柏木悠里の徒然ビュー

XIV.何となく価値観の違いについて考えてみた

 価値観=何に価値を見いだすかに関するそれぞれの考え方
(三省堂デイリーコンサイス国語辞典より引用)


 東京に雪がちらつく季節に、東京都庁上空2000m付近を移動要塞“ゴールデン・ニッポニア”が、ふうわりふわりと飛んでいた。


▲ ドクター博士
▲ ハナモゲラミミズ星人
▲ ねこみみずん
ドクター博士(以下博士):「ずいぶん久しぶりにスポットが当たった気がするのぉ〜。まあ良いわ。みみずん、もしハナモゲラミミズ星人と地球人がラブラブ(はぁと)になったとしよう」
ハナモゲラミミズ星人(以下みみずん):「えええええっ!! 博士、みみずんにはすでに5人婚約者がいるんだよ。誰かとの結婚をキャンセルしないと、そのプロポーズは受けられないな〜」
博士:「……違うよ」
ネコ耳のハナモゲラミミズ星人(以下ネコ):「じゃ、じゃあ、Meですかみにゃ? Meはすでにハーフなので、異星人間結婚には抵抗があるみにゃ」
博士:「……それも違う。今、価値観の違いについて考察しているのじゃ」
みみずん:「え〜? 価値観?」
博士:「考えても見ろ。我々がず〜っと出番がなかったのは、地道に世界征服資金を貯めたり、工作活動をしていたからじゃ」
みみずん:「まあパルバドス国なんかにキャッタンを出したりしたけどね」
ネコ:「日本じゃ全く話題にならなかったみにゃ」
博士:「失礼な話じゃな。仮にも北アメリカだし、ジュネーブ条約加盟国なのに」
ネコ:「米軍が出しゃばってこなくて良かったじゃないですみにゃか」
博士:「そりゃ、対イラクで忙しいのに、巨大なネコモドキが現れたからって、すぐ帰ったら何も来ないだろう」
みみずん:「キャッタンは気まぐれなんだよ」
博士:「カ、カプセル怪獣のくせに……。はっ! 話がどんどんそれていく!!」

みみずん:「ええと、ねこみみずんと博士がラブラブになったらどうする? だっけ〜」
博士:「激しく違う!! よいか、世界には気候・宗教・その国が積み重ねてきた歴史等によって様々な風俗・習慣がある。それによって、色々な価値観の違いがある訳じゃ」
みみずん:「そだね。でも、それがどうかしたの?」
博士:「地球を征服するにあたり、そういった数々の価値観の違いを考慮しないと、その後の統治が維持できない。先にディスカッションしておこうと思ってな」
みみずん&ネコ:「きゃはははははは。博士ってば真面目〜♪」
博士:「みみずん、ねこみみずん。笑い事では無い。征服者は征服した後が重要なのじゃよ」
みみずん:「う〜ん? そこまで言われてないからな〜」
ネコ:「夏休みの宿題だからみにゃね。まだそこまで高度じゃないみにゃ」


博士:「夏休みの宿題―――――――っ!!!!!」


みみずん:「ハナモゲラミミズ星では、他星征服は小学校の夏休みの宿題の定番だよ」
博士:「他星征服は植物採集か!? 昆虫採集か!? 朝顔の観察日記か!? それとも魚の鱗比べか!? カエルに煙草を吸わせたりする事か!?」
ネコ:「他の例えは何となくわかりますみにゃけど、最後のは何ですかみにゃ?」
博士:「テキスト打ち代行してくれている柏木が小学生の頃、自由研究の文部大臣賞かなんか取って、書籍として出版された研究じゃ」
みみずん:「カエル虐待じゃないの?」
博士:「昭和50年代の小学生に、そんな概念ある訳がない。それにしても小学生の宿題だとすると、大人が異星征服に乗り出したらさぞかしすごい事になるんじゃろうな」
みみずん:「大人はこんな子供だましやらないもん」
博士:「……子供だまし……
ネコ:「それは言いすぎみにゃ。少年の心を忘れていない純粋な大人がごくまれに趣味でやってるみにゃ」
博士:「……ねこみみずん、それはなぐさめになっておらん……」
ネコ:「これこそまさに“文化の違いによる価値観の違い”だみにゃね♪」

みみずん:「じゃあこの話題はこれでシメと言う事で」
博士:「締めるな! この長さなら『気分屋な記聞』で発表できてしまうではないか!」
ネコ:「それ以前に『気分屋な記聞』があるなら、このコーナーいらないんじゃないみにゃか?」


