怖い話のツボ?

後藤夕貴

更新日:2006年8月27日
 夏ももうすぐ終わりだというのに、今回はオカルトネタ。

 先日、仕事場で同僚の女性と話していた時、ふと「怖い話」についての話題になった。
 特に何かのエピソードについて話したというわけではなく、よくありがちな「怖い話って好きかどうか」という程度の会話だったのだが、相手の女性はいわゆる“怖がり屋さん”で、内容を聞く前から、怖い話に強い拒絶反応を示すタイプだと言っていた。
 
 こういう人に対して、面白がって怖い話を無理矢理聞かせるか、素直に止めておくか、あるいは会話の最中に部分的に混ぜ込んで、不意の恐怖を味わわせるかは、人それぞれだ。
 筆者は、とりあえず「後で携帯メールで、小出し転送しておくからね♪」とだけ言って、その話題を止めた。
 もちろん、言うだけで実際には転送はしてないんだけど。

 それにしても、「怖い話」というのは、そもそもどういう部分が怖いのだろう?
 先の会話中、そんな事をふと考えてしまった。

 怖がるポイントなど、言うまでもなく人それぞれな訳だが、多くの人が震え上がる最大公約数的な恐怖ポイントというものは、必ずある筈だ。
 という事は、もし怪談を話す機会があったとして、そのポイントを的確に掴んでおけば、皆を思い切り怖がらせる事が出来るだろうし、また作り話や嘘だと思わせないように出来るかもしれない。
 また、怖い話を読むのが好きな人に、オススメ怪談を紹介するのにも役に立つだろう。
 
 というわけで、今回は自分なりに、「怖い理由の分析」をしてみた。

 個人的な好みの話となって恐縮だが、筆者が一番怖いと思うのは、「最後にイヤなオチが待っている」タイプだったりする。
 この場合の「イヤ」というのは千差万別で、特定のパターンに当てはまるものではない。
 とにかく、最後の方のオチで「ち、ちょっと待てよ、じゃあさっきのアレってまさか…?!?!」とか呟いてしまいそうになるタイプなのだ。

 一例を上げると、こんなものだ。
 これは、以前「怖〜い怪談の作り方 そのに」にも似たような話を要約で掲載した事がある。

 子供の頃、近所の民家の廃墟に友達と二人で侵入した。
 壊れかけた屋根の隙間から入り込んで、生活感のまったくなくなってしまった居間や玄関、風呂場などを巡っていく。

 だが、寝室と思われる場所に辿り着いたとき、そこに誰かが居た。

 そこにいたのは同年代の女の子で、自分も廃墟に探検に来たという。
 どう考えても、女の子一人で入り込むような所ではないので、違和感のありすぎる出会いだった。

 とりあえず、我慢してその子と三人で廃墟を巡る。
 床板が捲れている部分を発見し、その中に入ろうとした所、突然、床下の奥から、何か黒い影のようなものが滑り込んできた!
 慌てて部屋へ上がろうとするが、捲れていた床板を誰かが上から強く押さえつけたようで、脱出する事ができない。
 床の上では、友達が彼女と争ってでもいるのだろうか、はっきり聴き取れない声と、どたばたと振動だけが伝わってくる。

 床下を這い回り、なんとか別なところから脱出する事が出来たのだが、当然、友達と女の子とは離れ離れになった。
 結局、怖くなって泣きながら家に帰ってしまった。
 翌日、友達に事情を説明するつもりだった。

 翌日、学校に行ってみると、なんとあの時の女の子とばったり出会った。
 昨日の事を尋ねられたのでお互いに情報交換すると、どうやらあの後、床板が突然バタンと倒れこみ、どんなに引き上げようとしてもびくともしなくなったのだそうだ。
 女の子は、床下に向かって何度も呼びかけたが、返事がないのでどこかに脱出したのだと思い、一人で帰宅したという。
 床板の上で争っているように聞こえたのは、自分を救出しようとしていたためらしい。

 それでは、自分と一緒に入った友達はどうしたのか?
 女の子曰く、「そんな人は居なかった」。
 彼女が廃墟に入っていた時、いきなり、自分が一人だけで入り込んできたのだという。

 …それでは、自分と一緒に廃墟に入り込んだ筈の友達は、一体?

