『仮面ライダー龍騎』
第44話 ガラスの幸福
2002/12/8 放映


(Story)
 龍騎達が優衣を捜し続ける中、ミラーワールドのどこか山の中にいる優衣の元に現れた士郎は、優衣を守るかのように取り巻いているモンスター達を一睨みでたじろがせる。
 そして、両者に操られるかのようにモンスターが二手に分かれて戦う中、士郎の
  今ならまだ間に合う
  戻るんだ、現実の世界へ

という言葉に、優衣は
   あたしは、ここにいる
と答えるが、そのまま崩れ落ちた。

 倒れている優衣を見付けた龍騎は、優衣を連れて現実世界に戻る。
 優衣は、ゼロ達に襲われたときのことを全く覚えておらず、真司と蓮は、優衣を混乱させないよう、彼女がモンスターを操ったことを説明しないことにした。
 
 そして、OREジャーナルでは、鏡の向こうのモンスターについて情報を得ようと例の写真を公開したことで、信用しない読者から文句の電話が相次いでいた。
 
 一方、父の死を知らされた佐野は、父の会社に行って詳しい事情を聞くことにした。
 佐野は父の側近達から、父の遺言で2代目社長に指定されたことを聞かされていた。
 佐野が2年前に父から勘当されたのは、世間の荒波に揉まれて逞しさを身に付けさせるためだったのだという。
 側近の盛り立てで次期社長に就任する運びとなった佐野は、晩餐の残りを東條用に折り詰めにして部屋へと戻った。
 部屋では、1人部屋に残された東條が部屋中の反射物を覆い鏡を叩き割って落ち込んでいた。
 東條の英雄になりたい理由が「みんなが好きになってくれるかもしれない」だと知った佐野は、自分がライダーになった目的である「いい暮らし」を手に入れてしまい、ライダーを続ける意味がないことに気付いた。
 翌日、そんな佐野の前に士郎が現れる。
 ライダーを辞めたいと言う佐野に、士郎は
  一度ライダーになった者は、最後までライダーであり続ける。それが掟だ
と冷たく答える。
 そしてデッキを投げ捨てた佐野に、更に
  戦わないのはお前の自由だ
  だが、それが何を意味するか、お前も分かっているはずだな

と言う。
 窓に映るギガゼール達が自分を食おうと狙っているのを見た佐野が慌ててデッキを拾うと、既に士郎の姿はなく
  戦え! そして生き残れ
  そうすればお前はライダーを辞めることができる

という声だけが響いた。
 佐野は、生きてライダーを辞めるためには、ライダーの頂点に立つしかないという現実を思い知らされた。
 
 勝ち残るためには仲間がいた方がいいと考えた佐野は、大金で真司と蓮を雇おうとするが、佐野を信用していない真司に断られる。
 佐野は次に北岡の事務所を訪れて快く承諾を得るが、北岡は金だけ手に入れて後は何もしないつもりだった。
 北岡の様子がどうも信用ならない佐野は、東條を味方に付けようと弁当を持って自分のアパートへと行き、東條に自分をどう思うか聞いた。
 東條の
  感謝してる
  香川先生以外でこんなに優しくしてくれたの、君が初めてだし

という言葉に気を良くした佐野は
  俺達、友達だよな
と言い、東條はコックリとうなずいた。
 
 数日後、佐野は父の知り合いの娘:百合絵と引き合わされていた。
 互いに好意を抱いた2人は次第にいい雰囲気になり、佐野は
  俺は勝つ
  必ず俺の人生を守ってみせる

と決意した。
 だが、2人の前を通りすぎた車の窓から、飢えたギガゼールが襲い掛かる。
 車を追い掛けながら変身してミラーワールドに入ったインペラーは、マガゼールを囮にして龍騎をミラーワールドに誘い込む。
 ファイナルベント“ドラゴンライダーキック”で、マガゼールを倒した龍騎に襲い掛かるインペラー。
 そして、龍騎に苦戦するインペラーはタイガに援護を頼むが、なんとタイガはデストワイルダーにインペラーを襲わせ
  ごめん、君は大切な人だから、君を倒せば僕はもっと強くなれるかもしれない
と言ってデストクローで貫いた。
 龍騎の助けでその場を逃げ出し、「何だよあいつ、何考えてんだよ」と言いながらフラフラと歩くインペラーの前に王蛇が現れ、ファイナルベント“ベノクラッシュ”で吹き飛ばす。
 命は取り留めたものの、その衝撃でデッキが壊れてしまったインペラーは変身が解け、佐野の姿に戻ってしまう。
 置いてけぼりにされた形の百合絵が佇む橋の下に来た佐野は、百合絵の姿を見付け、鏡の破片を持って百合絵の脇まで行くが、現実世界に戻れない。
 佐野は、破片に映る百合絵の姿を見ながら分解を始め
  俺は帰らなくちゃいけないんだ、俺の世界に!
  嫌だ、出してくれ、出して!
  …なぁ、なんでこうなるんだよ?
  俺は、俺は幸せになりたかっただけ…

