『仮面ライダー龍騎』
第46話 タイガは英雄
2002/12/22 放映
(Story)
ゾルダは、右拳にデストクローの一撃を受け、しかも時間切れで蒸散が始まってしまう。
なぁお前さ、絶対英雄になれない条件が1つあるんだけど、教えてやろうか
英雄ってのはさ、英雄になろうとした瞬間に失格なのよ
お前、いきなりアウトってわけ
と言い、ゾルダはタイガの隙を見てミラーワールドから脱出した。
残されたタイガは、ゾルダの言葉に動揺し、荒れ狂う。
その夜、優衣を寝かしつけた真司と蓮は、昼間のことを話し合っていた。
真司は
優衣ちゃんが消えるのは間違いないってことか
神埼がやってたのは、全部それを止めるためで
でも、どういう関係があるんだ? 優衣ちゃんが消えることとライダーの戦いと
と疑問を口にするが、蓮は
さあな。とにかく俺は、今までどおり戦いを続けるだけだ
それで優衣が助かるなら尚更だ
と平然としている。
そして、それでも戦いを渋る真司に、逆に
優衣のためでも戦いは反対か?
悩むのもいいが、時間がないぞ。優衣の誕生日は来月だからな
それともう1つ、今日優衣を助けたのは俺でもお前でもない。神埼だ
誰かを守るってことは、究極、ああいうことなんだ
と言って、オーディンがトラックを弾き飛ばして優衣を救ったことを例に、誰かを守るためにほかの誰かを犠牲にすることは仕方ないという信念を語った。
翌朝、真司は、消滅の恐怖に怯えながらいつもと同じように振る舞おうとする優衣の姿に、香川が何を知っていたのか聞くため、東條を探して清明院大学401号室へと向かった。
そこでは、
次に何すればいいか分からなくなっちゃって、全部なくしてみたらどうかなって
と香川の資料を燃やす東條の姿があった。
そして、燃えかけていた資料を読み、ライダーの戦いの目的をはっきり知った真司の前に士郎が姿を見せ
そうだ。全ては優衣のためにある
優衣を助けたいと思うか?
ならば戦え、最後の1人になるまで
それが優衣を救うたった1つの方法だ
それ以外に優衣を助ける方法はない
これでようやくお前の望みが決まったな
お前も本当の意味で仮面ライダーとして戦え
急げよ。優衣の誕生日が迫っている
と迫る。
戦うべきかどうか答えを出せないまま花鶏へ戻ろうとする真司は、東條に呼び出された蓮に出会った。
蓮は、真司に答えは出たのかと問い掛け、
分かんないんだよ。優衣ちゃんは助けたいけど、そのために誰かを犠牲にするなんて、人を傷つけるなんてさ
どうしても、どっちが正しいのか分からない
と答えた真司に、
お前は今までずっとそうやって迷ってきた
それで誰か1人でも救えたのか?
俺は恵里のために戦うことに決めた
と言い、真司の
でも蓮、この戦いは神埼が優衣ちゃんのために仕組んだんだぞ
もし騙されてたらどうすんだよ
という言葉にも、
どっちにしろ恵里か優衣は助かる
と答えて戦いに行った。
1人花鶏に戻った真司は、気丈に振る舞う優衣の姿を見てある決意をする。
東條に集められた蓮、北岡、浅倉の3人は、呼出主の東條がいないまま「ある意味これがベストメンバーかもね」と変身してミラーワールドへ。
3人が戦い始めたのを確認した東條は、
ライダーなんて、最低な奴ばっかりだよ
あんな奴らに何言われても気にする必要なかったかも
と言いながら、浅倉の車にガソリンを掛ける。
そのころ、ミラーワールドでは、シアゴーストの群が3人に襲い掛かっていた。
ファイナルベント“ベノクラッシュ”、シュートベント“ギガランチャー”で周囲を一掃した王蛇とゾルダは対峙し、「お前とは早いとこ決着をつけて、永久にお別れしたいよ」というゾルダの言葉をきっかけに戦いを再開しようとするが、そのとき「ファイナルベント」の声が響き、デストワイルダーがゾルダを捕らえた。
ゾルダは、マグナバイザーでデストワイルダーを撃退して脱出したものの、かなりのダメージを負ってしまう。
戦いに水を差されて怒る王蛇は、ファイナルベント“ヘビープレッシャー”でタイガを吹き飛ばし、「お前の遊びはあんまり面白くない。遊び方を教えてやるよ」とタイガをいたぶる。
そして、なおも王蛇を攻撃しようとするゾルダにはベノスネーカーをぶつける。
その戦いの中、王蛇は、ゾルダを狙ったベノスネーカーの酸を顔に浴びてしまい、その隙にタイガは逃走した。
現実世界に戻った浅倉は、同じく戻った北岡に鉄パイプで殴りかかるが、駆け付けた吾郎に阻まれて一旦引くことにした。
だが、浅倉が車のエンジンを掛けた瞬間、車が爆発炎上する。
東條が撒いておいたガソリンに引火したのだ。
北岡は、爆発のアオリを食らって怪我をした吾郎の腕を握る浅倉の手を振りほどいて脱出する。
