「没企画」あれこれ 後藤夕貴
更新日:2004年4月23日
 長年こんな活動をやっていると、色々とバカげた事を考えるもので。
 過去に色々思いついて、結局没になってしまった「マンガのネタ」「小説のネタ」の中には、いまだに「出来るものならやってみたかった」というものがいくつかある。
 今回は、そんな“昔考えたバカネタ披露”のお話。


 以下は、すべて筆者が同人誌媒体をメインに活動していた頃の話である。
 某有名時代劇シリーズに長年どっぷりと浸かっていた筆者達の間で、「何かバカなネタでマンガ描かないか」という話が出た。
 その時の活動方針の関係でベースはもちろん時代劇になるのだが、時代劇と言ってもメジャーマイナー色々とある。
 とりあえず、読んだ人間のほとんどがわかってくれるものをという事でテーマに挙げられたのが、「遠山の金さん」だった。

 一応、簡単に「遠山の金さん」を説明しておこう。

 北町奉行・遠山金四郎(遠山左衛門尉景元)は、普段は粋な遊び人・金さんに扮して市井に紛れ、取り締まる側からではなく一般人の見地から悪人と対峙・戦い、最後は本来の姿で悪人達に裁きを下すというフォーマットの作品だ。
 罪状に対してシラを切り続ける悪人に対し、その悪事を直接見ているところのお奉行様が、突然ブチ切れて(笑)背中のイレズミ“桜吹雪”を晒し、悪人達を沈黙させるという場面がカタルシスだ。
 なぜかっていうと、遊び人の金さんとして戦っている時も、そのイレズミを見せているから。
 自分を裁いている相手が一番の目撃者な訳だから、当然相手は何も言えないという図式。
 「水戸黄門」とはまた違った“説得力”を以って悪人をギャフンと言わせるプロセス、なかなかよく考えられていると思う。

 ところが一口に「遠山の金さん」と言っても色々あり、その都度別々な役者が演じてきた訳で、演出方針や金さん以外のキャストに多くのバリエーションがある。
 タイトルにしても、「遠山の金さん捕物帳」「ご存知遠山の金さん」「ご存じ金さん捕物帳」「遠山の金さんII」「名奉行・遠山の金さん」など色々ある。
 テレビ朝日で放映していた、いわゆる「遠山の金さんシリーズ」と称されている物は、6名もの大物役者がそれぞれの特色を活かした金さんを演じていた。

 ――で。

 これらを題材に考え出されたネタが


 「遠山の金さん大集合」

 そりゃいったいどんな内容か? というと、おおまかにはこんな感じ。


 これまで多くの罪人を裁いてきた遠山の金さんにも、最大のピンチが訪れていた。
 南蛮の技術を用いた武器を売りさばく死の商人が、ヨーロッパの武器商人と組んで「江戸の征服」を企む。
 次々に襲い来る刺客軍団によって、一方的に倒されていく金さん(六代目・松方弘樹)の身近な人々。
 轟沢庵、おこうや水木新吾などもすべて死に絶え、なんとか捕らえた敵の刺客達も外人のため、お白州の場での「桜吹雪」の効果がまったくない!
 敵は、江戸征服の最大の障害となる遠山金四郎を先に亡き者にしようとしているのだ。

 金さん一人の力では足りない。
 江戸幕府最大の敵の前に、ついに遠山金四郎の名を持つ者達を束ねる総元締・片岡千恵蔵が動き出す。
 彼の命により、過去に活躍していた「遠山の金さん」全員が、北町奉行所に集められる。

 初代・中村梅之助
 二代目・市川団四郎
 三代目・橋幸夫
 四代目・杉良太郎
 五代目・高橋英樹


 もちろん、三代目の花札も五代目の手ぬぐいも健在。
 さらに五代目は「花吹雪抜刀流」までオマケに身につけてきた。
 江戸の町で刺客と対峙する、6人の金さん!

 そしてついにお白州へ引かれる敵の総大将。
 しかし、奴の「超・身に覚えがありませんねェ」「超・そこまで言うならその金さんとやらを出してください」防御には、北町奉行六人がかりでも歯が立たない。
 六つ並んだ桜吹雪にも、まったく動じない。
 六人の金さんでも倒せない敵…パワーが足りないのか?!
 と、そこに颯爽と登場する“七人目の金さん”!!(←屋根の上)
 
 「江戸を斬る」シリーズの遠山金四郎(西郷輝彦)までが駆け付けてくれたのだ!

