仮面ライダー響鬼のお仕事 第4回 複数ライダーの憂鬱
鷹羽飛鳥
更新日:2005年7月3日
 「仮面ライダー」というブランドに拘るわけじゃありませんが、『仮面ライダー響鬼』は、平成ライダーシリーズにおいて、初めて登場する全てのライダーが敵対しない番組です。
 いわゆる平成ライダー、つまり『クウガ』以降のテレビシリーズ作品では、商品展開の都合上、どの作品でも複数のライダーが登場しています。
 実質1人である『クウガ』にしても、マイティ・ドラゴン・ペガサス・タイタンの基本4フォームとそれぞれの強化形態ライジングが存在し、その上アメイジングマイティ、アルティメットといった更なる強化バージョンが存在しました。
 このうちアメイジングマイティ以外は全て放送中に商品化されましたし、弱体化バージョンであるグローイングさえも商品化されています。
 これら多くの形態は、1人のクウガが状況に応じて変身する都合上、本編にほとんど登場していない姿もあります。
 50秒というタイムリミットがあるペガサスなどは、7話で初登場ながら、登場時間数は全49話の中でライジング含めて15分もないでしょう。
 本編中での演出具合なども絡んできますが、これは、1体ごとの印象が薄くなるという危険性を孕んでいます。
 そして、これを“1人だから同時に存在できない”のだと考えたことが、ライダー複数化へのきっかけとなった面は大きいのではないでしょうか。
 
 続く『アギト』では、主人公であるアギトのほかに、警察が作った強化服:G3や、アンノウンとも違う第4勢力:ギルスが序盤から登場し、敵対したり協力したりしながら、1年間の物語を紡いでいきました。
 それぞれの活動母体が異なるため“ライダー対ライダー”という図式が生まれ、後半のアナザーアギトの登場などにより、対立・戦闘・共闘が頻繁に見られるようになります。
 翌年の『龍騎』では、さらに1歩進めて、“ライダー同士は殺し合うものである”というそれまでの常識では考えられなかった新機軸を打ち出しました。
 続く『555』では、変身アイテムの奪い合いにより変身する者が頻繁に変わるため、同じライダーが敵になったり味方になったりという展開をしていましたし、『剣』でも、ライダーの1人であるカリスが怪人(アンデッド)だったり、変身者の意思で制御できないライダー:レンゲルが登場するなどして、ライダー同士が戦う場面が多く見られました。
 『555』や『剣』でのライダー同士による戦闘は、内ゲバとでもいうべき面を色濃く持っており、また、人数・変身アイテムの数の都合などにより、番組中でライダーの姿のままで死ぬこともほとんどありません。
 唯一『龍騎』だけは、基本フォーマットをライダー同士の私闘としたため、戦うことが内ゲバという印象にならずにすみました。
 また、『龍騎』では、劇場版・スペシャルを入れると年間のべ16人(オルタナティブ含み、35話のオーディンもカウント)がライダーの攻撃を受けたことが元になって死亡しており、テレビ本編限定でも9人と、結構死亡しています。
 ところが、ファイナルベントが綺麗に決まることは極めて稀で、ファイナルベントを食らってほぼ即死したライダーは全部で9人、テレビ限定なら5人しかおらず、即死でない=大した威力ではないとか、きっちりトドメを刺さない→やる気あるのかという印象を与えました。
 まして『555』や『剣』では、なんだかいつもいつもライダーがいざこざを起こしている印象が強く、しかも誰も死なないため、弱く感じてしまう、或いは小競り合いでお茶を濁しているだけのデキレースに見えるという状況でした。
 この2作品中でライダーのまま死んだのは、『555』劇場版のサイガだけです。
 まあ、ライオトルーパーを入れると、若干事情が変わりますが。
 この内ゲバは、色々な面でまずかったと思います。
 
 
 そこで『響鬼』ですが、6月現在で6人のライダー(鬼)が画面に登場しているものの、いずれも同じ組織に属する仲間であり、内紛なども起きておらず、平成ライダー唯一の友好的複数ライダー作品となっています。
 当初、鷹羽は「やっと内ゲバのない番組が見られる」と喜んでいたのですが、別の意味で問題があることに遅まきながら気が付きました。


