妹に萌えるって事は、だ 後藤夕貴
更新日:2004年7月25日
 今更言うまでもないのだが、近年、やたらめったら「妹」を題材にした作品が増えた。
 こういうシチューエーション、昔もなかったわけではないが、ここしばらくはちょっと凄すぎるほどに供給過多だ。
 しかも、よほどのへっぽこ作品じゃない限り、いずれの作品にもそれなりに固定ファンがいたりする。
 一時期なんか、エロゲーの企画もこんなんばっかりに染まっていた。
 いったい何だ、「妹萌え」って?

 今回は、お客様からのリクエスト企画。
 この「妹萌え」というものを、後藤夕貴なりに分析してみよう。
 普段から妹でハアハアしている貴方、そして、このノリがよくわからないという貴方は、是非おせんべいとお茶でも用意していただき、正座しながらご覧いただきたい。


●なんで「妹」じゃないとダメなん?

 そもそも、「妹萌え」とは何か。

 要するに、作品内で「妹が兄(注)にベタ惚れ状態になる」「兄が妹に以下同文」「妹がほのかな想いを兄に寄せている」「兄が妹に以下同文」という演出や方向性を指すものだ。
 「妹萌え」という言葉は、作品そのものを指す場合もあり、作品内の演出やストーリー展開、あるいはキャラクター・イベントビジュアルに対して向けられる“賛美”であったりと、様々な意味を持っていて、決して統一された見解ではない。
 また、これらは「健全真っ当な男子と女子が普通に出会い、恋愛をする」という物とは、東京ドームと納豆キムチくらい大きな隔たりがある。
 そして当然、現実の妹に対して抱く感情などとは、根本的に違うようだ。
 とにかく、兄と妹のラブラブファイヤーな演出技法がファンの心を鷲掴みにした際、思わず漏れる「本能の叫び」みたいなものが「妹萌え〜!!」という言葉であり、単語であり、ジャンルであり、シャウトでありパトスなのである。

 「でも、それって結局は近親相姦なんじゃないの?」…と言われれてしまえば、ずばりその通り
 だが実際は「自分より年下の女の子(しかもこちらにとって色々と融通が利く存在)と一緒に暮らせる」というシチュエーションを成り立たせるために、「妹」という設定を用いているだけのものも多い。

 この説明で、「?」と思った人もいるかもしれない。
 では、有名な「うる星やつら」の設定を参考に考えてみよう。

 ここでは、諸星あたる(主人公)とラム(ヒロイン)を一緒に住まわせ、家の中でラブラブな展開をさせる…という重要部分だけを優先的に考え、その他の基本設定はちょっとだけ外しておくとしよう。
 今の流行に合わせて、ラムの年齢を下げ、ロリキャラないしはその一歩手前程度に変更してみる。
 そして「地球侵略を賭けた鬼ゴッコに勝ったあたるの発言が勘違いされ、ラムと婚約した事にされてしまう」という独特の設定を、「兄妹だから(当然のように)一緒に住んでいる」というわかりやすいものに変更する。
 あとは「あたるの浮気癖」「ラムの電撃」「ジャリテンの存在」などの付加パーツを適度に調整すれば、だいたいやりたい事は同じようなものになってくる。

 こうやってみると、ヒロインと同居するために構築する理由は、宇宙人でも妹でも、どちらでもいいという事が見えてくる。
 結局、物語構成上「兄妹である必然性」とは、その程度のエッセンスに過ぎないのだ。
 蛇足だが、ホントに「宇宙人の女の子が妹を名乗って同居する」という作品だって存在する。
 
 しかし、実際の構成なんか関係なく、「兄と妹」という基本設定を用意されただけで、すべて持っていかれてしまうという人も多い。
 これは、なぜなのか?

