『仮面ホウジョーV-1スペシャル 新たなる変心』
(今回長すぎてすみません前編)

 これは、3人の仮面ライダー+1の物語だ。

 『すでに仮面ライダーである男』
 津上翔一、仮面ライダーアギト。
 美杉家の人々と一緒に暮らしている。
 翔一は、本能的にアンノウンの活動を察知し、謎の幽鬼体『ホウジョー』の力で、A GIfT Of AGITatiOn…「アギト」に変身して戦う。
 さらにアギトは状況に応じて、最適な形態に変身することができるのだ。


 『仮面ライダーになろうとする男』
 氷川誠、G3-X。
 Generation3-eXtension…「G3-X」とは、未知なる敵に対抗するために、警視庁の小沢澄子が開発した戦闘強化服である。


 『仮面ライダーになってしまった男』
 葦原涼、仮面ライダーギルス。
 ある日突然『ホウジョー』の力を持ち、GUILty Suckling…「ギルス」への変身能力を得る。
 だが、ギルスに変身するたびに、涼の心と体は退行現象を起こす。


 『未知なる敵 アンノウン』
 『ホウジョー』の力を持つ、性格の悪い人間を狙い、その性格を矯正するという犯行を繰り返す。
 彼らの正体は、いまだ不明。
 3人の仮面ライダーの物語。
 今、時の流れが早まっていく…。

 …あ、ついでに、
 『仮面ライダーを越えようとする男』
 北條透、仮面ホウジョーV-1。
 まあこいつのことはどうでもいいが。


 とある街中。
 かつて翔一が記憶を失くした時の主治医だった国枝が、道に迷った老婆をバイクで家に送り届けようとしている。
 妙に北條に似たしゃべり方をする老婆。

 国枝「おばあちゃん…
  だから大ざっぱに言って、どっちなんですか?」
 老婆「(北條口調で)右…いや、左…やっぱり右です」
 国枝「さっきもおんなじこと言ってたじゃないですか…おばあちゃん」

 バイクを停める国枝。

 国枝「…おばあちゃん…これもとの道じゃないですか…
  もう…大ざっぱなんだから…」
 老婆「あ、そう。思い出しました」
 国枝「わかった!?」
 老婆「羊羹はいかがですか?」
 国枝「よ、羊羹ですか?」

 バッグの中から芋羊羹を取り出す老婆。

 老婆「あなたは、羊羹はお嫌いですか?」
 国枝「いや、大ざっぱに言って、大好きです!いただきます〜」
 老婆「そうですか。それは良かった。
  この芋羊羹は、とある老舗の有名な店で購入した超一級品でしてね…」

 ニヤリとしながら自慢気に長々と解説を始める老婆。
 が、話を全く聞かず、目の前の芋羊羹にかぶりつく国枝。

 国枝「…んまい…」



 後期オープニング『仮面ホウジョーFIGHT! 〜24.7Version』
 (元歌『仮面ライダーAGITO 〜24.7Version』)

 ライダーには 及ばない 僕らには ふさわしい役があるだろう
 まだ 届かない理想と現実 それでも イヤに目立つ
 セリフの ファン ゼロ! 仮面ホウジョー FIGHT!
 くどくしゃべる 理由がある
 ムカつい て ファン ゼロ! 仮面ホウジョー FIGHT!
 悪気(わるぎ)ない ヤジと…説・教!

 
『仮面ホウジョーV-1スペシャル」
 新たなる変心


 Gトレーラーの中。
 氷川が『V-1マイルド計画 装着員募集』のチラシを見ている。

 氷川「V-1マイルド…何ですかこれ?」
 小沢「『人にやさしいV-1』ってところかしらね。
  旧V-1システムに温厚感情機能を搭載。
  AIの性格を丸くして、北條透以外の人間にも装着できるように改造する」
 尾室「普通の人間にも…。
  で、その装着員を募集してるっていうんですか!?」
 小沢「下手をすれば…いえ、上手くいけば、V-1マイルドはG3-Xに次ぐ対アンノウン装備として量産されるでしょう」
 氷川「V-1部隊が組織されるっていうことですか。
  そうなれば我々としても心細い…いえ、心強いですね」
 小沢「まあ、そう上手くいくかどうか。
  でも上にしては上手い考えじゃないわね」
 尾室「…人間にも扱えるV-1…!
  小沢さん! 氷川さん! 僕、やってみます!
  テスト装着員に立候補してみます!
  ついに…ついに僕の時代が来たんですよ!
 小沢「…そうね! やってみなさい! あなたならできるわ!
  北條透でもできるんだから!」
 氷川「そうですよ! 尾室さんなら必ずできます!
  北條さんでもできるんですから!」
 尾室「はい! ありがとうございます! がんばります!」


