鷹羽的ポーズ講座 その2 ポーズを芸にする、ということ
鷹羽飛鳥
更新日:2005年9月11日
 前回の続きです。
 どうして再現の難しいポーズをわざわざ考えるのか…それは、かっこいいからです。
 
 前回も書いたとおり、子供は大抵はヒーローとの同一化願望から変身ポーズなどを真似るようになります。
 つまり、変身ポーズを取ることで、自分がそのヒーローに変身した気分になるわけです。
 こうした気持ちを巧みにくすぐったのが変身アイテムであり、ヒーローの変身道具と同じ(に見える)ものを使って同じポーズを取ることで、気分をより一層盛り上げることができます。
 オモチャ会社にとっては、番組中の変身シーンがそのままオモチャのコマーシャルになるわけですから、力を入れやすい部分です。
 トクサツ番組が“30分のコマーシャル”などと言われる原因でもありますが。
 ともかく、こうなると、変身ポーズのかっこよさとアイテム(商品)のギミックの連動が求められるようになりました。
 前回書いたとおり、両手首にはめたブレスが連動するなど、毎年発売される商品のギミックはどんどん複雑化を続け、とうとう子供が再現するには難しすぎるという本末転倒な事態が発生しました。
 また、ギミックをポーズと絡めることにはネタ的に限界がきたこともあり、“1つのブレス(アイテム)に仕込んだギミックを中心に演出する”という方向に向かいます。
 変身コード「335」を入力すると変身音が鳴るデジタイザー(『電磁戦隊メガレンジャー』のブレス)以降、変身ポーズが地味になり始めたのは、商品展開がブレスのギミック主導にシフトしていった結果だと思います。
 
 逆に、商品展開と関係なく発展・複雑化していったポーズもあります。
 それが名乗りです。
 ヒーローの名乗りというのは、『仮面ライダーX』にはもう存在しており、『仮面ライダーストロンガー』では、かなり長い口上までありました。
 また『秘密戦隊ゴレンジャー』では、1人ずつ名乗った後、「5人揃って! ゴレンジャー!」と5人で名乗るというパターンができあがっています。
 ただ、鷹羽的には、ポーズと連動した名乗りというのは、『ジャッカー電撃隊』から始まったと思います。
 異論もあると思いますが、「我ら!」「ジャッカー」「電撃隊!」と、ポーズごとに明確に動きを分けているというのがその理由です。
 これは、特にJACがアクションで関わっているヒーローに顕著ですが、手足を緩急つけて大きく動かし、動いた後にピタリと止めることで、ある種の美が生まれるのです。

 ここで基本となる動きは、手を伸ばした状態で体の側面を回す動作です。
 ちょうど“水を入れたバケツを振り回してもこぼれない”というのを、体の前側でやるときの腕の回し方と言えば分かりやすいでしょうか。
 これを緩急付けつつ、内回しにしたり外回しにしたり、ある時は左右対称に、ある時は両手が一直線になるように、またある時は片手だけ、というように様々な組み合わせをしますが、この動きは、正面から見たときに派手で、色々とハッタリの効いたポーズになるため、よくヒーローの変身・名乗り系のポーズに使われますから、覚えておくと何かの役に立つかもしれません。


 先程も書きましたが、子供が変身や名乗りポーズを覚える理由の根本は、“自分が楽しいから”というのが一般的です。
 大抵は成長する過程で他の方向に興味がそれていくのですが、稀にそのまま大きくなってしまう人もいます。
 そういう人達は、大きくなって認識力が上がった分、自分のポーズをより本物に近づけようとしたり、格好良く見えるかどうかなどの細部に拘り始めます。
 そして、そんな人間が数人集まると、自分のポーズを人に見せることに喜びを感じる人が出てきたりするのです。
 有り体に言えば、ポーズの出来を“他人に誉められたい”という願望の発生です。
 これは、何かをある程度頑張った人間なら大抵は持つ願望です。
 もちろん、ストイックに自分のためだけにポーズを練習する人もいますが、他人に認められることを求めるのは人間として当然の欲望ですから、自分のポーズに自信を持っている人が同好の士を見付ければ、披露したくなるのも人情でしょう。
 そういった中で高い評価を受けるようになったポーズは、“個人の楽しみ”から“”へと変化していきます。