 以降は、「兄」と「妹」の恋愛劇に限定して、ファン心理考察などの話を進めて行きたい。


●ちょっとだけルーツを遡ってみたりして


 「兄妹同士の恋愛」は、意外に古くから、色々な作品に用いられてきたインモラル・シチュエーションだ。
 血の繋がった者同士の愛というのは、はたから見ているとものすごく異常であり、同時に興味深いものでもある。
 普通は絶対ありえない筈の恋人同士が生まれるというネタは、作品創作にとって良い題材や加味要素になるのは確かで、これまでも色々な作家が各所で用いてきたという。

 だが、ここでそんなもののルーツを探っても仕方ないので、ぐぐっと目線を下げてみよう。

 こういったインモラル系作品の中で、いわゆる「マニア作品」というカテゴリに下りてきた実質的な第一号は、「くりいむレモン」だったのではなかろうか。

 「くりいむレモン」というのは、80年代中期頃から90年代まで発売されていた「オリジナルエロアニメビデオ」の事で、それまで存在していたエロアニメ作品群とは違う、大きな売りを持っていた。
 それが、「兄と妹の恋愛」だった。
 「くりいむレモン」登場以前のエロアニメは、女性のヌードやエロティックな雰囲気の絵をただ動かしていればいい…といった範疇を超えておらず、当時にしてかなり古臭いイメージの劇画調キャラが、非日常な世界に紛れ込んで云々という設定ばかりが目立った(かの「ドリームハンター麗夢」も、最初はこのノリだった事は有名)。

 ところが「くりいむレモン」は、最初の売り出し文句からして他の作品と違っていた。
 近親相姦というインモラル設定を前面に晒し、今までにないタイプのエロスを提示し、ファンの興味を引いた。
 途中、いくらか設定変更は行われたものの、実際に発売された作品は大人気となり、当時のOVA人気の一端を支えるほどにまでなった。
 今から考えれば、この時の大成功がなければ、今の「エロゲーのアニメ化ビデオ」の扱いもまったく違う物になっていた事だろう。
 設定変更により、ヒロイン・野々村亜美の年齢は引き上げられ(最初の時点では11歳だった!)、冒頭部に日常生活の場面が加えられ、「マッハ15でエロシーンに突入」という展開ではなくなった。
 だが、この変更が幸いし、エロシーン以外での「兄に想いを寄せる妹が、ついに兄と結ばれる」というベーシックスタイルが確立したのだ。
 …「マッハ15」パターンの方も、後に発売されたけどさ(笑)。

 もっとも、結ばれると言っても民法734条による「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない」という定め事があり、創作といえどこれを大きく逸脱する表現は自主規制するべきという意向が唱えられていた風潮もあってか、亜美と兄・ヒロシには血縁関係がないという設定も付加されてしまった。
 これが、“兄妹でHするための言い訳”として、後にやたらと使い回される事になる「義兄妹」設定だ。
 後に述べる18禁エロゲーも、そのスタンスは継承されており、自主規制団体によって「二親等以内の性交描写の禁止」が義務付けられている。

 その後、この「くりいむレモン」…正確には「媚妹BABY(ビー・マイ・ベイビーと読む)」はシリーズ化し、「亜美AGAIN」「亜美III」「旅立ち〜亜美・終章(なんとこれは劇場公開一般向作品)」「亜美それから(全4作)と続いていくのだが、結局、妹萌え的展開は“一作目のみ”にしかなく、後はただ、二人の男性の間を行ったりきたりする亜美の女心を描くスタイルに終始してしまう。
 結局、製作側も「兄と妹」だけでずっと引っ張って行く事に懸念を感じていたのではないだろうか。
 途中から真っ当な(笑)イタイ恋愛劇に転化してしまったのは、当時「妹萌え」的な要素にそれほど重要性が見込まれていなかったという証明でもあるだろう。


