Natural〜身も心も〜
 
 “これは、人間の尊厳と自由を賭けた、熱き漢達の情熱の物語である!”
 
梨瀬成「後藤、“WITH YOU”の評論……読んだよ」
私「な、何だよ! その不気味な猫なで声は?!」
梨瀬「そんでさ、ちょ〜〜っと、聞きたいんだけどねェ?」
私「ううっ、すごい嫌な予感がするのぉ…」
梨瀬「だ〜れが、稀代の3大ギャルゲーマーだってえぇぇぇ?
私「どひーっ、やっぱしそこを突いてきたのかい!」
梨瀬「いやー、鷹風虎徹氏も、非常に御立腹だったぞおぉぉぉぉぉぉぉぉ」
私「はは、ははははは…あ゛ーっはっはっはっ! ……お、怒ってた?」
梨瀬「それで、鷹風氏と相談したんだ。お前、これからF&C専属ライターねっ!」
私「な、何じゃとてええええぇぇぇぇぇ!!??
梨瀬「と、いう訳だ。まづわ、“Natural”を書いてもらおう!」
私「…え゛? 私に、あの“お兄ちゃん”ゲーを完クリしろと?!」
梨瀬「あ、もうこれは決定したから。んじゃあねっ!!(ガチャン!←電話切る)」
私「ひいいいいいぃぃぃぃぃぃ!」
 戦ひは、はてしなーく続くんだ。
 
1.メーカー名:F&C/フェアリーテール
2.ジャンル:育成SLG&ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:A
5.オススメ度:総合ではC。ただし、“お兄ちゃん属性(cきっか)”の人は、AとかBとかの問題じゃない。絶対やれ
6.攻略難易度:完クリ目指すなら、これまたAです。
7.その他:この前聞いた話だけど、これのメインヒロイン・美澤千歳の声優だった歌織という人、本作のOVA化決定の際監督に拝み倒されて、引き続きビデオ版でも、千歳を演じる事になったそーな。
 もちろん、そんな事は前代未聞。
 それだけ、配役と声優の演技が融合してたって事でしょ。
 
 とある方面からの依頼で千歳のガレージキットのパッケージ絵を描く事となり、その際の資料として、本ソフトをプレイ。
 そして、いつの間にか購入してしまっていた自分に気付いた。
 「九拾八式降臨」にて、きっか氏が書いていた事に納得する。なるほど、コレは売れる訳ですよ。
 なにせ、天下一フェアリーテールのソフトが大嫌いなので有名な私ですら、やりこんでしまうくらいだから、うん。
 かつて「デッドオブザブレイン」や「ア・ラ・ベ・ス・ク」などで苦汁を呑まされ、アンチF-TALEを誓った日から、早や5年がたとうとしているが、結構変わってしまった。しかも、良い意味で。
 是非とも、このグレードを維持し続けていただきたいものだ…けど、果たして同じ事を、2〜3年後も言い続けられるのだろうか?
 スタッフの入れ替わりの激しい業界、元気に生き抜いてほしいものです。
 
