鷹羽的ポーズ講座 その1 変身アイテムとの二人三脚
鷹羽飛鳥
更新日:2005年7月24日
 先日、元締が書いたとおり、一見簡単に思える仮面ライダーの変身ポーズは、細かいところまで考えるとかなり難しいものです。
 同様に、スーパー戦隊系の変身ポーズなども結構難しいです。
 特に『超獣戦隊ライブマン』以降は、変身アイテムのプレイバリューの一環となるよう変身ポーズが設定されているので、当然、変身ポーズの再現にはアイテムとの連動が不可欠になります。
 今回は、変身アイテムの歴史など紐解きながらお話ししましょう。


 元々、変身の真似というのは、明確な変身シーンを持った『ウルトラマン』以来、子供のごっこ遊びの重要なファクターとなっていて、小型の懐中電灯(ペンライトだとなお良し)をベータカプセルに見立てての変身ごっこなどが流行りました。
 …鷹羽は生まれていないので、直で見てはいませんが。
 『ウルトラセブン』でも、お父さんの眼鏡をウルトラアイに見立てたり、紙を切り抜いて作って変身ごっこをした人は多いでしょう。
 お母さんの化粧用コンパクトを使って『ひみつのアッコちゃん』ごっこをした人も多かったそうですから、この傾向は、男女問わないのですね。
 心理学的には、変身願望というよりヒーロー・ヒロインとの同一化願望のようです。
 鏡を見ると飛び込みたくなる人は、『仮面ライダー龍騎』より遥か昔、『ミラーマン』の頃からいました。
 え? バド星人?
 知らないなぁ。

 ただ、この頃は、変身シーンそのものに意味があり、商品展開として変身アイテムに重きが置かれていませんでした。
 『帰ってきたウルトラマン』に変身アイテムがないのは、そのせいもあるでしょう。
 もっとも、“郷秀樹とウルトラマンの意思が合致しないと変身できない”という部分が演出的に難しかったようで、次作『ウルトラマンA』では変身アイテムとして指輪が登場し、変身すべき状況になると指輪が光るという演出で、“好きなときに変身できるわけではない”ことを表していましたが、やはり商品化は意識されていませんでした。
 『A』では、北斗と南がはめている指輪がAの意思によって光ったとき、指輪を触れ合わせること(ウルトラタッチ)で変身するという設定になっています。
 知らない方のために一応説明すると、初期のAの変身は、2人がジャンプし、空中で向き合ったまま前方宙返りをして、その際2人の体が重なり合うというものです。
 これは、実際には1人の宙返りを合成で2人分にして向き合わせているわけで、現実には不可能な行動です。
 そのため、変身が子供に真似できないと保護者から突き上げられたということがありました。
 なにしろ、宙返りだけでも子供には無理です。
 そのため、途中から、2人が地上で駆け寄ってウルトラタッチするようになりましたが、それでもごっこ遊びで“南役をする子がいないとできない&変身すると南役はいらなくなる”といった不満は残っていたようで、とうとう北斗1人で変身するようになってしまいました。
 なんと南をレギュラーから外すために、“実は地球人ではなかった(月世界人)”という新設定まで加えて地球から追い出したのです。

 さて、そんな中、仮面ライダーの“光る! 回る! 変身ベルト”以来、変身アイテムは等身大ヒーロー物の定番商品となりました。
 とはいえ、このベルトはスイッチを入れたら風車が回りっぱなしのため、変身ポーズのどこでスイッチを入れるかというのが大きな問題でした。
 また、『超人バロム1』では、健太郎と猛が腕を組むバロムクロスで変身しましたが、後期には、ボップというアイテムを空高く投げると、2人がどこにいてもボップのところに飛んでいってバロムクロスできるようになりますが、これを見た子供が商品のボップを放り投げて壊したりするなど、劇中の変身ポーズとアイテムのギミックには微妙なズレがありました。
 こういった問題が初めてクリアされたのは、等身大ではありませんが、アニメ『ザ・ウルトラマン』のビームフラッシャーと『ウルトラマン80』のブライトスティックでしょう。
 いずれも、劇中の変身シーンと同様に使うことで光るギミックを持っていました。
 ウルトラシリーズでは、その後、変身アイテムがウルトラマンの体の一部(カラータイマー部や頭部)のデザインに近い形になるという方向に向かい、ポーズの方は軽視されていきます。

