ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君 前編
後藤夕貴
更新日:2005年4月3日
 今更と思われるだろうが、先月ようやく「ドラゴンクエストVIII(以下DQ8)」をクリアした。
 発売されてすでに四ヶ月も経とうとしているタイトルで恐縮だが、とりあえず、本作の雑感なんかをまとめてみようと思う次第。

 ちなみに、筆者の現状進行は、あと“一匹倒す”だけ。
 え、何をって?
 ネタバレだから教えなーい(笑)。

【警告】
 以下は、一通りクリアしている人向けに書いているものなので、ネタバレ要素がかなりありますから、お読みになる場合はくれぐれもご注意ください。
(一部の項目を除き、ラスボスに関する情報関連は極力抑えています)
 ただし、単語だけだと何の事だか(経験者以外には)わからないというものについては、特に隠すことなく普通に書いてあります。

 特に多くネタバレが含まれている項目には、あらためて最初に警告文を記してあります。
 警告文付き項目内は遠慮なくネタバレしまくっていますので、プレイ中、またはプレイ予定のある人はくれぐれもご注意ください。
 文句言われても知らないからねっ♪


●ようやく完成した3D世界
 DQ8は、スーファミまでのドラクエシリーズのような二次元マップではなく、3D視点で展開する三次元マップだ。
 主人公の視線で、広大な陸地や海、空が果てしなく広がる。
 その有視界内を、自在に行き来出来るというのが、本作最大の売り文句だった。
 そして、これはドラクエシリーズ初の試みであり、プレステ以降のシリーズが目指していたものの完成形だ。
 プレイステーション「ドラゴンクエストVII(以下DQ7)」「ドラゴンクエストIVリメイク版(以下旧番含めてDQ4と統一)」は、本作と同じ3D視点によるマップ構成だったが、ハードの性能から「果てしなく広がる大地や海」などはとても再現しきれず、いかにもポリゴンといった3D背景の中をちょこまかと移動し、グルグル回る画面に四苦八苦しながら進めるという、大変お粗末な出来だった。
 町に入ると、フィールドとの境界線から先が「異空間(笑)」になり、まるで怪しい次元に浮かんでいる浮遊大陸のような印象を受ける。
 とにかく、規模の割には世界の広さをまったく感じる事が出来ず、狭苦しい世界でちまちま移動しているだけという印象が強かった。

 ところがDQ8は、本当に世界(画面)の隅々まで移動する事が出来る。
 有視界内すべてが移動可能という売り文句は、ほとんど嘘ではない(※後述)
 もちろん、過去のシリーズ同様「エリアごとにモンスターの強さが分けられている」ので、調子に乗って行き過ぎるととんでもなく強い敵に遭遇してしまう危険があるが。
 また、製作側もこの世界を自由に行き来してほしいと考えたらしく、フィールドのあちこちに宝箱が隠されていたり、スカウトモンスターが潜んでいたりと、ゲームを盛り立てるフィーチャーが仕掛けられたりしている。
 フィールドに落ちている宝箱については、ゲーム中で「細かい事は追求するな。もらっておけ」と念を押されており、疑問を抱く余地がない(笑)。

 特に何もない所に行っても、その風景の変化を眺めるだけで楽しめる。
 見所の多い地形が各地に沢山あるので、純粋な観光旅行(笑)もいいものだ。
 高い所から見下ろしてみると、以前通過した道や町、洞窟の入り口などが確認できるというのもなんか嬉しいし、何よりこれから進むべき道の状況を視認できるという意味は大きい。
 特に、ダンジョン内でこの機能は役に立つ。
 これまでは、視界の届かない所へは直接移動してみないとわからず、その結果余計な戦闘をするハメにもなったが、本作は“その場に立ち止まって周りを見渡せる”ようになったため、状況確認が飛躍的に行いやすくなった。

