Elysion〜永遠のサンクチュアリ〜
「まじかるカナン」に次ぐテリオスの作品!
物語各所に輝く、熱き「車田正美テイスト」を、君は見たか!?
目指せ、黄金十二宮! ア○ナの命を救うため、黄金聖○士を攻略だ!!
「て、テリオスとは、まさかあの…」(爆)
…すみません、5%くらい本当です(^^;
1.メーカー名:テリオス
2.ジャンル:「猟奇の檻第2章」型フィールド移動フラグADV
3.ストーリー完成度:A…あげましょ、ウン。
4.オススメ度:C
5.H度:C
6.攻略難易度:激A
7.メイ度:AAA
(ストーリー)
ベルリンの街角で、自堕落な暮らしに溺れていた男・葛城遼一。
彼は、とある理由からそれまで勤めていたベルリン医療センターを自主退職した、元・臓器及び心療内科担当医。
そんな彼の元に、かつて同僚だったアレックスから、新しい仕事の依頼が入った。
地中海に浮かぶ地図にない島・イタリア領サンタマリア。
そこに住む富豪テオ・パドリーノの屋敷に、専門担当医師として赴任しろという内容だ。
莫大な額の前金を与えられ、いくつかの不安と疑問を抱いたまま、島へ渡る葛城。
パドリーノは、葛城自身をダイレクトに指名してきたというのだ…
果たして、サンタマリアでは何が待っているのか。そして、パドリーノの真意は?
想像を絶する恐るべき陰謀と、数々の因縁、そして美しいメイド達に包まれた、まったく新しい生活が始まった。
=警 告= 以下は、ハッキリ言ってズバリオチについて触れまくっているため、未プレイあるいはプレイ中or予定のある方には、読むことをオススメしません。 このゲーム、オチを知ったらホントつまんないから、念を押しておきます! また、ゲームの性質上かなりの長文になっています。 以上の事、よろしくご了承ください。 |
しかしまぁ、これほど宣伝媒体から受けたイメージと、本編のそれに違いがあったものも珍しい。
大御所・横田守氏の絵による、本格メイドゲームという印象とは裏腹に、かなりハードな設定と演出の光る傑作になっている。
本作はいくつかの謎が複雑な絡み方をしており、エンディングを見る度にそれらが一つずつ解き明かされていくというもので、その象徴として各ヒロインが配置・設定されている。
ゲーム全体の規模は、全21エンディング。
メインヒロインとして、第四階級メイド4人(魅麗・クリス・ディアナ・ジェーン)が配置され、さらにパドリーノの孫娘マリア、サブヒロインとして3人のキャラクターが控えている。
トゥルーシナリオに該当する展開は存在せず、全員全部のエンディングを見る事によって、ようやく全体の謎が解き明かされる。
ヒロイン一人ひとりで、背負っている物語とバックボーンが大きく異なるため、最後までプレイしない訳にはいかない構成なのだ。
つまり、最後までやらないで批評する事は不可能だ。
また本作は「所定の場所まで直接キャラクターカーソルを移動させてフラグを立てる」、つまりは『猟奇の檻・第2章』と同様のフィールド移動システムを採用している。
『猟奇〜』をご存じの方はすぐに納得できると思うが、あの作品の難点をそのまま継承しているとも言える訳で、そのためかなり難易度が上がっている。
一応コントローラーにも対応しているらしいが、マウスオンリーでのプレイは不可能に近い(ディアナ編ラストでは、ほんの少しだけ微妙なコントローラーさばきが必要とされるため)。
キーボードのカーソルキー、そしてメッセージスキップ用のCtrlキー(ウインドウ横のスキップボタンよりも遥かに便利)が、今回は主役になるだろう。
やりこむなら、徹底的に腰を落ち着けてかからないと厳しいと思う。
また、単純な選択肢によるストーリー分岐も、簡単ではない。
なにせ21大エンディング。生半可なプレイでは全部は見出せない。
これらのために、せっかく多くの面白さを含んだ本作のオススメ度をAに出来なかったのだ。
こういうジャンルのゲームには珍しく、現代の世界情勢をふんだんに取り込んでいるのは面白く、非常に評価できる。
本作には「宗教」「異国言語」「文化」「生活習慣」という要素が物語各所に散りばめられていて、すべて密接にストーリーと絡まっている。
日本語表記しかない筈のゲームで、言語の違いをどうやって表現するか?
言葉が全く通じず、単語羅列の筆談でしか意志の疎通が出来ないマナをはじめとして、キャラクターの名前が発音によって違う響きになったり(しかも、それが伏線として活かされている!)、単純に文字が読めなくて行き詰まったりと、なかなか唸らせられる。
また、各国の宗教文化の違いによる考え方の差も丁寧に描写されていて、全然嫌みになっていない。
プレイするこちら側にもそれなりの知識を必要とされるが、カトリックとプロテスタント、日曜のミサの概要、中東の宗教文化の違いからくるいがみ合い、北アイルランドとイギリスの関係…これらがある程度解っていれば、一応問題はないらしい。
ただ、当然“わからない人”は置いてけ堀になってしまう危険もはらんでいるが、そういう場合はソフト内に用語解説を含めた「Readme」があるので、こちらを参照しながらのプレイをオススメする。
今回は、ゲームシナリオの構成上各ヒロインごとに分けて批評していく必要がある。
かなりこの先長くなるけど、ご容赦願いたい。
●人馬宮・サジタリウスの「魅麗」(笑…でもホント) 評価D
・元・音大生で日本人。本作最大の巨乳らしい(^^;
父親の経営している会社がコムニオンに脅迫され、その代償としてパドリーノの元へ来る事を強要される。
父親を助けたい一心で、魅麗は自ら島へ赴くのだが…
「メイドの真髄とはなんぞや」と問われるようなシナリオ。
各メインヒロインには、“恋人エンド”と“メイドエンド”という2タイプが存在するが、彼女の場合はメイドエンドが本筋となる。
本作はどうもプレイ順番の指定があるらしく(もちろんそれに従う必要はないが)、魅麗→クリス→ディアナ→ジェーン→サブヒロインの順に、物語の真相が判明する形式となっているらしい。
このシナリオでは、パドリーノがシルヴィアーナの力を使って何をしようと企んでいたのかが判明する。
それはいいのだが、シルヴィアーナがあまりに抽象的な台詞しか喋らないため、実際にどのような事が行われているのかを把握するのは、もっと先の事になってしまう。
本シナリオの、最大の欠点がこれだ。
このシナリオ、実は占星術を知らないとシルヴィアーナの喋っている事がほとんど理解出来ないのだ(なんと、『聖闘士星矢』を読んでいると、なぜか何割かは補完できてしまう)。
結局、信仰する神よりも自分の主人への忠誠(愛)を優先させてしまったため、神に見放されて死ぬコトが出来なくなった元メイドのシルヴィアーナが、契約者(パドリーノ…主人)と同質の“魂”を持つ主人公を利用して、主人公の選んだメイド(従者…魅麗)の身体に主人の魂を挿入して補完する…といった目的だったらしいのだが、この段階では「なぜそんな事をする必要が?」という印象が強すぎて、全く状況が把握出来ない。
パドリーノは、後に記す別の目的「永遠の肉体(または存在)」のためにあらゆる伏線を準備しており、魅麗編ではその一端として“魂の補完”にスポットが当たるらしい。
結局、3階のからくり時計が告知していたタイムリミットは具体的にどういうものだったのか、シルヴィアーナがこのシナリオで求めていたものとは何だったのか、主人公が見た夢に登場するメイド(シルヴィアーナ)は、どうして主従関係にここまでの想いをはせたのか…肝心な所は闇の中。
これ以外の細かい要素は別シナリオで徐々に明かされていく事になるが、もう少し突っ込んだ説明があっても良いと思える。
そもそも、MAIDENってここではどういう意味よ?
