エリュシオン 〜永遠のサンクチュアリ〜(ドリームキャスト版)
 2002年7月25日に発売、定価6800円。
 いまだに供給が続くDCソフト群の中でも、かなり秀でた移植版といえる本作。
 エロシーン削除の効用で、むしろ原版よりも完成度は高まった!


1.メーカー名:テリオス/NECインターチャネル
2.ジャンル:フィールド移動型ADV
3.ストーリー完成度:A
4.オススメ度:A(WIN版と違う理由は後述)
5.H度:C
6.攻略難易度:C
7.メイ度:相変わらずAAA汁濁玉一丁


(ストーリー)
 ベルリンの街角で、自堕落な暮らしに溺れていた男・葛城遼一。
 彼は、とある理由からそれまで勤めていたベルリン医療センターを自主退職した、元・臓器及び心療内科担当医。
 そんな彼の元に、かつて同僚だったアレックスから、新しい仕事の依頼が入った。
 地中海に浮かぶ地図にない島・イタリア領サンタマリア。
 そこに住む富豪テオ・パドリーノの屋敷に、専門担当医師として赴任しろという内容だ。
 莫大な額の前金を与えられ、いくつかの不安と疑問を抱いたまま、島へ渡る葛城。
 パドリーノは、葛城自身をダイレクトに指名してきたというのだ…。
 果たして、サンタマリアでは何が待っているのか。そして、パドリーノの真意は?
 想像を絶する恐るべき陰謀と、数々の因縁、そして美しいメイド達に包まれた、まったく新しい生活が始まった。
(Elysion〜永遠のサンクチュアリ〜 WINDOWS版レビューより転載)

=警 告=
 以下は、ハッキリ言ってズバリオチについて触れまくっているため、未プレイあるいはプレイ中or予定のある方には、読むことをオススメしません。
 このゲーム、オチを知ったらホントつまんないから、念を押しておきます!

 個人的に「まさか」の移植版だった本作。
 これのおかげで益々DCが手放せなくなってしまった(笑)。


 さて本作は、2000年8月に発売されたWINDOWS版をかなり忠実に移植した上、新キャラクター「シャルロッテ(ロッティ)」とその個別シナリオを加えた事で注目を集めた。
 さらにこの追加シナリオは、舞台となる館の“残された謎”を解く内容だという触れ込みだった。
 元々完成度が高かった内容なので、ヘタなアレンジや追加・変更はむしろマイナスに働いてしまう可能性があるわけだが、はたして今回はどんなものだったのだろう?

 という訳で、基本的ストーリーへの指摘・評価はそのままWINDOWS版レビューページに委任して、今回は主に「変更点」「比較」「あらたに気付いた所」のピックアップを中心にまとめてみたい。
 その上で、「ロッティ編」を個別で扱ってみる。
 では、しばしのお付き合いを。


■システム
 基本的な展開システムは変更がなく、マップ上を移動させ、要所でイベントを起こし物語を進行させていくスタイルだ。
 セーブについてもWIN版同様の条件が付加し、オプションの音楽鑑賞の画面演出などまでもそっくり継承している。
 
 DC独自のシステム、セーブポイントについて少し触れよう。

 本作のセーブポイントは全部で30カ所もあり、なかなか有効そう…にみえて、実はそうでもない。
 一つのセーブにつき3ブロックほどの容量を必要とする本作は、こまめに展開別データを保存していくと、途中で容量限界に達してしまいやすくなる
 同じビジュアルメモリーに、ちょっと大きなセーブデータが残留していた時はかなり困りもので、筆者の場合、他ゲームのデータをちょっとだけ保存したままの状態でプレイし、20箇所弱セープポイントを確保した時点で容量限界に達した。
 他のゲームとは、結構大きなセーブデータを誇る「久遠の絆・再臨詔」と「MISSING PARTS1&2」なのだが、これ以外はほとんど削除したにも関わらず、メモリは占有されてしまった。
 大容量のメモリーか、別なメモリーへのデータ移植でもしない限り、うまく対応はできないかもしれない。
 そんなに多くビジュアルメモリーを持っていない筆者は、現在どのデータを選出して残すべきかというジレンマと戦っている(笑)。
 

