『仮面ライダーアギト』
29  数字の謎
2001/8/19 放送

(Story)

 カラス怪人(コルウス・ルスクス、コルウス・カルウス)の2体を倒した翔一は、再び記憶を失ってしまった。
 記憶を取り戻していた間のことも忘れてしまっている翔一は、真魚の口から
   ・翔一に一旦記憶が戻っていたこと
   ・翔一が調理師学校に通っていたこと
   ・姉の自殺の真相を追っていたこと
を聞かされても、やはり何も思い出せない。
 美杉教授は、一時的にせよ記憶が戻ったのだから、いつか記憶が戻る希望があると翔一を励ます。
 それでも浮かない顔をしていた翔一だったが、記憶を取り戻している間もいつもどおりの行動だったことを真魚から聞かされて、ようやく元気な顔を取り戻した。

 翌朝、バーのマスターが駐車場で殺されているのが発見された。
 潜水病に似た症状で死んでいたことから、アンノウンの仕業らしいことが分かったが、氷川は、被害者の物と思われる手帳に挟まれた
   0−15−30−X
と書かれたメモを発見した。
 氷川は、そのメモが何かの手掛かりになるのではないかと考え、真魚の超能力で手掛かりを掴もうと考え、高校のテニス部に入部したての真魚を訪ねるが、真魚には何も感じられなかった。

 数日後、被害者の佐野稔の本名が高木勇であることが分かった。
 高木勇は伝説的な金庫破りで、整形して偽名を使っていたのだが、一度逮捕歴があったことから指紋で正体が分かったのだ。
 勇は2才年下の弟:明と組んで金庫破りをしており、最後の犯行の時効が3日後に迫っていた。
 もし明を見付け出せたなら、アンノウンから保護することができる上に時効間近の犯罪者を検挙することができるが、当然明も整形していることが予想され、しかも明には逮捕歴がないため、指紋も分からない。
 警察は、勇(佐野稔)が生前親しく付き合っていた2人の人物のどちらかが明ではないかと絞り込んでいた。
 氷川は、その2人の男にメモを見せることで、真魚が何かを感じられないかと考える。
 結局成果は上がらなかったものの、翔一の突飛な発案でその2人とテニスをしたことから、氷川はメモがテニスの点数を表していることに気付いた。
 『X』は40という意味であり、勇(佐野)がマスターをしていたバー・ミラージュのメニューの40番に書いてあるマッカラン(ウイスキーの銘柄)を表していたのだ。
 そのころ、メモを見た明は、ミラージュに行き、マッカランの奥の隠し棚から金の入ったバッグを取り出していた。
 氷川も真魚と翔一を連れてミラージュに行くが、翔一は、アンノウンの気配を感じて入り口で引き返した。
 翔一がいなくなったことに気付かない氷川は、真魚の力で、街のテニスクラブの男が明だと知った。
 そのころ翔一は、ピラルク怪人(ピスキス・アラパイマ)に襲われている明を見付けて逃がしていた。

 翌朝、氷川は街のテニスクラブを訪ねて、男に高木明であることを認めるよう迫っていた。
 否定する男に、氷川は
   犯人は普通ではありません!
   血の繋がりのある者をまた必ず狙ってきます
   あなたが高木の弟であると認めれば、護衛を付けることもできるんです!
と詰め寄ったが、やはり男は認めようとはしなかった。
 その夜、金を持って逃亡しようとする明に、黄緑色の光と共にピスキスが迫ってきた。
 執拗に迫るピスキスから逃げる明は、目の前に現れた氷川に
   俺は高木明だ!
   盗んだ金も全部返す、なぁ!
と助けを求める。
 氷川は、腕時計を見て
   時効ならず
   高木明、窃盗容疑で逮捕します
と明に手錠を掛けた。
 実は、ピスキスと思われたのは、潜水用の足ヒレを付け、色セロハンを貼った懐中電灯を持った翔一であり、ドライアイスの煙を焚いて、明に正体を認めさせるために一芝居うったのだ。
 逮捕した明を連行しようとする氷川だったが、そこに本物のピスキスが現れた。
 氷川は直ちにGトレーラーの出動を要請したが、逃げ出した明はピスキスに追いつかれてしまった。
 殴られて気絶した明の後ろで、翔一はアギトに変身し、ピスキスと戦う。
 G3-Xも駆け付け、アギトの紋章オーバーヘッドキックとG3-XのGX-05ランチャーモードの二段攻撃を受け、ピスキスは爆死した。
 アギトは、G3-Xと見つめ合った後、ゆっくりと去っていく。