また、突然メイドの真髄に開眼してしまう魅麗も、理解の範疇を超えている。
主従関係の中にしか生まれない「愛」とやらを貫こうというのはいいのだけど、それがどうして“主人公のメイドであり続ける”事になるのか?
そもそもなんで、彼女がそういう考えを持つに至ったのか?
展開の不可解さが手伝って、この段階ではかなり理解しにくい。
主人公の恋人になるエンディングでは、事の収集は適当な表現だけに留まり、メイドエンドの時だけ真相が語られるというのも、奇妙な演出だ。
メイドとして主人に仕える者は、仕える事で愛を云々…すみません、わかりません。
テキストを読んでいると、「要は自分自身でロクに責任を取る事もできない人間が、自分よりもシッカリした存在に仕える事で、それを代返してもらう」という関係にしか感じられないのだね、ここの主従関係って。
バッドエンドの系譜となる“パーティエンド”では、メイドとしての魅麗を理解せず、ただ島から自分を連れ出そうと考える主人公を軽蔑するという場面がある。
結局、魅麗は何になりたかったのか?
父の会社を救うために来た筈なのに、そこでメイドの真髄を究める事に決めちゃったのか?
答えは、全然返ってこない…
とはいえ、魅麗のキャラクターそのものはとても良く描かれていて好感が持てる。
別ヒロイン攻略に関しても、直接関わる事は少ないが、主人公の心を支えるという意味合いから、その重要度がわかる。
たった一人の日本人として、主人公が彼女の事を“恋愛対象”以外でも重要視している感じがストレートに伝わってくるのが良い。
また、彼女が師事したと思われるメイドの先輩・サリアが、ここで初めて(セリフの中で)登場する。
彼女については後々に触れるが、すでにこの段階で、終焉間際の伏線は用意されているのだ。
それはいいけど、一番最初にパターン完クリしたヒロインだったため、次の攻略に移るのに多少後ろ髪を引かれはしたが、他ヒロインに比べて背負っているものが軽かったためか、ストーリー展開から何から一気にポーンと忘れ去ってしまった! 必死に思い出したが。
記憶に残っているのは、“こよなく乳を愛されていた”事と、エンディングの菜々子解体新書のコスプレくらいのものだった。合掌。
●天蠍宮・スコーピオの「クリス」 評価B
・父親の会社が開発した新薬…“臓器移植の際の拒絶反応を抑制する”薬は失敗し、逆に人間の抗体を全滅させ、あたかもAIDSのような症状を併発させる副作用があった。
クリスの父は、事情を知ったパドリーノから脅迫を受け、試験薬のアンプルを奪われてしまう。
奪われたアンプルがもしも兵器として悪用されてしまったら、会社の存続は危うい。
クリスはパドリーノの屋敷へ赴き、彼と契約を交わす。
もしもクリスが、自力でアンプルを回収出来たなら…
クリスというヒロインの優秀さと、洞察力の高さ・頭脳明晰さ、そしてメイドという職業へのこだわりがふんだんに味わえるシナリオで、かなりインテリジェントな印象を受ける。
また、近年メイドブームによってゆがめられてしまったメイド像を、良い意味で打ち崩しており、色々と考えさせられるものがあった。
このシナリオでは、パドリーノに行われる臓器移植手術についての計画が暴露されていく。
どうやら問題の薬品を実用に足るまでに改良したらしいが、重要なのは薬の所在云々よりも、この屋敷にやってきた人間それぞれに特殊な理由があるという事実が表面化する事だ。
クリスが、冒頭でいきなり脱出計画を示唆した理由、そしてそれに必要な行動の思案等は、非常に説得力がある。
ヒロイン個人の好きずきを別にすれば、個人的にはかなりトップに近い面白さだった。
これまで存在が不明瞭だった、“ソード”をはじめとしたボディガード連中にもスポットが当たり始める事にも注目したい。
こういうキャラクター達が、単なるお飾りになっていない所は大変評価出来るだろう。
ただし裏事情の解明度の方に重点が寄りすぎて、クリス自身の描写にさほど力が感じられないのが惜しいという印象がある。
確かに、クリス自身の結末とはアンプルの使用目的の解明と、その奪還にあった訳だから整合性については一切問題はない。
とはいえ、彼女にとってもっと重要だった筈の家族の安否が、ソードによる独白とエンディング時にちょろっと語られる程度で終わってしまうというのも…
エンディングの時のクリスに、異様なほどの割り切りの良さを感じてしまうのは自分だけだろうか?
まぁ、あえて苦言を述べれば、だけどね。
ちなみに、彼女のトゥルーも魅麗同様“メイドエンド”だった。
しかし、このゲームのパターン・ろくに秘密も明かさないまま集束していくエンディングには、大いに疑問を感じる。
もちろんこの先の展開で判明はするのだが、この段階ではパドリーノが薬品を具体的にどうするつもりだったのか、断片すら出てこない。
そうしたかった気持ちは良くわかるのだが、とはいえもう少し風呂敷を広げてやっても良かったのではないだろうか? と考えてしまう。
そもそも、アンプルの使用目的がはっきりしてくるマリアorフローリィ編では、パドリーノは“自分の肉体&生命維持のために(独自改良した)アンプルを使用するつもりはない”というコトになっていた筈。
ちょっと話がおかしいような…?