 さて、ポーズを覚えるには、画面での左右の動きをそのまま自分の左右の動きに置き換えて認識する空間把握力が必要になります。
 これができないと動きが鏡写しになってしまうのですが、ゆっくりと動けば大抵は把握できますので、ポーズを覚えるときには、まずスローで見てどういう動きなのかを覚え、それを同じようにゆっくりと動いて練習しましょう。
 いきなり早く動こうとすると、途中の動きを省略してしまったり、妙にバタバタしたまま覚えて癖になってしまい、後で直すのに苦労することになります。
 最初はゆっくり動いて、身体がコンビネーションを覚えてきてからスピードを上げるのが、正確なポーズを身につける早道です。
 
 ただし、芸として身につけようとするなら、正確に動きを覚えるだけでは駄目です。
 もちろん、正確な動きを知っていることは必要ですが、どんなに正確に動きをトレースしたとしても、そのままでは他人に見せるための芸としては不完全なのです。
 今回は、その辺についても考えてみたいと思います。
 
 
 名乗りポーズは、『電子戦隊デンジマン』を経て、“いかにハッタリを効かせるか”という方向性に向かいます。
 名乗ったときに爆発するというのも、ハッタリの1つですね。
 「見よ!」「電子」「戦隊」「デンジマン」という具合に細かく動きを分け、それぞれの動きごとにカットを変えて、動きと台詞がリンクするよう意識してカット割するという演出技法が生まれたのはこの作品からでしょう。
 当然のことながら、カットが変わることで動きのメリハリは強調されます。
 こういったカット割は、『超獣戦隊ライブマン』辺りからは、変身シーンにも見られるようになりました。
 
 そして、このカット割のために、“芸”としての名乗りポーズは、単に正確に真似るだけでは済まない状況になったのです。
 どういうことかというと、カットごとに撮影するため、繋げて見ると流れがおかしくなる或いは画面で見たときと実際のポーズの印象が変わることがあるからです。

 実例を挙げましょう。
 『ライブマン』の変身は、前回も書いたとおり、突き出した右拳を左手首に持ってくるというものです。
 これは、画面上では、
  1. 画面左端から右に向けて右拳が突き出される
  2. 手首をひねって甲が視聴者の側を向き、右ブレスの動物マークが見える
  3. カットが変わり、前に向かって伸ばしている右手を左手側に曲げる
という形になっています。
 これを、実際の流れとして見ると、
  1. 左肘を曲げた状態で、右拳を前に突き出す
  2. 手首をひねって甲が右側を向く(当然、動物マークも右側を向く
  3. 右手を左手側に曲げる
という行程になります。
 正面から見ていると、右手を突き出して左手の方に持っていくだけで、動物マークは見えません。
 つまり、画面上の動きから受ける印象とは違い、実際は横に対する姿勢移動がまるでない地味なポーズだったりします。
 これを、そのままやってみせた場合、テレビでしか見ていない人には、動物マークが見えないから、間違っているんじゃないかと思われる恐れがあります。
 また、間違えられないにしても、あまり面白いポーズではないでしょう。
 これを正しいものとして受け入れてもらうには、途中で動物マークを見せる必要があるわけですが、そのためには観客に位置を変えてもらうか、自分が途中で向きを変えるしかありません。
 
 そこで鷹羽は、芸として披露する場合には、
  1. 右足を半歩出して体を斜めに構え、右拳を左横方向に突き出す
  2. 右拳を起こして動物マークが正面を向くようにする
  3. その右手を引っ張りながら右足を1歩引いて体を正面に向け、左手と合わせてキメる
という形にアレンジしています。
 これだと、“右手を正面から左に持ってくる”のが“右手をスライドさせて左手と合わせる”という具合に本来のものと違う動きになってしまいますが、観客には、拳を起こすところ、決めのポーズがテレビと同じため、正しいポーズと錯覚させることができるわけです。
 これで錯覚しない人は、大抵はこのカット割の問題点に気付いている人ですから、逆に「なるほど、面白いアレンジをしたな」と思ってくれます。
 また、ここまですれば、正確なポーズを更に披露してウケを取ることも可能です。
 このように、カット割が多くなったポーズは、アレンジなしでは芸として成立しない場合すらあるのです。

