9.番組途中の3つの終幕
『龍騎』では、前作『アギト』に引き続き、夏休みの劇場版と秋口のスペシャルが制作された。
劇場版『EPISODE FINAL』では、『最終回先行上映』と銘打って、大々的に『龍騎最後の3日間』を描くことを宣伝した。
そして、テレビ本編に既に登場しているライダーで、最後の3日間に生き残っているのは、龍騎・ナイト・ゾルダ・王蛇の4人だけで、ほかに劇場版で新登場のファム・リュウガが登場している。
また、スペシャル『13RIDERS』の方では地上波初の試みとして、視聴者からリアルタイムで結末、すなわち“戦いを続ける”のか“戦いを止める”のか選ばせるということになり、『龍騎』で唯一13人のライダーが全員登場し、新登場のライダー:ベルデがメインでストーリーに絡んでいる。
つまり、劇場版、戦いを続けるエンド、戦いをやめるエンドと、番組途中にして既に3種類の終わり方が用意されていたということになる。
そして、これらはその後の番組の展開に少なからず影響を与えていった。
では、まず劇場版から見てみよう。
この劇場版は、上映当時から、本当にこれが最終回になるのかどうかということで、それなりに物議を醸した。
大々的に「最終章」と宣伝したこともあって、本気でそう信じていた視聴者も少なからずいたのだ。
実際にはこの劇場版は、優衣の死ぬ理由、優衣と真司の関わりなど、本編と細かい設定が明らかに違う。
また、恐らくはオーディンの正体を内緒にする&オーディンの最期を描くわけにはいかないという戦略上の配慮だと思うが、生き残ったライダーの中に自称最後のライダーであるオーディンが入っていないという無茶な展開になってしまった。
これらの情報により、「テレビの最終回は、劇場版とは多少違った展開にするのだろう」とか、「最終回でオーディンを倒して一応のカタルシスを持たせ、後は劇場版に続くんだろう」など、視聴者の間で色々な憶測が飛び交った。
やがてテレビ本編では、劇場版に登場しなかった浅野めぐみがレギュラーとなるなど、劇場版と齟齬する設定が登場するようになり、少なくとも劇場版がテレビの流れとは違うものであることが分かってきたが、制作者側からの弁明は特にないまま、テレビ本編はずるずると話数を消化していった。
そして、インペラーの登場の際、テレビ朝日HP内の『龍騎』関連ではないコーナーで、「テレビに登場する最後のライダーはインペラー」との公式発表があり、テレビ本編内で13人のライダーが登場しないことがはっきりとした。
単純に映画として考えた場合、この『EPISODE FINAL』は非常に見応えのある作品だった。
多数のモンスターとの戦い、次々と減っていくライダー、美穂の浅倉や姉に対する愛憎、自分がことの発端だったことに悩む真司、自ら現実の存在たらんとするリュウガの執念、士郎と優衣の死によるミラーワールドの終焉など、盛り沢山の内容を詰め込みながらも、きちんとまとめていた。
「死ぬなよ、蓮」という真司の言葉と共に変身し、2人でハイドラグーンの群に突っ込んで終わるエンディングも、テレビ本編と切り離して考えるなら実に綺麗な終わり方だ。
だからこそ、劇場版が「最終章」に拘りすぎたのは失敗だったと思う。
古くは劇場版『マジンガーZ対デビルマン』でジェットスクランダーの完成を描き、『グレートマジンガー対ゲッターロボG』でムサシが死亡しているように、テレビ本編と劇場版で同種の内容を全く違う演出・ストーリーで描くことは、東映ではよくある話だったし、見る側もそれを割り切って“お祭り”イベントとして見ていたように思う。
そして、アナザーストーリーとして見るなら、『EPISODE FINAL』は何の問題もないのだ。
前年の、『PROJECT G4』が結果的にアナザーストーリーだった『アギト』にしても、本編とリンクするのかしないのか、はっきりとしたスタンスを打ち出さなかったせいか、特にその辺が取り沙汰されていなかったようだ。
『EPISODE FINAL』では、逆に白倉プロデューサーによる「劇場版とテレビ本編の繋がり方に注目してください」的な発言が飛び出してしまった。
ということは、「劇場版はテレビ本編と繋がっている」という前提で話がされていることになる。