 七人の金さんの桜吹雪から発する強烈な閃光は、敵の総大将も刺客達もまとめて吹き飛ばしてしまう!
 猛烈な爆音に包まれるお白州の場!
 爆風が消え去った時、そこには勝利の朝日に映える六人の金さんの勇姿があった。
 ――そう、西郷金さんは役目を終えると人知れず姿を消すのであった。
 

 …え、なんでそーなるのかって?
 夜中にお取調べするなって?
 やだなあ、同人誌ですよ同人誌!
 金さんが何人出てこようが、江戸征服なんてどこぞのB級時代劇特撮みたいな事してようが、いいじゃないの♪
 あれだけやばい立場に立たされながらも、事件が解決したらいけしゃあしゃあと奉行所勤めに戻れた「必殺!III裏か表か」の中村主水よりはなんぼもマシだってば(笑)。


 とにかく、これは結構良い所まで話が進み、いざ描こうという時点まで進んだ時、突如として判明した致命的な問題のために、あえなく没になってしまったのだ。

 「役者全員の顔、描けるの?」

 これは筆者が描く前提で進んだ企画ではなかったが、そのメンツの中に写実的な絵を描ける者が誰もいなかったのだ。
 こういう内容だから、デフォルメした絵では意味がなく、一目で役者が判別できる絵柄でなければ意味がない。
 という訳で、同様のプロセスで考えられた「栄光の三人銭形平次」も没になった。
 「技の長谷川(一夫)」「力の市川(雷蔵)」の特性を持ち、家族の仇を取るために自ら銭形平次化を申し出た「風間(杜夫)」が、26の力を駆使して悪と戦うという物だったのだが…大変残念だった。

 
 それから数年後。
 また別なメンツと考え出したのが、「パーマン」のパロディだった。
 時おりしも、1989年。
 そう、ティム・バートンの「バットマン」が大人気公開されたあの年。
 スーパーマンの星から訓練を受けて地球に帰ってきた須羽ミツ夫が、最新型のパーマンスーツを使用し、街にはびこる悪を倒していくというダークヒーロー物。
 マスクの目は鋭くなり、色もダークカラーになり、マントも大型化。
 でも、その下は当然半袖半ズボンだ。

 「皆に俺の事を話せ」
 「あんた、誰?!」
 「――パーマンだ」

 悪人に絶対的な恐怖感を植え付け、夜の街に舞う孤高のヒーロー・パーマンに敵対するのは、元ギャングで、廃液工場落下事故の時に受けた手術が失敗し、いつも笑っているような顔になってしまった狂犯罪者・喪黒福蔵。
 彼は「黒イせぇるすまん」を名乗り、恐るべき作戦でパーマンに挑戦する。

「喪黒福蔵は死んだよ…」
「今日から私は、黒イせぇるすまんですよ〜〜!」
「見なさい、ハッピーな笑顔でしょう? …ド―――ン!!

 疾走するパーモービル、空を飛ぶパーウィングなどの超装備を駆り、東京タワーにて「黒イせぇるすまん」と対峙するパーマン!
 もちろん、パーウィングはせぇるすまんの新兵器・懐から出てきた「やたら長い指」のドーンで墜落するんだけど。


 …こんなもん、誰も描けないという事であっさり没になったんだよねえ。
 「パーマンリターンズ」では、「パラソルへんべぇ」と「エスパー魔美」が敵の予定だったんだけど(笑)。

 ちなみに上記のセリフは、日本語吹き替え版からの引用で、実際に使われていたもののパロディ。
 この吹き替え版、バットマンは渡辺裕之氏、ジョーカーはデーモン小暮閣下が演じていたのだが、テレビ放映時のジョーカーの声優は、なんと「大平透」氏!
 言うまでもなく、氏はアニメ版「笑ウせぇるすまん」にて喪黒福蔵を演じていた事がある。
 この意外なシンクロニティに、筆者は苦笑を禁じえなかったものだ。


 そんなバカなネタを考えていて、しばらくしてから世間に広まったのが「ドラえもんの最終回」という都市伝説。
 いわゆる“実は昏睡状態ののび太が見ている夢だった”とかいう、アレ。
 これに触発され、「では、真の最終回を…長年続いたドラえもんに相応しい、大規模な最終回を考えようじゃないか」という事でネタをまとめ始めた我々が次に作り出した企画が、


