Natural ZERO+ 〜はじまりと終わりの場所で〜
 プレイ終了:2002年10月27日。


 かつて、これの前作にあたる「Natural2 〜duo〜」にて散々酷い目に遭った筆者は、発売直後に購入してはいたものの、その時の辛さのために長期間封印していたのだった(なら買うな)。
 そして、久方ぶりに封印を解かれたその作品の評価は…


1.メーカー名:F&C
2.ジャンル:スケジュール先行決定型マルチADV&オマケ集
3.ストーリー完成度:D
4.H度:このシリーズには珍しくD
5.オススメ度:意外と前作・前々作との繋がりがないので、シリーズを知っている人もそうでない人も「C」くらいかと。
6.攻略難易度:なんかちょっとややこしく、C
7.その他:途切れまくりの音楽だけは、何とかして欲しかった…


(ストーリー)
 主人公・桜羽章吾(名前のみ変更可)は、唯一の家族であり最愛の存在だった妹・吉野を失い、失意の底にある官能小説家。
 あまりに落ち込み続けているため、連載先の編集長・柴崎彩音(Natural2と同一人物)は気分を変えさせようと、彼に新しい仕事を与え、さらにまったく違う環境に缶詰状態にしてしまう。
 そこは、もうまもなく取り壊される古い旧式のアパート。
 ここで、取り壊しが始まる直前までの10日間を過ごす事になる。
 そこには、監視役兼世話係兼管理人である、1人の少女がいた。
 名前は、柴崎鞠乃。彩音の実の妹である。
 彼女と、彼女の飼っている5匹の猫達に囲まれた、賑やかで明るい日々が始まる。
 
 しかし…どんなに環境が変わっても章吾の心の傷は癒される訳ではなく、またどんなに幸福であっても、10日後にはすべてがなくなってしまう。
 そんな複雑な心境の中、仕事に追われながら、鞠乃との不思議な日常が過ぎ去っていく…


 という訳で、当初やる予定だったタイトルがプレイ不可能になってしまったため、締め切りに追われてやむなく選択したこの一本は、このレビューが書かれる約2年前に発売されたタイトルだったりする。
 ちょうど、このレビューの一つ前にアップされた「顔のない月」と同時期販売だったから、ホントに古いタイトルだ。
 …って、書き方悪いけど、決して「イコール酷い作品」という評価をしている訳ではないので念のため。

 さすがはF&Cというべきか、システムやシナリオ的な要素から、古臭さはまったく感じなかった。
 洗練された物は、2〜3年程度の時間など問題にならないという事だろうか。
 そういった事からも、システム面についてはほとんど文句がない、安定した素晴らしい環境だった事をまずあげておきたい。

 さて、このタイトル「Natural ZERO+」は、シリーズ的にもちょっと変わった位置づけにある作品だ。
 2つの構成に区分されており、前2作と比較するとかなり規模が小さいADVゲームと、すべてのシリーズを対象とした壁紙・ボイスコレクション・ミニシナリオ等が詰め込まれたアクセサリー集がメインである。
 アクセサリー集の一部の項目は、ゲーム本編の進行度によって展開するものだったり、後述するミニシナリオはゲーム本編内でも見聞可能だったりする。
 シナリオの規模は小さくなったとはいえ、他作品と比較すればかなり遊べるレベルなので、決してオマケ程度に堕しておらず、またアクセサリーも非常に盛り沢山なので、シリーズのファンにとっては大変おトクなのではないかと考える。
 もっとも…ボイスコレクションだけは「セリフがあまりに長すぎ」「半分はキャラクターパスワードを入力しないと選択出来ない」という余計な要素があったりするんだが…

 ゲームの方は、エンディング数を総合5種類程度に留め、途中経過の展開もさほど多くのバリエーションを持たせず、最小限度の変化で展開を切り替えるようにしており、ちょっと予想外なくらいにシンプルだ。
 だが、ちゃんとシリーズ特有の「スケジュール」「調教」選択のシステムは継承されており、ビジュアル的にも大変面白い作りとなった。