 翌日、川に浮かんだ涼の死体を沢木が見つめていた。


(傾向と対策)
 う〜ん、変な刑事ドラマだった…。

 今回のストーリーは結構アラが多い。
 まず、北條が出てこない
 小沢や尾室も出てこないが、これはGトレーラー内の描写をしている暇がないということにして納得してもいいのだが、北條が出ないのはおかしい。
 このせいで、氷川がまるで捜査一課の所属になっているかのような印象を受ける。
 本来、氷川はG3ユニット側の捜査員として、捜査一課の河野とは別に“アンノウンによる殺人事件”を追う形になっているはずだ。
 たまたま現場や捜査会議で河野と行動を共にしているだけのはずだが、北條がいないために、河野の相棒のように見えてしまう。
 まず、これが違和感の元だ。

 次に、氷川は捜査するに当たって、なぜか民間人の翔一や真魚の助けを求めている。
 候補が2人に絞られているのだから、両方に監視と護衛を付ければよさそうなものだし、特に2人にメモを見せたのなら、それによって行動を起こす可能性が高いわけで、ますます警察の力だけでどうにかなりそうな状況だ。
 まぁ、真魚の超能力をアテにするのは、真魚の能力を忘れられないようにする演出ということで許すとしても、ピスキスのフリをするのが翔一である理由がない。
 氷川達が高木明を脅すために、ピスキスの出現を演出して恐怖感を煽るのは分かる。
 翔一は1度目撃している(と氷川にも説明しただろう)から、翔一の記憶に従って、光と音、スモークの演出でピスキスを装うこともできる。
 だが、それを翔一自身が演じる必要はない。
 今回のエピソードは、時効直前の犯罪者の自白を取って逮捕するという、刑事モノにありがちなネタの応用だ。
 だから、本来なら捜査一課の刑事なり、ずっと追い続けていた刑事(例えば会議にいた女刑事)なりが追い詰めなくてはならない。
 元々アギトはどこにでも駆け付けてくる便利な奴であり、ここで翔一を絡めたのは、被害者の近くに翔一を配置したいからではなく、氷川&翔一のコンビを見せたいとか、翔一の出番を作りたいということでしかないだろう。
 シナリオ上にこれほどの違和感をつきまとわせてまでやるようなことではない。

 ところで、一応『時効』というものについて説明しておこう。
 ここで言う「時効」とは、「公訴時効」といって“犯罪を犯した後、一定期間を過ぎた後は、裁判にかけることはできない”という制度だ。
 『裁判にかける』というのは、『起訴する』ということであって『逮捕する』のとは違う。
 日本では、刑事事件を起訴できるのは検察官だけであり、警察は逮捕した被疑者(犯人)を検察庁に身柄ごと送致(送検)し、検察官が裁判所に起訴する手続を取らなければならない。
 通常、刑事ドラマでは描かれない舞台裏として、犯人を追い詰める準備段階で逮捕状を請求し、検察庁と連絡して送致・起訴の手続準備をしておいて、逮捕すると同時に送検できるだけの用意をしておくことになる。
 その分の時間を逆算しながら犯人を追い詰めていくわけだ。
 つまり今回の場合、氷川が高木明を逮捕したときに時効が成立していなくても、検察庁に送致する段階で時効が成立してしまえば、釈放しなければならない、つまり平たく言えば無罪と同じ扱いになってしまう(ただし、盗んだ金については、民事事件として持ち主から返還請求ができる)。
 ちなみに窃盗の公訴時効は7年だが、日単位までしか関係しないので、時効の成立は、ちょうど7年後のその日の午前0時ということになっている。
 ちなみに、こういう緊急事態の場合、裁判所にもあらかじめ連絡をとっておいて、いつでも起訴手続を受けられるように準備されているはずだ。