 その後も、色々な「兄と妹」系作品が登場するのだが、極めつけというか、誰もが広く知っているというタイトルのものはなかなか出てこなかった。
 今となってはちょっと信じられない事だが、かつては18禁エロゲーでも、なんとなく妹ゲーを避けていたような時代が存在する。
 仮に妹キャラが登場しても、それは主人公の妹ではなく「特定ヒロインのバージョン違い」的扱いだったり、あるいは隠しキャラ的な位置付けでしかなかった。
 「同級生2」のメインヒロイン・鳴沢唯などはモロにこのパターンだ。
 エロゲーではないが、「くりいむレモン」よりも前の作品である「みゆき(あだち充)」も、これと同様の分類になるだろう。
 「妹という存在との恋愛劇」という設定の旨味は理解されつつも、その特殊性から頻繁な使用が避けられていた、とでも判断するべきだろうか?
 少なくとも、ある時期までは「妹萌え」というものは乱発不可のジャンルとして暗黙に理解されていたのではないかと考えられる。

 だが、決して「妹萌え」が求められていなかった訳ではない。
 現に、ある作品が登場した事で一気に起爆し、その後の流れを形作った例がある。
 ここで、1998〜99年頃に登場した、とある二作品を挙げておきたい。
 フェアリーテイルの「Natural〜身も心も」と、カクテルソフトの「WithYou〜みつめていたい」だ。
 
 「Natural」は、学校教師とその教え子が恋人同士になり、色々とアクロバッティックな事をやっていく“恋愛調教シミュレーションADV”。
 こう書くと、いったいどういうカテゴリなのか訳がわからないが、とにかく「調教シミュレーション」と「恋愛アドベンチャー」を共存させたというものだと漠然と考えていただきたい。
 この作品では、血縁などまったくないヒロインが主人公を「お兄ちゃん」と呼ぶだけ、特に「妹」である必然性は語られていない。
 つまり、呼称以外はごく普通の男女恋愛なのだが…この「声」がやばかった

 当時、MS-DOS環境からウィンドウズへとほぼ完全に移行したエロゲーのプラットフォームは、あらたな進化目標として「フルボイス化」というものを考慮していた。
 DOS時代にはとても果たせなかった、音声面の強化である。
 これは、いまだに賛否が問われ続けている事なのだが、少なくとも「ヒロインに声がある事で、より感情移入しやすくなる」可能性は高く、この時期から、だんだんボイス導入タイトルが増え始めて来ていたのだ。
 そこに、突然生まれたのが「Natural」のヒロイン・千歳のセリフ「お兄ちゃん♪」である。
 某宇宙の帝王ザカリテさんみたいな合成音声ではなく、モノホンの女性のボイスである。
 通常会話でも、エロシーンでも、きちんと声が出てきて「お兄ちゃん♪」と呼びかけるのである。
 チャクラが目覚める筈である。
 
 詳しくは筆者が以前書いたレビューを参照していただきたいが、正直さほど可愛いとは思えないデザインの千歳は、これで一気にスーパーヒロイン化し、この時期にエロゲにハマっていた人で名前を知らないとモグリ扱いまでされるようになった。
 すべての人気の要因が「ボイス」だけだったとは思わないが、少なくとも、声が入る…プレイヤーが、直接女性の声で「お兄ちゃん」と呼びかけられる新鮮さは、男性の中の「目覚めちゃいけない何か」を目覚めさせるのに充分なパワーを誇っていたのだ。


 一方、「WithYou」はというと…こちらは、キャラクターデザインやイメージビジュアルの素晴らしさから発売前&直後に非常識なまでの大人気を博したものの、その後は目に見えて失速し、様々なコンシューマー機に移植されながらも大きな発展を見込めないで消えていった、悲劇のタイトルである。
 ま、全体的にエロゲーである必然性を感じられない内容だった事、話そのものがそんなに面白いわけではなかった事など、様々な問題があったのだが…実はこの作品、マニアさん達に対してたった一つだけ、とんでもない置き土産をしていってくれた。

 それが、本作真のヒロインと呼ばれた「伊藤乃絵美」である。

 メインヒロインではない上に、主人公のマジホン妹という設定のため、攻略対象にはなっていない。
 さらに、どーしようもない性格の彼氏がいる上、こいつに散々泣かされているというマイナス要因をも併せ持っている筈の存在。
 こやつが、後々何年にも渡って「最高のヒロイン」と呼ばれ続けたのは、現在の新しい「妹萌え」の根源を形作ったからなのだ。
 実際には、乃絵美の他にも凄いキャラが居るかもしれないが、筆者はこれ以上の存在を知らないし、またこの意見に同意してくださる方も多いのではないかと思われる。

