仮面ライダーカブトの頭突き 第一回
後藤夕貴
更新日:2006年5月1日
 2006年度放送の平成仮面ライダーシリーズ「仮面ライダーカブト」。
 これを書いている時点で、すでに13話が放送されている。
 鷹羽氏は、今年はカブトについてコラムをまとめる予定がない様子なので、僭越ながら筆者・後藤夕貴が書いてみたいと思う次第。
 ただし、「習慣鷹羽」みたいにディープな考察はできないし、かといって「仮面ライダー響鬼の大問題」みたいな方向にするつもりもないので、あくまでさらりと全体を流して、雑感をまとめる程度にしてみたい。
 いやホント、今年はもう人格否定されたくないし(笑)。

 とりあえず、「ニセ習慣鷹羽」感覚で見ていただけると幸い。

 え、なんでこんなタイトルなのかって?
 いや、特に意味はないんだけど…なんか痛そうじゃない? 食らったら(笑)。

 今回の御題はこれ。

●仮面ライダーカブトの「加速」をわざと複雑に考えてみる
 仮面ライダーカブトは、初期形態のマスクドフォームからキャストオフ(装甲強制パージ)してライダーフォームになる事により、「クロックアップ」と呼ばれる超加速状態に突入。
 同じくクロックアップ化するワームに対抗できる能力を得る。

 詳しくは後述するが、これがカブトの基本設定。

 中身が生身の人間だというのに超加速状態になれるカブトは、周囲とは完全に異なる時間感覚の中で活動可能となり、走行中のジェットコースターや電車の直前で格闘戦を行えたりする。
 どうやらカブトは、超加速能力の元祖・エイトマンなどのように各運動機関をフル稼働させて速くなるわけではなく、全身を「タキオン」と呼ばれる光速粒子で包むことにより、特殊な時間間隔を得るという設定のようだ。

 タキオンというのは、実際には存在しない仮想上の粒子だ。
 相対性理論では、「光速またはそれを超える速度まで加速する事はありえない」という絶対条件がある。
 光速まで加速するためには無限のエネルギーが必要とされ、また質量が増大し続けてしまうので推進力が伸びず、絶対に光速に達する事はない。
 ところが、この条件の抜け道として「はじめから光速以上の速度を持つ存在があれば」というものがある。
 エネルギーを補充するまでもなく、元々光速或いはそれ以上の速度を持っていれば、相対性理論とは矛盾しない事になる。
 「そんなものがあったらいいな♪」という仮想論から生み出されたのが、「タキオン」なのだ。

 そんなものなので、現状「タキオンが発見された」とか「タキオンを封じ込めた」といわれるものは、すべて何かの勘違いかインチキなのである。
 よく「タキオンパワーで健康回復」なんてアヤシイ広告があるけど、あれはまったくの大嘘だ。
 タキオンと名づけた、まったく別なアヤシイ物質を使ってる可能性はあるけど(笑)。

 これとは別に、光の速度に近づいた者は、時間の流れが変わる(ウラシマ効果)という説がある。
 これと並行し、超光速状態に突入すると、時間を逆行する事が出来るという理論も(信憑性はともかく)存在する。
 この「光速」を用いて「主観的な時間の流れを変える」というポイントをまとめるため、「タキオン」を持ち出したのではないだろうか。
 SFでは結構古くから「タキオン」や「超光速理論」が用いられているらしいから、これは斬新ではないどころか、むしろ古臭いものではある。
 しかし、それを等身大ヒーローの能力に応用したというのは、充分面白みがある。

 なるほど、無理矢理スピードアップさせるより、その存在の立ち位置や感覚そのものを別物にすり替えるわけだ。
 これなら、エネルギーの消耗がどうとか、装着者の身体への負担がどうとか、そういった疑問点は(SF考証的には)氷解する。
 このアイデアは、特撮番組としてはなかなか面白いものだと思う。

