瞬殺御礼
後藤夕貴
更新日:2006年4月9日
 「人生に玩具あり2式」なんてものをやっていると、色々と面白い事態が見えてくる。
 今回は、またまた「最近よく聞く言葉」系コラム。
 テーマは「瞬殺」。
 テストに出ますからね、しっかり覚えるのよ。

 「瞬殺」というのは、用いられる対象によって、微妙に意味が変わってくる。
 格闘マンガだと「秒殺」という言葉と合わせ、極端な一撃必殺の技を示す表現だったり、某神武の超鋼よ我を砕き給へなマンガだと、化学兵器・戦術神風の紹介文の一部として使用される。
 要するに、「あっという間に終わる」という意味の近代語なのだが、これが商品流通に対して使用される場合、ちょっとニュアンスが変わってくる。

 商品販売の場合、瞬殺とは、瞬く間に完売という意味になるのだ。

 てなわけで、今回は「瞬殺」にまつわる話。
 最近やたらと瞬殺という言葉が連呼されるようになった、「完成品フィギュア業界」について。

 ああっ、そこの人、趣味が合わないからって逃げないで!
 確かに、フィギュアコレクターは異質な存在ではあるけど(笑)。
 これはこれで、なかなかのおバカ話だから、一見の価値ありでしてよ!

 この一、二年で、いわゆる「完成品フィギュア」の人気が凄く高まっている。
 それより前はガシャポンフィギュア人気が全盛だったが、現在はやや廃れ気味で、すっかり客層が移ってしまったかのようにも感じる(完全ではないが)。

 「完成品フィギュア」とは、これまでガレージキットで主流だったアニメやゲームキャラの無可動彩色人形のことで、植毛&衣装を着せるようなドールとは、まったくの別系統商品。
 またブラインド性がなく、購入にギャンブル的性質を持たないため、200〜500円のガシャポンで販売されているフィギュアとも違うカテゴリとされている。

 「完成品フィギュア」のプレイバリューは、基本的に「飾る」事しかない。
 そのため必然的に、見た目の印象が最重要事項となる。
 最近は、ちょっと露出が多いものが人気となる傾向があるようだ。
 素材は主にPVCやABSで、構造的には「巨大なガシャポンフィギュア」に過ぎない。
 以前は、コールドキャスト・ポリストーン・ソフトビニール製のものが主流で、ソフビ以外は現在もまだ高い需要があるが、現在はPVC&ABS製商品の比率が圧倒的に高まっている。
(コールドキャスト・ポリストーン製品は破損しやすいため、弾力性があり破損に強いPVC製品を求める人も多い)
 ちなみに、コールドキャストやポリストーン製の、いわゆる「硬い完成品」は、完成品フィギュアではなく「完成品スタチュー」と呼ばれるのが一般的なようで、PVC完成品よりも数段上の商品と認識されている感じだ。

 さらに、かつてガレージキットとして発売されたものが、数年後または数ヵ月後にPVC製完成品フィギュア化する事もあるので、ガレージキットを作れない・作る暇がない人にとって大変な需要がある。

 PVC製商品は、発売当初は精密製に乏しく、また大量生産品の宿命である「塗装のアンバランスさ」が災いし、あまり良い評価を得られなかった。
 だが、近年はそれも大幅に解消され、まだ一部例外があるものの、全体的にかなりの水準の高さに至っている。
 値段も、ガレージキットの約5ケタ単位の定価に対し、3000〜7000円台が主流とかなりリーズナブルで、また完成品でしか存在しない商品も多いため、現在も続々とファンやコレクターを増やしている。
 当サイトでも、その人気に目をつけて2005年度からレビューを行っているが、(いつまで続くか大変不安ではあるものの)現状、玩具業界でもトップクラスの注目を集めているカテゴリなのは間違いない。
 …実際の販売率または売り上げ率の高さはともかくとして、あくまで「注目」だけどね(笑)。
 そもそも一つの商品の生産数は、一般男玩や女玩には遠く及ばないんだし。

