『仮面ライダーアギト』
46話 戦士その絆 
2001/12/23 放映

(Story)
   アギトの力をあっさりと青年に渡してしまった翔一に涼、木野、真島が駆け寄る。
 青年が姿を消し、翔一が涼らに運ばれていったころ、氷川の視界が戻り、G3-XはGM-01でハヤブサ怪人(ウォルクリス・ファルコ)を撃退した。
 翔一は
   なぜ自分からアギトを捨てた!?
という涼の問いに
  あれは人間が持っちゃいけない力なんです
  アギトは人を不幸にします
  そんな力を持ってたって仕方ないじゃないですか

と答え、やってきた氷川の
   何言ってんですか、現にあなたは今まで多くの人々を助けてきたじゃありませんか
という氷川の言葉にも
  氷川さんには分かりませんよ、アギトじゃない氷川さんには
  俺達はアギトじゃなくなったんです
  ただの人間として勝手に生きていけばいいんです

と言って立ち去るのだった。
 その夜、翔一は真魚の部屋の前でアギトの力を捨てたことを告げた。

 翌朝、北條は氷川を警察病院に連れていって眼底検査を受けさせた。
 しかし目に異常はなく、吉澤病院の精密検査でも脳にも視神経にも異常がなかったことが分かる。
 北條は、一時的にせよ目が見えなくなっているのだから、当分G3-Xの装着はやめた方がいいと説得するが、氷川は
   僕が命懸けで戦っていればアギトは帰ってきてくれる、理屈じゃなくそう信じているんです
と言って口止めする。
 氷川の決意を知った北條は
   知りませんよ、どうなっても
と言うしかなかった。

 一方、真澄のマンションでは、木野の
  今の我々はただの人間だ
  津上が言うように、それぞれ自由に生きていけばいい
  我々を繋ぐものはもう何もない

という言葉に、涼は
  できないな俺には
  ようやく見付けた絆だ
  津上を放っておくことは俺にはできない

と部屋を出ていった。

 また、美杉教授は部屋を出てきた真魚に「マナ」が天からの恵みの食べ物という意味で、真魚の父は人々に恵みを与えるような人になってほしいと思って名付けたはずだと諭すが、真魚は受け入れきれずに自転車で家を飛び出した。
 そんな真魚をヤマアラシ怪人(エリキウス・リクォール)の針が襲う。
 翔一に会うために美杉邸に向かっていた涼はリクォールの姿を見付けて真魚を救い、バイクに乗せて逃げだした。

 そのころ、青年は、翔一達の身体の中に戻ろうとする3つのアギトの力を抑えきれず、戻るための器=翔一達を殺すことを決意していた。

 一旦逃げ延びた涼は、真魚に“アンノウンはアギトになる可能性のある人間を狙う”、つまり真魚もアギトになる可能性があることを告げていた。
 そして、戸惑う真魚に、翔一の姉も同じように怖かったはずだと告げる。
 そこにリクォールが現れ、涼達は再び逃げる。
 途中木野らと合流した涼は、3人で真魚を庇うが、木野は飛来したファルコの体当たりを食らってしまった。
 真魚を襲う針!
 だが、その針はファルコを追ってきた翔一の胸に刺さった。
 涼に真魚を託した翔一は、2人が逃げると同時に倒れてしまう。
 ファルコらが翔一達には目もくれず真魚を追って行った後、木野はファルコの体当たりによる重傷をおして翔一の胸に刺さった針を抜き出す手術を始めた。

 再び追い詰められた涼と真魚の前にG3-Xが助けに現れるが、再び氷川の目が霞み、防戦一方となる。
 突然目標を定められなくなったG3-Xに戸惑う小沢達。
 そこに乗り込んできた北條は、尾室のインターカムを借りて氷川に指示を出し始め、G3-XはGX-05でファルコを撃破したが、素早いリクォールには手も足も出ない。
 駆け付けた翔一がリクォールをバイクで跳ね飛ばし難を逃れたものの、翔一達を殺すべく青年が現れた。
   残念です
   あなた達の命を奪わねばならない
と告げる青年を見て、真魚は
  翔一君戦って!
  もう1度アギトとして戦って!