という言葉を最期に蒸散し、支えを失った破片は落ちて砕け散った。
 佐野の部屋に戻る者はもういない。


(傾向と対策)
 インペラー退場。
 少々展開が強引な部分も目に付くが、とても面白かった。
 なんと言ってもインペラーの最期は、この番組におけるライダーの無情さをよく物語っている。
 因果応報と言おうか「天に唾する者は」と言おうか、実にらしい最期で好感が持てる。
 また、佐野が蒸散した後、事情も分からず佐野を待って雨に濡れている百合絵の画面を最期に音が消え、帰る者のいない部屋の様子が映し出されて終わるラストというのも余韻があって良かった。
 評論の方で書いたが、こういう締め方なら、龍騎とタイガがどうなったかを描かなくてもぶったぎられたと感じられない終わり方なのだと思う。
 まぁ、車を追って走りながらミラーワールドに行ったインペラーがどうやってタイガを呼び出したのかとか、突然ご都合のように現れてベノクラッシュをかまして、しかもトドメを刺さずに帰る王蛇という問題点はあったのだが。
 
 さて、それでは個別に見ていこう。
 まず、因果応報を絵に描いたような男:佐野満から。
 彼は、ライダーが最後の望みを途中で叶えてしまったらどうなるかという典型的な例を見せてくれた。
 この場合重要なのは、最後の目的の重さだろう。
 戦えれば満足な浅倉はともかく北岡や蓮の願いは、勝ち残ることでしか叶わないものだから命を懸ける価値がある。
 そして以前の恵里のように、万一途中で叶ったとしても、その後も命を懸けて落とし前をつけるだけの覚悟を持てる目標だ。
 その点、「いい暮らしがしたい」という佐野の目標は、一旦叶えば、それ以上命を懸けるのが馬鹿馬鹿しくなってしまう望みなのだ。
 だが、何よりも佐野を「因果応報の見本」にしているのは、彼の行動が本当にそのまま自分に返ってきているという点だ。
 それは
  多くの契約モンスター
  他人を裏切ることをなんとも思わない性格

の2点だ。
 まず、彼を戦いにおいて有利な立場に置いている“多くの契約モンスター”は、それだけ養ってやらなければならないということでもある。
 強力とはいえ3体しか飼っていない浅倉があれだけ苦労したのだから、2桁のモンスターを飼っている佐野が負っている餌提供義務は相当なものだ。
 佐野は百合絵が狙われたと思ったようだが、今回ギガゼールが狙ったのは佐野本人のはずだ。
 上のストーリーのところで「数日後」と書いているが、佐野が百合絵と会食(見合いだよね、あれ)する席を設けられるまでには数日必要なはずで、その間佐野はモンスターに何も食わせていないはずだ。
 龍騎(真司)やドラグレッダーだけでは2体分の餌にしかならないのだから、インペラーのリスクは相当なものだろう。
 なお、佐野は「なんでこうなるんだよ? 俺は、俺は幸せになりたかっただけ…」と言っていたが、自分の幸せのために他人を殺そうとしていたのだから、他人の欲望のために自分が殺されるのは当然だろう。
 金目当てで人の命を奪おうとしたんだから、強盗殺人みたいなもんよ?  同情の余地なし。
 そういうのを因果応報というのだ。

