柏木悠里の徒然ビュー

X:評論連動企画 みみずん、推理小説を語る・第一回


 無限に広がる大宇宙。
 もっとも質量がある以上球形を構成していて、“果て”はあるらしいが。


 そんな大宇宙のそのうち銀河鉄道が走るらしい軌道に、水陸(地中含)空&宇宙汎用移動要塞“ゴールデン・ニッポニア”は漂っていた。
 その中でハナモゲラミミズ星からやってきた侵略宇宙人、通称みみずんがスネている。

▲ ドクター博士
▲ ハナモゲラミミズ星人
ドクター博士(以下博士):「やれやれ。みみずんが旅に出たがるから大四畳半惑星まで出掛けてきたのに」
ハナモゲラミミズ星人(以下みみずん):「…地球とほとんど変わらないじゃないか〜
博士:「失礼な。
   いくらなんでももう少し進化してるぞ、少なくとも日本は」
みみずん:「変わんないよ〜。
   むしろ大四畳半惑星の方が自立心旺盛なモラトリアムがいるだけ、今のパラサイトな日本人よりマシだよ〜」
博士:「自立心旺盛とモラトリアムは両立しないんではないかのぉ。
   まあそこまで言うなら、この昭和前半の歴史本を読め。この頃の方が、より大四畳半惑星と似ている。
  今の日本と変わらない…と思われるのは科学者としてシャクじゃ」
みみずん:「いらない。
   古典ならともかく、近代史ってつまんないもん」
博士:「おまえはワガママな高校生か!」

 博士はみみずんに何とか近代史を読ませようとしているが、みみずんはスネているせいもあって、強情だった。
 別の惑星に出掛ければいいという、合理的かつ、当たり前の結論は白鳥座の彼方へアナザーディメンジョンしてしまったらしい。


博士:「よし、こうしよう。昭和前期をモチーフにしている映像作品を見るなり、小説を読むなりすればいいのだ。
   一応、当時の時事風俗が出てくるから、それで参考になるじゃろう!」
みみずん:「うにゃ。映像ねえ。
   スパコンの中にデータがあるの?」
博士:「違うぞ。我が“ゴールデン・ニッポニア”にはビデオライブラリー&図書館がある
   ちゃんと案内図も出ておる」
みみずん:「えっ?
  いつも自分の部屋とココ(管制室)しか行かないから知らなかった〜」
博士:「…半年以上住んでて知らなかったのか…」
みみずん:「だってここでTVとかも見られるし〜。
   ごはんもみかん箱で食べられるし〜。
   あっ、みみずんの机は?」
博士:「この間ニッ○ンで買ってあげたちゃぶ台があるじゃろう」
みみずん:「やだやだ、みかん箱がいい〜!
   みかん、みかん、みかん〜!!
博士:「どこぞの歌のように騒ぐな〜!!」


 文句を言いながらも、博士は愛媛農協にアクセスし、ネット通販でみかん10kgを申し込んでいた
 こんな事に使用されるスパコンというのも哀れである。
 ところで最近、「どうして博士は美人でもないみみずんに甘いのか教えて下さい」という匿名の手紙をもらった(激しく嘘)が、それは柏木には解らない。
 もしそれが博士の元からの性格だとしたら、世界征服にはぜんっぜん向いていないと思うのだが…。


ビデオライブラリーへ来てみたみみずん:「うわ〜、たくさん有る〜。
   あの『私だけが知っている』ってなぁに〜?」
心配でついてきた博士:「それは昔やっていた推理クイズ番組じゃ」
みみずん:「あの『試験放送』っていうのは?」
博士:「ああそれには文字が1文字だけ映っとる
みみずん:「あ、『ロングバケーション』だ。
   博士って何でもとっておくタイプ?」
博士(ちょっと怒っているらしい):「いいから必要なビデオをこの検索システムで呼び出すから!」
みみずん:「あ、解った〜。ラベル自動張り替え機はこの為に作ったんだ〜!」
博士(無視して):「ほらまず『悪魔の手鞠歌』、石坂浩二版で良いじゃろう」
みみずん:「『水戸黄門』の中の話?
博士:「…イヤな『水戸黄門』じゃなあ…。
  違う違う。日本三大名探偵の1人、金田一耕助モノじゃ」