 乃絵美は、おとなしくて兄の言う事を良く聞き、ピアノが趣味のおしとやか系少女。
 まあ、絵に描いたような「理想的な妹」なのだが、さらに加えて病弱と来ている。
 ある展開で、恋人にふられた衝撃で落ち込んでいる所を慰めてくれた主人公に対して、乃絵美は…

「お兄ちゃんが…私の恋……
 ううん、これからも、ずっと…
 お兄ちゃんの妹でいたい」


 という問題発言をしてしまう。
 しかも、主人公におんぶされながらの、耳元での発言。
 これも、ヤバかった
 この演出が、男性諸氏のチャクラをさらに目覚めさせてしまったのだ。
 上記のセリフでグーグル検索をかけると、何かしら感想が引っ掛かるというのも、なかなかに恐ろしい。

 これだけ…ただ、これだけで、乃絵美は本来の攻略目標であるはずのヒロインを押しのけ、一気にスーパーヒロイン的扱いにされてしまった。
 当然ながら、いまだに熱烈なファンが多い。
 多分だが、脚本を書いている人も、このセリフにここまでのパワーがこもってしまうとは思っていなかったのではないだろうか。
 もちろん、当然ながら乃絵美はサブキャラクターでしかなかったため、関連Hシーン及び画像は、一切存在していない…にも関わらずだ。
 ここで、「妹萌えは、別に相手が攻略対象ヒロインでなくても良い(Hシーンがなくても良い)」という、これまでにありえなかった嗜好が確立してしまったのだ。

 おさらいをしてみよう。
生声で「お兄ちゃん♪」と呼びかけられる。
「お兄ちゃんが…私の恋…(以下略)」というセリフを間近で囁かれる。

 こういった“微妙なくすぐり”演出がうまく作用すると、多少キャラデザが悪くても、あるいは好き嫌いが分かれそうな要素を持っていても、キャラクターに対する思い入れレベルが爆発的に増加する事がありうる。
 この「爆発的に増加した思い入れ」が、「妹萌え」なのだ

 もちろん、その後に次々と発売された「妹ゲー」は、妹が攻略対象になっているものがほとんどだ。
 だが、その本目的(すなわちH展開だわな)に至る前に、先の乃絵美の発言のような「プレイヤーの“兄貴回路”を起動させる何か」を加えるようになった。
 それまでは、せいぜい「お兄ちゃん大好き」程度で済んだのだから、なかなか複雑になったものだ。

 ちなみに、これらと同時期にもう一本「加奈〜いもうと」というゲームがディー・オーから発売されたが、これは決して幼年の妹に萌えるとか、ラブラブ展開を描き続けるというものではなく、「難病に冒された妹との恋愛悲劇」を描いた、真面目な傑作だった。
 当然血縁などはないのだが、主人公と妹が互いに深く想い合うという事に明確な理由が提示されているという、意外に二番せんじの少ないタイプの作品だった。
 妹の加奈が本当に死んでしまうというすごい結末も用意されており、助かる事の方が困難という凄く重いお話。
 本来の「妹萌え」とは根本的に異なるものなのだが、このタイトルのおかげで、生涯忘れられないほどの衝撃を受けたプレイヤーも多かったと聞く。
 後にこれは「X-BOX」に移植されたが、このタイトルのためだけに「X-BOX」を購入した強者も多かった(DVDに傷が付く、という例の不具合事情を知りつつも、の行動である)。
 「妹」という題材を使って人々の胸を打った好例として、ピックアップしておく価値があるタイトルだろう。


