『仮面ライダーアギト』
第45話 奪われた力
2001/12/16 放映
(Story)
青年の力で炎に包まれたアギトは、涼の体当たりで炎の中から脱出する事に成功したが、ハヤブサ怪人(ウォルクリス・ファルコ)の攻撃を受けて変身が解けてしまった。
涼と翔一は、そのままバイクで逃走する。
そして青年は、ギルスからアギトの力を奪ったことで体内の白い少年(アギトの力)が2人になり、一層苦しみ始めた。
青年は
呑み込んでやる! 貴様の力など…
とアギトの力を吸収しようとする。
逃走途中、涼はアギトの力を奪われたことで苦しみ始めた。
2人は、そこへ現れた沢木の屋敷へ行く。
力を抜き取られて変身できなくなったという涼の言葉に驚く翔一に対して、沢木が説明を始めた。
沢木「あれは人ではない。“力”そのものだ」
翔一「人じゃない…? 前に俺をアギトにした人とそっくりでしたけど」
沢木「そう、まったく同じものだ
だが、正反対のものだとも言える。光と闇のように…
彼は俺を選んだ。人間の側からアギトを滅ぼす者として
そして、俺に全てを教えた
だが、俺は彼を裏切り、アギトを守る側についた」
そんな沢木に翔一は、雪菜がアギトだったからかと詰め寄るが、沢木は無関係だと答える。
翔一はそんな沢木に苛立ち
嘘だ! 姉さんはアギトだった
そしてアギトの力が真魚ちゃんのお父さんを…!
もし姉さんが犯人なら、アギトの力なんて俺はいらない!
と叫んで出ていく。
その夜、真魚は部屋にこもって
恐らく風谷氏はサイコキネシスで殺害された
アギトになる前に人はとてつもない超能力を発揮する
その力が風谷氏の命を奪ったのです
という言葉を反芻し、翔一は美杉邸には戻らず風谷氏を殺したであろう雪菜のアギトの力のことを考えていた。
その頃、小沢らは焼肉店で氷川の退院祝いをやっていた。
その席上、氷川の視界が突然霞んだ。
すぐに元に戻ったが、氷川はそのことを小沢には言わなかった。
翌朝、翔一は真澄のマンションを訪ね、木野に“アギトの力とは何か”相談する。
かつて木野が涼や自分を襲ったのは、アギトの力がそうさせたのではないかと思ったからだ。
だが、木野は
俺にお前を助けることはできない
俺は、本当に助けなければならなかった者を前にして何もできなかった人間だ
そんな俺に何ができる
とにべもなかった。
翔一は失望して帰っていった。
その後真島は、以前のように強く優しかった木野に戻って欲しいと彼に言っていた。
そのころ、新たなアンノウン:ヤマアラシ怪人(エリキウス・リクォール)が出現し、被害者が出た。
現場検証の場で、北條が「アギトもいつ人間に牙を剥くか分からない」と言ったため、氷川と口論になる。
その口論の最中、氷川の視界は再び霞み、北條はそれに不審を抱いた。
美杉邸に戻った翔一は、真魚と話をしようとするが、真魚は自転車で出ていってしまう。
美杉教授は、翔一に伸幸と雪菜の話を聞かせた。
伸幸は、雪菜を素材に超能力の研究をし、かなりの成果を挙げていたが、人間が踏み込んではならない領域に入り込もうとしているようで不安だったこと、死の直前、『自分の力で超人を作ってみせる』と言っていたことなど。
そして、真魚もまた超能力者であることを聞かされていたことから、伸幸が超能力の実験で命を落としたと知れば真魚が傷つくだろうと考えて、誰にもそのことを言わなかったのだと。
美杉教授は、伸幸を止められなかったことを悔やんでいるのだった。
翔一が真魚を追って出ていった後、教授は雪菜の写真を見ながら
沢木雪菜…彼女もまた被害者だった
そして、彼の方も彼女の後を追って自ら命を絶つとは…
と沢木の写真を見ながらつぶやくのだった。
苦痛が癒えた涼は、翔一の助けとなるべく沢木邸を後にする。
そんな涼を、沢木は「彼を頼む」と見送った。