いや、確かにフローリィ編では“アレックスが(アンプルの使用の必然性を説き)言いくるめていた”といった感じの表現があったが、それとパドリーノがアンプルを求める行動とは結び付きがない筈。
あるいは、本当はちゃんと統合性が取れているにも関わらず、プレイヤーにそう感じさせない部分に問題があるのだろうか…
また、このシナリオに限った話ではないが“パーティエンド”…主人公が専属メイドを期日までに決定出来ないと発生するパーティがあるが、その展開になると唐突に、主人公をはじめとした各ヒロインの性格や性質が変貌してしまう傾向がある。
クリスにおいても同様で、魅麗同様“メイドの何たるか”に理解を示さない主人公に愛想をつかしてしまい、あげくが奴隷としてオークションに出されてしまうという「ちょっと待ってんか味皇のじーさん(意味不明)」な展開に突入する。
いくらなんでもこりゃないでしょう!
第一整合性が取れていないし、サブヒロイン編に突入するとパーティがあってもオークションは発生しなくなるんだから、いい加減この上ない。
ちょっと勘弁してほしかったヨ、コレは。
どーでもいいコトだが、クリスを指名した後のソードの行動には、疑問を通り越して憤りを感じる。
銃を構えられて「避ける」「避けない」の二択、「避けない」を選べば“関心しないな”と小言を言われ、「避ける」を選ぶと射殺される…とは?!?!
この場面では“クリスが背後にいた場合”という前提での行動選択で、後にこれがパドリーノを前にして現実化するという伏線になっている。
つまりは“第三の選択肢を見つけろ!”という意味なのはわかるが、だからってゲームオーバーにしてしまう事はないでしょうが。
プレイヤー全員が、その手前で必ずセーブしている訳じゃないんだから。
●処女宮・バルゴの「ディアナ」 評価C
・人間嫌いのパドリーノの、唯一お気に入りのメイド。人形の様な美しさと、徹底した忠誠心を併せ持つ。
しかし彼女もまた、暗い過去ちを背負ってこの屋敷にやって来た人間の一人だった。
葛城の専属メイドに指名され、彼女なりの態度で懸命に尽くす毎日…そんなある日、突然葛城の前から、ディアナが姿を消してしまった!
どうやら、恋人エンドがトゥルーに相当するらしいシナリオ。
父親に忌み嫌われていたり、人身御供同然で屋敷に送り込まれていたりと結構可哀想な境遇ではあるのだけど、彼女そのものの心理的表現能力が乏しいため、それがあまり伝わってこない。
しかし、シナリオはそれをうまく利用しており、主人公がディアナの心情を模索し続けるという展開にすり返られている。この転換の方法は実にうまい。
主人公がディアナに思い入れ、クリスに所在を無理に尋ねる経過に多少難を感じるが、全体的には良く出来た方でしょ。
少なくとも、魅麗のバッドエンドのラスト間際に感じた「この人いったいナニ?」がないだけマシかも。
アンの件や、パーティの時に姿を現す父親の一言、さらに初Hの時の“無茶な奉仕(そういう風に刷りこまれている)”に、切ない悲壮感が漂っている。
とはいえ、最近の傾向なのか何でもかんでも受け身というデイアナの姿勢には相当な違和感が感じられる。
確かにディアナがそういう姿勢になる経過と心理などは描写されているが、それがそのまま彼女の個性に直結していない。
なんとなく遊離している印象がある。
ディアナのああいう性質に、無条件に思い入れられる場合は問題ないのだが、あくまで「キャラクター=物語を構築する素材の一つ」という見方をすると、ちょっと弱い。
ディアナサイドで物語が進行しているのにも関わらず、彼女自身が置いてかれている印象が拭えないのだ。
また、ラストでクリスが活躍(笑)してくれるもんだから、トリは持って行かれちゃうし…
でもまぁ、これらは無理に難点を上げれば出てくるレベルだから、全体的にはまだマシなんだろうね。
しかし、いくら後で説明されるからといえ、からくり時計を止める事の重要性・問題性がほとんど見えてこないというのは困りもの。
もう少し謎を開け広げてもよかったと思うのだが。
シルヴィアーナが死んでしまうという展開には結構度肝を抜かれたが、対してソードの絡み方が不充分だった感もある。
もっともそれは、私が手前でクリスエンドを経験しているが故の弊害なのかな?
「彼」による殺人予告(伝書鳩の手紙)もここから登場するが(あ、進行手順は先の通りに行ったら…という前提なので念の為)、ジェーンシナリオを経由していない限り全然訳がわからない。
いや、そりゃあ出て来ていない要素が多いのだからわからないのは当然なんだけど、あまりに“隠しすぎ”なのだね。
どんなに捨てても戻ってくる手紙という表現で、何か妖しい力が関わっているのは充分わかるのだけど、このシナリオでももう少し明かしておかなくてはならない部分があったんじゃないかな? と、今でも思う。
第一「彼」については、最後までプレイヤーの想像力に委任されている不確定要素な訳だし。
結局パドリーノの屋敷を引っ掻きまわすだけのパニック用素材に過ぎなかった「彼」なんだから、もう少し書き込まないと、“真菌”の件とか“シルヴィアーナの計画”等と混合してパニクってしまう人も出るんじゃない(そりゃないかな…)?
エンディングについては、日本に帰還する主人公について行く理由構築としては非常にベストだと思う。
飼い猫の名前が、母親の故郷にちなんでいたというのには、正直ビックリさせられた。
“イズモ”という名前から、日本がどこかに絡む事はありありだったけど、ああいう使い方は個人的にツボ。
だけど…メイドエンドは…破綻しまくりでは?
あの豪邸に主人公とディアナ二人だけというのは、そりゃ理想かもしれないけど、生活維持ができるとはとても思えない。
それとも、そういうヤボな事は突っ込むな、という意思表示なのだろうか…?
パーティエンドについてはあえて不問。
どうして主人公は、鬼畜系エンドになるとああまで性格が変わってしまうのでしょーか?
だけど、酒飲んでブッ倒れるディアナの表情だけで充分元を取った気がするのは、自分だけ?
ちなみに、遊戯室でディアナがやっていたタロット占いは初歩的なもので、初心者に最初に案内される方式…のアレンジと思われる。
本来なら、左手側に配置されるカードにはもう一枚加わり、全10枚を使用する。
占い結果はあくまでインスピレーション(&この場合はゲームの伏線も兼ねている)だから云々理屈をこねるのは間違いでしょ。
だけど、最後の「愚者」のカードは、明らかに解釈ミスじゃないの?
