ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君 中編
「それでも問題点は多々あるわけで…」
後藤夕貴
更新日:2005年4月7日
 さて、前回さんざん褒めておいてなんだが、当然、この新作にも問題点が結構ある。
 しかも、ここに挙げるものはいずれもゲームプレイの根底に支障を来しかねないほどの、大きなものばかりだ。
 もちろん、人によっては気にならない物も含まれているとは思うし、実際、筆者自身プレイ中はさほど気にかけなかったが、後から考えると「まずいんでないかい」と思わされた物なども含まれている。

 まずは、問題項目をピックアップして、一つひとつ検証してみよう。

●スキルアップシステムと、特殊技能の性能
 今回プレイしてみて、最も問題があると思われるものが、これだ。

 「スキルアップ」とは、各キャラクターがレベルアップをした時、1から9程度のボーナスポイントがランダムで与えられ、これを複数のスキル項目に振り分ける事で、必殺技取得や戦闘能力をアップさせていくというもの。
 「マニュアルパラメーターアップ式」とはちょっと異なり、素早さやまもり、かしこさなどの数値はオートで上がるのだが、それとはまた別にポイントを振り分ける項目があるのだ。

 主人公他三名は、それぞれ二種類から三種類の武器使用スキル(主人公なら剣とブーメラン、やり等)、素手で戦う格闘スキルの他、「ゆうき」「にんじょう」など、独自の名称のスキル項目を一つ持っている。
 これらはすべて1からスタートし、MAXは100。
 この数値がそれぞれ定められた規定数に達した時点で、キャラクターは呪文や戦闘技能等を取得していく。
 もちろん、これまで通りレベルアップによる技能取得もあるにはあるが、メインで活用される能力のほとんどは、このスキルアップにより得る事になる。
 逆に言えば、スキルアップに頼らないで能力を充実させる事は、不可能なのだ。

 ところが、このスキルアップのやり方によって、キャラクターの性能差があまりにも開きすぎてしまうという弊害が発生する。
 しかも、スキルを均等に振り分けた方が、この問題を発生させやすい傾向があるようだ。

 例えば、主人公に剣・やり・ブーメランを自在に使い分けさせたいと考えたプレイヤーが居たとして、それぞれのスキルに均等に数値を振り分けたと仮定する。
 すると、物語が盛り上がり始めるLV30台前後に差し掛かると、深刻な攻撃力不足に悩まされ始める
 その理由は、均等に分けすぎたためにそれぞれのスキルの恩恵…すなわち効果的な「戦闘必殺技」を充分に得られなくなり、結果的に「効率の良い戦闘が行え」なくなるせいだ。
 スキルアップは、それぞれ総合数値が20に達するまでは、頻繁に能力を取得していくが、それ以降は+10UPごとの取得になり、総合値50以降だと約+20UP前後、60を超えると+20UP以上毎でないと技能が取得できない。
 その上、なんとMAX100で覚える新しい技能まである。
 という事は、良い技能を取得するためには、必然的に100を目指すしかなくなってしまう。

 それぞれのスキルは、10段階に分けられている。
 つまり、各キャラクターが武器の最高技を取得するためには、単純計算で99ポイント×3=297ポイントのボーナスを稼がなくてはならない。
 もちろん、戦闘スキルばかり上げるわけにはいかないから、実際はこれよりポイントが必要になる。
 これを、実質レベルアップだけでまかなっていく訳だ。
 ところが、レベルアップ時のボーナスポイントはレベルがある程度以上高くなると減少し始める傾向があり、レベル50前後の頃には、各自1〜2ポイントしかもらえなくなってしまう。
 これはちょっと、いくらなんでも少なすぎやしないか?

 一応、ポイント不足の救済措置として「スキルの種(使用すると5ポイントのスキルボーナスが与えられる)」というアイテムもあるにはあるが、これは取得が大変困難で、宝箱やモンスターとの戦闘で得るしかない。
 リブルアーチに、夜だけ開店する「スキルアップの種販売所」があるのだが、ここはすぐに売り切れてしまうため、ほとんど頼りにならない。
 筆者は、レベル60の段階で主人公の「ブーメラン」「やり」を各100、「ゆうき」を60前後、「剣」を20弱にするのが精一杯で、「格闘」は1のままだ。
 これでも、スキルの種を三回以上使用してボーナスをつぎ込んでいる。
 この頃になると、一回のレベルアップによるボーナスは平均2〜3が関の山になるので、単純計算するとレベル99までに稼げるボーナスは、約80弱から120弱。
 筆者の場合「ゆうき」をMAXにしたら、後は残りのスキルをちょっと上げる程度で終了だ。
 無論、今後にドカッとボーナスが増える可能性もあるので、必ずしもこうなるとは限らないわけだが。
 …これを書いている時点でレベル66だけど、多分ないだろうなあ。

 とはいえ、ここまでやりこめればそれだけで充分な性能に達し、スキルによる新しい恩恵に頼る必要性はほとんどなくなるだろう。
 まして、そんなレベルに達する頃、新しく身に付けた技能を活用できるような敵やイベントは、ほとんど存在しない。
 せいぜい、最後の最後に出てくる「とある試練」くらいのものだ。
 

 「全然使えない技能ばかり与えられる」というのも、スキルアップで大変困らされるポイントだ。

 例えば主人公のブーメランスキル。
 ブーメランは、敵全体への物理攻撃を可能とする便利な武器だが、最初に命中した者の方がダメージが高く、後に命中するものほど低くなる。
 しかし、基本攻撃力が高まればザコ敵一掃に役立ち、まるで「MPを使用しない集団攻撃呪文」のように使う事が出来る。
 ここに、必殺技の「パワフルスロー」「超パワフルスロー」が加わると、均一化したダメージが敵全体に及ぶ事になり、さらに便利になる。
 少なくとも、中盤ではあらゆる武器スキルの中でも一二を争うほどの利便性を発揮してくれる。
 
 …が。
 逆に、上で述べた技以外は、いずれもまったく使えない
 ブーメランスキルは「通常攻撃力アップ」の方が重要であり、「必殺技取得」の方は、あっても困るものばかりが付加されてしまうのだ。

 ブーメランには、他に「クロスカッター」「バーニングバード」「シャインスコール」などの技があるが、これらはいずれも「ダメージが均一(特定数値以上には絶対にならない)化」した攻撃で、すぐに通常攻撃数値の方が高いダメージ値を弾き出すようになってしまう。
 筆者が確認した範囲では、最大四倍差という結果が出た。
 当然、これは「必殺技<通常攻撃」の数値の事。
 この測定の時点で主人公のレベルは60を超えていたから、この性能差がすべてにおいてつきまとうわけではないが、すぐに使えなくなってしまう事は想像できるだろう。

  「クロスカッター」などは、最初の敵にだけ二回攻撃が命中するというものだが、均一ダメージにすらならず、初めて身につけた時点ですでに使えないという、活用の場に悩まされるものだ。

 終盤で覚える「シャインスコール」は、さらに問題だ。
 これはいわゆる「属性系」の技なのだが、とにかくもったいぶった割には性能が低すぎる。
 筆者の場合、取得した時点ですでに通常攻撃の方がダメージが大きかった
 ほぼすべてのポイントを、ブーメランスキルにつぎ込んだというのにである。

 最終取得技「ギガスロー」は、ある意味それ以上に極悪だ。
 なんと、ブーメラン技であるにも関わらず、たった一体の敵しか攻撃できない!
 ダメージ自体は(ブーメランにしては)高いものの、消費MPの割に汎用性は低い。
 あくまでブーメラン装備にこだわる人が、単独で出現した“HPの高い敵”との戦いや、ボスキャラ戦で用いるのが関の山だ。
 ブーメラン最大の特性を殺してしまった上で、高い攻撃力発揮も何もあったものじゃない。
 これなら、素直に別の武器に持ち替えた方が効率がいい。
 まして本作のシステムなら、コマンド決定前に武器を持ち換える事ができるのだから。
 技使用時のグラフィックが妙にカッコイイという利点はあるものの、実際にはほとんど使われる事はなく、こんなもののために今までスキルを貯めていたのかと、泣きたくなってくる。