 そう言われて懸命に思い出そうとするが、どうしてもその友達の顔も、名前も、特徴も思い出せない。
 それどころか、廃墟に一緒に入ったという事だけしか覚えておらず、どういう経緯で廃墟に入る事になったかさえ定かではない。
 もちろん、クラスの中にも学年内にも、友達とおぼしき人物は居なかった。

 これは、いわゆる「最も頼れる筈の存在が、実は…」というパターンだ。
 繰り返しになるが、個人的にはこういう「裏切り?系」のオチが怖い(そして面白いと思う)。
 この話を聞いたときは、知人の語り口調も手伝って凄く怖かったのだが…ダイジェストにするとあんまり面白くないかな。

 もう一つ、こんなのも大変怖い。

 会社の上司(と言っても、実質的には先輩格というだけ)が、先日過労死してしまった。
 独身で特に身寄りもなく、遠方の親族がひっそりと弔うだけという、寂しい別れとなった。
 特に能力が高いわけではなかったが、きさくな好人物で、仕事の細かい事を丁寧に教えてくれたり、ミスをした時は共に謝ってくれたりと、相当助けられ、何度か飲みに行った事もあった。
 とても優しい人物だったのだが、友人は少なかったらしく、寂しい毎日を過ごしていたようだ。
 そのためか、遅くまで仕事場に残って残業をするのも苦にならないタイプだったようだ。

 ところが、この上司が、いまだに社内に居る。

 日中業務の時はわからないのだが、夜になり、外が暗くなると、以前の席にひっそり座り、机に向かって何か一心不乱に取り組んでいる。
 あまりにも自然にそこに居るため、たまに「お疲れ様です」と声を掛けてしまいそうになる。
 ある新人は、故人と知らずに声をかけたら、顔を向けずにそっと手を上げて反応されたという。
 だが、いざ帰ろうとして振り向くと、物音一つせずに姿を消しているのだ。

 また、自分達が残業している時、突然、パーティション(移動可能な仕切り壁)のてっぺんからこっちを覗いている事がある。
 パーティションの高さは170センチくらいなのだが、その上の辺に顎を乗せて、目線を下げてじっとこちらを見ている。
 首から下は見えないので、まるで生首が乗っているようにも見える。
 ある同僚は、それに気付いて「脅かさないでくださいよ、もう!」と怒った直後、その相手が亡くなった人だと思い出し、さらにパニックになったという。
 毎日出没しているわけではなく、その出現頻度もまちまちなのだが、彼がいまだにこの会社に居場所を求めていることは間違いがないようだ。

 先日、残業中に、突然電話がかかってきた。
 内線だったのだが、ある業務結果の確認だった。
 だがその業務は、すでに半年も前に終わってしまったもの。
 どうして今更そんな話を、と思ってディスプレイを見てみると、それは上司の机からの内線だった。
 彼の中では、まだあの時の仕事が終わっていなかったのだろうか…

 これはあまり怖い話ではないが、ちょっとした「現実とのずれ」が含まれていて、大変興味深い。
 以前は生きており、意志の疎通もきちんと行えて、それなりに親しかった者が、今度は意志の疎通もできない存在となってしまったこと、そしてその上でまた出会うこと。
 また、終わった業務の話が不自然にフィードバックされること。
 こういう細かな「ずれ」というか「きしみ」のようなものが、ある程度積み重なると大変に怖い。
 こういう話を、残業中のオフィスですると、効果バツグンなのだ。

 なお、この話とはまったく違うのだが、「クライアントとの電話中、三年前の仕事の話を突然持ち出され、最初は思い出話のように語っていたのに、途中から“現在進行中の業務”であるかのような物言いに変わり、困惑させられた」という経験を持つ知人が居る。
 その数日後、電話の相手がすでに死亡していた事が判明したそうだ。
 30分以上の長電話だったそうだが、これは相当…いや、超絶怖い!!
 もし、誰かがその亡くなった方の名前を騙っていたのだとしても、それはそれで別な怖さがある。

