4.戦いの合図はカードデッキ


 “ライダーの倒すべき敵はライダーである”という前提は、つまり、ライダーは自分が戦うべきほかのライダーを見付けて戦いを挑まなければならないということだ。
 そして、ライダーが互いにその身分証明のように使うのが、カードデッキだ。

 カードデッキを持つ者はライダーであり、カードデッキを正面に掲げることが変身のキーポイントとなっていることから、カードデッキを見せることが戦う意志の表明となるのだ。

 この端的な戦意表明の手段によって、
ライダー2人(変身前)が出会う
1人が懐からカードデッキを引っぱり出して見せる
相手もカードデッキを見せる
互いに変身
戦闘開始
という流れがとても格好いい。

 そして、それが“カードデッキを投げ捨てること=ライダーであることを放棄する”という表現にも繋がる。
 また、そのカードデッキを正面にかざすことが変身ポーズの発端になっていることも重要だ。
 カードデッキを見せ合った2人が並んで(向かい合って)カードデッキをかざし、同時に変身ポーズを取る姿は、これから始まる戦いをスムーズに演出してくれる。
 このカードデッキは、ライダーに変身した後もベルトのバックルとなり、能力を発揮する際に必要な各種カードを取り出す道具であり、同時に弱点でもあるという、正に万能小道具の役割を果たすのだ。


 元々『龍騎』では、『遊戯王』や『マジック・ザ・ギャザリング』などのカードバトルを特撮ヒーロー物でやろうという企画意図があったように見受けられる。

 このカードバトルのルールというのは、やっていない人間には非常に複雑で分かりにくいのだが、『マジック・ザ・ギャザリング』を例にものすごく単純化して説明してみよう。
 自分のカード60枚以上を1組として「デッキ」と呼び、よく切り混ぜて、7枚を手札、残りを「ライブラリー」という引き札の山にしておく。
 このライブラリーから必要に応じてカードを引き、攻撃カードに書かれた数値と同じダメージを相手に与えたり、敵の攻撃数値を自分の防御カードで相殺したりでき、プレイヤーに最初に与えられた20ポイントのライフが先に0になった方が負ける(他にも負ける条件はあるのだが)といったものだ。

 『龍騎』で使用されるカードは、この『マジック・ザ・ギャザリング』で使用されるカードと同じようなデザインになっている。
 『マジック・ザ・ギャザリング』のカード左下には、「フレイバー・テキスト」という“ルール(カードを使用する条件、カードの能力)とは直接関係ない文章”が書いてあるのだが、『龍騎』の商品に付属するカードを見ると、同じように番組中での設定と関係ない文章が書かれていたりする。
 実際、『龍騎』の商品展開の1つとして、カードゲーム用のトレーディングカードのようなパターンも考えられていたようだ。

 だが、もし本当にカードゲームの要領で戦闘するのであれば、当然、引いたカードに従って攻撃や防御をすることになり、戦闘シーンを描きにくくなる。
 そこで『龍騎』では、“カードデッキから引いたカードに従って武器や能力を使用する”という最低限の部分だけを残し、“引くカードはランダムである”というカードゲームの絶対条件は邪魔なので削ってしまった。
 これにより、『龍騎』のライダー達は、ドラえもんが四次元ポケットから出したいアイテムを出せるように、カードデッキから必要な能力のカードを引くことができるようになった。
 唯一例外に見えるのが龍騎サバイブのストレンジベントだが、これは、デフォルトで持っていない能力のカードに変化するという意味で、やはりそのときライダーが必要と感じたカードを引いているものと言っていいだろう。

 こうして、『龍騎』におけるカードは、“能力使用の際に使うアイテム”以上の意味は持たないことになった。
 また、それによって自動的に“互いにカードを引く番が回ってくる”というほとんどのカードゲームに共通するルールも失われた。
 そのため、強力な武器を出してしまえば、それを使い続けるだけで戦いに勝ちやすくなるという状況も生まれている。
 つまり、例えば王蛇なら、ベノサーベルを振り回し、要所要所でファイナルベントを放つだけで、ほとんどの戦いを有利に運べてしまうということだ。

 そして、関連商品の中で重要な位置を占めるなりきりグッズにしても、ライダーフィギュア・武器・モンスターのセットであるR&Mにしても、形にできない能力を持つカードは商品化に結びつけにくいため、どうしても戦闘では武器やモンスター召還系のカードの使用が中心になってしまう。
 これは力押しの戦いを生む温床となり、“カードの能力に影響を及ぼすカード”という要素の意味がかなり軽くなってしまった感は否めない。
 簡単に言うと、コンファインベント、スチールベント、(ライアの)コピーベントのような“直接的な攻撃防御に関係しない能力を持つカード”が活躍しにくいということだ。
 互いが順番にカードを引いて装填し、その能力によって戦うならば、相手が装填したばかりのカードを無効化する、或いはコピーするといった能力は非常に使い勝手がいいが、戦闘シーンの組立上や、オモチャの販売戦略上、そうはいかないため、どうしても武器召還の方がメインになってしまう。
 RPGなどでは、直接攻撃する呪文もさることながら、攻撃力や防御力など敵味方のステイタスを上下する、味方を回復させる、敵を幻惑する、といった呪文が豊富に揃っているのが普通だが、やはり直接ダメージを与える呪文や武器を中心として戦いたがる人は結構多い。
 ただ、この手のゲームに登場する敵モンスターには、直接攻撃中心では倒せない敵や、催眠・混乱など体力や防御力では防げない攻撃をしてくる敵が多くあり、それによって攻撃補助や特殊攻撃系の呪文に存在意義を与えていた。
 たとえば『ドラゴンクエスト』では、打撃力を倍にするバイキルトや防御力を上げるスクルト、敵の防御力を下げるルカナン、味方の素早さを上げるピオリムなど、攻撃補助呪文が多くあり、極端にヒットポイントの多い敵に対しては、強力な武器を持った味方の戦士にバイキルトを掛けて援護、というような使い方を必要とする場面が設定されている。
 また、ザキなどの“効けば瞬間致死、効かなければ全くの無駄”という特殊攻撃系も、ヒットポイント・防御力が高くて呪文に掛かりやすい敵に対しては非常に有効だったし、逆にそういう攻撃をしてくる敵への対抗としてマホカンタのような呪文を反射する呪文も存在している。

 対して『龍騎』では、ライダーにその手の属性はないから、殴ればダメージを与えられるし、逃げられる前に倒さなければならないわけだから、元来、敵の攻撃を封じるより直接ダメージを与えた方がいいという方法論に陥りやすい環境を持っている。

 この点を巧くクリアできなかったことが番組としての弱点と言えるのではないだろうか。
 


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