 ちなみに『五星戦隊ダイレンジャー』1話でのホウオウレンジャーの名乗りは、1カット目で左手を開き、右手を握った状態で左腰に持ってきていますが、次のカットでは右手を開き、左手を握った状態で右腰に持ってきている状態になっています。
 これは、恐らく何度か撮影していて、ミスにより違うポーズの映像を繋いでしまったものと思われます。
 つまり、カット割によって生じたミスということです。

 また、『宇宙刑事』シリーズでは、「宇宙刑事!」「シャイダー!」などと名乗った後に、変身システムの説明ナレーションが入りますが、その際、色々な角度から名乗りポーズを映したりします。
 このとき、最後の決めポーズだけでなく途中経過のポーズも映っているため、ボーッと見ていると、見る角度でポーズが違うかのように違和感を感じる人もいるようです。
 これをカット割の分まで再現して披露するとなると、ひっきりなしにポーズを変える羽目に陥りボディビルみたいになるので、鷹羽はオススメしません。


 とはいえ、“カット割”自体は、決して問題点でも悪いことでもありません。
 トクサツ番組に限らず、ドラマでは制作者側の計算に従ったカット割が行われるのは当然ですし、それによって演出効果が生まれる以上は、演出としての好き嫌いはともかく、存在を否定することに意味はないでしょう。
 言ってみれば、テレビドラマと舞台演劇の違いのようなもので、ステージという一定の大きさの枠全体で動きが進行する舞台と、映したい部分しか映さないことのできるテレビ映像では、方法論が違うわけです。
 ですから、テレビでの映像効果を無視して再現しても、それがそのまま芸になるわけではありません。

 もっとも、カット割のことを言わなくても、例えば撮影する角度によっても随分印象が変わったります。
 『鳥人戦隊ジェットマン』のブラックコンドルの名乗りは、足を大きく開き腰を落とした姿勢で、右手を胸の前に持ってきて、爪をイメージして開いた左手を左斜め上に、やや肘を曲げた状態で突き出すようなポーズです。
 これは、画面では下からのアオリで撮っていますが、これを観客と同じ高さの床でやると、姿勢が低い分、上から見下ろされるような格好になり、迫力が落ちます。
 これを予防するためには、観客から少し距離を置いて、せめて見下ろされないようにすることが必要になります。
 或いは、見下ろされることを前提に、最後に突き出す左手が観客の方に向くように方向を調整するというのも手です。
 自分に向かって掴みかかるように手が突き出されれば、見下ろす形でもそれなりに迫力が出ますから。

 このように、自分だけでポーズを覚えて楽しむのならばともかく、他人に見せる芸にしたいなら、観客の目線を意識しなければならないのです。
 『ライブマン』でのカット割は、鷹羽にこのことを強く再認識させてくれました。


 ところで、『地球戦隊ファイブマン』では、男性3人がVチェンジャーブレス、女性2人がVチェンジャーコンパクトと、シリーズで唯一メインメンバー間で変身アイテムが違う構成になっています。
 Vチェンジャーブレスは左手首に装着、Vチェンジャーコンパクトはペンダント状で首から下げるタイプになっていて、いずれもベルトなどから取り外す構造です。
 彼らの変身ポーズは、右手で持ったVチェンジャーを取り外し、体を右に捻って、肘を曲げ、右手首を肩の高さくらいに持っていき、そこから上に右手を伸ばしつつ「ファイブマン!」と叫びます。
 このときVチェンジャーのスイッチを押し、先端部を開かせてVのマークを作るのです。
 このキメのポーズは、ウルトラマンの登場時のポーズに似ています。
 実はファイブマンは、非常に珍しいことに、全員の名乗りが同じポーズから始まるのですが、それがこの変身ポーズのラストなのです。
 つまり、変身した際に高く掲げたVチェンジャーがスーツとなって消え、そのまま名乗りに入るわけです。
 ところが、当然の如く変身シーン(素顔)と名乗りシーン(スーツ)の間はカットが変わります。
 これは、カット割というよりも衣装の変化などによる印象の違いが大きいと思いますが、このため、ポーズが続いていることを気付いている人は少ないのではないでしょうか。
 こんなところが気になるのは、鷹羽が芸としての名乗りを意識しているからでしょう。