「外来」を示す暗示は見て取れないが…
あれだけ、ゲーム進行のために無理にこじつけた感が強くって、凄い違和感があったよ。
あ…占いやらない人には全然関係ない話ですね。失礼ぶっこきました…m(_
_)m
●天秤宮・ライブラの「ジェーン」 評価C
・コムニオンと対立するシチリアマフィアから、交換人質として連れて来られた少女。
同時にシチリアマフィアのボスの実娘。本名はジョバンナ。
ジェーンを専属指名した主人公は、島の海岸で奇妙な手紙入りの瓶を拾う。
しかしジェーンは、何も言わずにそれを丸ごと手渡して欲しいという。しかも、中を読まずに、だ。
その日から、少しずつ屋敷の中の雰囲気が変わり始めるのだが…
ディアナシナリオでも登場してくる“名前を書き連ねただけの手紙”の謎解き編。
ただし、これもクリス編同様物語の濃厚さが際立ち、さほどキャラクター個人を掘り下げた描写が目立たない。
もっともジェーンは、その明朗さから他のシナリオでも存在をアピールしまくっていたから、決して没個性になっていたという訳じゃない。これはこれで完成形なのだ。
彼女の方も、完全に恋人エンドがメインとなっている。
メイドエンドやパーティエンドは、はっきり言って蛇足以下に甘んじている。
この落差があまりに極端で閉口するが、メインのエンディングの後に登場する「彼」が、トリのオイシイ部分を丸ごとかっさらってしまうため、“ジェーンとのエンディング”ではなく“「彼」のエンディング”にすり替わってしまうのだ。
ジェーンに重点を置いて見ていると「オイオイ」といった感じだが、これはこれで面白いでしょ。
直前までに、一度「彼」の存在が“巧妙なトリックによって演出された狂言”“アントニオの自作自演”であるように見せかけておいて、最後に落とす展開も興味深いものがある。
意外とディアナもストーリーに絡んでくるのは、見逃せないポイントだ。
しかしよくよく考えてみると、やはり「彼」の存在意義はあまりない様な気がしてならない。私だけが思っている事かもしれないが。
一応ディアナの父親が絡んでいるらしきニュアンスは出てくるものの、「彼」がこの物語の中でやった事は“屋敷の中をちょっと引っ掻き乱しただけ”に過ぎない。
この後乱発する数々のハプニングの中では、意外と印象が希薄なのだ。
それならばいっそ、他の崩壊要因の方をさらにピックアップさせて欲しかった気がしてならない。
第一、最後の最後で主人公の前に姿を見せたからといって、それですべて満足できる結末にはならないと思うんだが。
トドメに出てきた人外の「彼」…ちょーっと単純だったんじゃないかな?
また、クリス編辺りから登場し始める謎のショットガン爺いヨシュアの行動も、なんか唐突で印象が良くない。
これもまた「彼」の力による導きなのだろうが、取ってつけたかのようなハプニングなのだ。
そのためか、ブルーノの死が単調に感じられて深みがない。
ほとんど報告だけで済まされてしまうソードの死についても同様だ。
両者とも、他のシナリオでそれぞれ活躍する重要な役どころなのだから、いくらメインのシナリオじゃないからといってこの程度のぞんざいな扱いにおとしめてしまうというのはどうか?
「彼」の能力を計り知る描写以前の問題だと思う。
●獅子宮・レオの「マリア」 評価D
・葛城が専属メイドの指定を拒んだ翌日、パドリーノの孫娘を主賓としたパーティが行われる。
世間知らずで明朗活発なお嬢様・マリアと出会った葛城は、なんとなく彼女に興味を覚える。
しかし彼女は、本当は単なるパーティの主賓として招かれたのではなかった。
かつての同僚医師・アレックスは、パドリーノの存命処置のために非合法な手段に訴えかけようとするが…
メインヒロイン4人攻略後にプレイすると展開を良く把握できるシナリオで、一応の隠しヒロイン第一号。
それまではパーティ会場にキャラカーソルがポツンといるだけで、それ以外は一切登場しないという徹底振り。
パドリーノの溺愛する孫娘という事から、さぞかし物語の謎に突っ込んた展開になるだろうと期待して…ちょっと裏切られた。
マリアがパドリーノのドナーとして最適の条件を備えていて云々の部分に問題はないと思うのだが、途中から出てきた分マリア自身のキャラ立ちが甘く、イマイチ感情移入できない。
主人公と仲が良くなるくだりも、取って付けたかのようなスタンダートさだったのは興ざめ。
また“お嬢様”というイメージを、特にひねらないでそのまま適応している感じのため、ちょっと食傷感が否めない。
いくらなんでも、このご時世に「子供はコウノトリが運んでくるのよ」はないだろう!
それは“性教育の不徹底”って奴で、今では逆に問題になるのだが…
またシナリオそのものの完成度とは別に、マリア自身の本編内での使われ方も寂しい。
パドリーノの孫娘という立場を有効利用すれば、もっと重みのある設定が付加できた筈だ。
マリアが登場する頃には、だいたいのプレイヤーが“核心”を追求したがっている頃だと思われる。
メインストーリーにほとんど登場しない上、それくらいの時期に登場するのだから、それなりのバックボーンを期待されてしかりという奴だ。
しかし、ここでただのドナーで終わってしまうとは…ましてエンディングが“駆け落ち”ではねぇ…なんか、はぐらかされた感が強い。
ホントに見たまんまのキャラなんだもんなー。
とはいえ、シナリオ的にはそこそこの充実感を見せ始めている。
まずパドリーノがクリス編メイドエンド間際で見せた行動の理由が、あらかた見えてくる。
また、主人公をサンタマリア島に招いたアレックスの真の企みは、なかなか説得力があって良い感じがする。
メインヒロイン編各所で出てきた“日蝕の日、主人公に何があったのか”という件、その一端が見えてきた…ように見えて、実は別件だったという演出も良質。
実際この答えはフローリィシナリオまで待つことになるのだが、これくらいならはぐらかされても良いレベルではなかろうか。
キャラクター人物総関係を確認するという意味では、実に良く出来たシナリオだった。
…ところで、例の兄ちゃんがどうして「スペイン送り」を嫌がっていたのか、良くわからなかった。
何かのネタ? それとも、宗教絡みの話?