 ぷち。
 超高性能検索システムは、何百万とあるビデオテープからわずか数秒で目的のビデオを探し出し、壁にあるスクリーンに映像を映し始めた。


みみずん:「ギャース!
   何でこれ死体がピーッ(未見の方の為に修正音を入れさせていただきました)に!」

 視聴後。

みみずん:「面白かった〜。
  ねえもっとこういうの見たいよ〜」
博士:「ううむ、当初と目的が違っているような気もするがまあ良いじゃろう」

 ぷち、ぷち、ぷち。←次々再生される様々な金田一耕助モノ

みみずん:「ねえ、この『悪魔が来たりて笛を吹く』、よくわかんなかった」
博士:「あっ、いかん。これは最近やったTVドラマ版じゃ。
  大人の事情で原作を変更してあるヤツじゃな」
みみずん:「じゃあ原作読むぅ。貸して貸して!」

 この回まで読み進めて下さったありがたい読者様もご存知の通り、みみずんの好奇心とワガママは際限が無かった!
 仕方なく図書館にも連れて行く博士。
 ここにも超高性能検索システムが設置されており、読みたい本の情報を端末に入力すると、手元まで本が届くシステムが構築されていた。

博士:「はい、『悪魔が来たりて笛を吹く』じゃ。
  なるべく図書館の中で読みなさい」
みみずん:「…」←すでに本を読み始めたので聞いていない。

 予定と大幅に違うものの、みみずんのご機嫌が良くなったので、博士は胸をなでおろした。
 繰り返すが、あまり世界征服に向いているとは思えない気がするドクター博士だった。


 …とこれは一ヶ月前のお話。
 余談だが、博士とみみずんは大四畳半惑星でラーメンライスを食べた
 ちょっと羨ましい。


 現在。


みみずん:「博士〜、今度森博嗣の本買って〜」
博士:「こないだ京極夏彦の“京極堂シリーズ”を全部揃えたばっかりデショ!
   もう少しガマンしなさい」
みみずん:「だってあれって分厚いくせに犯人3頁で解るんだもん!
  ※註:これはあくまでみみずんの感想です。ファンの方、怪しいメールを送ったりしないで下さい。
博士:「あれは、犯人探しや絵解きを楽しむ推理小説では無いと思うんじゃが…」
みみずん:「キャラクターだけを楽しむ推理小説は御手洗潔だけで充分だよ〜」
  ※註:しつこいようですがこれはみみずんの感想です。
博士:「くぉらっ!! どうしてそこで敵をいっぱい作るような発言をするんだ!
   広義の意味でのミステリーでは御手洗モノはけっこう面白いと思うが」
みみずん:「みみずんの好みは〜、探偵役が個性的で〜、ほんのちょっと風変わりな事件がおきて〜、理論的にその謎が解かれて、一抹の寂しさを感じる話がいいな。
  それとできれば文章も上手い方がいい」
博士:「みみずん、推理小説やミステリーも、そのジャンルである前に小説なんじゃから、文章はそれなりに上手いぞ」
みみずん:「新○格の出始めの○○センセイや××センセイの文章が上手いと思う人は○学生から文法を習いなおした方がいいと思うよ
博士:「うわーっ!!!!」←大慌て中。
みみずん:「あれ、何故か一部勝手に伏せ字になってる? 不思議だなあ」
博士:「ぜいぜい(←息を切らしている)。わしが直したんじゃ!
   カミソリメールが送られてきたら嫌なのでな」
みみずん:「メールにカミソリが添付されてくるのってすごいね〜
  普通の人でも物品を電子データに変換できるんだ。知らなかった〜。
  じゃあ言い方を変えるね。
  エロゲーはそのジャンルである前にゲームなんだから、ゲームとして面白いのが当たり前であるという命題が証明できるなら、みみずんも新○格についての意見を改めるよ」 
博士:「…」

 博士はみみずんに反論するのをあきらめ、スパコンで森博嗣作の小説を検索し、ネット通販の申し込みをした。
 このスパコンは最近こんな事にしか使われていない。
 そのうちひねくれて、どこぞの“ブレイン”の様に勝手に動き始めて人類を滅ぼすかもしれない。

