『仮面ライダークウガ』
EPISODE35愛憎

(Story)


 42号(ゴ・ジャラジ・ダ:ヤマアラシ種怪人)を狙ったクウガのロッドはかわされ、42号の素早い動きに翻弄されたクウガは、42号が手裏剣のように投げた針で、ハリネズミ状態にされてしまった。
 42号は、「今はゲゲルの時間だ。邪魔したら…殺すよ」と言い残し、去って行った。
 とりあえず危機を脱した生田和也は警察に保護され、箱根分駐所で警護されることになった。
 恐怖に怯える和也の「なんで、俺達殺されなきゃなんないんですか!?」という叫びに、雄介は答える。
 「理由なんてないよね。だから…殺させない」
 
 雄介はみのりに電話し、技を見せずに出てきたことを園児に謝って欲しい旨を頼むと共に、広之と周斗(しゅうと)との喧嘩のその後を聞いていた。
 どうなるか分からないと言うみのりに対し、雄介は「大丈夫、分かり合えるよ。だって人間同士なんだから。絶対大丈夫」と答えていた。
 雄介は公衆電話から戻る途中、テレビのニュースで、既に緑川学園の2年男子は、自殺者を含めて90人に達したことを知る。
 雄介の脳裏に、42号の「今はゲゲルの時間だ」という言葉と、和也の「未確認のヤツが言ってたんだ。俺達が苦しむほど楽しいって」という言葉が蘇る。
 雄介は、結局和也以外の生徒は救えなかった無力感と未確認生命体への怒りに震え、せめて和也だけは、なんとしても守り抜く決意を新たにしていた。
 
 一方42号は、今日中に針を刺せば予定の12日でゲームを成功できる状態であり、ファイナル・ゲームへの最後の一歩を踏み出そうとしていた。
 42号の人間体が箱根分駐所に現れ、神出鬼没の動きで警備の警察官を翻弄する。
 和也の病室に入り込み、今まさに和也を殺そうとする42号に、ただ1人病室の前を離れなかった雄介が変身して飛びかかった。
 42号に組み付いたまま窓から外に落下したクウガは、そのまま42号に馬乗りになって、鉄拳の雨を降らせる。
 更にフラフラになった42号を、ゴウラムの合体したビートチェイサーで芦ノ湖まで運び、紫と金のクウガになってメッタ斬りにし、剣を突き刺して倒した。
 爆炎の中、雄介の眼に黒いクウガのビジョンが浮かぶ。

 駆け付けた一条達の前には、湖の中で立ちつくす雄介の姿があった。
 
 その頃若葉保育園では、広之と周斗が仲良く積み木のお城を完成させて和解していた。
 そして長野では、桜子がグロンギと思われる34体が虐殺された現場にいた。
 現場の状況や目撃証言などから判断して、0号の仕業らしいという。
 殺戮の腐臭漂う現場で桜子を待っていたのは、壁に描かれたリントの「戦士」の文字に酷似した血文字だった…。

 
(傾向と対策)

 とりあえず、生田和也の字が的中していて良かった良かった。
 明らかにされた今回のジャラジのルールは、“12日間で、緑川学園2年男子90人を、刺し込んだ針で4日後に殺す”というものだった。
 4日というタイムラグがあるため、不測の事態に備えて余裕を持った日数にしていたらしい。
 ザザルが言うとおり、用心深いヤツだ。
 自殺した1人がいなければ、警察にもクウガにも悟られないうちにゲームを成功できる巧いやり方だったわけだ。
 
 今回のテーマは、“人間同士ならきっと分かり合えるけれど、価値観の違うグロンギが相手では分かり合えないから戦うしかない”という点に尽きるようだ。
 広之の手を掴んだ周斗の手と、クウガのパンチを掴んだジャラジの手を場面転換で巧く繋いで、その意味合いの違いを強調している、
 そして、広之と周斗が和解した場面では、ジャラジをぶち殺そうとするクウガを持ってきている。
 ただ、正確に言えば、“価値観が違うから分かり合えない”のではなく、“グロンギは倒すしかないと雄介が決意した”ことが重要なのだ。
 この時点で、雄介はグロンギ全てを“倒すべき敵”と認識しているということだ。
 価値観が違うからと言って、“分かり合えない”と切り捨てていいわけではない。
 そんなことを言ったら、ちょうど今が旬のイスラエルとパレスチナの衝突は、戦争して白黒つけるしかなくなる。
 分かり合える努力をしなければならないのだが、無力感からやや自虐的になっている雄介は、ストレートに怒りをぶつけてしまったのだ。
 つまり、初めて表れた雄介の暗黒面と言える。
 爆炎の中に見えた禍々しいクウガの姿は、それを象徴している。
 
