G3-X・ピンク 第8話『氷川
誠 ・ 関東医大 02:28p.m.』
お化けマンション・前庭
ズギューーーーーン!!
追撃の特殊ガス弾をストロンガーに放つV-1システム。
「グッ!!」
煙に包まれながら両膝を着くストロンガー。
「敵の体内で炸裂すると毒性成分が皮下組織に急速に浸透し、細胞を破壊する」
「トドメを刺すのは無理かもしれないけど、一時的に活動を停止させて捕獲する事は可能な筈よ」
澄子が北條に説明した通り…活動停止状態になり、意識が朦朧となるストロンガー。
……苦しい…! …!? …俺は何をしているんだ?
<取り戻した意識>
…? …身体が動かない!
<現在、置かれている危機的状況>
…このガスの所為なのか? …毒ガス!?…ケイトガス?!
<過去の忌まわしい出来事>
…タックル…ユリ子…そうだ! …今日は…ユリ子の………
<悲しい出来事>
…それらが一気に押し寄せてくる。
「ウゥッ!!」
意識が混濁したまま、前のめりに倒れるストロンガー。
澄子(…動きが止まった?)
活動停止の確認をしようと、ストロンガーにゆっくりと歩み寄るG3-XP・澄子。
だが…
北條「こちら、V-1システム・北條より捕獲部隊へ…ライダー・ストロンガーを捕獲せよ!」
ゴゴオォォーーーッ!!
澄子「!」
北條の合図と共に響く轟音!
『お化けマンション』から200メートル程、離れた所にある小高い丘。
その、こんもりと樹木の茂った丘から、木々を揺らしながら捕獲部隊搭乗の特殊車両が現れた!
ヘリコプター【機体ナンバー・JA6662】
立花レーシングクラブ周辺を飛んでいるヘリの中で河野が通信を試みている。
河野「こちら河野。Gトレーラー、応答願います…こちら河野。Gトレーラー、応答願います…」
緊急事態!…緊迫した表情の河野。
お化けマンション・前庭
V-1システム・北條の指示で、ストロンガーを捕獲すべく近付く特殊車両。
G3-XP・澄子「チョット! あんた! 何、勝手な事をしているのよ?!」
お化けマンション屋上で佇むV-1システム・北條に抗議する澄子。
北條「小沢さん…この作戦の目的は『ライダーの捕獲』だ」
澄子「!」
北條「この際、指揮を執る事に拘らなくてもいいのでは無いですか?」
澄子「活動停止の確認が済んでいない状況での捕獲部隊投入は危険だと言ってるのよ!
謎の第三の生物(ギルス)に襲われた事を忘れたの?」
議案第341号『アギト捕獲作戦』において、謎の第三の生物(ギルス)にガス弾を撃ち込み、倒す事に成功するものの、一瞬の隙を突かれて捕獲部隊と指揮官である北條が襲われた一件を突きつける澄子。
北條「あの時の特殊ガス弾とは威力が違いますよ。心配は無用です」
澄子「あなたのする事だから、心配なんでしょ!」
大きな瞳を見開いて反論する澄子。
その時、二人の舌戦を遮るように、Gトレーラーの尾室からの通信が入る。
尾室「小沢さん! 河野さんからの通信です」
澄子「!」
尾室「立花レーシングクラブから…」
澄子「そこから先は言わなくてもいいわ」
尾室「?!」
澄子(聞こえる…)
G3-XPの鋭敏な聴覚機能が、その存在を捕捉。
澄子「G3-Xピンク・小沢より捕獲隊へ! 一時撤退しなさい!」
危険を察知し、緊急指令を出す澄子。
北條「小沢さん!勝手な事をしないでください!今がストロンガー捕獲のチャンスなんです!」
澄子「人命優先よ!」
北條「何を言っているのです?ストロンガーは、活動を停止しているのですよ!」
澄子「あなたには聞こえないの?」
北條「?」
V-1システムの聴力機能と視力機能を最高レベルに合わせる北條。
北條「!」
ブロオオォォ――――ン!!!
ヴオオオォォ――――!!!
ブオオォォ――――ン!!!