 逆に、やりスキルの場合は「一閃突き(雷光一閃突き)」や「さみだれ突き」、最終技「ジゴスパーク」など大いに使えるものが多く、それ以外の技にも集団攻撃可能な「なぎ払い」や、強制先制攻撃「疾風突き」などがあり、大変利便性が高い。
 特に、メタル系モンスター打倒のためには、なくてはならないスキルになっている。
 …なぜ、ブーメランと比べるとここまで違うのか…

 主人公のメインスキルと考えられている(らしい)「剣」は、実はブーメラン以上にたちが悪い。
 そこそこ使える技もあり、攻撃力も大幅に上昇していくものの、最終技「ギガブレイク」を使用するためには「ゆうき」のスキルも共にMAXにしなくてはならず、どちらか一方だけではギガスラッシュまでしか使えない。
 他のスキルに関連を持たせ、そちらの育成が不十分だと完全に使いこなせないというのは…

 また、同じ感覚でククールの剣スキルを育てると、なぜか最後に「ジゴスパーク」を覚えてしまい、しかもAI使用の場合、これを連発されるようになって、深刻なMP不足に悩まされる(作戦を変更すればかなり抑えられるが…)。
 格闘スキルなどは、最終段階またはその一つ手前の特典が「攻撃力アップ」だけ…という情けないものになっている。
 主人公とヤンガスは、それぞれ最終段階と一つ前の取得技能が逆になっており、何をさせたくてこんな設定にされているか、よくわからない。
 また、ゼシカがこれによって「マダンテ」を覚えるというのも疑問だ。
 そうですか、DQ6のバーバラは格闘家だったんですか(笑)。
 
 必殺技の名前の中に、全然ドラクエらしからぬ…ぶっちゃけて言うと、まるで「ファイナルファンタジー」や「SAGAシリーズ」にでも出てきそうなネーミングが増えたのも疑問だ。
 「蒼天魔斬」や「烈風獣神斬」「デビルクラッシュ」「ライトニングデス」「クィーンウィップ」「ニードルラッシュ」「ディバインスペル」「セクシービーム」…
 これがすべてドラクエの技だなんて、旧作しかプレイした事のない人は全然ピンと来ないに違いない。
 かっこいい物も沢山あるし、何もかもが悪いとは言わないけど…ちょっと調子に乗りすぎなんじゃないかと。

 
 他にもある。
 武器に関係しないスキル「ゆうき(主人公)」「にんじょう(ヤンガス)」「カリスマ(ククール)」「おいろけ(ゼシカ)」を上げる事によって、想像を絶する“用途がよくわからない”技能が増加していくというのも、理解に苦しむ。
 トヘロスやルーラ、ベホマズンなど、旅の途中で役立つ能力を得る主人公はともかくとして、回復や自己犠牲呪文を覚えるのに、最後だけはなぜか「軍隊呼び」のアレンジ版“おっさん呼び”を覚えてしまうヤンガスや、某美少年キラーのように眼光でダメージを与えたり、「おどりふうじ」こと“ペスカトーレ”などを覚えるククール、「投げキッス」や「ぱふぱふ」、「ヒップアタック」などの、どこか間違った肉体技を取得するゼシカなどは、何がさせたいのかよくわからない。
 特に、後半活躍の場に恵まれまくり、ヘタしたらシリーズ中もっとも使えるかもしれない「ラリホーマ」が、おいろけスキルによってのみ取得されるなどと、誰が予想できただろう?

 このように、どういう特性の技をどのカテゴリーに分けて習得させていくかという練り込みのいい加減さや、似た様な技が重複しまくり、使い分けに悩まされる状況の構築、さらに技の覚えにくさ、使い道のよくわからない性能の付加など、あまりにも目に余る問題点を内包し、プレイに支障を与えまくっているのが、この「スキルアップシステム」の実情なのだ。
 だってああいうシステムって、本当は「ゲームバランスの調整を放棄して、めんどくさいところをプレイヤーに丸投げした」だけ、というのが実態だし。
(※シミュレーションゲーム等の数値調整型能力強化システムは、また全然話が違ってくるので注意)
 こういうものは、そのゲームの性質に合わせて用いるべきかどうかを充分に検討するべきものであり、何にでも付ければいいというものではない。


 実は、筆者のプレイ時にこんな事があった。
 とあるイベントで、ボスキャラと対決する直前まで進めた時の話。
 ちょうど同じ所まで辿り着いた柏木が、筆者よりも3〜4レベル下の状態で、このイベントをクリアした。
 ところが、筆者はこのボスキャラに、あっさり全滅させられてしまった。
 その後、さらに数レベル上げて耐久力を増加させてから再戦に挑み、やっと勝利出来たが、決して圧勝ではなくかなりの辛勝だった。
 当然、イベントクリア時の柏木とのレベルの差異は、かなり広がってしまっていた。

 この不可解な事態の原因は、両者のスキルアップのさせ方の違いにあった。
 筆者は特定スキルアップ中心で育てていたせいで汎用性が利かなくなり、そのために柏木に遅れをとったのだ。
 なので、レベルアップ時にスキルを調整し直し、いくつかの技能を取得したら、なんとか対応できるようになった。
 この時点では、計画的に均等配分を行っていた柏木の方が、技能も多く取得できていて、有利に展開させられたわけだ。

 ところが、終盤のイベントでは、これが逆転した
 今度は、筆者の方があっさりとイベントを抜けてしまったのだ。
 この時点で、柏木は筆者よりレベルが上になっていたにも関わらず、先に進めなくなっていた。
 原因は、やはりスキル。
 今度は、特定スキルアップを中心にプレイしていた筆者の能力が充実し、均等に育てていた柏木は、戦闘能力不足に陥っていた。
 そのため、ボスキャラ戦のみならず、その手前のザコモンスターとの戦闘にも苦戦を強いられるようになっていた。

 これは、どういう事なのだろうか?
 プレイヤーの性格によって、難易度が大幅に変化してしまう?!
 平均的に能力を育てていく事など、ごく普通にありうるプレイスタイルなのに…?
 結局、どういうスタイルでスキルアップさせていくのが正しいのか?
 その回答は、どこにも提示される事はない。

 1〜2レベルの差異の範囲ならさほど大きな問題ではないだろうが、これはヘタすると、一から育て直さないと納得出来なくなるという危険も孕んでいる。
 ここまでプレイに影響を及ぼす問題点が多いとなると、もはやスキルアップシステムは「大失敗」であったと結論付けざるを得ない。

 ここで、筆者はふと疑問に思う。
 なぜ、DQ6などのような「職業システム」、あるいはその応用的なものを用いなかったのだろうか?