 次に“他人を裏切ることをなんとも思わない性格”という点だが、真司を裏切り優衣を狙ったように、今回は金で雇った北岡に実は裏切られており、しかも味方のはずのタイガの攻撃で深手を負っている。
 佐野は、「友達」という言葉で縛って東條を利用しようとしていた(東條はうなずいてたけど、実は佐野には無言としか取れないのは内緒♪)わけだが、その東條が「もっと強く」なるために殺されてしまった。
 ただこの点については、香川を手に掛けた東條の性格を読み切れずに「友達」の一言で信用した考えの浅さもあるので、「因果応報」だけではすまないかもしれない。
 元々龍騎に対してマガゼール1体だけをぶつけたのは、龍騎が強力なカードを使った後で戦おうと思ったからだろう。
 豊富にいるモンスターを捨て石にして消耗戦を強いながら、最後に出ていってトドメを刺すというのが今回のインペラーの戦略だったと思われる。
 実のところ、タイガを利用しようとしたのが敗因であり、インペラーだけで戦えば、もっと楽に龍騎を追い詰められたはずなのだ。
 ファイナルベントを使った龍騎に、ドラゴンファイヤーストームを使うまでモンスターを次々とぶつけ、そこでドライブディバイダーよろしくモンスター数体で龍騎を攻撃し、体勢を崩したところでドライブディバイダーを仕掛けるのだ。
 タイガと組むなら、もうちょっと巧いやり方もある。
 
 今回東條が悩んでいたのは、正面切って戦った結果、かつて倒す寸前まで追い詰めたはずの王蛇・ゾルダに敵わなかったことが原因になっている。
 「今のままの自分では英雄になれない」ということだ。  
 ここで東條の心理を考えてみると、“英雄=みんなからちやほやされる人”という図式が成り立っているのが分かる。
 東條は、あの性格のせいか友達がいなかったようだ。
 一応頭は良かったのだろうが、そのせいで能力のある人間は周囲から褒め称えられるという認識を持っているようだ。
 そこで、とびきり凄い能力を誇示することが、自分が周りから認めて貰える近道と考え、その「とびきり凄い能力」というものを模索した結果、香川の「英雄的行為」に辿り着いたものと思われる。
 ところが、元々“能力”を求めているため、抽象的な『多くを救うために1つを犠牲にする』という観念が理解できず、“ライダーの頂点に立つ=一番強い”という単純な図式の魅力に取り憑かれ、“大事な者を犠牲にする”ことが英雄になる前提条件であるという短絡的思考に陥ってしまった。
 その結果、「もっと強くなるには、大事な者をもっと犠牲にすればいい」という妙な結論に達してしまったというわけだ。
 佐野が、落ち込んでいる東條に「英雄になるための新たな条件」を追加してやれば、好きな方向に軌道修正ができたはずなのだ。
 「英雄には、それを補佐する右腕がいるもんさ。bQって奴が。お宅が英雄になるのを手伝ってやるよ。友達だから」とか言えば、東條は「そうか。英雄になるための条件はまだあるんだ。それを満たせば、僕は英雄になれるかも」と思うだろう。
 だから、そんなタイガがライダーを倒す手伝いをするのだ。それも本気で。
 実は、佐野が取れる一番簡単な方法は、東條を焚き付けてほかのライダーを襲わせ、自分はその手助けに徹するというやり方だったと思う。
 元々タイガの戦闘パターンは、不意打ちが基本だ。
 だから、豊富なギガゼール達を捨て石にして敵ライダーと戦わせ、敵がファイナルベントを使う瞬間にタイガがフリーズベントで乱入すればいいのだ。
 今回の場合、いつものようにタイガを近くに潜ませておいて、龍騎がファイナルベントの体勢に入ったところでフリーズベントを使わせ、タイガに龍騎を倒させるわけだ。 
 ついでに言うと、フリーズベントの後いきなりクリスタルブレイクを放つのではなく、今回のようにアドベントでデストワイルダーを呼び出して引きずらせた方がいい。
 元々アドベントは契約モンスターを召還して援護させるというものだから、“敵を捕まえて引きずる”というだけの簡単なことなら十分可能なのだ。
 今回デストワイルダーがやったのはクリスタルブレイクもどきなのではなく、 引きずってぶつける×3でしかない。
 タイガは、その後、よろよろと立ち上がったインペラーにデストクローを叩き込んだだけで、全く連携はなされていない。
 要するに、呼び出されたドラグレッダーが火球を吐くようなものであり、モンスターが持っている能力で攻撃しているだけなのだ。

 話を戻そう。
 クリスタルブレイクが破られるのは、引きずっている最中のデストワイルダーが攻撃されてコケるからだ。
 だが、ある程度の距離を引きずられた相手は必ずボロボロになっているから、もう1度かければ倒せる。
 つまり、デストワイルダーに引きずらせて弱らせれば、たとえそのときは敵が脱出できてもフラフラになっていて、改めてクリスタルブレイクを放てば確実に仕留められる。