 2Dのドラクエに慣れた人にとっては、これらすべての光景が衝撃となるだろう。

 通常移動ではたどり着けないが、船を手に入れた後や、空を飛べるようになった後に行く事ができる場所というのもあり、そこに、様々な特典が用意されているのも楽しい。
 これまでにもそういう「移動手段限定」の場所はあったが、本作ほど数が多いものは多分なかったと思う。
 特に本作では、フィールド各地に宝箱などが散らばっているため、隅々まで移動すればそれなりに実入りがあったりする。
 スライム属しか出現しないエリアや、ミミック属が跳梁跋扈している島、後々良いアイテムに錬成できる装備が得られるエリア等、かなりの数の仕掛けが用意されている。
 また「トロルの迷宮」のように、ごく限られたポイントでのみ発生していて、ヘタしたら最後まで気付かないままになってしまうような“オマケイベント”まであったりする。

 このように、「一見意味がないようだけど、フラフラさまようといい事があるかも?」的なフィーチャーが散りばめられている事は、大変評価したい。
 本当に、「世界を旅する」という気分を味わえるようだ。

 筆者も、全部は回りきってないからなあ…もっと色々遊ぼう(笑)。



 モンスターとの戦闘も、当然3Dによるものだ。
 各モンスターはそれぞれに独自の動きが設定されていて、それぞれかなりのバリエーションがある。
 戦闘中に行う動作を眺めているだけでも退屈しないのだが、普通なら、こういう「動き」のために戦闘の流れが鈍化する危険が考えられる。
 事実、初めてモンスターに動きを持たせた「ドラゴンクエストVI(以下DQ6)」では、これにより少々イライラさせられるケースもあった。

 ところが本作は、驚くほど戦闘にストレスを感じない。
 無駄のない画面表示とアングルカットの切り替わり、「平均○ポイントのダメージを与えた」という、集団ダメージ表示の簡略化などの影響で、想像以上にスピーディな展開になっている。
 徹底的に無駄が省かれているようだ。
 だがそれだけではなく、各キャラクター(モンスター含む)独自の動きをきっちり見せた上で、スピーディな展開を維持している。
 主人公やククールのジゴスパークや、ヤンガスの蒼天魔斬、ゼシカのピンクタイフーンセクシービームなどは、これでもかというくらいにたっぷりとアニメーションに時間をかけているにもかかわらず、ストレスがない。
 これは恐らく、戦闘の展開の流れにメリハリをつける事で、プレイヤーの関心を惹き付けるからではないかと推測出来る。
 本来なら無駄でしかない、技のモーションなどをカットせず、通常攻撃部分だけを高速化する事で「静と動の流れ」を生み出しているわけだ。
 これが適度に変化を与えてくれるため、モーションムービーに退屈する事がない。
 これらは、奇跡的なまでに絶妙なバランスと云えるだろう。
 
 テンションをMAXまで貯めた時のムービーなどは、よくよく考えたらかなり長ったらしく感じられる筈なのだが、プレイ中は「よっしゃあ、MAX行ったあーっ!!」という精神状態になっているため、まったく気にならない。
 こういう「プレイヤーの気分の盛り上がり」に助長されている部分も、多く含まれている感がある。
 

●システムの変化と利便性
 次に、システムを見て行こう。

 本作は、過去のドラクエシリーズと比較してあまりにも多くのものが変わりすぎた…ように見えて、実際はそうでもない。
 画面構成や移動の概念が変化したため、様変わりした印象があるだけで、基本的なものはあまり変わっていない。
 なので、2Dのドラクエシリーズしかやった事がない人でも、意外なほどスムーズに入り込める筈だ。

 本作では、「スキルアップ」「錬金釜」「テンションアップ」「スカウトモンスター」など、色々なオリジナルシステムが導入されている。
 これらについての詳しい説明は次回掲載分に譲るが、これらは過去にない独特の要素に満ちていて、巧く使いこなすと絶大な効果を発揮できる。

 今回、主人公達はレベルアップ時に得られるボーナスポイントを、「スキル」と呼ばれるいくつかのパラメータに振り分ける事で、あたらしい技能を得ていくというシステムになった。
 これと、キャラクターが特定レベルにアップした際に覚える能力が合わさり、強化されていく事になる。
 DQ6と7の「転職システム」は今回はなく、キャラクターごとに定められた個性的な技術をレベルアップによって身に付けていく形式。
 これは、いわばドラゴンクエストV(以下DQ5)以前のシステムと転職システムの良い所取りを狙った感があり。
 まあ、なんか転職システムって不評だったらしいから(筆者はまったく正反対の評価)、こうなってしまうのも仕方ないかなあ。
 個人的には、転職システムがなくなった事が大変残念だが…おっと、この先に続く内容は、次回に丸投げするとしておこう。