博士:「みみずん、私に無駄使いさせた分、少し働かんかね?」
みみずん:「うん? 日本海の二百海里水域にキャッタンでも出す?
博士:「今回、危険なネタを振りまくりじゃのう(汗)。
  違う、違う。それだけたくさん推理小説を読んだんじゃから、少しは話せるようになっておるじゃろう。
  ここのサイトの元締が書いた『MISSING PARTS the TANTEI stories』の評論じゃが…
みみずん:「アレがどうかした?」
博士:「あの評論は『俺は推理マニアじゃないんだから、犯人が誰かとか、このトリックはどう解こう…とか考えないんだよ』という姿勢で書かれておる」
みみずん:「別にいいんじゃないの?
   ゲームの楽しみ方は人それぞれだよ。
  一つだけ苦言を呈する所があるとすれば、推理マニアは“犯人&トリックが解っちゃった〜♪”と喜ぶ訳じゃなくて、その予測をいかにはずしてどんでん返しを決めてくれるかを楽しむ、もっとやっかいな人達なんだけどね。
  どんでん返しが無くてこちらが予想できる範疇の作品を“面白くない”と切り捨てる、シビアな読者なのに。
  当たって嬉しい〜♪ なんていうのはマニアじゃないよ
  だまされて悔しい〜、でもいい作品にあって嬉しい〜が正しいね」

 一ヶ月に渡る推理小説三昧の日々で、みみずんはすっかり“マニア”になっていた!
 世界征服はどうした! 
 一ヶ月も読書だけの日々過ごしていいのか!


博士:「みみずんにしてはまともな意見じゃなあ。
 まあでもとにかく、元締とは逆にそういったマニアの人もこのゲームをやる訳じゃよ」
みみずん:「みみずんにしてはって何! ぷんぷん」
博士:「これは失言。
  とにかく、推理マニアの人達の目に晒されるゲームだったという事じゃ」
みみずん:「え〜? だって『かまいたちの夜』みたいに推理小説家がシナリオを書いた訳じゃないし、注目される理由あるの?」
博士:「ある。まず、パッケージにはっきり“名探偵”や“推理アドベンチャーゲーム”という単語を書いている事が一つ」
みみずん:「う〜ん、そう言われるとこれだけたくさん推理小説を読んだみみずんとしては、どれくらい推理モノなのか知りたい気がしてくるなぁ」
博士:「そうじゃろう。
  特撮ヒーローのファンが“本格特撮ヒーローアドベンチャー!”と書かれたゲームを見かけたら、つい意地悪く『へえ〜、どれ位本格か見てやろうジャン!』と考えてしまうのと同じじゃ」
みみずん:「ああ、自分がこだわっている物のジャンルと違う舞台で挑戦されると、意地悪くなってしまう傾向はあるよね」
博士:「特にゲームは、いまだに“ゲームごときに何ができる”という見られ方をしているからのう。
  私の個人的意見では、少なくとも特撮ヒーローよりは推理物の方がゲーム向きじゃと思うがな
みみずん:「博士〜、ところでもう一つは?」
博士:「ああ、これは元締の評論にも出てきている事なのじゃが…」
みずん:「?」
博士:「主人公の名前が“真神恭介”なんじゃ」
みみずん:「あれっ? どこかで聞いた事が…。
  あ、神津恭介と1文字しか違わないね
博士:「うむ。これが“明智ナントカ”だったり“金田一ナンタラ”だったり、まあ“古畑ナニガシ”だったらパロディ元はすぐ解るじゃろうが…」
みみずん:「あざとい所を突いてきてる! と言いたいんだね、博士は」
博士:「そうじゃ。年輩の推理マニアならともかく、ゲームを嗜む世代の人達にはおそらく浅見光彦や、それこそ京極堂(中禅寺秋彦)の方がメジャーじゃろう」
みみずん:「言えてるね。例えば解説や取説に一言でも何か書かれていれば“ああ、神津が好きでつけちゃったんだな〜”と感じられるかもしれないけれど…」
博士:「さらにすっごくマズイ事があったんじゃ
みみずん:「ええっ? ゲーム中に何か大問題が?」
博士:「いや、ゲーム中には無い。
  ましてF・O・Gのスタッフさんに問題がある訳でもないんじゃ」
みみずん:「と言うと?」
博士:「これを書いておる柏木は、シャーロック・ホームズがきっかけで推理小説が好きになったというありがちな人間なのじゃが、そのままルパン読んで、クィーン読んで、アガサ・クリスティ読んで、江戸川乱歩と横溝正史に流れて…」
みみずん:「ま、まさか…」
博士:「推理クイズの中に日本三大名探偵といえば明智小五郎と金田一耕助、神津恭介と書かれていたのを素直に信じて、神津も手をつけた、と」
みみずん:「このデータによると中学生の頃らしいね」
博士:「…どんなデータだ?? まあとにかく何が言いたいかというと…」
みみずん:「個人的に大ファンだと!!
博士:「そういう事じゃ。この名前を感じさせるだけで柏木の“ほお〜? それをつける以上、本格推理でないとか探偵がズッコケだとかは許さん!”となってしまう訳じゃ」
みみずん:「じゃあ元締言う所のまさに偏見を持った人がこんな所に!!」
博士:「そうじゃ。
  おかけできゃつは『もうF・O・Gのゲームはやらない』と公言しておきながら、このゲームに手を出してしまったのだ!」
みみずん:「がーん!!!!