 ……一同沈黙……


博士:「しっ! こちらをご覧のお客様は気がついていないかもしれないのじゃ。黙ってりゃ解りゃせん
ネコ:「お客様相手に失礼な言い草みにゃ」


博士:「気にせず、本題に戻るとしよう」
みみずん:「ええと、ねこみみずんと博士がラブラブになったらどうする? だっけ〜」
博士:「繰り返しのギャグはすぐ飽きられるぞ。どっちみち仮定の話だからそう設定してもいいが」
ネコ:「ぽっ(はぁと)」

博士:「仮定の話じゃと言ってるじゃろう! 地球、それも一夫一婦制の日本人と、5人までOKなハナモゲラミミズ星人とでは、どちらかがどちらかの習慣に合わせる必要があると思うのじゃ」
みみずん:「まあ流血沙汰になると困るしね」
博士:「うむ。今時の恋愛では、いきなり流血沙汰は珍しくも何ともないからのう」
ネコ:「博士はどう考えてるみにゃ?」
博士:「郷に入りては郷に従え。地球の日本で暮らすなら、日本人の一夫一婦に合わせる。ハナモゲラミミズ星で暮らすならそちらの制度に合わせるのが一番楽じゃろう」
みみずん:「まあ、慣習的に見ても法律的に見ても大筋では賛成だけど、元々他にも結婚している人がいるハナモゲラミミズ星人はどうすればいいのかな〜?」
ネコ:「そうみにゃ。それで日本で暮らしたかったらどうすればいいみにゃ?」

 ※人のいい博士達はこんな仮定論以前に、「ハナモゲラミミズ星人に日本での人権や居住権が認められるか」という大問題がある事に気がついていないのであった。


博士:「『それでも大丈夫』という相手を探すしかないかのう」
みみずん:「難しそうだね」
ネコ:「でもこればっかりは仕方ないみにゃよ。我々にとっては、5人と結婚する人の方が常識的みにゃ。1人しか婚約者が居ないと肩身が狭いみにゃ」
博士:「そうじゃろうなあ。何しろ地球人の中にも一夫多妻制の国がある。同じ地球でさえ違う制度があるんじゃから、宇宙人と価値観がずれるのは当然じゃ」
みみずん:「結婚って制度があるのは一緒なのにね」
ネコ:「言われてみると面白いみにゃね♪」

 ※人のいい博士達は面白い、面白くない以前に、柏木が設定を自分に都合良く作っている事に気がついていないのであった。


博士:「面白いといえば、かの有名なマンガ『ベルサイユのばら』の外伝中に『いやしくも伯爵夫人であるあなたが、恋人の1人も作らないなんて不道徳というものですわ』というセリフが出てくる」
みみずん:「『ベルばら』は書庫で読んだよ。アニメも見たし。でもそのセリフ、変なの〜。昔のフランスだって、一夫一婦でしょ? マンガを見る限りでは」
博士:「制度上は、な。だが当時貴族というのは、結婚した後に別の人と恋愛するものとされていたようじゃ」
ネコ:「恋愛の後に結婚がある訳じゃないみにゃね」
博士:「これなんか、まさに当時のフランス人と現代の日本人との感覚の違いによる違和感じゃ」
みみずん:「そういうの面白そうだね。他にはないの?」

博士:「そうじゃなあ。昔の日本にキリスト教の宣教師がやってきた時、大変とまどったそうじゃ」
ネコ:「何を売りさばきに来たみにゃ?」
博士:「宣教師はセールスマンじゃないぞ。キリスト教を広めに来たんじゃ」
みみずん:「クリスマスになると、キリストについて宣伝する人達と同類だね
博士:「……あれとは違うが、まあ良い。とにかく彼らからしてみると未開の野蛮人と想像していたであろう日本人が、礼儀正しく、法に従う一本筋の通った人間だったんでまずびっくり」
ネコ:「失礼な話みにゃね〜」
博士:「当時の人達の感性では仕方ないと思うがな。それよりも彼らがびっくりした事があるのじゃよ」
みみずん:「ま、まさかクジラを食べる事にビックリしたとか」
博士:「おいおい。そんなんではなく、彼らが思う“礼儀正しい法に従う”人間としては性的倫理観って奴が著しく低かったんじゃな。良く言えばおおらかじゃが、キリスト教徒からしてみればそこだけ野蛮人レベルだった訳じゃ」
ネコ:「性的倫理観……って、例えば恋人以外とせっくすしちゃいけないとかそーゆーのみにゃか?」
博士:「……(呆)。とっても解りやすい言い方ありがとう。まあそんな感じじゃ。それがかなり無茶苦茶だったようじゃ。しかしキリスト教徒の概念からすると、普通そーゆー所が乱れている国は、その他の人身も堕落していると考える。ところが(当時の)日本人は性的倫理観こそ無いものの、その他の所は乱れていない」
みみずん:「理解の範疇外だったと」
博士:「そうじゃ。だが、当時の日本では“立派な人間”の価値の中に、性的倫理観はあまり重視されていない。つまり価値が無い訳じゃな」
ネコ:「でもキリスト教徒の“立派な人間”は性的に乱れてちゃ駄目! みにゃね。なるほどみにゃ」