北條「この音は! …あれは! …」
お化けマンション屋上から、迫り来る爆音の正体を視認するV-1システム・北條。
北條「ライダーマシン! …仮面ライダー!」
関東医大病院・病室
ベッドで眠っている氷川。
氷川「………」
やがて薄っすらと意識が戻った。
ぼんやりと見える天井……
氷川(ここは? …僕は一体? ……)
事態を把握できず、暫く寝た状態でいる氷川。
氷川(………)
病室の天井がはっきりと見えてきて、7人ライダーによって倒された時に見たG3演習ルームの天井と重なり合う。
氷川(……!)
脳裏に記憶が蘇って、事態を把握した氷川は飛び起きるが……
氷川「うっ!」
めまいのような症状に襲われ、がくっと伏せる。
氷川「!」
腕に点滴がある事に初めて気付くが、そんな事はどうでもよく…
氷川「行かなければ!」
厳しい表情で再び起きあがる氷川。
立花レーシングクラブ
ソファーに深く、身を沈めている立花藤兵衛。
いつしか眠りにつき、夢を見ている。
夢の中に出ている一人の女性…岬 ユリ子。
どうせ、私は助からないんだから…
私の身体にはケイトの毒が…まわっているのよ…
(タックル……)
お願い…
この事は…決して…
茂には…言わないでいてね
…お願い……
(ユリ子……)
悲しい寝顔の立花藤兵衛……
関東医大病院・病室
氷川「どいてください!」
意識が戻ったばかりだが、直ぐに着替えを済ませ前線に復帰しようとする氷川。
看護婦「駄目ですよ! 氷川さん! まだ安静にしていないと!」
氷川「いいんです、もう痛くありませんから!」
看護婦「そんな筈、無いでしょう!」
氷川「大丈夫です!」
止める看護婦を振り切り、ドアを開ける氷川。
氷川「!」
真剣な表情で椿が立っている。
椿 「おい! 何処に行くつもりだ! まだ、動き回れる身体じゃないんだぞ!」
氷川「いえ。これぐらいで参る身体じゃありませんから!」
椿 「馬鹿野郎! 自分の身体をもっと大切にしろ!」
病室に連れ戻そうとする椿。
氷川「自分は警察官です! たとえ、この身が砕けようと、行かなければならないんです!」
椿「その傷ついた体で行くのか?」
氷川「はい」(彼ら【仮面ライダー】を放ってはおけない。)
決意がこもった氷川の言葉。
椿「……」
医師として(行かせるわけには行かない!)という心と…
男として(行かせてやりたい!)という心がせめぎあう椿。
「その男の好きにさせてやってくれないか!」
背後から聞こえる声に振り向く椿
椿「一条…」
氷川「?」
「頼む!」
氷川の復帰を訴える一条。
椿「お前…」
椿、考えを巡らせて……
椿「分かった…だが、絶対に無理はするな」
静かな口調で一条と氷川に答え、踵を返して日常業務に戻る。
氷川「ありがとうございます!」
去っていく椿に頭を下げ、礼を言う氷川。
一条も感謝を込めた微笑みを浮かべ、椿を見つめる。
椿「似た者コンビだな」
一条とすれ違いざま、声を掛ける椿。
キョトンとする一条だが、それも一瞬の事であった。
氷川に向き直り、今度は厳しい表情を浮かべて近付いて行く。
一条「氷川 誠、G3-X出動だ!」
氷川「あなたは、一体?」
一条「G3ユニットの一条だ」
氷川「G3ユニット?」
怪訝な表情を浮かべる氷川。
一条「説明は後でする。急ぐぞ!」
堅く、差し迫った口調の一条。
氷川「ちょっと待ってください。小沢さんはどうしたんですか?」
(いつもなら真っ先に病院に駆けつけてくれる小沢さんなのに…)
不安がよぎる氷川。
一条「小沢警部は七人ライダー捕獲作戦遂行の為、Gトレーラーで出動した」
氷川「! …でもG3-Xは…」
一条「G3-Xは、君が装着する為に待機させている」
氷川「……」
一条「今、出動しているのはG3-Xピンクだ」
氷川「G3-X・ピンク? …誰が装着しているんです?」
一条「装着者は小沢警部だ」
氷川「小沢さんが?! …G3-X・ピンクを装着して?…」
一条の言葉に虚を突かれる氷川。