 一方、グロンギの側でも、整理に向かったバルバに動きがあったようだ。
 洞窟の中でのバルバの言葉は、
 
力のない者共を整理するんだな
私は、ガドル達のセミファイナル・ゲームを進めておく
 
であり、どうやらそこにいた誰かに向かって言っているようだ。
 この言葉の相手だが、どう考えてもバルバより格下の者だ。
 となれば、恐らく0号ではあるまい。
 では、誰か。
 鷹羽は、ゴオマ同様に強化された何者かではないかと思う。
 次回予告で、ザザルと戦う怪人の姿を思い出して欲しい。
 コウモリの羽のようなものがついている。
 あれが、例のアイテムで強化されたゴオマだとしたら…?
 シルエットは0号に酷似している。
 ザザルと戦うというのも、前回の経緯からして、ゴオマならやりそうだ。
 ただ、バルバが長野に向かった時、まだゴオマは東京(近辺)のアジトにいた。
 バルバが最初からゴオマを整理係に使うつもりだとすれば、一緒に連れて行くはずだ。
 とすると、長野にはコウモリ種怪人が他にもいて、そいつがやったのかもしれない。
 まだまだ情報が足りなすぎて、はっきりしたことは判らないのだが。
 
 そして、壁に書かれていた「戦士」に酷似した血文字は何なのか。
 ちょうど黒いクウガのツノが一対多いように、文字の上部にあるトゲが一対多かったことから、黒いクウガに関連するものである可能性が高い。
 次回予告で桜子が言っていた「これはグロンギの文字です」という言葉は、この文字のことを言っていたのかもしれない。
 
 さて今回の見所は、恵子先生のお腹だろう。
 EPISODE27「波紋」が7月末頃、今回が9月12日頃と劇中時間で約1ヶ月経って、順調にお腹が大きくなっている。
 元気な子が産まれるといいけど。
 
 それから、おやっさんがジャンにかましたボケの「ジャン・ミッシェル・ポルナレフ」って、なんだったの?
 外国の俳優か何か?
 どうもそこだけセリフにエコーがかかっていたようなので、なんらかの意味があると思うんだけど…。
 
 ところで、今回ジャラジと戦う雄介はとても怖い。
 ジャラジを血が出るほど殴り、今まで刺すだけだった紫と金の剣で散々斬りつけた挙げ句、突き刺した剣を引き下ろすことまでしている。
 だが、これらの行動はキレているようでいて、実に沈着冷静だ。
 動きの早いジャラジを、掴んだまま殴り続け、ダメージで動きが鈍くなったところを、あらかじめ呼んでおいた(あれから呼んだのでは間に合わない)ゴウラム合体ビートチェイサーで運ぶ。
 ゴウラムを合体させるのは、ツノに42号を引っ掛けて運ぶためと、ビートチェイサー自体に攻撃させないためだ。
 実際ジャラジは脱出しようとした時、ゴウラムの装甲に覆われたビートチェイサーではなく、クウガの胸を狙っていた。
 ゴウラムの装甲はとても堅いため、あの程度の針では傷つけられないことを知っているのだ。
 更に、ジャラジが針でクウガを突こうとするとすかさず紫に超変身し、装甲で受け止めた上で殴りつけて抵抗力を奪い、更にビートチェイサーを急停止させてはじき飛ばしてダメージを与える。
 そうやって動けなくしておいたからこそ、動きののろい紫で歩み寄っているのだ。
 その後も、メッタ斬りにしているようでいて、実は金色の力を発動してから27秒後には、とどめを刺すべく剣を腹に突き刺している。
 変身リミットまで計算に入れた冷静な行動だ。
 本来冒険家である雄介には、冷静沈着な判断力が培われている。
 これまでにも何度かそれを発揮しているが、今回は、ジャラジを倒すための冷徹な戦いという形で表れているのだ。
 戦いを嫌う雄介が、敵を倒すために冷徹になっているわけだが、今回の雄介の戦いを支えているのは、無力な自分に対する怒り。
 怒りに任せて戦うことは、過去幾多のヒーロー物で、主人公達が乗り越えてきた壁だ。
 ヒーローに求められているのは“敵を倒すための戦い”ではなく、“何かを守るための戦い”だ。
 “敵を倒すための戦い”に徹するならば、本当に「戦うためだけの生物兵器」になってしまう。
 雄介本来の“守りたいものを守るための戦い”を取り戻さないと、やばいことになりそうな兆しが見えてきている。
 だからこそ、今回雄介は駆け付けた一条にサムズアップしていないのだ。


←BACK
→NEXT