11.では面白くなかったのか


 では、『龍騎』がつまらなかったのかと言うと、決してそうではない。

 デッキを鏡に向けてから変身するまでの流れについては前述のとおり、見慣れてしまうと実に決まる。
 『クウガ』以降、ベルトがどういう理屈でどんな風に出現するかは1つの見所となっている。
 体内のベルトが変身の意志と共に現出してくるクウガ、超能力の発現として出現するアギトは、いずれも自らの身体の一部としてベルトが存在していた。
 それこそが、彼らが変身能力者であることの端的な証明でもあったのだが、『龍騎』では“デッキを反射物に向けることで装着されるベルト”という具合に設定した。
 デッキは、ただの人間を戦士に変えるアイテムとして登場しているわけだが、こうして視覚的な部分でもその役割を遺憾なく発揮しているのだ。
 そして、変身ポーズの最後の決めとしてベルトに装填されたデッキは、変身音を鳴らすためのスイッチの役目を果たし、同時にそのままライダーのベルトとしてデザインの一端を担い続ける。
 ベルトが出現しただけの時と、デッキを挿入して変身した後では、ベルトの外見がはっきりくっきり変わってしまう。
 ライダーのベルト数あれど、そんなのは『龍騎』に登場するライダー達だけだ。
 そして前述のとおり、カードデッキは変身しないときでもライダーの証として小道具になっている。
 佐野の真似をしてデッキから名刺を取り出してみたいと思ったのは鷹羽だけではあるまい。 

 番組開始当初は間延びして見えた“デッキからカードを引っぱり出し、バイザー開いてカード装填してバイザー閉じる”という武器等召還シークエンスも、こなれてくるに従ってスピーディーになっていった。
 42話『401号室』での、タイガがゆっくりとゼロに向かって歩きながらカードを装填するシーンや、23話『変わる運命』での王蛇の「(ファイナルベントのカードが)2枚あるぜ…どっちが好みだ?」と言いながらベノクラッシュとヘビープレッシャーのカードを見せるシーンなど、「カードを抜くことイコールこれから技を出すこと」というシステムを巧く演出に利用している。
 抜いたカードを視聴者に見せることによって、次に使うのがどういう技かということを予告して期待させるわけだ。
 これを例えば「ライダーキックを受けてみろ!」と言ってからキックを放ったり、「ライダーキック!」と言いながら必殺のキックを放つのは「子供っぽい」と言われる元だが、実のところ、そういった掛け声には、見ている側を高揚させる効果もある。
 かつてアニメでスーパーロボット物が流行った頃、「いちいち武器の名前を叫びながら使うなんて変だ」という批判があった。
 『機動戦士ガンダム』では、ビームライフルを撃つ際に「ビームライフルッ!」などとは言わずに「落ちろぉ!」などと言うようにしたため、リアルともてはやされることになった。
 そこ、笑わないように。
 同じ富野監督作品である『無敵超人ザンボット3』では、実際にザンボエースが「ザンボマグナーム!」と言いながら銃を出し、バンバン撃っていたのだ。
 多少乱暴な言い方になるが、『ガンダム』以降、おおよそ“武器の名前を呼びながら発射するロボット物は子供向け、黙って撃てばリアル”といった風潮があったように感じる。
 だが、ゲーム『スーパーロボット大戦』シリーズをやってみれば分かるとおり、技の名前を叫びながら放つという行為自体は、非常に燃える。
 「当たるか!?」などと言いながら撃つのとは燃え方のレベルが違うのだ。

 『龍騎』では、「ソードベント」という声が響けば剣が現れ、「ファイナルベント」という声が響けばドラゴンライダーキックなどの必殺技クラスの大技が発動するという具合に、技の名前を叫ばなくても、技を使うことをアピールする術を見付けたのだ。
 つまり、龍騎がファイナルベントのカードを抜けば、数秒後にはドラゴンライダーキックが放たれることが約束されているわけで、これは「ドラゴンライダーキックを受けて見ろ!」と言っているのと同じだけの予告を、至ってクールに見せるための1つの手法として使われているわけだ。
 これには、何気なくテレビで見ているだけの普通の大人に、「なんだ、やっぱり子供番組じゃないか」と言われないという面白い効果があった。
 また、燃える特撮ファンのお歴々だって、たまにはクールに決めるパターンもOKだろう。


 リュウガがファムの飛びかかるのを待ってドラグブラッカーを召還したり、ファイナルベントカードを抜いた王蛇がインペラーに笑いながら近寄り、次のシーンでベノクラッシュが発動しているなど、引き抜いたカードをすぐにバイザーに装填しないで見せるやり方も巧く、技の準備から発動までにタメをいれずに間を入れられるというこの方式の特性を遺憾なく発揮していた。
 実のところ、決着を求めると裏切られることにはなるが、観戦そのものを楽しむのなら、ライダー同士の戦いは結構見応えのあるものもあったのだ。
 19話『ライダー集結』での6人入り乱れての戦いや、43話『英雄は戦う』でのタイガ対王蛇の戦いには、手を叩いて喜んだ人が多かったのではなかろうか。

 鷹羽的には、「真似できるもんならやってみろ!」と言わんばかりの変身ポーズのラッシュに燃えてしまい、わざわざベルトを買って全ポーズホールインワンを目指して練習に明け暮れてしまった。
 あの変身ポーズ達、真似るだけなら簡単だけど、実際にベルトにデッキを装填するのはとても難しい。
 体の向き(ベルトの向き)が変わってしまう龍騎やナイト、右手で突っ込むタイガ、上からいきなり降ろして差し込むインペラー、動きの複雑なファムなどなど、実に練習しがいのあるポーズばかりだ。
 驚いたことに、撮影時、デッキを一発でベルトに差し込めたのは、高見沢を演じた黒田氏だけだったという。
 1年続いたというのに、メインの須賀氏でさえ48話『最後の3日間』での1回だけ、ほかの人は遂に1度も成功しなかったほどの難易度なのだ。
 もっとも、『ダイレンジャー』のオーラチェンジャーは1度も穴に入らなかったそうだが。
 もちろん、鷹羽が王蛇のポーズに一番力を入れていたのは言うまでもない。
 あのポーズを決めた後にやる気なさそうに降ろす右手がチャームポイントなのよね〜。
 ああ、技術があったなら、ベノバイザーを改造して喋らせたものを…。

 また、吾郎ちゃんや沙奈子、大久保編集長らバイプレーヤーもなかなかいい味を出していて、特にシリアスもギャグもこなす吾郎ちゃんの人気はかなりのものだったようだ。
 吾郎ちゃんの「餃子、美味かったっす」「先生…素敵です」、はたまた真司が持っていった饅頭をこっそりポケットに入れる姿など、吾郎ちゃんのふとしたセリフや仕草は、見ていて楽しい。
 狙ったと思われるギャグなどは外したのが多かったように感じるが、キャラクターによる通常の会話がテンポ良く、むしろそっちの方が素直に楽しめた。
 個人的に、平成ライダーをやった役者の中で、初めて「ライダーが好きで見ていた」と公言した北岡役の涼平氏には、非常に好感を持っている。

 『龍騎』の場合、こと「謎」の解明やストーリーの辻褄をあまり気にしなければ、素直に楽しめる部分が多かったのも事実だと思う。


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