 深夜。
 アンノウン(スカラベウス・フォルティス)がターゲットを襲っている現場に現れる翔一。
 ちょうど美杉邸を訪れていた国枝も、密かにバイクで後を追う。

 フォルティスに襲いかかられた翔一が、謎の幽鬼体を身にまとい、アギト・バーニングフォームに変身する。

 国枝「…まさか!!」
 翔一の様子を物陰で見ている国枝が、幽鬼体を見て驚きの声を上げる。

 アギトを吹き飛ばした隙に、姿を消して逃走するフォルティス。
 敵を見失ったアギト。
 周囲を見回すと、国枝が視界に入る。

 国枝「……」
 アギトの様子がいつもと違う。
 まるで北條のようなギラギラした眼で、性格が変わったかのように国枝を見つめるアギト。
 国枝「…これは…」


 (回想)

 国枝の息子の広樹が、異形の心に変心しようとしている。
 広樹の身体にダブって浮かぶ、幽鬼体の『ホウジョー』。

 (広樹「…(悲しげに)父さん…」)

 (国枝「広樹〜〜っ!!」)


 恐る恐る近づいていく国枝。
 が、急に国枝に襲い掛かるアギト!

 国枝「翔一…俺だ! 翔一! 翔一!」
 まるで聞く耳を持たないアギト。

 国枝に対して悪態をブツブツつぶやきながら、周囲の建造物を神経質な感じでひとつひとつ叩き壊していくアギト。
 アギトにタックルして必死に静止する国枝。

 国枝「翔一〜〜〜〜っ!!!」
 アギト「!」
 国枝の叫び声にビクッと反応し、動きを止めるアギト。

 ガクッと膝をつき、変身が解ける。

 翔一「……!!」

 自分の悪行にショックを受け、気絶する翔一。
 国枝「翔一! …翔一! 翔一!!」
 翔一を抱え起こそうとする国枝。
 国枝「……」


 翌朝。
 アギトがアンノウンと戦った現場に立つ北條と河野。

 北條「現場付近の状況から言って、アギトらしきものがアンノウンと戦った形跡がある」
 河野「確かにな。
  …だが、いつもとは違う。
  なんだか、癇癪持ちが暴れまわったような感じだ」

 周囲の破壊状況を観察する河野。
 河野「まるで、どっかの誰かがヒステリーを起こした時のようだな」

 北條「………
  今回もアギトは、我々より先に事件を察知しているんです」
 河野「アギトというと…例の、よく分からないアレか?
  お前が捕獲に失敗した
 北條「………
  アギトが謎のままである以上、他の方法で我々も事件を察知しなければ、いつまでも後手後手に回りつづけることになる」
 河野「事前に事件を察知するってお前…そりゃムリな相談じゃないか?」
 北條「たとえば、プロファイリングという手法はどうでしょう」
 河野「犯人の行動心理から、人物像を導き出すって、アレか?
  だが、アンノウンは人間じゃないしなあ」
 北條「いえ、私の推理では、彼らは人間に近い心理を持っているはずだ。
  彼らを人間として分析すれば、必ず何かが得られるでしょう。
 河野「ん〜…癇癪持ち神経質、おまけにヒステリック
  この状況から考えてみると…犯人は…」

 目を閉じて腕組みをしながら考えている河野。

 目を開ける。
 目の前には北條。

 河野「!」
 ポン、と手を叩き、北條を指さそうとする河野。

 北條「(焦って)そ、それは少し推理が飛躍しすぎているのではありませんか?」
 河野「そうか?」
 北條「やはりここは、専門の心理学者に調査を依頼した方が良いでしょう」
 河野「だったら俺が心理学者を知ってるよ」
 北條「河野さんが?」
 河野「ああ。昔の、事件関係者なんだが…」


 美杉邸。

 ベッドに寝かされている翔一。
 そのかたわらでは、国枝が悲痛な表情で息子の写真を眺めている。
 やがて、目を覚ます翔一。

 河野に書いてもらった地図を頼りに、車で心理学者の家にたどり着いた北條。
 北條「…ここは…」

 美杉邸であった。
 中に入ろうとする北條。

 すると、玄関横の窓の隙間から、話し声が聞こえてくる。
 思わず聞き耳を立てる北條。

 翔一「…見られちゃいましたね。俺が途中から『ホウジョー』になったとこ」
 北條「…!」

 国枝「『ホウジョー』?」
 翔一「あの性格、『ホウジョー』っていうらしいんです。
  俺、『ホウジョー』なんです

 北條「…『ホウジョー』?」

 翔一「…でもまさか俺が先生にイヤミを言うなんて!
  俺…・自分でも自分の心がコントロールできなくて!
  俺が…俺が俺でなくなっちゃうなんて!」
 国枝「翔一…落ち着け!」