 その後、妹ヒロインが年少化し始めたり、あるいは複数化していったりするのだが、それはまた別な意味での進化形態だろう。
 「Natural」の二年後に発売された「Natural2〜duo」は、メインヒロインを双子の妹にして、姉の方に「お兄様」、妹の方に「兄貴」と呼称させ、しおらしくおとなしい姉がポジティブ、明るく活発な妹が実はネガティブという意外な設定を施した。
 さらに、妹の方はネガティブになると呼称が「お兄ちゃん」に切り替わるという反則技を用意し、千歳とは違ったけん引力を発揮した。
 さらに、事故により妹の方が幼児退行現象を起こしてしまうという、そのスジの展開が大好きな人へもサービスしまくったり、姉の方に持病を持たせて生命の危機をちらつかせたり、妹を残して姿を消したりと、悲劇的な演出までてんこ盛りにした。
 これらの巧みな演出のおかげで、「2」の双子の妹達も、凄まじいほどの人気を獲得した。
 
 こんな感じで、何かがプレイヤー諸氏のハートガッチリ状態を形成する事で、新たな流れが構築されていくのである。

 
 もちろん、ゲームだけではない。
 アニメでも「シスタープリンセス」のように“一人の兄に12人の妹”という狂った設定を付加したものや、本来は別な方向性の話なのだが、その筋も多少狙っていた「カードキャプターさくら」など、色々とある。
 もっとも、シスプリは元々雑誌の読者参加企画からの発展なので、厳密にはちょっと違うかもしれないが。

 また、直接兄妹モノではないけれど、男女同居モノ…先の「うる星」のたとえのように、設定を微妙にこねくり回したタイプの作品は物凄い数誕生している。
 あえてリアルに妹との恋愛を描写した「恋風」なんて作品まで登場した。
 かつて「妹との恋愛を描く作品」といえば日陰者的存在だったものだが、もはやそんな事はどーでもよくなってしまったようだ。
 人によっては、むしろHシーンがある方が気が萎えるという。
 ううむ、そこまでこだわりを持たれてしまうと、もはや何も言えませんな(笑)。


●で、実際に妹が居る人間としては、だ

 ここまで読んでもなお、「だから何で、そんなに妹がいいの?」と思われる方も多いだろう。
 いたって健全、ノーマルな思考なので、そうお思いなのは当然である。
 ここからは、ちょっとした心理分析だ。

 恐らくだが、上記のように思われる人は実際に妹がおられるか、あるいはご自身が妹である人達ではないだろうか。
 先に述べておくと、筆者にも妹がいる
 兄以上に漢が入っており、いまだに飲み比べで歯が立たないほどの豪傑だ。
 すでに結婚して一児をもうけており、今では家族同士の付き合いといった感じになっているが、実家での同居時代はケンケンガクガク、様々な黙示録が存在し、とてもじゃないが「女」として見れてなどいなかった(笑)。
 だが、実際の兄妹などはたいがいそんなものである
 年齢的に、お互いの存在を嫌悪し合ったり、やたらと距離を置きたがったり、会話すらろくにしなくなったりと散々で、そういった角が取れてくるのは、双方が社会的に落ち着きを得る頃…それぞれの生活が確立してからだ。
 これは別に兄と妹に限った話ではなく、他の組み合わせでも充分にありうるだろう。
 むしろ、筆者は同性の兄弟がいないため、「兄と弟(または姉と妹)がとても仲が良い」という図式がまったく実感できない。
 とにかく、本来兄妹なんてのはそんなものだ。

 だが聞く所によると、男性同士の兄弟しかいない人や、一人っ子の人にとって、この「妹」という存在はものすごく特殊な位置付けに見えるらしい。
 エロゲや「妹萌え」などとはまったく関係ない話の中でも、「妹が欲しかった」という人は多いし、理由を尋ねれば「なんか可愛いじゃない?」とか「癒されるような気がする」と返ってくる。
 無論、それは幻想以外の何物でもないのだが、だとしてもあまりにも現実とのギャップがデカイ。
 しかして、別にアニメやゲームが好きな人…いわゆるマニア系の人でなくても、どこかに「妹という存在に憧れる部分」というものはあるのかもしれない。
 筆者は、これを「兄貴回路」と呼称している
 ひょっとしたら、実際に妹がいる人でも、妹との距離が開きすぎている場合は同様の感覚を持っているかもしれない。