 今回の、主人公の犠牲者(笑)は管理人代理の鞠乃で、シリーズ初の「兄と呼ばないメインヒロイン」だったりする(もっとも、ハッピーエンド付近でちょっとだけ呼ぶ事はあるが…)。
 前作で柴崎彩音の性質を理解していた人・嫌いだった人は、事前紹介などで「彩音の妹」と紹介されていた事にかなりためらいを感じたりしたのではないだろうか? なんて勝手に想像していたりする。
 筆者も、当初そのキャラデザから「彩音とかの子を足して2で割ったような性質のキャラかな?」という何の根拠もない想像をしており、そのためにかなりの懸念を抱いていた。
 だが、実際にプレイしてみると…彩音とは全然違うキャラなんだなぁ、これが。
 何事も偏見を持ってかかってはいかんという事を、あらためて教えられましたとも、ええ。
 とにかく、鞠乃というキャラクターは大変魅力的に描かれている。
 自身はかなり不幸な生い立ちを経験しているにも関わらず、接する人には常に優しさを忘れず、出来る限り尽くそうと努力する。
 たとえそれが大失敗に繋がったとしても、いずれ完全に成し遂げてみせるという強い信念も持ち合わせているため、決してくじけない。
 デフォルトがダウナーな状態である主人公の対極に位置するキャラだから、というのはよくわかるのだが、とにかく見ていて大変ほほえましく、活き活きと動き回っている事が感じられて好感度が高い。
 アパートに沢山の猫を飼っている理由と、それにまつわる自身の考え方などは大変説得力のあるセリフで綴られており、鞠乃というキャラクターをうまく浮き彫りにしている。
 また、優しさから来る精神的な迷いや躊躇いなどの描写も大変丁寧で、それらは鬼畜シナリオに移行していてもしっかりこだわっていたりする。
 好感度が低い状態(つまり事実上の攻略失敗過程)でも、あまり主人公を嫌っているような態度をとらず、どう転んだとしても最後には救いを与るという結末が用意されているのは、とても嬉しい事かもしれない。
 なにせ、好感度に関係なく「夜中目を覚ましたら主人公がいなくて、不安になって泣き出してしまった」なんて展開をやられたひにゃ…ねえ♪
 とにかく、すべての要素がプラスに作用している、素晴らしい演出で彩られたヒロインなのだ。
 だからこそ、環シナリオエンディングで見せる自我を崩壊させてしまったような表情が、とても痛々しい。
 そしてそれが、シナリオの結末の陰惨さを強調しているのだと言えよう。

 このゲームがあまり気に入らなかったという人でも、鞠乃そのものに嫌悪感を抱くという人はあんまりいないんじゃないかな…と思わせる程だ。
 もっとも、諸設定はかなりベタベタにマンガチックなもので現実味がないから、そういう部分が気に入らないという人もいるかもしれないね。
 個人的には、これまで登場したメインヒロイン格のキャラの中ではダントツで気に入ってたりする。
 妹萌え的要素は意外と少ない感があるが、こういう前向きなキャラクターは良い! …と、思う(笑)。
 
 だが…彼女はいったいいくつの設定だったのだろう?
 どーせご時世がご時世だから18歳以上という事にはなっているんだろうけど、身長143センチにバストサイズ67センチというあまりにミニマムな体躯にある外見・仕草…どう考えても○学生…だよ、なあ…。
 7月初頭なのにがっこ行ってないけど(笑)。


 さて、そんな良いトコずくめに思える鞠乃だが、実はちょっとした不穏要素が降り掛かっていたりもする。
 ちなみに、行動が破綻しているとか設定と矛盾しているとかそういう事ではない。
 すべて外因…てっとり早く言ってしまえば「他ヒロイン」の存在が災いしているのだ。

 まず、主人公の実の妹の吉野
 シナリオスタート時にはすでに死亡しているというキャラクターだが、本編中では主人公の回想シーンにのみ登場する。
 しかし…こいつがまぁ、出番が少ない割にオイシイ所を全部まとめてかっさらってしまっているのだ。
 
・主人公とは相思相愛。たった二人きりの家族
・お互いに、“兄妹”という柵がなければいつ抱いても・抱かれてもおかしくないという精神的状況
・将来、兄と一緒の仕事をしたいから、そのために絵を描きたい…のに、病気のため視力が低下
・それなのに、桜の木の下で、一瞬だけ奇跡的に視力回復(主人公の顔と桜が見える)
・「いつか、一緒に暮らそう」という、彼らにとっての“プロポーズに等しい”言葉が交わされており、了承している
・主人公が、婚約指輪に相当するものとしておもちゃの指輪をプレゼントし、吉野感涙
・吉野の身体を拭いてやるシーン有り(しかも、背中と下着だけで前面はまったく見せない)
・回想が進むたびに弱り続けていく

