『仮面ライダーアギト』
43話 動き出す闇 
2001/12/02 放映

(Story)
   記憶と意識を取り戻しバーニングフォームに変身したアギトだったが、それでもエルの力には苦戦する。
 それを助けようとエルに組み付いたG3-Xは空中高く放り投げられ、落下して動かなくなった。
 そのことがアギトの闘志に火を付け、燃える拳のパンチをエルに叩き込む。
 大きなダメージを負ったエルに、再びエクシード化したギルスの踵落とし、アナザーアギトの紋章キック、更にシャイニングフォームの空中紋章キックが決まり、エルは爆発して光球になって飛び去った。
 だが、再び力を蓄えるべく黒い青年の胸に飛び込もうとしたエルの光球は青年の寸前で水の飛沫となって弾けてしまう。
 アギトの力がエルを完全に死滅させるほどと知った青年は、病院を抜け出して沢木の屋敷に現れ、自分の手でアギトの力を奪い去ることを宣言した。

 木野の紹介で宮澤病院に運ばれた氷川は、頭を強く打っているため精密検査を受けることになった。
 知らせを受けて飛んできた小沢に、涼は
   所詮ただの人間の力ではどうにもならない。多分な
とアギトとアンノウンの戦いに関わらないよう言うが、小沢は
  確かあなたもアギトと同じ力を持っているんだったわね
  あなたの力がどれ程のものか知らないけど、人間を侮らない方がいいわ
  結局、最後に勝つのはただの人間なんだから。多分ね

と断った。

 そして翔一は、木野にその後あかつき号で何があったかを尋ねる。
 翔一の記憶が戻ったことを知った木野は、翔一が海に消えた後のことを話し、アギトの力を与えた人物の正体については考えたくないと告げ、去っていった。
 涼は
   背負いきれない現実というものもある
と、あかつき号事件以来人の変わった父を弱い人間だとは思いたくないと話す。
 そして、記憶を取り戻した翔一が
  よく考えると、俺、あかつき号から落っこちて2週間ぐらい海の中にいたことになりますね
  アギトになってなかったら完璧に死んでましたね、きっと
  アギトになってラッキーでした

とあくまで前向きなことに半ば呆れるのだった。

 美杉邸に戻った翔一は、教授ら3人に記憶が戻ったことを話し、美杉邸を出て行くべきではないかと相談し、教授の『これからもこの家にいていい』という言葉に喜ぶのだった。

 その夜、新たなアンノウン(ウォルクリス・ウルクス)が出現した。
 アナザーアギトが撃退するが、そこに青年が現れ
  怖がることはありません
  あなたの中のアギトの力を貰うだけです

と言い放った。
 青年の力の前にアナザーアギトは逃げだす。

 翌日、河野に捜査の進捗状況を聞かれた北條は、あかつき号の中で人間がアギトになる何らかのことが置き、それはかつて人類全体にも起きたことであること、風谷伸幸を殺したのはアギトであると思っていることを話した。
 そしてそのころ、真魚は以前見た父の最期のビジョンのことを翔一に確かめるべく父の写真を見せていた。
 翔一はその顔に見覚えがあった…。

 一方、木野はウルクスに襲われ、変身して戦うが、再び青年が現れた。
 紋章キックの体勢に入ったアナザーアギトだったが、青年の力で紋章はかき消されてしまう。
 そして青年の右手から発せられた光線がアナザーアギトの腹部を貫くと、アナザーアギトの中から白い少年が現れると共に変身が解けてしまった。
 少年は白い光球になって青年に吸収され、青年は苦しむ。
 そこにウルクスの出現を感知して涼が駆け付けた。
 青年は涼に
  そう、以前君を助けたことがありますね
  君はその力のせいで苦しんでいた
  だが、もう終わりです
  君の力を私にください

と言って涼を吹き飛ばした。
 涼は変身して青年と対峙する…!
 
 
(傾向と対策)
 水のエル敗退。
 3人のキックを次々と食らっての最期というのは、ヒーローテイスト溢れるもので、アギトの中でも珍しい展開だった。
 しかもアギトはテレビ初公開の空中紋章キックだ。
 G3-Xはこの勝利の影の功労者(翔一の闘志に火を付けた)なのに、残念ながら勝利の瞬間を見ることなく病院行き。
 いつもの病院(警察病院?)でなく吉澤病院に運んだのは、木野の判断が余程早かったからということになる。
 でなければ、G3-Xの戦闘不能をモニターしていた小沢達が現場に駆け付けてくるはずだ。
 木野に手術を依頼してきていた吉澤病院に運んだということは、木野はいざとなったら自分で執刀して氷川を助けるつもりだったのかもしれないが、もしいつもの病院に運んでいれば、そこに入院していた黒い青年と鉢合わせできていたかもしれないから、実のところ吉澤病院に運んだのは、それを避けるためのシナリオ側の必要性だったのだろう。

 さて、黒い青年も遂に病院を抜け出した。
 催眠術なのか人の意識を操って病院を抜け出したということは、沢木が出入りできていたのもそういった精神操作の結果だったのかもしれない。
 そして、沢木との
   青年「アギトの力は、私が思っていた以上のようだ
    私の手でアギトの力を奪い取ります

   沢木「だが、また新しいアギトが誕生する
     それはあなたにも分かっているはずだ

   青年「ええ、君は分かっていますか? 自分のやろうとしていることの愚かさを
    1つの悲劇が終わっても、この世にはまた別の悲劇が生じる
    人が『アンノウン』と呼ぶ私の使者が滅んだとしても、この世は平和になることはないのです
    分かりますか? アギトの力は無意味なのです