 …こうなってくると、個人的にワームの超加速能力の理屈を知りたいところだが。
 ま、そこまで突っ込むのは無粋か。

 人間の感覚を超越するほどの超加速で戦闘するカブトは、先駆者であるファイズ・アクセルフォーム(仮面ライダー555)とはまた違う映像表現を見せてくれている。
 今まで「超加速」を映像で表現した場合は、「加速者の姿が消える」「非加速物体が超スローモーで動く」というパターンが一般的だった。
 つまり「非加速者側から加速者を見る視点」か「加速者側から非加速者を見る視点」という事だ。
 「ファイズ・アクセルフォーム」のように“加速者視点なのに(映像的に)さらに加速”したり、「サイボーグ009(平成アニメ版)」のようにカブトに近い映像表現を行った例外的なものもあるが、とにかく超加速表現というものは、「パワーバランスを極端に狂わせる」事を面白く見せるための手法だと言えるだろう。
 めちゃくちゃ強い奴と対戦中、超加速で手数を増やせば、余裕で勝てるようになる。
 これは誰でも容易に想像できる理屈で、説得力もあって大変わかりやすい。
 しかし、さすがにいつでも・いつまでも超加速状態が維持出来てしまうと、まるで100体のパワーアニマルでセンキを袋叩きするかの如き「卑怯臭さ」が感じられ始める。
 だから、大概の作品では「使用制限」設定が付加されている。
 或いはエイトマンのように、駆動系への負荷の関係で長時間連続使用は不可能だったりとか。
 中には「とらいあんぐるハート3」の主人公や、「サムライスピリッツ天下一剣客伝」の零スピリッツ使用キャラのように、生身なのに(擬似)超加速能力を発動する例もあるが、そちらはあえて不問にしとこう。
 また、走る自動車やジェットコースターに乗っている人をカブトが救出・退避させた場合、その人には移動エネルギーや位置エネルギーが残留している訳だから、クロックオーバー直後に猛スピードでどこかへすっ飛んでいく筈だという突っ込みも、野暮極まれりなので止めておこう(笑)。

 ところがカブトのクロックアップは、4月現在、特に使用制限に関する要素が見えてこない。
 否、正確には、一回毎のクロックアップには時間制限はあるが、その直後に再びクロックアップする事も可能で、7話では3回も使用した。
 これは結構とんでもない。
 粗としてのとんでもなさではなく、「強いにも程がある」という意味だ。
 理屈としては、カブト同様半無限クロックアップ能力を持ち、さらにカブトより強力な攻撃力と防御力を持っている存在でなければ、絶対にカブトには勝てないという事になる。
 もっと細かく言うと、常にカブトの先手を打てるような判断力も必要とされるが。
 本編内ではほとんど無視されているが、本来なら、わずかゼロコンマ数秒クロックアップスタートのタイミングが遅れただけで、そいつはボコスカに叩かれてしまう筈なのだから。
 もっとも、本編内のクロックアップは「日常の中の別世界に突入する手段(白倉プロデューサーの発言の意訳)」という意味合いで用いられているので、これは余計な突っ込みなわけだが。

 ただ、このクロックアップ、番組開始当初は大きな疑問を生んだようだ。

 よく目にした意見が

  • 加速しているように見えない
  • 背景が止まっているだけで、やっている事は普通の戦闘と変わりない
     (映像としての新鮮味がない)
  • 意外にすぐ飽きる
  • 戦う奴等全部が加速能力持ってたら、強くなった感じがしなくなってつまらない
 というものだ。
 このうち、二つ目と三つ目の意見には、筆者も強く同意する。
 クロックアップ描写のマンネリズムは、3話放送の時点ですでに各所で囁かれていたし、筆者も感じたものだ。
 設定の理屈や、目的意識は理解できているのだが、だからといって画面の退屈さ(というより地味さか?)が払拭できるわけではないし。
 もっともこれは、決め技のライダーキックに華がなさ過ぎるのも要因なのかもしれないが…
 個人的にはすごく好きなんだけどね、あの居合い斬りのような回し蹴りライダーキックは。

 また、これとは違うベクトルの意見で
  • 玩具で再現できない「クロックアップ」を、頻繁にやられても困る
 というのもあった。
 これは、別に玩具自体やなりきりアイテムを身につけた人が加速できるようにという意味ではなく、単に「クロックアップ」発動に関連するギミックを持つ玩具がまったく存在しない事に対する指摘なのだ。