 これを理解した上で今回の展開を眺めてみると、違和感の正体が分かる。
 氷川が高木明を逮捕したのは、真っ暗だったことから考えると、早くても午後7時過ぎのはずだ。
 幹部の言った「あと3日」がその当日を数えていないとしたら、もう1日あることになるが、そうなると氷川が逮捕するときにわざわざ腕時計を見た意味がないから、やはり余裕はなかったと見るべきだ。
 つまり、時効成立まであと5時間足らずしかないことになる。
 こういった場合、万一のことを考えて、氷川以外にも数名の警察官と護送用のパトカー(覆面パトでもOK)が待機しているのが普通だ。
 何しろ、ここで逃げられたら後がないのだ。
 また、逮捕中の被疑者の護送には、最低でももう1人(犯人の隣に座って見張る役)の警察官が付く必要がある。
 氷川1人では、運転中に逃げられる恐れがあるから、これは当然のことだが、まさか翔一を高木の隣に座らせたりするわけにもいくまい。
 たとえ、高木を追い詰めるためのパートナーが翔一だったとしても、そのほかに警察官が1人もいないということは異常なのだ。
 なお、あんなとんでもない脅し方をして犯人だと認めさせたことについては、普通の刑事モノでもよくある強引さなので不問とする。
 ついでに言っておくと、「民間人の翔一が脅したのであって警察官が脅したわけではない」という反論は、「だって氷川が頼んだんでしょ?」の一言で潰されるので、翔一が来ている言い訳にはならないのだ。

 ところで、これはアラというわけではないが、G3-XがGX-05のセーフティを解除し損ねたのはかなり馬鹿馬鹿しかった。
 「1、3、2」のところを「1、2、3」「1、2、2」と連続で入力ミスして「番号ガ違イマス」と言われている。
 恐らくはオモチャの方でも入力ミスをするとこういう音声が流れるということなのだろうが、あの緊迫したシーンでやるかな、普通?

 そして、ようやく助けが現れたらしい涼だが、果たして蘇生は可能だろうか?
 はっきり言って時間が経ちすぎているぞ。
 今回のシナリオ中時間は、27話のラストから始まって、少なくとも1週間は経っている
 ストーリーの部分で書いているとおり、佐野稔が高木勇であることが判明するには、数日が必要だ。
 死者の身元を調べて偽名と分かり、指紋等から高木勇という本名を調べるにはそれなりの時間が必要だろうし、河野は幹部に「先日の」事件だと言っている。
 当日なら「夕べの」だろうし、翌日なら「昨日発見された」という言い方をするだろうから、早くて2日後のはずだ。
 番組内で今の日付がいつなのかははっきりしないが、少なくとも夏に入っているのは間違いないし、1週間も川に浮いていた水死体は、腹にガスが溜まったり、腐ったりして、ちょっと近付きたくない状態になっているはずだ。
 涼の外観が残っているのは奇蹟と言える。
 果たして単なる演出のミスか、それともギルスであるが故の身体的特徴なのか?
 不気味なものを朝から見たくないだけかもしれないが。

 もう1つ疑問を書いておくと、太一がトマトに文句を言っていないのはちょっと不思議だ。
 翔一は記憶と一緒に忘れてしまっているが、太一はトマトが嫌いなのだ。
 ところが今回、翔一はナスとトマトの冷製スパゲッティを作っている。
 この料理方法だと太一は平気なのか、前回の料理でトマトも平気になったのか、それとも太一も自分のトマト嫌いを忘れてしまったのか?

 さて、今回のピラルク怪人(ピスキス・アラパイマ)だが、ピスキスは魚全体の学名であり、アラパイマはピラルクの学名で赤いという意味を持つ。
 ちなみにコイツの殺し方である潜水病というのは、高圧タンク内の空気を吸っていたダイバーが休息に浮上した場合に、血液中の窒素が気泡となって血行障害を起こすなどの障害を起こす病気らしい。

 さて、今回の見所は“マッカラン”だろう。
 脚本の井上敏樹氏が以前メインライターを務めた『鳥人戦隊ジェットマン』のブラックコンドル:結城凱が好んで飲んでいたウイスキーがマッカランだったりする。
 結構メジャーな銘柄だが、もしかしたら井上氏の好きな銘柄なのかな?

 もう1つは山のような冷やし中華と大盛りラーメンを平らげる氷川の食欲だけど…後頭部にボールをぶつけた詫びに翔一が奢ったのか、それとも割り勘か、氷川の奢りなのか…?



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