 昔から賛否両論あるが、DQ6の「職業システム」は、ドラクエシリーズ全体の中でも最高傑作と呼べるほど完成度の高いものだった。
 各キャラクターが自由に職業を選択し、戦闘回数をこなす事で“キャラクターレベルとは別に”職業レベルを高めていき、うまく活用すれば「経験値を稼がずに職業レベルだけを上げる」事が出来た。
 つまり、レベルアップ以外にもキャラクターの能力を高められるようになったわけで、HPやMPをちょっと上げるためだけに何万もの経験値を稼ぐ必要がなくなり、なおかつ、メタル系モンスター以外の敵と戦う事にも意義があるというスタイルが構築された。
 その上、弱い敵と戦っても戦闘回数は加算されず、常に強い敵を求め続けないとならないという条件が付加されたため、純粋に「戦闘」が面白く感じられるようになったのも大きい。
 その上、比較的弱いモンスターしか出ないにも関わらず、レベル99になっても戦闘回数をカウントされる「魔術師の塔」「天馬の塔」のような、ボーナスステージも設定されていた。
 これは、終盤唐突に強化されるモンスターとの戦いに対応する際の救済措置として大変重宝させられたものだ。

 反面、ただひたすら戦闘を繰り返すという行為に嫌気がさしたというプレイヤーも多く出たが、これは職業システムに限った問題ではなく、これまでのシリーズにも当てはまる事なので、致命的な問題とは言えない。

 また、何よりも理想的なカスタムキャラクター製造が出来たというのが、あまりにもおいしかった。
 新しいモンスターを仲間にすれば、いくらでもブランクキャラクターは用意できるので、ウィザードリィの「初心者強制成長の旅(笑)」のような事も行える。

 一部、転職条件が厳しすぎたり、上級クラスになるために本意でない職業を強要されるような問題点もあったが、これはいずれ出るだろうリメイク版(笑)にて調整される事を望みたい。

 閑話休題。
 本作DQ8のように、モンスターリストを埋めていくというノルマも別途用意されているタイトルの場合、戦闘回数がそのまま能力上昇に直結するシステムは、大変理想的だった筈だ。
 あるいは、これをそのまま用いなくても、多少アレンジを加える事でより面白くする事は可能だったと考えられる。
 なのに、どうしてスキルアップのような、中途半端極まりないシステムが採用されたのか。
 レベルアップだけでは、あまりにも増えすぎた特殊技能を振り分ける事など出来っこない事は、十年近くも前にわかっていた筈なのに。
 まるで、ファイナルファンタジーシリーズなどで用いられた概念が、あまり練りこまれる事なく流用されたかのようである。
 各所でも「スクウェア的」といわれたこのシステムは、明らかに過去のドラクエでは考えられない要素であり、外から持ち込まれた概念である事は明白だ。
 もっとも、ファイナルファンタジーシリーズの中には「マテリア」と呼ばれる技能システムに“装備”という概念を持ち込み、状況に応じて特殊技能を付けたり外したりできるようにしたものがあったりと、色々工夫されている。
 気に入らない技能を一時的に身に付ける必要はあっても、それを最後まで持ち続ける必要性はなく、大変うまく考えられていた。
 このように、FFシリーズの技能系システムを見た場合、ドラクエシリーズよりも洗練されているのがよくわかる。
 つまりDQ8のスキルアップシステムは、まるでFFシリーズの技能関係の表面だけを掬って付加した程度のものにしか見えないのだ。

 基本的に、小難しい部分はセルフオートで進行させ、プレイヤーの負担を軽減させるドラクエシリーズの性格の中において、いきなりマニュアルチックなシステムが導入されているわけで、これらはまったく融合していないどころか、反発してすらいる。

 結局。
 スキルアップは、何の情報もなしに行うべきものではない
 ネタバレなどを恐れずに攻略サイトなどを確認し、事前にスキル一覧表に目を通しておくべきだ。
 そして、どのスキルを優先的に育てていくべきか、あらかじめ計画を立てる必要がある。
 さもなければ、いずれ必ずどこかで足をすくわれる。
 これは、レベルアップのたびにいちいち資料を片手にした熟考を求められ、気軽にプレイする楽しみを大きく損なうものになりかねないが、元々問題山積みのシステムなのだから、もはや妥協するしかあるまい。

 筆者は、このスキル一覧と、後に説明する「錬金釜錬成一覧表」の両方を事前に用意しておく事を強く推奨する。
 後で、歯軋りして後悔する事のないように。

 スキルアップ…新しい試みを用いようとした姿勢は評価できるのだが、結果的にうまく機能していなかったのは、残念でならない。
 かならずしも「職業システム再び」などと唱えるつもりはないが、次回作以降、また別なより良いシステムを盛り込まれる事に期待したい。


●テンションアップ
 これは、まったく無駄とは決して言わないが、現状のあり方に疑問を抱かせるシステムだ。

 テンションアップとは、過去のシリーズで言うところの「ちからをためる」を何度も重ねる事で、1ラウンドだけ爆発的な攻撃力を発揮させる事ができるという便利なものだ。
 効果は通常攻撃のみならず、必殺技・呪文・技能にまで及び、回復系もこれに含まれる。
 つまり、一回の攻撃で数千ポイントものダメージを与えたり、ほとんどベホマズンと変わらないくらいのベホマラーをかける事もできるわけだ。
 その上、ベホマやキアリク、アイテム使用など「能力強化のしようがない行動」を行っても、テンションが元に戻される事はない。
 これを行うと、一定ラウンド間一切行動出来なくなってしまうが、使い方を慎重に選択すれば想像を絶する効果が期待出来、なんとラスボスをたった数撃で倒してしまう事も可能となる。

 だが、非常に便利な筈のこのシステムは、余計な制約事項に足を引っ張られ、無駄に使いづらくさせられてしまった。

 テンションアップは、
  • 凍てつく波動
  • 特定の「テンション低下攻撃」
  • 行動不能に陥れる攻撃(マヒや眠り、ショックを受ける等)
  • 「テンションアップ」以外の行動の実行(一部例外あり)
  • 特定時間経過
 によって、キャンセルされてしまうという設定がある。

 このうち、「凍てつく波動」「特定の攻撃」「特定時間経過」はまだ許せるのだが、それ以外のキャンセル要因には、疑問が多い。
 テンションアップは、本来行動できるターンを無駄にしてまで攻撃力を高めるものだ。
 つまり、それなりの犠牲を伴った上でようやく成り立つ行動なのだ。
 にも関わらず、“たとえ攻撃が外れても”“防御しても”解除されてしまうというのは、不便を通り越してイジワルとしか思えない。
 攻撃がスカってしまってもテンションは解除されてしまうのだから。
 筆者は、MAXまで上げた状態のゼシカのセクシービームが、メタル系ではない一般モンスター相手に空振りし、そのまま元に戻った時、泣きそうになった事がある(笑)。

 とはいえ、まったくデメリットがなかったら、今度は別な意味で問題になってくるわけだが。
 ある程度のデメリットの存在は認めた上でなお、現状に疑問を感じているという意向を、まずはご理解いただきたい。

 考えようによっては、ほとんどボスキャラ戦用技能みたいなものなのに、「凍てつく波動」でキャンセルされるというのも悲しい。
 もっとも、すべてのボスキャラが「凍てつく波動」を使うわけではないから、絶対に厳しい状態になるというわけではないが。

 ところが、敵はこういう条件に当てはまる事はないから、ガンガン使ってくる。
 今回、主人公側は「凍てつく波動」を使用できないし。
 まあ、一段階だけテンションを低下させる攻撃はあるが。
 中にはとあるボス(笑)のように、一度にMAXまでテンションを上げきってしまう能力を持つ奴までいる始末。
 その直後に4ケタのダメージを与えてくるのだから、もはやこちらは避けようがなく、スクルトなんかまったく意味を成さない。
 まるで、敵を有利にするために設定したものを、ちょっぴり主人公側に分け与えた程度のものでしかないようにも感じる。

 そして、このシステム最大の問題は、「テンションが上がりきらない」という概念がある事だ。

 テンションは、5→20→50→100と上がり、MAXになると「スーパーハイテンション」状態となり、真っ赤な火柱のようなオーラを放ち、顔付きまで変わり、まさに「スーパーサイヤ人化」のような劇的変化を起こす。
 しかも、MAX化の際にはわざわざ専用のムービーが流されたりもする。
 いつもは可愛らしい顔付きのゼシカが、殺る気全開の激情フェイスになったり、ククールが異常に渋くかっこよくなったりと演出も凝りまくっているので、是非ともMAXを目指したいと考えてしまう。