 また当然といえば当然だが、DC版には「readme」がない
 どういう事かと言うと、実はWIN版ソフト内にある「readme.txt」には大量の専門用語解説が付属しており、これをプレイ中に併せて利用する事でより世界観を深く理解できるのだ。
 本作はかなり大規模な専門知識に基づいてシナリオ構築が成されており、「宗教」「異国言語」「文化」「生活習慣」などを巧みに取り混ぜている。
 だが、逆を返せばこれらを理解できないと、全然わからないという部分も出てくる事に繋がる。
 そういう問題を緩和させるための用語辞典だったのだが、これはかなり膨大な情報が掲載されており、プレイ中でなくても興味深く読み込めるほどの規模のものだった。

 だが、DC版はこれがないため、専門知識が必要とされる部分はプレイヤー各位に依存される。
 もちろん、取扱説明書にもそういったものはまったく含まれていない。
 これにより、本作への印象はまた変わると思うのだが…どうだろう。

 あ、そういえば、本ソフトをパソコン上で読ませていない事に今気が付いた。
 まさか中にこっそり掲載されている…なんて事はないよなあ。
 もっとも、筆者は「コンシューマーソフトをパソコンで読ませる」というのが嫌いなので、試す事はないが…。


■Hシーン・18禁的場面の有無
 18禁から「全年齢対象」への変化に伴って、当然“エロシーン”またはそれにつながる部分は削除されている訳だが、まずはその点を突いてみよう。

 実は、WIN版は結構無理矢理に挿入されたようなHシーンばかりで、一部ではこれによって話の展開に支障を来している部分すらあった。
 今回それがなくなった事により、むしろスマートかつ無理の少ない展開となった。
 具体的にいえば「勤務中のクリスや魅麗に対して主人公が思い浮かべる妄想場面」とか、「オークション直前の緊縛シーン」、「各メイド(ヒロイン)達と結ばれる場面」などが軒並み姿を消している。
 ヒロインと結ばれるシーンがない事によって、多少“互いの結び付き”の印象が希薄に映ってしまう感はあるものの、元々このタイトルはHシーンに進展するとロクな事にならないという独特のクセがあるため、これはこれで正解なのだろう。
 特に終盤に近付けば近付くほど、Hシーンは凶兆の前触れといったテイストになっていた。
 ヘレナシナリオなどはこれの最たるもので、これのためにせっかくの良シナリオが台無しになっていた程だ。

 DC版は、「Hシーンの前兆」にあたる場面から先を丸々削り取るという事で、違和感を感じさせる事なく問題をクリアしている。
 魅麗の「胸肉を縛るロープが…」というギャグ要素だけはその断片が残っていたりするのだが、実に綺麗に削り取っている。
 また、ディアナシナリオ終盤の「トイレに行かせてください」発言に対しては、“行かせない”を選ぶと先に進まなくなる(WIN版ではCG追加)というミニトラップが仕込まれていたりする。
 さらに、マナシナリオのバッドエンドはその手の部分だけが綺麗に取り除かれていて、後ろから殴られただけで突然ペスト感染してしまう主人公のうろたえ様を堪能できる(笑)。
 
 かと思うと、大胆に残している部分もあったりして、なかなか興味深い。
 ジェーン・メイドエンドの最後のCG(フレンチメイド風の姿のジェーンが、主人公に尻を向けてスカートの中を見せている場面)はそのまんまだったり、また例の風呂覗きイベントも残っている。
 もちろん、その後の「懺悔を受けましょう」もそのまんま残っているので、真・横田ファンの期待も裏切らない(笑)
 他にも、うっかり自分のスカートを持ち上げてしまったマリアなどの場面もあり、さらにキスシーンなどはいずれも普通に残っている。
 つまり、「ちょっとHっぽい」というレベルならば削除対象にはなっていないという事なのだろう。