 どちらにしろ、「新機軸のドラクエらしいシステム」としては、一応ありだと思われる。
 もう少し改善の余地があるけど。


●個性的なキャラクター達
 本作のキャラクターは、実はパッと見の印象があまり良くない。
 一見人間と思えないほどにずんぐりむっくりなヤンガスと、キザキザしさ全開のククール、性格のきつそうなゼシカ、それにどう見ても醜悪なモンスターにしか見えないトロデ。
 こんなんで、果たしてうまく感情移入していけるのか?
 中には、そう感じた人もいただろうと思うし、筆者も同感だった。

 ところが、物語が始まった途端、彼らは予想外にド派手なリアクションとバックボーンを見せつけ、一気に好感度を稼いでしまった。

 元盗賊でおいはぎ、粗暴で下品でありながら、実は一番主人公を理解し、陰から支え続けていたヤンガス。
 主人公に代わって、イベント各所でプレイヤーの抱く思いを代返し、なおかつ「暗い人間関係」を引きずりつつもそれに明確な決着を提示しきったククール。
 兄の死と悲しみを支えに気丈に振る舞い、一度は敵の手に落ちるものの強い信念で再び仲間の下に戻り、「固い決意」を示し続けたゼシカ。
 王でありながら主人公達への理解と歩み寄りを見せ、命令をしながらもその裏側に厚い人間味を感じさせ続けたトロデ。
 そして、物言わずただ旅を続けながらも、時折思いを覗かせ、悲劇的な展開にもめげずに真の強さを持ち続けたミーティア。
 そんな主人公達を、最後まで無言で見守り続けたトーポ。
 
 それぞれの人間関係や環境、過去、心情の描写なども丁寧に描かれ、とても奥深い。
 主人公にしても、きちんと過去の描写があり、ましてやエンディング後のイベントでは驚愕の事実が明かされる。
 誰一人として、設定と表現に妥協がないため、安心して見ていられる。
 また、細かな発言や態度、イベント時の言動などにも一貫した性格が表現されており、矛盾がない。

 実はドラクエは4以降、個人名を持っているキャラクターの描かれ方には意外にムラがあり、個性を主張しきれない者も多く輩出してきた。
 ちゃんとした背景設定を持っているにもかかわらず、最後まで「単なる協力者の一人」に過ぎなかった(ような印象を与える)DQ6のチャモロや、姉のインパクトに押されて「性格は真面目」という事以外明確化されていないDQ4のミネアや、厳格な性格の戦士という以外何もないライアン。
 その他、プレイヤーが各自でイメージ補完した事により、かろうじて個性を保っている者達が大勢居た。
 というより、それが今までの定番だったのだ。
 ところが、本作はそういった手法を継承せず、より個性を強調する方針に出た。
 シリーズ的には結構な冒険だったと思われるが、とりあえず、この試みはおおかた成功したと云えるだろう。

 だが本作のすごい所は、主人公達以外のキャラクターにも個性がきっちり描かれている事だ。
 色々な個性派がいるが、やはり代表的なのは「マルチェロ」だろう。
 ククールの腹違いの兄で、シリーズ屈指の野心家にして野望のためならあらゆる犠牲も手段も問わず、その精神力は、なんとラスボスすらも凌駕してしまうという恐るべき存在。
 実際の戦闘能力よりも、こういったキャラクターが跋扈している背景という所に、凄みがある。
 色々語るべきところのあるキャラだが、あえて一つ書くとしたら「死ななかった」という事だろうか。
 ククール達に倒され、すべてを失ったもののトドメを刺されず、あえて生き恥を背負わされて開放されるという結末は、ドラクエとは思えないほどにハードな“男の世界”だった。
 …まるで、「パタリロ!」の「バンコラン対バンコラン」シリーズの最終決着みたいだが、それは言っちゃいけない事だろうか(笑)。


