スーパー戦隊の秘密基地・地球署「特捜戦隊デカレンジャー」
 第3回 未だ見えぬ敵組織
鷹羽飛鳥
更新日:2004年6月6日
 そろそろ忘れた人もいるかと思いますが、ボスは1話から「デカの勘」として、巨大な犯罪組織が地球に魔の手を伸ばしているとの懸念を抱いていました。
 バンを加入させてデカレンジャーを5人揃えたのも、デカレンジャーロボの合体システムを完成させたのも、デカベースを変形・活動できるようにしたのも、全てはそれに対抗する準備です。


 ですが、放送開始から既に1クール以上経過しても、未だに敵組織というものがはっきり出てきません。


 一般にヒーロー物における敵組織は、“倒すべき敵”という求心力の源であり、組織対ヒーローとして戦闘図式を明確化・一元化する方便であり、組織力による強大感を出すバックボーンでもあるため、視聴者の興味を惹くのに重要なファクターです。
 『ウルトラマン』のように特定の敵がいない番組では、毎回登場する怪獣・宇宙人の出自や行動目的と能力、どうして倒さなければならないのかなどを本編の中で上手に説明しなければならないので、作劇が難しくなります。
 もちろん、その分、組織のある番組よりバラエティ豊かなストーリー展開やキャラを生み出せるわけです。
 また、『ウルトラセブン』のように毎回別の侵略者が登場する番組では、やはりそれが何者でどうして地球を狙うのかなどをその都度説明する必要があります。
 そうしないと、17話『地底Go!Go!Go!』ユートムのように“どうしてそこにいたのか、何をしていたのか、誰が作ったロボットなのか”全く分からないまま消化不良気味に終わることになってしまうのです。

 この点、敵が1つの組織であるならば、序盤で組織の大まかな目的を打ち出しておけば、その目的に向かう戦略の中で登場する怪人達は、既にヒーローと戦うのが当然という前提で始められるので、説明が楽になるわけですね。

 これは、どちらのやり方がいいかではなく、そういう面があるから、スーパー戦隊シリーズには伝統的に敵組織が存在するという方向性の話です。

 ラストに大きなうねりを持って盛り上げながら最終決戦に持ち込むためには、敵組織の本拠を探したり、幹部を1人ずつ倒したりといったハードルのクリアが重要な役目を果たします。
 また『電子戦隊デンジマン』以来、スーパー戦隊シリーズは終盤“敵組織の内紛”というドラマで盛り上げることが多く、そういう意味からも敵組織があると色々便利です。
 そんな中で、『デカレンジャー』では未だに明確な敵組織が登場していません。
 
 こういう例は、長いスーパー戦隊の歴史の中でも極めて稀で、ほかには『忍者戦隊カクレンジャー』しかありません。
 『カクレンジャー』では、2クールから幹部的なキャラ:貴公子ジュニアが登場し、敵方がある程度組織化していきましたが、初期1クールでは巷に蠢く妖怪1匹ずつを相手に戦いを展開していました。
 ただ、それでも敵には“妖怪”という統一感がありました。

 対して『デカレンジャー』では、敵怪人はアリエナイザー、敵ロボットは怪重機という名称で括られているものの、あの世界ではそれらは“異星人犯罪者”と“犯行に使われるロボット”というような意味の一般名詞であり、乱暴な言い方をすればアリエナイザーは“宇宙人”という以外に共通点がありません。
 一応、悪の組織は存在するようですが、登場するアリエナイザー達は、その組織の構成員というわけではありません。
 11話『プライド・スナイパー』に登場した殺し屋:ギガンテスも、組織から仕事を斡旋されただけで、フリーの殺し屋と思われます。
 今の所、明確に構成員と言えるのは、組織のエージェントであるアブレラだけのようです。
 しかも、アブレラが絡むにしても、手駒となるアンドロイドや怪重機を売ったり、殺し屋を斡旋したり、脱獄を手伝ったりといったやり方で、実際に犯罪行為をしているのは個々のアリエナイザーです。

 また、11話でギガンテスが失敗し、13話『ハイヌーン・ドッグファイト』でアブレラが依頼主のベン・Gから文句を言われたときに「保険が適用される」という言い方をしていることからすると、依頼に失敗した場合に別の方法で手助けするなどの保障をしてくれることもあるようです。
 つまり、アブレラが属する組織は、他人の犯罪に手を貸すことで利益を得るという死の商人なんですね。
 現実的に言うと、麻薬密売組織の卸元や武器商人みたいなもので、売った相手である密売人が捕まろうが死のうが痛くも痒くもないわけです。
 自分が表立って動かない以上、証拠を辿りにくく警察の捜査も及ばないわけで、大変おいしい仕事です。
 ましてや、代金後払いでさえなければ、依頼主が失敗しようがデリートされようが実入りはあるのです。
 15話『アンドロイド・ガール』では、メテウスがアブレラに「手伝うのか手伝わないのか」と札束をつきつけ、アブレラがそれを受け取るという描写がありましたから、先払いが基本と思われます。
 9話『ステイクアウト・トラブル』に登場したシェイクは、脱獄費用の催促を受けていたようですが、さすがに刑務所に入っている相手から前払いとはいかないでしょうから、「脱獄が成功すると同時に払ってもらう」という条件だったのでしょう。
 ベン・Gの文句の付け方は“高い金取ったくせに役立たずの殺し屋を斡旋しやがって”といった感じでしたから、先払いが基本なのでしょう。
 こう考えると、むしろ依頼主がデリートされた方が、組織としては嬉しいかもしれません。
 下手に逮捕されて組織のことを白状されてしまうと、自分達に火の粉が降りかかることになりますから。

 ボスの懸念という伏線もあることですし、どうやら今後、アブレラの背後にある組織が徐々に前面に出てくる展開になりそうですが、この手の組織というのは、前述のとおり闇に隠れてうまい汁だけ吸うのが基本であって、公権力にケンカを売るのは得策ではありません。
 例えばヤクザでも、警察官個人に恨みを晴らすならともかく、警察署にお礼参りするという話はあまり聞きませんね。
 初期ビデオ版の『機動警察パトレイバー』5〜6話『二課の一番長い日(前後編)』では、警視庁の建物をテログループが包囲するという緊迫した状況が描かれましたが、あれはそれこそ日本政府転覆を狙うクーデターでした。
 そのくらいの覚悟がなければ、公権力に対してケンカを売るのは難しいでしょう。

 アブレラの背後にある組織がどういうものにせよ、わざわざスペシャルポリスにちょっかいをかけるなら、上客を潰されたとか、組織に関わるとロクな目に遭わないと評判が立ってしまい信用問題になったなどの万難排してケンカを売る理由が必要でしょう。


 鷹羽的には、組織が正面切って名乗りを上げるのではなく、デカレンジャーの方で組織の存在を嗅ぎつけて肉薄していくという展開になってくれた方が刑事物っぽくていいなぁと思ってたりします。

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