 マナシナリオではどうしても避けられない「生理時の問題」というのもあったが、これはちょっと変わった変更をされている。
 マナが主人公に保護される経緯は“雨に濡れて風邪をひきかけたため”という風に変更されており、その後の入浴シーンもきっちり残されている。
 もちろん、画面全体の湯気ぼかしは強くなっていて、要所はちゃんと隠しているけど。
 そして、マナが生理になった時はどうしていたか…という事情については、後の場面で魅麗に説明させてかわしている。
 この辺は本当に細かな仕事で、大変評価できる。

 また、本作最大の盛り上がりを見せる(と筆者は思っている)マナシナリオそのものの展開だが、なんと、これはほぼ未修整でそのまま継承されている。
 そう、ゲオハルトの「死姦趣味」をめぐる展開は、そのまま残っているのだ
 これにはちょっと驚かされたが、考えてみればこのシナリオは非常に重要な部分でもあるので、ヘタな変更は出来なかったのだろう。
 そのため、微妙にポイントをずらして猟奇色を薄めるという修正にとどめているが、筆者が気づいた部分だけを提示してみよう。

ゲオハルトの趣味の表現 具体的に「死姦」を行っているという表現はなくなっている。
ただし、明らかにそうだろうと思わせるニュアンスは残っている。

死姦に目覚めたきっかけ 「情事の最中に娼婦が撃ち殺された」というものから、「恋人(と思われる)が、告白の最中に射殺されたのを見た」というものに変更。
「下顎だけになっても愛の言葉をしゃべっていた」という表現がエグい。

テオがゲオハルトと再会した時の状況 「ひどい状態だった」という説明の先でカット。
具体的に何がどうなっていたのかは語らず仕舞い。
 
 特に2つ目は射精に至った表現もあるので、いやがうえにもそちらの方向に結びつけて考えざるをえないようになっている。
 輪郭をボカしつつも要素は残す手法であり、これまた面白い。

 もう一つ、18禁要素バリバリの部分がフローリィ編にある。
 それは「日蝕の日」の件。つまり“真希”の精神疾患「重度のSEX依存症」という表現だ。
 これは、なかなかとんでもない変更をされている。もちろん、これは褒め言葉だが。
 真希の精神疾患は「快感を伴う重度の自傷行為」というものに設定変更されており、そのため…益々エグくなった。

 その傷跡は手首など末端部だけでなく、全身に及んでおり、服を脱ぐととんでもない事になっていた様子で描写されている(そしてその設定から、「先生…私の身体を見て」という本編の台詞がそのまま引用できる!)。
 これは当然「他の医者も、面白がってヤッていた」という部分も残されるため、かえって以前よりも醜悪さが増したと言える。
 また最終エンディングの経緯では、主人公もこれに加わってしまったという表現があり、そのフィードバックからフローリィ自身にまで同様の事をしてしまった(と解釈できる)描写まである。
 本来、18禁的要素を排除するために行われる設定変更で、益々取り返しの付かない展開にシフトさせてしまうという手法には、感嘆するしかない。
 これらも、制作側が本作の世界観を大切にし、様々な部分にこだわっていた事の証明といえるだろう。
 個人的には、こんな「とんでもない」設定変更は見た事がない。
 ここだけで、個人的評価はかなり高まってしまった。
 


■ストーリー・演出・断片情報
 基本的には、ストーリーに大きな変化はほとんどない。
 というより、「よくまあここまで」というくらい忠実に移植されていると言って良く、なんとWIN版の攻略データがそのままDC版にも適応できるくらいだったりする(Hシーン的展開以外だが)。
 そのため、本当に変化した部分以外語るべきポイントがなくなってしまうのだ。
 先に記した通り、本作最大の暗黒面とも言えるマナシナリオまでもがほほ忠実に移植されているので、驚かされてしまう。