 にも関わらず、テンション上げに失敗してしまう事があるのだ。

 これは50→100に上げようとする際に多発し、決して稀な現象ではない。
 それどころか、ほとんどの場合において発生しうる。
 当然、失敗してもそのターンの行動不能状態は変わらず、MAXに届くまで何度もやり直さなければならない。
 無論、その間ターンは無駄に巡っていく事になり、それなら一・二回貯めて攻撃を繰り返した方が効果的という事になってしまう。
 ましてボスキャラ戦だと、その間に「凍てつく波動」などをくらってしまう危険性も高まる。
 つまり、全然いい所がない。
 MAXまで上げるのに、最低でも4ターンもかかるのだ。
 しかも、攻撃一回で元に戻る条件は変わらない。
 それならどうして、素直にMAXまで貯めさせてくれないのか。
 4ラウンドひたすら待ち続ける事だって、かなり難儀なはずなのに。
 テンションが上がりきらないという状態が、どうして必要だったのか? というより、何か意味があったのか?
 筆者には、この辺がまったく理解できない。
 ユーザーの活用をまったく考慮せず、ただ無意味にペナルティだけを付加したようにしか思えない。

 ストレートにスーパーハイテンションになれる確率は、驚くほど低い。
 いったい、なんのためのスーパーハイテンションなのだろうか…

 ちなみに、「はりきりチーズ」や「不思議なタンバリン」のように、パーティ全員のテンションを一度に上げるというアイテムも存在し、1ラウンドで二度以上貯めを行えたり、「即席集団バイキルト」状態にする事も出来て確かに便利ではあるのだが、前者は消耗品、後者は、物語終盤近くに錬金釜を使用してやっと作製できるという、大変回りくどい入手経緯を必要とする。
 さらに始末に終えない事に、「不思議なタンバリン」がなければ、クリア後のイベント「竜の試練」は、まともにクリア出来ない。
 唯一の救いは、その頃にはタンバリンを二個作成できる事なのだが…。
 言うまでもなく、これらのアイテムを使用してもテンションアップはしょっちゅう失敗する。


●一部のモンスターの戦闘技能(痛恨の一撃など)
 モンスターだけが使用してくる技についても、疑問を挟む余地がある。

 今回から、「モンスターだけが使用してくる“極端に強力すぎる”技」が、やたらと増加した。
 海竜など一部のモンスターが使用する、普段より強力なマヌーサと集団大ダメージの複合効果「ジゴフラッシュ」や、大きづちやギガンテスなどが用いる「“痛恨の一撃”攻撃」など。
 その他「連続テンション上げ」「一気にスーパーハイテンション化」「三回攻撃」「流星落とし」などもあり、なかなかにいじわるだ。
 もっとも、「ジゴフラッシュ」はとあるイベントの解決のために利用するという側面もあるため、なくては困るわけだが。

 一番困るのは、「痛恨の一撃が必殺技化」したという事実だろう。

 「痛恨の一撃」とは、主人公達にとっての「会心の一撃」に相当し、防御力を完全無視して大ダメージを与えてくるというものだが、これはDQ2の時から存在し、決して特殊なものではない。
 だが本作の場合は、これが“行動開始前に宣告”され、主人公達に炸裂する。
 つまり、通常攻撃が稀に変化するというものではなく、それ自体が必殺技(特殊能力技)になってしまっているのだ。
 その証拠に、痛恨の一撃の際はモンスターのグラフィックも変わる。
 元々、モンスターの攻撃は(大きすぎるレベル差がない限り)ほとんど確実に命中する上、ただでさえダメージが大きめなので、こんなのを食らってしまってはやっていられない。
 ゲーム展開を大幅に妨げるというものでは決してないが、ちょっとこれはないだろうという気がしてならない。


●戦闘回避(逃げる)の条件変化
 意外に知られていないが、ドラクエシリーズは、ボスキャラ戦や一部の例外を除き、三〜四回目に「逃げる」を選択すると必ず逃げられる。
 これは、このシリーズ独自の“救済措置”の一つで、うっかり強い敵の出るエリアに足を踏み入れてしまった際の生還確率を高めてくれている。
 目立たないが、とても助かるシステムであり、無意識に重宝している人も多い筈で、事実DQ2でよく行われた「低いレベルでどこまで進めるかレース(仮名)」は、このシステムなしには実行できない。

 どこに「敵の強さが変化する」境界線があるか不明瞭なドラクエにおいて、なくてはならないシステムだとばかり思っていたのだが、ついに本作でこれがなくなってしまった。
 それどころか、モンスターとのパワー差が開いていても「回り込まれる」ケースは高まり、どうやら“モンスターの強さではなく、配置エリアのレベルの大小で逃走成功確率が決定されている”ようだ。
 たとえば、レベル30のパーティの前に普通のスライムが出てきたとしても、そこが強すぎるモンスターの出現地域内ならば、あっさり回り込んでしまう。
 これを最も如実に表しているのが、ライドンの塔付近にある「スライム系モンスター大量発生地帯」で、なんとここに出現するバブルスライムやスライムベスは、レティスにも打ち勝つほどのレベルのパーティにすらも、平気で回り込む。

 堅実なプレイを行い、着実にレベルを上げつつ各イベントに挑む主義の人には無縁の問題かもしれないが、とにかくどんどん先に進む事を旨とするプレイヤーには、大変痛い仕様変更だ。
 これは、プレイ前に充分心得ておくべきだろう(ここで書いてもしょうがないが)。

 …あ。
 DQ7は、どーだったっけな…。


●スカウトモンスターとバトルロード
 本作全体の中で、色々な意味で異彩を放っているのが、この「モンスターバトルロード」だ。
 これは、特定条件を満たした上でフィールド各所に居るモンスターキャラと戦闘し、勝利後にスカウトする事で「モンスターチーム」を結成、別なチームとの戦闘を行って勝ち進んでいくという、シナリオとはまったく関係のない番外イベントだ。
 DQ6の「スライム格闘場」がこれに近いが、今回はかなり特殊で、すでに一定の能力を持っているモンスターを見つけ出していくという「手駒集め」的な内容になっている。
 スカウトされたモンスターは、過去のシリーズのようにレベルを上げたり、能力を付加したりして強化される事はない。
 正確には、主人公パーティと行動を共にする事で多少能力が高まるが、レベルアップというほどではないし、すぐに頭詰まりになる。
 つまり、決して独特の強さに発展する事はない。
 このチームの編成を色々と組み換え、FからSランクまでのバトル(1ランク三回連続勝ち抜き戦)を続け、優勝を狙うのだ。
 F〜Cまではかなり余裕なのだが、Bランクからはいきなり難易度が高まる。
 要するに、どういうモンスターを見つけ出してくるかが勝利のカギ…という構成なのだが、このバトルロード、はっきり言って「つまらない」。
 いや、面白がっている人も居るので、筆者の主観を押し付けてはいけないのだが…同じ事を考える人が多い事も、また事実なのだ。
 つまりは、その程度のものでしかない。
 なにせこのバトルロード、結局は「強いモンスターを連れてくればそれで事足りる」という、ものすごく底の浅い性格なので、深みがまったくないのだ。
 つまり、プレイヤーのやりこみ度や思考の方向性に依存する部分がまったくなく、ただ駒を探すだけのもの。
 もちろん、だからと言ってそんなに簡単には行かない訳だが、過去のシリーズにおいて「モンスターとの共闘」や「モンスターの成長」という特殊な概念を経験してきたプレイヤーにとって、どこまでけん引力があるものなのか、はなはだ疑問だ。

 また、主人公達がバトルロード会場に到達した時点でどれくらいのレベルになっているかによって、その後の展開内容ががらりと変わるというのも、まずい部分だ。

 ちょっと極端な例だが、主人公がレベル90で、初めてこの施設に気付いたとしよう。
 この場合、主人公達はほぼ無敵になっているのだから、探し回る労力さえ考えなければ、その時点で出現しているすべてのモンスターをスカウトできてしまう。
 とすると、本来もっと低いレベルで出会うべきスカウトモンスターを仲間に加える必要性は皆無になる。
 弱いモンスター達を使い、悪戦苦闘しながらも勝ち進むという楽しみは完全に味わえなくなり、いきなり最強クラスのモンスターチームでBやAランクの戦いまでのし上がる事を目指すだろう。
 また、どのプレイヤーがやっても似たようなモンスターチームしか作られないという、マンネリズムも発生する。
 筆者も、レベル40を超えた時点でバトルロードにたどり着いたため、一気にBランクまで進んでしまい、そこまでに逢ってきた弱いスカウトモンスター達には、まったく魅力を感じる事はなかった。