 このように、できるだけタイガに花を持たせた戦い方をすれば、理想的なbQを演じられる。
 そして、残るライダーが自分達だけになったところでタイガの寝首を…かく必要はない。
 というのは、今回の一件で生きたままライダーを辞める方法が見付かったからだ。
 相手と示し合わせて、自分の契約モンスターを殺させた上でデッキを壊してもらい、変身の解けた自分を現実世界に連れ帰ってもらうのだ。
 ライダーとしての自分は死んでいるし、餌を求めて襲ってくるモンスターももういない。
 晴れて自由の身だ。
 万が一途中でタイガが死んでも、ライダーの数が1人減るだけだし、途中で自分の契約違反を咎める契約モンスターが数体減っているという嬉しい状態になる。
 新たな相棒を捜すもよし、残ったライダーを全力で倒すもよし。
 社長をしながらでもできそうだ。
 残念なのは、佐野が東條の性格を読めなかったことか。
 「香川先生以外では」のところで、“コイツはその香川先生を殺したやばい奴だ”と気付かなかったのが敗因だろう。
 
 ちなみに、佐野が持っていた札束は1,400万円。
 それをバシッと返した真司は偉いが、欲しそうに眺めていた蓮はちょっと笑えなかった。
 あれのせいで「金で仲間が買えるか」という真司の言葉がギャグっぽくなってしまったのが残念だ。
 で、その1,400万円をまんまと手に入れてしまったのが素敵な北岡だ。
 「これは前金として受け取りますが、契約書を作りますから本雇用はその後で」という北岡の言葉は、正しく“金だけ貰って後はドロン”のパターンだ。
 あの一言で、「忙しくてまだ契約書ができてないんですよね」という抗弁ができてしまうことになった。
 前金は契約の予備段階として発効しているから返す必要はないし、どうせ説明のできない金だから税金取られないし、後は本契約に至らないまま雇用主を倒しても契約違反にはならないという、弁護士ならではのずるいやり方だ。
 吾郎ちゃんでなくても「先生…素敵です」となろうってもんだ。
 
 さて、情報収集のために例の写真を出してしまったためにインチキ呼ばわりされることになったOREジャーナルだが、今回の百合絵さんは読者だろうか?
 彼女は、状況的にギガゼールは見ていないはずであり、佐野に突き飛ばされたのは危ない運転をしている車が通ったからだと思ったのではなかろうか。
 だが、彼女は佐野がインペラーに変身して車のウインドーに消えたのを見ている。
 その後、佐野が行方不明になったことも。
 何だかいい雰囲気だった彼女なら、佐野に何があったか調べてくれそうな気もするが…。
 どう見ても佐野と百合絵は初対面だし、政略結婚ぽいが、あれはどういう流れだったのやら。
 父親同士が知り合いってのはともかく、重役の方で何らかの目的を持ってお膳立てしたんだろうな〜。ま、本人同士気に入ってたようだから問題ないけど。
 
 今回は、大抵の人がほぼ満足できる内容だったのではないかと思うが、一番不満が出そうなのは、インペラーを倒したのがベノクラッシュだったことだろうな〜。
 あれは、ドゥームズデイを使うとデッキだけ破壊ってわけにいかなくなるからなんだよね。
 鷹羽としては、ヘビープレッシャーで派手に吹っ飛ばしてほしかったな〜。
 
 そういや、龍騎のドラグクローが純粋な打撃武器として使われたのって今回でやっと2回目か?
 それと、今回一番のアラって、実は優衣を発見した後龍騎がどこから出てきたかってことなんだけど。
 反射物、何にもないよね。
 ラストで、龍騎に「逃げろ」と言われたインペラーがすぐ現実世界に逃げなかったのは、近くに反射物がなかったせいだろう。
 デッキが壊れる前ならば、多分どこからでも出られたはずだ。
 何しろ、今まで散々破ってきたルールなんだから。
 変身が解けた後に自力で現実世界には戻れないということなんだと思う。
 で、そうやって鏡の向こうの遠い世界を見せるラストなのに、どうして何にもないところから現実に戻ってくるかなぁ?
 これに比べれば、デッキが壊れた途端にギガゼール達が襲ってこないのは、「近くにいなかったから」 という言い訳が立つ分マシ。
 
 さて、今回の見所は“何でも言うことを聞くと言った翌日にもうサボっている真司と蓮”だろう。
 あの大混雑の中、2人とも出ていったら、さぞかし沙奈子と優衣は大変だったろう。
 そういや、前回書いた「無断外泊した年頃の娘」について言及されていたのは嬉しい。


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