『仮面ライダーアギト』
第27話 涼、死す…
2001/8/5
放送
(Story)
涼の眠る部屋にガスホースを繋ぎ、ガスを充満させ始めた真澄は、マンションの外に出たところで相良に見付かったため、相良の手で涼は救われた。
真澄は、なじる相良に
あの姿を見たでしょ
この男は化け物よ
生かしておくべきじゃない
と答える。
だが、相良の
こんな勝手なことして、木野さんが知ったらただで済むと思うのか!?
という一言に怯えるかのように
もう駄目よ、私達…
とへたり込むのだった。
一方、カラス怪人メス(コルウス・イントンスス)を倒した翔一は、一旦美杉邸へ戻った。
翔一の帰りを喜ぶ真魚に、翔一は
・夢に出てきていた女の人は姉で、海水浴に行ったときの情景だったこと
・優しくて明るかった姉が自殺したことが信じられず、姉の恋人だった人に会いに行っていたこと
・記憶をなくしたときも、その人に会いに行く途中だったこと
・フェリーボートに乗った後、何があったかは思い出せないこと
・姉の恋人には会ったことがないこと
・今回も会えなかったこと
を語る。
また会いに行くつもりだという翔一に、真魚は
ねぇ、お願いがあるんだけど
もうすぐ友達と海に遊びに行くんだけど、その時のお弁当、翔一君作ってくれないかな?
と頼み、翔一は
うん、期待しててよ
すっごいお弁当作っちゃうからさ
と美杉邸に戻ってくることを約束した。
相良は、マンションの玄関先で怪我をした少女を見付け、その傷を治すと共に、念動力が身に付いたことを知る。
再びカラス怪人オス(コルウス・ルスクス)に襲われた相良は、念動力でルスクスをひるませて、その隙に逃げることに成功した。
部屋に戻った相良は、目覚めた涼に花瓶で襲い掛かる真澄を見付けた。
真澄を止めようとした相良だったが、真澄は木野の命令だと言う。
涼の存在が篠原佐恵子と榊亜紀に死をもたらしたと判断されたということだった。
涼は真澄を突き飛ばしてヨロヨロと部屋を出ていく。
真澄の無事を確かめた相良は、涼の後を追った。
そのころ、ようやく姉の恋人津上翔一(沢木哲也)に会えた翔一は
信じられないんです。姉さんが自殺したってこと
と、姉の死の真相について尋ねていた。
津上(沢木)は
なるほど、あれほど明るくて前向きな人はいなかったからな
しかし、それが彼女の全てではなかったとしたら?
君は、彼女が普通の人にはない力、特別な力を持っていたことを知っていたか?
と説明を始めた。
津上(沢木)は、尊敬する比較宗教学の教授に会うために上京した際に、教授の生徒で超能力に目覚めていた雪菜と出会った。
教授と津上(沢木)は、雪菜の能力を“人間に眠る神の力の目覚め”と考えて実験を重ねた。
そんな中、雪菜と津上(沢木)は付き合うようになったが、やがて雪菜は自らの能力を制御しきれなくなりはじめた。
そして、雪菜は次第に自分の能力を忌まわしいものと考えはじめて自殺した。
なおも信じられない翔一に、津上(沢木)は
君が姉さんを知らなかっただけかもしれない
人は、人に対してイメージを抱く
だが、そのイメージが正しいとは限らない
思いもよらないもう1つの顔を持っているかもしれないのだ
と続ける。
一方、マンションから涼を追ってきた相良は、ギルスに変身したダメージがまだ癒えない涼に念動力で瓦礫をぶつけるなどの攻撃を加える。
相良は、鉄棒で腕を貫かれた涼の
なぜだ!? なぜ俺を…!?
という質問にも答えず追い続ける。
涼はギルスに変身して対抗しようとするが、力が回復していないためにホンの数秒で涼に戻ってしまった。
涼は、相良の念動力に翻弄され、川に落ちたところを念動力で押さえつけられ、水面から顔を出すことができなくなった。
やがて、もがいていた涼が動かなくなり、溺死を確信した相良が立ち去ろうとしたとき、再びルスクスが現れた。
津上(沢木)邸を去ろうとする翔一を見送る津上(沢木)は
人間は弱く、愚かなものだ
偉大な力を持っても、その力を正しく使うことができない
自我を超越した者だけが力を制御することができる
そのような人間が、いずれ必要となるだろう
と話す。
冷たいんですね
姉さんのことなんか、どうでもいいように聞こえますけど
と怒りをにじみ出させた翔一の言葉に、津上(沢木)は
時は流れた…そういうことだ
と素っ気なく答えた。
納得できない翔一だったが、相良に襲い掛かろうとするルスクスの気配を感知して走り去った。
津上(沢木)は、その後ろ姿を見送りながら
いずれ必要になる…君のような…人間が…
とつぶやくのだった。
ルスクスのところに駆け付け、戦闘開始したアギトの前に、新たなカラス怪人(コルウス・カルウス)が現れ、2対1となる。
再びトリニティフォームとなり、ストームハルバードとフレイムセイバーでカルウスを串刺しにして倒したアギトは、残るルスクスもキックで仕留めた。
そして、変身を解いた翔一は、雨の中呆然と佇む。
俺は…何をやっていたんだ?