 これだけでも難点が山積みなのに、トドメとばかりに「回復系能力を持つスカウトモンスターがほとんどいない」という、致命的かつ根本的な問題がある。

 Bランク以上は、ブレスや大破壊力呪文が当たり前に行き来し、中には回復や蘇生を行ってくるチームも出てくるので、こちら側も力押しばかりではいられなくなる。
 にも関わらず、効果的な回復能力を持つモンスターがおらず、いたとしても耐久力が低すぎてまったく使い道がなかったりする。
 回復以外でも、防御系補助を使える者だってほとんど皆無。
 つまり、スカウトモンスターの性能に偏りがありすぎるため、やっぱりどうしても「力押し主体」にならざるをえないのだ。
 トドメに、バトルロードのモンスターはプレイヤーが操作する事は出来ず、すべてAI戦闘のみとなる。
 その上、一部のモンスターは特定の特殊攻撃を“相手に利くが利かないか問わず”ひたすらかけ続けるだけのサル…もとい、クリフト状態になる。
 こうなると、戦闘の行く末はほとんど運。
 ポケモンバトルのような、性能差を考慮に入れて能力の差を埋めていくテクニカルバトルなど、期待するだけ無駄ときたもんだ。

 ただし、この「回復系がほとんどいない」という理由は、簡単に想像がつく。
 便利な回復役が混じってしまうと、それだけで戦闘バランスが狂ってしまうのだ。
 わかりやすく言うと「回復役を含めた戦闘状況の想定が不十分すぎるため、想定外の展開を行われてしまうと都合が悪い」という事。
 制作側が想定した難易度が、回復役が入っただけであっさり覆されてしまうという事は、それはろくに練り込まれていないシステムだという意味に繋がる。
 もし、HPが700くらいありベホマが唱えられるモンスターが一体チームにいたら、たとえそいつの攻撃力が皆無だったとしても、恐らく本来の適応ランクより2〜3上を余裕で攻略できてしまえる筈。
 メタルキングの「スマイル」のように、ダメージを受けにくい者が一体居ただけであれだけ戦況が変わる事が、この説の証明になる(スマイルは回復しないが、ダメージを受けづらいという事は適度に回復されているのと同じような状況に繋がるため)。
 回復役が不自然に少ないのは、上記の問題点に気づいた制作側の調整によって削られた可能性が高いだろう。
 回復を踏まえつつバランスが取れるようなシステム構成をなぜ考慮しなかったのだろうか?

 モンスターの組み合わせによっては特殊な必殺技を発動させるものもあり、その内容にも面白いものがあったりするが(合体するドラキーとか!)、それらはせいぜい「ないよりは多少マシ」という程度のものに過ぎず、決め手に欠けるものばかり。
 挙句に、必殺技の数や種類を把握しきれないというのもまずい。
 組み合わせ一覧表でもない限り、とてもじゃないが発動条件なんか理解できない。
 こんなのに頼るくらいなら、そのまま強い攻撃力で押し切った方がナンボかマシだ。

 敵の中には、メガザルロック・ボーンファイター・ウドラーという構成で、「攻撃力の高いボーンが切り込み、ウドラーとロックがひたすら蘇生させまくる」という絶妙な連携を続けて、こちらのチームを消耗させていくという戦法を用いる奴らがいる。
 こういう絶妙さがプレイヤー側にも用いられるべきなのだが、そういう選択肢はないに等しい。
 決して攻略不能ではない「バトルロード」ではあるが、プレイヤーが望まざる方向に難易度が高くなっているため、面白いかどうかと聞かれると、どうしても微妙な反応しか出来ない。

 オチから言えば、「ドラゴンソルジャー(トラペッタ周辺)」「エビルホーク(サザンビークのキャラバン付近の高台)」「メタルキング(竜の試練後・トロデーン城付近)」が揃えば、Sランクはクリア可能(筆者実験済み)。
 他にもより良い組み合わせがあるかもしれないが、筆者が試した範囲ではこれが最強のように感じられた。
 Sランク最終戦終了後三匹全員生き残ったという好成績も残しているので、どうしてもクリアできないという人はお試しあれ。

 今回は、こういう格闘場的なノリのイベントは、なくても良かったのではないだろうか…などと、個人的に思ってしまう。
 

●一部のシナリオ構成
 元々ドラクエシリーズは、あまり押し付けがましくないシナリオやドラマが売りだった。
 普段素通りするような町の人にたまたま声をかけてみたら、ものすごく印象的な話をしたり、別な場所にいる“町の人”との関連に気付かされたり。
(本作でも、メダル王がかつてモテモテだった事が、各地のおばちゃんズによって語られていたりする)
 あるいは、イベントに関係したキャラクターと別れ、その後再び訪問したら、思わぬ展開が待ち受けていたり。
 とにかく、本筋から外れて寄り道をした先に深いドラマが仕込まれていたり、趣深いやりとりが隠されていたりと、そういうものを探すのも、ドラクエシリーズの面白さだった。
 これらの集大成が、「DQ6」の“星降る腕輪入手イベント”ではなかったかと、個人的に思っている。
 あのイベントは、今でも見るたびに号泣してしまう


 だが、この「押し付けがましくないシナリオ」は、DQ5から微妙に変化し、かなり大仕掛けなものになりはじめた。
 何年間も石にされた状態で放置されるDQ5の主人公の話や、記憶を取り戻した途端に、過去に出会った“今は亡き”キャラクター達との深い関わりを思い知らされるDQ6のイベント、メインキャラクターが途中で抜け、二度と出会えない別れを経験するDQ7など…
 特に、DQ6のエンディングでのバーバラの場面は、物語全体にかかっている上、最後の最後でプレイヤーの虚を突く名悲劇シーンに昇華していた。
 DQ4でも、大仕掛けのドラマチックイベントが多々あったが、これらはプラットホームの進化に合わせて劇的な変化を遂げてきた。
 当然、それぞれに良し悪しがあるわけだが、こういった傾向は本作でもかなり表面化している。

 だが、その中には「これはいくらなんでもあんまりだ」という内容が多く含まれている。
 一例が、「七賢者の子孫の死」イベント。
 別に、人が死ぬイベントが残酷でひどすぎるなどという、甘っちょろい事は言わない。
 シナリオ展開に必要なら、どんなにキャラクターが死のうが、個人的には構わないし、聖地ゴルドで発生する「女神像沈没による会場参加一般客全滅」の方が、これより遥かに残酷だし(笑)。

 では何がいけないのかというと、「不条理すぎる展開」が目立つ点だ。

 例えば、リブルアーチに住む六人目の賢者の子孫・チェルスが死ぬイベント。
 「呪われしゼシカ」打倒後、杖を持った犬に殺されてしまうというアレだ。
 あれは、主人公およびその仲間の行動があまりにも不自然で、違和感を抱くどころか、あまりの不条理な展開に怒りすら湧いてくるという展開だ。

 自分が賢者の子孫であるという事実を信用しないチェルスに対して、ろくに事態の説得もせず、また「子孫がこれ以上死んだらどれだけやばいか」を熟知していたにも関わらず、それを踏まえた説明を他の協力者達にも行っていないばかりか、ちょっと走ればすぐに阻止できるだろう超至近距離に居ながらも、何もしないでチェルスが殺されていく一部始終をただ呆然と眺めているという主人公の描写は、どういう事なのか。
 せめて、阻止しようと思ったけど間に合わなかった、あるいは失敗した…とでもすればそこそこ納得が出来たかもしれないが、主人公がチェルスに駆け寄るのは、なんと彼が殺された後だ。
 もちろん、誰かに行動を抑制されていたわけでもない。
 本当に、ただ呆然と眺めていただけだ。
 まして、ゼシカのイベントが終了した後なのだから、チェルス以外の者に事情を説明して彼を保護してもらうという行動も自然に行えた筈なのに、それすらもしない。
 ここまで「チェルスを殺る気満々」状態で進む物語は、果たしてどうか。
 大呪術師ハワードのあの性格を活かし、彼をさらなる憎まれ役に仕立て上げた果てに「ハワードがチェルスの事情を信用しなかったがために、敵の付け入る隙を作った」とでもすればよかっただけの話だ。