●モンスターだって可愛い面白い
 個性放ちまくりなのは、主人公達やNPCだけではない。
 戦闘時に登場するモンスター達も、ものすごく個性的だ。
 先にも書いたが、とにかく動きを見ているだけでも退屈しないし、中には大爆笑させてくれる。

 一生懸命身体をプルプル震わせるスライム属だが、その中でもキングスライム系は、振るわせ方に無駄に多いバリエーションがあり、「波打つ贅肉のミリキ」をたっぷりと味わわせてくれる。
 デブ専の人には、きっとたまらないものがあるだろう。
 乗っている馬がたまによそ見をするので、武器で軽く頭を小突いて正面を向かせる死神貴族系とか、「痛恨の一撃」のモーションで攻撃をしかけたにも関わらず、重心が崩れて後ろに倒れてしまい、そのまま攻撃を止めて戻ってしまうトロル系、手招きが妙に可愛らしいホイミスライム系、羽扇子を取り出して突然ジュリアナダンスを踊り出す魔女系、片足を上げたままなので、たまにグラつく動く石像系など、なんだかとっても微笑ましい。
 あまり嬉しくないが、天に向かって拝むと雷が落ちてくる、サンダーデーモンなども滑稽で笑える。

 しかし、コミカル系の最高峰は、やはり今回で初登場のモンスター「まもののむれ(笑)」だろう。
 四匹の人間型モンスターが、号令と共に名乗り→合体し、一体の巨大な人型モンスターになってしまうというものだが、合体と言っても単なる組み体操状態なので、攻撃する時はいちいち分解して攻めて来たりと、「合体した意味がほとんどない」動きを見せる。
 球体状ボディを持つ下半身担当に、上半身担当が玉乗り状態となって突進してくる姿を見た時は、大爆笑してしまった。
 しかも時折、中で言い争いを始めて戦闘ターンを無駄遣いしてしまうというアホらしさ。
 この戦闘を無視して、DQ8は語れないだろう(笑)。
 仲間の一部が倒されると、ザオリクを唱えてまで合体しようとするし。
 
 ちなみにこやつら、全三種類のバリエーションがあるのだが、それぞれ別な名乗り口上を持っている上、微妙に行動パターンが異なっているのも楽しい。
 特に、最後に出てくるチームは凄い。
 なんと、両腕になる連中は、戦闘中ひたすらニヤニヤしているだけで、何もしない!(笑)
 他の連中は、そこそこ強い攻撃力を持っているというのに、こいつらは無意味に人畜無害なのだ。
 なんつーか、ここまでお笑いに徹したモンスターも珍しいなあ…

 なお、こやつらの合体後の名前は、それぞれ「バベルボブル」「モビルフォース」「グレートジンガー」と言い、どこかで聞いたようなパチくさいものになっている。

 いや、ですからグレートジンガーさん、雷撃はやめてください。
 それはシャレになりません!!(爆)


 しかし、決してコミカルな動きだけではないというのも、本作モンスターの特徴。
 剣を地面に突き刺して雷撃を走らせる地獄の鎧や、目からレーザーを照射して全員を狙撃するキラーマシン(どちらかというと、対地兵器のような使い方だが)、高く指を掲げてから振り下ろし、呪文を行使するアークデーモン系、そして、ドラゴンクエストI(以下DQ1)の真・竜王と同じポージングで特殊攻撃を使うナニアレソレイヤーンまいっちんぐな「アレ」系とか、その他独自の見所を持っているものが多い。
 この動きを、「戦闘の記録」の中で再現できるというのも楽しい。
 なんだか、もっと沢山見たいと思わされる、独特の魅力に溢れていたように感じる。

 どーでもいいんだけど、今回初めて気付いたんだが…
 バブルスライム系の頭の上に浮かんでいる丸い物って、揮発する泡の表現じゃなくって、攻撃に使用するビットだったのね…びっくりした。
 あれが飛んできたり、合体して呪文発動時のコアになったりするのをみて、益々スライム属がよくわからなくなってきた。