 逆に、アイテムとの連携に力点を置いたのがスーパー戦隊シリーズで、これは、シリーズの変身アイテムの発展の歴史でもあります。
 『バトルフィーバーJ』に始まるスーパー戦隊では、当初変身アイテムはブレスか指輪でしたが、商品化する前提ではなかったため、特にギミック等も仕込まれておらず、また、デザイン的にもサイズ的にもギミックを仕込めるようなものではありませんでした。
 これが、キャラクターウォッチのデチョンパで『大戦隊ゴーグルV』のゴーグルブレスが発売されたことで事情が変わり始めます。
 明確に、“変身ブレスが売り物になる”と、製作者側に意識されたのです。
 以後、『科学戦隊ダイナマン』から『光戦隊マスクマン』まで、デジタル時計内蔵のブレスが商品として発売されました。
バイオマン・テクノブレスチェンジマン・チェンジブレス

▲ 左「テクノブレス」(バイオマン) 右「チェンジブレス」

 この時点では、変身ポーズのラストでブレスが見えるようになっているだけで、特段ブレスに変身シーン関係のギミックが内蔵されることはなく、せいぜい『電撃戦隊チェンジマン』のチェンジブレスが、通信機形態と攻撃武器形態に変形したり、『超新星フラッシュマン』のブレス:プリズムフラッシュに劇中同様のフラッシュ機能が付いているくらいのものでした。
 なお、これらの商品は、サイズも劇中の小道具とほぼ同じ、というより、商品にちょっと手を加えて小道具として使っていることも多かったそうです。
 
 これが、『ライブマン』のツインブレスで、両手首にブレスをはめて変身ポーズを取ると、左のブレスが光るシステムを搭載したところから、変身ギミックの歴史が始まります。
ライブマン・ツインブレス。右側にあるのは、通販で入手可能なグリーンサイ用マーク。

▲ ツインブレス

ツインブレス箱側面部。
 これは、左右のブレスに磁石を利用したスイッチが内蔵されていて、左手を縦、右手を横にクロスするスペシウム光線の逆のようなポーズを取ったときに、2つのブレスが一定の位置関係になりスイッチが入るようになっていたものです。
 ライブマンの変身ポーズは、左拳を握り腕を立てて胸の脇に構え、ストレートパンチのように伸ばした右拳を90度起こして左腕に引きつけて腕をクロスするというものでした。
 ただし、画面上は右拳を起こしたときに、右ブレスにプリントされている動物のマークが正位置に見えるのですが、この向きにブレスを付けて本人が自分の右手を見ると、動物マークが上下逆転して見えることになります。
 また、劇中どおりにやろうとすると、位置的に左ブレスが右ブレスのベルト部分に触れることになり、磁石をブレス内に仕込めなくなるという問題点もあったため、商品では、付けている本人が腕時計のように見たときにマークが正位置になるようにして、ブレスの手前部分に磁石を仕込んでいました。
 つまり玩具は、正確には劇中のポーズに対応しておらず、劇中と同じギミックを仕込むにはベルト部分の改造が必要だったわけです
 なお、この玩具は、付属の動物マークパネルを右ブレスにはめることで、1つの商品でどのメンバーのブレスも再現できるようになっていましたが、これは商品化を意識しつつ各メンバーのアイテムに違いを持たせるためのアイデアです。
 『ライブマン』は途中でメンバーが増えましたが、この増員分のマークについても通販していました。

 

ターボレンジャー・ターボブレス

▲ ターボブレス

ターボブレス箱側面
 これ以後、変身ポーズは変身アイテムのギミックと連動するようになっていきます。
 『高速戦隊ターボレンジャー』のターボブレスは、左ブレスにゼンマイ式の回転機構を備えたファンが付いていて、ボタンを押すと同時に回転し、右ブレスはスプリングを使用したショックスイッチ(揺れるとスプリングがスイッチ板に接触して通電する)になっていて、マーク部分が光り、音が鳴るようになっていました。
 ターボレンジャーの変身は、両手を開いて前方に伸ばし、「ターボレンジャー!」の叫びと共に、拳を起こした左腕を斜め横にして胸の前に持ってきて、右手親指の側面で左ブレスのスイッチを押すというものでした。
 これにより、左ブレスはスイッチを押されてファンが回転し、右ブレスは腕の動きの勢いでスイッチが入って光るということになります。
 当然、顔は正面を向いたままですから、ポーズを取りながら左ブレスのスイッチを押すのには、それなりの修練を必要とします。
 スプリングスイッチが敏感すぎて、ポーズの途中で鳴り出してしまう(『RX』のサンライザーと同じ)という欠点はあったものの、なりきり系としては、かなりの出来でした。
 