 あげくの果てに、このイベントの手前では、主人公達は「手を触れたら身体を乗っ取られてしまう」という杖の特性を忘れ、放置してしまっている。
 つい先ほどまで、それでゼシカが操られていた筈なのに、である。
 他のイベントでは、杖の姿を見るたびにその危険性を思い返すような描写があるのに、ここだけそれが不自然に欠如しているのだ。

 結果的に、チェルスをみすみす死なせてしまった事で、ドラクエシリーズ史上一二を争うほどの大規模人的被害が発生している
 こんな事をやられてしまっては、いくら予定調和といえども、主人公達を責めないわけにはいくまい。


 また、似たような展開のイベントを、よりによってこの直後にもう一度行うというのも、よくわからないものがある。

 オークニス周辺で起こるメディばあさんの死に関しても、主人公達はまたまた超至近距離で見ていただけだ。
 しかもこの時は、メディばあさんは「自分の事情をすべて把握しつつ、人質にされた息子を救うため、自ら犠牲になりに」敵前に歩み出ている。
 これほどマヌケな展開もあるまい。
 主人公達は、言うまでもなく四人なのだから、個別で何かしらの行動を取ってメディおばさんと息子の両方を救出する作戦を実行、あるいは挑戦できたはずだ。
 それが失敗、あるいは予想外の展開がさらに発生して、結果的にメディばあさんが殺されてしまったというなら、まだ納得は出来る。
 しかし、このイベントも明らかに「メディばあさんを殺っちゃる」状態で進んでいる。
 この部分の展開はすべてムービーになっているため、プレイヤーの意向はまったく反映されない。
 こんな不条理な展開を、ただ呆然と見守るしかないプレイヤーの気分は、最悪になること請け合いだろう。

 もちろん、ゲーム全体のシナリオを見た場合、ここで七賢者の子孫を全員殺しておかなければならなかった事は、よくわかっている。
 そうしなければ、ラスボスも完全復活しないし、何よりファイナルバトルでラスボスの結界を解除する事が出来ないのだから。
 だが、もう少し見せ方があるのではなかろうか。
 もっと露骨に言ってしまえば、「プレイヤーの納得する殺し方」を提示できたはずなのだ。
 ラスボス復活直前の対マルチェロ戦は、主人公達にとってそれ以外選択肢がなかったわけで、「彼を倒した事が復活のトリガーになった」としても、さほど疑問は抱かなかった。
 せっかく、こんな巧い描き方が出来るのだから、チェルスやメディばあさんの時も、もう少し練りこんで欲しかったのだ。

 この部分があまりにもスカタンなためか、なんとなく「ラスボス復活世界大ピンチ化」の原因は、主人公達にあるような錯覚すら覚える。
 筆者はこれらのイベントのために、主人公達が「世界を救った存在」とは言い切れない気がしてならないのだ。
 「自分達の不始末を片付けただけ」でしかないような。
 そりゃまあ、最初は確かにドルマゲスが原因だったわけだけどさ。
 「忍者戦隊カクレンジャー」じゃないんだからさ。


 他にも、納得のいかない内容のイベントや疑問の多いシナリオもあるにはあるが、それらはプレイヤー次第で飲み下せるだろうから、ここでは特に触れない。
 しかし、七賢者の子孫の問題は、このゲームの根底を揺るがす大問題なので、あえて取り上げてみた。

 …が、実は筆者がもっとも納得のいかないのは、“ドラクエシリーズ最悪のゲストキャラ(笑)”チャゴス王子を、あそこまで長期に渡って描き続けた事だ。
 何故、主人公は早く奴を始末してしまわな(以下、個人的感情大爆発文が続くため、省略)
 つか、真エンディングでも、オチが弱すぎ。<超個人的感想


●主人公の没個性
 先に述べておくが、以下に記す問題は、すべての人が同様に感じるものとは限らない事を、強く強調しておく。
 ここで述べる問題点は、「そのプレイヤーが過去にどういうゲームをどれだけこなしてきたか」によって感じ方が変わると推測されるためだ。


 ドラクエシリーズは、ほぼ例外なく、主人公に際立った個性が与えられていない。
 プレイヤーが思い出せる「各主人公の特徴」といったら、だいたいゲーム中のグラフィックかイメージイラストだけなのではなかろうか。
 あるいは、戦闘能力の違いとか。
 これは、シリーズ全体に通じている「製作者側のこだわり」であり、プレイヤーと主人公を一体化させるため、あえて個性を持たせないようにしているのだ。
 かつてDQ6製作時において、ニヒルでクールな雰囲気の主人公デザイン画が提出された事があったが、ビジュアルから感じられる個性に問題ありとしてリテイクを受け、この時のイメージは同作に登場する「テリー」に受け継がれた。
 それほどまでに、主人公の個性は廃絶される傾向にあるのだ。

 無論、本作でも例外ではなく、主人公は身辺設定こそあるものの、性格も表情も雰囲気もまるで捉えどころがなく、プレイヤーによっていくらでも印象が変わるキャラクターにされた。

 …のだが。
 本作だけは、それがはっきり裏目に出てしまった。

 これは以前から気にかけていた事なのだが、ドラクエの主人公は、シリーズが進むにつれてだんだん「無個性」でいる事が難しくなってきている。
 特に、あれほどまでに激動の人生を送っていたDQ5の主人公が無個性だったのには壮絶な違和感があり、せめて少しでも主体性を持たせてあげたいと思ったものだ。
 だが、それでも周囲のキャラクターもさほど強い個性を発揮し続けてはいなかったので、相対的に大きな問題とは感じられなかった。

 ところが、本作ではトロデ王をはじめとして、あらゆるキャラクターが「これでもか」というくらいに個性を放ちまくっている。
 何もしないでただ突っ立っているだけでも、キャラごとに独特の動きを見せ、性格を良く表している。
 それがあまりにも秀逸なため、第一印象がさほど良いとは思えないヤンガスやククール、トロデ王などは大変感情移入がしやすくなり、ゼシカなども可愛らしさやお色気(笑)が存分に楽しめる。
 ほとんど出てこないミーティア姫にいたっても、その言動や細かい仕草から性格がよくわかり、すぐに性質が飲み込める筈だ。
 しかも、各種イベントごとに仲間が述べるセリフが、いちいちプレイヤーの感情とマッチングするため、まるで「思いを作品中で代返してもらっている」かのような錯覚にも陥る。
 そういう意味で、「なかま」コマンドは大変秀逸なシステムだったと思う。

 ゲストキャラに至っても、いちいち表情や仕草が変わるため、見ていて退屈しない。
 あげくには、イベントモンスターにまで条件が当てはまる。
 トロルの迷宮のボスキャラに感情移入しなかったプレイヤーは、まず居ないだろう(笑)。

 こんな個性派揃いの中で、唯一没個性の主人公は、完全に埋没してしまっている。
 シナリオ中の活躍においても、当然発言はないし自主的な行動(この場合はプレイヤーが入力した動き以外を指す)もない。
 ただ、他のキャラクターの話に無言で相槌を打ち、僅かに表情を変えるだけだ。
 何かに疑問や怒りを抱く様子もなければ、ただきょとんと状況を眺めているだけで、考えがまったく読めない。
 プレイが進み、仲間達との相談が頻繁に行われるようになってくると、この違和感はだんだん膨らみ始めてくるのだ。

 それだけならまだいいが、実は本作は、主人公自身にかなり大きなバックボーンが背負わされてしまった。
 つまり、これまでのシリーズのように「プレイヤーの意志をゲーム中に投影させるための駒」から、「独自の設定を持った一つのキャラクター」という立場にシフトされたのだ。
 ミーティア姫との関わりや、サザンビークにおいての立場、そしてトロデーン城内での過去、エンディング後に展開するナニアレソレでイヤーンなイベントなど、物語の中でも、主人公の位置付けが明確に定められているのだ。
 この時点で、本当の意味での主人公になったと云えるだろう。

