第1回 おジャ魔女どれみシリーズ

−初級編−

 『おジャ魔女どれみ』は、1999年2月から日曜朝8時半放送枠で始まった作品で、小学3年生の春風どれみとその友人達を主人公とする作品だ。

 大人気につき、その後も『おジャ魔女どれみ#(しゃーぷっ)』『も〜っと! おジャ魔女どれみ』『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』と続編が作られ、4年間にわたって放送された所謂「魔女っ子物」と呼ばれるタイプの作品だ。
 
 シリーズと言っても、アニメ『美少女戦士セーラームーン』シリーズ同様、主人公の衣装・アイテム等をマイナーチェンジさせつつ続投させた番組であり、主人公や舞台まで変わる『仮面ライダー』シリーズ等とは趣を異にしている。
 以降このコーナーでは、それぞれを『無印』『#』『も〜っと!』『ドッカ〜ン!』と書き、シリーズ全体については『どれみ』と書くことにする。
 
 
 ちなみに、東映アニメーションにとって『とんがり帽子のメモル』以来15年ぶりの完全オリジナル作品だそうだ。
 「え!? 原作:東堂いづみって書いてあるよ?」と思う人もいるだろうが、「東堂いづみ」は東映アニメーション企画作品に与えられるダミー原作者(チーム名)であり、実在の人物ではない。
 サンライズの「矢立肇」や東映の「八手三郎(「やってみろ」をもじったのだとか)」と同じだ。
 
 
 なんでも、アニメ・トクサツが大好きな大きいお友達には、『どれみ』を敬遠していた人もかなりいたらしい。
 考えてみれば『夢のクレヨン王国』の後番組なのだし、キャラクターも見るからにお子様キャラで、同じ「魔女っ子物」である『マミ』『エミ』などのようにハイティーンの美少女に変身するわけでもないのだから、一見して“お子様番組”と思われてしまっても仕方がないのかもしれない。
 また、「魔女っ子物」であるが故に食わず嫌いした人も多かったとか。
 そんなに魔女っ子物が嫌われているとは知らなかった。
 
 もっとも、食わず嫌いが勿体ないのは言うに及ばずとしても、ちょっと見てやめてしまった人も相当数いたものと思われる。
 『どれみ』は、後述する“とってもいい話”ばかりではなく、単なるドタバタコメディに終始する回も多かったわけだから、ちょっと見て「やっぱりこんなもんか」と見るのをやめてしまうというパターンは十分あり得る。
 しばらく見て、世界観を掴んだ後でないと味の出ない話も結構あるし。
 
 だが、一方で、ひとたび馴染んでくると面白さが分かる、ということも多い。
 実際、鷹羽は『勇者エクスカイザー』を、主にエクスカイザーの巨大合体システムが気に入らないという理由から途中で見るのをやめてしまったのだが、後半の盛り上がりを知って「見とけばよかった」と後悔した覚えがある。  
 
 そして、しっかり作られた子供向けの番組は、下手なマニア向け作品よりもよほど大人の鑑賞に堪えることもある。
 『アルプスの少女ハイジ』は、元来お子様番組のはずだが、大人になった今見ても、作風が古い面はあるにせよ、落ち着いた雰囲気を持った良い番組と思える。
 『ハイジ』とはかなり作風の違う作品ではあるが、『どれみ』もまた大人の鑑賞に十分堪える作品だったと言えると思う。
 
 なんでも、今『ハイジ』が注目を集めている理由の1つとして“子供や孫に見せたい作品だから”というのがあるそうだ。
 たしかに、鷹羽も、『ハイジ』は子供に見せたいと思う。
 
 見せたい作品には、ほかにも『科学忍者隊ガッチャマン』などがあるが、同様に『どれみ』もその中の1つに入れている。
 ドタバタあり、しっとりとした話あり、重いテーマありといった懐の深さは、子供に見せたい作品リストに入れるに十分なレベルだったと考えている。
 
 
 では、よく知らない人のために、『どれみ』とはどういう作品だったのか、鷹羽なりの見解を紹介していこう。
 
 
 『どれみ』シリーズは、どれみ達が、魔女から与えられたタップというコンパクト型の道具で変身(魔女見習い服に着替え)し、ポロンという魔法のステッキで魔法を使って、あるときは騒動を起こし、あるときは問題を解決するという点で「魔女っ子物」に分類される作品だが、同時に、「変身ヒロイン物」としての性格も持っていて、どれみ達は魔法を使う際には必ず魔女見習い服姿になる。
 アイテムなどの商品展開などからして、前述の『セーラームーン』シリーズの魔女っ子版みたいなものだと言うと分かりやすいだろうか。
 