 本作はものすごく細かな部分に変更が施され、それによってメインストーリーがよりわかりやすくなっている印象を受ける。
 WIN版は、メインストーリーに抵触する部分の説明がえらく遠回し&複雑で、高い理解力と洞察力、そしてかなりの既存知識の引用を必要とさせられていた。
 筆者自身完全に覚えているわけではないので印象比較が混じってしまうが、特に魅麗シナリオでの「シルヴィアーナとパドリーノの企み」の根源的な方法論などは難解で、占星術の基礎概念・「気」の概念などを理解していない人には大変わかりづらかった。

 対して、本作・魅麗編でのシルヴィアーナの占星術解説は、かなりわかりやすい。
 以前各所にチラチラと覗いていた「空高く掲げよう」的なテイスト(笑)が完全になりを潜めたというのもあるが、消化が良くなったのは事実のようだ。
 今回もまだ難解な部分は引きずってはいるのだが、改良点として挙げて問題ないと思われる。
 それともこれは、単なる筆者の気のせいなのだろうか?

 一番大きな変更要素は当然「ロッティ編」の追加だが、驚く事に、このシナリオは完全独立が許されている。
 つまり、他のシナリオはそれぞれに互いの関連情報が内包されているため、安易に外したり隔離したり出来ないのだが、ロッティ編だけはその切り口がうまく整えられているのだ。
 これは同時に、「後付けシナリオであるにもかかわらず、何の問題もなく本編と融合している」という事でもある。
 極端な例を挙げれば、パッケージイラストや取り扱い説明書の情報などをほとんど見ない又は意識しないでプレイしていた人が、最後までロッティシナリオの存在に気づかない…という可能性すらありうるという事だ。
 そしてそれは、前回のレビューで唱えていた「フローリィの隠蔽」よりもさらに上を行っている。
 もちろん、そのまんまだったら最後までスルーされてしまうので、そうならないよう「最大の変更要素」として宣伝していたわけだが。
 
 それ以外では本当に細かな部分の変更しかピックアップできないが、個人的に興味深かったのが「ディアナのタロット占い」だ。
 前回のレビューにて、私は「最後に提示されたカード“愚者”には、外来の暗示は見て取れない」といった旨の表記をしたのだが、なんとDC版では“愚者”のカード自体は出るが、その暗示の意味を言わず仕舞いという風に変更されていた。
 …誰かが、同じ指摘をしたのかな?

 もう一つ…これはちょっと自信がないのだが、ヘレナシナリオのエンディング・シベリア特急の場面では「おそらくもう二度と会えないだろうけど…」といった類の文章があったように記憶しているが、DC版はそういった表記はない
 あれれ、おかしいな…。
 筆者は、あの一文で大変胸を打たれて評価を高めた筈なのだが…。


 さて、ではいよいよ「ロッティ編」のレビューに入ってみよう。
 前回のレビューと同形式でいくので、一部に変な表記があるけど、どうか気にしないで(笑)。
 
 
●白羊宮・アリエスの「シャルロッテ」  評価B
・マリア来訪の夜に開催されたパーティで、葛城は、見慣れないメイドに出会う。
 自分の嫌いなセロリをおいしそうに食べている紫髪の少女…マリアの専属メイドとしてやってきたというシャルロッテ…通称“ロッティ”。
 だが、葛城はそれ以前にも、館の中で彼女に出会っていた。
 3階のからくり時計の前で跪き、祈りを捧げているロッティ…。
 しかし、誰もが「彼女はマリアと一緒に来た。それ以前にはここにいなかった」と口を揃える。
 唯一シルヴィアーナだけが、他の者と違う反応を示したのだが。

 その翌日から、葛城の周りでは奇怪な現象が起こり始めた。
 何度も繰り返される「“雨”の朝」、まったく同じ“クリスとのやりとり”…。
 葛城の記憶の中では、パーティの翌朝は晴天だった筈なのだが。

 やがて見えてくる状況。
 葛城は、現実と夢の中を幾度も行き来し、幻視混合に囚われていたのだ。
 それを仕掛けた者は…そして、その者の目的とは?


