変身ポーズ
後藤夕貴
更新日:2005年6月19日
 このサイトを訪れる方の中で、主に特撮関連のページを見にいらっしゃる人のいくらかは、特撮ヒーロー物の「変身ポーズ」を真似して遊んだ事が一度くらいはあるのではないだろうか?
 また、特撮マニアの方でなくても、昔そんな遊びをやった事があるという人は居るだろう。

 いわゆる「変身ゴッコ」という奴で、子供にとってはごく普通の遊びだが、いい年こいた大人の中にも子供用の変身玩具を使ったり(あるいは使わなかったり)して、劇中のポージングを可能な限り忠実に再現したりする人が居る。
 理解のない人にとって、これはかなり奇異な目で見られてしまう行為なのだが、逆に同好の士が集まった場で行われた場合は壮大な「一発芸」に昇華し、凝れば凝るほど受けが狙えるようになる。

 かくいう当サイトでも、重鎮・鷹羽飛鳥を筆頭に、その弟子・後藤夕貴が日々変身ポーズ研究に血と汗を流し、時には片眉を剃り落として山に篭り、山小屋の周囲の大木がすべて枯れるまで、ポージングの修行に明け暮れるのだ。
 また、毎年夏に開催している「オフ会合宿」では、お客様参加による変身ポージングネタ披露大会が催されている。

 というわけで、今回は変身ポーズのお話。
 一般生活には何の意味もない「なりきり」に燃える漢達の、こだわりに突っ込んでみたい。



 変身ポーズの真似。
 昭和30年代後半から40年代前半にかけて生まれた人達にとって、変身ポーズの代表といえば「仮面ライダー1号・2号」だろう。
 腕を水平または斜め上に掲げ、声を少しくぐもらせて「ライダぁ〜、変身」とか「変〜、身っ!」とか囁く。
 中には、“鏡写し”のように、左右逆転でポーズを記憶してしまっている人も居る。
 これは、ある程度仮面ライダーを知っている世代の大人にとっても認知度があるネタなので、適当に腕を上げて「変身」と叫ぶだけで、結構ウケが取れたりする事もある。

 だが、こだわりのマニア様達にとっては、そんなレベルではいかんのである。
 「ひょっとして、こいつホントに変身するんじゃねぇか?」とすら思わせてしまうほどの迫力を発揮する事こそ、本道なのである。

 例えば「仮面ライダー1号」の変身ポーズ。
 簡単に説明すると、これは右手を左斜め上に掲げ、左手を握って腰の脇に引き、右腕を時計回りに回転させるという動きだ。
 右手が斜め右上に位置した時、今度は右手を腰の脇に引いて、入れ違いで左手を右斜め上にシュパッと伸ばす。
 それぞれの動きの中で、腰のスイングを加えるのも重要。

 だいたいの人はこういう行程で覚えていると思うのだが、我が師・鷹羽氏から言わせると、これでは「甘い」
 動きが足りなすぎるからだ。

 昔、木刀を片手に一日28時間も筆者を鍛え上げていた鷹羽師は、「ライダー1号の変身の初動は“左手”にある!」と申された。
 どういう事か?
 本郷猛の変身ポーズ(新1号以降の、例のポーズ定着後に限定)を良く見ると、実は一番最初に動いているのは左手で、斜め上に掲げる右手の動きは、二番目以降のモーションになっている。
 左手を軽く胸の前にかざし、それに合わせて肩を動かす。
 無論、その動きに連動させ、腰をスイングさせる事も忘れずに。
 そうして左手を遊ばせ、貯めを作ってから、一気に右手を伸ばすのだ。

 ライダーをおおまかにしか知らない人がポーズを取ると、この左手の動きは必ずと言っていいほどオミットされる。

 だが、この左手フラリ→右手伸ばしの一連の動きが見事に決まった瞬間、場の空気は明らかに一変する。
 「仮面ライダークウガ」に登場したグロンギ怪人ゴ・バダー・バが、このモーションを含めた変身ポーズを劇中披露して、一部の濃いファンをびっくりさせたのは有名。
 腕をゆっくり回転させる際の「静」と、瞬間的にまっすぐ伸ばす「動」が組み合わされた、実に完成度の高いポージングなのだ。
 熟練者になればなるほど、まるで劇中の「ピイィィィィィン!!」という効果音が響いたかのような錯覚を、見ている側に与えてしまう。
 時代劇でも、素晴らしい流れの殺陣を見ると思わず言葉を失ってしまう事があるが、あの雰囲気にとても良く似ているのだ。