 もちろんアイテムはブレスだけではありません。
 『恐竜戦隊ジュウレンジャー』では、ベルトのバックル部がダイノバックラーという変身アイテムになっていました。
 ダイノバックラーは、彼らの普段着のベルトのバックルになっていて、通常は金色地に「Z」と書かれた面が見えています。
 変身時は、まず、右腕を体の横側で上から下に回しつつバックル部に持っていきます。
 そして、バックル前面上部の取っ手を起こし、それを握ってバックルをベルトから外します。
 次に、バックルを右手に持ったまま、同様に右腕を回して、同じく体の左横側を下から上に回した左手と、体の正面で合わせます。
 この際、両手は肘を曲げた状態になっており、右手は甲側が上を向き、左手は軽く開いた状態で、甲側が下を向いています。
 そして、両手を前に出しながら「ダイノバックラー!」と叫び、両手首を回して上下を入れ替えると共に、取っ手に付いているボタンを右の親指で押すのです。
 ボタンを押すと同時にバックルが上下に少し開いて、ジュウレンジャーのベルトの形状に変わります。
 つまり、このときバックルの裏面が正面を向いた状態になっていますが、こちらの面がジュウレンジャー時のベルトのバックルなのです。
 これは、ベルトのバックルということもあって、ポーズを取りながらでも再現しやすく、動きもかなり派手で見栄えもいいという、なかなか理想的な連携になっています。

ダイレンジャー・オーラチェンジャー

▲ オーラチェンジャー

オーラチェンジャー・ギミック概要
 その後、ポーズとアイテムの連携は複雑化していきます。
 『五星戦隊ダイレンジャー』のオーラチェンジャーブレスは、右ブレスからオーラキー(先端がリング状になった板)を引き出して拳の方向に伸ばし、左ブレスのスリットに入れると、奥にあるスイッチがオーラキーの先端で押されて光る鳴るというものです。
 ポーズとしては、「気力!」で両手を前に突き出し、「転身!」で両手を胸の前に持ってきて左手でオーラキーを引き出して伸ばし、「オーラ!」で両手を拳が上を向くよう肘を曲げたまま体の外側に広げます。
 そして、「チェンジャー!」で右拳を倒して左手を殴るように突っ込み、オーラキーを左ブレスのスリットに入れるのです。

 もちろん、顔は正面を向いたままです。

 スリットは、貯金箱の投入口のような形状で、オーラキーより一回り大きいだけなので、ちょっとでも角度や位置がずれると入りません。
 しかも、オーラキーは、普段は右ブレスの内側に折り畳まれており、ブレスの拳側を軸に回転させて引っぱり出したものが、さらにスライドして一段伸びるというシステムのため、拳の先端くらいまでの長さしかなく、実際には拳を少し内側に曲げないと腕に拳が当たってキーを差し込めない上に、スライド・回転軸があるため、入射角が狂うと曲がったり縮んだりするという困ったちゃんでした。
 このため、この変身は相当難易度の高いものになってしまいました。
 どれくらい難しいかというと、この商品をそのまま撮影用として使っていた5人の役者が、1年間の撮影中、誰も一度も成功したことがないくらいです。
 つまり、撮影では、全てカット割で誤魔化していたわけです。

 ちなみに、元締も書いていましたが『仮面ライダー龍騎』のカードデッキの場合、ベルデ(高見沢逸郎)役の黒田アーサー氏が百発百中だったほかは、主役の龍騎(城戸真司)役の須賀貴匡氏が最後の変身シーン撮影の時に初めて入った程度だそうです。
 これは、撮影順の都合で、死の直前の変身ではなく、神崎邸での変身シーンだったとか。

 さて、このオーラチェンジャーは、“難しすぎて子供が真似できない”と保護者からクレームが付いたそうです。
 なんだか『A』のときと同じパターンですが、今回は商品に関するクレームにもなっている分、根は深いかもしれませんね。
 ともかく、そういった反響を受けて、6人目であるキバレンジャーのキバチェンジャーブレスでは、左ブレスは色以外そのままでしたが、右ブレスが、オーラキーと同じようなリングの付いたキバエンブレムという板状アイテムに変更されました。
 ポーズを取ろうとすると、それでも難しいんですけどね。
 ところが、次の『超力戦隊オーレンジャー』では、懲りずにスーパー戦隊史上最高の難易度を誇るパワーブレスが登場するのです。
オーレンジャー・パワーブレス…ではなく、キングレンジャー用の「キングブレス」キングブレス(パワーブレス)ギミック概要

▲ 写真は「キングブレス」(キングレンジャー用)