 「城館の謎」が解決するという触れ込みの本シナリオは、具体的に言えば“120年前に起こった出来事”の解説編と言ってもいい。
 単純に「城館の謎」と言ってしまった場合、それは「テオ・パドリーノを中心とした陰謀の謎」という部分も含まれるためちょっとややこしいが、考えてみればこれらはここまでのシナリオでほとんど追求されきっている訳だから、別なアプローチとなる訳だ。
 それで、WIN版では本編を盛り立てるエッセンス的描写に止められていた「120年前の館の住人」のエピソードを具現化する事で、さらに謎部分へ切り込んだ。
 たしかに、本編プレイ中では結構気になる部分だから、こういう追加要素はありがたいし、拒む理由もない。
 しかし普通に考えたら、大昔の出来事を説明する場合は「モノローグに頼る」か「本編から独立させて延々説明」させるかのいずれかしか手段がない事になる。
 それを可能な限り避け、かつ違和感なく切り込むためには、(明らかに当時のメイドだったとわかる)シルヴィアーナ以外の存在…別な語り部が必要になってくる。
 それが“ロッティ”…シルヴィアーナの妹にして、120年前の城館のもう一人のメイドだったと言うわけだ。


 先にも触れたが、本シナリオは後付けであるにもかかわらず、ほとんど違和感なく本編部分と融合している。
 魅麗シナリオで一通りのエンディングを見ると条件が整い、5日目からロッティが出現するようになる。
 その存在は一応他の者達にも知られてはいるものの、断片的にしか知られていないため、具体的な素性がまったく見えてこない。
 考えてみれば、ロッティはこのゲームのメインヒロイン中唯一、エロ系展開へのシフトを考慮する必要がない存在なのだ。
 だとすると、ある意味一番自由に立ち回れるという事になる。
 実際、ロッティがシナリオ中に登場する回数は意外に少ない。
 それなのに、強烈な印象を残す事に成功しているのは素晴らしい。
 底が知れず、その考えと目的が読めないという事は、そのまま独特の個性を叩き付ける事に繋がる。
 また、その活躍に“主人公と結ばれる”ベクトルは関係ないから、純粋にシナリオに特化する事が出来る。
 そういった要素が絡み合った結果、限られた出番で十分な個性を感じさせられたのだろう。

 このシナリオでは、シルヴィアーナの動向に注目してみたい。
 これまで大雑把にしか正体の考察が出来なかった彼女の存在は、ここに至ってようやく明確な輪郭を得る事になる。
 かつてメイドをしていたという独白の裏付け、“灰色の医師”を師と呼ぶ理由、そして彼女がかつて「ご主人様」と呼び仕えていた存在、そして、どうして現在のような存在になってしまったのか…すべてが説明される。
 特に、幸せだった頃のシルヴィアーナ(シルヴィ)達のやりとりは大変微笑ましく、見ていてなんとなく嬉しくなってしまうほどだ。