 カブトのクロックアップは、ベルトの側面部に手を当てる事で発動する。
 その際、ベルト(というかカブトゼクターから)から「Clock Up!」という音声が出るわけだが、DXカブトゼクター(ベルトの玩具)には、この音声ギミックがない
 というより、電装関係はバックルであるカブトゼクターにのみ集中しており、単なる装身具でしかないベルト部にまで、通電・配線が及んでいないのだ。
 つまるところ、番組では「玩具では考慮されていないギミックをメインとして使用している」事になり、これは大変な問題だと指摘する人も多い。

 今は昔と違って、玩具と劇中プロップはなるべく同一の性能を持つ事が求められるようになっているようで、特に音声関係は、どの番組も統一させるようにしている(これは消費者側からのクレーム対策のためらしいが)。
 音のひずみや音声の大小・録音事情により、劇中の音声と違う印象を抱かせるものも多いが。
 そんなご時世において、「本編のメインギミック音声」が完全に無視された玩具など、出る事がありうるのだろうか? というのが、この疑問の主旨だ。
 
 有名な説だが、これについては、「本編製作スタッフが、後付で組み込んだ設定だったのではないか」という見解がある。

 要するに、クロックアップ発動にベルト側面を触り、音声が出るという流れは、バンダイが考えたものではなかったのでは、という見方だ。
 確かに、これは強い説得力のある意見だ。
 仮面ライダーカブト放送開始前、各誌上に掲載された番組情報によると、カブトのクロックアップはキャストオフ直後に発動するかのように記されている(逆に、ベルト側面部をスイッチに発動するという意味の表記がない)。
 玩具のCMでも、カブトホーンが屹立した直後に、背景の落下ブロックの速度が遅くなるという演出が加えられており、本編設定との矛盾を示している。
 また、仮面ライダーザビーなどは、クロックアップにザビーゼクター(ブレスレット)をまったく用いず、(商品化前提にない)ベルトのバックル横部分を軽くさするだけで発動させている。
 これも、当初の予定(と想定される)通り「キャストオフ=クロックアップスタート」であったなら、ザビーゼクターにクロックアップ関連の機能が皆無なのも納得できるだろう。
 言うまでもないが、現在判明している範囲では、「仮面ライダードレイク」及び未登場の「仮面ライダーサソード」の各ゼクターにも、クロックアップに関連するギミックは存在しない。

 恐らくだが、これは現場で「演出上、クロックアップの始動スイッチ的なものを設ける必要がある」と判断されたためではないだろうか。
 筆者自身は未確認なので特定は出来ないのだが、どこかで、白倉プロデューサーがそのように発言しているらしい、という話を聞いた事もある。
 劇中に活かせない・活かすのが難しいと思われるものは、容赦なく変更・削除してしまう白倉プロデューサーらしい発想ではあると思うが、個人的には、この考えには同意できる。
 キャストオフ直後からクロックアップが始まってしまうなら、劇中の他キャラクターは、カブトホーン屹立後のライダーフォームをほとんど見る事が出来ず、ザビーに至ってはその姿を視認する事すら出来ない(カブトホーン屹立のような準備的動作がないため)。
 これでは、演出上とってもやり辛くなるだろう。
 特定の姿でないと、非加速キャラクターと会う事すら難しくなるのだから。
 また同時に、専用バイク・カブトエクステンダーにもろくすっぽ乗れなくなってしまう危険がある。
 カブトエクステンダーも一応クロックアップに対応してはいるが、それは(画面を見る限りだと)キャストオフ→エクスモード化後のみのようだし、通常形態のままでクロックアップされても感覚的にピンと来ない(エクスモード化する意味が希薄化する?)かもしれない。
 それ以前に、「常時超加速状態のライダーフォームが、わざわざバイクに乗る必要があるのか」という事にもなりかねない。
 マスクドフォームでバイク搭乗→移動・追跡→追い詰めてキャストオフ、という流れなら一応無意味ではないが、そうすると今度はカブトエクステンダー&ライダーフォームというスタイルが確立しにくくなってしまう。
 こうやって考えていくと、確かに、クロックアップ≠キャストオフとしたのは、正解だったように思われる。