 つまり『どれみ』の場合、正体を隠すのは、「魔女っ子物」特有の“正体がバレてはならない”のほかに、「変身物」にありがちな“正体を隠す”という部分が混在する形になっているわけだ。
 
 この作品では、「魔女」や「魔女見習い」だと他人に見破られた場合のデメリットとして、魔女ガエルという芋虫のような姿に変わってしまうことになっている。
 
 
 メイン主人公であるどれみは、「あたしって世界一不幸な美少女だよ」が口癖の小学生で、釣り雑誌のライターをやっている父渓介と元ピアニストの母はるか、4歳下の妹ぽっぷの4人家族。
 呪文は「ピリカピリララ ポポリナペペルト」
 ぽっぷの呪文は「ピピットプリット プリタンペペルト」
 
 どれみの幼なじみの藤原はづきは、ばあや(代々仕えた女中)がいるようなお嬢様で、父親は有名な映画監督。
 呪文は「パイパイポンポイ プワプワプー」
 
 妹尾あいこは、両親が離婚していて、タクシー運転手の父と2人暮らししている。
 呪文は「パメルクラルク ラリロリポップン」
 
 瀬川おんぷはチャイドルで、父は寝台特急の運転手、母親が元アイドルのステージママ。
 呪文は「プルルンプルン ファミファミファー」
 
 飛鳥ももこは、父親が建築士、母親がカメラマンで、父の仕事の都合でアメリカ育ちの帰国子女。
 呪文は「ペルタンペットン パラリラポン」
 
 ハナは、100年ぶりにウィッチークイーンローズが生んだ魔女の赤ちゃんで、魔女界最強と言われる先々代の女王に匹敵するほど強力な魔力を持つ。
 『#』時代にどれみ達が育て、『ドッカ〜ン!』で、魔法を使って無理矢理成長したために魔女の水晶玉を失ってしまい、魔女に戻るために魔女見習いからスタートすることになった。
 呪文は「ポロリンピュアリン ハナハナピー」
  
 
 このシリーズは、作品ごとにテーマや目的が別個に与えられているものの、基本は“魔女ガエルになったマジョリカを元の姿に戻すために魔女になる”という目的で魔女見習いになったどれみを中心とした物語だ。
 
 どれみは、好きな相手に告白する勇気がなくていつも片思いで終わってしまうため、“告白する勇気をくれる魔法”を使えるようになりたいという漠然とした希望があり、魔女や魔法についての本を読んでいたため、外見からマジョリカを「魔女だ!」と言ってしまったわけだ。
 『どれみ』シリーズの世界には、“魔女(魔女見習い)は人間に正体を見破られると魔女ガエルになってしまい、元に戻るには、見破った人間を魔女にして魔法を掛けてもらうしかない”というルールがあるため、どれみは責任を取って魔女にならなければならなくなり、それがちょうど彼女の希望である“魔法を使えるようになりたい”と一致したため、喜んで魔女見習いになったというわけだ。
 
 ちなみに、正体を見破った人間を弟子にできなかった魔女ガエルは、永久に元に戻ることができない。
 大抵の魔女ガエルは、呼び止める間もなく相手に逃げられてしまうため、元に戻ることができず、魔女界の片隅に魔女ガエル村を作って細々と暮らしている。
 
 
 したがって、マジョリカにとって、魔女見習いにする必要がある相手は本来どれみだけなのだ。
 はづきとあいこ、ぽっぷは、どれみが魔女見習いであることを見破りそうになったため、同じ魔女見習いになることになった。
 
 『無印』中盤から登場するおんぷは、たまたまマジョルカ(マジョリカのライバル)の正体を見破ったため魔女見習いになっており、初登場時に既に魔女見習いだった。
 
 『も〜っと!』から参入するももこは、アメリカでMAHO堂(ケーキ屋)を経営していたマジョモンローの正体を見てしまい、彼女を元に戻すために魔女見習いになった。
 1級試験には合格したものの、元に戻す前に死んでしまったマジョモンローを生き返らせようとした際、水晶玉が耐えきれずに砕けたため、もう1度魔女になるチャンスとして、どれみ達と共にパティシエ試験を受けることになった。
 