 城館の主・フランツが、そこに至るまでに経過してきた不幸な境遇という背景もあり、この場面は、第三者にも「幸福の継続」を願わせる。
 その上での、突然の崩壊劇…予想だにしなかったさらなる不幸な出来事はあまりに悲痛で、シルヴィ達のその後の変貌も納得できるくらいの説得力がある。
 これらの書き込みの濃さには、正直かなり驚かされた。
 個人的に、このシナリオはロッティではなく「シルヴィアーナ編」ではないかと思ってしまったくらい、彼女にまつわる情報は濃密だ。
 そして、かつて彼女が…否、彼女達が経験してきた辛く悲しい、しかし穏やかで幸福でもあった記憶は、これまで登場してきたヒロイン達の物語とは別な意味で、胸を締め付ける。
 シルヴィアーナが、どうして「永遠」という物にこだわるのか、そして、それに携わる数々の物に興味を示すのか、これまで不明瞭だったこの辺りの部分がわかるのは、大変興味深い。
 これだけで、「単純な追加シナリオ」に堕していない証明になっているのだが、それだけで済まないのがこりシナリオのすごい所だ。
 ロッティ曰く「知らない人達」が、この館の中で行ってきた事を見せたり、それぞれが心の中に思っている事の断片をちらちらと覗かせる手法はなかなか見事だ。

 灰色の医師という、これまでごく限られた情報の中でしか登場していない存在のピックアップも嬉しい。
 「彼」(注:固有名詞。前作ジェーンシナリオ参照)の存在理由にまで繋がっているのには驚かされた。
 その真意は明確ではないにせよ、この物語の根元を築いた人物として、あらためてその重要性を理解させられたような気がする。
 明らかに黒魔術の法を用いている彼の対応は、この後に続く悲劇すべての引き金になっているが、どことなく“善意の人”っぽく描写されている所も面白い。
 彼を中心に描かれるものは、かなり細かな部分に関連のある情報であったりするので、かなり入念にテキストをチェックしないと、全体把握が困難になってしまうトラップはあるが、これはこれで充分な良点と言っていいだろう。

 からくり時計の中に眠っていたフランツの遺体も悲しいものがあるが、それを指して述べるシルヴィアーナの言葉も、冷めていてなかなか趣深い。
 確かに、今の彼女にとってはフランツの遺体そのものには何の思い入れもない。
 だが、シルヴィアーナの現状を知らないロッティにとっては、まったく違う価値観がある。
 その差異が、互いの対立意識の核と昇華していく様は、大変わかりやすく説得力に溢れていた。
 しかし…主人公がたまに聞いていたあの声に、そんな理由があったとは…個人的にちょっとショック。


 以上のように、大変見所に溢れたシナリオで、WIN版にも是非欲しかったと言いたくなるくらいの完成度を誇っている。
 その売り文句の通り、メインストーリーへの貢献度は、最大級かもしれない。
 これだけのために、DC版をプレイする価値が充分にあると断言できるだろう。

 だが、気になる部分もないわけではない。
 これはフローリィシナリオの一部分でもあった事だが、当初は異変に巻き込まれた形になっていた主人公が、いつのまにか一方的な聞き手に回ってしまい、活動らしい活動をしなくなってしまう点だ。
 だがこれは、プレイヤー各自のゲームの展開のさせ方によって印象が異なる可能性があるので、一概に問題点とは言い切れない。
 例えば、筆者のようにすでにWIN版を経由している場合や、進行順番の関係でロッティシナリオがラストの方に回ってきたプレイヤー…つまり“全体概要を把握している”人にとっては、ここでの主人公のスタイルは特に問題なく映るだろう。

 しかし、比較的初期の頃に辿り着いてしまったプレイヤーはどう思うか?

 この辺りを考えると、この素晴らしい筈の展開にも、疑問符を投げかけざるをえない。

 一番理想的なのは、ロッティシナリオを一番ラストに持ってくる事だと筆者は考える。
 エンディングナンバー21「追憶のエリュシオン」は、グランドエピローグとするにはいまいち足りないものがあったような感があるが、ロッティシナリオの解決編ともいえるナンバー16「紅の夢、魂の欠片」は、かなり理想的なものであったように感じられてならない。
 もちろんこれは主観的なものだが、いずれにしても、ロッティ登場条件をもっと切り詰め、結末にかなり近づいたプレイヤーだけがようやく出会えるくらいにしてもよかったのではないか…せめて、専属メイド候補4名を完全攻略しないと条件が整わないとか。
 でも、そうしてしまうとせっかくのDC版オリジナルの“売り”が引き立たない危険も孕むわけか。
 おお、こりゃなかなか難しい…。