和風堂玩具店 藤沢やよい
 ところが、この完成品フィギュア。
 最近、やたらと「瞬殺現象」が多発している。

 筆者がパッと思いつくだけでも、「マックスファクトリー 宇宙のステルヴィア藤沢やよい」「同 DOA霞C1Ver.」「メガハウス RAHDXルナマリアVer.1」「同 RAHDXミーア・キャンベル」「ユージンSR-DX ローゼンメイデン・トロイメント翠星石」「メガハウス 戦国キャノンこより」「グッドスマイルカンパニー マビノギ ナオ」「和風堂 宇宙のステルヴィア藤沢やよい」などがある。
 これらはすべて、瞬殺現象を起こした商品だ。
 恐らく他にもまだあったと思うが、これだけ見てもかなりのものだし、これらはすべて2004年末から2006年3月現在までに発売された商品だ。

SRDX 翠星石
 瞬殺とはちょっと意味が違うが、「コトブキヤ セラちゃん」「同 ToHeart2向坂環 ドリマガVer」「CAVE 鋳薔薇テレサ・ローズ」「HJ限定 これが私のご主人様 沢渡いずみ」などのように、予約または通販受付期間が長かったものの、入手方法や受注タイミングが特殊だったために、発売後に未入手者の需要が異常に高まった商品などもある。
ホビージャパン誌上限定販売 これが私のご主人様 沢渡いずみCAVE 鋳薔薇オリジナルサウンドトラック特典フィギュア テレサ・ローズ
 さらに、完売後すぐに再販が決定したため動乱は拡大しなかったものの、商品そのものはあっという間になくなった「コトブキヤ ToHeart2ルーシー・マリア・ミソラ」「同 柚原 このみ」という例もある。
コトブキヤ ToHeart2 ルーシー・マリア・ミソラ

 このように、ほんの一時期のタイミングを見逃しただけで入手難易度が高まり、或いは再販待ちになるケースがあまりにも多くなった。
 好きな時に好きなアイテムを気軽に買う、という図式が成立し辛くなったと捉えてもいいだろう。
 少なくとも、雑誌記事やサイト巡回で情報を見つけた時にはすでに遅し、という場合が頻繁に起こるようになった。
 とにかく、需要に対して供給バランスが完全におかしくなっている。
 そして、その副作用的に、この完成品フィギュア業界が活性化しているわけだ。
 なんともはや皮肉めいた話だが、どちらにしろ勢い付いている事は間違いない。
 これを良い傾向とするか、不安要素の断片と判断するかは人それぞれだが、一昨年からこのような流れが見え始めてきた完成品フィギュア業界は、瞬殺現象多発の温床となっているのだ。

 だが本当は、完成品フィギュア業界でいうところの「瞬殺」というのは、正しい意味ではない。
 意外に、予約期間が長いからだ。

 現在は、新作発表から販売開始までに、三〜四ヶ月以上間が空くのは当たり前になっている。
 それに対し、各店舗は発表直後くらいから仮予約を取り始める。
 追加情報により商品人気が高まり、予約が殺到するまでには意外とブランクがあるため、早めに決意していれば、そんなに難しい事なく人気商品をゲットできることになる。
 完成品フィギュアでいうところの瞬殺とは、「追加情報が出た直後」「実売が開始された直後」に発生する現象がほとんどなのだ。
 2005年末に大規模な争奪戦を展開させ、最近では、ヤフーオークションで24000円ものトンデモないプレミア価格が付けられた「ユージンSR-DX ローゼンメイデン・トロイメント翠星石(定価税込2,835円)」にしても、商品情報発表の時点で予約していれば、何の苦労もなかったわけだ。

 では、なぜ瞬殺現象が起きるのだろうか?
 実際にあった事例を挙げて説明していこう。
(例に挙げている商品名は、先に述べた物のみ。実際は他にも沢山あるので注意)

●隠しギミック搭載判明型:
 これに該当するのは、「メガハウス RAHDXミーア・キャンベル」「同 戦国キャノンこより」だろう。
メガハウス RAHDXミーア・キャンベルメガハウス エクセレントモデルCORE 戦国キャノン こより
 これらの商品は、製品発表段階では「出来はそこそこいいけれど」という程度の評価に過ぎず、一部のファンを除いては、ごく普通の前評判を獲得しているに過ぎなかった。
 ところが、ミーアは発売直後、こよりは発売の約二ヶ月ほど前に、ネット上で「隠しギミック」が公表された。

 ミーアは、別パーツ構成のスカートを取ると、その下は極端なカットのTバック!
 こよりは、巫女服脱衣可能!

