『仮面ライダーアギト』
28  あの夏の日
2001/8/12 放送

(Story)

 相良の念動力で川に沈められ、呼吸も止まって生死の境を彷徨う涼の脳裏に、ギルスになってしまってからの辛い日々の記憶が蘇る。
 そして、ある少年との会話が脳裏に響く。
   涼  「現実に耐えきれない人間もいる
       世界は美しいだけじゃない
   少年「それでも生きていくしかない?
   涼  「ああ。終わりが来るまではな
 それは、数週間前の出来事だった…。

 涼は、エンジンがかからなくなったバイクを押してもらった縁で家出中の少年(浅野一輝)と知り合った。
   どこかずっと遠くへ行ったら、もしかしたら“今”が嘘になるかもしれない
という一輝に、涼は
   どこへ行ったって同じだ
   “今”は、嘘になんかならない
と冷たく答える。

 黒服の何者かに追われて走り去った一輝は、美杉邸の前を通りかかった。
 翔一がパン屋をやっていたころの常連客だった一輝は、翔一から野菜を貰って再び歩き始めるが、そんな一輝を狙うウニ怪人(エキヌス・ファメリカーレ)の姿があった。
 一輝を襲おうとするエキヌスの気配を感じた翔一は、ストームフォームに変身してエキヌスと戦い、グランドフォームに戻ってキックの体勢に入るが、命中寸前で逃げられてしまった。

 再び黒服の男達に見付かった一輝は、涼のいるバイク屋の前を通り、涼のバイクに乗せてもらって黒服を巻いた。
   「“今”からは逃げられない
    逃げても無駄だ」
と言う涼に、一輝は
   「逃げたことがあるの?
    僕は絶対逃げてやる。全部嘘にしてやる!
と答え、涼は
   「気の済むまで逃げさせてやる
と言って一輝の選んだ方向に進み続ける。
 一度は
   「こんなもんで逃げられたのか? お手軽だな
と一輝を放り出して帰りかけた涼だったが、やはり放っておけず、1人で途方に暮れる一輝を迎えに戻る。
   一輝「逃げたいと思ったことある?」
   涼  「さあな」
   一輝「何から?」
   涼  「聞いたら、お前が俺から逃げたくなる
       …それでも生きていくしかない
   一輝「それでも生きていくしかない?」
   涼  「ああ。終わりが来るまではな」

 そのころ警視庁では、新たなアンノウンによる被害者が発見されていた。
 単なる交通事故死だと思われていた夫婦のうち、夫の死因が餓死だったことが分かったのだ。
 足取りを追うと、直前に食事をしたばかりであり、どうやら運転していた夫が突然餓死したことで車が方向を失って交通事故を起こしたらしく、アンノウンによる不可能犯罪であることが分かったのだ。
 夫婦には子供がおり、次に狙われるのはその子=一輝のはずだった。

 そして、エキヌスは一輝の前に現れた。
 一輝を逃がした涼は、ギルスに変身してエキヌスと戦う。
 その戦いを見守る一輝には、苦戦するギルスの姿が涼の姿にダブり、先程の会話が蘇った。
   一輝「逃げたいと思ったことある?」
   涼  「さあな」
   一輝「何から?」
   涼  「聞いたら、お前が俺から逃げたくなる
       …それでも生きていくしかない」
 一輝は、そう言った涼の真意に気付く。
 ギルスが吠え、それに呼応するように涼のバイクはギルスレイダーに変化し、ギルスの元に駆け付ける。
 ギルスはギルスレイダーに乗って形勢を逆転し、必殺の踵落としでエキヌスを葬った。
 変身を解いた涼に一輝が駆け寄る。
 一輝が涙ぐんでいることに気付いた涼が
   お前…そんなに怖かったのか?
と言うと、一輝は
   見てたら、辛いのが分かった。痛いのが分かったから…。
と答える。
 涼は、異形の自分に感情移入してくれる一輝に
   馬鹿かお前、俺のために泣くなんて…
   ありがとう
と不器用な感謝の言葉を述べた。
 そして、戦う涼の姿から、涼の言葉の意味を悟った一輝は
   僕、戻る。教会へ
   お父さんとお母さん、僕が送り出さなきゃ
と言い、涼に送られて教会に戻るのだった。