響鬼、出番ないじゃん。


 なんとびっくり、威吹鬼と一緒に乱れ童子を倒した14話以降、21話まで響鬼はほとんど戦ってないじゃありませんか。
 15〜16話が斬鬼の引退話、17〜18話が威吹鬼対ナマズ、19〜20話が新人轟鬼の独り立ちの話で、響鬼は20話でアミキリの羽を斬り落としたほかは活躍していません。
 一応、細かいことを言えば、17話では音撃棒の強化実験(剣)をし、18話では威吹鬼のピンチを火炎で救ったり、音撃管を届けたりしていますが、15、16、19、21話では変身すらしていません。
 これは、要するにほかの鬼がメインになるときには響鬼をあまり絡められないという番組構成上の制約なのです。
 鬼は、使う武器が太鼓、弦、管の3種に分かれ、それぞれ得意とする魔化魍の種類は決まっています。
 つまり、弦の轟鬼、管の威吹鬼がメインで絡むような魔化魍というのは、基本的に太鼓の響鬼が苦手とするタイプということになります。
 番組中最初の敗北が、弦使いの担当であるバケガニ相手だったことを考えれば分かりやすいと思いますが、イッタンモメンを相手に戦う響鬼というのはやはり想像しづらいでしょう。
 今なら、音撃棒からの火炎で叩き落とせそうな感じですが、口から吐く炎は射程が短そうですし、1話のころなら相当苦労したでしょう。
 逆に、オトロシの体にはほとんど音撃管が効かなかったようですから、音撃管から射出される鬼石は、装甲の固い魔化魍には通じない可能性が高いです。
 つまり、バケガニの甲羅には鬼石がめり込まないため、音撃に繋げられない、と。
 じゃあアミキリはどうなんだという話になりますが、ひょっとすると、羽を狙って叩き落としたら管使いの役目は終わり、弦使いがトドメを刺すのかもしれません。
 
 とはいえ、それで全てが解決するわけではありません。
 実際問題として、空飛ぶ機械獣…じゃなくて魔化魍はともかく、バケガニやヤマアラシがどうして太鼓では戦いにくいのかというのは、ちょっと納得しにくい面もあります。
 これは、あくまで鷹羽の想像ですが、画面から見るところ、太鼓使いは背面に太鼓を貼り付けるのが基本形のため、背面に武器のある魔化魍は苦手ということでしょうか。
 あと、弦は突き刺しての音撃ですから振り回されても何とか音撃を続けられますが、太鼓だと相手が動くと的が絞れなくなるため、動きを止めやすい相手、或いは馬乗りになって自分の姿勢を維持できる相手でないとやりにくいということが考えられます。
 では逆に、弦使いは蜘蛛やヤマビコと戦えないのかというと、それはどうも納得できません。
 ほとんど剣か槍のようにざくざく斬れる音撃弦が、蜘蛛や蟻に通用しないとは考えにくいです。

 …じゃあ、太鼓使いって、一番役立たず?
 
 考えてみれば、『アギト』でも、ギルスがメインの回ではアギトやG3の出番はなくなりやすかったわけですから、ライダー対ライダーの図式には、“ごく自然に複数のライダーに技を使わせる”という効能があったんですね。
 本来単体ヒーローであるライダーが複数協力して戦うという構図は、よほどの強敵が相手でない限り、やってはいけない構図なのかもしれません。
 なにしろ30分前に複数ヒーロー物である『マジレンジャー』が放送されているのですから、似たような構図を作るわけにもいかないでしょう。
 音撃はともかく、飛び道具としてだけ考えれば、鬼なら誰でも使えそうな音撃管を太鼓使いや弦使いが装備しないというのは、やはり装備の統一による戦隊化を防ごうという意図もあるはずです。
 もちろん、それは制作サイドの都合であり、本編中では別の理由付け(設定)が必要です。
 まだ画面上で語られてはいませんが、結局のところ、音撃に繋げられないのに貴重な鬼石を支給するわけにはいかないとかいうことになるんでしょうね。
 貴重かどうかは分かりませんが。
 
 ところで、21話での財津原の台詞から、画面では活躍していないものの、実は響鬼はここんとこ出ずっぱりだったそうです。
 この辺は、画面に出ていないけれど、魔化魍は常に出現しては倒されているという『クウガ』的展開をしているために生じるズレです。
 この情報提示が、“響鬼は強いんだ”という表現のためであることは理解できますが、やはり視聴者には“画面に出てこない=戦っていない”という印象が生まれますから、違和感は拭いきれないでしょう。
 もちろん、ここには劇場版の撮影といった裏事情もあるのでしょうが、主役(変身前)が顔を出せないというならともかく、変身後が顔を出せないというのは、元々さほど長時間登場しない響鬼としては説得力に欠ける気がします。
 やっぱり、街中での戦闘ではないため、ロケ地に行く都合とかあるんでしょうかね?
 そういえば、『555』も劇場版撮影時期には、何の脈絡もない場所に突然移動して戦闘してましたし。
 
 結局のところ、劇場版の撮影が終わっても、響鬼が1人で活躍するという状況にはしづらいでしょうし、複数同時に動くとなれば、よほど上手く連携した戦闘にしないと、どうしても1人1人が弱く見えるという弊害は生じてしまいます。

 今更“ライダーは孤独な戦士なんだ”などと言い出す気はさらさらありませんが、もう一度“1人で戦う戦士”に戻してみるのも悪くないのではないかと思い始めた今日この頃です。
 でも、そうするとフォームチェンジしまくらないと、商品展開が辛くなるんだろうなぁ…。
 複数の今でさえ、中盤にパワーアップフォームがあるのは当たり前で、前作『剣』ではテレビ版だけで合計8タイプだったものを、1人でそれだけのフォームチェンジをこなすとなると、能力の変化を付けるだけでも、もう大変。

 内輪もめでも仲良しでも、複数ライダーの憂鬱は続きます…。



 → NEXT COLUM
→「気分屋な記聞」トップページへ