マリアの態度とBGMから、どうもギャグらしいのだけど、全然わからなかったよん。
そうそう、もう一つだけ。
グルーチョ料理長の暴走、大変楽しませていただきました♪
しかし、どこかで聞いたようなお声………………はぁっ?!
ま、まさか貴方は、はうあっ! と、と、東方先生いいぃぃぃぃ?!
「ぬるい、ぬるいぬるいわぁぁぁぁっ!!」
…すみません、私この台詞だけで御飯3杯はいけます。
●双魚宮・ピスケスの「ヘレナ」 評価B
・専属メイド指名の日が近付いたある日、葛城は屋敷の勝手口で、洗濯担当(ランドリー)のメイドと激突する。
彼女はヘレナ。魅麗やクリス達よりも下に属する、下働きメイドだ。
“目に合わない眼鏡”の問題を解決してやった事から、葛城はヘレナと親しくなる。
そして専属メイドにヘレナを指名した途端、パドリーノとシルヴィアーナ、そしてなぜかボディガードのブルーノまでが、葛城に不可解な態度を取り始めた。
ヘレナとブルーノの間には何があるのか?
そして、ヘレナの姉であり行方不明のメイド“サリナ”は何処へ…?
多分後述の「マナシナリオ」がなければ、ダントツAランク評価を出したシナリオ。
そういう事だから、決して「Aに劣っているB」という意ではないので、念の為。
ハッキリ言い切ってしまえば、ヘレナは「メガネをかけた丸チ」。
「〜ですぅ」という喋り方から、連発するドジ、子供みたいな態度と外見、それでいて仕事には忠実…どういった路線を狙ったのか、これほど解り易いキャラはいない。誰がどー見ても“○チ”と言うだろう。
当然、それだけしかめぼしい要素がないならば、私は評価なんか全然しない。
しかし、ステロタイプのキャラ描写に気を取られていて…ヤラレた。
これ、エンディングはトップクラスの完成度かもしれないよ!(後のフローリィのバッド?エンドもかなりポイント高いんだけどね)
そういう風に、プレイヤーの目をそらせる意味を持たせてのキャラ設定だったのなら、これ以上の成功はない。
…ホントにそういうつもりだったかは、知らないけどね(^^;
ヘレナ父親代わりだったブルーノが絡んでくるところから、このシナリオは迫真性を帯びる。
これまでもクリスにソード、ジェーンにアントニオが絡んでは来たが、今回はそんな比ではなく、かなり濃密な関わりを持っている。
サブキャラクターとばかり思っていた存在が、メインの位置にせり上がる重要な場面だ。
ヘレナそのものにはさほど重いものを背負わせず、その役をブルーノに肩代わりさせ、最後に彼女自身の心情を独白させる…とてもバランスのとれた演出と言えよう。
行方不明となった姉・サリナの話は、すでに冒頭部からチラチラと浮上していたので、こちらも「いよいよか!」という気持ちにさせられる。
そして、それに見合うだけの手応えが返って来るシナリオなのだ。
庭師ゲオハルトの自宅から発見されるサリナの指輪、ブルーノの葛藤、そして前任の医師とサリナの関係の浮上…これらの謎が立て続けに登場・解決され、嫌が上にも盛り上がる!
こういうストレートさが他のシナリオにもあればと思うと、本当に惜しい気がする。
経過時間の都合で、やや唐突に距離が縮まった感はあるが、この屋敷のメイド達が主人に仕えるという気持ちの重要さをすでにタップリ描写してくれているので、彼女の場合も納得出来る様になっている。
元々自分に理解のある存在に対しては、積極的な姿勢を見せるヘレナのキャラ立ちは、こんな時期に初登場(実際にはもっと早くチラチラとは出ているが)した割には充分だ。
島を脱出する際、主人公をかばって放つ言葉と、以前まったく同じ事をしてブルーノに射殺されたサリナの場面の重ね方は見事! そして、ブルーノがどんな気持ちで愛娘・サリナを射殺したのかという部分にもきちんと切り込んでいるため、ラストの展開は異常に高まる。
また、脱出後ブルーノの調査によって本当の両親の行方が解った時の、ヘレナと主人公の気持ちのやりとりは、本編全体を通じて1・2を争うくらいの名場面となっている。
雪の降る夜、シベリア鉄道に乗り旅立つヘレナと、窓越しのくちづけ…もう2度と会えないかもしれないのに、それでも帰りを待ち続ける主人公…希望と別離が切なく交錯する、美しすぎる名場面だ。
このシーン一つで、明らかに私の全体評価が1ランク上がっていると思う。
…が、やはりというかメチャクチャな展開もないわけじゃない。
このゲーム、メインルートから外れてしまうと主人公を含めた周囲の状況が、突然暴走を始めてしまう悪い部分がある。
魅麗とクリスのパーティエンドで突如浮上する“奴隷オークション”なんかが一例だ。
ヘレナの場合も、Hシーンの選択肢一つで突然こちらにシフトしてしまい、プレイヤーの困惑をよそに勝手に話が進んでしまう。
どーしてHをリードすると綺麗な展開になるのに、無理矢理やっちゃうとバッドなんでしょ?
どっちにしてもヤッてる事には変わりないんだから、アントニオの「よくも傷物にしたな」発言はおかしいのでは?
こういうのが、鷹羽氏嫌うところの「設定が突然変更される」という奴なのかなー?
やっぱりここのメイドが、いずれ奴隷として売り出される商品だ…ってのは、無理がある設定だと思う。
なおサリナはその死後、さらにとんでもない目にあっていた事がこの後の「マナシナリオ」で発覚。
こういう繋ぎ方って、個人的にとってもツボなんだよねー。
●宝瓶宮・アクエリアスの「マナ」 評価A
・庭師ゲオハルトの家に同居する少女・マナ。彼女にはイタリア語・ドイツ語・英語のすべてが通じない。
ある雨の夜、葛城は屋敷の前でうずくまるマナを発見、下半身からの出血を認め、慌てて保護しようとする。
漂流者としてこの島に辿りついた彼女は、ゲオハルトの言いなりで家畜以下の生活を強いられてきたのだ。
ゲオハルトの外道ぶりに怒りを燃やす葛城だったが、彼の身体の異常を見止め、警戒を促す。
深夜、海岸の隠し洞窟へ通うゲオハルトを発見した葛城は、こっそりと後をつけてみる。
その洞窟の奥では…地獄絵図が広がっていた!!
後藤が最高の完成度と確信しているシナリオ!