 「さらばドラえもん」
※“さよなら〜”ではない所に注意


 ドラえもんが野比家にやって来て随分時間が経った。
 いつものような日常生活…しかし、それを崩壊させるべく虎視眈々と機会を狙っている存在がいた。

 ガチャ子

 ドラえもんと同じく未来の世界から来た筈の彼女は、やがてセワシによってお払い箱にされ、未来の世界のジャンクエリアに廃棄されていたのだ。
 だが、同じようなポンコツのくせにうまく生活になじんでいるドラえもんへの恨みを抱いたガチャ子は、不屈の精神力で復活!
 ジャンクパーツで全身を強化し、現代の世界へとやってくる。
 自らのひみつ道具を駆使して、「ドラえもんの生活」をすべて破壊してしまおうというのだ
 そう、幸福な生活を安穏と送っているドラえもんとのび太に、精神的苦痛を与えるために…。

 「スモールライト」によって小型化されたパパとママを人質に、ドラえもんとのび太に戦線布告するガチャ子。
 「どくさいスイッチ」によって、周りの親しい人々との接触を断たれ孤立していくのび太達。
 しかし、ジャイアンやスネ夫・しずか達は、「のび太はダメ旅行」に行っていたために難を逃れていた。
 映画の時のように、一致団結する5人。
 だがガチャ子は、そんな彼らをさらに追い詰めるために、自らを頂点とした「組織」を編成。
 「地球破壊爆弾」を盾に手に入れた絶大な権力を用い、のび太とドラえもんをじわりじわりと苦しめるための作戦を決行した。

 のび太の前に姿を現す敵の刺客は、「オヤジ坊太郎」「仮面太郎」「フータくん」などをはじめとする強敵!
 特に「プロゴルファー猿」の旗包みをその身に受けたジャイアンは、瀕死の重傷を追ってしまう。

 さらに「マボロシ変太夫」「怪人わかとの」「仙べえ」「さすらいくん」「毛の生えた楽器(笑)などの猛攻が続き、ドラえもんのひみつ道具単体の力ではとても敵わなくなり、道具同士の掛け合わせで新しい使い道を見つけて対峙していくしかなくなってしまう。
 だが、それらは特殊能力を持つ七戦神部隊「黒べぇ」「黒イせぇるすまん」「ブラック商会変奇郎」「ウルトラB」「チンタラ神ちゃん」「忍者ハットリくん」「怪物太郎」によって押さえこまれ、スネ夫の自己犠牲も虚しく、あらゆる力を奪い取られてしまった。
 さらには「スリーZメン」「シルバークロス」などのガチャ子親衛部隊の存在も発覚。
 事態は益々深刻化していった。

 心理的に磨耗し、いつも以上の弱音を吐くのび太と、すでにそれを支える気力も尽きかけているドラえもん。
 だが、そんな彼らに力を貸す者達が現れた。
 ガチャ子の支配を唯一逃れた「魔太郎」は、「ミスターX」の組織に協力を依頼し、ガチャ子の洗脳を受けていない味方を集め、独自の抵抗勢力を作り出していたのだ。
 また「セワシ」「ドラミ」もやってきて、多くの仲間を募るために尽力する。
 その結果、「パーマン軍団」「海の王子」「ろぼけっと」「ウメ星デンカ」「キテレツ」「コロ助」「ぼん」「21エモン」「モンガー」「ゴンスケ(彼らはぼんがタイムマシンで無理矢理拉致)」「モジャ公」「ウルトラスーパーデラックスマン」「みきお」「ミキオ」「魔美」「左江内氏」などが力を貸し、さらに「ピー助」「ロップルくん」「チャミー」までコーヤコーヤ星から駆け付けてくれた。
 しかもパーマン一号は、バード星から帰ってきた成長後の須羽ミツ夫
 すでに2号は寿命でいなくなっていたが、あの星野スミレが、久しぶりにパー子の姿で戦いに趣いてくれた。
 一気に気力と戦力を取り戻すドラえもん陣営。
 二大勢力の対立により廃墟と化した帝都・東京で最後の決戦が始まろうとしていた。

 その頃、ガチャ子の陣営中枢部に忍びこんだ「バケルくん」は、ミニマム化されたのび太のパパとママが、すでに亡き者にされていたという衝撃の事実を掴む。
 悲しみと怒りに震えるのび太は、それまで持っていたドリームガンを出力最大のショックガンに持ち替え、自らの最強の力・射的を用いて、刺客達を次々にスナイプしていく。
 スネ夫を失ったジャイアンも、のび太の勇気に感激して、傷を押さえつつ出陣。
 共に連れ立ったロップルくんをかばい、敵陣中枢部で立ち往生で果てる。
 しずかは、海底から回収されたバギーのメインメモリーチップを搭載して復活したバギーと共にかく乱作戦に赴くが、精鋭・スリーZメンとシルバークロス達に見抜かれ、壮絶な爆死を遂げる。
 多大な犠牲を出しつつも、ドラえもんのひらりマントとのび太のスナイプによって、多くの刺客が倒されていく。
 そして、戦いはさらに急展開へ!!

