怖〜い怪談の作り方 そのに
後藤夕貴
更新日:2004年12月12日
 前回は、「嘘っぽく聞こえる怪談の例」として、その条件をいくつか抜粋してみた。
 今回は、もうちょっと前向きに、それらしく聞こえる怪談の作り方を考えてみよう。


CHAPTER-4 何が怖いかを考える
 世の中には、「幽霊が出る」「誰かが死ぬ」「呪われる」という要素が出てくるだけで、充分怖い話が作れると勘違いしている人達がいる。
 ところが実際は、上記条件をすべて外した上で、もっと怖い怪談を語る事だって可能なのだ。
 また、人によっては「不明瞭な部分すべてにいちいち説明をつけようとする」タイプもいる。
 この場合、自らどんどん墓穴を掘っていき、最終的にしらけまくる話にしかならない。

 では、どうすればいいのか。
 ひとえに怪談と言っても、時代によって流行り廃りがある。
 現在では、「理由がわからない」「後で気付いたらとんでもない事をしていた」というような、不可解パターンが好まれるように感じる。

 ここで、筆者が「これは怖いな」と感じた話をいくつか挙げてみよう。
  • 山岳地帯の道路を走っていると、山の中に小さな集落が見える。
     地図上では何もないところなので、不思議に思って向かってみるが、いつまで経ってもたどり着かない。
     やがて、さっき路上から見ていた座標付近にたどり着くのだが、そこにあったのは、遠い昔に打ち捨てられたらしい「墓地」があった。

  • あるビルの上の階から、女性が身を乗り出している。
     どうやら自殺志願者のようで、周囲の人々は必死に制止を呼びかける。
     あげくには消防車・救急車・レスキュー隊まで駆けつけ、飛び降りた時の対策を検討する。
     だが、ビルの中に入った「説得役」の警官は、どんなに捜しても、その女性が身を乗り出している場所にたどり着けない。
     おかしいと思い、ビルの管理人から間取り図を借りると、そこは…窓などなく、ただ壁があるだけだった。
     
  • 夜釣りをしていた時、遠くから悲鳴が聞こえる。
     見ると、誰かが川で溺れている!
     慌てて助けに行こうとする釣り人を、同行してきた友人が止める。
     友人には、溺れている人が見えていない。
     再び川の方を見ると、さっきまで溺れていた人が、もがくのを止め、川の中からじっとこちらを見つめていた。

  • 子供同士で、廃墟探検。
     二人だけで民家跡に忍び込むが、そこには先客がいた!
     中で出会った女の子は、二人に加わり、探検再開。
     奥の部屋には仏間があり、そこにたどり着いた途端、最初から着いてきた友人が一言
    「それ以上入ると、死んじゃうかもよ――」

     怖くなったその子は、二人を置き去りに逃走。
     後日、女の子の方と無事再会したが、あの時の話にかみ合わない部分がある。
    「あの時、あなたと私の二人しかいなかったのよ」

     最初に一緒に入り込んだ友達の顔は、卒業アルバムの中からも発見できなかった。

  • 祭の夜。
     出店の時間が終わり、大勢のお客ががやがやと歓声を上げながら、帰路に着く。
     うっかり寝過ごして、遅れて祭りを行っている神社に駆けつけた少年は、すれ違う大勢の人達の様子にすっかり落胆し、あきらめて家に戻る事にした。
     途中、コンビニに立ち寄り、時計を見る。
     時間は、午後11時。
     祭りの出店は、9時半には片付けられる。
     後に、その時間には出店はすべて引き上げられており、神社には誰一人残っていなかった事が判明。

 …だいたいこんなところだろうか。
 あまり怖くないものもあるが、なんとなくぞくっとさせられる物がある。

 上記の例は、いずれも「結局それが何だったのか」という説明がされていない。
 また、ものすごく不条理なものが含まれている。
 そしてそれらが、なんとなく怖さをかもし出しているのだ。
 つまり、「怖さ・リアリティ≠詳細な説明」という事になる。

 本当に自然に怖さを感じさせてくれる話の場合、設定的にスカスカな部分が多いものだ。
 考えてみれば当然の話で、本当の恐怖体験談などの場合、そんな緻密な設定や理由説明を行うゆとりなどない筈。
 それなのに、読んでいる側が怖い思いをするのだから、この点は押さえておきたい。
 だが、ここでいうスカスカ感というものは決して適当ではなく、「スカスカであるべき部分」が緻密に計算されているようにも感じられる。

 突っ込もうと思えば突っ込めるけど、咄嗟にそう思わせない。
 真の怪談って、そういうものを言うのかもしれない。


CHAPTER-5 怪談を作ろう!
 さて、実際に怪談を作ってみよう。
 ひとえに怪談と言っても様々なシチュエーションがあり、またすべてが体験記とは限らない。
 このままだと枠が広がりすぎて収拾がつかないので、ここでは「一人暮らしのアパートで異常事態」という、お決まりのパターンをベースにしてみよう。