 あと、井戸にハマって抜けなくなったキングスライムは、筆者最高のお気に入りだったり☆

 え、「最強最大の中ボス、ドン・モグーラを忘れるな」って?!
 いや、アレは、ここで語るより直接見てもらった方がいいんでないかい?(笑)
 アレで笑わない人はまずいないでしょう。
 (別な場所でも、奴が心霊現象扱いされていて物凄く笑かしてもらったが)

 なお筆者は、こやつとの戦闘の決着を「混乱したモグラの部下による打撃」によって着けられてしまったという、笑っていいのかどうか大変悩む展開を迎えた事がある。


●伏線を秘めた物語の素晴らしさ
 ストーリーについては、さすがと言わざるを得ない。
 それほど、練りこまれた内容だ。
 話の好き嫌いはあるかもしれないし、筆者も部分的に納得できないものがあったが(これについては次回)、全体的に見て、大変よくまとめられた物語であったと言える。
 作品内で、「これは一体?」と思わされる要素のほぼ全てに、きちんと回答が設けられている。
 さすが、この辺については毎度ながら安心できる。

 本作では、基本的な設定を早いうちに明確にしておき、そこから順々に物語を組み立てていくという構成になっており、最近流行の「様々な謎が各所に散りばめられている」という雰囲気にはなっていない。
 ごく普通に物語が展開し、必要な事も(その真偽はともかく)一応触れられているので、平成ライダーシリーズのような(笑)、煮え切らないモヤモヤ感を味わわされる事はない。

 だが、そう思わせつつもしっかり伏線は張られまくっており、後で驚かされる。
 というより、伏線が仕込まれていた事にすら気づかなかったというケースが多発しやすく、そういう意味では本当の意味で「意外性」を保持しているのだ。
 本作では、主人公は絶対に呪われる事がない
 呪われたアイテムを使用しても、敵から呪いによる攻撃を受けても、主人公だけは無条件でそれを跳ね除ける。
 一見なぜだかよくわからない効果なのだが、これにもきちんとした説明がなされており、最後には納得できるようになっている。
 またトーポにしても、本編中ククールが述べていた通り、それなりの意外な正体が隠されており、エンディング後のお楽しみの一つになっている。
 
 また、最大の伏線はラスボスについての描き方だろう。
 最初にある敵キャラを前面に押し出し、その背後で真のラスボスの存在を隠しつつチラチラと関連情報を匂わせ、鋭い人には「あ、こいつが本当のラスボスなんだな」と思わせる手腕が憎い。
 ドラゴンクエストIII(以下DQ3)のゾーマのように、途中からいきなりその存在が明確化するのではなく、最初から存在を提示しているにも関わらず、そちらからプレイヤーの意識が逸れていくように仕向けているわけだ。
 このやり方は、本当にうまい。

 ラスボスについては、次の項目で詳しく触れたい。


 その他、様々な細かいイベントやそれに関連する物語も、大変面白い。
 ただし、ごく一部を除いて「重い展開」があまりなく、かなりライトな雰囲気にまとめられているのも特徴か。
 DQ4から6にかけて、全体に流れていた「なんとなく重々しい雰囲気」は、ほとんどないのだ。
 むしろ、不自然なくらいに主人公達は影を背負っていない。
 シリーズ中でも、一二を争うほど重い運命を背負っている筈なのに、である。
 これは、描写不足というものとは違う。
 恐らく、プレイヤーのとっつき易さを考慮して、わざとバックボーンをボカした状態でスタートさせたのだろう。
 だから、当初ヤンガスすらも、トロデと主人公の素性を疑っている。
 こうする事で、後からプレイヤーが「主人公達の背景」を知るような流れになっていく。
 これは、ゲームとしてはとても面白い手法だと思う。