 北條「翔一…津上翔一も…あの津上も…『ホウジョー』!
 立ち去る北條。

 翔一「俺は、すっかりアギトを自分のものにしてたと思ってた…
  でも、『ホウジョー』はそうじゃなかった…
  …すいません、俺…一人にしてもらえませんか」

 翔一の心情を察し、立ち去る国枝。


 警視庁。
 尾室「僕、感動しました!
  あんなに強く、僕のことを上に推薦してくれるなんて!
  ありがとうございます!小沢さん!氷川さん!」
 氷川「いえ、そんな…」
 小沢「本当のことを言っただけよ。
  あなたがV-1マイルドを扱えれば、後は北條透でなくても扱えるわけだし。
  テスト装着員としてあなた以上の人間はいないわ」
 尾室「はい! がんばります!
  あ、そうだ! 僕、氷川さんの弟子にしてくれませんか?」

 顎に手を当て、考え事をしながら歩いてくる北條。

 氷川「…北條さん」
 小沢「どうせあなたはV-1マイルドの装着員にも立候補してるんでしょうけど、無駄なことよ。
  尾室君にかなうはずがないわ。
  彼こそ本物の『人間』よ」
 北條「V-1マイルド? 何の話です?」
 小沢「何とぼけてるのよ。あれほどV-1プロジェクトにこだわっていたあなたが」

 ニヤける北條。

 北條「かわいそうな人たちだ。いつまでそんな低次元の話をしているんです。
これから私がしようとしていることを知ったら、きっとあなたたちは私の足元に跪き、今までの無礼を涙ながらに詫びるでしょう。
  私は許しますよ。あなたたちを。
  小さな子羊たちをね」

 ポカンとしている小沢たちを残し、歩いていく北條。

 小沢「(自分を指さし)…子羊?」
 氷川&尾室「(小沢を見ながら揃って首を振り)いいえ…」
 小沢「え?」
 氷川&尾室「あ、いや…」
 小沢「………」


 警視庁。
 階段を昇りながら携帯電話で話している北條(相手は沢木か?)。

 北條「ええ。『ホウジョー』ですよ。間違いありません。
  保護次第そちらに連れて行きますので、受け入れ態勢を整えておいてください。
  ええ。いずれにせよ、長期に渡って歓迎することになるでしょう」

 川原に寝そべっている国枝と翔一。
 ポケットから写真を取り出し、眺める国枝。

 翔一「何ですか?」
 国枝「息子だよ…俺の」
 翔一「先生にお子さんがいたんですか?」
 国枝「…家出をした」
 翔一「……」
 国枝「もう半年になるかなあ。
  消える少し前に、息子の心も『ホウジョー』になった」
 翔一「『ホウジョー』に?」
 国枝「ああ。
  そういう性格が、世の中に広がっているかどうかは、俺には分からんよ。
  …しかし、広樹は『ホウジョー』になることに耐えられなかった。
  あいつは…『ホウジョー』に負けたんだよ」

 国枝の回想。

 (広樹「(すっかり北條口調に変わっている)…お父さん、私は、私でなくなってしまいます」)

 (国枝「…広樹…」)

 (広樹「私は、姿を消すべきだと思います。私が私でなくなってしまう前に」)

 (国枝「(心底悲しそうに)広樹ぃ〜〜〜〜っ!!」)


 国枝「俺は…あいつを救ってやれなかった。
  だから…お前は『ホウジョー』に負けるな! 心で負けるな!

 物陰から翔一を監視している北條。

 国枝「(空を見上げて)空はいつだって空だ!
  晴れてても曇ってても、雲の上は変わらん。ホントはな。
  …だけど、おんなじ空だったら、晴れてる方がいい」
 翔一「………」

 北條「………」


 アンノウンの反応をキャッチし、国枝と別れてバイクで現場へ向かっている翔一。
 その行く手を北條の乗ったパトカーが塞ぐ。
 バイクを停める翔一。

 翔一「…北條さん」
 北條「一緒に来てくれませんか…津上翔一。いや、『ホウジョー』!

 翔一「!」

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