「癒着」と「硬化」
後藤夕貴
更新日:2005年4月28日

      近年、玩具製品の完成度が全体的に高まり、以前では考えられなかったハイレベルな商品が増えてきた。
 これは、いわゆる男玩・女玩だけでなく、フィギュアや各種リアルモデルなどをひっくるめた話。
 製品の出来の悪さを指摘され、売れ残っている製品を見てみても、数年前や十数年前の同種製品に比べれば、やはり相当ランクが上がっている事がわかる。
 これも、製品に対してユーザーの求めるグレードが以前よりも高まった結果なのかもしれない。

 この傾向は特に、ガシャポンやフィギュア系に如実に表れている。
 評判の悪いものでも、ちょっと前ならきっと大人気だったよな…と、いつも思わされてしまう。
 だって、以前「人生に玩具あり2式」のシークレットページで紹介した「セガギャルズコレクション2」だって、散々悪口言われていたけど、六年前くらいに大絶賛されてた「ToHeartシリーズ」に比べたら、格段に出来良いもん。
 …そりゃ、可愛くはないけどさ(笑)。


 だが、製品のグレードが高まる事に反比例するかのように、目に見えて低下している部分がある。
 それが「保存性」。
 より細かく言えば、「製品を安心して保管または飾る事が困難になった」というものだ。

 という訳で、今回はこの「保存性」の障害となっている“癒着”と“硬化”について。
 そう、あの消しゴムのカスがプラスチックの定規にへばりついたり、輪ゴムがへばりついたりするのと同じ問題。


 最近の玩具には、ABSPVCなどがよく使われている。

 ABSとは、
ACRYLONITRILE(アクロル二トリル)
BUTADIENE(ブタジエン)
STYRENE(スチレン)
の略で、材質寿命が長く、リサイクル性の高いプラスチックのような樹脂で、変形に強く硬質。
 PVCとは「ポリビニル・クロライド(ポリ塩化ビニール)」の事で、絶縁体などによく使用されるポピュラーな素材。
 ガシャポンフィギュアなどは、だいたいこれが使用されている。

 これらは最近よく玩具の素材に用いられているが、ABSはともかくPVCの方は、色移りや癒着が起こりやすく、一部のユーザーを悩ませている。

 このPVC、玩具によく使われている材質と、とことん相性が悪い。
 その「相性が悪い」中には、PVC自体も含まれる。

 もう十五年くらい昔の話だが、当時玩具を集めていた筆者は、「魔法のプリンセス・ミンキーモモ(旧作版)」の「グルメポッポ」を発見し、購入した事がある。

 …はい、そこ! 苦笑するのは後よ、後!!

 その商品は、その時点ですでに10年ほど放置されていた訳だが、パーツの中には塩ビで出来たピピル・モチャー・シンドブックが入っていた。
 当時の玩具は、外箱の中に発泡スチロール製の内箱があるのがポピュラーで、グルメポッポも例外ではなかったのだが、なんと、あるべきところにシンドブック他の三匹が居ない!
 よく見ると、なんと塩ビが発泡スチロールを溶かしていて、彼らは内箱の奥深くにボーリングをかまして潜り込んでいたのだ
 苦労して、なんとかこれを引っ張り出す事に成功したものの、スチロール内箱に空いた大穴はどうしようもなく、また人形本体にも、薄いスチロールの膜が付着してしまっていた(これはすぐに取れたけど)。
 恐らく、現在もどこかでグルメポッポが眠っているとしたら、人形の周辺は大変な事になっているだろう。
 もし、未開封状態でコレクション保存している人が居たら、一度開封してこやつらを薄手のビニールか何かで巻いておく事を勧める。
 とにかく、こんな事態が発生しうるのだ。

 現在の商品でも、こういった問題はよく見かける…どころか、むしろ頻度は増したような印象がある。

 以前別な所でも少し触れた記憶があるが、初期の「超合金魂」は、すでに一部パーツの劣化が始まっている。
 「マジンガーZ(初期版)」の手首などが、ベタベタし始めていないだろうか?
 筆者のものは、手で触ったが最後指紋が付くようになってしまった。
 もし、パーツ同士をくっつけていたら、目も当てられない事態になっていたことだろう。
 しかし、これは買ってから十年も経過していないし、まして箱に入れっ放しだったわけではなく、小型ショーケースに飾り続けていたものだ。
 にも関わらず、ここまで劣化する。

 また「超合金魂ダンクーガ」でも、早速その片鱗が見え始めている。
 ランドライガーのたてがみを閉じたままにしていると、両側がくっついてしまう(これはPVCとは関係ないのだが)。
 筆者が気付いたのはこれだけだが、ひょっとしたら、これより前のシリーズなどはもっとすごい状態になっているかもしれない。
 大切なアイテムは、適度に箱から出して中身の状態を確認するべきだろう。