 ただし、これにより本作は「ラスボスを倒す」という目的意識以外に“物語の筋道”というものを持ってしまった。
 これはつまり、「トロデとミーティアの呪いを解き」「サザンビーク王家との約束を果たす」というストーリーベースの事だ。
 これが、(本作全体の物語としては)さほど重要な内容とは思えない感もあるため、なんとなく「物語の統一性に乏しいような」印象を抱かせる部分もある。
 結局、トロデの主観としては「サザンビークとの約束」を果たすために、その障害となる「ラスボスの存在」の打倒が必要だというものなのだ。
 これはこれで特に違和感はないが、見方を変えると「大規模な私闘」のようにも感じられ、従来のシリーズのような“比較的真っ当な目的意識を持っている”ゼシカなどと相反している。

 本作では話が進むごとに、世界各国の大勢の人が状況変化に怯えるようになる。
 つまり、進めば進めるほど「トロデ王家だけの問題では済まないこと」が実感できるわけだ。
 にも関わらず、主人公とトロデを見ていると、本当にそういう事態を踏まえているのか、不安に思えてくる。
 もう少し、事態の局面に対して全員の意識を集中させて欲しかったように思えてならない。

 ま、でもそれがトロデらしいとも言えるわけなんだけどさ。


●ボスキャラの存在意義

【警告!!】
この項目は、激しくネタバレです!
プレイ予定の人は避けて読む事を勧めます!!


 さて、本作のラスボス「ラプゾーン」について語ろう。

 本作のラスボスは、これまでのシリーズのような「存在感の薄い、取ってつけたような敵」という印象がなく、結構いい感じで作品内に君臨していた。
 DQ5のミルドラース、DQ6のデスタムーア、DQ7のオルゴデミーラの三体は、実際はそれなりに存在を誇示していたはずなのに、振り返るとほとんど記憶に残らず、その名前をまともに思い出す事すら難しいばかりか、どれがどのシリーズのボスだったかすら混乱してしまう場合がある。
 なぜかといえば、それぞれ実際の活躍に反して、プレイヤーへの「存在感の浸透度」が薄かったからだろう。
 事実、筆者の周りで上記三作をかなりやりこんだ知人にボス名を尋ねてみても、とっさに答えられないという場合が多かった。
 自分の手ではなく、部下達を活躍させて主人公達を妨害していたミルドラースや、「夢の世界」「はざまの世界」など複数の別世界空間を構築しながらも、名前以外の情報がまともに出てこないため、部下の一人に過ぎなかったムドーにすらインパクト負けしているデスタムーアなどは、明らかにアピールの方法を間違えていた。

 さすがに四作も「没個性ラスボス」を輩出する事を恐れたのか、本作ではなんとラスボス周辺の設定から考えられたそうで、その分、厚みのある設定になっている。

 過去に七人の賢者により封印され、肉体と精神に分けられ、肉体を聖地ゴルド、精神を「杖」に封入してトロデーン城の結界の間に封印するという入念さ。
 にも関わらず、これがたった一人の「小悪党」の行動により、バランスを崩すという「あっけなさ」。
 筆者は、このアンバランスさがとても絶妙だと思っている。
 封印を解いてしまうととてつもなく大変な事態になるというのに、現在封印の傍に居る者たちが誰もそれを自覚しきっておらず、そのために杖の魔力で生命活動を停止させられてしまうという皮肉さ。
 そして、杖の強奪者であり追いかけるべき悪党・ドルマゲスが、実は旅の通過点の一つに過ぎなかったという滑稽さ。
 杖を手にする者の身体を次々に乗っ取り、肉体の封印を解こうと暗躍する「ラプゾーン精神体」の活躍も見事で、途中何度も戦わせる事で、プレイヤーに「こいつが復活したらマジでヤバイ」という感覚を植え付けていく流れも、とても隙がない。
 完全体ではないとはいえ、最終戦に至るまでに四回もラスボスと戦わされるなんて、珍しいものだ。
 また、完全復活後も洒落にならないほどの大規模被害を巻き起こし、しかもその姿(正確には暗黒の結界)を広く一般人に見せ付けて恐怖感を与える凄さ。
 町によっては、すでに死を覚悟して最後の生活を営んでいる人々が居るほどになっている。
 その上で、大空に浮かぶ巨大な暗黒魔城を構え、あげくには城ごと主人公達に襲い掛かってくるとんでもなさ。
 過去のシリーズ同様、複数の形態を持ちながら、初期形態と最終形態の間をあえて広げ、その間にまったく別なイベントを挟み込むという演出も面白い。
 とどめに、最後はあの姿だ(笑)。
 これほどまでに、インパクトを放ちまくったラスボスというのも、なかなか居ないのではなかろうか。
 さりげに、DQ1以来の「実は物語の最初からずっと君臨し続けていたラスボス」だったラブゾーン。
 闇の遺跡内で、巨大な壁画に描かれていた姿はなかなか壮大で、この頃「どーせドルマゲスの後にまだ居るんだろ?」と推測しているだろうプレイヤーに、ちょっとした威嚇を行っているようにも思える。