 さて、“Natural”である。
 元々、噂では聞いていたのだけど、これほどすごい吸引力を持ったゲームだとは思わなかった。
 とにもかくにも、メインヒロインの美澤千歳である。
 ちょっと前のゲームなんだけど、おそらく98年度最強のヒロインだったのではないか? と、マジで考えている。
 これは是非とも、もう9ケ月早く出会いたかったものだ。
 本作の魅力はとにかく、この千歳の魅力とイコールである。
 自分の事を「ボク」と呼称し、主人公を「お兄ちゃん」と呼ぶ。元気はつらつで、それなりに家事もこなせて、スポーツだって力を注いでいる。
 彼女の姉・万里子が、かつての主人公の恋人だったという、異色の設定があるにはあるが、その時から一方的な恋心を抱いていたという告白があるから、スタートした直後のロストバージンという、突飛な展開も納得が出来る様になっている。
 はじめから、主人公に対して絶大な愛情を持っているヒロイン。
 そして主人公がそう仕向けない限り、決して彼女から離れていこうとはしない、約束された関係。
 …そう、かつてこれに良く似た有名なゲームがあった。
 「あゆみちゃん物語」というアリスソフトの93年の作品だが、これにヒロインから主人公に向けられた感情表現と、緻密な周辺環境、そして他のヒロインを絡ませる事によって、“ジェラシー”という感情を表現した…それが、この“Natural”ではないだろうか。
 とにかく、すでにデキてる相手との親睦をさらに深めるというシチュエーションでは、かなりの完成度を誇っている。
 よくよく考えて見ると、千歳は決して美人ではない。
 下膨れの輪郭、男の子っぽい仕草、小さい眼、太い眉毛、ぺったんこの胸(80を割っている!)、わがまま…という、結構多彩な欠点を持っている。
 そう、「To Heart」の神岸あかりとか、「WITH YOU」の菜織・真奈美とかとも違う。
 言ってしまえば、ブ○という表現の方が近いのだ。
 だが本作の恐るべき所は、そんな千歳を、希有なヒロイン像に作り替えてしまった事だ。
 ただ「お兄ちゃん」と呼ばせればそれで良いという訳ではない(それだけで堕ちた人もいるんだろーが)。
 この作品、実はもう一つの側面を持っているのだ。
 1970年9月、TBSで放送されたドラマ「おくさまは18歳」(大映テレビ制作)をご存じの方はいらっしゃるだろうか?
 岡崎友紀石立鉄男主演で、高校3年生の岡崎と、その高校に勤める教師の石立が、周囲には内緒にしているが実は正式な夫婦で、毎回その秘密保持を巡っての、ドタバタコメディをくり広げるといった趣向の連続ドラマであった。
 これでなくても、後にいくつか似たような設定のドラマがあったと記憶しているので、それらから大体のスタイルは御想像していただけると思う。
 このドラマのうま味といえば、外では他人同士を装っているが(絶対ではない所がミソ)、家の中では、見ている方が恥ずかしくなるくらい甘々で熱々というギャップと、秘密を守ろうとして無茶苦茶な対策を練ったり、強引な手段で状況を打破したりというトラブルシュートな面であった。
 千歳と主人公の関係は、非常にこのドラマの主人公2人に似た一面を持っている。
 主人公の同僚の女教師・多上愛姫に関係がばれてしまった時のやりとりなどに、そういった側面が見え隠れする。
 結構、この辺はハラハラさせられる所で、それぞれのキャラクターを立てるだけでなく、ともすればものすごく一辺倒になりやすいタイプの本作に、深みを与えている。
 主人公と千歳の熱々ラブラブな生活は、このままずっと続けていけるのだろうか?
 この二人は、このまま互いを愛し続けていけるのだろうか?
 思わず、そんな事を考えてしまう。そうさせるだけの魅力を、千歳は持っているのだ。
 他の女性と少し親密に話しただけで、すぐふくれっ面になり、二人っきりになると、過剰なくらいに愛を語る。
 そして自分の何よりも主人公を大切に、優先的に考え、その想いを隠したりしない。
 主人公がちょっと持ち上げると、すぐに有頂天になってしまう。
 それらの想いを、常に表情に表す多彩な感情を持っている。
 まぁなんていうか、一生懸命主人公を愛しているってのがストレーーートに伝わってくるので、とても気持ちがいいのだ。
 これらのもの凄い表現盛り合わせのために、よくありがちな設定の女の子は、超絶に進化したといえる。
 それでもって、そんな子と愛を育むも良し、好き勝手に調教するも良しってんだから、こりゃ受けない方がどうかしてる
 二人の関係がばれてしまった後、ふと主人公が千歳を求めて手を伸ばしたのに、そこに千歳がいなかった…という、幻視混合を臭わせるくだりで、さらに千歳の存在の、本来のはかなさを表現して、思い入れに追い打ちを掛ける演出。
 やってくれるよな、本当に。
 とにかく、純愛編のエンディングと駆け落ちエンディングのどちらかを迎えれば、本作のメインストーリーを味わい尽くしたといっても、過言ではないだろう。
 そこには、千歳と主人公の関係を賞賛するプレイヤーの望む結末が、必ずある筈なのだ。
 その分鬼畜編のエンディングは、そういった論点からもものすごくうすら寒いモノがある。
 エンディング間際の例の“夜の花見のシーン”、鬼畜編ラストの千歳の台詞は、マジで怖いよ。私、背筋凍りつきましたぜ…。
 いやホント、スゲーキャラだよ、千歳ってのは。
 千歳の魅力については、これ以上書いてもきりがないので(事実、すでに多方面において語り尽くされている感もあるし)、次は構成について。
 実は、千歳の存在が良い点をまとめてかっさらってしまった分、他の要素がかなりおざなりになってしまっている事に気が付いた。
 うーん本当は、コレって容易に予想出来た事なんだけど…。
 この作品、千歳以外にもヒロインが3人もいる。
 そしてそれが、最大の弱点となってしまっている。
 攻略対象は、登場女性キャラほぼ全員。モロに、千歳のあおりをくらってしまっているのだ。
 本作は、千歳のみ各選択肢と、Hシーンでの調教育成構成によって結末が分岐化するのだが、他の3人、多上愛姫と河田穂鳥出水由羽は、完全に選択肢だけで分岐していく。
 要になるのは必ず千歳なのだが、まず千歳の信頼度を下げながら他のキャラの好感度を稼いで行かなくてはならない構成だ。
 つまり、完全なオマケと化しているのだ、はなっから。
 このため、肝心の千歳攻略に支障を来すのはもちろんとして、全体のプレイの流れを大きく阻害する現象を作り出してしまっているのだから、始末に負えない。
 まして、彼女達を巡るエピソードは皆無とはいかないまでも、ほとんどないと言ってもいいくらい。
 せいぜい、穂鳥が以前イギリスにいた頃、拉致監禁されてレイプされまくり状態になっていた事を、トラウマにしているくらいだ。
 愛姫と由羽にいたっては、ほぼ皆無に等しい。
 また、この3人の攻略についてはどうも優先順位があるらしく、愛姫→穂鳥→由羽の順になっていると推察される。
 これはどういう事かというと、複数のキャラクターの攻略条件がカチ合った場合、どちらのエンディングに至るのかというものだ。
 これの設定にいくつかの疑問がある。
 一例として、愛姫の攻略条件の一つに信頼度を80以上に設定するというものがある。
 今回は由羽のエンディングを目指すため、由羽の攻略水準・信頼度80を目標に進めて、愛姫の信頼度を、他の条件を満たした状態で下げていく。
 そして最終日において、愛姫信頼度35。由羽は85にまで達した。
 由羽のエンディング条件も、完全に満たしている!
 さて、迎えたエンディングは……!
 なんと、この場合は愛姫になってしまうのだ。
 理由は、最終日に愛姫に屋上に呼び出され、夕日をみながら最後の語らいをするシーンにあった。
 結構感動的なシーンなのだが、このシーンを迎えた途端、突然愛姫の信頼度がプラス50されてしまうのだ!
 数値は、完全に由羽と一致。どちらも条件を満たしている…となると、もう愛姫決定なのである。
 すなわち、愛姫攻略時のボーナスポイントとして設定されたのだろうが、数値以外の条件が、3キャラ共にほとんど共通してしまった故に起こった現象だ。
 これのため、時には途中までのセーブデータが使えず、また一からやり直しをさせられるハメになる。
 特に、先述の2人は個別攻略がほぼ必須となっているため、非常にやっかいだ。
 まだあるぞ。穂鳥なんか、もっとひどい。
 あらゆる条件を満たしていても、最後の最後の選択肢を1つ間違えると、それだけで、そこまでのすべてがおジャンになってしまう! これには、驚かされた。
 とても攻略する人間の立場を考えているとは思えない所業だ。まして、これだって攻略本読んでわかった事なのだ。
 知らない人がやったら、一生原因をつかめないだろうね。
 だって、そこまでの蓄積を棒に振ってしまいかねない選択肢という訳じゃないんだよ。完全に、悪質なトラップと考えていいだろう。
 肝心のエンディングも中途半端だ。
 エンディングは、どのタイプのものを迎えようとも、その前に必ず千歳との出会いと過去のやりとり、そして別れのシーンが挿入される。
 これがまた、思い入れバリバリに描かれているため、とっても濃い
 微妙にセリフが異なっていたりするが、エンディングはすべてその後になる。
 直前まで、バシバシに千歳とのやりとりを描写しているもんだから、エンディングが、どれもチープに成り下がってしまっている。
 3人のハッピーエンドも、バッドエンドにしてもそうだ。  千歳の存在が枷となっていて、素直に認められないエンディングが乱発する。
 穂鳥のハッピーエンドの時みたいに、その後、千歳も別の男ととっとと結婚しちゃっていたというのがわかる下りはいいんだけど、あまりに、呪縛が強すぎる。
 すべてが、千歳を中心に回っているのだ。
 果たして、主人公と結婚した他のヒロイン達は、その後も幸せになれたのか…? とても不安になってしまう。
 いっその事、エンディングバリエーションを増やしてでも、千歳一人の攻略に専念するタイプにしても良かったのではないだろうか? 
 ただし、そんなサブキャラの中でもいくつか、関心させられたところがある。
 千歳の姉であり、主人公のかつての恋人だった万里子には、決して手を出す展開が無いこと。
 それどころか、千歳との仲をバックアップする方に回っているのは、何か色々と考えさせられてしまう。
 また先の愛姫の、屋上での会話シーン自体は屈指の名場面
 眼に一杯涙をため、優しく微笑みながら主人公に言う「あなたなんか、大っ嫌いです」の一言。
 主人公に秘めた想いが、悲しくなるほどに溢れてくる名シーンだ。
 これがあるから、愛姫を奴隷化する展開がどうしても受け入れられないんだよねー、俺って。 
 