 癒着するのは、PVCだけでなく塗料によるものもある。
 厚塗りされた塗料の皮膜がくっつき、同化して固まってしまうのである。
 ずっと飾りっ放しにしておいたPVC製のミニフィギュアのパーツが、異常に外しづらくなった経験はないだろうか?
 それが癒着の始まりだ。

 筆者が知る限り、これがもっとも発生しやすい代表は、ガシャポンの「カプセル超合金」と「カプセルポピニカ」だ。

 これは、ほんの数ヶ月飾っていただけでパーツがくっついてしまうという、大変危険なアイテムであり、シリーズ途中からパーツがくっつかないように、やたらと複雑な袋の入れ方をするようになった(このシリーズ以外も同様)。
 だが、初期のシリーズはかなりやばく、ABS同士の接触部分はいいのだが、特に腕や背中などの接続部分はやばい。
 せっかくの売りだった「ボルテスVに合体可能」のカプセルポピニカも、この癒着のために怖くて合体させられなくなってしまった。
 コンバトラーVだけは、極力癒着の被害が出ないように工夫されていたので安心だが、その代わりバトルマリンの先端部分を取り替えるという、元のポピニカにはないマヌケな手間を付加されてしまった。

 現在次々に新作が発売されている「聖闘士聖衣神話(セイントクロスマイス)」でも、似たような問題が発生している。
 これは、各聖闘士の髪の毛の一部分を取り外し、そこにマスクパーツをはめ込んで装備させるという新解釈が売りなのだが、この状態で放置すると髪パーツとマスクパーツが干渉し始め、色移りや癒着が発生する。
 また、アイオリアやカミュ、シャカなどは付属のマントに髪の毛の色が移る
 さらに各種拳パーツもPVC製のため、本体や他のパーツとの癒着が心配されている。
 しかも、すでに被害報告が各所で多く見受けられるようになっている。
 これを避けるためには、フィギュアには装備せず聖衣形態で飾ればいいのでは…と思ってしまうが、話はそう簡単には済まない。
 なんとこのシリーズ、聖衣の基礎体部分にもパーツずり落ち防止用にPVCが使われているのだ。
 また、バルゴの聖衣などは、握り合った両拳がPVCだ。
 結局、これも長期間放置したらどうなるかわからない。
 ではどうすればいいのか、というと、もう組み立てる事自体がナンセンスという事になってしまう。
 まだ発売されてから何年も経過したわけではない「聖闘士聖衣神話」にして、ここまでの問題が出ているというのはまずいだろう。
 筆者も、これがあるため「天馬座」と「射手座」しか購入していないが、とっくの昔にパッケージの中に片付けてしまった。

 しかし、こう書くと神話ファンの方の中から「パーツの間にセロテープなどを挟んで癒着防止すればいいだろう」と述べる人が出てくると思うが、それはより事態を悪化させてしまうだけだ

 そもそも、セロテープを使うという発想自体がまずい。

 セロテープは短期間の接着には確かに役立つが、時間が経つと糊とフィルムがそれぞれ激しく劣化し、付着した部分に悪影響を与え始める。
 糊は周囲に茶色いシミ状の変色を発生させ、フィルムは部分的に癒着し始める。
 あまりに長期間放置するとパリパリになるが、それでも糊は硬化してこびりつき、剥がれる事はなくなる。
 こんな危険なものを使うくらいなら、そのままパーツを癒着させた方がマシなのだ。
 というか、長期保存を目的とするものには、絶対に使用してはいけない。
 もちろん、糊を使わないビニールテープなどを用いればいいかもしれないが、それでは飾り方にかなりの工夫が必要になってしまう。
 さもないと、パーツの隙間からはみ出したビニールの端っこが、みっともないと思うし。


 何年も経ったガシャポンのフィギュアをもう一度組もうとした時、やたらと固くなっているような気がした事はないだろうか?
 これは、素材のPVCから「可塑剤(かそざい)」が気化してしまい、その結果“硬度を取り戻した”ために発生する現象だ。

 可塑剤とは、塩化ビニールなどの素材に柔軟性を与えたり、加工をしやすくするために添加する物質のこと。
 色々種類があるらしいが、PVCなどに用いられるのはフタル酸エステル。
 結構誤解されやすいが、塩ビは元々固い材料で、この可塑剤が添加される事で柔らかくなる。
 つまり可塑剤が抜けて固くなってしまった後の方が、塩ビ本来の姿なのだ。
 決して、元々柔らかい塩ビが、経年劣化で固くなるという訳ではない。
 もっとも、ユーザーにとって「硬化」である事には変わりないから、そう呼んでも間違いではないとも思う。
 とにかく、この可塑剤は時間経過によってどうしても抜け出てしまうものらしいので、硬化はある程度やむをえないだろう。