 
 そういえば、流行ったよなぁ、この時期ってこういうのが…(梨瀬成・談)

 …こんな事をやった上で、メインヒロインも言ってくれない「お兄ちゃん」呼称が付いてくるのだから、もうそのスジの人達にはたまらないものがあるだろう
 また、昔から言われているように(古くは「めぞん一刻」の響子さんの前夫・惣一郎とか)、「思い出だけ残して死んでしまった人間には、ほとんど太刀打ちできない」というものがある。
 つまり、主人公の中にこれだけおいしい要素盛り沢山の吉野がいたら、鞠乃がどんなに自己アピールしたとしても、敵わないのではないだろうか? という事だ。
 実際、主人公は最後まで吉野の事を引きずり続けた上で、ラストの選択を決定する。
 それって、見方をちょっと変えれば鞠乃は添え物程度の存在にすぎない、とも解釈できてしまう。
 どんなに鞠乃が頑張っても、この吉野という存在に塗りつぶされてしまったプレイヤーにとって彼女は微々たる存在に感じられてしまうという懸念があり、決してそれは的外れではないと感じるのだ。
 ものによっては大変良い味わいになっている部分もあるので一概に否定はしないが、この吉野という存在だけは、ちょっとやりすぎだったんじゃないかな〜、と感じるのだ。
 ちなみに、筆者は「(この後に触れる)エンディングで吉野が大っ嫌い」になってしまったタチなので、この呪縛には捕らわれていない。


 吉野関連では、もう一つの不穏要素がある。
 なんでも一部では「感動のエンディング」と呼ばれていたらしい吉野エンドだが、筆者にはこれはどう考えても“バッドエンド”の一端にしか感じられないのだ
 すでに死んだ筈の吉野が最後の選択肢で突然蘇り、そこまで実質的には登場していなかったにも関わらず専用エンディング画面が出て来てしまうというものだが、ここでは主人公は、望み通り最愛の人間との幸福な生活を叶える事が出来てめでたしめでたし…という結果になる。
 だが、こんな不条理な展開にしてしまった代償に、問題が山積みになってしまっている。
 どうやらこれは「吉野を想う気持ちの果てに見た夢と、現実世界をそっくりそのまま入れ替えてしまった」という“奇跡”が起こった…といったテイストらしいが、つまりは、そこまでの鞠乃とのやりとりや環との仕事の打ち合わせ、彩音の根回しなどがすべて無に帰してしまうという事になる
 ましてや、鞠乃などはこの最終選択肢の直前に感極まって主人公と結ばれているにも関わらず、最終的に“主人公達に飼われている猫”にされてしまう(現実世界の鞠乃は、夢の世界だと猫だったという事…?)。

 これを、バッドエンドと言わずしてなんだというのだ。

 吉野シナリオでは、なるべく他のヒロインのポイントを稼がないように進行させ、Hシーンも鞠乃との必須のものだけしか経過してはならず、いわば“一番変化に乏しい”ともいえる選択肢を選び続けなければならない。
 それはイコール「吉野に操を立て続ける」とも言える行為…のつもりなのか知らないが、他のシナリオにも利用されるテキストの使い回しもあり、この場合の主人公は「立ち直りたいのか、吉野への想いを持ち続けてダウナー気分を維持したいのか」、いったいどっちが望みなのかものすごく不明瞭になってしまう。
 他のシナリオでは、すでに死んでしまった吉野という絶対的な存在を踏まえた上であらたな生活に踏み切ろうという決意が感じられて、ものすごく納得できるものがあるというのに…歯切れが悪い。
 なんとなく筆者には、“吉野攻略を目指しているというより、いつまでもイジイジし続けた結果に吉野が蘇った”ようにしか感じられないのだ。
 ましてや、そういう話として見ると、自分の妄想世界に没頭する事を選択し、すべての現実を突如として否定してしまった…かのようにも解釈できてしまう。
 やはり、一度死んだ人間は不用意に蘇生させるものではない。
 最後に優しく振り返る吉野の姿と、猫になった鞠乃の鳴き声は、筆者にとって背筋に冷や汗モノの陰惨な場面に映った。


