『仮面ライダー龍騎』
第17話 嘆きのナイト
2002/5/26 放映


(Story)
 駆け付けた龍騎とライアの目の前で、ガイに向けて振り下ろされたナイトの剣は止まった。
 ナイトの脳裏に、手塚の『本当に誰かを殺せるつもりか?』という声が響く。
 その隙にナイトの剣を蹴り飛ばしたガイは、ストライクベントでナイトを吹き飛ばし、ナイトは動けなくなってしまった。

 真司と手塚に支えられて現実世界に戻り、倒れ込んだ蓮の前に芝浦が現れ
  なーんだ、トドメ1つ刺せないんだ
  一瞬、負けるかと思ったけどさ、ただの根性なしじゃん
  あんた、ライダー倒せないのになんでライダーやってんの?
  笑わせないでよ

とバカにする。
 真司が
  何が悪いんだよ
  人の命奪えないのがそんなにおかしいことかよ!?

と食ってかかるが、芝浦は
  あのさぁ、なんか勘違いしてない?
  俺達、ライダーなわけでしょ?
  お互い潰し合うのがルールじゃん
  ゲームに参加しといて今更何言ってんのって感じだよ

と笑い飛ばし
  ま、1人リタイアってことで
と言い捨てて立ち去る。
 蓮は、一言も言い返せなかった。
 そして、手塚は、コイン占いをして、芝浦に「お前にトラブルが見える。気を付けろ」と忠告した。
 真司は、蓮に
  あんな奴の言うこと気にするな
  お前は間違ってない
  っていうか、お前のこと見直した

と慰めるが、蓮は狂ったように絶叫して倒れてしまった。

 そして、立ち去った芝浦の前に刑事が現れた。
 マトリックス部員による傷害事件と、OREジャーナルへの不正アクセス容疑についての取り調べのためだ。

 一方、優衣は、江島研究室に在籍していた仲村創に電話をかけ、しつこく士郎の野郎としていたことについて聞き出そうとしていたが、あまりのしつこさにとうとう留守電にされてしまった。
 優衣は、それでも留守電にメッセージを吹き込み続ける。
 「兄を止めたい」と。

 その夜、蓮が変わったことを喜ぶ真司に、手塚は冷たく
  あいつの運命は変わっていない。このまま行けば破滅だ
  あいつの中に戦いをやめるという選択肢はない
  だが、戦いに徹することもできない
  このまま戦えば、奴を待ってるのは破滅だ
  だが、戦いをやめることは、奴にとってやっぱり破滅だ

と答える。
 だからこそ戦いを止めたいと言う手塚に、真司は死ぬことを前提に話をするのはおかしい、占いに頼るなんて情けないとなじるが、手塚は逆に「一度でも死ぬほど迷ったことがあるのか!?」と問い詰める。
 真司達の部屋に泊まった手塚は、占いで見たガイに殺される蓮のビジョンと、病院で眠り続ける恵里の姿を思い出し
  戦っても、戦わなくても地獄、か
と呟いた。

 翌日、街で占いをしている手塚のところに真司がやってきた。
 手塚は、昨夜「情けない」と暴言を吐いたことを詫びる真司に、蓮の様子を訪ねる。
 蓮が落ち込んでいることについて
  ライダー倒せなかったことくらい、どうってことないのに
と言う真司に、手塚は
  お気楽にライダーになった奴には分からないだろうな
と笑った。
 そして、自分の戦う理由を尋ねられ
  誰もが望みを叶えるためにライダーになる道を選べる訳じゃない
  俺は、神崎士郎の作ったライダーの運命を変えることで、奴の運命も変える

と答えた。
 そんなとき、真司と手塚は、モンスターの気配に気付き、襲われかけていた女性を助け、変身した。

 一方、優衣の前に仲村が現れ、江島研究室の資料を全て渡し
  これでもう俺に関わらないでくれ
と言い残して帰った。
 早速資料を読み始めた優衣は、住所録の小川恵里の欄に「聖病院」と付箋が貼ってあることに気付く。
 そしてそのころ、その恵里の病室の前には、病室のドアを開けることのできないでいる蓮がいた。
 蓮もまたモンスターの気配を察知し、変身しようとするが、躊躇ってしまう。
  俺に迷う資格なんかなかったはずだ…
 迷う蓮の脳裏に恵里の「もういいから…」という声が響き、蓮はへたり込んでしまう。

 モンスター:ゲルニュートと戦う龍騎、ライアは、立体的に攻撃してくるゲルニュートに手を焼いていた。
 一計を案じた龍騎は、ライアを踏み台にしてジャンプし、ゲルニュートに一撃を加える。
 龍騎は、
  お前も本気で読めない奴だ
と呆れるライアに
  ライダーの運命だってそうじゃないの?
と答える。
 ゲルニュートは龍騎のストライクベントと、コピーベントでそれをコピーしたライアの攻撃を避けて逃げてしまった。
 龍騎は、ライアに
  悪いけど、俺、やっぱりあんたの占い信じない
  蓮の奴の運命もね

と言い、ライアは
  それはお前の自由だ
と答えて去っていく。
 その背中を見ながら、龍騎は
  信じたら、終わりじゃないか
と呟くのだった。

 そして、警察で取り調べを受けていた芝浦は、弁護士として北岡を選任し、北岡はもう1つ仕事を片づけたら行くことにした。
 北岡が向かった先は関東拘置所だった。



(傾向と対策)
 すっかり主役を食ってしまった蓮だが、今回の彼の悩みは、ライダー同士の戦いを止めようとする手塚にとって大きな試練となる。
 基本的にライダーは何らかの目的を持って戦う道を選んでいるわけで、以前にも書いたとおり、蓮や北岡に戦いをやめさせるには、恵里を復活させ、北岡に永遠の命を与えてやらなければならない。
 もしかしたら、芝浦にだって何か大きな目的があるかもしれないのだ。