【用意するもの】
  • アパート(1LDKか、2DKか…)
  • 住人、またはその友人
  • 霊感の強い人物(友人と同一の存在でも可)
  • アパートにまつわるいわく話
  • 怪現象第一段階
  • 怪現象第ニ段階
  • 怪現象第三段階
  • 後日談
  • その他


  •  だいたいこれだけあれば、色々なパターンの話が作れるだろう。
     中には、この材料一覧を見ただけで怖くなる人もいるかもしれない(笑)。
     なお、怪現象は第四段階行以降もあって良い事にする(絶対第三段階にこだわる必要はない)。


     まず、アパートについては「築年数」「場所」という設定値が必要だ。
     中には、新築にも関わらずおかしな事が起こるという話も聞くが、ここはそれっぽく「築20年」とか、いかにも過去に何かあったっぽい時間値を振っておきたい。
     これにより、「原因不明・よくわからない・理由が突き止められない」という要素が少し発生する。
     「場所」だが、これは語り部にとって都合の良い場所で良いだろう。
     以前住んでいた場所か、あるいは長い間滞在した事のある場所など、「今住んでいるわけではないが、そこそこ地理に詳しい」所にしておくといい。
     場所だけは、どんな話でもリアルに表現する事が許されるわけだから。
     ただし、すでになくなってしまった場所を、いかにも現役施設のように表現してしまうとボロが出るので、その辺は注意したい。
     たとえば「南浦和病院」なんて場所は、今はもう存在しないのだ(笑)。


     次に、語り部となる存在。
     この場合、アパートの住人を語り部とするケースと、その友人を語り部とするケースが考えられる。
     どちらの視点で表現した方が、リアルに怖さを感じられるか…この辺は、その人のセンスに任せてみよう。
     ただし、くれぐれも、住人と友人の視点混同は起こさないように。
     また、住人オンリーで立会人を付けない状態で話を進めるパターンもあるが、これはなかなか難しいようだ。

     霊能力がある人は、住人のアパートに何かが居る事を示してくれる、ありがたい存在だ。
     こういう人物を配置し、一言「私、ここにはとても入れない!」などと呟かせれば、それだけでなんかイヤ〜な雰囲気が漂いはじめる。
     住人自体を霊能者にしてしまうパターンもあるが、それだと前回提示した「夢物語」と同様、いくらでも嘘がつけてしまうという側面も生まれるため、あまりオススメはしない。
     慣れて来たら、そういうパターンのお話に組み替えるのもいいだろう。

     霊能者は、最初の頃と、途中「ここぞ」という時に不意に登場させるパターンがある。
     あまり出しすぎると「ゴーストバスター的な展開」に発展する危険もあるので、多用は控えよう。
     もし、霊能者自身を特定するような質問を受けた場合は、「その件以来疎遠になってしまった」と述べておけばいい。
     ただし、それは最初の方で、である。 
     後で言うと、すっごく言い訳くさいから。


     アパートのいわく…これは、結構考えるのが面倒くさい。
     あえて何も出さないとか、逆に過去の要因が特定される手法などがよくあるが、ここに「何かあったらしい事まではわかったが、詳細は不明のまま」というパターンも加えておきたい。

     まず、一番最初に考えられるのが、「過去に室内で自殺者が出た」パターン。
     現実問題だったらシャレにならないが、作り話ならば「ありがちな材料」になってしまう。
     だが、あえてそれを利用する手もある。
     この辺は語り部のアイデア次第だが、あまり凝ったものを考えるとリアリティに欠ける。
     変則技として「幽霊ではないものが出る」「複数別々なタイミングで出る」「外から訪れてくる」というパターンを組み込む手もある。
     だが、外から訪れてくるパターンも、そろそろ使い古されてきている事に注意。


     怪現象…もっとも難しい部分だ。
     ここで、その話の怖さが左右される事は間違いない。
     アパートの基本設備「押入れ」「隣の部屋」「トイレ」「風呂」「玄関」「キッチン」「窓」「壁」「天井」など、それぞれに何が起こりうるかを考える。
     以前某所で読んだもので、玄関に出現した霊が、風呂場に移動して姿を消すというローテーションを、何度も繰り返すというものがあった。
     これも、状況を連想すると結構怖い。

     どこに何が出て、何をして消えたか。
     どこに異常が見え、その結果どんな影響があったか。
     それぞれの現象が、日を追うごとにどんな変化を見せたか。


     これらを読者に連想させるのが、怖さを煽る秘訣だ。
     出現した「者」が、どんなスタイルでどんな風に見えるか、その辺もしっかり設定しておきたい。
     くれぐれも、「ネズミ・ゴキブリ・野良猫」などによる騒音や被害…であると想像・判断させないように注意。
     天井を走り回る子供の足音などと書くと、たいがいの場合「そりゃネズミだ」という一言で片付けられてしまうのだから。 
     