 さて、主人公はこのシリーズの中でもちょっと特異な存在として描かれている。
 Iの時の春彦、IIの翔馬と比べて、章吾は「ですます口調」「感情の起伏があまりない」「内向的」という特徴が目立つ。
 先に鞠乃の対極に位置する存在と記したが、あらゆる面において彼女と正反対の要素を持ってきているのだ。
 がんばってはいるものの、家事が苦手な鞠乃に対して、意外に器用になんでもこなしてしまう主人公…肉親がいるにも関わらず、その関係がものすごく希薄で本来家族ではない人達のもとで親愛を得た鞠乃と、最愛の肉親を失ってしまい、すべてに絶望していた主人公…。
 この対比が終始一貫されて描かれていたため、両者の人間的な関係構築は大変納得できるものがあった。
 個人的には、こういう「ですます系」主人公は好きではないのだが、この作品に至っては、これで良かったのではないだろうか。

 だが、そういう基本的な部分がしっかり構築されていた反面、鬼畜モードともいえる(おなじみの)調教シナリオになると、壮絶な違和感が爆発する
 鞠乃奴隷化に至る一番最初の選択肢までは、まだわからなくもないのだが、「二度と相手を失わないで済むという保証が欲しい=奴隷化」という図式は、かなり困惑させられるものがある。
 ましてや鞠乃は、お世話になっている編集長の肉親なのだから、(彩音がそういう方面に理解がある人間だとはいえ)少しはそういう部分への躊躇いがあってもいい筈なのに、それがまったく忘れ去られてしまっていたりするのも困る。
 まあ、この思考パターンはナチュラルシリーズすべてに一環して存在するようなテイストなので、それがそのまま鞠乃にも適用されたと解釈すべきなのかもしれないが、ゲームシステム的なお約束として受け取るにしても、ちょっと参ってしまうのだ。
 とにかく、主人公には春彦や翔馬のような「いつ鬼畜に走っても納得できる」要素がほとんどない…否、皆無と言い切ってもいいだろう。
 翔馬は、かつて彩音との関係で鬼畜系な趣味を育む生活を経験しているので、いつ千紗都や空に鬼畜を働いても納得できる素地があった。
 春彦は環境こそなかったものの、性格的にそういうサディスティックな部分が内包されているような雰囲気はあったし、強引な部分もあるという事はしっかり描写されていた。
 だが、ここまで述べてきた通り、章吾にはそういったものがまったくない。
 もちろん過去の生活態度が100%描かれていた訳ではないが、アパートに住むまでの行程だけを見せられると“とてもこんな凶行に走る人物とは考えられない”という印象しか出てこないのだ。
 これはある意味では、「官能小説を書いている割には淡白な印象」を与えてしまった脚本の失敗なのかもわからない。
 環に至っては「そういう選択肢が出てくる事そのものには違和感がない」ものの、やはり主人公がやっているのか…と思うと、何かしら言いたくなってしまうのだ。
 まあ、環シナリオは実質的なバッドエンドルートとしてしか存在していないものだからそれでも構わないのかもしれない。
 だが、鞠乃奴隷化の結末は「主人公の新居で、鞠乃が先に待っていた」という意外に普通なもので、「こういう結末なら、別に奴隷にしなくったっていいじゃん」という程度のものだ。
 事実、先の吉野シナリオで現実にこだわる選択肢を選ぶと、これと同じエンディングになるのだ。
 それってつまり…奴隷化の結末は…雅史エンドと同じって事っスかぁ?!
 なんかこう…思い切りが足りないような気がするんだよなあ…


 さて、この作品のもう一つの売りとも言える「ミニシナリオ・おまけシナリオ」についても触れておこう。
 ちなみに、「ミニシナリオ」と「おまけシナリオ」は似た表現だが存在意義がまったく違う別物なので注意。
 前者は、ゲーム本編中に環との新連載用プロットの打ち合わせネタとして出てくるもので、「どこで(WHERE)」「誰が(WHO)」「何を(WHAT)」という3種類のカテゴリから特定のパターンを選び出し、それに応じたショートシナリオを見るというものだ。
 IとIIに登場したヒロイン12人を中心とした、完全に本編内容から遊離した「作り話」とされており、選択肢もなくあっという間に終わってしまう程度のものだが、その数なんと全部で24パターンもあり(最初は12パターンのみ)、驚かされる。
 しかし、いずれも取り立てて評価するようなものではなく…強いて上げれば「ラジオドラマのみのヒロインまで引っぱり出して頭数揃えるってのはどーかと思うけどなぁ」くらいのコメントしか出てこない。困ったモンだ。
 多分、前2作に思い入れがある人達にとっても、これはあまり嬉しくない内容だったのではないだろうか?
 唯一、Iの万里子(千歳の姉で春彦の元彼女)の出会いと別れのシーンがあってそこそこ注目させてはくれるものの、短すぎて「つき合うきっかけ」もわからなければ「別れた理由」についても不明瞭なままになっていて、結局意味が見いだせない。
 しかし、万里子は春彦に一方的に振られた…とも取れる展開で描かれていたけど、I本編でもそんな展開だったっけ? <うろ覚え