という会話から、アンノウンが青年の部下として動いていること、青年はアギトの力が予想以上に強いため、アンノウンに任せることをやめて自分自身でその力を奪い取ることにしたことが分かる。
 では、どうして今まで自分では動かなかったのか?
 それは、まずアギトとは言え自分自身の手で人間を殺すことを嫌ったということがあるだろう。
 三浦智子を殺した際に“人間を殺した”という自責の念に苛まれたことから、恐らくたとえアギトでも“人間を殺す”という方向性には持っていきたくないのだろう。
 そこで“覚醒したアギトの力を奪い去る”ことで人間に戻すという手段を取ることにしたわけだ。
 どうして今までそうしなかったのかといえば、それをやると自分も痛い目に遭うからだろう。
 奪ったアギトの力は、何らかの方法で消滅させなければならない。
 あれは要するに白い青年の力の一部であり、沢木が真島から涼に移したのと同じやり方で抜き出しているのだろうから、誰かに移せばそいつがアギトになってしまう。
 だから、自分が吸収するしかないのだろう。
 そして、木野から奪った力を自分に吸収したことで、黒い青年は苦しんでいる。
 相反する力として相殺することで消し去るため、自分のそれなりの消耗を強いられるのだ。
 これでは、全人類に蒔かれたアギトの種を消し去るわけにはいかないだろう。
 だからこそ覚醒しはじめた人間を部下に殺させていたのだ。
 ギルスの中のアギトの力、翔一のアギトの力、いずれも既に相当危険なほどに成長しているから、青年は自分の身を削ってでも消去するしかないのだ。

 ところで、青年を見たときの木野と涼の印象はどうだっただろう?
 木野にとっては、あかつき号で見た白い青年そっくりの黒い奴であり、涼にとっては8話『赤い炎の剣』で見た急成長する化け物で、しかも踵落としで消滅させたはずの相手だ。
 涼は白い青年を見たことがなく、木野は黒い青年を見たのが初めてだから、木野と涼が落ち着いて話し合えば、そっくりな2人の人物が騒ぎの中心を占めていることが分かるだろう。
 真魚は両方を知っているから、もし黒い青年の姿を見るなり、誰かの記憶から感じることができれば、ことの真相に更に近付くことになるはずだ。

 これと似たようなことが美杉邸でも起きている。
 翔一の本名は予想どおり『沢木哲也』だったわけだが、現在本当の津上翔一が沢木哲也と名乗っていることを翔一は知らない。
 また、沢木(本物の津上)を知っている真魚は、彼の名前のことを全く知らない。
 教授は、『沢木哲也』の名を聞いたときに妙な顔をしていたから、何らかの情報(多分雪菜絡みの)を持っているのだろう。
 これは、各キャラクターの知っていることが断片的であるが故で、研究室第1回で書いたとおり、これまでシナリオ側でマルチサイト的な描写をしてきたたまものと言える
 同様に、翔一が風谷伸幸を見たことがあるらしいにもかかわらず、真魚に言われるまで気が付かなかったのも、翔一にとって真魚は“美杉教授の姪”の真魚であって、“風谷”真魚ではなかったからだろう。
 本名が分かったというのに相変わらず『翔一』と連呼される翔一のようなもので、呼び名がその相手を表しているからそういうことが起きるのだ。
 ところで、翔一は今後も『翔一』と呼ばれるらしいし、このコーナーでもこれまでどおり表記していく予定だが、ムック等ではきっとアマゾン同様
    仮面ライダーアギト:津上翔一(沢木哲也)
とか書かれるんだろうな〜。

 青年の右手の光に腹を貫かれ、アギトの力を奪われた木野は、恐らく変身能力を失った。
 これは、劇場版で青年が翔一の腹を貫いていた光と同じものだろう。
 劇場版とテレビとはパラレルワールドと見て間違いないが、劇場版で示した謎についても、本編で答えをくれたわけだ。

 で、しっかりと本筋に近付いている北條だが、風谷教授が死んだときにアギトになっていた可能性があるのは雪菜だけ、ということは、雪菜が犯人ということになる。
 勿論その可能性が非常に高いわけだが、動機が何か楽しみだ。

 そして、小沢と涼の初対面。
 涼は、やはり自分が特殊な力を持っていることを自覚した上で、『ただの人間の力ではどうにもできない』と言っているわけだが、小沢はそういったことを言わない翔一を高く評価しているのだ。
 翔一は2週間海を漂っても生きていられたのはアギトになったお陰だから、アギトになってラッキーだったなどと平気な顔で言える人間だから、力に溺れずやってこられたのだろう。
 小沢が翔一を“純粋な人間”と評価したのもそのせいと思われる。
 そして、小沢が言った『最後に勝つのはただの人間』という言葉は、図らずも事件の正鵠を射抜いている。
 世界が“ただの人間”だけになれば、アンノウンは出現しないのだから。
 だが、ただの人間だけになっても世界から争いはなくならないし、アギトが増えても力に溺れる人間の方がほとんどだろうからやはり争いの種は尽きない。
 すると、黒い青年はどういう意図で人間を生み出し、白い青年はその意図を無意味にしようとしたのだろうか。

 それにしても、翔一ってあかつき号事件から2週間も経ってから生きて発見されたのか。
 それじゃ、あかつき号と結びつけて考えられなかったわけだ。

 さて、今回登場のフクロウ怪人(ウォルクリス・ウルクス)だが、実はフクロウ科の鳥の学名は一通り当たってみたのだが見付からなかった。
 どうやらウォルクリスはラテン語で鳥類、ウルクスはラテン語でフクロウのことらしい(情報提供:深黄泉さん)。
 どうして学名を使わなかったのだろう。

 さて、今回の見所は“水しぶきになってしまった水のエル”だろう。
 これが土のエルとか火のエルとかだと、泥団子が弾けたり火の玉が散ったりするんだろうか?
 見たい…。


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