 以前、鷹羽師が仕事場の飲み会で「変身ポーズ」をせがまれた時、つい身体に染み付いたポージングをマジ披露してしまい、場の全員を絶句させたという記録が残されている。
 その時見ていた同僚のAさんは「氏の腰に、光るベルトが見えた(ような気がした)」とまでおっしゃっていた。

 仮面ライダー2号になると、今度はシャープな腕の動きではなく、緩やかで流れるような動きの最後に、力強く踏ん張るような動作が加わり、アクセントになる。
 この「緩やかな流れ」の再現がとても難しく、中には、何年練習しても納得のいく動きが作れないと嘆くファンも居る。
 脱力したようにふわっと左横に伸ばす両腕、続けてそれを右方向へ伸ばす。
 一瞬だけピッと力がこもり、動きがシャープになる。
 次に、腕全体をなめらかに回転させて左側に移動させ、最後に左肘を曲げて力こぶを作り、その脇に右拳をかざす。
 仮面ライダーの変身ポーズは、全体的に単純で簡単なものばかり、と考えている人が多いというが、決してそういうわけではないのだ。
 すごい人になると、話数によって微妙に異なるバージョンをすべて記憶・再現する事もできるらしい。
 また、指先・腕・肩・腰・脚全体・膝・つま先の位置、脚の開き幅のすべてが忠実じゃないと、変身ポーズができると認めない人も居る。
 さすがに放映から三十年以上も経っている作品なだけあって、こだわりを持つ人は多いという事なのだろう。
 誰だ、変身ポーズの途中でわざわざブルゾンの前を開く人は!


 仮面ライダーV3になると、今度は1号と2号両方の変身ポーズ(の要素)が合わさったものになる上、宮内洋氏独自の動きが加わって、より再現が難しくなる。
 なにせ、今度は全身のスイングというモーションが加えられるのだ。
 また静と動の動きも複数箇所に及び、さらには表情にまで強いこだわりが求められる(場合もある)。

 その後、Xライダーの二種類の変身ポーズや、カット割りの都合で腕をこする回数が一定していないストロンガーの変身、一通りのポーズを取った後、右肩を前方に出して斜め立ちするという行程が忘れられがちなスカイライダー、ロングバージョンとショートバージョンが混在するスーパー1、歴代最大の腰の動きを要求されるゼクロスなどを経て、仮面ライダーBlackに至る。


 「仮面ライダーBlack」と「仮面ライダーBlack RX」は、恐らく昭和ライダー系列の流れの中では、もっとも複雑な変身ポーズを持っているのではないだろうか。
 まずBlackだが、これは2号の変身を逆に辿るような動作から、1号のモーションへと移行し、部分的にV3の動作を加えて「左右反転」させ、最後は2号の変身の初動姿勢で完結するという、大変複雑な構成の変身ポーズになっている。
 しかも、それぞれの動作部分は「なんとなく旧ライダーのに似ている」という程度で、決してそっくりそのまま流用しているわけではない。
 また、従来のものになかった「力みながらの溜め」「表情の変化」というオリジナリティが加わっていて、大変面白い。
 その分、それぞれの動作を把握していないと、今ひとつ決まらないという条件の厳しさが付きまとうのだ。

 まず、肩幅と同じくらい両脚を開き、右肘を曲げて前腕を前にかざし、左手を前腕の後ろ側へと回す。
 この動きに連動して、顔も右肘の方向へ回さなければならない。
 この時、両手は拳を握るのだが、ググッと力を込めつつ固め、僅かに手首を回すといい。
 腕を筋肉の力でブルブル振るわせながらゆっくり顔を上げ、相手を眼力でぶっ殺すかのように、上目遣いで睨む。
 この時、間違っても来週の「ふたりはプリキュアMaxHeart」の事なんか考えちゃいけない。
 上半身の筋肉を精一杯プルプルさせたら、溜めを解放し、腕の動作に移る。
 左腕を腰まで引くのと同時に、右手の指を揃えて伸ばし、左斜め上方向に滑らせる。
 その直後、間髪入れずに左右の腕の形を逆転させる。
 この切り替わりのスピードとリズムは、本編の動作を見て覚えるしかない。
 そして、右斜め上に向けられた左腕をゆっくりと回し、肩となんとなく水平に(実際はやや斜め)なるように左方向にまっすぐ伸ばす。
 この時点では、右腕はまだ腰横で待機。
 ここで“変身”の「変っ!」という部分まで、叫んでおかなくてはならない。