翔一の記憶は再び失われてしまったのだった。
美杉邸に戻った翔一に矢のような質問を浴びせる3人に、翔一はあっけらかんと新しいメニューを考えついたと言う。
狐につままれたような3人だった。
そして涼は、川面に浮かんだまま流されていく…。
(傾向と対策)
ええ〜っ!? 翔一、また記憶なくしちゃったの!?
あまりの急展開に目が点になってしまった今日のアギト。
結局、翔一の記憶が戻ったことによって分かったことは
翔一の姉雪菜が本当の津上翔一(沢木哲也)の恋人だったこと
雪菜が超能力者だったこと
翔一が調理師学校に通っていたこと
雪菜が比較宗教学の教授の下で被験者になっていたこと
津上(沢木)が翔一に何かを期待していること
くらいだろうか。
翔一の記憶が再び失われ、しかもご丁寧に記憶を取り戻していた間の出来事まで忘れてしまったことは、スタッフの都合としか言いようがない。
要するに、翔一の本名を出すことを避けたのだ。
本名を出してしまえば、翔一の過去は簡単に調べられるということもあるが、視聴者側にはもう暫く“津上翔一”以外の呼び名を与えたくないらしい。
だから、憎らしいくらいに巧く名前を出していない。
当然、津上(沢木)に会ったときには名乗っているはずなのに。
また、雪菜の名前も、翔一は出していない。
「姉さん」としか呼ばないという、いかにも身内らしい反応で、真魚には記憶に関するヒントをほとんど出していないのだ。
『誰に会いに行ったのか』『どこに行ったのか』『姉さんの名前』『自分の名前が津上翔一ではないこと』などなど。
このうち、『津上翔一でないこと』については、真魚にとって自分は「翔一君」であるという翔一なりの気遣いだと思うが、それ以外は、単に翔一がそういうことを細かく言わない人間だからに過ぎない。
ただ、重要なヒントを与えてはいる。
『フェリーボートに乗って姉の恋人に会いに行こうとしたこと』だ。
恐らく翔一があかつき号の行方不明者で間違いないとは思うが、真魚が翔一の正体を知ろうと考えた場合、フェリーボートで行くような場所に向かっていたこと、そして恐らくそこで海に放り出されて記憶を失ったであろうことが分かる。
これは重要だ。
既に真魚は、翔一を見知っていた三浦智子とその友人の篠原佐恵子が、あかつき号というフェリーボートに乗っていたことを知っている。
そして、佐恵子が土器にアギトのマークの付箋を付けていたことも。
そこから追い掛ければ、あかつき号から行方不明者が1名出たことも分かるはずで、それが翔一ではないかと考える糸口になる。
もし、それで行方不明者に姉がいて、その少し前に自殺していれば、それが翔一の本名なのだ。
例え翔一が乗っていたフェリーボートがあかつき号ではなかったとしても、翔一の過去に繋がる手掛かりを掴んだことは間違いない。
この番組の構成上、真魚がそのことに気付くには暫くかかるだろうが、このことが伏線として機能してくれることを祈る。
そして姉の雪菜だが、どうやら風谷教授のところの研究室にいたようだ。
津上(沢木)の尊敬する比較宗教学の教授というのは、風谷教授で間違いなかろう。
そうなると、教授が死の直前にラビットで口論していた相手が津上(沢木)である可能性も出てくる。
当時の津上(沢木)に内臓を破壊して殺すような芸当ができたとは思えないが、雪菜の力なら殺すこともできるだろう。
…と考えてきてふと気付いたのだが、教授が死んだのが2年ちょっと前、記憶喪失の翔一が発見されたのが約1年前、津上(沢木)が東京に戻ったのが大分前、となると、雪菜の自殺はいつ頃なんだろう?