 だが、それでも主人公は、製作側のこだわりのために没個性を貫かれてしまった
 これでは、どんな良いイベントを用意しても「主体性のない、周りに流されるだけの情けない主人公が振り回されるだけ」という印象しか与えられない。
 自分の意思を持たない主人公に、シナリオの中で活躍する事など不可能なのだ。
 その集大成が、エンディング内で起こる「大聖堂事件」。
 あれでは、本人の意思ではなく、ヤンガスやククールに無理矢理押し出されて行っただけにしか見えない。
 あれで疑問をまったく感じなかったプレイヤーは、どれだけ居るのだろうか? …などと、筆者はつい考えてしまう。


 これはドラクエだけに限った話ではないが、「主人公=プレイヤー」という図式は、物語の流れをメインとするゲームにおいて、本来あってはならない考えなのだ。
 当サイトで以前扱っていた「18禁ゲーム」「ギャルゲー」においても、プレイヤーの一体感を強調するため…という大義名分の元に、個性どころかまともなデザインすら与えられていない主人公が山ほど居た。
 このタイプのゲームで、筆者がまともに外観と性格を思い浮かべられる主人公は、両手に足りるほどしかない。
 物語の中では立派に自主性を発揮していて、プレイヤーの意向とは無関係なセリフを吐きまくる主人公でさえ、一体感云々という概念のためにまともな姿を与えられていなかったりする。
 長く伸ばした前髪で目を隠した主人公像を、どこかで見かけた事がないだろうか?
 あのパターンは、ほとんどこれだ。
 物語内で活躍している時点で、すでに「無個性」という付加要素との反発が発生している。
 プレイヤーは、製作側が考えているほど「主人公との一体感」など求めていないのだ。
 逆に、プレイヤーの意向とは関係なく動きまくり、独自の論点を振りかざして話を進めるタイプの方が、プレイヤーの心に残るし何より面白みを感じる。
 「EVE」の天城小次郎が、いつまで経っても“エロゲ界の名主人公”的扱いを受けるのは、このためだ(前髪長いけど)。
 ン十年も前から、盲目的に行われてきた概念「主人公の無個性」を踏襲するという事は、実は「考えたフリをして、本当は何も考えていない」事なのだ。
 主人公が没個性でいいのなら、そもそも「サガシリーズの一部」や「FFIX」などのようなゲームは意味がない。
 主人公が独自の個性をアピールしまくった結果、名作と評価された作品の方が、圧倒的に多いのだ。
 というか、逆に「主人公が没個性」という作品に、誰もが認めるストーリー物の傑作があっただろうか?

 「WIZARDRY」などのように、ストーリーよりもシステム重視のゲームなら、確かに個性なんか要らない。
 だが、ストーリー展開が複雑になり、キャラクターへの感情移入が多く求められるタイプになるほど、没個性は「欠点」になる。
 そして、本作は皮肉にも、その好例となってしまった。
 制作側が望んでいるものとは正反対の、感情移入がもっともしづらいキャラクター、それが主人公だ。

 次回からは、是非とも個性放ちまくりの面白い主人公を作っていただきたいと、強く願う。
 …もっとも、まず間違いなく、改善される事なんかないだろうけどね。


●錬金釜システムのあり方
 恐らく、これを見て「えっ、どうしてこれが欠点?」と思う人も多いだろう。
 錬金釜システムにハマったプレイヤーは多いし、実際かなり使えるものではある。
 それは筆者も認めているのだが、それでも、やはりこのシステムは欠点、それどころか「まったく不要だったのでは?」とさえ思わされる。
 という訳で、この錬金釜システムをもう一度じっくり見直してみよう。


 錬金釜とは、物語が始まってしばらく経つと、トロデ王が馬車内に設置する“主人公達が動かす事の出来ない特殊アイテム”で、この中に複数のアイテムを入れると、これを組み合わせて「新しいアイテム」を生み出してくれる。
 例えば、薬草を二つ入れるとより回復力の高い「上薬草」になり、さらにこれを二つ入れると「特薬草」となり、さらに高い効果を期待できる。
 また「特薬草」を二つ入れると「万能薬」となり、あらゆる状態を完全回復してくれる究極のアイテムになる。
 後半あまり使い道のなくなる薬草を八個消費する事で、最終戦でも立派に役立つアイテムが作れるというのだから、これはとても有効だ。
 それだけでなく、こういうアイテムは「転売」でも効果を発揮する。
 安い材料から買取値の高いアイテムを量産し、資金を増やすという方法。
 これも回数に限度があるが、なかなか利便性の高い手段で、ものによっては一度につき数千ゴールドも稼ぐことが出来たりする。

 こんな風に、あらゆるアイテムを放り込む事で、便利なアイテムを「店やダンジョンで探す事なく」手に入れる事ができるようになる。
 当然、組み合わせによっては何も生み出さない事もあるが、その場合アイテムは無傷で戻ってくる。
 失敗による元アイテム消滅という概念がないため、使い方によってはかなり便利なものだ。
 錬成時間は主人公達の「歩数」でカウントされ、要は錬金釜に何かを放り込んだ後は、ひたすら歩き回っていればいい。
 初攻略ダンジョンに入る前、何かを仕込んでおけば、出てくる頃には何かが出来ているという流れになり、大変効率的だ。

 大変斬新なこのシステム、恐らくは同社エニックスの「アストロノーカ」にあった、種配合の概念の応用進化ではないかと思われるが、こういう新たな試みを導入しようとする姿勢は、大いに評価したい。
 つまり、錬金釜というシステムがある事そのものは、さほど大きな問題ではないのだ。


 ところが、錬金釜を取り巻く状況…肝心の「何を放り込むか」「何を作るか」という部分にスポットを当てて考えると、いくつかの疑問点が浮上してくる。

 錬金には「レシピ」が設定されており、アイテムを錬成するためには、それ相応の材料アイテムの組み合わせが必要になる。
 逆に言えば、そのレシピがわからなければ、プレイヤーは手探りで試し続けるしかない
 もし、レシピなしの状態でアイテムを錬成し続けた場合、「完成後のアイテムの性質の大小・利便性は運任せ」になってしまう危険がある。
 防御力の高い鎧を材料にして、新しい鎧を生み出したのはいいが、前より防御性能が下がってしまった…というパターンもありうる。
 また、ゲーム中たった一度ないしはそれに等しいレベルしか入手できない特別なアイテムを、まったく使えないヘナチョビに変えてしまう可能性もある。
 これを避けるため、劇中で用意されているのは…「穴空きレシピ」。
 つまり、「○○+上薬草=特薬草」のように、一部をわざと不明瞭化させた情報を垂れ流すというものだ。
 中には、完成品も、材料もすべて不明という「どないせーっちゅんじゃ」状態のレシピもみつかる。
 こんなのでは、かえって説明がない方がマシだ。
 どうやら製作側は、錬金釜に色々なアイテムを入れて「自主的に」試してもらいたいと望んでいたようなフシがあるのだが、これはとんでもない傲慢である。
 錬金釜に振り回されると、肝心なゲームの進行に支障を来たしてしまうためだ。

 本作は、意外なほど「武器屋」「防具屋」が役に立たない。
 シリーズ中では、最悪と言ってもいいだろう。
 なぜなら、販売している品物の趣向のほとんどが「錬金釜の材料」だからだ。
 もちろん、今までのようなノリで購入・使用できるものも沢山あるし、錬成に使えないものもある。
 だが、どこに行っても、その時点で決め手になるようなものがないため、「錬金釜を使いたくない」という選択肢が認められないのだ。
 錬金釜の理屈がよく把握できなかったり、単にめんどくさかったりするプレイヤーが、これまでのように販売アイテム主体で攻略を進められないというのは、どうした事か。