 さて、ここからが問題だ。
 次は「身っ!!」と叫ぶまでのモーションに移行するわけだが、ここにトラップがある
 右腰で待機させていた右腕を右側に横伸ばしして、左腕を胸の前にかざすのだが、左腕を動かす手前の一瞬だけ「右手を胸の前にかざす」という動作が加わる。
 これがほんの一瞬の動きのため、見落としている人が多い。
 つまり「左腕伸ばし」→「一瞬右手を添え」→「右手伸ばし・左手添え」という三段階の動作を瞬間に行うわけだ。
 あまりに一瞬のため、胸の前に添えた右手がまともに上がりきらないのだが、これはこれで問題なし(劇中でも、V3のように綺麗に並べ揃えられた事はない)。
 後は、テレビのフラッシュに反応させてあなたのキングストーンを光らせれば、変身ポーズ完了、となる。

 …文章で説明すると、長いなあ。

 まさに「静と動」「溜め」の動きの集大成というべきポージングだが、実はこれには別バージョンがある。
 細かな違いを除くと、代表的なものは劇場版二作目「恐怖! 悪魔峠の怪人館」などで見られる「溜める前に右腕を振り回す動作」が加わったものが有名だ。
 これは溜める前に右腕を右斜め前方にかざし、ここからさらに右側に回しこみ、連動させるように左腕を巻き込んで溜めの形に移行するという流れになっている。
 このポーズは見事に決まると、ため息が出るほど美しいポーズになる。
 筆者は、この劇場版での変身ポーズは歴代すべての変身ポーズの中で最高の完成度を誇っていると、今でも固く信じている。


 続いてRXだが、これは溜めと静の動きの差があまり目立たなくなり、むしろ動が強調されるポージングとなった。
 Blackと反対で、今度は左肘を曲げて前方にかざし、この段階で「変身!」と叫んでしまう。
 その後、左腕を腰に引くのと同時に右腕を真上に伸ばし、顔もそちらに向ける。
 そしてゆっくり腕を下ろし(まるで手刀をかざすように)、顔も正面を向かせる。

 ここからが、スピード勝負。

 右腕を、先の状態からそのまま左側に回し、すぐに右側へと移動させる。
 そして右腰部に引くのだが、これと同時に今度は左腕を右側に伸ばす。
 これを多少ゆっくり(それでも他の動きよりは早く)左側に回転させ、最後に勢い良く肘を曲げ、最初のモーションへと移行させる。
 この「勢い良く肘を曲げる」という動作は、シリーズ初の変身連動型アイテムとなった「DX変身ベルト(サンライザー)」を作動させるために必要な動きだったりする。
 送信機であるリストビット(RXの左手首にあるブレスレット状パーツ)が振動する事で電波が発信され、受信機であるサンライザー側が反応してベルトが回転を始めるという、大変凝ったギミックが組み込まれていた。
 ただし、実際はちょっとした振動ですぐに反応してしまい、ポーズの最中にベルトが勝手に回転を始めてしまうという問題があった。
 そのため、凝る人は「最後までベルトを誤動作させないように調整しつつ変身ポーズを取る」練習を行った。
 鷹羽師も、これを習得するためにブラジルに渡ったほどだ。

 玩具の動作を考えなくても、動きの複雑さとスピード調整を求められ、玩具を絡めると、極限までブレを押さえた動作を求められるという、ある意味究極の変身ポーズを持つRX…。
 先ほど、Blackと併せてもっとも複雑と表現した理由は、こんな所にもある。


――と、さりげなく途中経過を省いて(笑)。

 仮面ライダークウガから始まる「平成ライダーシリーズ」は、いずれも何かしらのアイテムとの連動を求められるポージングになっており、その分、必要とされる体のダイナミックな動き(の複雑さ)は減った。

