3.R&M


 『龍騎』では、“13人の仮面ライダーが戦い合って、最後に勝ち残った者は願いが叶う”というおよそ正義のヒーローとは言えない設定の下、一種インモラルな戦いが繰り広げられた。

 この作品中では、ライダーは自分が契約したモンスターの力を借りつつ戦う。
 そして、その見返りとして、倒したモンスターのエネルギーを契約モンスターに吸収させてやるという義務を負うこととなり、この義務を全うしないと、契約モンスターは契約者を食おうと襲いかかる。
 モンスターのエネルギーを吸収した契約モンスターはその分強くなり、それに伴ってライダー自身も強くなるらしい。
 画面上ではよく分からなかったが、要するにモンスターから供給される武器や技の威力などが高まるのだろう。
 龍騎がブランク(無契約状態)の時のライドセイバーと、契約後のドラグセイバーの攻撃力の差を考え併せると、やはりモンスターとの契約による威力・能力増加は間違いないし、その変化にはモンスター自体のパワーが影響しているとみていいだろう。
 つまり、ライダーが野良モンスターを倒すのは、基本的に“自分を強くするため”“契約モンスターに襲われないため”ということになる。

 このルールは非常によくできており、真司のように世のため人のためにモンスターを駆逐しているライダーも、蓮のように人助け&強くなるための両方を目的とするライダーも、浅倉のように契約モンスターを養うためだけにモンスターを倒すライダーも、それぞれ野良モンスターを倒さねばならないという点で変わりはなく、画面中ではほとんど契約モンスターに餌をやっていなかったかのように見えるゾルダらほかのライダー達も、オーディン以外は、影では色々人助けを(結果的に)していたことが分かる。
 事実、浅倉がそのために奔走する31話『少女と王蛇』という例もある。
 シザースは主に人間を餌として与えていたのではないかと思われる節があるが、ほかのライダーについては、どうやら人間を餌として与えるような考えは持っていなかったようだ。
 この点、“エネルギー効率は人間よりモンスターの方がいい”などの理由付けが欲しい気はする。

 ともかく、この“契約”のため、一度ライダーになった人間は、契約モンスターが死ぬか自分が死ぬかするまで餌をやり続ける義務を負っており、インペラーのように「もう辞めたい」と思った途端に契約モンスターに襲われかねない状態になってしまう。
 どうやら契約モンスター側では、ライダーが契約を破ろうと思うと敏感に勘付いてしまうようで、餌をやろうと思っているがなかなかやれないという状況では待ってくれるものの、もう餌をやりたくないと思ったら、その途端にすぐにも襲いかかってくるようだ。
 もっとも、もしかしたらモンスターの個性で、がっついている奴とそうでない奴がいるのかもしれない。
 
 こうしてライダーは契約モンスターの力を借りながら戦うわけだが、その助力は主に武器召還とモンスター召還という形を取る。
 武器召還というのは、ソード、ストライク、スピン、スイング、ガード、シュート、ホールドベントであり、モンスター召還は、特定の能力を発揮させるためにモンスターを召還するガード、ナスティ、ブラストベント、モンスターを召還して一緒に戦ってもらう所謂「アドベント」やファイナルベントだ。

 これらのほか、モンスターの能力に依存しているのかはっきりしないが、
コピーベント 他のライダーが召還した武器と同じ物を自分も手に入れる
または、他のライダーの姿に変身する
スチールベント 他のライダーが召還した武器を横取りする
コンファインベント 他のライダーが使ったカードを無効化する
フリーズベント 他のライダーのモンスターを凍結させる
ユナイトベント 自分が契約している複数のモンスターを合体させる
トリックベント 自分の分身を作り出す
クリアーベント 自分の姿を消す
など、武器の召還もモンスターの召還も目的としない戦闘補助能力がある。

 実のところ、これら非召還系のカードが、モンスターの能力依存なのか最初からデッキに入っているカードの種類が違うだけなのかははっきりしない。
 ベルデのクリアーベントやコピーベントのように、カメレオンのモンスターと契約して透明になったり他者に化ける力を得るというのは納得できるものではあるが、エイと契約して他者の能力をコピーとか、サイと契約して敵の能力帳消しというのは違和感がある。
 また、エビルダイバーやメタルゲラスにそういった能力があるという描写もないから、それも考えにくい。

 一方、王蛇のデッキの中にはコントラクト(契約)カードが3枚あり、2枚目を出した時点で龍騎達が驚いていたシーンがあったから、やはり龍騎達は契約のカードを1枚しか持っていなかったと見るべきだろう。
 とすると、まさかベノスネーカーの能力が複数契約を可能にするものとも思えないから、元々デッキに入っているカードの種類には違いがあると考えるべきだ。
 つまり、カードデッキは元々中身に違いがあり、渡された瞬間にある程度ライダーとしての方向性が決まってしまうということになる。
 まぁ、手札の善し悪しが運次第というのは、多くのカードゲームで実感されるところだし、有利不利はともかく、必ずしも勝敗の決定的要因になるわけではないこともまたよく知られているところだろう。
 この点、手持ちカードの種類が何によって決まっているかではなく、どのカードをどういうときに使えば有効かという判断が重要ということになる。
 そして、これらの判断は、主に対ライダーの戦いの時に必要となるのだ。

 この番組が掲げる“ライダーの倒すべき敵はライダーである”という前提は、野良モンスターはどうでもいいという作劇を生み、一部視聴者の間では『野良モンスターは普通のヒーロー物で言うところの戦闘員に当たる』という凄い発言も飛び出した。
 実際、野良モンスターとの戦いは、ライダーがちょっと活躍してみせるためのものでしかなく、モンスターの存在・行動・能力が物語の中心を占めた話はほとんどない。
 多くの場合、そこには複数のライダーが絡み、自動的にそちらがメインになってしまうからだ。

 例えば、29話『見合い合戦』では、セミのモンスター:ソノラブーマの鳴き声と、こいつが島田を狙っていたということが事件解決の糸口となってはいたが、物語のメインは、あくまで優衣による見合いのコントと、真司・蓮・北岡による掛け合いであって、ソノラブーマは物語の中心にはいなかった。
 これで、倒した野良モンスターが契約モンスターのパワーアップに繋がるという説明が2話でなされていなければ、名実共にどうでもいい存在に成り下がってしまうだろう。
 野良モンスターこそがターゲットである真司を除いては。

 まして、倒したモンスターのエネルギーを吸収するシーンは脚本上敢えて無視されているとしか思えない場面も多く、モンスターの存在意義は、後に説明する理由で決着がつかないライダーバトルの代わりにファイナルベントで倒されるシーンのためだけとさえ言える。
 第一、『龍騎』のライダー達、特に真司は、変身前は特に強いわけでもないただの人間なわけだが、その真司にすら派手にぶっとばされたモンスターが一体何匹いることか。
 確かにモンスターに横から飛びかかる、つまり、不意打ちを食らわせている場合が多いが、44話『ガラスの幸福』では、真司に襲い掛かったオメガゼールが正面から撃退されている。

 つまり、この世界のモンスターには、特殊能力を使われない限り、普通の人間でも十分撃退できる弱い奴が多いのだ
 だからこそ、戦闘員扱いされてしまうのである。 …って、あれ? 普通、戦闘員って人間より強いはず。
 じゃあ、モンスターって戦闘員以下…?

 いや、ま、特殊能力ある奴は、それなりに強いんだろうけどさ。


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