博士:「そういえば日本があんまり性的におおらかじゃ無くなったのは、西欧列強に侵略されないように、近代国家としての体裁を整える為だった、という説があるな」
ネコ:「何で体裁を整えるのに、自国の文化を切り捨てるみにゃ?」
博士:「江戸時代、日本は他国と交流しないという鎖国政策を取っていたのじゃ。正確には全く交流していなかった訳ではないが、とにかくそこへアメリカの船が鎖国を辞めなさい! とやってきた」
みみずん:「別にそういう交渉はアリなんじゃないの〜?」
博士:「まあな。ま、とにかくその船が当時の日本から見れば、度肝を抜く技術の塊だった訳じゃ」
みみずん:「ふ〜ん。つまりそんなすごい技術を持った国と交易するって事は、同じレベルの文化を持っていないと侵略されるかもしれないと考えたのかな? だから性的倫理観もアメリカとかに合わせたと」
ネコ:「でも、技術文化と風俗文化は違うみにゃ」
博士:「確かに。だが、それを自分達より強そうな国に対して主張するより、相手の国の価値観を取り入れて、“どうです、おたくの価値観から見ても、けっこう文化的っしょ?”とやった方が早い」
ネコ:「それはそうかも知れないみにゃが……」

博士:「はははハハ。日本人は意外としたたかでな。戦前まではけっこう妾という妻以外の愛人をもっていた人も多いし、青線なんていう、政府公認のよーなソープランドみたいなモンもあったのじゃ」
みみずん:「それはつまり、あんまし昔と変わってなかったけど、建前はちゃんと一夫一婦が正しいし、浮気はイカンってなってたって事?」
博士:「ま、一応な。ただし、これは男性の話。女性は西欧列強のマネをしたのを割と守らされていたから、男の浮気は甲斐性と言われても、女の浮気は許さん! という理不尽な話がおこった」
ネコ:「ハナモゲラミミズ星では考えられないみにゃ」

 ※ミミズは両性具有です

博士:「ちなみに、女性は子供を産むから、その父親が誰だか解らないのは良くない……なんていう説明をつける人がいるが、江戸時代なら町ぐるみで育てちゃうからあんまり関係無かったりする」
みみずん:「本当に時代時代で違うんだね〜」

博士:「そういえば余談じゃが、柏木から聞いた話でな。柏木が昔、コインランドリーで乾燥機が開くのを待っていた時、年配の男性にとーとつに『赤線とかって知っているか?』と話しかけられたそうじゃ。柏木は内心『おいおい、合法な青線ならともかく、非合法な赤線の話かよ』と思っていたが、黙っていたとか」
ネコ:「な、何で突然、ひ、非合法ソープランドの話! そ、それはセクハラじゃないですみにゃか?」
博士:「本当に突然だったんで、良く覚えていないらしいが、柏木の世代の感覚ならセクハラかどうかはともかく、失礼な発言じゃろう。が、柏木はこのじいちゃんがおとなしく話だけしていたので『この人は私が青線・赤線を全く知らないと思って話している。それにこの世代の人にとっては(多少のからかいは含むだろうが)、普通の昔話をしているにすぎない』と思い、黙って聞いていたそうじゃ」

 
鷹羽飛鳥氏も書いている事だが、この場合、柏木と年配の男性は雇用関係には無いし、利害関係も無いので、正確にはセクハラでは無い。
正直、最近の性犯罪を何でもかんでもセクハラと表現して、軽く見る傾向はかなりおかしいと思う。


ネコ:「なるほどみにゃ〜。それは“認識の違い”みにゃね」
みみずん:「そうか〜。日本人って、世代差でも性的な話を異性にしていい、悪いの差があるんだ」
博士:「そういう事じゃ。昔なら政治家は愛人が居ようが、ホモだろーがいい政治をしてくれれば価値があったが、現在はそれでは許されん」