 よく考えるとみみずんがショックを受ける必要は全然無い。
 素直な侵略宇宙人である。


みみずん:「それは解ったけど、みみずんは何を働けばいいの〜?」
博士:「うむ。実は元締の解説はちょっと不親切だと思っておる。
  よってみみずんに、各探偵の解説を書くのを手伝って欲しいのじゃ」
みみずん:「ええ〜?
   今さら日本三大名探偵の解説しなきゃいけないの〜?」
博士:「いいではないか。
  今まで読んだ本のおさらいにもなるじゃろう」
みみずん:「仕方ないなあ…。
  まあ、これで『金田一少年の事件簿』とかのネーミングの元ネタが解ってスッキリする人も居るかもしれないから、少しは役に立つのかなあ?」←何となくみみずん不機嫌
博士:「ああ、あの遺族に訴えられかけたマンガの事なんか気にしなくて良い」
みずん:「博士、元締以上にヤバネタだね、それ」←でも嬉しそう


1.明智小五郎
みみずん:「わざわざ明智から解説するの〜?」
博士:「意外と少年探偵団(少年少女モノ)の明智小五郎を知らない人が多いようなのでな。
  じゃが明智が不満なら、シャーロック・ホームズかオーギュスト・デュパンから始めるか?」
みみずん:「…明智でいい。
  博士〜、作者が江戸川乱歩氏だっていうのはすぐ出てきそうだけど…。
  明智については、多分天知茂氏がやっていたスーツ姿のダンディスタイルをみんな想像するんだろうね」
博士:「そうじゃなあ。明智デビュー作『D坂の殺人事件』中のスタイルは“髪が長くモジャモジャで髪の毛をかき回すクセがアリ、服装にはかまわない方でよれよれの木綿の着物に兵児帯”じゃがな」
みみずん:「何だか金田一耕助の描写みたいなんだよね。
  だんだんに洗練されていくんだけど」
博士:「洗練されていくのはいいが、日本の筈なのに、私立探偵である明智がアッサリ拳銃を持ってたりする所がスゴイ」
みみずん;「いいと思うけどな〜。
  江戸川乱歩氏が描き出した日本は“パノラマニッポン”というか“幻想ニッポン”で、現実の日本国では無い気がする。
  みみずんはそこが好きかな」
博士:「結局、その独特の世界観が明智物を古くさく感じさせないのだと思うがのぉ」
みみずん:「う〜ん、明智と言うよりは江戸川乱歩の作品、という気がするけど。
  明智が登場しない作品の方がより“幻想ニッポン”色強いしな〜」
博士:「まあまあ。その辺はまた別の機会にして、ここでは明智の話に特化しよう。
  あと明智の特長というと…」
みみずん:「小林少年と少年探偵団!
博士:「まああれも偉大なる発明だとは思うが、一応元ネタはホームズのベーカー街遊撃隊らしいから…。
  それよりいわゆる本格探偵物の探偵さんなのに、珍しく奥さんがいる事の方をあげておこう」
みみずん:「言われてみれば本格には女性嫌いが多いね。
  元祖と言われるホームズの影響かなあ?」
博士:「不思議じゃな。
  おお、肝心な事を話し忘れておる!
  明智の探偵としての特色は、じゃ」
みみずん:「変装する、小林少年を使う、走り回る
博士:「…みみずん…」
みみずん:「だって、最初の頃は座って推理するタイプだったけど、どんどんアクション派になっていってる気がするよ〜?」
博士:「敵が落とし穴とか隠し部屋とか作っちゃうんだから仕方ないじゃろ!
  う〜む、考えてみればそういうズルい描写があっても許されるのが乱歩の特長かもしれん。
  さて、明智についてはこの辺にしておくか。
  みみずん、おすすめの作品は?」
みみずん:「みみずんが選ぶの? まあいいけど」


