロボコップならともかく、格好いい格闘戦をやらなければならない東映トクサツヒーローにとって、これはある意味致命的です。
 確かにアクションのときは動きが速くなるのですが、逆に普段とのギャップが激しく、「だったら普段から速く動けばいいのに」との突っ込みは免れません。


 3つ目の失敗は、ほとんどロボットというジバンの設定そのものでした。
 逆説的ですが、パーフェクトジバンを見れば、初期設定が失敗だったとスタッフに認識されているのが分かります。
 パーフェクトジバンの武器は、左手のパワーブレイカー、右手のドリル:ニードリッカー、そしてオートデリンガーです。
 さて、何が変わったかお分かりでしょうか。

 ジバンは、一見すると徒手空拳なのに、至る所から武器やツールが出てくるオールインワン設計のロボットとして設定されています。
 ホルスターを下げていないのに必要なときには銃が出てくる、ピンチのときに腕の中から様々なツールが出てくるといった便利さと万能性をウリにしたかったのでしょう。
 ところが、強化武装は、全て外付け武器なのです。
 しかも、元々ドリルを内蔵していたのに新たにドリルを装備し、それに伴ってマルチワーカーを排除していることから、スタッフが内蔵武器は失敗だったと判断していることが分かります。

 これは、1つには、撮影がしにくいというのが理由でしょう。
 右腕の中身がせり出してくるマルチワーカーの場合、ツール先端が出てくるところ、ドリルが回転しているところなど、着ぐるみを使っての撮影はできず、肘から先のプロップを使用して撮らなければなりません。
 これは、太腿から出てくるマクシミリアンや、胸から出てくる電子ポリス手帳も同じですが、それらは、そこしか映らないのでバンクが使えます。
 その点、マルチワーカーは、毎回違う使い所も一緒に映さなければならないわけで、バンクというわけにはいきません。
 そして、割と小さな先端部の作用を映すわけですから、どうしてもアップにせざるを得ず、マルチワーカーがどこでどういう風に動いているのかが実感しにくいんですね。
 その上、3種類の機能を持っているだけに、使うべき状況に持ち込むのが難しい。
 ただでさえ使いにくくて撮影が面倒なところにもってきて、更に活躍印象が薄くなるわけですから、ますます登場させにくい。
 しかも、商品化できるようなものでもない。
 というわけで、単純に武器と割り切ったドリル装備を新たに付けたわけです。
 この失敗は、“せっかく足に銃を内蔵させたんだから、ほかの物も内蔵させよう”と考えたまでは良かったのに、番組中でどう使うかという肝心な部分をないがしろにしたまま設定したせいだったと思います。

 結局、『ジバン』の失敗は、“よそでウケたネタをそのまんま流用する”という東映トクサツの悪い癖と、“ハマると格好いいが、ハマる状況を作りにくく、演出も難しい設定”を持たせてしまったことの相乗効果だと思います。
 第一『ロボコップ』がウケたのは、金を掛けた画面作りと、動きのぎこちなさがリアルさに繋がる世界観のお陰です。
 週1回放送の30分トクサツ番組で、そんなのを真似できるわけがないのに、無分別に取り込んだのが敗因と言えるでしょう。
 腕の中身がせり出してくるような装備は、生かせば確かにいい特色になりますが、生かせなければ、地味だわ、小さくて絵になりにくいわ、オモチャにもギミック仕込みにくいわ、使い所は難しいわで、いいことありません。

 もう1つ、刑事物で女の子を絡めることの難しさを考えずに入れたのも敗因と言えるかもしれません。
 普通のトクサツ物なら、毎回事件に巻き込まれるレギュラーの子供がいてもいいですが、刑事物となると、いつも犯罪に巻き込まれる子ということになってしまいます。
 また、巻き込まれるのでなく指示を出す側となると、今度は、主人公が子供に頭のレベルで負けてる大人になってしまいます。
 かといって、天才少女とかにすると、親近感が湧きにくい…。
 単なる下宿先の娘さんとしてのレギュラーなら良かったんでしょうけど、事件に絡ませたり、指示らしきものを出させたりするとなると、やはりジバンが刑事として半人前以下という感じになりかねません。

 でも、これって、スタッフが放送開始1か月後のことを予測すれば、容易に分かることだと思うんですよ。
 マルチワーカーを画面でどう活躍させるか、まゆみをどういう風に事件に絡ませるのか、そんなことは、シナリオを数本考えてみれば、十分予測のできることです。
 『ロボコップ』がウケたことから安易にロボット刑事ネタを考えたり、若者と少女の交流を前面に出して子供の共感を得ようとしたりと、プラス面ばかり考えて、マイナス面の有無をよく検討しなかったのではないでしょうか。


 で、この失敗、『響鬼』にも当てはまるんじゃないかと思うんですよね。

 “よそでウケたネタ”である太鼓の商品化、“ハマる状況を作りにくく、演出も難しい”太鼓を叩いて敵を倒す攻撃など、まんまって気がします。

 恐らく、高寺氏の頭の中には、鬼のヒーローや、直接打撃力に依存しない攻撃、立派な大人とその側で成長していく少年という、これまでにないヒーロー番組像ができていたのではないでしょうか。
 商品展開的にも、『太鼓の達人』がウケたという前提がありますから、本編中の太鼓の使い方とは別に、『太鼓の達人』的なゲーム機能を持たせることで、それなりに遊び甲斐のある商品になると考えたでしょうし、そうやって説得すれば、スポンサーサイドも納得させられるという読みがあったのでしょう。
 高寺氏は、太鼓の戦士の企画を通すために、玩具企画の人を太鼓のコンサートに連れて行き、その迫力を見せつけて説得したそうです。
 実際、ほかの楽器はトランペットにエレキギターと和風でないものの、太鼓の戦士の企画は通ったわけですから、その発想自体は間違っていなかったとも言えます。
 ただ、やはり検討が足りなかった&読みが甘かったのです。