(総評)
 さりげに、“悲恋”というベースの上に構築された物語。
 そこに、千歳という希有な名キャラクターを配し、同じく心のどこかに“悲恋”を抱いたサブキャラクターがそれを取り囲む。
 主人公自体、一見幸せの絶頂にいるように見えて、いつそれを失ってしまうか解らないという、とても危険な位置に佇んでいる。
 そして、本人は失って始めて大切なものの存在を知るのだ。
 一番身近にいる者、常に愛を唱える者が、不意に消えてしまう虚無感と喪失感。
 そして、再び大切なものを得た時の喜び、また、大切な者をその手で壊してしまった時の後悔の念。
 本当に、主人公を満足させる展開はどれだったのか。
 …そんな、プレイヤーが心のどこかで抱くだろう思いを、異常なくらいに緻密に描き込んだ傑作、それが本作“Natural”。
 いやぁ、調教シミュレーション物で、実に予想外で良い作品をプレイさせていただきましたぜ。
 しかも(まだ言うか)それがFAIRY-TALEのゲームなんだもんね。
 なんかもう、一本も二本も取られたという感じだわ、ホント。
 これで、メッセージスキップがもっと使いやすければ、さらに良かったんだけどね。
 きっか氏のいう通り、非常に危険なソフトであった。中毒性が高い。これはでんじゃあだね。
 よく、実際に妹がいる人って、“お兄ちゃん属性”(「お兄ちゃん」と呼ばれると、それだけで「ウッ」となってしまう性)を持たないって言う。私もそうだし、自覚してるんだけど、それでもこれは楽しめた。
 とにかく、始めから“千歳と純愛を貫く!”とか“千歳を性奴隷に調教してやる!”とか、目標を定めてからプレイすれば、余計に面白さが増すと思われる。
 問題は多いけれど、ある程度その部分を隔離してプレイ出来るのも嬉しい。
 新たな可能性を見いだしてくれたソフトとして、私的重要な存在となってしまいましたわ。今後に、期待したいですな、本当に!
 …でも、なんかこのゲーム、後遺症が残るぞ。
 どうして、いつのまにか何も資料を見なくても、千歳が描けるようになっているんだ?!
     