みみずんオススメ:
 『D坂の殺人事件』デビュー作
 『二銭銅貨』
 『魔術師』奥さんになる人登場
 『怪人二十面相』の順番に読むと明智の変遷が解ります。
 『黄金仮面』ついでにこれもどうぞ。


博士:「オススメの作品というより、オススメの読み方って感じじゃな」
みみずん:「だってみみずん、江戸川乱歩氏の作品は明智じゃないモノの方が好きなの〜」
博士:「仕方ないのう…」


2.金田一耕助
(以下の文章は形態こそふざけていますが、この名前を利用した商業目的の文章ではなく、あくまでも感想文のような物です。
  なので商標登録されている単語を使用しても問題ないと思いますが、もし万一差し障りがあるのではとお考えの方はご一報下さい)

博士:「↑みみずん、この一文は何だね?」
みみずん:「うん、後で多分必要になると思うの」
博士:「?」
みみずん:「金田一は今でも映画化されたり、スペシャルドラマやったりするね〜」
博士:「うむ。乱歩に比べておどろおどろしいから、夏向きなのじゃろう。怪談的な扱われ方じゃ」
みみずん:「乱歩も明智モノじゃないけど、『孤島の鬼』とかおどろ〜なのあるよ?」
博士:「じゃが、さっきみみずんが言った通り、あの世界はファンタジーな所がある。
  それに比べると、金田一のおどろおどろしさは“因習”だの“血の繋がりからくる憎悪”だの、奇妙なリアリティがある気がするのじゃ」   
みみずん:「そ〜かな〜?
  みみずん宇宙人だからよく解らないけど、現実味なんて全然無い気がするけど?」
博士:「微妙な話になるが、日本人が持っている“昔の田舎の因習ってコワイらしいね”という認識を上手く利用しているせいじゃと思う」
みみずん:「ふ〜ん。それって『大魔神』が暴れ回るような世界の事?」
士:「…多分違うじゃろう…。
  話を金田一耕助に戻すと、作者は横溝正史氏。デビュー作は『本陣殺人事件』じゃ」
みみずん:「ああ、今時の人には受けないであろう作品。
  多分ハナモゲラミミズ星では絶対理解不能だよ」
博士:「雪密室のトリックとかはキレイじゃと思うが、殺人の動機が動機じゃからなあ」
みみずん:「だから最近のスペシャルドラマではあんまりやらないね」
博士:「まあ、仕方ないじゃろ。
  それはそれとしてスタイルはもう石坂浩二氏や古谷一行氏がやってるアレそのもの。
  よれよれの羽織袴、不思議な帽子(笑)、もじゃもじゃ頭。考え事をする時、髪の毛をかきむしるクセが有り、フケをまき散らすって所か」
みみずん:「博士のビデオライブラリーの中には、明智みたいなダンディスタイルの金田一も居たよ〜?」
博士:「あれはヒーローがヒーローらしくなければいけなかった時代のあだ花じゃよ。
  何てったって片岡千恵蔵だしなあ
  作者は納得してなかったらしいし(爆)。