 だが、決して簡単になったわけではない。
 それどころか、かえって難しくなってしまったと言ってもいい。

 「そんな事はない!」とお思いの方もおられると思うが、では、実際に各アイテムを装着した上でポージングを行ってみよう。
 まず、だいたいの人は最初にどこかで蹴躓く筈だ。
 それはなぜかというと、「アイテムに触れる(あるいは起動させる)」という行程が、予想以上にシンクロさせづらいからなのだ。

 クウガの変身玩具「ソニックウェーブDX変身ベルト」は、四つのモードセレクトスイッチと一つの起動スイッチが配置されている構造だ。
 最初にクウガのフォームを選択するセレクトスイッチを押し、それから左腰横部分の起動スイッチを押すと、風車部分が回転するという仕組みになっている。
 この回転時、最初に押したセレクトスイッチに応じて、四色に光り輝くのが特徴(実は隠しボタンを押す事で、もう一色加わる)だが、この一連の動作をすべて変身ポーズ内で行わなくてはならないのだ。

 まず親指を上側に向け、腹部の辺りに両手をかざす。
 劇中では、この直後に体内からベルト(アークル)が発生するわけだが、この時腹部にかざした手の親指で、セレクトスイッチをこっそり押しておく
 次に、左斜め前方に伸ばした右手を右方向へゆっくり回し、その後、ベルトの左側部分で待機させていた左手を強く押さえて、起動スイッチを入れる。
 最後に、回転し始めたベルトから手を離し、両腕を斜め下方向に伸ばせばポーズ完了。
 このように「どこでどのスイッチを入れるべきか」というのをしっかり把握した上でポージングを取らなければ、とてもマヌケな結果になってしまう。
 ちなみに、クウガは第二話では微妙に変身ポーズが異なっており、ベルト出現までにいくつかの手順(顔の前で両腕交差など)が追加されている事にも注目したい。

 仮面ライダーアギトの場合、ベルトを起動させるまでのポーズ行程が都合四種類あるが、いずれも、最後に両手でベルトのサイド部分を叩くという動作が必要になる。
 この「腰のサイドを両手で叩く」という動作は本来ものすごくかっこ悪いものなので、これを如何に自然かつ格好良く見せるかという所に、ポイントが集中する。
 「叩く」事そのものは簡単だが、こういった所に隠れた難点が含まれている。
 アギト序盤の頃の変身ポーズがあまり格好良く決まっていなかった理由の一つに、この動作の工夫が今ひとつだった、というのがある。
 また、ギルスの変身も、腕の構えを解いた後に両腕を腰まで引き、片膝を上げつつ空高く飛ばなくてはならないため、決して簡単ではない。
 拘る人は、この時点で分身する必要があるため、さらなる修行を積まねばならない。
 友達に横に並んでもらって再現、では生ぬるいのだ。
 ここはポーズを極めるために、是非とも不完全なアギト覚醒に至っていただきたい。
 G3シリーズは、ユニット開発段階から準備を始める必要があるだろう。

 アナザーアギトは…。
 とにかく、あの「腰の入ったへっぴり腰」の再現にすべてが集約するが、変身直後、右肘を曲げて前にかざし、左腕を腰の横に引き、膝を僅かに落として下半身の重心を落とすという「戦闘時の構えへの移行」にも拘っていただきたい。
 腕を交差させた時点でポージングが終了していると勘違いしている人も多いようなので、ここは要チェックだ。


 次の仮面ライダー龍騎からは、突如全体的な難易度が上昇する。
 なにせ、カードデッキをVバックルに収めるという行程が入るのだから。
 これが、一見簡単に見えて凄まじく難しい。
 テレビの動作ではなく、実際の動きとしての「龍騎系ライダーの変身」を見てみよう。

 まずデフォルトポーズとして、左手で(タイガのみ右手)カードデッキを前方に掲げる。
 次に、カードデッキを握ったまま、それぞれのポージングを行う。
 ポージングが終わった時点で、左手(タイガのみ右手)に持ったデッキを、ベルト(バックル部)の左側からスロットインさせるわけだが、ここで、手の中のデッキの向きに注目していただきたい