 
 なお、「おジャ魔女」という呼称は、マジョリカがあまりに役立たずのどれみを称して、「このおジャ魔女が!」と、「役立たずでお邪魔な魔女見習い」の蔑称(略称?)としてつけたものだ。
 
 当初はどれみ、藤原はづき、妹尾あいこの3人組を主人公として始まったこのシリーズは、2作目『#』でおんぷを加えて4人組とし、第3作『も〜っと!』ではももこを、第4作『ドッカ〜ン!』では、『#』時代にどれみ達が育てていた赤ん坊ハナちゃんを加えて6人組になったほか、『無印』中盤以降は、どれみの妹のぽっぷも魔女見習いとして活躍している。
 
 
 『どれみ』のOPは、「MAHO堂」名義で、主役の声優達が歌っているのだが、キャラクターが増えるのに伴ってちゃんと歌に参加する声優が増えているなど、芸が細かい。
 また、『#』での花屋さん、『も〜っと!』のお菓子屋さん、『ドッカ〜ン!』のアクセサリー屋さんと、女の子の憧れの職業を巧みに持ってきていたり、小学5年で英語が授業に加わるというカリキュラム変更に合わせて、5年生から帰国子女のももこを登場させるなど、さりげに時勢に乗っている。
 
 
 さて、どれみ達の魔法は、それぞれ呪文の後に願いを唱えることで、効果が発生する。
 例えばどれみの場合、「ピリカピリララ ポポリナペペルト ステーキよ出てこい!」と唱えることでステーキが出現するという具合だ。
 
 これら魔法は、主に何かを出現させたり、誰かを犬などの動物に変身させたりといった使われ方をするが、絶対的な条件として、病気や怪我を治したり死者を生き返らせる魔法、人の心を操る魔法などは、使ってはいけないことになっている。
 具体的には、病気や怪我を治せばそれが自分に跳ね返り、人の心を変えれば100年にも及ぶ眠りの呪いが降りかかる。
 前述のももこの場合、途中で水晶玉が割れていなければ、ももこは死んでいただろう。
 
 
 また、魔法の効力の大小は術者の魔力に比例しており、魔力が弱いと、せっかく出したステーキがすぐに消えるなど、まるで役に立たない。
 そのフォローとして、数人の魔力を束ねて1つの魔法を使う方法がある。
 それがマジカルステージだ。
 これは、数人の魔女(見習い)がそれぞれ呪文を唱えて魔力の集合体(マジカルステージ)を作るというもので、
「ピリカピリララ のびやかに」
「パイパイポンポイ しなやかに」
「パメルクラルク たからかに」
「プルルンプルン すずやかに」
「ペルタンペットン さわやかに」
「ピピットプリット ほがらかに」
などと1人ずつ唱えた後、全員で「マジカルステージ!」と唱えて発生させる。
 その後に願いを言うことで、1人の魔力ではできないような大きな魔法が使えるのだ。
 
 
 なお、『どれみ』はそれぞれ続いている物語ではあるが、『セーラームーン』シリーズ同様、一応各作品ごとに目標があり、それを達成する形になっている。
 
 『無印』での目標は“1級試験合格”であり、1級試験に合格したどれみ達だったが、母親達に魔女見習いであることを知られてしまう。
 おんぷが母親達の記憶を消すため禁断魔法を使って事なきを得るが、おんぷは禁断魔法の報いとして100年の眠りに就いてしまい、どれみ達は、おんぷを目覚めさせるために魔法を使ったため、魔女の証である水晶玉を没収された。
 
 
 続く『#』では、魔女の赤ちゃんの誕生に立ち会った者が1年間その赤ちゃんを育てるという魔女界のしきたりの下、“ハナちゃんを1年間育て上げること”が目標となった。
 ただし、ハナちゃんは特に強力な魔力を持って産まれた魔女であり、人間であるどれみ達に育てさせることに反対する魔女も多いため、2か月に1回の健康診断で順調な成長と認められなければ、育てる権利を剥奪されてしまうことになっている。
 無事1年育て上げれば、どれみ達は魔女になれるという約束だったが、ハナちゃんに愛情を抱いたどれみ達は、どちらかというとハナちゃんと一緒に過ごすため、そして1人の女の子として育て上げるために努力を重ねる。
 