     後日談というのは、使い方によってはものすごい武器になるが、ヘタに使うとかえってしらけさせてしまう要因になりかねない。
     さらに、「一度途絶えたと思った怪現象が再び発生した」という事と、「現象が完全に途絶えた後に起こった出来事」というのはまったく意味が違い、前者の場合は後日談とは言わない。
     これは「なおも継続中」という事になってしまう。
     後日談というのを武器にする場合、それまでの経緯にはなかった、まったく異質な出来事を用意するのがいいだろう。

     ここで、「引越し先にも幽霊が着いてきた」という安直なパターンは止めておきたい。
     できれば、幽霊とも全然関係ない、されど事件には密接な関係のある出来事を交えたい。
     なかなかに難しい事ではあるけれど。


     その他…注意しなければならないのは、「どう見てもそれは自然現象だろう」という出来事を描写しておきながら、それを盲目的に「霊現象に間違いない」と主張するような雰囲気を作ってしまう事である。

     先の天井裏のネズミの例がそれだし、よくあるラップ音というものも、だいたいが木造建築のきしみ(家鳴り)だったりする。
     また、何か見えたとしても、ほんの一瞬なら何かと見間違えた可能性もあるので、あまり武器にはならない。
     「これは、どう見ても見間違いにしか思えないよな」というシチュエーションは、多用しないよう心がけるのが賢明だ。
     だが、逆にそういうものを用いて、気のせいだと思ったら本当にそうだったという展開に導く手法も存在する。
     このあたりになってくると、結構なテクニックが求められる。

     さらに、「異常事態に怯えている住人の心情」の描写にも、気を配りたい。
     創作の場合、とんでもない事が発生しているにも関わらず、登場人物が妙に冷静だったりする事がある。
     だが、本当に巧い人が話を作ると、語り部の怯えの変化がよくわかり、かつ、だんだん冷静な判断が出来なくなりつつある状態までも描いてしまう。
     この場合、住人の怯えは読者あるいは聞き手の感覚と連動させる、重要なファクターになる。
     言い換えれば、怪現象やその原因も、描写は適当でいい。
     その代わり、住人を怯えさせておけば、その視点から「冷静な状況分析が出来なくなってきている」という事を実感させるに至り、益々怖さが増す。
     冷静に、落ち着かない様子を描く訳だ(笑)。


     ここまでの項目材料を吟味して、こんな話を用意してみた


     さて、上記の怪談(体験談)を読んでも、たいがいの人は「怖くない」と思うだろう。
     その理由はいくつかあるだろうが、もっとも大きいのは「これが作り話だ」と、あらかじめ告知してしまっているせいだろう。
     ひょっとして、作り話だという断りがない状態でこれを読んでいたら、ちょっとは変わった印象を持っていたかもしれない。

     つまり何が言いたいか。
     怪談を創作する上で、これが一番「やってはいけない事」なのだ。
     話す前後に関係なく、決して「作り話」だなどと言ってはいけない。

     それを最初に聞くと怖さはなくなり、後で聞くと、せっかくさっきまで怖がっていた雰囲気がぶち怖しになり、大損させられた気になって後味が悪い。
     出来れば、最後まで作り話であるという事実は隠蔽しておきたいものだ。


     ここまでの内容をまとめると、
    • 起承転結をきっちりつける
    • 無理のある話にはしない
    • 丁寧な説明を加える必要はない
    • 具体的な場所を示さない。
    • 聞き手から突っ込まれやすそうな部分は、言い訳で対応せず「ボカす」
    • 後から原因や理由を説明しない
    • さりげなく、不条理な展開を加えて、聞き手に微妙な不安を与える
    • 怪談の背景を、あまり大掛かりにしすぎない
    • 夢や金縛りに関連する内容は、加えない
    • 心理描写は、ほどほどに
    • 作り話だとバラさない
     これさえ気をつけておけば、貴方も怖い話を創作できるのではないかと思う。
     あとは、作り手のセンス次第。
     さらに、「話をする時間や場所の選定」「都市伝説怪談など、ありがちな要素を混ぜない」「凄く怖いと思った体験談のスタイルを参考にする」ようにすれば、益々怖い話に成長していくはずだ。

     色々考えて、身近な人達を恐怖のドン底に叩き落していただきたい(笑)。
     このコラムが、貴方の参考になっていれば幸い。


     なお、以前別なコラムで書いた「後藤夕貴旧宅の真実」「旅館の男女」の話などは、紛れもなく事実だったりする。
     いや、見返してみたら、思いっきり「嘘っぽい」条件を満たしていたもので(笑)。
     だめだなあ、自分。


     最後に。

     先に挙げた話は「用意してみた」と書いただけで、明確に「これも作り話だ」と記したわけではない

     これは本当に嘘話なのか、それとも、筆者が他で耳にした、ひょっとしたら本当だったかもしれない話…?
     その判断は、ここを読んだ方にお任せしたいと思う。


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