 忠実に劇中のポーズを真似ている場合、差し込む直前の段階で、カードデッキの上下が必ず反転している筈だ

 これは、変身ポーズ初動時、掲げたカードデッキの上辺に人差し指から小指、下辺に親指を添えて支えている事に原因がある。
 カードデッキを持った手を腰の横辺りまで引き寄せると、自然に手首が返ってしまうために起こる生理的な現象だ。
 無論このままスロットインさせるわけにはいかないので、実際の撮影では、スロットインさせる直前にカット割が行われ、いつのまにかカードデッキの天地を逆転させている。
 そんな訳で、変身ポーズの真似をする場合、どこかでカードデッキをひっくり返す行程を作らなければならない。
 これがあるため、龍騎系ライダーの変身ポーズは「どこかでアレンジを加えないと絶対再現しきれない」という、大変複雑なものになるのだ。

 それだけではない。
 仮面ライダー龍騎やナイト、ガイのように、腰を大きく捻る動作が入る場合、カードデッキをスロットインさせる「狙い」が付け辛くなる。
 要するに、腕の位置が大きく動いてしまうため、咄嗟に、どの辺りにVバックルがあるかわからなくなってしまうのだ。
 初めてVバックルを装備してポージングをする人のほとんどは、全然見当違いの場所にスロットインさせようとしてしまうだろう。
 だから、ただ右手を斜めに伸ばすだけ“のように見える”龍騎の変身は、とてつもなく難しい事になる。
 これは、玩具を実際に装着してポージングをしてみない限り、絶対に気付かない難点だ。

 カードデッキへのスロットインのさせ方が、ライダーごとに微妙に異なっている事にも注目したい。
 左手でカードデッキの側面を押して挿入するゾルダタイプや、真横から放り込むように流す王蛇タイプ、また親指と小指でガイドを作り、他の三本指でデッキ表面を撫でるように差し込むベルデなど、バリエーションは意外に多い。
 しかも、いずれも大変真似しづらい動作だ。
 これは、スロットインの画面が別カットになっているために発生している「本来ありえない動作」だからこそ、感じられる違和感だ。
 もちろん、工夫すれば限りなく近づける事は可能だが、並大抵の難しさではない。
 しかし、王蛇変身ポーズのように、投げ込むようなスロットインが見事に決まると、これはたまらない爽快感に発展する。
 他にも、インペラーのようにスロットインの際に右手が独特の形を作っているというケースもある。
 このように、目立たない部分にも様々な違いがあるため、いずれも決して簡単ではないのだ。
 ほとんどポージングのないリュウガにしても、最初の難題「スロットイン」があるため、なかなかスムーズには行かない。
 また、ベルデのように「指を鳴らせないとイマイチ締まらない」という、いかんともしがたい要素を含んだものもある。


 そして、最高に難しいとされる龍騎系変身に、タイガがある。
 他と逆の右手でデッキをかざし、直後に高速で両腕を前面で交差、左手の甲を前に向けた状態で右斜め上方向に持って行き、同時に右手をVバックルの左側に添える(当然、この時点でカードデッキは正位置をキープしている)。
 次に、左手をくるりと反転させ、「変身!」と叫んだ後、いつのまにかひっくり返されているカードデッキを、“姿勢を維持したまま”スロットインさせる。
 ちなみに、左手を伸ばした時点で、身体全体も右方向に少し傾ける必要がある。
 スロットイン後、伸ばしたままだった左手を再び返しながらぐっと握り、左腕の角度を維持しながら、腰の方向にゆっくり引く。
 これを、「スロットインを成功させる」という条件を満たした上で再現させるには、凄まじい練習が必要になる。
 筆者は一応これを再現できるが、それは放送時に発売された「トイザらス限定Vバックル・13ライダーセット」を使った場合の話で、後述する「コンプリートコレクション」のもので再現できる自信はない。
 また、両腕交差→左手首返しまでの動作のスピーディさときっちりした留めと、微妙な「貯め」を作るのが難しく、スロットイン以前にこれをクリアする必要がある。
 左手首をクルッと返す動作も意外に難関で、他のヒーローの変身ポーズを習得した人ほど、この時「手の平を前方に向けた状態で伸ばしてしまう」というクセが出やすい。
 これらすべてを、すべて視点前方固定の状態で行うのだ。