  実は原作のスタイル通りの金田一をやったのは、石坂浩二氏が初めてなんじゃ」
みみずん:「へえ〜」
博士:「横溝氏は石坂浩二の金田一について“顔が二枚目すぎる”とは言っているが、かなりイイとほめておる。
  まあどちらにしても金田一耕介は映像作品に恵まれているため、これだけ有名になった感はあるな」
みみずん:「なるほど〜。
  明智にしても天知氏のシリーズがすっごく有名だもんね〜。
  良い映像化が重要なんだね」
博士:「うむ。昔ほどでは無いかもしれんし、イメージギャップが出る事も多いが、やはりビジュアルのインパクトは文字で読むのとは大違いなのじゃよ」
みみずん:「そりゃあ、口にじょう…(むぐむぐ)」←博士に手で口を押さえられている。
博士:「そういうネタは未読・未見の人に失礼デショ!」
みみずん:「カニは言ってもいい?
博士:「カニ? 何じゃカニって…。
  まさか『犬神家の一族』か!
みみずん:「博士の目が本気でコワイから話進めるね〜。
  金田一の特長は、謎は完璧に解くんだけど、全員死ぬまで事件を止められないんだよね。
  しかもたいがい犯人も死んじゃうし…」
博士:「どこかで孫もそうで、そんな所だけ似てるとか揶揄されていたのを見た事があるぞ」
みみずん:「(無視してたんたんと)明智の所でもでたけど〜、昔の探偵ってあんまり女性と関わらないんだよね〜」
博士:「それ、書いちゃうのか? まあ良いけど…」
みみずん:「金田一耕助はおそらく最後まで独身だったと思うけどね」
博士:「ああ、言っちゃった」
みみずん:「当たり前だよぉ。
  ちょっとでも金田一耕助に愛着があれば、あんな作品は書けないし、遺族の方ともめるような事もなかったと思う」
博士:「むう。普通パロディは内容が悪質でさえなければ、作者や関係者も“ファンのやる事だから”と目をつぶる物じゃが、孫は質が悪かった
  トリックはぱくりまくるは、時間軸の不備を指摘した読者にふざけた回答をするは…」
みみずん:「おかげで“金田一耕助”って単語は遺族の方に商標登録されてるんだよ
  登録番号は登録4028848登録4028849
博士:「じゃあ最初の商標うんぬんの文章は…!」
みみずん:「一応、みみずんは金田一耕助のファンなので、必要無いと思いつつも敬意を表して書いといたの」
博士:「世の中って難しいのぉ」
みみずん:「地球が複雑すぎるんだと思うけどな〜? この辺でおすすめ書いとくね」


みみずんオススメ:
 『百日紅(さるすべり)の下にて』
  すでに終わってしまった昔の事件を解決するので、金田一氏にしては珍しく後手に回らなくて済んでいる所が好き。
 『悪魔の手鞠歌』金田一の要素を一番凝縮してある作品だと感じるので。
 『病院坂の首縊りの家』これにて退場。ちょっとさみしい。