常識的に考えれば、翔一が津上(沢木)のところに真相を聞きに行こうとした時期より少しだけ前のはず。
だとすれば、1年ちょっと前という計算になる。
ならば、教授の死と雪菜の死には、約1年の隔たりがある。
とすると、被験者たる雪菜に対する以後の方針について津上(沢木)と教授がラビットで口論した後、何らかの理由で雪菜が教授を殺し、その後津上(沢木)に支えられていたが、教授を殺したことが原因で精神のバランスを崩し始めた雪菜は能力の制御が効かなくなって…という推測はどうだろう。
これなら、1年くらいは小康状態を保っていたと考えても大丈夫そうだが。
そして、雪菜は自殺する少し前に翔一と海水浴に行っており、その際津上(沢木)は同行していない。
だから翔一は、この時点では雪菜が誰かと付き合っていることくらいは知っていても、相手は知らず、雪菜の死後に発見された封筒を頼りに津上(沢木)を訪ねようとしたのではないだろうか。
ここで少し考えてみると、風谷邸にあったビデオテープの「こっちへ来て…」は
・雪菜が海水浴で翔一に言った言葉を予知したもの
・雪菜が念写のようなものでビデオテープに入れた言葉
・まったく関係ないもの
の3パターンが考えられる。
もちろん、これは津上(沢木)の尊敬する比較宗教学の教授が風谷教授だったと仮定しての話だから、この前提が崩れたらお終いの仮説に過ぎないのだが。
しかし、裏返しになったテニスボールは、雪菜が風谷教授の下にいたという可能性を高めている。
そこで気になるのは、あかつき号ネットワークのトップと見られる木野薫の部屋にも裏返しのテニスボールがあったことだ。
これについても
・木野は雪菜と同種の能力者である
・木野は雪菜の関係者である
という2パターンがある。
木野という人物は、実は男か女かも分からないのだが、少なくとも雪菜本人であるということはあるまい。
翔一が『警察は姉が自殺だったと言っている』と言っている以上、雪菜の死体を警察が確認しているはずだからだ。
自殺と判断されたのは、雪菜の自殺場所に津上(沢木)がいたことに警察が気付いていないか、津上(沢木)の政治力(あるだろう、きっと)によってもみ消されたかだろう。
このほか、「止めようとしたが間に合わなかった」と証言した可能性も一応考えられる。
雪菜の右手首には、恐らく津上(沢木)が掴んだときの跡が残っているだろうが、ちょっと調べれば、力の方向性から『落ちそうなところを掴んだ』跡であることは分かるから、自殺を裏付ける証拠にもなりうる。
ただこの場合、翔一が津上(沢木)を訪ねる理由が『どうして姉を助けられなかったのか』と詰問するためになってしまいそうだし、津上(沢木)が翔一に「助けられなくてすまなかった」と言っていないので、それは多分ないだろう。
さて、これまで登場したあかつき号乗客の中で、一番まともな神経をしていると思われる相良だが、木野が涼抹殺を命じた途端、非情に涼を追い詰めている。
亜紀がやったように内蔵を破壊するのではなく、物を飛ばして殺そうとするのは、念動力では内臓を破壊できないからではなく、そうするのが生理的に嫌だからだろう。
最終的に、相良は涼を溺死させる方法を選んだ。
これは、見た目的に一番気持ち悪くないだろう。
つまり、後で夢見が悪くならないですみそうな殺し方だからだ。
涼がもがくのをやめたために溺死したものと確信してマンションに戻ろうとしているわけだが、やはり死体に触りたくないからということなのだろう。
だが、涼は本当に死んだのだろうか?
確かにあれだけ長く水の中に顔を浸しているのだから、呼吸は止まっているだろうが、心臓停止を確認してはいない。
いや、たとえ心臓が停止していたとしても、復活しないとも限らない。
危険を察知して仮死状態になるような器用な生物も時々いる。
もしかしたら冬眠状態になって快復を待つような器用な芸当を身に付けたのかも…。
はっきり言っちゃうと、映画に登場するからには復活しなくてはならないのだが。
さて、今回の津上(沢木)の言葉には、色々と含みがありそうだ。
偉大な力を持っても、その力を正しく使うことができない
自我を超越した者だけが力を制御することができる
というのは、翔一がアギトの力を制御できることを示しているだろう。
G3-Xを制御し、アギトの力を制御できる希有な人物…それが翔一だ。
そのような人間が、いずれ必要となるだろう
いずれ必要になる…君のような…人間が…
という言葉こそ、かつて津上(沢木)がホムンクルス1号に「彼を殺させてはならない」と言っていた理由なのかも…。
さて、今回の3羽ガラスは、いずれも活躍できなかった可哀想な奴らだ。
特にルスクスなど、相良に物をぶつけられただけでよろめき、相良に逃げられている。
アギトとの戦いもなんだかあっけなかった。
特にカルウスは何もしないで死んだようなもんだ。
コルウスは、以前にも登場したとおりカラスの学名だ。
そして、前回死んだイントンススは、ラテン語で長髪の意味、ルスクスはラテン語で独眼、カルウスはラテン語で禿頭を意味する。
(情報提供:深黄泉さん)
さて、今回の見所は“変身が解ける寸前に左手で鉄板を投げ返した涼”だろう。
最初、誰かが助けに来たのかと思ったよ。