 結局、健康診断は全てクリアしたものの、ハナちゃんの強大な魔力を恐れた先々代の女王が呪いの森と共に出現してしまう。
 彼女に呪いを掛けられたハナちゃんを救うため、どれみ達は呪いの森にだけ咲くという花:ラブシュプリームを手に入れたものの、その過程で水晶玉が砕け散ってしまった。
 
 
 『も〜っと!』では、6回のお菓子作りの試験(パティシエ試験)全てに合格することで、どれみ達は魔女になれることになった。
 これは、どれみ達をどうしても魔女にしたい女王が、それに反対する6人の元老院魔女を説得するため、反対する元老院魔女達を納得させるお菓子を作ることを条件にしたためだ。
 
 実は、先々代の女王:マジョトウルビヨンは、人間と結婚するために退位して人間界に行ってしまったのだが、その後夫や息子に先立たれるなどした悲しみから、魔女と人間との間で同じような悲劇が起きないように、魔女ガエルの呪いを残して姿を消したという経緯があった。
 女王は、魔女ガエルの呪いを消すには、先々代の女王に、人間と暮らした幸せな日々を思い出してもらうしかないと考えていた。
 マジョトウルビヨンが人間からプロポーズされたときに贈られたケーキのレシピは、彼女が姿を消した際に、レシピ帳からも、宮廷料理人だったマジョロクサーヌの記憶からも消えている。
 そして、最後のパティシエ試験の課題は、謎の多いそのケーキを作ること。
 
 どれみ達は、特別な想いを込めたケーキは、愛する人の名前にちなんだものだと考え、先々代の女王の名前から、「愛しのトゥールビオン」ケーキを作り見事試験をクリアする。
 そして、先々代の女王にケーキを食べさせると、呪いの森は消え、先々代の女王の本体が現れた。
 実は、これまで姿を見せていた先々代の女王は、悲しみが生み出した幻影だったのだ。
 彼女の本体は、悲しみのイバラに捕らわれて眠り続けていた。
 
 
 そして『ドッカ〜ン!』では、その眠りを覚ますべく、6人の孫との思い出の品を、どれみ達が手作りすることになる。
 
 先々代の女王の悲しみの正体は、夫と息子に先立たれたことだけではなく、6人の孫が「化け物」と忌み嫌って去っていったことだった。
 息子(孫達にとっては父)の死に際にすら姿を見せなかった孫達への絶望が、人間という種族そのものへの絶望へと変わったのだ。
 どれみ達は、先々代の女王が孫達と楽しく過ごした頃のことを思い出してもらうため、彼女が得意だった機織りの技術を学び、思い出の品を再現していく。
 先々代の女王にそれを送り届けるたびに、イバラは1本ずつ消えていくのだ。
 
 『ドッカ〜ン!』ラストでは、孫達が来なかったというのが先々代の女王の勘違いだったことが明らかにされる。
 孫達は、来なかったのではなく、駆け付ける途中で事故に遭って来られなかったのだ。
 どれみ達の尽力でそれを知った先々代の女王は遂に目覚め、魔女ガエルの呪いを解く。
 
 そして、使命を果たし、ようやく魔女になれることになったどれみ達だったが、魔女になるのをやめ、それぞれ人間として生きることを決意する。
 ももこは両親の仕事の都合で再びアメリカで暮らすことになり、あいこは両親の再婚に伴い大阪へ引っ越し、おんぷは芸能活動をしやすい私立の中学へ、はづきはヴァイオリンの勉強のためカレン女学院へと進学し、どれみだけが公立の中学に進学することとなり、それぞれの道を歩いていくことになった。
 
 
 『ドッカ〜ン!』のテーマとしての最終回、つまり、先々代の女王の眠りが覚めるのは、46話『さらば、魔女ガエルの呪い』だ。
 続く47話『たとえ遠くはなれても』から49話『ずっとずっと、フレンズ』では、魔女になるか人間のままでいるかを問われたどれみ達が人間として生きることを選ぶ過程が描かれている。
 そして、50話『さよなら、おジャ魔女』で、どれみ達は魔女見習いであることを辞め、魔女見習いの物語である『どれみ』は、実質的に最終回を迎える。
 
 シリーズ最終回となった51話『ありがとう! また会う日まで』は、卒業式の日、仲間との別れを嫌がってMAHO堂に閉じこもるどれみを中心に、4年間で築かれてきた人間関係を描くエピローグ的なものになっていた。