そして、何事か考え込んでいた木野は、真島に案内を頼んで翔一に会おうとしていた。
ようやく真魚を見付けた翔一だったが、真魚に「近寄らないで!」と拒絶されてしまった。
傷心の翔一に、ファルコが襲い掛かる。
変身して立ち向かい優勢に戦うアギトだったが、脳裏に真魚の「近寄らないで!」という言葉が蘇る。
戦意を失ってしまったアギトは、ファルコに反撃しようともしなくなってしまった。
駆け付けたG3-Xがファルコを抑える中、アギトの前に青年が現れる。
同じく駆け付けた涼・木野・真島の目の前で、青年の
貰いますよ。アギトの力を
の言葉にうなずくアギト。
青年の梵字の力がアギトを貫き、アギトの腹部から白い少年が現れて青年に吸収されていった。
そして、ファルコと戦う氷川の目は再び霞み、ほとんど見えなくなっていた。
その状況を北條が見つめていた。
(傾向と対策)
やはり美杉教授は無関係だった。
風谷教授の暴走を止められなかったために、風谷伸幸・沢木雪菜・津上翔一(本物)の3人が命を落としていったことを悔やみ、ひたすら真魚を傷つけまいと真実を隠していたのだ。
つーか、父親が教え子をモルモット扱いして殺されちゃったことの方が、真魚にはダメージ大きそうだけどなぁ。
この事件は、教え子を実験材料にしていたら暴走されて死んじゃったってことで、実験中の事故とも言える。
それなのに、今の状況は加害者の娘が被害者の弟をなじっている状態であって、翔一はまったく悪くない。
勿論真魚自身は無関係だから悪くはないし、真魚にしてみれば、何が良い悪いじゃなくて翔一の姉が父を殺したということがショックだったんだろうけど、実情を知らないが故の身勝手だったりする。
ま、彼女の場合単なるファザコンで、自分が犯人だったかもしれないということでかなり悩んだこともあったから、許してあげるけどさ。
そのせいもあって、完全にアギトに対する信頼をなくした翔一は、自らアギトの力を捨ててしまった。
これは、翔一がこれまで“自分がアギトであることの意味”を全く考えていなかったせいだ。
自分の持つ力の意味と本質を知ろうとしないまま戦ってきたから、“力の本質が悪かもしれない”と知った途端に嫌になってしまったのだ。
何のために戦うのかという根本的な部分を見つめることなく“戦えるから戦ってきた”ということが、翔一の気力を奪っている。
木野が自分を襲ったことも、雪菜が風谷教授を殺したことも、全部アギトの力のせいだと感じて、忌み嫌ってしまった。
実際そのとおりだと思う。
木野の場合は力が暴走したのではなく、力に流されて酔ってしまったようなものだが、いずれにせよ、強力な力を御しきれなかったからだろう。
またアギトにまではならなかったが、榊亜紀も力に酔ってしまった1人だ。
要するに、力を受け止めるだけの心の強さを持っていないせいだ。
そして、これが青年が30話『隠された力』で言った“人間は皆同じです”という言葉の論拠と言える。
翔一は、優しかった姉が自分の意志で人を殺したとは思えず、“アギトの力が殺させた”と考えた。
それは、奇しくも青年が“アギトの力”を邪悪なものと考えているのと同じ考え方と言える。
忌むべき力が自分の中にあるとして、それをなくす方法があるのだから、翔一が青年にあっさり力を渡してしまったことには納得できるのだ。
また、今回はアギトが非常にいい表情をしている。
ファルコへの拳を止めた辺りから、アギトのマスクになんともやりきれない表情があるのだ。
こういうのって、見ていて嬉しい。
恐らく次回、力の意味を見つめ直すのだろう。
自力で力の意味を悟った涼、涼に破れ力を失ってその意味を見直した木野と並び、翔一はどうやって立ち直るのか。
これでかる〜く立ち直られたら、やっぱ辛いよね。
それにしても、アギトの力と一緒にアンノウン感知能力も失っただろう涼と木野は、どうやって翔一を見付けたんだろう?