 この情報が出回った次の瞬間(比喩なし!)、あらゆるネット通販店は完売、リアル店舗も在庫がかっさらわれた。
 また、あまりに多い予約注文のため、一部店舗ではショート(予約数を確保しきれず、お客にごめんなさいする事)多発、これにより、予約を済ませたつもりで安穏とした気持ちに居た人達が、突如飢餓感に襲われるパターンも多発。
 それまで何ヶ月も放置状態だったのに、ほんのちょっとの「大変わかりやすい情報」が流れただけで、このような極端な展開が発生したわけだ。

 ちなみに、ミーアの方は2006年3月現在、すでに充分な数の再販または再入荷が行われ、今では何の問題もなく割引価格で入手できる。
 こよりの方はいまだ再販情報がない状態だが、さすがに時間が経ちすぎたためか、オークション相場も安定を見せ始めたようだ。

●作品人気との絶妙な合致型:
 「ユージンSR-DX ローゼンメイデン・トロイメント翠星石」が該当。

 これの発売時期・2005年12月は、おりしもアニメ「ローゼンメイデン・トロイメント」の年内放送終了期であり、内容展開もクライマックス直前。
 しかも、翠星石はそこに至るまでに究極とも言えるツンデレ展開を見せ、多くのファンを魅了していた。
 そこに加え、比較的安価な完成品が発売されるわけだから、潜在需要はどんどん高まっていく。
 で、実際に発売された瞬間、これが爆発。
 ネット予約もリアル店舗も、一気にかっさらわれた。

 ただしこの商品、実は「異常に入荷数が少なかった」という背景もあったようだ。
 未確認情報によると、とある大手玩具問屋(実質的な元締格)がメーカーへの注文数を誤ったらしい。
 そのせいか、各店舗に入荷した数がせいぜい数個単位だったとか。
 これが益々焦燥感を煽ったという側面もあったようだ。

 ここに加え、2006年1月に開催されたスーパーフェスティバル限定版(表情が微妙に違う)等も加わったが、決して需要を満たす事にはならず、むしろ飢餓状況を悪化させたような感があった。
 そして、2006年冬ワンダーフェスティバル会場内において、ユージン側から「翠星石の再販はない」という正式コメントが発表され、これがトドメになった。。
 こういった背景も、先の24000円プレミアの件に少なからず影響を与えているようだ。

●なんだかエロエロじゃないですか型:
 一番判りやすい例だが、「マックスファクトリー 宇宙のステルヴィア藤沢やよい」「同 DOA霞C1Ver.」「メガハウス RAHDXルナマリアVer.1」「和風堂 宇宙のステルヴィア藤沢やよい」などが該当。
マックスファクトリー 藤沢やよいマックスファクトリー 霞C1Ver.
 大きな露出はないが、コスチュームフェチ的な魅力で注目を集め、早い時期から需要を獲得していた商品群。
 やよい各種は、清楚なキャラクターイメージに反して凶暴な巨乳とメガネ、ミニスカート、オーバーニーという組み合わせで注目を集め、特に和風堂版は、太腿を強調したポージングでさらなる注目を集めた。
 DOA霞は、もはやいうまでもないだろう。
 ルナマリアも、ミニスカートにオーバーニーというフェティシズム炸裂な格好が受けたらしく、物凄い人気を獲得。
 しかし、なぜか似たような造形のVer.2(ミーアと同時発売)は、ほとんど注目らしい注目を受けなかった。