 また、このミニシナリオは本編中に見ると「ストーリーの流れを分断される」という嬉しくない効果まで付いてくる。
 本編中は適当に流し、おまけもーどの「桃缶(ミニシナリオ閲覧コーナー)」で個別に楽しんだ方がよさそうに感じる。

 一方「おまけシナリオ」だが、これはアクセサリーパートの中にあるキャラクタープロフィール内に隠されたポイントを開く事で見る事が出来るというもので、「Natural2」舞台のものが2本、ミニシナリオ万里子編の3本目の計3本が用意されている。
 前者2本は、「DUOモード」時の毒舌家・千紗都が、例の口調で翔馬・彩音・空を徹底的に翻弄する話。
 だが、地下SM室(爆)に彩音を案内し、そこから悲鳴が聞こえた段階で止まってしまい…ううっ、ふ、フラストレーションがぁぁぁっ!(^^)
 もう一本は、みんなからよってたかって「お兄ちゃん」呼ばわりされる翔馬の受難というのほほんとした一本。
 後者は…これ、ミニシナリオの中では一番お気に入りかな。
 万里子の「春彦さんを…返して」の一言にすべてが集約されていると思う。

 だけど…実は本作の“前2作との繋がり”は、たったこれだけだったりする。
 つまり、ゲーム本編の展開は直接前2作とは関連していないのだ。
 もちろん、作家だった筈の彩音が編集長になっていたり、日奈美が環の先輩として存在していたりという設定があるにはあるが、だからといって彼女達を経由して前作の要素が引用されてくる事はないのだ。
 それはつまり、“鞠乃が彩音の妹ではなく”“主人公に原稿依頼している出版社が別系統”であれば、まったく独立したストーリーになってしまうという事でもある。
 まあ、それでもいいんだけど…システムはたしかに「Natural」シリーズを継承しているし、組立も準じている訳だから続編として存在する事そのものには異議はない。
 だけど、せっかくこういう規格なんだから、もっと大胆に前2作との関連を持たせてもいいとも考えてしまうんだよな〜。
 「元気爆発ガンバルガー」に対しての「絶対無敵ライジンオー」みたいな感じでもいいから(笑)。

 この他、ミニシナリオ形式で前2作の名場面を再現し、キャラクターごとの逸話を思い返させるモードがあったりと、なかなかにサービスが行き届いている。
 その他、めっちゃ数が多い壁紙にボイスコレクションなど、なかなかに嬉しいおまけが詰まっている。
 さりげに、スタッフのコメントが楽しかったりする。結構必見かも?!
 
 

(総評)
 とても落ち着いた気分にさせてくれる良いゲームだったと思う。
 もちろん、鬼畜モードの不満点を除いての総括的意見だけど。

 サブタイトルの「はじまりと終わりの場所で」というのも、かなりいい感じで本作の内容を示しているのだと思う。
 たった10日間とはいえ、舞台となった古いアパートでの鞠乃達(猫含む)の生活は、主人公にとって色々な意味を見出せたものであった事は間違いない。
 彼にとって吉野の死は明らかな“終わり”の一つであった筈だが、ここを訪れた事により、その先に新しい始まりがありうる事を実感した訳だ。
 頭で解っているだけではなく、感覚として把握する事が出来たというのは、彼にとってとても意味のあるものの筈だ。
 自分を慕って懸命に尽くしてくれる鞠乃と、あまりに唐突に結ばれてしまった事の顛末、そしてお互いの気持ちの整理…“もうまもなく終わってしまう場所”から、2人分の“はじまり”がスタートするのである。
 これは、そういう観点で見ると素晴らしいサブタイトルだという事に気付かされる。
 そして、そのテーマに従い、短いながらも感慨深い展開を見せてくれた本作を、筆者は大変気に入っている。