 商売とは、ある意味で「人間の心理のツボを突く事」である。
 だとしたら、そういう「憧れ」をダイレクトに突くような物を供給すれば、それは成功に繋がる要因になる。
 そうすれば、ある程度以上の反響が期待できるはずである。
 妹を欲しがっている、あるいは妹とハアハアするのが夢(笑)という人が居るなら、それを満たしてくれる内容を提供すればいい。
 そういった人達に対して、先の「Natural」や「WithYou」のようなものが提示されれば、当然大きな反響に期待できる。
 実に簡単な理屈だ。
 そして、クリエイター側の「どうやってツボをグリグリ突き刺すか」という思考実験が生まれる。
 ただ兄と妹をラブラブにすればいいという物ではなく、ユーザーにとって「このタイトルはかけがえのない物」と思わせるだけの何かを盛り込む必要が出てくる。
 そこで、このページの冒頭で記したような「インモラル・シチュエーション」の練り込みが求められるのだ。
 昔は、読者や視聴者の興味を引くために「近親相姦」という要素を小説やドラマの脚本に組み込み、成功させた。
 今は、特定範囲ではあるものの、ユーザーのニーズに応えて「様々なスタイルの明るい近親恋愛」が構築されている訳だ。
 どちらが正しいとか、良い悪いとかそういう問題じゃないが、とにかくこれもまた一つの「表現の進歩」なのかもしれない。


 ―――なーんて書くと、ちょっと格調高く聞こえるかもしれないが、実際にそんな崇高な思いを抱いて作品を制作しているクリエイターがどれほど居るのか、わかったものではない。

 粗製濫造という言葉があるが、現在のエロゲーにもこれは当てはまる。
 以前は「エロゲー界全体」を指してこの言葉を用いたが、今では特定ジャンル(この場合は「妹萌え」)だけを指してこの言葉を使う事が出来る。
 コナミの「ときめきメモリアル」ブームの起こった95年頃以降、なんでもかんでも「恋愛シミュレーション」ばかりになって、この時も粗製濫造と表現したものだが、思えばあの時よりもさらにグレードアップしているのかもしれない。
 その他「メイドゲー」というカテゴリもあったが、定着こそすれどここまで乱雑化はしていなかったような気がする(印象論だけど)。
 そう考えると、なかなか恐ろしい考えになってしまう。


●進化形態。次のターゲットは…「弟」

 で、現在、この「妹萌え」系に新たな進化形態が見えてきたので、知らない人にお伝えしておこう。
 最近、妹ではなく「弟」という内容のものが増えてきた。

 どういう事かって?
 いや、だから、主人公が攻略する相手が「妹」ではなく「弟」になるという事。
 ぶっちゃけて言えば「近親ホモ」ですな。

 相手が弟だからって、主人公が女性になるなんて安直な事もないし。
 複数存在する攻略対象の中に、弟という選択肢が少数混じっている、という物だと、漠然と理解していただければ充分な気がする。
 つまりは「妹(ヒロイン)の代替品」だ。

 このパターンの代表例は、やはり「恋する妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの」(CAGE)だろう。
 …いや、ネタじゃなくて。
 ホントにこういう長ったらしいタイトルのゲームなんだってばさ(笑)。
 発売は、2003年7月。 

 ここに登場するヒロイ…弟キャラで「秋巳」というのがいる。
 これは、外観だけならよくありがちなロリキャラで、設定項目もほぼ乃絵美タイプなのだが、性別はれっきとした男だ。
 主人公に憧れて、やがて結ばれる…そう、もちろん“そーいう意味で”結ばれる。
 一部ではこやつが大変な人気者になっており、もちろん男性のファンが多い。
 もちろん、このタイトルの方向性はホモゲーではない。
 れっきとしたギャルゲーどころか、タイトルの通り「妹萌え」ゲーだ。
 にも関わらず、たった一つだけホモ的要素が入っている。
 これに限らず、他のタイトルでも「弟的キャラが主人公(男)とHする」という内容のものは多い。
 で、同様のシチュエーションでありながら、「ボーイズラブ系」とはまったく意味合いも存在も異なるものになっているのだ。