 ただ、ここまでずば抜けたインパクトを持ちながら、実はものすごく弱い! 
というのは、別な意味で驚かされた。

 ラプゾーンは、ヘタしたらシリーズ中もっとも耐久力がない(という印象を与える)ラスボスだ。
 戦闘前に結界を解く作業がある上、攻撃力自体はそこそこあるので決して楽に戦えるわけではないのだが、テンションアップシステムのためか、意外にあっさり倒せてしまう。
 レベル40台中盤を超えていれば、多分ほぼ間違いなく倒せるだろうし、それ以上上げていれば実にあっさり勝ててしまう。
 筆者は、最初の戦闘時にたった七回の攻撃(テンションを上げない打撃含む)で倒してしまってひどく驚き、その後さらにレベルを上げたら、なんと、たった四回で沈んでしまった!!
 …さすがに、この時は主人公のレベルも65くらいになっていたが。

 なんというか、こちらが「よーし、そろそろトドメを刺して、一気に決めてやるぜ! うおおぉぉっっ!!!」とボルテージを上げ始めた途端、コロッと逝かれてしまうような雰囲気なのだ。
 もう少し、耐久力を上げても良かったんじゃないかな〜などと思うのは、きっと筆者だけではないと思う。
 せっかく、あれだけ強大な存在感を誇示したのだから、もうどうしようもないくらい倒しづらい敵、としても良かったように思える…というか、思わされてしまう。
 あくまで個人的な見解を述べさせていただければ、攻略推奨レベルをもっと上げても構わないから、いっそ耐久力を二〜三倍増にして欲しかった。
 …あ、でもその場合、あの「はたきつけ」だけは勘弁してほしいナリ(笑)。


 ラプゾーンの関連で、個人的に気に入っているのは「暗黒魔城都市」だ。
 暗黒魔城の中の最終エリア付近に設置されている、円周状回廊に立ち並ぶ「偽りの街並」が、先に進むごとにどんどん朽ち果てていき、あげくには死体を閉じ込めた牢獄の回廊に変化する。
 主人公達を惑わす以外、特に意味のない演出効果なのだが、それが独特の恐怖感を煽り、いい雰囲気をかもし出してくれる。
 得体の知れない敵の下に近づいているという実感がはっきりわかる、とても不気味嬉しい場面だった。

 でも、本当に好きなのは「DX魔城変形・暗黒の魔人ロボ」だというのは、ここだけのナイショ♪


●隠しイベント

【警告!!】
この項目は、激しくネタバレです!
プレイ予定の人は避けて読む事を勧めます!!


 さて、DQ5以降の定番となった「クリア後のお楽しみイベント」だが、今回はちょっと趣向が変わっており、エンディングになっても素性不明のままだった主人公にまつわる、一本のお話仕立てになっている。
 つまり、これまでのシリーズのような「単なる力試し」的な内容ではなく、きちんと一つのイベントとして成り立っているのだ。
 当然ラスボスもおり、これが事実上「最後の敵」となる。
 イベントの内容はあえて触れないでおくが、この最後の戦闘…「竜の試練」は、想像を絶する凄まじさだった。
 これに比べれば、ラプゾーンとの戦闘などお遊びに過ぎない。