 これは、ツインブレスの逆で、右手を縦、左手を横にしてクロスするというポーズです。
 まず直立して右拳を頭の上を通るように高く掲げ、左手は拳を握って肘を曲げ、拳が上を向く感じで脇を締めます。
キングブレス箱正面部
 次に、左手も上に伸ばして右手と交差させ、「超力変身!」と叫びながら、両手を体の前側を通して腰の辺りまでもっていき、左右に広げて水平くらいまで回し、そこからキメのポーズに入ります。
 キメのポーズは、右手はブレスが正面を向くように、左はブレスが上を向くようにして腕をクロスさせます。
 このとき、左右のブレスのスイッチ同士をぶつけて押すわけです。
 右ブレスのスイッチは、ブレス表面の肘側の端にあり、これを押すと、ボタン付近にヒンジを持つバー(ストレージクリスタル)が起き上がります。
 左ブレスのスイッチは、腕時計のように見たときにブレスの側面手前側にあり、これを押すと、オーレンジャーのマークを象ったカバーが開きます。
 腕を組み合わせて同時にスイッチを押すことで、開いたカバーの下にストレージクリスタルが倒れ込むわけです。

 言葉にすると簡単そうですが、ここには
  1. 両手とも大きく動かしていて、腕同士をピタリと合わせることすら難しい
  2. 右のブレスのスイッチはベルトからある程度離れており、腕を激しく動かすとブレスが動くため、位置がずれる
  3. 左右のスイッチは、ほぼ同じ大きさで盛り上がっており、上手く中心を捉えないと当てたときずれて押せない
という難関があります。
 つまり、
  1. 右のブレスがずれないように腕を動かす
  2. 動かした両腕を、毎回同じ位置でピタリと合わせる
というテクニックが必要となるのです。
 腕を毎回同じ位置で合わせるだけでも、かなりの修練が必要なのに、ここにブレスのズレという不確定要素が加わるのですから、もう大変です。
 ベルトの固定が甘いと、腕を振り回した時点でブレスが外れてどこかに飛んでいくことになりますし、腕が筋肉なり脂肪なりで丸っこいと、拳を捻った拍子にブレスがそっぽを向いてしまうのです。
 一応、ベルトを巻いた上で、素肌に両面テープでブレスを固定すれば動かなくなるでしょうが、腕のひねりの影響で両面テープを貼った場所が正面を向かない可能性もありますから、かなり個人差が出ます。
 ちなみに、鷹羽はこの変身を練習していてブレスを吹っ飛ばしたことが2桁回数ありますので、イベントでの芸としてはお勧めしません。

 ところが、こんなに難しいにもかかわらず、6人目であるキングレンジャーのキングブレスは、カバーやクリスタルのデザインが少し違うだけの全く同じシステムでした。
 つまり、保護者からのクレームはさほどなかったと思われます。
 その理由は、なりきりアイテムの二面性にあります。
 つまり、ポーズに拘る大きなお友達と、なりきり気分を味わいたい小さなお友達では、求める方向性が違うということです。
 実は、この商品は、劇中どおりのアクションを決めようとするとものすごく難しいのですが、手元を見ながらやれば、簡単にできるのです。
 この点、オーラチェンジャーでは、オーラキーが右手首に固定されたブレスから生えているため、手元を見ながら左ブレスに差し込もうとしても、角度などの問題で却って難しくなってしまいます。
 文章にすると分かりにくいかもしれませんが、要するに、左ブレスのスリットを自分で見ようとすると、左手首を手の甲が右斜め前を向くよう捻ることになり、差し込み方向が手前から左前方という向きになってしまいますね。
 ここに、右手首に固定されたオーラキーを差し込もうとする場合、普通は上から覗き込みながら右手のオーラキーを突っ込もうとします。
 ところが大抵の場合、このとき右手を劇中どおり体に対して平行に動かそうとしますから、スリットの入口までは入るものの、その先に進めないわけです。
 で、強く押し込もうとすると、キーが縮まってしまう、と。
 スリットを見ながら、まっすぐ右手首を差し込むのはなかなか厄介です。
 しかも、ブレスの構造を理解していない子供には、どうして入らないのか分かりません。
 キバエンブレムは、固定された板状パーツを直接手で持つことで、これをクリアしたわけです。
 手で持っているなら、どうにでも角度を変えられるんですね。
 『激走戦隊カーレンジャー』のアクセルチェンジャーブレスも、これにならって、左ブレスのスリット(鍵穴)に、右手に持ったエンジンキー型のパーツを突っ込んで回す方式になっています。
カーレンジャー・アクセルチェンジャーと、そのギミック概要

▲ アクセルチェンジャー

 この後、スーパー戦隊シリーズでは、左右のブレスを連動させつつ子供に再現しやすいギミックを持たせることが難しいと判断したのか、両手に変身ブレスを付けるシステムを廃しており、ギミック発動に伴う難易度は大きく下がっています。


 さて、変身ポーズとアイテムの話だけで随分長くなってしまいました。
 どうして再現の難しいポーズをわざわざ考えるのかや、ヒーローのポーズのもう1つの頂点:名乗りポーズとの関係などについては、また次回にしたいと思います。


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