 さて、恵里を救うために人殺しになる決心をしていたはずの蓮は、やはりガイを殺すことができなかった。
 手塚が呟いた「戦っても戦わなくても地獄」という言葉が端的に表しているとおり、蓮にとっては“自分が遅れたために救えなかった恵里を見殺しにする”“自分の手で人を殺す”かという二者択一しかない。
 始末の悪いことに、蓮は恵里を見捨てても死なないのだ。
 これが北岡のように“自分が死ぬ”“他人を殺す”かという二者択一なら、“かけがえのない自分”を守るために人殺しになるという道が開ける。
 刑法を勉強すると、正当防衛や緊急避難の項目にはカルネアデスの板という言葉が必ず出てくる。
 船が転覆し、自分ともう1人が板きれに捕まっているという状況で、2人で捕まっていると板きれが沈んでしまうという場合、自分が助かるためにもう1人を板から放り出して死なせてしまってもいい、つまり自分の命が危ないときには、他人を殺してしまっても仕方がないという命題だ。
 余談だが、『トップをねらえ!』5〜6話でのブラックホール爆弾で宇宙怪獣の星を消し去ろうという作戦の名前が『カルネアデス計画』というのは、ここから来ている。
 地球を救うためなら、関係ない銀河の星々をブラックホールに飲み込ませても仕方がないという作戦であり、地球側の苦渋の選択だったということが作戦名から見て取れる素晴らしいネーミングだった。

 話を戻そう。
 蓮にとって戦うということは“人を殺したという負い目を背負うこと”であり、戦わないということは“恵里を見殺しにしたという負い目を背負うこと”だ。
 恵里を助けたいという思いが強いことは確かだが、蓮にとって“知らない奴を殺した方がマシ”という面があることも否定できない。
 今回蓮が見た恵里の幻は、「もうやめたい」という蓮の弱きが見せた自分勝手なものだ。
 蓮自身そのことを理解しているから、まだ悩んでいるのだ。
 蓮が立ち直るには、恵里を復活させる別な方法を見付けるか、ライダーを殺すのを割り切るかしかないように思えるが、どうするのだろう?

 そうなると気になるのは、芝浦と手塚はなせライダーになったかだ。
 手塚は、
  誰もが望みを叶えるためにライダーになる道を選べる訳じゃない
  俺は、神崎士郎の作ったライダーの運命を変えることで、奴の運命も変える

などと言っていることからして、最終目的があってライダーになったのではなく、別の何らかの理由でライダーにならざるを得なかったようだ。
 それが何かはいずれ明かされることを期待するとして、芝浦はどうだろう?
 芝浦にしても、今回殺されかけておきながらあの態度を崩さないわけで、単なる愉快犯とも思えない。
 命を懸けてまで遊んでいるのだとしたら、かなりの大物かもの凄いバカかどちらかだ。
 犯罪レベルの殴り合いゲームやらウイルス送付などをしていたのは、どうやら北岡という凄腕弁護士の存在をアテにしていたようだから、特に危険な橋を渡る気でもなかったろうが、ライダー同士の殺し合いとなれば、自分の命が懸かっている。
 そうまでしてスリルを求めるほど退屈していたのだろうか。
 で、北岡を呼んでどうするかが問題だ。
 どうやら芝浦は逮捕されているようだ。
 それにしては態度悪いけど。
 とすると、弁護士を呼んでどうするつもりだろう?
 基本的に、逮捕された段階で弁護士を付ける権利はあるが、起訴前の保釈はあり得ない。
 弁護士にできることは、被害者との示談を整えて起訴されないようにすることくらいのはず。
 傷害の方はそれでいいとしても、OREジャーナルの方はどうにもなるまい。
 ものがネット関係絡みで、証拠隠滅の恐れがあるから逮捕されているわけで、釈放されるのは、起訴されずにすんだときだけのはず。
 真司の場合のように別の犯人が出てこない限りは、芝浦が助かる見込みはない。
 北岡が電話会社のデータでもいじらない限りは、侵入の事実をなかったことにはできない。
 どういう魔術を使うか、スーパー弁護士のお手並み拝見といこう。

 ところで、自分の運命は自分で決めるとか言っていた真司は、実は事態をちっとも理解していない。
 “占いを信じない”ことについては、蓮が死ぬということを否定したいわけだから、まぁいい。
 だが、予想できない行動を取るということと、人の行動理念を変えるということは別だ。
 蓮のジレンマを知って壁を感じている手塚の方がよほど現実的と言える。
 背負うものもなくライダーになった真司は、ライダーになった奴らにはそれなりの事情があるということを理解していない。
 蓮が変わったこともあってお気楽に「話せば分かる」的なことを考えているが、前回のガイのように、問答無用で攻めてくる敵に対して、自分の身を守りつつどう説得するか考えてもいない。
 手塚と共闘することで、果たしてどう変われるか。
 
 さて、今回の見所は“ストーカー一歩手前の優衣”だろう。
 どうやってか仲村の電話番号を調べ上げ、暇をみては電話していたらしい。
 留守電に切り換えられてもメッセージを入れるしつこさ。
 これで小川恵里に行き着いたわけだけど、どう展開していくものやら。


 


←BACK
→NEXT