総括
『仮面ライダー龍騎』という番組

1.砕け散った「仮面ライダー」の定義
『仮面ライダー龍騎』は、設定といいデザインといい、これまでの『仮面ライダー』シリーズの流れを大きく変えた作品だ。
『J』以前の『仮面ライダー』では、“改造人間である”というのが共通項になっていた。
そして、クウガ=五代雄介は、腹部のアマダムから全身に神経網が巡らされて肉体変化を起こしており、もう普通の人間には戻れないことが劇中強調されていたから改造人間と言えるし、続く『アギト』では、確かにアギト=津上翔一(沢木哲也)にしろギルス=葦原涼にしろ、改造人間ではないながら、所謂“普通の人間”ではなかった。
また、同じく『アギト』に登場したG3シリーズは、確かに完全に人間だったが、所詮サブ主人公であり、番組タイトルにもなっているメイン主人公まで“普通の人間が誰でもライダーになれる”としたことは、エポックな事件だったと言える。
また、メインの龍騎は、ライダーっぽい大きな目を持っているものの、顔面を大きく覆う鉄仮面風のマスクの内側にあって半分以上見えない上、これまでのライダーの大きな特徴の1つだったアンテナパーツがないなど、一見して異質な姿をしている。
これまでのライダーの「仮面」のおおよその共通項としては、
・1〜2本の触覚状突起(アンテナ)
・顔面中心線上の小さな半球形突起物(Oシグナル等)
・大きな2つの目
・独立して存在する“口”部分
といったものが挙げられる。
まぁ、ZOのように半球形突起物を持たない者、V3のように“口”部分が独立しているとは言いがたい者などもいて、全部が全部この項目を満たしているとは言えないが、少なくとも3つは満たしている。
この点、『龍騎』では、メインの龍騎こそ目・半球形突起物・口の条件を一応満たしているが、目は前述のとおり半分以上隠れているし、口部分も今ひとつ独立しているとは言い難い感がある。
龍騎にはアンテナがあるという意見もあるだろうが、龍騎サバイブはともかく、ノーマル龍騎のそれはマスクカバー上のレリーフに過ぎず、「突起」とは言えないだろう。
これまでのライダーが完全に突起状だったという流れからは、完全に外れていると思う。
まして、ナイトは口だけ、ゾルダはアンテナだけしか満たしていないし、他のライダーに至っては、過去のシリーズ登場のライダーとの共通点を探すのは不可能ではないかと思われるほどだ。
こうして、「仮面ライダー」というヒーローの定義は、完全に破壊された。
ただし、こと『龍騎』という番組の中で見た場合、
顔面を覆う格子模様の入った鉄仮面風のカバー
共通デザインのベルト中心にあるカードデッキ
カードを装填するためのバイザーを装備
といった共通項がある。
これについては、シザースの顔面カバーがほかの12体と比較して格子模様がないに等しいほど小さいなど異彩を放ってはいるものの、ほぼ満たされていると言っていいだろう。
また、カードデッキは、色は違うものの皆同じ形状であり、デッキ中央にそれぞれの契約モンスターのマークが入るという共通デザインになっている。
バトルフィールドも、ミラーワールドという“反射物を通して行き来できる異世界”であり、現実世界で等身大の戦いをするヒーローの代表格だった『仮面ライダー』よりも、むしろ『宇宙刑事』シリーズの魔空空間などでの戦いを想起させた。
撮影後左右を反転させることによって表現されるミラーワールドは、“ミラーワールドにはモンスター・ライダー以外の動物は存在できない”という設定と相まって、特殊な合成を必要とせずに異世界を表現できるという点で、フィルターを掛けて撮影する魔空空間などよりも説得力あるものとなっている。
ただし、左右逆転ということは、ミラーワールド内のシーン撮影に使用する着ぐるみは左右逆の物を用意しなければならないことや、撮影時、右利きの人が左手で剣を振るうなどしなければならないことを意味し、撮影現場での苦労はかなりの負担となったらしい。
なお、着ぐるみについては、デザインの段階である程度考慮されていると思われる。
ライダーのデザインは、バイザーとベルト部分を除けば基本的に左右対称なので、現実世界仕様のベルトとバイザーを用意しておけば、同じスーツをどちらの世界でも使える。
バイザー自体も左右対称の物が多いのは、左右逆に付け替えるだけで流用が効くからだろう。
そう考えると、肩全体がバイザーというガイが一番大変だったのではないだろうか。
付け加えると、テレビシリーズの『仮面ライダー』としては初めて、OPの歌詞の中に「仮面ライダー」という単語が入っていない上、女性ヴォーカルのソロとなっている。
このように、それまでの「仮面ライダー」のイメージは全くと言っていいほど継承しないながらも、番組内でのイメージ統一はそれなりに図られている。
また、変身ポーズも、真司など初期登場ライダーは“本郷猛の変身ポーズをイメージしたのかな?”程度の単発ポーズだったが、後になるほどモーションが長くなり、タイガ、インペラーなどは、決めが3つ入る変身ポーズとなっている。
だが、それらはいずれも、カードデッキを正面の反射物に向かって突きだした後、ベルトのバックル部の左側スロットにカードデッキを差し込むというものに統一されており、この意味でも、番組内でのイメージ統一が図られていることが分かる。