 だが本当にまずいのは、この可塑剤が抜け出る過程で「一部の塗装を溶かしたり」する場合がある事だ。

 筆者は、以前大切に保管していた「HGウルトラマンシリーズ」のビルガモが突如ベタベタになってしまい、大泣きさせられた事がある。
 ご存知ない方に説明すると、ビルガモは全身に金色の塗料が塗られたタイプのフィギュアで、どうも可塑剤の影響でこの塗料がやられてしまったようだ。
 同様の事は、同じシリーズの「クレージーゴン」にも発生し、筆者はこれが元でウルトラシリーズのコレクションを止めた。

 バンダイHGIFやユージンSRシリーズのような、いわゆるギャルフィギュア系のものでも、当然この現象は発生する。
 最近は、スカートをはいたキャラクター物の場合、下半身とスカートが別パーツ構成になっているのが普通だが、この場合スカートの色が下半身に移ってしまい、まだら模様の不気味な肌を作り出してしまう事がよくある。
 もちろん、可塑剤揮発問題だけでなく、単に長時間塗装されたパーツがくっつき続けていたために発生するケースもあるが。

 最近のユージンのフィギュアは、これを避けるためにスカート裏面はまったくの無着色状態にするという工夫を行っている。
 もし、貴方が「ヴァンパイアセイヴァー4」や「R.O.D」シリーズを持っているなら、スカートパーツの裏側を見てみるといい。
 ツヤツヤした感じになっていて、透明パーツの片面側だけに着色している事がわかる筈だ。
 また、カプセル封入時には各パーツごとにビニールをはさみ、直接の干渉を避けるようになっている。
 バンダイやタカラなどのDX玩具系のいたるところにビニールが挟まれているのも、これと同じ理由だったりする。
 色移りさえしなければ、固くなってもまだ組み立てられる可能性はあるわけで。
 こういう工夫をしてくれるのは、限界が見えているとはいえ大変ありがたいものだと思う。


 こんな風に、多用される反面随分とやっかいな管理を要求されるようになってしまったPVC…ありがたい素材なのは確かだが、これのために長期的な保管が心配になるというのは、コレクターにとって痛い問題だ。

 ――が、実はPVC製品以外にも癒着・硬化しやすいので有名なものがある。
 それが「ソフトビニール」だ。
 これについては、思い当たる人も多いだろう。

 ソフビことソフトビニールも、可塑剤によって弾力を保っているのだが、抜け出てしまうと硬化した上に割れやすくなり、大変扱いに困るようになる。
(また、可塑剤が抜ける頃には表面がベタベタしてくる事もあるそうだ)
 ブルマァクの怪獣ソフビで、ゴメスのシッポが取れやすいと言われるのもこれが原因で、同様にキングギドラも、あの細い角が破損しやすいという。
 癒着については、とにかくビニール系ととことん相性が悪い
 変身サイボーグシリーズ等が、この被害に遭い易いというのは有名な話のようで、コレクターは扱いに苦労させられているそうな。
 癒着は、圧力がかかる事で発生しやすいというので、パーツごとにそれなりにゆとりのあるスペースが確保されると、くっ付きにくいとも言われている。

 だがその癒着に必要とされる「圧力」というのは、どれくらいの強さのものなのか。
 これがなんと、商品の梱包程度の強さで充分条件を満たしてしまう

 例えば、ソフビとビニールパーツをくっ付けたものが、最近流行の針金梱包によってくくりつけられているとしたら、もうそこに癒着の条件は整ってしまう。
 つまり「圧力と意識するほどでもない力で、充分くっついてしまう」という事だ。
 これは本当に怖い。
 筆者は買ってないのでよくわからないが、最近発売されている「ゴジラ怪獣の着ぐるみを着せるミクロマン」などは大丈夫なのか、と心配してしまう。


 さて、「人生に玩具あり2式」で紹介しているS-RHFや装着変身なども、癒着防止のためなのか背中側にビニールが敷かれている場合が多々ある。
 なんとなく大丈夫じゃないかなとも思うんだけど、こうして癒着問題ばっかり挙げていくと、数年後が心配になってくる。

 PVCやソフトビニールのように、適度な弾力を持った用途の広い別素材が安価で登場すれば問題は緩和されるのかもしれないが、なかなか難しい気がする。


 ああ、押入れの中で眠っている、推定100セット前後あるだろうガシャポンフィギュア未開封モノの運命は如何に――!!!


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