 ※そうそう、柏木は青線・赤線についてはこれ以上詳しく知りませんが、ここはつっこまないで下さい。
 なお、微に入り細に入り詳しく説明……などを掲示板に書き込まれますと、大多数の女性は不愉快になると思いますので、謹んでご遠慮申し上げます。
 残念ながら、本人に相手を不愉快にする気は無くても、掲示板上でその温度差をはかるのは難しいので。


 〜閑話休題(それはさておき)〜

 
博士:「ところでこれは個人的な意見じゃが、理解の範疇外の価値観を聞かされた時、自分達の価値観は説明してもいいが、受け入れてくれない人間に押し付けてはいけないと思う」
ネコ:「それは当然みにゃ」

博士:「ただ、『俺は人殺しを悪いと思わない。だからおまえを殺す』という場合、『じゃあ、おまえを殺すのもちっとも悪い事じゃないな。だから殺される前に殺す』と返しても理解できないレベルの奴と話をするのは、ちとメンドーじゃが」
みみずん:「この場合は自分の命に価値をおいているなら、他人の命にも価値を見出せるよね、と聞いているんだけど、理解できない人がいるのかぁ」
ネコ:「そんなぶっそうな奴とは、価値観の違い以前の問題の気もするみにゃ」
博士:「それがそうでもない。意味が解った上で『自分が誰かに殺されてもかまわないと思っているから、自分が人を殺してもかまわない』という概念を持つ奴もいる。命に価値を見出していない訳じゃが、“大多数の人間とは違う価値観を持っている”とも言えるじゃろう」
ネコ:「博士は、そんな奴にも価値観の違いを認めるみにゃか?」
博士:「ねこみみずん、冷静に考えてみなさい。価値観の違いは認められても、大概の国の法律で、こいつの言っている事は認められん。その為に法律があるんじゃから」
みみずん:「でもなぜかそーゆー奴に限って死刑にならないでのうのうと出所してくるよね〜」
博士:「まあな。結局頭のいい馬鹿だから、模範囚になりやすいのじゃろう。その辺の問題は私が世界を掌握した暁には必ず考えねばならん」
ネコ:「話がまた逸れてきてるみにゃ」
博士:「いや、さほど逸れてもいないぞ。元々、征服後の地球について考えるのが目的だったんじゃから」

みみずん:「デンジ星みたいに全滅させる方が楽だよね〜
ネコ:「でも今回の宿題は“征服する”みにゃ。滅ぼしちゃだめみにゃ」

博士:「……みみずん、ねこみみずん。地球を滅ぼす気なら私にも考えがあるぞ……」


みみずん&ネコ:「うわーん! えーん、えんえん。ちゃんと征服するって言ってるのにぃい

博士:「わ、解った解った。私が悪かった。それにしても小学校の宿題とは。大体、小学生なのにすでに婚約者がいるみみずんはすごいな」
みみずん:「すごくないよ。ハナモゲラミミズ星人は平均寿命が30歳くらいなんだから」
博士:「何っ? そんなに短いのか!!」
みみずん:「そうだよ。だから宿題も早く終わるように現地の人に協力してもらってもいい事になってるんだよ」
ネコ:「Meなんて早く宿題を終わらせて母星に帰らないと、婚約もままならないみにゃ」
博士:「ううう。これは急いで地球征服をせねばならん。その後の統治についても早めに考えねば」

みみずん&ネコ:「博士、がんばってね〜。統治までは関与しないから〜

博士:「うむ。鋭意努力するぞ。やはり各国の自治を認めた上で、命に関わる病気につながる点や、犯罪に関して国際法を遵守させる方向で考えれば、気候・宗教、その他もろもろの価値観の押し付け合いは避けられるじゃろう。問題は基礎となる国際法の制定じゃな……ブツブツ」

ネコ:「博士が自分の世界に入っちゃったみにゃ」
みみずん:「まあ、ぜひ頑張ってほしいね」

ネコ:「ところでおなか空いたみにゃ」
みみずん:「言われてみれば」

博士:「おおそうじゃ、みみずん達、何か美味しい物を食べに行こう」
みみずん&ネコ:「わーい」
博士:「(国際法についての考察も重要じゃが、彼女(?)らの寿命が短いなら楽しく過ごさせていい思い出を作ってやらねば)」


 ちなみにハナモゲラミミズ星の自転周期(一年の長さ)は、地球でいえば17年近いのだが、ドクター博士が「夏休みが長すぎる」事に気付き、ハナモゲラミミズ星の自転周期を教えてもらったのは三ヵ月後の事であった……。


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