 龍騎系ライダーの変身ポーズの難しさは、各役者も実感していたそうで、実際の撮影時にまともにスロットインさせられた人はほとんどいなかったそうだ。
 しかし唯一、黒田アーサー氏(仮面ライダーベルデ)だけは、最初からスムーズに成功させ続けたという。
 スタッフ一同、とても驚かされたというから、撮影用プロップは玩具版よりスロットインが難しかったのかもしれない。

 では、このスロットインをどうやればうまく行えるものかを、ちょっと考えてみよう。
 龍騎系ライダーには「(最初から最後まで人が演じられるという意味での)完璧な変身ポーズ」というものが、実質的に存在しない。
 そもそも、先に述べたようにカードデッキの天地が途中で逆転してしまうのだから、これを正常な位置に修正するためのアレンジは、絶対必要なのである。
 つまり、完全に劇中のポージングに拘りすぎてはいけないという事だ。

 スロットインの成功率を上げる手段に、こんなものがある。
 まず所定のポーズを取った後、手の中でカードデッキを回す
 デッキを支える親指を前に伸ばし、逆に四本指を引いて、カードデッキを180度ひっくり返してしまうのだ。
 この時、紋章部分が手の平側に来る事になるが、それでOK。
 その後、手の甲を前面に向ける形(手でカードデッキの紋章部分を覆い隠すように)でスロット部に持っていくわけだが、この時、カードデッキを抑えている親指を解放し、横に伸ばしておくといい。
 なぜなら、この親指をVバックルのスロット部周辺にぶつける事で、挿入位置の目安を測れるようになるためだ。
 伸ばした親指のどこかにバックル部分が触れれば、挿入部の位置はぐっとわかりやすくなる。
 あとは位置を微調整して、カードデッキの一辺部分を挿入部にはめ込んでしまえばいい。
 ここまで決まれば、あとは挿入は自在。
 浅倉型でも真司型でも、高見沢型でも自由に切り替えられる筈だ。

 ただし、ここでも例外になるのが「タイガ」だ。
 これは、デッキを持つ手が反対の上、挿入直前まで紋章部分を前面にかざし続けなければならないという過酷な条件が付くため、デッキを反転させるのも、挿入部を探すガイドを作るのも一苦労だ。
 こればかりは、もはや慣れるしかない。
 一応、手のどこかがベルトの一部に触れていると、意外に位置の把握がしやすくなるので、その辺を研究してみるのがいいだろう。

 とにかく、どんなに忠実なポージングであろうと、カードデッキがスロットインできなければ全然決まらないというのが、龍騎系ライダー変身ポーズの現実なのだ。

 そういえば、龍騎には擬似ライダー「オルタナティブ・ゼロ」というものが居て、こちらも独自の変身ポーズを持っている。
 ところが、この変身ポーズは物理的に再現不可能である事が判明しているため、ここでは触れない。

 「え? でも、ただデッキを上に投げて、それをキャッチするだけでしょ?」という人は、画面をよおぉぉく見ていただきたい。
 オルタナティブ・ゼロの変身行程は…
  • 右手に持ったカードデッキを、真上に投げる(腕全体ではなく、肘のスナップ&前腕の動きで投げているっぽい)
  • 右足を一歩前に踏み出し、右肩をわずかに前方に向けたような姿勢で「変身!」と叫ぶ
  • 落下してきたカードデッキを、右腕を伸ばしてキャッチする
  • カードデッキをベルトにスロットイン
 ――おわかりだろうか。
 特徴的な動きを拾っただけで、「どれだけ高くデッキを放ったのか」「位置がずれているのにどうして落下してきたデッキを正確にキャッチできるのか」という疑問が発生するのだ。
 まして、落下中のデッキを「腕を伸ばして」受け止めるという事は、想像以上の滞空時間があったという事になり、投げ上げた高さも数十メートル単位では効かない筈だ。
 ほんの数秒の滞空時間でも、実際は10メートルを軽く越えている場合がある。
 こんなの、室内はおろか天井のない野外でも再現不可能。
 たとえアレンジを加えたとしても、落下してくるデッキが気になってとてもうまくこなせっこない。
 きっと香川教授は、相当な腕力と大胆な精神、そして物理法則をも無視して無理を押し通すほどの自我の強さ、さらにはこんな変身ポーズでカードデッキを落としてしまった事がないという、常人離れした運の良さを持ち合わせていたに違いない。
 