博士:「ひねくれ所が一本も無いな」
みみずん:「明智の時にも無かったよ〜♪」


3.神津恭介
博士:「真打ち登場じゃな」
みみずん:「この場合の真打ちは“解説が本当に必要なのこの人だけ”的な真打ちだけど」
博士:「後で柏木に刺されてもしらんぞ」
みみずん:「でも知名度から言ったらフツー仕方ないんじゃないかな〜?」
博士:「それはまあ、作風の関係と映像化の絡みじゃろうな」
みみずん:「う〜ん、確かに江戸川乱歩&横溝正史両氏が作り上げたような独特の世界観が無いから、今から見ると古く感じちゃう所はあるかも…(棒読み)」
博士:「なまじ、明治・大正でなく、戦後を書いてしまっているからのぉ。
  かえって古く感じてしまうのは事実じゃが、それ以上に知名度が上がらない理由があるんじゃ。
  とは言え、それより先に基礎説明をしておかねば。
  作者は高木彬光氏。スタイルは額が広く、役者のような美形だが、理知的な顔立ち。
  中肉中背で服装はいつもスッキリしている」
みみずん:「今気がついたけど、それって美形以外の特徴が少ないんじゃないの?」
博士:「実はその通りなんじゃ。
  その他の描写も東大法医学部助教授、研究のかたわら、ワトソン役(ホームズに対するワトソンの様に、探偵の活躍を描写する役の人)の松下研三と共に難事件を解決とか」
みみずん:「あれれ? 他には?」
博士:「ピアノが玄人はだしだとか、旧制一高時代に書いた論文が海外の雑誌で認められたりとか…」
みみずん:「?? こうやって並べてみると、特徴の中に欠点が無いね〜?」
博士:「無理に欠点を探すとなると、ほとんど下戸だとか、女性あしらいが苦手とか、病弱とか」
みみずん:「でも美形の病弱は実際には大変だろうけれど、物語の主人公の欠点とはいい難いなあ」
博士:「そう、これが神津が江戸川乱歩に認められた名探偵でありながら、今ひとつ知名度が低い一因じゃろう」
みみずん:「地球人、特に日本人って、欠点の無い人キライだもんね〜」
博士:「全くその通り。親しみがわかないんじゃよ。
  ましてや顔美形+地位+名声を持っている上に天才…なんて男を同じ男性が支持する訳がない」
みみずん:「作品の評価はしてもらえても探偵役は好きになってもらえないって事?」
博士:「例えば同じ天才型の探偵、ホームズや御手洗は天才だが変人だ。
  それが欠点と言えるじゃろう。
  そういうどこかこちらがホッとできる部分が無いとなあ」
みみずん:「天才だけど変な人だもんな〜って?
   本当、地球人てナゾだね」
博士:「それに加えて先に述べた通り、何度も再放送したりできる映像作品が無い
  当然、天知茂氏や石坂浩二氏のようなハマリ役の役者も出ないから、イメージが浮かべにくい」
みみずん:「でもいくつか映像化されてるよ?
   神津役は近藤正臣氏で、土曜ワイドとかであったよ(ここまで棒読み)。
  博士のビデオライブラリーってすごいなー」
博士:「ああ、ずっと近藤正臣氏ではイメージが合わないな…と思っておったが、村上弘明氏に演じさせるより五億倍マシだと解ったから、意見を改める気になった土曜ワイドな」
みみずん:「…。やっぱり時代背景を背負ってるから、映像化も難しいんだろうね。
  今さら昭和30年代の話はやり辛いだろうからね(とっても棒読み)」
博士:「みみずん、一部台本通りに読んでるのがバレバレじゃぞ!」
みみずん:「だってみみずん、近代史キライなのに、こんなセリフすらすら出ないもん!」
博士:「仕方がないなあ。
  じゃあみみずん的には神津物をどう思う? 台本置いといて」
みみずん:「う〜ん、昭和って乾いた時代なんだな〜とか…。
  あ、そうだ。最初に読まなくて良かったと思った!」
博士:「と言うと?」
みみずん:「みみずんね、最初の『悪魔が来たりて笛を吹く』の後は明智→金田一→神津の順番で読んだの。
  でも、もしいきなり神津から読んだら解らなかったと思うの」
博士:「何が?」
みみずん:「神津って、“探偵物のお約束”を知らない人には解りにくい気がする。
  なまじ神津がまともすぎて明智小五郎とか金田一耕助を追いかけるような魅力がない分、牽引力が弱いんだと思うの」
博士:「それはあるじゃろうなあ。
  まあ、世の中にはその完璧ぶりが気に入っている人(柏木がそう)も居るから難しいが」
みみずん:「柏木は変わってるもん。
  でも一応、おすすめはキャラクターが好きになった人向けとそうじゃない人向けに分けておくね」


みみずんオススメ(キャラ惚れしない人向け):
 『刺青殺人事件』デビュー作
 『妖婦の宿』←これのトリック好き。
 『人形はなぜ殺される』難しいという評価もあるけれど、おすすめ。

(キャラが気に入った人向け):

 『刺青殺人事件』デビュー作
 『我が一高時代の犯罪』推理小説としてはものスゴイ粗がありますが、青春物として読めば違う味がアリ。
 『挽歌』字が正しく変換できない…しくしく。
  他作品への順番に読むと神津の変遷が解ります。