 もう一つ、これもどうしようもない事なのだが、音声面についても突っ込まねばならない。
 これは当初から予想できた事なのだが、このロッティシナリオのメインルートに入った途端、ほとんどのキャラクターがしゃべらなくなる
 元々本作は、場面によってキャラクターの台詞に声があったりなかったりしていたのだが、発声場面は比較的多く、しかも主人公以外はだいたい声優が付いていた(もちろん掛け持ちもいたのだが)。
 ところが、ロッティシナリオでまともにしゃべるのは「シルヴィアーナ(深見梨加)」「ロッティ(大谷育江)」「マリア(岩田由希)」「フランツ(塚田正昭)」「灰色の医師(広瀬正志)」「ルーシー」くらいであり、それ以外は突然“テキストだけの台詞”となってしまう。
 テオやソードなど、重要な台詞を持った者が多くいるにも関わらずだ。
 
 すでにお気づきの方もいると思うが、これは単純に「声優各氏のスケジュールまたはギャラ的な事情」が絡んでいるものと考えた方が自然だろう。
 本稿最初の辺りに記した「発売時期」を参照していただければわかる通り、今回のDC版制作にあたって新規収録された音声は、ごく一部に止めざるをえなかったのだ。
 単純計算で2年ものブランクがあるにも関わらず、忠実に演技を再現させていた深見氏他の技量には頭が下がるが、せめて一部キャストをオリジナルと入れ替えるなどしてでも、このシナリオでしゃべるキャラクターを増やして欲しいと思ったのは筆者だけではあるまい。
 …って、無茶な事書いてるって自覚あるな〜。
 キャスト入れ替えでやったって、あれだけ膨大な台詞数があるんだから、カメオも出来ないだろうし…やっぱり仕方ないのかな。

 ところで、ここまで書いてて不安になったんだけど、シルヴィアーナ役の深見氏って、WIN版でもそのまんまだった…よね?!
 WIN版はその性質上キャストが非公開なので、耳で判断するしかないのだけど…どう聞いても前と同じようにしか思えないし。
 …ま、いいか。
 グルーチョ料理長の秋元洋介氏は絶対同一キャストだったという自信があるから、きっと他もそうに違いない(笑)。


 ロッティ自身についてはどうだろう?
 謎めいた行動と台詞で主人公達をかき回す存在として登場する彼女は、確かに面白い存在で強烈な印象を与えてはくるが、正直なところあまり他のキャラと並び立てる存在とは言い切れない気がする。
 つまり「存在感はあるのだがイメージが固定化しにくい」という意味だ。
 もちろん、これは単純な登場頻度や言動のバリエーションから来る事情もあるだろうが、トゥルーエンド間際、消滅する直前のような素直な一面がもっとピックアップされていれば、さらなる魅力を感じる事も出来たように思えて、ちょっと惜しい。
 回想での明るい仕草や行動・言動、またセロリや野菜に対する執拗なこだわりとかなかなかお茶目な部分もあるのだが、それがプレイヤーの中でいまいち結着しきれていないような部分がある。
 「元々そういうキャラクターなのは理解出来る」のだが、それが浸透しないというか…“ロッティというキャラクターのイメージ”として、それらの要素が結びつかないように感じられてならないのだ。
 もっと登場頻度が高ければ…欲を言えば他のシナリオでもちらちらと登場してくれていれば、より良い印象を抱けたかもしれないと思うと、残念でならない。 