で、先程はさらっと流したが、沢木はどうやら雪菜の後を追って自殺していたらしい。
ということは、青年の力で復活を遂げたということになる。
青年はアンノウンを『私の使者』と呼び、沢木を『私の使徒』と呼んでいる。
ということは、アンノウンとは別種だけど、青年の力によって生み出された存在ということだろうか。
津上翔一という名前を恐らく知っているであろう美杉教授が、『津上翔一様』と書かれた封筒を見たときに、どうしてそのことに思い至らなかったのだろう。
雪菜が翔一の姉だと気付かなかったということは、雪菜の弟の存在は知らなかったということだろうか。
或いは、同姓同名と信じて罪滅ぼしの一環として翔一を預かったのだろうか。
だとすれば、美杉教授が見ず知らずの翔一を引き取ってやったことの説明がつくのだが。
ところで、26話『蘇った記憶』で翔一が訪ねた沢木のいた大学では、沢木の死を知らなかったようだ。
ということは、死んですぐに復活したか、周りの誰もその大学に連絡しなかったか、死んだというのが美杉教授の勘違いか、シナリオライターが忘れているかのどれかということになるが、やっぱり4番でしょうか?
で、氷川の目が霞むようになってしまったが、これはやはりエルとの戦いで頭を打ったことによる障害だろう。
視神経をやられたのか、脳自体の問題なのかは分からないが、網膜剥離の症状ではないようだから、かなり深刻と言えるだろう。
下手をすると手術しても治らないようなものかもしれない。
精密検査を受けたはずなのに、引っかからなかったところを見ると、かなりシャレにならない。
果たして氷川の運命や如何に?
で、今回登場のヤマアラシ怪人(エリキウス・リクォール)だが、エリキウスはハリネズミの学名(正確にはErinaceus)、リクォールは恐らくラテン語で液体という意味だろう。
蒸留酒を意味するリカー(liquor)には、液体という意味もあるようで、このリカーをラテン語読みするとリクォールになる。
人間を液化するアンノウンなので、多分これでいいだろう。
ちなみにスケロスもそうだったが、このエリキウスもモデルになった動物と呼び名がずれている。
ヤマアラシは齧歯目(ネズミの仲間)、ハリネズミは食虫目(モグラの仲間)であり、全く違う生物だ。
公式HPによるとヘッジホッグロードということだから、ハリネズミの学名を使うのは間違いではなく、「ヤマアラシに似た超越生命体」という呼び方が間違っているようだ。
ちなみに、全身針だらけで丸くなって身を守るのはハリネズミで、ヤマアラシのトゲは背中の下半分にしかない。
余談だが、ハリネズミはユーラシア大陸・アフリカ大陸にしかいないため、アメリカでは、ヤマアラシのこともヘッジホッグと(間違って)呼ぶこともあるらしい。
また、頭部からまとまった長い毛が生えているのもヤマアラシの特徴だ。
これに従ってヘッジホッグロードと呼んだのなら、学名は間違いだ。
アギトの力を2人分吸収した青年は、かなりの消化不良を起こしているようだ。
相反する力を取り込んだのだから、吸収と言うより相殺させると言う方が正しいのだろう。
2人分であれだから、3人分を吸収した今の青年はかなり辛い状態だと思われる。
だからこそ、完全にアギト化した分は自分で吸収することにして、まだ兆候だけの人間はリクォールに任せているのだろう。
完全にアギトになってしまえば命は助かるのに、中途半端だと殺されちゃうってのは、やっぱなったもん勝ちってことかな?
さて、今回の見所は“凋落著しい小沢”だろうか。
遂に尾室は小沢の箸を押しのけて肉を食べるまでに成長した。
そして、小沢は氷川の目の変調に気付いていない。
北條は気付いているというのに…。
でも北條君、アギトの正体には箝口令が敷かれてるんだから、河野さんの前で津上翔一の名前を出しちゃ駄目よ。