博士:「出来がいい作品がキャラクターの魅力を生かし切っているかというとそうでもない訳で、こんな結果になるのか」
みみずん:「そゆ事だよ〜」


おまけ.金田一京助

みみずん:「この元締の言ってる金田一京助さんってだぁれ〜?」
博士:「それはの、言語学者の人じゃ。
  金田一耕助は本当は“菊田”という人がモデルだったので“菊田一”にする予定じゃったらしいが、あまりに読みにくいんで、横溝氏が戦争で疎開する前にご近所だった金田一さんの名前を使ったらしい」
みみずん:「へえ〜。じゃあ、金田一耕助の名前の元ネタな人かぁ。
  ところで疎開ってなぁに?」
博士:「それを説明するのは面倒臭いから、辞書を引きなさい」
みみずん:「地球用語辞典・疎開:戦争が起こった時、安全な場所へ避難する事」
博士:「ニュアンスは違うが、地球用語辞典にしてはまともじゃな」
みみずん:「例:ガミラス星に侵略されかかっている地球からイスカンダル星へ疎開する
博士:「甚だしく違うわ!!」
みみずん:「え〜、みみずんこれしか辞書持ってないよ」
博士:「図書館で調べなさい!
  全く、せっかく辞書繋がりだったのに。
  ちなみに金田一さんは金田一耕助のおかげで読みにくい名字が正しく読んでもらえるようになって助かったらしい」
みみずん:「世の中には色々な事があるね」


みみずん:「この辺でまとめないと、文字マニアの人以外は疲れちゃうね」
博士:「うむ。こうやって日本三大名探偵を並べてみて感じた事なのじゃが、やはり推理小説(ミステリー)と探偵物はちょっとだけ違うな」
みみずん:「それはあるかも」
博士:「で、ここで『MISSING PARTS the TANTEI stories』に戻ってくる訳じゃが…」
みみずん:「まさかここまで全部前フリ?!」
博士:(ニヤリとしている)「単なる推理小説(ミステリー)ならば話さえ破綻していなければ許されるが、“名探偵”と名うつ以上、探偵に魅力が無くてはいかん」
みみずん:「で、『MISSING PARTS the TANTEI stories』は?」
博士:「ギリギリ合格
みみずん:「ギリギリ?」
博士:「うむ。真神恭介は1話目では人間関係の把握の仕方が遅いという問題点を持っているが、2話目では推理能力を発揮しているし、まあ魅力有る方じゃな」
みみずん:「1話がピアノからみなのも神津ネタかもしれないね〜」
博士:「…それは考えすぎじゃと思う」
みみずん:「じゃあ、とっくに推理は終わってるのに、仕掛けを他人にやらせて種明かしをする所とかが神津っぽいかなあ」
博士:「無理に神津っぽい所を探さなくてもいいじゃろう…」
みみずん:「これをやっちゃうのが、“まにあ”なんだよ」
博士:「そうか?」
みみずん:「博士が例えてた特撮でいえば、主人公が“本郷たかし”とかいうキャラだったら、やっぱり多少“らしさ”を求めちゃうのと同じだって」
博士:「何ちゅう適当な名前じゃ…」


 こんこんこん♪
 ←外壁を叩く音


?:「宅配便で〜す」
博士:「は〜い」
中越運送の人:「いやあ、バラ状星雲内のミステリーサークルさわやま星字べったら漬町の傍らの丘って住所を見た時には、どうやって届けようか悩みましたよ」
博士:「わざわざすまんのう」
中越運送の人:「いえいえ、ご利用ありがとうございます」


みみずん:「みかん来た〜?」
博士:「いや、本が先に届いてしまったようじゃ」
みみずん:「だってみかん注文したの一ヶ月前だよ〜?」
博士:「ここまで届けてくれる配送業者はなかなかおらんからのう
みみずん:「わ〜ん! みかん〜


 欲しいのは箱だけのくせに図々しいみみずんだった。

博士:「仕方がない、地球に帰るか…」


 侵略宇宙人のみかん箱の為に地球に帰ろうとする博士。
 こんな博士に愛の手を。



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