 『響鬼』の商品を買うのはゲーマーではなく、普段番組を見ている視聴者であり、視聴者は、太鼓のゲームを買うのではなく、ヒーローが使っている武器を買うのです。
 DX音撃棒セットのゲーム機能など、鷹羽的には話にならないレベルだと思いますが、たとえこれがイイ線行っていたとしても、まず“番組での使われ方”が購入意欲を左右するはずです。
 これは、商品の出来が悪いせいではなく、商品企画とのリンクが悪いのでもなく、そもそも“太鼓を使う戦士”という初期設定の練り込み不足が悪いのです。

 巨大な魔化魍に太鼓を貼り付ける、太鼓が巨大化する、ドンドコ叩く、魔化魍がはじけ飛ぶ…。
 このような映像が、格好良く作れるものなのか、そもそも太鼓が巨大化するという、商品で再現不可能な映像表現でいいのかという部分について、きちんと考えたのでしょうか?

 確かに、一見売れそうもない商品企画でも、演出次第で売ることはできます。
 2年前に同じ枠で放送された『仮面ライダー555』は、携帯電話で変身、デジカメや懐中電灯が必殺武器に変形など、ちょっと考えたら正気を疑うような企画でした。
 しかし、「スタンディング・バイ…コンプリート!」という変身ボイスや、アイテムをデジカメや懐中電灯としては全く使わず、ミッションメモリーセットによる必殺武器としてだけ使うクールな戦闘描写を行うことで、『555』関連商品はかなりヒットしました。
 『響鬼』の太鼓にしても、あのような直接的な使用ではなく、一捻りも二捻りもした演出を考え出していれば、或いは売れたかもしれません。

 毎週放送の低予算番組で、CGによる魔化魍を相手に、合成を意識した撥捌きをして、果たして見栄えのよい太鼓演奏シーンになると思ったのでしょうか。
 本来、太鼓であることを前面に出すなら、ある程度の演奏時間と、視覚的に迫力を持たせた演奏シーンが必要だったはずです。
 例えば戦闘シーンの最中、ずっとBGMとして太鼓の演奏を流し続け、ラストのトドメのシーンに合わせて火炎鼓を叩いてBGMのクライマックス部分の音と映像中の太鼓の音を合わせる、しかもそれは商品で再現可能な演奏音である、ということなら多少は盛り上がるでしょう。
 威吹鬼の管にしても、本編では「ぱぷ〜〜〜〜〜〜っぷっ♪」という単調な音の繰り返しになってしまっていますが、合体魔化魍ナナシのときにはその続きの音が流れていましたから、実は曲自体はある程度の長さがあるのが分かります。
 惜しむらくは、ナナシのときは太鼓やギターの音も重なったため、トランペットの曲だけを楽しむことができない演出だったこと…。
 これも、演出面で盛り上げようという気概が感じられない理由の1つです。
 「同情するなら金をくれ!」などという普通に聞いたら吹き出すような台詞でも、ドラマの中でそれなりのウェイトをもって出てきたなら、一時的にせよ共感を得ることは可能なのです。
 ドラマを作る上での演出は、視聴者をノセるものでなければ番組が盛り上がりませんし、まして関連商品など売れません。

 『響鬼』が明日夢を主人公に据えたことについては、今更あれこれ言っても始まらない部分ではありますが、制作側は、果たして明日夢が魅力的に見えるように努力しているのでしょうか?
 響鬼と明日夢を上手く絡めて少年の成長物語にするというなら、それなりのやり方を考える必要があったはずです。
 しかも、形としてヒーロー物を選んだ以上、スポンサーを納得させるだけの売上を維持できなければ、商業的な失敗の危険性からいらぬ口出しを再三受けることになるのは、素人でも分かること。
 逆に言えば、商業的に成功してさえいれば、たとえ作品としては客観的に失敗しても、制作側は好きなものが作れるわけで、自分のためにも商業的失敗は避ける必要があるのです。
 『響鬼』スタッフは、どうもその辺を分かっていないorないがしろにしているように感じます。


 『響鬼』は、売上低迷によるテコ入れとして太鼓祭りをやって空振ったり、取りあえず撥だけ残して紅になったり、大型バイクの導入による能動的イメージアップを図ったりと、当初の設定を変えながら軌道修正を始めているようです。
 後は、『ジバン』のように大々的かつ急激に変えすぎて、整合性がまるで取れなくならないよう注意してくれればいいと思います。


 『ジバン』は、内蔵武器を廃してオールインワンロボであることを捨て、単なるメカニックヒーローに軌道修正すると共に、まゆみというメインキャラを外すことで、刑事物としての体裁だけは守りました。
 『響鬼』は、今後、和風テイストや楽器による攻撃という企画の根幹部が誤りだったと判断し、“音で戦う戦士”という部分以外を捨てていくことになるのでしょう。

 できれば、明日夢との2本立て描写も捨ててほしいと切に願います。
 何も明日夢を殺せとか外せとかヒビキの生き別れの弟だったことにしろとか言うのではなく、単に猛士に本格的に絡ませるというレベルでいいですから。

 番組が壊れない程度に、設定の見直ししましょうよ〜〜〜〜。




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