 ロッティシナリオから派生する2つのエンディングのターニングポイントについても、些細な疑問が残る。
 これは一番最後の選択肢で「ロッティを撃つ」「撃てない…」のどれを選ぶかによって分岐するのだが、前者がバッドエンド(ゲームオーバーではない)、後者がトゥルーエンドに繋がる。
 つまり土壇場で主人公がためらってしまう事から最良の展開に進む訳だが、ちょっと待って欲しい。
 そこに至るギリギリまで、シルヴィアーナは主人公に「ロッティを撃つ」必然性をしつこいくらいに唱え続けていた。
 それなのに「撃てない」選択肢を選んだ後、彼女はまるで「本当は撃たないで欲しかったんですよね〜」といった感じの態度を取る。
 しかも、どうやらそれは“やっぱり肉親が目の前で死ぬのはしのびない”という感覚とは別のようだ。
 ちょっとこれはひどいんじゃないかなあ…。
 シルヴィアーナのアドバイス通りに行ってしまうと、主人公はもっとも怖れていた状態に陥ってしまう訳だから、これはトラップと言わざるをえないだろう。
 こんなシルヴィアーナ姉さんには、ピュアなハート奪って発狂の刑が相応しい。ケケケ♪(謎)

 そういえば…どーでもいいんだけど、礼拝堂でロッティに捕まっていたマリア、なんかとんでもない事を口走っているような気がするんだけど、そう感じたのは筆者だけだろうか?
 


(総評)
 他の移植版とは根本的に異なるテイストを感じる作品だ。
 とにかく「WIN版からエロだけ取って、おまけシナリオ付けただけでしょ?」という感覚で入ると、明らかに虚をつかれる結果になる。
 これまで色々な移植比較をやってきた筆者だが、今回のこれは自信を持って「WIN版プレイヤーにもやる価値あり」と断言できる。
 もちろん、その追加・変更要素が、本ソフトの“ちょっいとばかり高めの定価”に見合うかどうかは人次第だが、とりあえずそういう評価を述べたいと思う。
 
 先に述べた通り、本作は「無意味な脱線要素」「不要としか思えないエロ描写」が綺麗に取り除かれたため、内容の純度が高まっているだけでなく難易度も下がり、より完成度を高める結果となった。
 前作レビューよりも、「オススメ度」が高いのはそういう理由があるからだ。

 とにかくコンシューマー全体を見渡してみても、完成度は大変高いと言い切れる逸品だ。
 ギャルゲー・エロゲーの概念を大きく覆す可能性を秘めた作品に昇華したという、ちょっとオーバーな表現も、そんなに的はずれとは思えない。
 前作を知っている・知らないに関わらず、手に取る価値はある。
 ちょっと古い作品だから…と敬遠される事なく、興味があれば、是非挑戦していただきたい。


 ここからは筆者個人の感想になるが、今回全体を再プレイしてみて、あらためて「エリュシオン」の世界観のポイントを理解したような気がする。
 前回のレビューの時点であまり深く理解できていなかったと思われる部分がいくつか浮上し、プレイ中に大変恥ずかしい思いをしたものだ。
 特にシルヴィアーナの思惑、フローリィのバッドエンディング(No.21)の解釈などはズレまくっていたようで、我ながら情けない。
 だが、あらためて理解した解釈をここで述べるのは本意ではないので、ここでは“反省させられた”という事だけを明記するに止めたい。
 やっぱり、何度もプレイを繰り返さなければならないというものもあるんだな…と、改めて思い知らされた。


 …で、前回のレビューで「訳わからん」と表記していたスペイン送りだが、ある事で突然、その意味がわかった…ような気がした。
 これってまさか、「モンティ・パイソン」ネタだったの?!
 「スペインの裁判官」くらいしか、思い当たるものがないんだけど…それとも、筆者はまだ真の解答に辿り着いていないのだろうか?!(笑)
※なお、「モンティ・パイソン」が何か知らない…という人は、検索エンジンで調べてみる事をオススメする。
 かなり専門的に扱っているページもあるので、見解が広がるかもしれないし(笑)。
 筆者の知識レベルでは、彼らの事は語りきれませんです、ハイ。



(後藤夕貴)


 
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