 なお「和風堂 藤沢やよい」は、発売後に“実質的な限定版”である事が判明。
 メーカーが、わざと生産数を絞っている事を公表したのだ。
 これがさらなる需要拡大に繋がってしまった感があり、現在でも、かなり入手が困難になっている。
 言うまでもなく、発売日に店頭待機していても手に入らなかったという人も多かった。

●周りが焦っているからこっちも便乗型:
 ほとんどの商品で当てはまる条件だが、「グッドスマイルカンパニー マビノギ ナオ」発売時などが、このパターンに当てはまる(のだろうか…実は自信がない)。

 世の中には、筆者のように「人気が出るとその商品が欲しくなる」という困った性癖を持っている人がおり、そういう人達は、こよりに人気が出るとそれを探し、翠星石が完売だと聞くとやっきになって、セラちゃんが再販されると聞くと、慌てて複数予約注文したりする。
 そして、少なからず品薄状況に影響を与えるのだ。

 ちなみにこのタイプ、人気が落ち着いてくると商品に対する執着心も薄れ始め、やがては転売したりするケースも出てくる(もちろん絶対ではないが)。
 転売屋に転進するのも、このタイプの人に多い傾向らしい。
 また一方で、執着心のなくなった商品を、ある時期から大量に放出するため、以前入手困難だった商品が突然安価で手に入るようになったりもする。
 本当に商品が欲しいという人にとって、たまーに役立ったりする事もあるようだ。

●メーカー側が人気を煽る型:
 ある意味、もっとも始末に負えないパターンがこれだったりする。
 コトブキヤばかりを責める意図では決してないが、先に挙げた例の中だと、どうしても「セラちゃん」と「向坂環 ドリマガVer.」を挙げざるをえない。
 ちなみに、ボークスなども、スパロボヒロイン系やアージュ系完成品スタチューで、よくこのパターンを展開させる。

 要するに、極端に入手の難しい商品を数限定で出したり、書籍・自サイト・店頭のみで予約を受け付け、その宣伝をあまりおおっぴらに行わないというパターン。
 情報をあえて小出しにするというのが、セオリーだったりもする。
 予約受付期間自体は長くても、宣伝が局所的なため予約していた事にすら気付かない人が多かったり、或いは「○○体限定」と公表し、さらに残り在庫数を間接的に表示する事でユーザーの購入意欲をあおり、注目度がピークの時期で突然予約を締め切る。
 そして、後日あらたに再販予約を取り、その際は公表生産数の倍用意する。
 これだと、初版品不足に煽られた人は、再版時に複数個注文する可能性が高まる。
 人によっては卑怯とも思える方法だが、売り方としては大変巧い。
 もっともこの売り方も、商品自体の完成度と前評判の高さが揃わないと出来ない手法なので、何にでも応用ができるというものではない。

 色々述べてきたが、このような状況が複合的に発生するため、今では「発売日に買いに行っても買えないかもしれない」という雰囲気が、色濃く漂っている。
 さらに、先の翠星石のブランド「SR-DX」のように、再販が絶望視されるシリーズの場合、その次の商品が(完成度や前評判の高低に関係なく)瞬殺を起こすという状況も発生した。

SR-DXいろは
 「ユージンSR-DXいろは」がこのパターンにハマり、発売日直前にはネット上の予約はほとんど満了(実際は時期的な都合で受付を終了しただけ)となり、オークションでは定価の倍以上の提示があり、それでも入札があった。
 しかし、実際に発売されてみたら数は豊潤、しかも春にはリペイントバージョンという実質的な再販が確定してしまった。
 これほどまで見事な、「情報の勘違い」による影響が見られたのも珍しい。