 ただし、重要なことですが、芸としてアレンジを加えるとしても、“それは本来の動きとは変えたものである”ことを忘れてはいけません。
 動きのタイミング・スピードや細かい腕の角度などは自己流で全く問題ありませんが、先に挙げた『ライブマン』の場合のように動き自体を変えた場合は、“本当はどういう動きか”を忘れたら、単なる間違ったポーズを芸と称して披露しているだけでしかありません。

 ちょっと極端な例を挙げましょう。

 かつて鷹羽がアクションショー系の事務所に所属していたころ、『ライブマン』ショーの仕事が入り、同期採用のT君がイエローライオンを演じることになりました。
 そしてショーの前日、事務所でT君がポーズの練習をしているのを見ると、キメが『太陽戦隊サンバルカン』のバルシャークのポーズだったので、鷹羽は「おや、ポーズが気に入らなくて、バルシャークのでやる気かな?」と思いました。
 一応説明しておくと、ショーなどでは見栄えを優先して、本来のものとは違うポーズを取ることがたまにあるのです。
 後楽園野外劇場(東京ドームシティのスカイシアターの前身)の『ジェットマン』ショーでも、ブラックコンドルのポーズは、途中経過が本来のものとは違いました。
 で、イエローライオンのポーズですが、左半身を前に中腰で構えて左手を少し突き出し、右手を縮めて胸の前で構えるという割と地味なポーズで、迫力に欠けます。
 また、バルシャークのポーズには、途中に、右足で立って左手と左足を水平に伸ばし、右手を斜め上後方に上げるという鮫の形を象ったポーズもあるのですが、T君のポーズではそこはオミットされており、キメだけがシャークでした。
 そこで鷹羽としては、T君は左半身を前に出して腰を低く落とし、左手を下顎、右手を上顎に見立てて大きく開くバルシャークのキメポーズを使うつもりなのだろうと思ったのです。
 鮫とライオンの違いはあるものの、大きく口を開けるという意味ではモチーフが似通っていますから、納得できるアレンジだったわけです。

 そこで、T君に「バルシャークでいくんだ?」と声を掛けたところ、T君は「イエローライオンだよ! ポーズ知らねぇのか!? この手がライオンの顎を意味してんだよ! 分かんねぇくせに知ったような口きくな!」と怒り出しました。

 どうやら、彼は本気でポーズを間違えていたようです。
 一緒に仕事をしたことがあまりなかったので、彼は鷹羽がどういう人間であるか知りません。
 そのため、鷹羽が“そのポーズはバルシャークのものである”ことを説明してもT君は全く受け付けませんでした。
 延々と続いた押し問答は、通りがかった事務所の先輩Hさんの「おう、それ、バルシャークだぞ」の一言で終わりました。
 もちろん、T君から鷹羽に詫びの言葉はありませんでした。
 …全く、どうして相手によって態度違うかなぁ。

 このように、“分かっていてアレンジする”のと“それが本当だと思い込んでいる”のとでは、全く意味が違うのです。
 プロの話を持ち出すのは、ちょっと筋が違いますけどね。
 いえ、決して10年以上前のことを根に持ってるわけでは…。



 ちなみに、名乗りポーズも変身ポーズも、決してトクサツの専売特許ではなく、アニメ作品でも名乗りや変身にポーズを伴うものが多々あります。
 例えばアニメ版『美少女戦士セーラームーン』では、セーラームーンの変身や名乗りのシーンがありますが、これを芸にしている人は少ないように感じます。
 なぜでしょう?
 次回は、その辺を中心に書いてみたいと思います。


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