と叫ぶ。
 素手で青年に殴りかかる翔一だったが、バリアに止められてしまう。
 そのとき、視力が回復したG3-Xが青年に向けてGX-05を連射した。
 その衝撃でバリアが揺らいだ間隙を縫って翔一の拳が青年の顔面に炸裂する。
 そして
   馬鹿な! 人間がこの私を!?
と驚愕する青年の身体からアギトの力が飛び出し、それぞれ元の身体へと戻っていく。
 力を取り戻した翔一、涼、木野は変身し、青年を庇って立ちふさがるリクォールを連続キックで倒した。
 姿を消した青年は
   人間が、この私に…
と何事か考えていた。

 その夜、翔一と真魚は元通りの関係に戻っていた。
 そして、木野、涼、真島は真澄のマンションに戻ってくつろいでいた。
 木野は、医者になる決意を語る真島に木野は「お前ならできる」と言い、コーヒーのお代わりを頼む。


 真島が部屋を出た後、木野は、雪山で雅人を救い出す夢を見ながら永遠の眠りに就いた。

 
 
(傾向と対策)
 アギト復活、そして木野退場。
 今回は、翔一達それぞれが自分の意志でなすべきことを見付けたストーリーだったと言えるだろう。
 涼は、翔一を放っておけずに美杉邸に向かい、その途中でリクォールに襲われる真魚を助ける。
 既に戦う力を失っているのに、それでも守るべき者のために何かをせずにはいられない。
 変身するたびに死にかけていたころから他人のために戦ってきた涼だけに、説得力は十分だった。
 また、木野も口では「それぞれ自由に生きていけばいい」と言いながら、真島と共にやってきている。
 どこで合流したのかはよく分からなかったが、流れからしてマンションと美杉邸の間なのだろう。
 そして、自ら戦う力を捨てた翔一も、ファルコを見てその後を追っている。
 このとき、翔一はファルコの狙いが真魚だと知らないわけだから、“見ず知らずの被害者のため”に向かっていることになる。
 忌むべきアギトの力を捨てても、人を守る意志をなくしてはいなかった。
 これは褒められるべきことだろう。
 ただ、翔一にとってアギトの力が何だったのかという疑問が残る展開だったことは否めない。
 結局のところ、真魚が「もう1度アギトとして戦って!」と言ったから吹っ切れただけであって、翔一自身としては、雪菜のこと、アギトの力のことを容認できたわけでもなさそうだからだ。
 もし、狙われているのが真魚でなく、真魚の許しがなかったとしたら、それでも翔一はアギトの力を振るえたのだろうか。
 そして、真魚も、自分が狙われていない状態で翔一がアギトであることを認められたのか。
 真魚がアギトになる可能性については、サソリ怪人(レイウルス・アクティア)に襲われたことがある以上、何らかの形で触れることができるのだから、今回狙われるのは真魚でない方が良かったような気がする。
 作劇上、真魚を中心においた方がまとまるのは分かるが、これでは下手をすると、真魚は自分を守ってもらうためにアギトを許したようにも見えかねない。
 そうじゃないのは分かるのだが、ちょっと画竜点睛を欠いたね。
 あの状態で「もう1度アギトとして戦って!」と言われてみても、翔一はアギトには慣れないってことは、真魚はよく分かってないから目をつぶろう。

 イマイチ空回りした翔一と真魚に対して、綺麗にまとまっていたのが木野だ。
 翔一の手術自体は、皮をちょっと切り広げピンセットで針を引っぱり出すだけの簡単なものだったのだろうが、木野はこのことで“救うべき者を救えなかった”という負い目を消し去った。
 だからこそ、雅人を救い出す夢を見ながら死んでいったのだ。
 『鳥人戦隊ジェットマン』の結城凱の最期(死んだとはっきり描写されてはいないが)に似ているとも言える。
 凱は竜と香を祝福するという目的を果たして崩れ落ちた(この辺はいずれ『スーパー戦隊の秘密基地』で取り上げる予定)が、木野は“助けなければならない相手を助けた”という満足感の中で死んでいったわけだ。
 “救いを求める者は全て雅人”という想いの中で翔一を助けられたことが、木野の呪縛を解いたのだ。
 でも、アギトの力を取り戻せたのに傷は回復しなかったのね。
 ちょっとは生命力強くなるのかと思ったんだけど。