無事逃走し、
今頃、キーを回してドカーン…
先生、僕、また英雄に近付いたかもしれません
と呟く東條の耳に
東條君、私は君にもっと多くのことを学んでほしいんですよ
君ならきっと素晴らしい英雄になれるでしょう
という香川の声が響く。
交差点で仲睦まじい父子の姿を見た東條は、その親子に香川と裕太の姿をダブらせる。
そして、父子がトラックに轢かれそうになるのを見た東條は、思わず2人を突き飛ばして代わりにはねられてしまう。
意識が薄れる中、東條の耳に北岡の「英雄ってのはさ、英雄になろうとした瞬間に失格なのよ」という言葉が響き、東條は
じゃあ、どうやって英雄になるのかな
香川先生、僕、次は誰…を…
とこときれた。
新聞には、東條のことが「親子を救った英雄」と載ることになる。
一方、ゾルダと王蛇が戦っていたころ、ファイナルベント“飛翔斬”でシアゴースト数体を倒したナイトに襲い掛かるシアゴーストをストライクベント“昇龍突破”で倒して龍騎が現れる。
龍騎は
蓮、俺、やっと答えを出した
戦うよ。優衣ちゃんを救いたい
お前の言うとおり、迷っていても誰1人救えないなら、きっと戦う方がいい
戦いの辛さとか重さとか、そんなのは自分が背負えばいいことなんだ
自分の手を汚さないで誰かを守ろうなんて甘いんだ
とナイトに戦いを挑む。
そしてナイトも
お前がそう決めたんなら、俺も俺のために戦うだけだ
と挑戦を受け、互いにサバイブ化して対峙するのだった。
(傾向と対策)
新しい英雄が誕生した。
って、『特警ウインスペクター』1話のナレーションの真似をしても誰も分からないだろうが、結局何も分かってないまま、東條悟は念願の英雄になってしまった。
まぁ、世間一般での英雄の定義がどうかは置いておいて、東條的英雄観は周囲の言葉に影響されまくって収拾がつかなくなってしまったようだ。
というよりも、彼にとっては自分がなれる英雄像でなければ意味がないので、必然的に流されやすくなるのだろう。
前回浅倉に「(英雄になるのは)諦めろ」と言われ、今回北岡から「お前、いきなりアウトってわけ」などと言われてしまった東條は、“他人の言葉に左右される必要はない”と自分が納得するために、「ライダーなんてくだらない奴ばかりだから」というエクスキューズを必要とする。
そして、「くだらない」ということを証明するためには、どんな手段でもいいが自分で倒さなければならないため、あんな回りくどい罠を張ってまでゾルダと王蛇(共に自分がこの前負けた相手)を倒そうとしたわけだ。
自分なりにいつもの不意打ちパターンを作り上げたところまでは偉かったが、もうちょっと2人が手札を使ってしまうまで乱入は待つべきだったろう。
東條としては、ゾルダだけ倒して自分は逃走し、苛ついて追ってきた浅倉がエンジンを掛けた途端にドカーン、というのを想定していたものと思われる。
それが、前と同じパターンでゾルダにクリスタルブレイクを止められ、しかも獲物を横取りされた王蛇の怒りのヘビープレッシャーを食らったせいで、予定が狂ってしまった。
結局、王蛇がベノスネーカーの攻撃を食らうというハプニングで脱出に成功したから、予定どおり浅倉を痛い目に遭わせてやれたわけだが。
結局、東條にとって香川は、殺しはしたものの精神的な支えであり道を示してくれる存在だったわけで、香川の面影を見出した父子の危険を見て、思わず助けてしまったのだ。
死と引き替えに「英雄」という言葉を贈られるという皮肉な展開ではあるが、彼が英雄になりたかった“みんなが優しくしてくれる”という目的は果たされないという点で、二重に皮肉な結末となった。
まぁ、彼もまた自業自得を地でいったわけだ。
蛇足だが、東條の記事には
親子を救った英雄
23日午後3時10分ころ、東京都豊島区北千川五丁目の区道で、清明院大学在籍の学生、東條悟さん(25)がトラックにはねられ亡くなった。
ということになっているので、東條の死が12月23日(放送日の翌日)であることが分かる。
どうでもいいが、翌日以降の新聞を映した後でナイトと龍騎のその後の戦いを見せるというのは、構成として間違っている気がする。
もちろん、来週になってから「親子を救った英雄」とか映っても困っちゃうわけだけど。
これは、蓮をその場に置いちゃっての展開にしたからなんだよね。
最低限必要な余裕は1日なのだから、シアゴーストと戦う蓮、そこにやってくる真司という展開をずらしさえすれば特に問題はないわけで。
Aパートをタイガ退場編、Bパートを真司の決意編という具合に分けて、真司が1日悩ませている間に東條が浅倉と北岡を呼び出す、という形にしても十分今回の話は成立したと思う。