 ここまで述べてきたように、現在は新規のフィギュアファンが増加した事もあり、どの商品がいつ瞬殺するか、大変読みにくい状況となりつつある。
 とはいえ、もちろん原型・試作公開時点でファンからダメ出しされた物は除かれるが。
 だが一方で、「マックスファクトリー おねがい☆ティーチャー風見みずほワイシャツVer.PVC完成品版」のように、以前コールドキャスト版が出た事から造形レベルの高さが保証されているにも関わらず、なぜか注目されないケースがある。
 PVC版は、ワイシャツの中身(注:これはいわゆる裸ワイシャツ姿)まで作りこまれているという、ユーザー購入意欲増進ポイントを盛り込んだ商品であるはずなのに、おかしな話だ。
 これでは、予想の立てようもない。

 完成品フィギュアは、ほとんどが原型公開→店頭サンプル公開→製品画像公開→実販売というプロセスを踏む。
 だが、ある程度以上のレベルのユーザーは、原型から製品化に至るまでに、どうしても造形的な劣化が起こってしまう事を理解し、警戒する。
 元々個人レベル製作が基本で、精密な完成度が求められるガレキが量産化されるわけだから、劣化しない方がおかしい。
 要は、それがどこまで許容できるか、という事なのだが、慣れた人ほどすぐには手を出さず、製品画像が出るまで待つ。

 ところが、それでは手遅れという事態がすでに何件も発生している。

 今ではもう、製品画像が出回るよりも先に覚悟を決め、予約注文しなくては確実にゲットできなくなったわけだ。
 そしてそれは、ヘタをすると高い金を払ってとんでもない泥人形を売りつけられるリスクを背負う事にも繋がる。
 これをどれほど覚悟して、注文に至るかが完成品フィギュア購入の醍醐味なのだが、この踏ん切りがつかない人達が実販売直前までまごまごしてしまうため、いざ商品画像が公開されると、全員スタートダッシュをかけてしまう。
 結果、ものすごい争奪戦が展開し、瞬殺が発生するわけだ。

 3月末、「和風堂 ぱにぽにだっしゅ! 橘玲」のPVC完成品版が、予約開始後たった1〜2日で予約満了になってしまうという事態を発生させた(その後これはなかなか滑稽な顛末を見せた。詳しくはリンク先参照)。
 この商品、つい一ヶ月前に開催されたワンフェスで、同社によるガレージキット版が発売されたわけだが、数ヶ月待てばきっと完成品になるだろうと呑気に構えていた人は、完全に足元をすくわれた形になる。
 この場合、事前にガレージキット版の完成写真を見て、あらかじめ購入意志を固めておき、毎日発売情報をチェックし続けていなければ、即応は出来なかったわけだ。

 なお、一言で瞬殺といっても、それが実際どれくらいの時間の事なのか、今ひとつわからないという人も多いだろう。
 ネット通販店の場合は、長くても2〜3分だろう
 たとえ、在庫数が3ケタクラスあっても、だ。
 リアル店舗でも、十分経たずして完売という事はざらだ。
 筆者が知っている状況としては、新製品が店内に納入され、輸送用ダンボールが開梱されたと同時に客が殺到!
 店員が、この開梱品は販売可能だと言った次の瞬間、すでにダンボールは空。
 そして、すでにレジには長蛇の列。
 この時、店の端っこで待機していた人は、もうアウトである。
 或いは、別な商品目当てでぶらぶらしている客に行く手を阻まれても、アウト。
 たとえその客に悪気がなかったとしても、行く手を阻まれた人は、相当な私怨を抱くことだろう。

 …だからごめんよ、あの時の人〜。
 俺はただ、エスカレーターに行きたかっただけなんだよぉ。
 そんな殺気込めた目で睨まないでくれよ〜。<お前か

 聞くところによると、ネット通販でも、リアル店舗でも、入荷待機のノウハウというものがあるようだ。
 まずネット通販の場合、製品情報がアップされる時間帯を調べ、多数のアクセスが入る前に、あらかじめ該当ページを開いて待機する。
 そして、時間になったらそのページをリロードするのだ。
 これにより、トップページから商品検索して辿り着く手間が省け、またアクセス遅延による買い逃しもある程度防げる。