サスペンス・疑惑・猟奇・謎・鬼畜・哀愁・悲劇・災厄等々の要素が実に複雑に絡まり合って、これまでにない傑作に仕上がっている。
比較的独立した感の強いシナリオではあるが、サリナのその後(ブルーノに射殺された後、なぜ指輪だけが彼の家の中に落ちていたのか…)についてもキチンと触れていたり、パドリーノが他のシナリオとは異なるアプローチを主人公にしてきたりと、「これでもか」というくらいに見所に溢れている。
明らかにシナリオ自体では、メインヒロインのそれを食ってしまっており、もっと早くこういう濃密な展開が見たかった! と心底思った程だ。
逆を返すと、どうしてこのシナリオだけこんなに内容が濃いのか、疑問にも思えてくるのだが…
言葉が通じず、そのため一方的なやりとりしか出来ずに苦悩する主人公と、少しずつ警戒心を解いて接してくるマナの描写がまず秀逸。
また、メイド選択を拒絶して最低ランクの使用人扱いにされた主人公に対して、変わらず協力的な姿勢を見せる魅麗の活躍も見逃せない。
だけど本シナリオ最大の見所は、やはり“ゲオハルト”だろう。
横田節炸裂の小汚い親父♪(<待て、落ち着け!)で、その辺にもっとも注目していた私の様なプレイヤーは、まず大歓喜!!
しかしまぁ…とんでもない奴だね、こいつ。本作のあらゆる憎まれ役の数倍上を行ってるわ。
死姦癖持ちで、愛玩用にストックしてあった死体からペストに感染しているというのも恐ろしい話だが、その死体の中にサリナが混じっているという所に、このゲームの根底に流れる“おぞましさ”が伺える。
もちろん、これはエッセンスとして必要な意味での“おぞましさ”だ。
さすが横田氏、サターンで女性の半裸死体をCGで描いただけの事はある(関係ないか)!
ゲーム冒頭で、主人公が“伝染病が発生した場合の問題”を示唆するシーンがあるから、まさに悪い予感的中という描写となり、深みを増している。
主人公の、医師としての技量と考え方もふんだんに書き込まれていて好感が持てる。
あれほど憎んでいたゲオハルトを、最後まで治療しようとする姿勢もさる事ながら、マナへの感染の危険、さらには島内の人々に感染してしまった場合の対策も考慮している所はさすがだ。
最初の頃いまいち医者らしい感じがしない分、こういう所で稼いでいるね。
また、ここでのパドリーノの対応も他のシナリオにはない反応で面白い。
ゲオハルトに対して負い目を感じていたが、それ故に放置したためにとんでもない事になっていたのだから、自ら事の収集に赴くのは当然の事だ。
主人公とパドリーノが、同一の目的のために行動するというのも、ちょっと別な意味で燃える展開かもしれない。
ただ、あんな殺し方する事はないと思うんだが…今回だけは可哀想だよ、パドリーノ…
やっぱり、彼は最後には死ななきゃならないのですね、合掌。
しかし、それらサスペンス描写以上に素晴らしいのが、隠しヒロイン第2号・マナの表現だろう。
近年色々と話題となった、ユーゴスラビアのコソボ自治州から逃走してきた避難民で、その際に家族を失ってしまった少女。
姉を地雷で死なせてしまい、そのため(現地の言葉で)「地雷だ!」と叫ばれると、思考ループ状態となって放心してしまうというのは悲しすぎる設定だ。
そりゃあ、地雷で両足吹っ飛んでまだ生きてるのに、助けにもいけず姉を見殺しにせざるをえなかった…なんてったら、トラウマになるのも仕方ないが…
また、ゲオハルトからの常軌を逸した扱われ方も凄みを増しており、彼女の境遇のひどさを強調している。
確かに、主人公でなくともこんなにむごい扱いをされている少女なら、助けたくなるのも道理だ。
この辺の感情移入がストレートに行われるため、あまりキャラ立ちしていない感のあるマナの存在も、ちゃんと際だってくるのだ。
しかし…寝床までゲオハルトの愛玩用死体と一緒だったなんて…よく平気だったなぁ。…いや、決してペスト感染の事だけじゃないよ。
精神的苦痛を与える拷問の一つで有名なものに、“腐乱死体と一緒に長時間閉じこめる”というものがある。
これは、大概の一般人なら1〜2日で発狂してしまう。
腐臭と恐怖だけを与えるのではなく、その死体を「親しい者・恋人のもの」とする事で、同時に絶望感も与えるのだ。
マナの場合はサリナの死体と一緒だったのだから、さぞかし精神的ダメージを受けたことだろうが。よく耐えていたものだ…
途中からマナの精神葛藤や回想が多く挿入され、それまでの流れから遊離してしまう感もないではないが、それを補ってあまりある面白さが堪能出来る。
繰り返しになるが、本当に、メインヒロインシナリオでもこれくらいの手応えが欲しかったものだと悔しさすら感じてしまう(ま、アレはあれで良いのだけどね)。
対してエンディングがかなり平凡に片付いている感もあるが、あれだけハードな人生を生きてきたマナなんだから、逆に最後くらいは真っ当に終わらせて良いとも思う。
…しかし、このシナリオもやはり、事の真相への追求はないままだったのね…
あ、ちなみにバッドエンドはまぁアレでソレなんで、あえて触れません。終わり。
●巨蟹宮・キャンサーの「フローリィ」 評価B(ただしエンディングは激A!)
・葛城が専属メイド指名を拒否した時、パドリーノとシルヴィアーナの関係に明らかな亀裂が発生した。
彼女の持ちかけた“計画”が、葛城の選択によって完全に座礁したのだ。
ある夜、葛城はどこからか流れてくる歌声を耳にする。
その正体を知る者は、館の中には誰もいない。どうして主人公だけに聞こえたのか?
館に来てから2週間が過ぎようとしている頃、葛城はふとした事から、町に住む老人・ヨシュアと出会い語らう。
この島の事、パドリーノの事、そして彼とかつて恋仲だったヨシュアの姉の事…あまりに重い彼の過去に触れる葛城に、複雑な想いが交錯する。
そんな時、シルヴィアーナは一本の鍵を葛城に手渡す。
その鍵によって開かれた秘密のエリアには、予想も出来なかった驚愕の事実が隠されていた!!