さて、散々悩んだ末に、とっくの昔に蓮が悟っていた境地に追いついた真司は、“今まで恵里のことを承知で蓮の戦いを止めようとしていたのは何だったんだ!?”的展開で蓮と殺し合う決意をした。
真っ先に蓮を相手に選ぶ辺りが凄いと思うのだけど、まぁ色々あったからね、自分の決意を試すのには最良の相手かもね。
で、真司が読んだ資料には何と書いてあったのかという疑問があるわけだけど、真司が蓮にわざわざ「もし騙されてたらどうすんだよ」と聞いているということは、多分、士郎に騙されてるんだろう。
つまり、最後のライダーの望みには『優衣の消滅を止める』という以外の選択肢がないのではないかということだ。
戦いの副産物として優衣の消滅が阻止できるというわけでもなかろう。
どういうシステムで望みが叶うのか知らないが、そこで発生する力は優衣を救う方向にだけ動くような気がする。
ただ、そのためにはライダーが残り1人にならなければならないという条件が付されているはずで、真司はそのために蓮に「無駄だから戦うな」と言えないのではないかと思える。
しかも、蓮自身「恵里か優衣は助かる」という“優衣だけでも助かるなら戦う価値あり”なんてスタンスでいるから、ますます言えないだろう。
ということは、前回書いたようなドラゴンボール的願い“今まで死んだライダーやモンスターの犠牲になった人達全員を生き返らせてくれ!”は使えないということだ。
となると、真司の選択は香川の逆で「1つ(優衣)のために多く(ほかのライダー)を犠牲にする勇気」を選んだということ。
言っちゃあ何だが、それって散々真司が止めようとしてきた“私利私欲のための殺し合い”でしかないわけで、「今まで偉そうなこと言っといて、結局その程度かい!」という突っ込みを入れたくてしょうがない。
さて、突っ込みと言えば、東條の死をどう評価していいのか分からないことを突っ込んでおかなければなるまい。
今回は、東條が死んだだけでタイガが死んだのではないから、ライダーの敗北の定義がよく分からなくなってしまったのだ。
これまでのライダー達は、いずれもミラーワールドの中でデッキが破壊されるという共通項があったわけだが、タイガの場合、ミラーワールドではさしたるダメージは負っていない。
トラックにはねられて死んだだけで、デッキは壊れていないはずだ。
テレビ本編では、死亡記事が新聞に載っているくらいだから、全員がタイガの死亡を認知するだろうが、誰が倒したのかは不明のままだ。
北岡はナイトが殺したと思うかもしれないし、蓮はゾルダか王蛇辺りが殺したと思うだろう。
そういうわけで、本編内では問題ないのだが視聴者からすれば納得いかない。
パラレルワールドなのは承知の上だが、井上脚本のテレビスペシャルでは、デッキを他人が使用することが可能だったからだ。
小林脚本ではそのような設定が出てきたことはないし、鷹羽個人としてはスペシャルにせよ劇場版にせよテレビ本編とは基本設定から全く違うと思っているが、中には“スペシャルと本編はパラレルワールドではあるが基本設定は一緒”と考えている人も少なくなかろう。
そういう人は、誰かがタイガのデッキを拾ったらそいつがタイガになれると思っているはずだ。
もしかしたらどこかのムックで誰かが「そんなことはない」発言をしているかもしれないが、テレビを見ている誰もがそういったものを読んでいるとは限らないのだから、本編の中で触れなければ、そう思われても仕方ない。
その意味で、タイガの死はまず東條の英雄話ありきで作られたシナリオでしかないと言える。
もっと悲惨なのが浅倉だ。
常識的に考えれば、あの状況では車の中で焼死しているはずだ。
運が良くてもかなり大規模な火傷を負うことになり、ライダーとしては終わってしまっているだろう。
ということは、王蛇は今回で退場ということになるが、残念ながらあの映像だけでは浅倉の生死は断言できず、次回北岡の口から語られるのを待つしかないだろう。
なぜか都合良く現れた吾郎ちゃんといい、1回手放した(クリスタルブレイクの時)のにその後また使っていたギガランチャーといい、誰もガソリンの匂いに気付かないことといい、謎の多い話だった。
…いや、面白かったんだけどね、基本的に。
さて、今回の見所は“なぜかだるまストーブが置いてある401号室”だろう。
真司が東條を探しに行ける401号室で、資料を燃やせるようにする(子供が見ても納得できる設備)として、薪をくべるタイプのだるまストーブが登場したのだろうが、いきなり部屋の真ん中に今までなかったストーブ(排気管まで天井を這っているという…)が置いてあるのは、かなり無茶だろう。