 萌え系とはちょっと違う要素になるが、単純に「男受け」というシチュエーションがあるだけのものなら、「顔のない月」(ROOT)や「けらくの王〜快楽の王」(戯作座)など、古い物の中にもある。
 この辺をどうカテゴリ分けするかは、ファン次第という事だろうか。

 ここまで読んで、結局ホモなのかやおいなのか全然わかんないという人もおられると思うが、世の中にはすでに「ホモ向けではない、男性向けの男の子H系」というジャンルが存在するのだ。
 外見および性格が、どう見ても女の子としか思えない男の子を相手に繰り広げるH展開という方向性で、リアリティは果てしなく薄い(笑)。
 世間ではこれを「ロリショタ」といい、ホモややおい、ボーイズラブ等とは完全な別物としてカテゴリ分けされている。
 つまりは、この「ロリショタ向け」ゲームが出たというだけの話なのだ。

 これ以上の説明は、「ホモとやおいとロリショタの違いがわかる」人でないとピンと来ないだろうから割愛するが、ついにとんでもない方向へとシフトし始めたという事だけ、ここで述べておきたい。
 もっとも、ここでいう「弟攻略系」は、単なるエロ目的ばっかりだから、「妹萌え」要素の延長とはちと意味が違うような気もするんだけどね(笑)。


●まとめ…なの?!

 ここまでで振り返ってみると、「妹萌え」というのは、ゲームやアニメ、またまたその他のプラットフォームに関係なく、販売側からは“商品”として、ユーザー・視聴者側からは“自分の欲求を満たしてくれる媒体”として、世の中に広まっているわけだ。
 これはつまり、販売側もユーザー側も、「現実との境界を理解した上で」楽しんだり儲けたりしている事がわかると思う。
 もちろん、中には夢と現実の区別がつかなくなり、近間の女の子に暴行したり、拉致しようとしたりする連中がいたりもするが、これらのすべてを「“妹萌え”を提唱するメディア媒体」の責任には出来ない。
 幻視混同やモラルの把握と維持、理性の確立などは、そういったものとは別の部分にあるからだ。
 なので筆者は、「妹萌えは確かにやりすぎ・出過ぎという感はあるが、それが多くの人に多大な悪影響を及ぼすだろう」とは考えていない。
 今が「妹萌え」なだけであり、そのうちさらなる別な粗製濫造ネタが出てくる筈であり、その時にはまた別な問題が問われ、意見が交わされる筈だ。
 興味のない人や理解の及ばない人達にとっては、いずれも「生臭い趣味」にしか見えないだろうし、事実その通りだと思うが(笑)、逆に考えれば、「そういうものを無駄に煽り続ける流通が許されている」という、現在の商売のあり方の方を、問題視するべきなのかもしれない。
 「Natural」も「WithYou」もなければ、ひょっとしたら今頃、ここまで極端な「妹萌え」はなかったのかもしれないのだし(確率はものすごーく低いだろうけど)。

 で、こんな事を偉そうに書いている筆者も、このサイト内の「ORIGINAL-NOVELS」で連載している「美神戦隊アンナセイヴァー」という作品中で、一部「兄と妹の恋愛劇」みたいなものを描いている。
 これは元々、筆者が創作活動を始めた時からの定番ネタなので今更時流に乗せたわけではないのだが、中にはこういう風に「妹がいるのに、妹萌えを描こうとする者」もいるという事だ。
 別に現実逃避とかじゃなくて、その方が話が面白くなるからと思っているだけなんだけどね。


 さて、この「妹萌え」ブームは、果たしてどこまで行き、いつまで続くのか…
 今から十年後、いまだに同じような話題が出来たとしたら、それはそれでとてつもなく恐ろしい事なのかもしれない。

 いや、「弟萌え」ばっかになっていても困るんだけどさ。


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