この時点で、白倉プロデューサーの頭には、どういう最終回プランがあったというのだろうか。
ともかく、最後の3日間に生き残っているライダーは龍騎、ナイト、ゾルダ、王蛇、ファム、リュウガの6人であると言い切ってしまった以上、シナリオ展開上非常に辛いことになった。
たった3日という描写で、真司と蓮の友情やら北岡の最期やらを描きつつ、最終回としてのストーリーも完結させなければならないというのは、シナリオの密度が濃くなり過ぎて放送時間が足りない。
また、これによって王蛇の存在も不安定になってしまった。
王蛇は当初、戦いを否定する龍騎へのアンチテーゼとして、戦いを楽しみ、殺すことに悦びを見出すライダーとして登場したと思われる。
だが、戦いを否定する龍騎が王蛇と戦うことは、下手をすると殺し合いを肯定することに繋がるため、非常にやりにくい。
また、真司の奮闘による浅倉の更生の可能性も、『少女と王蛇』でその余地を失ってしまった。
龍騎と直接戦闘で絡めるわけにはいかない上にいい人になるわけにもいかない浅倉は、次第にその存在意義を薄めていく。
こういった状況が、王蛇の存在意義を、浅倉と北岡の因縁に基づくゾルダの宿敵という形にシフトさせていったのではないかと思う。
一方、スペシャルは、既にテレビ本編では死亡しているシザース、ガイ、ライアも再登場する必要があるため、完全な番外編として、“ミラーワールドにあるコアミラーを壊せば戦いは終わる”という独自設定の下、蓮が恵里を救うために人を殺せるか悩み、その悩みを真司が受け継ぐという構成になった。
「戦いを続ける」か「戦いを止めるか」を視聴者の投票によって決定するインタラクティブムービー方式だったことが最大の特徴で、結局放送されたのは「戦いを続ける」という側だったが、この時点で「戦いを止める」という選択肢があったことは、放送されずじまいだったとはいえ、これを完全な番外編にせざるを得ない理由の1つとなっている。
なにしろ放送途中で戦いが終わるわけだから、本編とリンクさせるわけにはいかない。
というより、このインタラクティブムービー方式を取り入れる時点で、本来の結末とは違うものをあらかじめ用意しておかなければならないという宿命を帯びるからだ。
ちなみに、この『13RIDERS』では、劇場版で登場したファム、リュウガがライダーの姿でだけ登場しており、劇場版を見ていない人にもネタバレにならないよう配慮されている。
また、この時点ではテレビ本編に未登場だったタイガ、インペラーも登場しており、既に配役が決まっていたタイガについては、クレジット上は「?」だったが、ちゃんと高槻氏が声を演じている。
このスペシャルで初登場となったベルデ、タイガ、インペラーの3人で、13人の枠は埋まった。
先にも書いたが、この劇場版とスペシャルの存在が、テレビ本編で13人を揃えることのできない元凶であることは間違いない。
まず第一に、ベルデ:高見沢逸郎役に黒田アーサーという大物俳優を起用したことだ。
スペシャル1回だけならともかく、テレビ本編で数回に分けて使うには、黒田アーサーはギャラが高いし、スケジュールも過密すぎる。
かといって、スペシャルであれだけ印象的な悪役だったベルデを、テレビ本編で別の役者を起用して雑魚ライダーにするわけにもいかない。
また、スペシャル最大の売りが“13人のライダー勢揃い”である以上、ここに登場した13人こそが正当な13人のライダーであるというスタンスを崩すわけにもいかず、ベルデをテレビ本編に登場させるのは難しくなってしまった。
そして、同様に、ここで顔を出してしまった以上、後に述べるとおり劇場版と同じ設定であるかどうかはともかくとして、ファム、リュウガも正当な13人の1人としてカウントされてしまい、今更「劇場版は番外編ですから、ファムとリュウガはテレビ本編には登場せず、別のライダーが登場します」というわけにもいかなくなった。
それができたなら、オルタナティブなど出さずに本物のライダーを出す余地があったはずなのに。
士郎の目的を知って阻止しようと考えた香川が、何らかの方法で(本来の持ち主を殺してでも)ブランクのデッキを手に入れてライダーになったということでも十分通じたはずだ。
これができないのは、ひとえに“13人の枠が埋まってしまっていた”からなのだ。