 ただ、それはあくまで演出上の話であり、実際に玩具を買った人達にとっては、問題は残留したままだ。
 事前に商品情報を得ていない人達(メインターゲットの子供含む)は、普通はDXカブトゼクターにクロックアップの音声ギミックを期待するだろう。
 悪い言い方をすれば、特撮番組は「関連玩具・商品を売るための宣伝媒体」である。
 それなのに内容に食い違いがあるというのは、難以外の何物でもない。
 そんな風に考える事も、決して間違いではない。
 どうして、放送前(玩具企画前)に、この辺の打ち合わせ・練り込みを徹底できなかったのか…という意見は自然に生まれるだろう。
 まあこの辺は、筆者含む素人が迂闊に突っ込みを入れられないだろうから、あえてさらりと流すとして、確かにバンダイと本編スタッフ間でより綿密な設定再考・練り直しが行われていたら、理想的だっただろう。
 多分、時間的都合だったりとか、アイデア誕生がギリギリのタイミングだったとか、製品設計当時に色々複雑な事情があったりとか、様々な要因があったのではとも思うけど。

 …しまった、その気はなかったのに、ついいつものクセで突っ込みを入れてしまった(笑)。

 クロックアップは、もう一つの問題を抱えている。
 それは、カブトの初期形態マスクドフォームの存在意義を薄めているというものだ。

 今更述べるまでもないが、「イナズマン」や「同・F」のサナギマンのように、戦闘中に姿を変える特撮ヒーロー作品において、最初の形態は少しずつ存在意義をなくしていく傾向がある。
 これは、第二形態が強力かつ能力が多彩であればあるほど如実になる傾向があり、「イナズマンF」に至っては、ついにサナギマン形態を半ショートカット状態にしてしまった。
 これは、(巨大化変身を含む)パワーアップによる第二次変身は当てはまらない。
 パワーアップの場合は、状況によって能力(形態)を使い分けたり、戦況そのものをがらりと入れ替える事ができるからだ。
 存在が希薄化するのは、非巨大化ヒーローで、あくまでデフォルトで二つの形態がある者に限られる。
 あまり該当がないので参考例を述べられないが、カブトのマスクドフォームも、番組放送前からサナギマン的扱いになるだろうと推測され、そして現実にそうなりつつある。
 明らかに、これまでの平成ライダーのフォームチェンジとは存在意義が違う上、マスクドフォームでいるためのメリットが、ライダーフォームのメリットより劣る訳だから、こうなるのは自然な流れなのかもしれない。
 1クールも経ってないうちからそのように思われてしまうというのは、かなりまずい気がするが。

 で、これがクロックアップとどう関係するのか。
 バンダイ側提唱(と、便宜上表現する)の"キャストオフ=クロックアップ"の場合、マスクドフォームはカブトの基本形態となり、ライダーフォームは存在自体が必殺技的扱いとなる
 つまり、キャストオフ自体がウルトラマンのスペシウム光線的役割にあたるわけだ。
 今までマスクドフォームのまま善戦していたカブトが、ここぞという時にキャストオフして加速、ライダーキックでワームを倒すという流れになれば、それぞれの形態の存在意義は引き立つだろう。
 あくまで机上論ではあるが、と付けるけど。
 しかし、キャストオフ→クロックアップの間にワンクッション置かれ、その間にライダーフォームが活躍できてしまうと、もはやマスクドフォームは「枷を付けられた不自由な形態」でしかなくなり、存在意義がなくなるどころか意味すらなくなり始める危険が生じる。
 いくらカブトクナイガンで狙撃できようが、アックスモードが強力だろうが、防御力が大きかろうが、キャストオフ後のライダーフォームには圧倒的に劣る…ような印象を抱かれる。

 もしも。
 バンダイ側が、こういう前提を想定した上でキャストオフ=クロックアップという設定を構築したのだとしたら、それはそれで納得が行くかもしれない。
 でも先で述べた通り、演出の都合によるキャストオフ≠クロックアップという設定変更(便宜上表現)も、納得できるものがある。

 ――こりゃ、どっちが正解なんだろう?

 こればかりは、今後の展開を見守るしかないようだ。 
 それよりも、超加速状態では絶対使用できなくなる筈の「銃」を持つ仮面ライダードレイクが、どのような戦闘を繰り広げるのかが気になって仕方ない。
 ライダーシューティングが光線または光弾ならともかく、もしも実弾だったら、絶対敵に当たらないぞ!(笑)。

 なお、これも今更だが、クロックアップは「ビッグコミックスピリッツ」に連載されている「オメガトライブ」という漫画の設定と著しく酷似しているそうだ。
 ふーむ、今度そっちも読んでみよう。

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