 あ、そうか。
 こんなところで運を使い切ってしまったから、最期はあんな死に方だったのか。
 納得納得。

 
 では、携帯をベルトに刺すだけの555系ライダーの変身ポーズは、簡単に違いない! …と思った貴方は甘い
 むしろ、こちらの方が龍騎系ライダーよりも難しい。
 ファイズの変身を参考に、難しい理由をピックアップしてみよう。
(以降、デルタ以外の各ライダーのフォンは、すべて「携帯」と統一呼称する)
  • 携帯の方を一切見ないで、変身コードを的確に打ち込む必要がある
  • 手首のスナップで携帯を閉じなければならない
  • 左腕を(1号ライダーの変身のように)一度遊ばせ、腰のスイングを行いつつ、右手を上に掲げなければならない
  • そのまま携帯をまっすぐに下ろし、ベルトのバックル部分に突き立てる(携帯を受け止めるトレイ部分に命中させる)
  • バックルに差し込む直前に、手の中で携帯の向きを変えなくてはならない
 これらをすべて、真正面を向いたままで行うのだ。
 まず、間違いなく携帯とベルトの大衝突が発生する。
 また、左腕の遊びをうっかりオミットする人も多いので、注意されたい。
 
 カイザに至っては、コード入力の後に「携帯受けのトレイを斜めに傾けた状態で待機させておかなくてはならない」という条件が付加される上、「商品購入段階からの準備が必要になる」というとんでもない条件が加わる。
 とにかく、トレイが斜め状態でロックされない事には、草加的カイザ変身は再現不可能なわけだ。
 これは、ファイズ変身よりも命中させづらい。
 劇場版での啓太郎カイザの変身の場合、ファイズのようなモーションに加えて「携帯を両手で押さえて真下に下ろす」という特殊な動作が加わる。 
 当然、この時のカイザドライバーのトレイは、上を向いていなければならない。

 手の中で携帯を回転させて、向きを調整するという動作が、ファイズと違っているという事にも注意していただきたい。
 ファイズの場合、携帯の正面部分を前方に向けた状態で下ろすわけだが、バックルに差し込む手前で手首の向きが変わってしまうため、手の中で向きを変えないと、携帯を後ろ向きに突き立ててしまう事になる。
 龍騎のカードデッキの時のように、指の力でさりげなくクルッと転回させるわけだ。
 ところがカイザの場合は、「携帯の向きを維持したまま、差し込む手の向きだけ転回させる」という、似ているようで全然違う動きが求められる。
 変身ポーズの初動段階で、すでに携帯の向きが決定されてしまうため、ファイズのように途中でこっそり変更する事ができないのだ。
 これが、実際にやってみると結構厳しい。
 最初は手の平側を前に向けているのに、バックルに差し込む時には手の甲側を前方に向けなくてはならないのだ。
 こんな条件を満たした上で、斜め向きで携帯を差し込むわけだから、もう大変だ。
 この辺りは、大きな違和感を覚えさせない範囲のアレンジを盛り込むべきだと、筆者は思う。

 意外な伏兵が「デルタの変身」だ。
 この際「玩具のデルタドライバーに音声入力を認識させるのが難しい」という現実には目を瞑ろう。
 それより問題なのは、デルタフォンを右腰部分に突き立てるという動作だ。
 実は、デルタフォンの接続部分(いわゆるジョイント)は、デルタフォン側もデルタドライバー側もファイズやカイザのものより小さく、その分狙いを付け辛くなっている。
 そのため、的確にカチリとはめ込むのは、至難の業だ。
 また、ベルトの接続位置が少しでもズレてしまうと、狙いを定めるポイントが大幅に変わってしまうという一面もある。
 ファイズやカイザよりも、影響が大きいようだ。
 ウエストサイズが豊満な方の場合、何かしらの方法でベルトを延長させてしまうと、デルタフォンが接続されるコネクタの位置が前方にズレてしまい、右腰横ではなく「お腹の右寄り」に刺さなくてはならなくなってしまう。
 これはかなりみっともな……もとい、ポージングへの影響が大きすぎる。
 