おそらく、過去に存在したあまたのギャルゲーの中で、もっとも巧妙に隠されていたのではないか? と思われる“隠しヒロイン”フローリィ。
少なくとも私には、これ以上完璧に存在を隠蔽されていたヒロインを知らない。
本シナリオは、様々な謎と思惑を秘めていたパドリーノ自身の過去の独白に始まり、これまで全く解明されていなかった謎“真菌”の件の解決で集束する。
シナリオ中、展開を左右する選択肢がたった一つしか登場しない事からも、これが後日談的なものであることを証明している。
いやはや、まいった。
何がまいったかって、これだけ引っ張って登場したにも関わらず、ちゃんとキャラ立ちもしていれば起伏のある展開も準備されている。
個人的好みを廃して考えると、これまた素晴らしい完成度を誇っているのだ。
うーん、どうしてこのゲームは、サブヒロインのシナリオの方が面白いのか…
ゾンビのように徘徊する謎の男達の正体と、サンタマリアだけに育成する“真菌”の驚異的な能力、そしてそれを利用して自らを延命させようと考えるパドリーノ…さんざん引っ張りまくった裏設定がようやく暴露され、最後の大活劇が始まるのだが、パドリーノがどうしてそんな事を企んだか…その理由がフローリィの存在だ。
60年前、共に島を脱出しようとして助ける事が出来なかった少女と、時間を共有しようとする気持ち…助けられなかった若いときの自分を“精神的に”切り分けて隔離してしまった過程、そしてシルヴィアーナの占呪術を利用し、それが叶わぬとみるや“真菌”の力に委任してしまう意志…これらが、彼の手記によって克明に語られていく。
いわば「DESIRE」で言うところのマルチナシナリオ的な存在だ。
物語の中核をになっていた人物の独白だけに、そこには異様なほどの説得力が感じられる気がするのだ。
また、これまでの悪役然とした存在だったパドリーノにも感情移入が出来るようになり、唯一、彼が死ぬシーンが悲しく感じられるようになっている。
人間の細胞を擬態して増殖し、人間と全く変わらない姿の“プラント”を作り出してしまう“真菌”。
ゾンビ(?)達の正体は、これによって身体のすべてを菌に乗っ取られた連中だったが、こういう能力を持っている菌類は現実に存在する。
「大腸菌」がその一例だ。
大腸菌は、DNAを取り込んで複製・量産するというとんでもない能力を持っており、おそらく“真菌”も、これらを参考にして設定されたものだろう。
フローリィは、その真菌に身体を乗っ取られながらも、脳と中枢神経だけは冒されなかった“奇跡の融合体”。そして、ヨシュア老人の実の姉だった。
60年前に別れすでに死んでいるだろうと思っていた恋人が、当時のままの姿で、しかも離ればなれになった島の地下で生き続けていたなんて、パドリーノにはどれほどの衝撃だったか…計り知る事も出来ない。
こういうパックボーンをきっちり描写しているため、このシナリオには全体的にしっとりした悲壮感が漂っていて、じつに良い雰囲気を出している。
しかし、パドリーノの描写だけに留まらないのが、このシナリオの恐るべき所。
もう一つの秘密“日蝕の日、葛城に何があったのか”までキチンと触れており、しかもそれを複雑に絡ませる事で物語に深みを与えている。
あれだけ優秀な能力と経験を持つ主人公が、どうしてベルリンでくすぶっていたのか、その時のトラウマがエンディングを二分するという形式になっており、かなり感心させられた。
そりゃあ…ま、あんな事がありゃあ誰だって…ねぇ。ショックだわ。
結局、主人公は真希を抱いたのか否か、自分でもハッキリしていない所に妙な味わいを感じる。
こういう部分でプレイヤーの想像に委任するのは、良いと思う訳で。
フローリィという存在を、ちょっと考えてみる。
もはや人間とは呼べない存在に変質してしまった彼女は、60年間という幽閉生活においてまったく影響を受けていない。
それどころか記憶すらも失っていない。それだけで完全に人間の理解の範疇を超えている存在だ。
彼女という存在が一人いるだけで、これまでさんざん引っ張り続けた謎に説得力が生まれているのだ。
これは、とても興味深い演出だ。
以前「ToHeart」プレステ版のレミィシナリオ評論で、私は“後から出てきたキャラクターを深く印象付けるためには、そいつに極端な事をさせればいい”といった旨の事を書いた。
つまり、室内で銃を乱射するレミィの父親の非常識さ(印象演出)に対するフォローだったのだが、今回のフローリィの存在そのものが、“真菌の謎”に対する同様の印象演出となっているのだ。
もしもこの件、フローリィというキャラやその類を一切登場させず、既存のキャラ固有のシナリオとして解決させようとしていたらどうだっただろう。
恐らくは、キャラクター描写よりもシナリオ面へのオファーがメインとなり、キャラの印象はかすんでしまうに違いない。
つまり、その存在自体が“真菌”を巡る秘密と密接に関連付いた存在を構築する必要があったのだ。
フローリィの存在意義は、そういったものではないかと推察する。
そのため、エンディングを迎えた時に彼女の役目は終わる。
2つあるエンディングのいずれも、フローリィの死によって幕を閉じるのはそのためだろう。
主人公がフローリィを抱かない選択をした際に発生するエンディングは、あまりにもせつなく、悲しく、そして美しい。
パドリーノの最期を看取ったフローリィは、主人公と共に島の外の世界へと旅立つ。
しかし、それは“真菌”が育成出来る唯一の場を離れる事になり、それを自ら選択した段階で、フローリィはすでに自らの死(滅び)を望んでいたのだ。
だからこそ島に戻った後の海岸で、主人公の膝枕に抱かれながら眠る様にこと切れたのだ。
予想外に訪れた死なら、あのような安らかな死は訪れない。
まして、牢を脱出する直前に主人公が言いよどんでいた事から、彼自身もその結末を知っていた事になる。
最後のわずかな時間に、それまで失っていた少女の時間を取り戻せたフローリィの幸福を祈りたくなる、珠玉のエンディングだ。
もう一方のエンディング…どうやらこちらがトゥルーに該当するらしいが、パドリーノ延命措置に燃えるアレックスにより臓器を奪われて命を絶たれるフローリイにも、別な意味での悲しさがある。
臓器移植により(なぜか)不死の存在となってしまったパドリーノと、主人公の対決…シルヴィアーナの手による助力でパドリーノは屋敷ごと滅ぼされたが、果たして主人公は死んでしまったのだろうか…?