 暴走した竜神王を倒し、正常に戻った彼より与えられる試練は、竜神王が化身した全八体のドラゴンとの死闘!
 これは、ラプゾーン戦で不満を感じたプレイヤーを満足させるどころか、もう結構と言わしめるほどの充実感(?)である。
 最低でも150以上、ヘタすると300ポイント台の通常攻撃が飛んでくる上、一気にスーパーハイテンション化した上で1000ポイントを超えるダメージをたたきつけて来たり、様々な種類のブレスを使いこなしたり、三回攻撃をしてきたり…スーパーハイテンション後の「かがやく息攻撃」は、食らったらもう最期。
 もはやココまで来ると、イオナズンを食らっても「ああ、この程度のダメージで済んだか」とホッとさせられてしまうほどだ。
 世界樹の葉や賢者の石だけでなく、不思議なタンバリンも絶対に必要になる。
 こんなとんでもない敵と通算八回も戦わなければならない試練もすごいが、実はその後、もう一度最初から始めて八連戦しないと出てこないという、「永遠の巨竜」なる者が居る。
 この域になると、もはやレベル70以上は必要になってくるだろう。
 それくらい過酷なロードが準備されている。
 この「永遠の巨竜」の存在に気付かなかった人も、結構居るのではないだろうか?
 ちなみに元締は、これに挑んで三連戦目でドジをこき、全滅してしまってからサジ投げ状態になっている。
 まあ、いつかやりますとも、ええ。
 つーか、倒しても何ももらえない(経験値すら!)と知って、益々やる気なくなっているんだけど(笑)。

 この巨竜戦、面白い事に、たった一人の相手が化身した姿であるにも関わらず、実にバリエーションに富んだ能力を発揮する。
 守備力が高い奴、耐久力が低い代わりに攻撃がえげつない奴、凍てつく波動を使わない奴、複数種のブレスを使い分ける奴、テンションアップマニア(笑)。
 戦う前にわざわざ全回復してくれるので、ギリギリの状態で竜神王の下にたどり着いても問題ないという素晴らしい対応。
 本当に、よくまあここまですごいイベントを……と思って、ふと考えた。
 でも、どうして竜神王の所にたどり着くまでに、わざわざこんな回りくどい道を巡らなきゃならないのだろうか、と。

 竜神族の村から竜神王の居る祭壇まで向かう過程は、ちょっと複雑な地形の迷路になっており、ここまでの中でも最強のモンスターがたむろしている。
 最強と言っても、聖なる巨竜と戦おうとする頃には、トヘロスで全部引っ込んでしまう程度の連中に過ぎないが、それでもHP4ケタクラスのトロルキングが居たり、ジゴスパークを使っても十数ポイントのダメージしか与えられないフェイスボールなど、始末に負えない奴らが居る。
 特に後者には、レベル60超えで全滅させられかけたという苦い経験がある。
 どちらにしても、油断はできないという事なのだ。

 だが、この複雑な地形とモンスターのあり方については、少々疑問を抱いてしまう。
 なぜ、もっとストレートに祭壇にたどり着けないのだろうか?
 そこまでの村人との会話から、竜神王は、なんとなく扉をくぐったちょっと先くらいに居るようなイメージを受けてしまうが、実際はかなりの時間彷徨わされる。
 地形の迷路も、ちょうどギリギリのところで先の道が見えなくなっているように工夫されているため、R4ボタンで視界をグルグル回しても、正解ルートが特定しづらい。
 そのため、余計なところを散々歩き回るハメになるが、これですっかりプレイヤーのテンションが下がってしまう。
 せめて、竜神王の下にたどり着くまでの道のりそのものも苦難であると、より強調してくれれば良かったのに…。

 万端の準備を整えて扉をくぐった途端、迷路が広がっているのを見て呆然としてしまった筆者だが、これと同じ気持ちになった人は、きっと居る……と思う。
 

 さて、今回はDQ8の魅力的なポイントに的を絞って書きたててみたが、実はかなり多くの問題点を抱えていたりもする。
 次回は、その問題点を抜き出して触れてみたいが、かなり深刻な問題ばかりなので、書き出してみたら相当な文章量になってしまった。

 本作を絶賛するファンの方には申し訳ないけど、次回はそういった「あまり嬉しくない点」を追求していきたい。


 ――ここであえて触れなかった「スキルアップ」「錬金釜」などが、それだ。


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