 劇場版に登場したサイガやオウガにしても、前方を向いたままベルトに刺すという行程がある以上、やはりそれなりに難しいようだ。
 特にサイガの場合、携帯の方を見ないで投げ上げ→キャッチする必要がある。
 これは、サイガ(レオ)役のピーター・ホー氏も苦労させられたそうなので、実際にやるとなかなか難しいのだろう。
 どうしても、無意識に携帯の方を向いてしまうそうだ。


 「仮面ライダーブレイド」系だが、これは一部を除き、玩具連携とは別な部分に難易度ポイントがある。
 指先の形状と、腕の動作の切り替え、ブレイバックルのターンスイッチに触れる行程を必要とするブレイド変身や、スライドさせる部分が大きいため、ある程度のアバウトさが容認されるレンゲル変身は、まだいい方だ。

 一番やっかいなのは、実は結構複雑な変身ポーズになっているギャレンだ。

 ギャレンの変身ポーズは、本編中でもあまり出てこなかった。
 その上で、回によって微妙にモーションが違っていたりする。
 とりあえず、代表的なものとして「雪山でのポーズ初披露」のシーンをピックアップしてみよう。

 まず、左拳を握り、手の甲を下側に向け、前方に(鈍いボディブローを打つように)差し出す。
 その後、左腕を引いて拳を腹の前(右側)に向け、そこから肘を回転させて拳を左側(外側)へ向ける。
 この四つの動作と連動させつつ、右腕を外側から内側に回転させ、左拳を外側に向けたのと同時に、右手でバックルのスイッチを引くのだ。
 こうして文章にするとわかりづらいが、とにかく、右腕と左腕でまったく異なる動きを求められる上、最初と最後を完全に連動させなくてはならない。

 カリスの変身は、静かで単純な動作だが、これまた「正面を向きつつカードをバックルにラウズさせなければならない」という大問題がある。
 なんだか、龍騎→555→ブレイドになるにつれ、だんだん命中させるべきポイントが狭くなっているような気がする。
 


 近年、高年齢対象の変身アイテム玩具として、「仮面ライダー555」のファイズドライバー一式、「仮面ライダー龍騎」のVバックル&13個のカードデッキセット等が発売された。
 これらは、それぞれ三万円という高価格商品で、番組放送中に発売された玩具よりも劇中プロップに近い造りになっており、本体もダイキャストをふんだんに使用。
 しかも、ウエスト100センチを超える人でも装着できるように、ベルトのリーチが調節できる構造になっている。
 ベルトを最大に広げると、鷹羽氏が三人居ても締める事が可能だ。

 残念ながら、これらは品質の問題でユーザーから酷評を叩きつけられているが、こういう商品が発売されるようになったという背景に注目してみたい。
 所謂「なりきりアイテム」が、本来子供向けなのにも関わらず、高年齢ファン層にも大きな需要があると、認められた結果だろう。
 もちろん、単に飾る目的のために欲しがったという人も居るだろうから、購買者数と変身ポーズ再現目的ファン数はイコールではない。
 しかし、これらは十ウン年前には考えられなかった商品だ。
 こういう物が、本家スポンサーメーカーから発売されるという現実が嬉しい。
 昔は、ガレージキットや高価な完成品を購入し、それを壊さないように恐る恐る装着する事しか出来なかった上、ファイズドライバーなどのように別パーツを接続・合体させるというギミックもなかったから、どうしてもポージングの達成感に乏しかった。

 そう考えると、本当にいい時代になったものだと思う。


 なお、当然ながら「変身ポーズ」は、仮面ライダーシリーズのみの特権ではない。
 他にも戦隊シリーズや宇宙刑事をはじめとするメタルヒーローシリーズ各種、また単発特撮物にも色々なものが存在し、語るべき部分が多い。
 アイアンショックのポーズやカゲスター召喚ポーズ、風雲ライオン丸のロケット変身など、真似した人もきっと多いことだろう。
 これらについては、またいずれ別な機会に語ってみたい。



 え、次は鷹羽氏に書かせろって?
 おお、それは名案♪


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