 つまり、プレイヤーの主義趣向、なじむ・なじまないに関係なく、錬金釜を使いこなす事を強制されるのが問題なのだ

 錬金釜をあまり使用していないプレイヤーは、途中からモンスターによる攻撃で膨大なダメージを受け続ける事になり、また致命傷を与えづらくなっていく。
 物語中盤、新しい土地で出会うモンスターから50〜80ポイントものダメージを平均的に受け続けていたら、200前後しかHPのない主人公側は、どんなに回復をしても追いつかない。
 だが、これがごく普通に発生してしまうのが、本作の問題だ。
 筆者も、これで泣く泣く錬金釜を使用する事にした。

 でも、とりあえず我慢して、なんとか錬金釜によるアイテム量産に慣れたとしよう。
 すると、今度はまた別な問題が浮上する。

 ドラクエシリーズは、入手が困難なアイテムの他に、「たった一回しか手に入らない」というアイテムがいくつか存在する。
 ただ今までは、それらが単体で利用されていたため、特に不具合は感じなかった。
 できるなら複数のキャラクターに同じ物を持たせたいと考える事はあっても、結構我慢が利いたものだ。
 だが本作は、そういう「唯一アイテム」すらも、錬金釜の材料となっている場合がある。
 そして、それによって「プレイヤーが絶対に入手できないアイテム」というものまで生まれてしまった事は、重大な問題だ。

 たとえば、「スパンコールドレス」。
 これは、「プリンセスローブ」と「神秘のビスチェ」へと錬成していくことが可能な基本アイテムなのだが、カジノの景品を除けば劇中一度しか手に入らないため、どちらか一方はまず作れない
 滅多に手に入らないアイテムとして「スライムのかんむり」というのがあるが、これも、複数の錬成レシピがあるため人によっては究極の選択を強いられる事になる(メタル系武装の材料なので)。
 また「バトルフォーク」という、一回しか手に入らないアイテムは「デーモンスピア」にする以外に利用価値がなく、だったらなぜ最初からデーモンスピアにしないのか、という疑問の残るアイテムである。
 他の材料も、これを手に入れる周辺で容易に手に入るものなので、あっさり作れてしまう。
 益々、材料の一部として設定した意味が感じられない。

 消耗アイテムの材料になる「岩塩」も、宝箱やモンスターからしか手に入れられないというのは疑問はなはだしい。
 それ単体では利用価値のないもので、錬金釜の材料以外に選択肢がないものなのに、なぜ無意味に入手制約を付加するのか。
 岩塩は、意外に用途が広いので、もっと気軽に利用したいものだ。

 こんな風に、肝心の材料の入手や存在数に問題が多いため、プレイヤーは、思う存分錬成を楽しむ事が出来ない。
 また、錬成レシピ一覧を見てみるとわかるが、実は意外に作製できるアイテム数が少ない事がわかる。
 あるいは、一見利用価値がありそうなのに、全然錬成に使えないアイテムなどが多々あったり。
 もう、どういう基準で材料や錬成結果が決定されたのか、理解できない。
 なんだか、本当に適当に決めて行っただけ、という印象しか抱けない。
 こんなものに振り回され、時にはプレイ進行を中断して、時には高い材料を求めて平原を走り回ったりしたのかと思うと、悲しくなってくる。

 冒頭で、錬金釜がなくても別にいいのでは…と唱えた理由が、これだ。

 プレイ進行の足止めになりかねない要素は、いくら便利なアイテムを作れると言っても、全然意味がない。
 その他、プレイヤーの方針によって様々な難点の露見が考えられるため、ここはスキル同様、錬成一覧表を用意してから望むべきだ。
 これがあれば、比較的効率よく進める事ができるだろう。

 レベルが低いうちに、かなり効果の高いアイテムを量産できる可能性があるとか、強い武器を手にする可能性が秘められているというなら、別な楽しみ方があっただろうが、結局シナリオ進行に従ったアイテム入手しかできないようならば、存在価値などまったくない。

 なんとなくだが、これまでのドラクエシリーズの定番である「定められた順番に従ったパワーアップ」という要素と、真っ向からぶつかり合ったシステムのようにも感じる。
 錬金釜は、いわば「その時点で利便性の“高すぎる”アイテムの生産」の可能性を提示し、「定められた順番」を覆す楽しみの可能性を与えた。
 だが、ドラクエの基本姿勢はそれを認めなかった。
 その結果、このようなムラのある材料配分になったのではなかろうか。


 そんな一面が明確に覗いているため、筆者は、錬金釜システムは「失敗だった」と断定している
 だが、決して何もかもがダメだと評価しているわけではない。
 例えば、呪われたアイテムを活用する事ができるようになったというのは、とても大きい。
 ドラクエに登場する「呪われたアイテム」は、その名前からすぐに正体がわかってしまい、プレイヤーが間違って装備する事などほぼありえず、登場してもすぐに捨てられるか売却されてしまうという、「効果を発揮できないトラップ」の位置に甘んじ続けてきた。
 ところが、錬金釜のおかげでかけられた呪いが解かれ、本当に役に立つアイテムとして生まれ変わるようになった。
 その上、元・呪われたアイテムは比較的性能が良い。
 「死神の盾」から転じる「聖女の盾」は、火炎・冷却攻撃を魔法も含めて無条件で1/2にするという脅威の性能で、終盤はものすごく重宝する。
 他にも「ドクロのかぶと」のように、本作内最重要アイテムの一つ「不思議なタンバリン」の材料になるものもある。
 それ以外にも、元々役に立つものの「もう少し性能が高ければ…」と思わされる、微妙な位置付けのアイテムを強化する事ができたりもする。
 代表例が、あたらしく登場した「薬草」シリーズと「奇跡の剣・改」だ。
 これについては、細かく説明する必要はないだろう。
 こういった目新しい性能改革を実践できるという意味では、錬金釜は確かに役に立つのだ。

 このような、まったく新しい概念を盛り込み、新鮮な楽しみ方の可能性を提示したという姿勢そのものは、大きく評価したいと思っている。
 もし、次回作にこれが持ち越されるようなら、さらなる利便性を追求していただきたい。
 余計なこだわりは捨てて。




 これまで上げてきた問題点とは別に、筆者が気付いた「勘弁して」問題を提示して、今回の文を締めようと思う。

 何の事はない、ただのバグ情報なのだが、「ライドンの塔」攻略の際にある条件を満たすと“攻略不可能”状態に陥る場合があるので、簡単に触れよう。

 ライドンの塔最上階の一つ手前で、巨大シーソーを固定してルートを確保する展開でバグが起こる。
 いくつかあるシーソーの中で、最上階へ通じる「唯一の正解ルート」に変化するものは、本来“シーソー固定のための重しを一度動かす”だけで事足りる。
 つまり、正解を知っていればさほど苦もなく上に行けるわけだが、うっかりこのシーソーの重りをすべて外し、一度宙ぶらりん(並行)状態にしてから再び重しを設定しなおすと、「本来下に落ちてくる筈のシーソーの端」が降りてこず、重しが空中に浮いたままになってしまう
 この状態で、浮かんでいる重しを動かす事は完全に不可能なので、一度塔を“完全脱出(階を降りただけではダメ)”して、再度登ってこないとならない。

 この塔は、複雑な上に手間のかかる細工を施して進まなければならない上、階層が多いので、かなりめんどくさい。
 そんな中を、もう一度登り直すのは、かなりやっかい。
 なので、このバグ発生条件は覚えておくべきかと思う。

 …つっても、どれがその「正解ルート」かなんて、初めての人にゃあわかりっこないか(笑)。
 
 聖地ゴルドのとある場所で、地面の底にストンと落っこちて空中浮遊ができてしまうポイントなんてのもある。
 海岸付近のとぐろ状の岩まで行き、その周辺をぐるぐる回ってみるといい。
 いきなり異世界へサイバーダイブだ(笑)。

 次回“後編”は、総括の予定。


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