(傾向と対策)

 今回は、涼の脳裏をよぎった一言と、その由来についての物語だ。
 涼の追想でも回想でもない。
 それは、翔一や北條達が登場していることからも分かる。
 つまり、時間を遡って語られる“いつものとおりの物語”なのだ。
 そしてまた、涼は呼吸が止まっているものの、まだ死んではいないことも分かる。
 今なら蘇生できるぞ。

 今回のテーマは、“涼の悲しみを理解してくれる人がいたこと”だろう。
 ギルスの姿を見て涼の元を去らなかった者は、亜紀以外にはいなかった。
 涼にとって、ギルスになってしまったことは嘘にしてしまいたい“今”であり、同時に逃げようのない現実でもある。
 だからこそ涼は、一輝から“子供なりに何か悩んでいること”を感じ取って放っておけなかったのだろうし、少し頭を冷やす時間を与えてから迎えに行ったのだろう。
 そして一輝にとって、エキヌスと戦うギルスの姿に涼がダブって見えたというのは、涼の言葉が口先だけでない重みを持っていることを実感させた。
 亜紀を失った涼にとって、外見でなく本質を見抜いて慕ってくれる相手というのは救いとなる。
 涼が涼であることを認めてくれる人もいるということは、涼の今後にとって大きな糧となるだろう…って、その前に息を吹き返さないとね。

 さて今回は、一輝が逃げようとしている“今”が何なのかを途中まで隠して進んでいく。
 冒頭の涼の姿に被る鐘の音が一輝の両親のためのものだったことに気付いたのは、よほど勘のいい人だけだろう。
 そして、一輝を追っていた黒服の男達が、実は喪服だったというのもなかなかのセンスだ。
 なんの変哲もない少年でありながら、いかにもな風体の男に追われるというシチュエーションを無理なく作るという点では、意外な方法だった。
 また、仏式でなくキリスト教式の葬式だったのは「鐘の音」という小道具が使えることだけでなく、故人の一人息子という遺族筆頭な人間がいなくても何とか間を持たせられる状態を作るためだろう。
 なんせ半日は追っかけっこしてたし。

 今回、警察側の対応が遅かったのは一件アラのようだが、よく考えてみると、実は納得できる理由がある。
 事故死した人間の死体は、遺族から身元を確認してもらったりしてから、死因を調べるために検死に回される。
 その後、遺族の元に死体が戻ってくるのわけだが、今回の場合、死体は外見からして異常だった。
 交通事故死した死体が餓死していたとなれば、解剖もされただろうし、事件に巻き込まれている可能性も高いから、事故直前の行動を調べることになる。
 と同時に、死体は遺族に返されただろう。
 恐らくこの時点で、捜査の担当は交通課ではなく刑事課になっているだろうが、足取りを追うのに1日や2日はかかるし、直前に食事をしていたことを調べてからでないとアンノウンの仕業かどうか断定できない。
 (2人だけでデートというのは、2人のその日の行動を調べるのに時間がかかることの伏線としても機能しているのだ)
 となると、葬式の日付が死体が返された翌日くらいとして、事故の翌々日というところだろうか。
 また、警察が裏を取ってから息子である一輝の身辺警護をするのも、死体を返した翌日くらいからがやっとだろう。
 そして、仏式の葬式の場合、前夜あたりに通夜が入る。
 ところが通夜を済ませてしまえば、一輝が両親の死を受け入れざるを得なくなるし、その前に逃げ出すと、遺族はバタバタしているさかりで誰も追い掛けられない。
 つまりキリスト教式の葬式になっているのは、ストーリーの展開上、警察の身辺警護が付く前で、親戚が一輝を追い掛ける余裕があり、しかも一輝が両親の死を認める前という条件を満たすためなのだ。

 更に、一輝が涼に対して理解を示したということは、警察が一輝をアンノウンから守るべく駆け付けたときの説明に影響を及ぼす。
 恐らく、一輝は既にアンノウンに襲われ、それが何者かに倒されたことを話すだろうが、その何者かが涼であったことは絶対に言うまい。
 そして、もしかすると何者かの外見がG3を破壊した謎の生物(ギルス)そっくりだったことまでは説明するかもしれない。
 そうなると、ギルスがアンノウンと敵対する者である可能性を示唆することになり、警察側のギルスに対する見方は多少変わるはずだ。
 既にアンノウンとは異質のものらしいとは分かっているわけだから、アンノウンにも敵対する者として再認識されるだろう。
 ギルスとアギトの関係はまだ不明としても、だ。
 ただし、一輝がギルスの外見すらも隠すことは考えられるから、まだ何とも言えないのだが。