 で、アギトの力を吸収してめでたしめでたしという目論見がはずれて大失敗の青年なんだけど、結局のところアギトの力を吸収しきれなくて翔一達を殺さざるを得なくなってしまった。
 翔一達を殺す、つまりアギトの力の戻る身体をなくすことで力を封じようとしたわけだが、死体にアギトの力を返すとか、行き先を失うと力がおとなしくなってくれるとかいうことなんだろう。
 どうせ人間を手に掛けるのは嫌なんだから、怪人達に任せておけばいいのに、ノコノコ出ていったのが敗因だ。
 青年としては、ただの人間が自分に何か出来るわけもなしってつもりだったのに、翔一に殴られて驚いた隙にアギトの力が逃げてしまった。
 ここで重要なのは、青年に一撃を食らわせたのが氷川と翔一だったという点だ。
 翔一はアギトの力を失っているし、氷川はエルに「アギトになるべき者でもない」と言われた男だ。
 勿論、大昔に白青年によって植え付けられたアギトの種の命脈は氷川にも受け継がれているだろうが、氷川の代ではそれが発現しないはずなのだ。
 これはアンノウンの被害者全般に言えることなのだが、血の中に受け継がれたアギトの種は、血筋によって発現の可能性が違うはずだ。
 より強く発現しやすい血筋というのがあって、その血筋の中から前段階として超能力に目覚める者が現れるのだ。
 ちょうど『バビル2世』(作・横山光輝)のようなものだと考えればいい。
 バビルの血を引く者は世界中に数多く存在するが、ある程度以上の超能力に目覚め、バビルの後継者と認められるほどの力を持つのは山野浩一だけだった。
 ヨミは浩一より前に目を付けられたが、規定値に僅かに及ばなかったため後継者の座を得られず、後にバビル2世には劣るものの強力な超能力者になった。
 アギトの力もそういったものと考えていいだろう。
 つまり、全人類がアギトの種をその血の中に持っているが、実際に自分の代で覚醒するかどうかは、血筋そのものの素質によるのであり、覚醒した者がいる血筋に連なる者は、近い将来覚醒する恐れがある。
 だからこそ、アンノウンは、超能力に目覚めた者とその3親等内の親族(両親・祖父母・孫・叔父叔母・甥姪:ただし超能力者の血筋の側)を殺すのだ。
 氷川の場合は、何世代も先にならないとアギトの力に目覚めない家系だと言える。
 話を戻すが、ただの人間になった翔一と、ただの人間である氷川によって一撃食らわされたというのは、青年にとって大きなショックだったはずだ。
 これがアギトにやられたのなら分かる。
 あれは青年が愛する人間ではない。
 だが、翔一と氷川は、青年が愛する人間そのものはずであり、青年の認識では人間には青年のバリアを突破する能力などないはずだった。
 つまり、エルがかつて自分の身体に傷を付けたG3-Xを見て「人間もこれほどの力を持ったか」と言ったように、人間が青年の予想を超えた存在になりつつあるということなのだろう。
 人間がアギト化することを青年が嫌う理由が“必要以上の力”だとすれば、人間そのものが青年の愛する人間の枠からはみ出すことになる。
 ならば人間全体を愛さなくなる可能性もあるわけだが、これが最終決戦への布石だろうか?

 さて、すっかりいい人になってしまった北條は、目が見えなくなったらしい氷川を強引に警察病院に連れていったようだ。
 北條が受けさせた眼底検査は、緑内障や網膜剥離の有無を調べるためのものだ。
 目が見えないとなればまず疑われるのは網膜剥離だから、北條の判断は正しい。
 更に念のため、吉澤病院での精密検査の結果を取り寄せているのもポイント高い。
 精密検査の結果で異常がなかったのだから、小沢が氷川の不調に気付かないのも仕方ないだろう。
 目・脳・視神経ともに正常なのに目が見えなくなるというのは、どういうことなのか。
 そして、氷川の決意に一旦は「知りませんよ」と背を向けた北條は、しっかりGトレーラーを追い掛けて、氷川の目の代わりを勤めようとしている。
 小沢には報告せず、氷川のフォローにだけ回る辺りが北條らしい。

 そういえば、今回の3連続キックは、紋章を省略した分だけスピーディーで良かったなぁ。
 もっとも、贅沢を言えば、3人のタメを見せた後で、連続してキックってのが最高だけど。

 さて、今回の見所は“バイクより遅いファルコ”だろうか。
 たかが時速数十キロのバイクに追いつけない飛行怪人なんて…。



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