 魔太郎対変奇郎の超魔力決戦、潜在記憶を呼び起こして発明をしつつ新兵器開発に取り組むキテレツと、それに精神的圧迫を加える喪黒福蔵の対決、魔術で攻めてくる黒べぇに対して、遅れて掛けつけた「ジャングル黒べえ」のウラウラベッカンコ決戦、変幻自在の仮面太郎と、同じく無数の姿を使い分けるバケルくん対決、そして一方で、タイムトンネルを利用して未来の世界で「ガチャ子」の弱点を調査するミキオ達……
 パーマン軍団は、ついにシルバークロス達を退けるが、スリーZメンの力に翻弄される。
 さらにハットリくん、怪物くんなどの生き残り七戦神も姿を現し、事態は最悪のものに。
 ゴンスケ、ろぼけっと、左江内氏、ウルトラスーパーデラックスマンなどの超パワーを借りてなんとか乗り切るものの、唯一生き残ったパーマン一号も、ガチャ子自身のタイムふろしきで戦力を奪われた上、正体を知られてしまったためにバードマンの手によって「パー」にされてしまう

 お互いの戦力が共に尽きようとしている頃、ついにガチャ子とのび太・ドラえもんが対面する。
 懐かしい筈の顔合わせだったが、もはやお互いの間には憎悪しかない。
 東京タワー地下に埋蔵した「地球破壊爆弾」の発動を阻止するため、のび太とドラえもんは死力を尽くして戦う!
 だが、爆弾のスイッチはガチャ子の機能が停止すると同時に作動するようにセットされていたのだ。
 ガチャ子の頭を貫くのび太の銃弾……地球破壊爆弾は作動を開始してしまった!


 その時、暗雲の向こうから眩しい光が降り注いだ。
 光によって、その機能を停止し、崩れさる爆弾。
 奇跡のパワーによって、次々に甦る勇者達、そして心の友達。
 天空からの光は、優しくのび太達に囁きかけた。

「この地を滅ぼそうとする者は排除しました。ですが、それはドラえもん…本来この時代の者ではないあなたが長い間存在し過ぎたため、因果律に影響を与えてしまったのが原因です。この世界の平和を願うのであれば、あなたは本来の世界に戻りなさい」


 自分がここに留まれば、またいつかこのような戦いが起こるかもしれない…
 天空の神の声に意思を固めたドラえもんは、未来の世界へ帰る事を決める。
 自らの存在が招いた災厄が、また再びこの現代に訪れないように。
 のび太達に永遠の別れを告げ、奇跡的に残っていたのび太の机から未来の世界へ帰るドラえもん達。
 それを見送るのび太は、もう涙を流さないほどに逞しく成長していた。


のび太「(天の光を見上げ)神様! あなたは、どうして僕達を助けてくれたのですか?」
???「それは、私もあなたのピンチに駆け付けた味方だからです…」
のび太「味方? あ、あなたは一体…?!」


???「――私の名は、The God “Q”――」



 ――結局、誰も描けないような凄まじい内容に発展してしまった(笑)。 
 これ描くために、いったいどれくらい藤子不二雄の作品集めなければならないというのか!
 ましてやプレミアつきまくりの作品もあるものだから、予算がいくらあっても足りない!

 …という訳で、これは最も壮絶な展開を考案しつつ、豪快に没を食らった次第。
 本当は「ガチャ子」ではなく、廃棄された“ドラえもんと同型のジャンクロボット”だったのだけど、その後ガチャ子の事を知ったのでこれ幸いと入れ替えてみた次第。


 ……やらなくて正解だった……


 ここまで書いていて、あらためて「こんなもの考えているヒマがあったらもっと別な事に労力を使うべきだ」という事を、まじまじと実感させられてしまった。
 そういう人生勉強をしたと思えば、これら没企画もまんざら無駄ではなかったという事だろうか?!


 いや、絶対無駄だったに違いない!(笑)


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