 このゲームを全体的に見てみると、かなり少ない材料で作り上げたのだな…という事がわかる。
 それでもあまり違和感を感じさせずに進行するのは驚異としかいいようがないが、ところどころにほころびが覗いているのは否めない事実だ。
 例えば、驚いた事に本編には肝心の彩音が一切登場しない。
 おまけの隠しシナリオには(2の使い回しとはいえ)きっちり出てくるにも関わらず、本編内では声だけの登場なのである。
 また、一応専用ルートがある環にしても、Hシーンを含めて全部で7つ程の画面しかない(細かい変化は別として)。
 さらに、ここまでしっかり書かれている本編の演出に反発するかのように、ぞんざいなエンディング。
 缶詰状態から解放された主人公を祝うささやかなパーティというものが、まさか数行のテキストだけで流されるとは思わなかった。
 これらは充分“問題点”になるべき所ではある。

 ただ…不思議とそこを責める気にならないんだよなあ、なぜか。

 そんな事よりも、対極描写だった主人公と鞠乃が、最終的に一つに収束していくという結末に至れるだけで満足しちゃうというか…もちろんそれで納得できるかどうかはプレイヤー次第だろうけど、結構結末の方向性にバラつきがあった前2作と比較すると、統一性に富んだ結末と評して良いのではないかと、筆者は思うのだ。

 以上色々と書いては来たが、実はこのシナリオ単体で見た場合、筆者はこれがシリーズ全体の中で一番好きだったりする。
 どうも筆者は「悲劇大好き・激動の展開のみ評価」とも取られかねない内容のレビューを書いてきた感があるが、こういうほのぼのした話もとっても好みだったりする訳ですわ。
 そういう嗜好で見て、個人的にとってもお気に入りの一本になってしまったのは…意外だったかも。
 しまった、こりゃあナチュ2逆依存症に耐えてでも、無理矢理あの時期にやっておくべきだったわい(涙)。

 …さて、思い返してみればこれは「ナチュラルラッシュ」とも呼べる時期の最後を飾る作品な訳だ。
 現在この名前を持っている最新のタイトルは、ゲームボーイアドバンスの「ナチュラル2〜デュオ〜」な訳だが、実質的に新作の供給は2年近く止まっていると言っていい。…つーか、単純にシリーズが完結しただけって事だろうか?
 なーんか、今度は一抹の寂しさを感じてしまうなあ…おととしの今頃は、これとまったく正反対の感慨を抱いていたものなのに。
 まあ、これももうずっと昔に語られていた話題なのだなあと考えると、別な意味で感傷にふけってしまいそう…




 って、あれ?
 なんでおいらの机の上に、「ナチュラル2〜デュオ〜(GBA)」があるんだ?!
 いつのまにこんなものが…(本当にある)


梨瀬成「ふっふっふっ
エルトリア「ふっふっふっふっ
きっか「ふっふっふっふっふっふっ
鷹風虎徹「ふっふっふっふっふっふっ

 ああっ?! なんだお前達は!?
 さてはこれはお前達が仕組んだ…


梨瀬「まだ気付かんのか?」
エル「後藤さんが、自分から進んで購入したんですよ。忘れたんですか?」
後藤「ば、バカな?! あんなに嫌がっていたナチュ2を、俺が自ら選ぶなんて事…」
きっか「私は見ましたよ、購入する所を。証拠だって、ほーらこんなに…♪
鷹風「自覚ないうちに、“空”萌えになっていたようですからね〜。今度は鞠乃に走ったようですが…節操ないですね〜…」
  
後藤以外全「ふっふっふっふっふっふっ…

後藤「な、何故だあ! どうしてこうなるんだあ!!」

鷹羽「それは、後藤ちゃんが“F&C専属ライター”って称号を、放棄しないで持ち続けているからなんじゃない?!
後藤「ぐわっっ!!」 
 
 致命的なダメージを受けてしまった後藤に、果たして明日はあるのだろうか?!
 だが、倒れた後藤の両手には、ゲームボーイアドバンスの他に、一本の“ドリームキャストのソフト”が……


 …どっとはらい(笑)。


(後藤夕貴)


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