(後藤夕貴)

 
PS(ささやかな反撃).私自身がシミュレートする、鷹風氏が本作をプレイした後の反応。あくまで予想なので、三割増しくらいで解釈して読んで下さい。↓
 
私「どうでしたね、Naturalでは誰がお気に入りでした?」
虎徹氏「いやぁ、なんともいえないですねぇ」
私「さしあたって、万里子姉ちゃんあたりなんかいいんじゃない? チョイ役だけど」
虎徹「うーん、何だかなぁ…」
私「愛姫なんかは?」
虎徹「ああ、もうあれはいいでしょうね。ただ、奴隷シナリオになっちゃった時の主人公のやりとりは、滅殺モノでしたねぇ(←この辺で、声に殺気こもる)」
私「め、滅殺?!」
虎徹「まぁ、いいんじゃないですか? 個人的には、あんなによく出来た万里子さんを振ってしまうというのも、許せませんけどねェ…(鬱)」
私「は、はぁ…(汗)」
虎徹「CGモードじゃないけど、千歳、マジで主人公刺してくれないかなー…
(注)…鷹風虎徹さんわ、どーっ゛でも゛心優しい人です!
「ひえぇぇーっ、許してくださーい!!!!!!!!
 F&C専属は、イヤだーーーーっ!!
 
 
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