 さて、申し訳程度に出てきた翔一&アギトだが、今回は色々と特別なシーンを見せてくれた。
 いきなりストームフォームに変身してビルの屋上に跳び上がったところを見ると、最初からグランド以外のフォームにもなれるらしい。
 また空中で角を開き、紋章をバックにしてのキックも意外だった。
 紋章の力を吸収しなくてもいいのか、それとも紋章はバックに浮かんでいるだけで何の役にも立っていないのか、興味深いところだ。
 少なくとも、キックの足にウニ爆弾が当たってもノーダメージだったんだから、キック中の足に何らかのエネルギーは存在しているんだろう。

 意外と言えば、ギルスが乗っていなくても変化したギルスレイダーもそうだ。
 元々涼とギルスは一体感が出ている方なのだが、一輝の目を通してギルスが涼に見えるという演出は、ギルスの咆哮の部分まで涼でやっているため、一体感の高さは並ではない。
 そして、涼の叫びに応えるように、変化して走り寄るギルスレイダー。
 その変化のシステムはますます謎になったが、燃える展開だ。
 まぁ、ギルスから近い位置にいれば、その影響を受けて変化する、と言う所なんだろうが、例えば冒頭のようにバイクが動かないときでも動くのか、分解中だったらどうなるのかなど、興味は尽きない。

 そして、バイク屋のおやっさんとして中屋敷哲也氏が登場。
 仮面ライダーV3、X、ストロンガー、スーパー1などのスーツアクターとして活躍した往年のヒーローだ。
 V3当時は、地上53mの煙突上でポーズを取ったという伝説の持ち主でもある。
 恐らくは映画前のファンサービスとしての出演なのだろうが、喜んでる人、多いだろうな〜。

 さて、今回のウニ怪人:エキヌス・ファメリカーレだが、エキヌスはウニの一種の学名だ。
 ファメリカーレは…、また分からなかった。
 トゲじゃないし、殻でもないし…。
※ ファメリカーレはラテン語で飢えさせるという意味(情報提供:深黄泉さん)


 ところで今回のストーリーだが、どこに挿入されるべきものだろうか?
 亜紀の死後であることを考えると、22話『運命の対決』以降のことだ。
 そして、25話『激突再び!』から27話『涼、死す…』までの間は3〜4日の間の出来事であり、「数週間前」という条件に合わない。
 しかも北條は元気に捜査一課で仕事をしているから、G3-XとV-1システムのコンペ直後のことではないし、暫定的に北條がG3-Xの装着者になっている間のことでもなく、かといって氷川が正式にG3-Xの装着員になったのは翔一が記憶を取り戻した後だから時期が違う。
 つまり、G3-XとV-1システムのコンペに数週間の準備期間があったと考えて、その間のことと見るしかない。
 映画撮影のスケジュール調整として、日付が出ていないことを利用しての姑息なやり方という感が拭えないのは残念だ。
 せっかく涼に救いの光が見えるいい話なのに。

 さて、今回の見所は“小学生に奢ってもらう涼”だろう。
 一輝に缶入茶を奢った涼は、小銭を使い果たしてしまい、逆に一輝から500円玉を渡される。
 結局、涼は好意を受けて缶入茶を買っている。
 この際、2人の距離が10m以上あったことは忘れよう
 当然、涼はお釣りを一輝に返しただろうが、ここでの疑問は“涼は小銭がなかったのか、それとも持ち合わせがなかったのか”だ。
 あの自販機は札の使えないタイプだったから、小銭はないが札はあるという可能性もある。
 しかし、もし持ち合わせがないのだとしたら…。
 涼は、バイク屋に行ってから一輝を乗せて逃げるまで、バイク屋周辺を離れていないはずだ。
 しかし、その後のシーンで、一輝はスイカを、涼はトウモロコシを食べている。
 あの代金は誰が払ったのか。
 涼が札を持っていたことを祈る


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