 不条理系の話は、説明の必要もないだろう。

 ある波止場の外れの海中から、白い4ドアセダンが引き揚げられた。
 どうやら飛び込みらしく、車内からは、父親と母親、小学生くらいの男の子と、幼稚園児と思われる女の子の死体が発見された。
 ブレーキが踏まれた形跡はなく、波止場からノンストップでダイビングしたようだ。
 セダンの4つのドアには、それぞれロックが掛けられていた。
 発見時、車体の半分は海底のヘドロに埋没しかかっていた。
 飛び込んでから発見されるまでに、約十時間ほど経過していた。

 ところが、検死の結果、いくつものおかしな点が見えてきた。

 まず、幼稚園児と思われる女の子が、死後四日以上経過しており、部分的に腐敗が始まっていた事。
 そして、その家族には女の子供などいなかったという事実が判明した。
 しかも、血液検査の結果、その女の子はまったくの赤の他人らしい。
 また、その死因は失血死であった。
 最後に、家族には自殺をしなければならない要因も特に考えられず、自宅はいつ帰ってきてもいいように、着替えや寝具が整えられていたという。
 さらに、飛び込んだと思われる時間は、午前三時を回っていた頃だと思われた。

 この家族は、いったいどういう状況で飛び込んでしまったのだろうか?




 妙に事件性の高い話であるが、微妙な「違和感」が数多く盛り込まれていて、まともな所が何一つないという奇怪な内容になっている。
 この話は多分実話ではないと思われるが、それを抜きにしても、事件の根源が見えないままで終わってしまうため、大変後味が悪く、そして不気味だ。
 幽霊談ではないけれど、こういう不条理てんこ盛りの話も怖い。
 違和感がそのまま怖さに直結するとでも言えばいいのだろうか。<

 不可解な事件といえば。
 これは現実の話だが、以前こんな事があった。
 以下は筆者が直接テレビで見た事なので、間違いなく事実である、という前提でお読みいただきたい

 数年前、関東方面のある高速道路下(具体的な場所失念)で、女性の死体が発見された。
 死体は、現場付近を通学のために通っていた高校生達によって発見された。

 だが、この死体の状況が、あまりにも異常だった。
 なんとこの死体は、網部分が剥げ落ちたフェンスの支柱に、串刺しにされていたのだ。

 フェンスの支柱は女性の腹部を貫通しており、まるでもずのはやにえのような状態になっていたのだが、周辺状況や刺さっている位置から考えて、高速道路から落下してきて串刺しになったとしか考えられなかった。
 地上から高速道路までの高さは、十メートル前後はあったと思われる(映像からの印象だが、ここも具体的な情報は失念)。
 とにかく、かなり高い位置から落下した事は疑いようがなかった。

 女性の服装もごく普通の普段着のようで、高速道路で車を運転していた(または同乗していた)ような雰囲気には思えなかった。
 もちろん、高速道路上で不審な車両が発見されたとか、無人車両が放置されていたなどの報告も皆無。
 誰かが、高速道路上から死体を遺棄した可能性も否定できないが、だとしたら何故そんな所から突き落とすような手段を選んだのだろうか?

 このニュース報道の後、番組では、女性の遺留品や服装などの情報を提示し、視聴者からの情報を求める呼びかけを行った。
 一つの事件にしては、妙に時間を割いて説明していたので、筆者にはとても印象深かった。

 ――が。
 なぜかそれ以来、そのニュースは一切報道されなくなった。
 さすがに全てのニュース関係番組をチェックしたわけではないが、それほどまでに奇怪な事件の筈なのに、何処にも続報が上げられなかったのだ。
 確か、当時ネットでも調べたが、全然引っかからなかった記憶がある。

 結局、筆者にとってはこの「現実」が一番怖かった。

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