 リアル店舗の場合、店内の在庫置き場付近、または納入口の場所を確認するのだそうだ。
 もろちん、事前に発売日・納品日を確認しておく前提があるが、恐らく納品されるだろうと思われる時間帯より早く、店の中に入っているのは常套手段。
 中にはトラックが入ってくるのを、外でチェックするツワモノも居るらしい。
 さらに、複数人でチームを組み、それぞれが別店舗に陣取り、携帯で入荷状況を報告し合い、先に買えそうな者が仲間の分も含めて確保するという連携をこなす人達も居る(この場合、たいがい購入数制限に引っかかってしまうのだが)。
 もっとすごい人達になると、納品日と思われる日の開店前から待機し、そのまま閉店まで居座るという。
 他店より納品が遅めの秋葉原ヨドバシカメラでは、人気商品が出る度にそういう人達がよく見られるそうだ。

 以上の対策をもってしてもなお、購入できなかったというケースも多々あるようなので、この争奪戦は本当に恐ろしい。
 先の「向坂環」が、とある通販サイトで少数販売された事があった。
 だが、その通販サイトはすべてがFLASHで製作されたレイアウトだったため、読み込みに余計な時間がかかりすぎ、しかもリロード技が使用できないため、お宝を目の前にして購入出来なかったという悲惨な事態が発生した。

 先の「店舗の端に居たために間に合わなかった」という例に似ているが、例えば長時間待機していて、たまたま食事のために場を離れたその瞬間に販売・完売のコンボが炸裂し、戻ってきてみたらすでに総てが終わっていた、という事もあるらしい。
 数分単位ですべての決着が着く争奪戦の場合、まさに一瞬の油断が大損に繋がる。
 筆者は、たまたま「戦国キャノンこより」発売時期、別商品目当てで秋葉原に出向いた事があるが(←こよりレビューベージ参照)、まさに鬼気迫る様子だった。

 この状況、故・フランキー堺氏の有名な言葉を借りて表現するなら、

「これはもう買い物じゃねえ。――戦(いくさ)だよ」

 …という感じだ。

 無論、他の商品でも似たような事はよく発生する。
 男玩でも、極端な安売りが行われたり、レア品が紹介されるとあっという間に瞬殺発生だし、家電製品やAV機器などは、こんな事しょっちゅうだ。
 もっといえば、高級食材や加工食品でも多々あるし(筆者はむしろこちらで苦渋を舐めさせられている)、衣料品や高級アクセサリーなどは、まさに戦だ。

 ただ、特に限定でもなく、本来一般販売である筈のごく普通の流通商品に対して、これだけの事態が、しかもしょっちゅう発生するという現状は、確かに異常だ。
 ボークスの完成品スタチュー販売の際は、転売目的の人が浮浪者を複数人雇い、購入数制限対策を行っていたほどだという。
 そこまでやるかという感じだが、本当に恐ろしい話だ。

 瞬殺。
 それは、どこかバランスが崩れた需要と供給が新たに生み出した、恐るべきスパイラル。
 多分これは、完成品フィギュアブームが落ち着くまで、今しばらく続く事だろう。
 「人生に玩具あり2式」で気に入った商品を購入・レビューしている身としてはものすごくシャレにならない状況なのだが、とにかく事態を平静に見つめてみたいと思っている。

 ただ今日もどこかで、この「瞬殺」が発生する素地が、着々と生まれつつあるのは間違いない。
 ああ、恐ろしい恐ろしい。

「買い物なら命は惜しいが、戦なら死んだって本望だ!」

 中条きよし氏の有名なセリフの一つだが、筆者はとても、そこまで覚悟を決める勇気はない。

 ここまで読んで、「でもこれなら、メーカーが商品数を増やせばいいだけなんじゃないの?」と思われる方もおられるだろう。
 そう思う方は、このページの「買ってみて一言」の項をご参照いただきたい。
 こういう事もありうるので、安易に商品数を増やせない事情もあるのだ。
 また現在は、下請工場との連携の都合で、うまく製品数が増やせないといった事情も発生しうるらしい。

 なんだかやっぱり、色々と難しそうだ。

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