一見「プレイヤーの想像に…」という展開に思えるが、これにはちゃんと結論が出ている。
主人公は、パドリーノと共に死んでいるだろう。
メインヒロイン編のバッドエンドで登場する“謎の花園”“謎のオルゴール”が、すべて伏線だったのだ。
『永遠の世界・エリュシオン』に旅立った主人公という形が、本来のこのゲームのエンディングなのだろう。
…もちろん、後藤には“フローリィの死エンド”が自分的トゥルーなのは言うまでもない。
さて、散々賛美したがちょっとだけ問題点。
まず“真菌”についてだが、つまりは人間の生態細胞に擬態しながら増殖し、仕舞いには身体全体を乗っ取ってしまう設定だ。
それをうまく増殖制御して、脳と中枢神経だけを残せば、事実上不死身の肉体を得る事になるのだという。
…ちょっと待ってよ、肝心な事を忘れてるってば。
生命体が不老不死たりえないのは、言うまでもなく細胞が老化もしくは死滅するからだ。
細胞の老化は、主に呼吸などからのエネルギー燃焼や循環によって引き起こされるとされている。
で、細胞そのものが老化しなくなれば不死身…というのは発想的にはいいが、脳や中枢神経も細胞の塊なんですけど。
まして脳細胞は、一発ゲンコツで殴られただけで数万個単位で死滅してしまうデリケートなものだ。
これらも真菌化し、かつ元の人間としての意思力も維持出来るようにならなければ、事実上の不死身たりえない。
ましてそうなってしまうと単なる植物ゾンビに過ぎない訳で…無茶が過ぎる。
まぁ物語の雰囲気にあえて呑まれて、その部分に目をつぶって気にかけないのも手段なのだが、ヘタに理屈をこねられるものだからちょっと引っ掛かったのだ。
これは決して、あの男達が本物のゾンビじゃなかったという事に憤っているわけではないので、念の為。 <ゾンビ映画マニア
また先に紹介したトゥルーエンドについても、中途半端な感が否めないのだ。
確かにそれまでの伏線を考察すれば見当はつくものの、すべてのプレイヤーがそこまで深読みするとは限るまい。
「仮面ライダークウガ」の最終回でも、実は主人公の五代雄介は前回の戦闘で死んでしまったのではないか、という意見があった。
彼のいる場所と時間の表記だけが、最後までなかったというのがその理由だが(ラストの場面は賽の河原?)、これらについて製作スタッフは“想像に任せる”という意味の事をコメントしている。
確かにああいう終わり方ならばどちらの解釈も自由だし、明確な答えも必要ない。
しかし本作の場合は、ここはきちんとした結末が必要な部分だ。
最後の最後で、またはぐらかされた気がしてなんともやるせない。
無理矢理タイトルにこじつけたように感じるのは、私だけなのだろうか…?
それにしても、やっぱりやっちゃいました。
ここまでの展開でなかったから、最後まで残ると思っていたお屋敷…やっぱ燃えちゃいました(号泣)!!
あ〜ん、せっかく“館モノの常識”を覆せると思ったのにいぃ〜!!
やっぱり「エイミーの法則」は免れなかったと…運命の螺旋からは、抜け出せなかったのね(謎)。
あ〜、やっと終わった…
(総評)
このゲームには、二つの側面が存在していると思う。
ひとつは、これまでの大量の“メイドさんゲーム”によって蔓延してしまった「間違った認識」を改める意味を持たせること。
“メイド”というものが欧米社会ではれっきとしたひとつの職業であり、当然それに誇りを持っている人達もいるという事を、このゲームはしつこいくらいに強調している。
つまりは“奴隷だかペットだか何だか良くわからない存在”として認識されている萌え萌えメイドのイメージを塗り替えるところから、世界観構築をする必要があったという訳だ。
クリスや魅麗の言葉、あるいはジェーンのさりげない仕草からも、それは窺い知れる(デイアナは言うに及ばず)。
相手がメイドで、自分に従属しているイコール恋愛対象じゃないってのは、常識中の常識だ。
これを、仮想体験であるべきゲームの中で描いた事は、結構すごい事ではないかと思う。
…だが、そこから踏み外してしまった場合の描写も、シッカリ描いている。
従属する者とされる者との間でしか育めない愛とやらは、私には残念ながら理解はできないが、いわゆる「理想論」で終わっていないところは賞賛すべきかもしれない。
少なくともメイドという存在が、物語には重要な意味を持っていたというのは間違いないから。
もう一つの側面は、やはり重厚な物語の描写に尽きる。
しかもその中には、先にも触れた通り普通のエロゲー・ギャルゲーでは触れない部分にまで立ち入っている。
国外の宗教事情・宗教対立によって起こる人間関係の衝突などは、日本人にはあまりになじみの薄いものだ。
しかしこれらをちゃんと紐解き、物語に重要なファクターとして取りこんでいるところは非常に評価できる。
まして、単なる知識の押し付けになっていないところもさすがで、この辺りについては私はもはや感嘆の声をあげるだけで、何も言う事はできない。
一人ひとりのキャラクターの掘り下げや描き方についても徹底したスタイルを貫いているため、非常に手応えを感じる。これだけ身の詰まった作品は、近年においてとても珍しいのではないか。
特にマナやフローリィ、ヘレナについてはそれが如実に感じられたものだ。
だが、そんな良さもシステムのとっつき悪さによって、かなりマイナスされてしまう。
あれだけ評判の悪かった「猟奇の檻第2章」システムの採用もさる事ながら、単純に難しさも弊害となっている。
もっとシステムあるいは物語進行を緩和して、純粋にストーリーや演出を楽しませる方向に考えた方が、さらなる高評価につながったのではないだろうか。
また、セーブシステムも不可解だ。
毎日就寝前にセーブが出来るのは良いとして、フィールド移動時にもセーブが出来るのだが、これが場面によって出来たり出来なかったりするのも困り者。まして重要な選択肢の場面では絶対に受けつけなくなっている。
ここでセーブが自由に出来ただけでも、かなり難易度は変わっただろうに。
なんだか、高い難易度で物語の先を読む事を封じているかのような印象すら受けてしまう。
どうも評判を伺うと、この難易度に邪魔されて難色を示した人達は多いようだ。
最後までクリアしてみなければ、物語の全貌がわからないゲームなのだから、次回以降は是非考慮していただきたい所だ。
高いクオリティとバランス感覚、凝った演出とストーリー、そしてとてつもなく緻密に描き込まれた背景美術…どれをとっても、非常に高度なランクに位置する作品『Elysion』。
さらなる濃厚なお話と車田テイスト、そして設定てんこ盛りの美少女と濃ゆいオヤジに期待をかけたいところですな!
(後藤夕貴)